いぬのTS貧乳合法ロリアラサーおまわりさん   作:被告人5

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天才!タムラ動物園

 

土曜日、午後七時ちょっと前。私は今、テレビ局のスタジオにいた。

 

目の前には、テレビで何度も見たことのある大御所芸能人のタムラさん。長年にわたって数々の番組で司会を務めてきた、誰もが知る有名人である。

 

もちろん、収録が始まる前に楽屋へ挨拶に伺っている。名刺代わりに警察手帳を見せるわけにもいかないので、普通に自己紹介して、よろしくお願いしますと頭を下げてきた。それでも、こうして実際に目の前に立たれると、どうにも現実感がなかった。

 

あ、この人、本当にいるんだ。などと、失礼なことを考えてしまう。

 

私だって、テレビに出るのは初めてではない。以前は地域のニュース番組にも出演したし、警察の広報活動で撮影に参加したこともある。今では街を歩いていると声をかけられることもあるくらいだ。

 

しかし、全国放送のゴールデンタイムとなると、さすがに話が違う。そもそも、どうして私がこんな番組に呼ばれているのだろう。

 

「ほな、本日のゲストをご紹介や!さくら町、さくら交番勤務、話題のいぬのおまわりさん。犬井ハル巡査やで!」

 

タムラさんの声に合わせて、スタジオの大型モニターに私の写真が映し出された。制服姿で交通安全指導をしている写真。子供たちに囲まれている写真。そして、先日のテレビ番組で撮影された、ちょっとばかり恥ずかしい笑顔の写真。

 

簡単な経歴紹介も挟まれる。さくら交番に勤務する二十八歳の巡査。警察功績賞受賞、ゴールデンレトリバーの獣人であり、地域住民からの人気が高く、広報活動にも積極的に参加している。過去には人質事件などの対応にも従事した、現役の警察官――。

 

うん。間違ってはいない。間違ってはいないのだが、こうして紹介されると、なんだかものすごく立派な人間に思えてくる。

 

「いやぁ、かわいらしいなぁ!」

「本当にお人形さんみたい!」

「え、これで二十八歳なの?」

 

共演する芸能人の方々から、口々にそんな声が上がる。観客席からも、かわいい、という声が聞こえてきた。

 

……うん。いつものことだ。最近はもう、こういう反応にも慣れてきた。慣れてきたつもりなのだが、全国放送のスタジオで大勢の人に見られながら言われると、さすがにちょっと照れる。

 

「今回は出演ありがとうなぁ~」

 

タムラさんが、気さくな笑顔で話しかけてくる。

 

「いえいえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます。私も楽しみにしておりました」

「いやぁ、警察官がこういう番組に出てくれるんは嬉しいですわ。最近は広報活動もいろいろやってはるんでしょう?」

「はい。交通安全教室や、防犯の啓発動画などに参加させていただいています」

「えらいなぁ。立派やなぁ」

「いえ、そんな……」

 

褒められると、どうにも反応に困る。それに、孫を褒めるような声色だ。

 

私は別に、テレビに出るのが好きなわけではない。警察の仕事として必要だから参加しているだけだ。……いや、かわいいと言われるのは、まあ、嫌いではないけれど。そんなことを考えていると、司会者がこちらをじっと見て、何やら思いついたような顔をした。

 

「ところで犬井巡査、ひとつ聞いてもええですか?」

「はい、なんでしょう?」

「今回、わんちゃん枠で呼ばれたわけやないですよね?」

「……すみません、私もそこが気になっていたんですけど」

「あほ!今のはツッコミ待ちや!そんなことしたら、この番組炎上してなくなりますわ!」

 

即座にツッコミが飛んできた。

 

スタジオが笑いに包まれる。よかった。どうやら、ちゃんと冗談として受け取ってもらえたらしい。

 

この世界には獣人がいる。犬や猫、鳥など、さまざまな動物の特徴を持つ人々が暮らしていて、私のように犬の特徴を持った獣人も珍しくはない。

 

とはいえ、だからといって普通の動物がいなくなったわけではない。犬や猫をペットとして飼う文化だって当然あるし、動物園や水族館だって存在している。

 

犬の獣人である私が、犬を扱う番組に呼ばれる。……うん。冷静に考えると、やっぱりちょっと不思議な話だ。

 

