「ヨハルヴァ!何故、子供狩りを行わん!?ヨハンといい、貴様らは何をしておる!?皇帝陛下に何て報告すればいいのだ!?」
また始まった………とソファラ城の自室のベッドで寝ているヨハルヴァは思った。
傍で声を発している………というか癇癪を起しているのは、父であるダナン。
ドズル家に伝わる聖斧『スワンチカ』の継承者である。
尤も、その斧は長男であるブリアンに譲渡してしまっているが。
とにかく、グチグチと文句を垂れる『オヤジ』の言葉が気に入らない彼は、如何にも面倒そうに呟く。
「女子供に手を出すのは性分じゃねえ。」
「このソファラ城を貴様から剥奪するぞ!!」
「そしたら、アルヴィス皇帝は………というか、ロプト教団は何て言うだろうな?」
「グッ………。」
言葉に詰まるダナンを横目で見て、ヨハルヴァは少しだけ口角を上げる。
自分の息子に城を収めさせられないような、情けない父親である事が知れ渡れば、アルヴィス皇帝やロプト教団は、制裁を加えるだろう。
酒池肉林を働く事が出来ている立場である、イザーク王の地位も剥奪されるかもしれない。
それが分かっているから、ヨハルヴァは父に対して強気に出る事が出来る。
「覚えておれ!その怠惰な生活が、いつまでも続けられると思うな!!」
「へいへい、精々酒池肉林を楽しんでろよ。」
戸惑う部下達を連れ、扉を乱暴に閉めて去っていくダナンを見送る事もせず、ヨハルヴァは静かに天井を見上げる。
元々この城は、『剣聖オード』を信仰する、イザークの民の物だ。
しかし、十七年前に『反逆者シグルド』の一味が処刑されてから、全てが変わった。
最初こそ、皇帝アルヴィスの統治で平和が保たれていたのだ。
だが、ここ数年で皇帝がロプト教団………通称『暗黒教団』と手を組み、残虐な圧政を行っている。
ここイザークの地でも、ダナンの命によって民を奴隷の地位に落とした他、『子供狩り』と称する子供の誘拐行為を平然と行っているのだ。
さらわれた子供は、生きたまま火あぶりにされるか、洗脳教育を施されるかのどちらか。
どう考えても常軌を逸脱した行動である為、ヨハルヴァと次男のヨハンは、父の命に逆らって、臣下達に子供や女達への手出しを禁じている。
とはいえ………。
「現状では、何も変わらない………という事くらいは、理解しているみたいだな。」
「………面倒なオヤジの次は、うぜえ兄貴かよ。」
扉が開かれて入って来たのは、キザな男………次男であり東のイザーク城を管理しているヨハン。
ヨハルヴァとは折り合いが悪いが、父がロプト教団の言いなりなので、これでも意見は合う。
只、ヨハンも若干顔をしかめているのは、ダナンの説教を受けたからであろうか。
そんな彼は、ベッドで寝ているヨハルヴァに言う。
「現状を変えなければ、いずれ私達は父上の言う通りになる。城を奪われ、ロプトの炎で死を迎える事になるだろう。」
「今更、火あぶりにされるくらいなら、別にいいんだよ。それだけの事はやっているからな。でも………。」
もしも自分達がいなくなったら、ダナンの息の掛かった者が城の守りにつくだろう。
そうなれば、ロプト教団のために子供狩りを平然と行うのは、目に見えている。
「もう1つ言えば、私達が収めている領土で節度を守った所で、世界は変わらない。今も至る所で子供や女性の叫びが響き渡り、『残虐な行為』が行われているだろうからな。」
「……………。」
『残虐な行為』の内容は、正直考えたく無かった。
実際、2人が城の領主になった時は、今よりもイザークの民の目は数倍きつかった。
帝国兵に妻や子供を奪われ、人生を狂わされた者達の憎悪の感情。
それを嫌という程浴びた結果、子供狩りなんて死んでもしたいとは思えなかったのだ。
ここで、ヨハンは話題を変える。
「ヨハルヴァ………解放軍を知っているか?」
「逆賊シグルドの息子………光の公子とか言われているセリス率いる軍の事だろう?イザークの何処かに隠れていて………。」
「解放軍に、アイラ様の娘がおられる。」
「何!?」
思わずヨハルヴァはベッドから起き上がり、兄を凝視した。
それはつまり、『剣聖オード』の子孫であり、巧みな剣の才能を持っているという事だ。
また、ヨハルヴァにとって、ある『苦い記憶』が蘇るが、今重要なのはそこでは無い。
「何で、兄貴がそんな重要情報を知ってるんだよ!?」
「声が大きい。………先日、ガネーシャ城に出向する際に、偶然その娘と出会ってしまってな………。戦闘になったからやむを得ず対峙したが………。」
「アイラ様の………『流星剣』………使ったのか?」
「うむ。まだ粗削り故に、私は命拾いをしたのだが、部下が数人やられた。」
『流星剣』というのは、ザックリ言ってしまえば、イザークの正当な血縁者に伝わる必殺剣だ。
舞うような動きで5連撃を浴びせ、瞬く間に斬りふせる奥義。
ヨハルヴァとヨハンは、『とある経緯』でその剣技を知っている。
そして、それが決して無敵でない事も分かっているからこそ………。
「逃がしたんだな………。」
「父上には、その事でもこっぴどく叱られた。だが、意外と私達の近くに、セリスはいるのかもしれんな。」
一度見つかってしまえば、隠れ里が見つかるのも時間の問題だろう。
その時に自分達は、どのような選択肢を取るのか………ヨハンは、ヨハルヴァに残された時間は少ないと言っているのだ。
「正直………途方もねえ話だよな。解放軍がこの大陸………『ユグドラル大陸』を救うなんてな。」
別に火あぶりになってもいいと思っているくらいなのだから、解放軍に参加するのも悪くはない。
しかし、失敗した時の領民や部下達の生活などを考えると、そう簡単に賭けるのは、難しかった。
「………頭痛くなってきた。少し、スッキリしてくる。」
ヨハルヴァは起き上がると、ベッドの横に置いてある『はがねのおの』を手に取り、部屋を出る。
ヨハンはその後ろ姿を見て嘆息をすると、続いて歩んでいった。
――――――――――――――――――――
町の闘技場は、奴隷や罪人などが血みどろの争いを繰り広げ、観客を楽しませる場だ。
娯楽を求めるイザークの民やドズルの兵士達など、観客は意外と多い。
ヨハルヴァは自身の鍛錬も兼ねて、この闘技場に、身一つでたまに参加している。
「こ、これはヨハルヴァ様………!本日は………!」
「いいから、さっさと準備してくれ。勝ち上がっている奴等………いるんだろ?」
「は、はい~~~!!」
受付の気