「犬井巡査はゴールデンレトリバーの獣人やと聞いてまっせ。ほんま、えらくかわいらしーなぁ」

「そうですか? ありがとうございます」

「えぇ、えぇ。おじさん、首輪つけたくなりますわ~」

「つけますか? 良いですよ?」

「……そんなんやったら、ワシが個人的にぶっ叩かれるのでやめますわ」

 

またしてもスタジオが爆笑に包まれた。……首輪くらい、別にいいと思うんだけどなぁ。

 

犬の獣人だからといって、首輪をつけることに特別な抵抗があるわけでもない。実際、獣人の中にはファッションとして首輪をつける人だっている。ただ、私の場合は警察官なので、勤務中にそういう格好をするわけにはいかないけれど。

 

「さぁ、それではそろそろ、本日のコーナーに参りましょう!」

 

タムラさんが大きく手を広げた。

 

「コーナーのタイトルコール、いきまっせ!せーの!」

「『本性を暴け! 動物のきもち!』」

 

スタジオに、明るいテーマ曲が流れ始めた。

 

来た。私が呼ばれたのは、このコーナーである。

 

番組の中でも特に人気のある企画で、出演者が動物と実際にふれあい、その様子を観察する。そして、番組名物の「動物と話せる女性・アリス」が、動物たちの気持ちを翻訳してくれるのだ。アリスさんは北欧系の美人女性で、テレビに出るたびに話題になる人だ。動物の気持ちがわかるという触れ込みで、これまで数多くの動物とふれあってきたらしい。

 

今もスタジオの隅で、にこやかにスタンバイしている。

 

正直なところ、私は少々疑っている。本当に動物と話せるのだろうか。もちろん、動物の仕草や鳴き声、表情などから感情を推測することはできる。獣人である私なら、嗅覚や聴覚を使って、普通の人間よりも多くの情報を得られるだろう。

 

けれど、それと動物の言葉を翻訳することは別の話だ。

 

とはいえ、なんだかんだでこのコーナーは面白い。動物の予想外の行動によるハプニングも多いし、以前はカピバラに好かれすぎた女性俳優が、なぜか求婚されるという珍事まで起きたらしい。

 

……あれは、いったいどういう理屈だったのだろう。考えても仕方がないので、意識を目の前のセットへ戻した。

 

スタジオの中央には、大きめの柵が設置されていた。その中には、さらに小さな箱が置かれている。

 

箱の中から、三匹ほどの犬の気配がした。なるほど。今回は犬か。鼻をひくつかせ、耳を澄ませる。匂いや物音、気配から伝わってくるのは、ほとんど興奮一色だった。知らない場所。大勢の人間。聞き慣れない音。普段とは違う匂い。

 

それでも、箱の中にいる子たちは怖がっているというより、これから何が起きるのかと期待しているようだった。子犬なのだろう。まあ、そうなるよね。

 

人間だって、これだけ大勢の人に囲まれたら落ち着かない。ましてや、犬にとっては見慣れない環境なのだから。

 

……さて。問題は、私だ。

 

私は動物が人並みに好きである。犬も好きだし、猫も好きだ。小さな動物が一生懸命に動いている姿を見ると、つい頬が緩んでしまう。

 

ただ、警察官になってからは忙しく、動物とじっくりふれあう機会があまりなかった。自分の耳や尻尾の手入れだって、仕事が立て込むと後回しになりがちなのだ。

 

だから、こういう機会は正直ありがたい。ありがたいのだが……。

 

もし、めちゃくちゃ吠えられたらどうしよう。犬の獣人だからといって、すべての犬に好かれるとは限らない。人間同士でも相性があるのだから、犬だって同じだろう。もし三匹そろって私に吠えかかったら、全国放送で犬に嫌われた犬の獣人という、よくわからない実績を残すことになってしまう。

 

……それはそれで、ちょっと面白いかもしれない。

 

そんなことを考えていると、スタッフから合図が出た。

 

「それでは犬井巡査、柵の中へどうぞ!」

「はい、よろしくお願いします」

 

私は一礼して、柵の中へ入った。観客席から拍手が起こる。そして、スタッフが箱の扉をゆっくりと開けた。

 

次の瞬間だった。

 

「わんっ!」

「きゃんっ!」

「わふっ!」

 

三匹の子犬が、勢いよく飛び出してきた。柴犬。トイプードル。そして、ゴールデンレトリバー。見事に犬種がばらばらだ。

 

そして、三匹ともものすごく元気だった。私の姿を認めた瞬間、彼らは一直線に駆け寄ってきた。

 

「えっ、ちょっ――」

 

 どんっ!

 

「きゃあっ!」

 

あまりの勢いに、私はあっさり押し倒された。背中がマットに沈む。

 

そして、顔いっぱいに広がる犬、犬、犬。ぺろぺろぺろぺろ。

 

「ひゃっ、ちょ、ちょっと……!」

 

顔を舐められる。頬を舐められる。鼻先まで舐められる。さらに、首元に鼻を押しつけられ、くんくんと匂いを嗅がれた。

 

うわぁすごい。ものすごく犬だ。いや、当たり前なのだけれど。

 

子犬たちは私を怖がるどころか、すっかり遊び相手と認識したらしい。尻尾を振り、前足をばたばたさせ、私の顔を覗き込んでは、また舐めてくる。ゴールデンレトリバーの子など、私の耳が気になるのか、鼻先でつんつんと突いていた。

 

くすぐったい。でも、かわいい。これは、すごくかわいい。

 

「おおお!さすがハル巡査ですわ!わんちゃんにも大人気や!」

 

タムラさんの声が響く。

 

「アリスはん、これは何と言うてはります?」

「そうですね。子犬たちは犬井巡査に『遊んで、遊んで』って言っています」

 

アリスさんが、笑顔で答えた。

 

……あれ?今の、私が感じ取ったものと、ほとんど同じではないだろうか。子犬たちが伝えてくる感情は、とても単純だ。遊びたい。構ってほしい。もっと近くにいてほしい。

 

そんな、まっすぐな気持ちばかりだった。アリスさんの言葉も、まさにそれを表現している。偶然なのか、それとも本当にわかっているのか。

 

……うーん。やっぱり、ちょっと気になる。

 

すると、3匹の内1匹が、私の首筋に顔をうずめてペロペロとなめだした、

 

「もう、ちょっとやめてくださいよ~!」

 

そう言いながらも、私は笑っていた。

 

だって、仕方がない。こんなに全力で好意をぶつけられたら、嬉しくなってしまうではないか。私の尻尾も、ぱたぱたと揺れる。

 

あっ、しまった。テレビに映っているのだから、尻尾を振っているところまで全国に放送されてしまう。

 

でも、もう止まらない。嬉しいものは嬉しいのだ。

 

柴犬の子は私の袖にじゃれつき、トイプードルの子は私の手に甘噛みをしてくる。ゴールデンレトリバーの子は、何を思ったのか、私の胸元に前足を乗せて顔を覗き込んできた。

 

うんうん。みんな元気だねぇ。こうしていると、仕事の疲れも忘れそうになる。

 

……このときまでは。

 

最初に異変を感じたのは、ゴールデンレトリバーの子だった。私が仰向けに倒れたままでいると、その子は何やら興味深そうに私の周りをうろうろし始めた。

 

そして、くんくんと匂いを嗅ぐ。顔、首元、肩へと移動し、私のお尻のあたり。

 

……ん?

 

犬が匂いを嗅ぐのは、別に珍しいことではない。むしろ、犬にとってはごく自然な行動だ。私だって、普段から相手の匂いを無意識に感じ取っている。犬同士ならなおさらだろう。

 

だから、最初は特に気にしなかった。

 

しかしその子は、倒れたままの私の足に前足をかけた。

 

そして、腰を。へこへこと。

 

 

……。

 

…………。

 

………………え?

 

いや、待って。それ、もしかして。

 

私は一瞬、思考が停止した。犬の行動について、知らないわけではない。

 

発情やマウンティングには、必ずしも性的な意味だけがあるわけではない。興奮したときや、遊びの延長、相手との関係を確かめるような場面でも見られる行動だ。

 

だから、これだけで何かを断定することはできない。できないのだが。

 

今、私の足にしがみついている子犬は、明らかに興奮していた。そして、そんな様子を見ていたほかの二匹まで、なぜかそわそわし始めた。

 

柴犬がゴールデンレトリバーに飛びかかる。トイプードルがその隙間に割って入る。

 

お互いにじゃれ合い、押し合い、場所を取り合い――。そして、隙を見つけては、私に腰を振ろうとしてくる。

 

…………。

 

……こ、これって。もしかして。

 

私は、ゆっくりと顔を上げた。周囲を見渡す。

 

先ほどまで、笑顔と歓声に満ちていたスタジオ。そこにいる出演者たちの顔が、見事なまでに固まっていた。観客席も静かだ。スタッフも、動かない。カメラだけが、淡々と私たちを映し続けている。

 

あ。やっぱり、これ。あかんやつだ。

 

いや、犬たちが悪いわけではない。犬は犬だ。人間のテレビ番組の都合など、知ったことではないだろう。しかも、子犬たちはただ興奮しているだけかもしれない。

 

しかし、全国放送のゴールデンタイムである。このままでは、とんでもない映像が流れ続けることになる。

 

私は必死に頭を回した。

 

どうする。どうすればいい。

 

スタッフは動けない。タムラさんも固まっている。アリスさんは、どういうわけか真剣な顔で犬たちを見ている。

 

いや、そこで真剣にならなくていいから!せめて何か言って!誰か止めて!

 

これは生放送だ。編集でごまかすこともできない。このまま何もせずにいれば、放送事故として永遠にインターネット上に残ることになる。……いや、もう残るかもしれないけど!

 

私は、最近参加した啓発動画の撮影を思い出した。あのとき、撮影を繰り返すうちに、私はそれなりに演技力を身につけていたのである。

 

よし。今こそ、その経験を生かすときだ。

 

「あ、あはは……!」

 

私は、わざとらしいくらいに明るい声を出した。

 

「ぷ、プロレスごっこでしょうか!い、いや~、襲われちゃいます~!こわいです~!」

 

両手をばたばたさせ、困っているような表情を作る。どうだ。どうにか、遊びの一環に見えないだろうか。

 

…いや、無理があるか。自分でもわかるわ。しかし、何もしないよりはマシだ。

 

頼む。

 

誰か、私の足掻きにツッコんでくれ。この空気を変えてくれ。

 

そんな願いが通じたのか、ようやくアリスさんが口を開いた。

 

「子犬たちは犬井巡査に――」

 

おっ、よし。この人なら、何かうまいこと言ってくれるかもしれない。

 

「「これ僕のぉおおお!」って言っています」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

「アリスはん、言わんでええ!」

 

タムラさんが、とうとう叫んだ。

 

「そんなん言わんでええから!い、いったんちょっとストップ!CM入れ!早よ!」

 

その声を合図に、スタジオの空気が一気に動き出した。スタッフが駆け寄ってくる。カメラの向きが変わり、画面が切り替わる直前、私は必死に笑顔を保った。

 

そして――。

 

画面は、きれいにCMへと切り替わった。……助かった。いや、助かったのだろうか。

 

少なくとも、犬たちと私が映り続ける事態は避けられたらしい。CMのあいだに、スタッフたちは迅速に動いた。犬たちは抱き上げられ、セットの外へと連れていかれる。柵や箱も、手際よく片づけられていった。私もスタッフに促され、ゲスト席へと戻った。椅子に座り、膝の上で手を握る。

 

……うん。落ち着こう。私は警察、これくらいのことで動揺していてはいけない。

 

犬が元気すぎた。ただ、それだけだ。そう。何も問題はない。問題はないのだが……。

 

そう自分に言い聞かせていると、二分ほどのCMが終わった。

 

「さぁ、続いてのコーナーは――!」

 

タムラさんが、何事もなかったかのように明るい声でタイトルコールを始めた。

 

あっ、触れない方針なんだ。

 

なるほど。それが一番賢明かもしれない。私も笑顔で拍手を送り、ほかの出演者たちと一緒に次のコーナーを見守った。

 

その後の番組は、滞りなく進行した。もちろん、私が再び動物とふれあうことはなかった。

 

……それでいいと思う。いや、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

番組終了後。なんとも言えない空気の中、私は挨拶を済ませ、スタッフに案内され楽屋へ戻ろうとしていた。

 

すると、廊下の向こうからタムラさんと番組プロデューサーがやってきた。その手には、番組の出演記念グッズと、立派な紙袋がいくつも提げられている。

 

「犬井巡査、ちょっとええ?」

「はい、なんでしょうか?」

 

タムラさんは、さっきまでの軽妙な調子とは少し違う、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「ほんま、ごめんなぁ。まさか、あんなことになるとは思わんかったわ。気分、悪うしてへんか?」

「いえ、そんな。ちょっと元気すぎただけですよ。あの子たちは悪くありませんから」

「いやぁ……」

 

困ったように頭をかいた。

 

「ハル巡査、ホンマ堪忍な……」

「そんな大袈裟な」

「大袈裟やないて。こっちは、ほんまに申し訳ないと思っとるんや」

 

番組プロデューサーの方も、深々と頭を下げてきた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。すぐにCMへ切り替えたのですが……」

 

そこで、スタッフは少し言いにくそうに言葉を切った。

 

「SNSでは、やはり見逃してもらえなかったようでして」

「……ああ」

 

そうだろうなぁ。生放送で、あれだけのことが起きたのだ。

 

今ごろ、インターネット上では大騒ぎになっているに違いない。

 

スタッフはスマートフォンを取り出し、画面を見せてくれた。そこには、さまざまな投稿が並んでいた。

 

「#放送事故」

「#番組名」

「#ハル巡査」

「#これ僕の」

 

……うん。

 

しかも、すでに切り抜き動画まで投稿されている。これ違法だろ。

 

CMに切り替わる直前の映像が、短い動画として拡散されているらしい。仕事が早いな、インターネットの人たち。いや、褒めていない。

 

「実はな、前にも動物に好かれすぎた女性俳優さんがおってなぁ……」

 

タムラさんが、遠い目をした。

 

「放送中はにこにこ笑ってはったんやけど、番組が終わった途端、えらい機嫌が悪うなってな。スタッフ全員で謝りに行ったんや」

「……そうなんですか」

「せやから、今回はハル巡査が怒っとらんで、ほんまに助かったわ」

 

うわ。聞きたくなかった。

 

いや、出演者として気分を害するのは当然だと思う。どんなに動物が相手でも、予想外の事態が起きれば困るし、嫌な気持ちになることだってあるだろう。でもそこは、動物がやったことだって踏ん切りをつけなければ。

 

「本当に、気にしないでください。動物ですし、何が起こるかわからないものですから。それに、出演をお受けしたのは私ですから」

 

私がそう言うと、タムラさんは目を丸くした。

 

「あかん……。ハル巡査、やさしすぎて涙ちょちょぎれるわ……」

「そんな、大袈裟ですよ」

「いや、ほんまに。ワシ、今日あんたのファンになったわ」

「ありがとうございます……?」

 

なんだか、よくわからないうちにタムラさんがファンになってしまった。これでいいのだろうか。

 

まあ、いいか。私はいただいた記念グッズをバッグにしまい、最後にもう一度、スタッフの方々に頭を下げた。

 

「本日はお招きいただき、ありがとうございました。また機会がありましたら、よろしくお願いいたします」

「いや、こちらこそや!ほんまに、今日はありがとうな!」

 

背中に感謝の言葉を浴びながら、私はスタジオを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

テレビ局を出て、しばらく歩いたところで、私は立ち止まった。

 

……いや。やっぱり、気になる。

 

私はバッグからスマートフォンを取り出した。閲覧しかしない予定のアカウントで、恐る恐る検索してみる。

 

 すると。

 

「【切り抜き】ハル巡査、子犬に性的に襲われる」

「実質的ショタおね回」

「【朗報】ハル巡査、誘い受けか【放送事故】」

 

ほかにも、似たような投稿が山ほど並んでいた。

 

「放送事故すぎてお茶の間凍ったわw」

「子供に説明求められて詰んだ」

「これ僕のぉおおお!は草」

「アリスさん、そこは空気を読めw」

 

……好き放題言いやがって。

 

いや、面白いのはわかる。私だって、もし自分が視聴者だったら、たぶん笑ってしまうと思う。

 

犬たちの行動は予想外だったし、アリスさんの発言も、タムラさんのツッコミも、番組としてはものすごく印象に残る出来事だっただろう。

 

だけど。だけどさぁ。

 

私、明日も普通に交番勤務なんですけど。近所のおじいちゃんやおばあちゃんに、どんな顔で挨拶すればいいんだろう。子供たちだって、土曜のこの時間帯のテレビは見ているだろう。

 

あの子たちは、こういう話題を見逃さない。動画まで見つけてきて、私が困るような質問をしてくるに決まっている。

 

ああ、嫌だ。

 

想像しただけで、頭が痛くなってきた。私はスマートフォンを閉じ、深く息を吐いた。

 

夜の街を歩く人々は、いつもどおりだった。誰も彼もが、私の出演した番組を見ているわけではない。そもそも、私は警察官であって、芸能人ではないのだ。

 

きっと、明日になれば忘れてくれる人もいるだろう。

 

そうであってほしい。切に願いながら、私はバッグを持ち直した。

 

 

 

……わりぃ。やっぱり、つらいです。

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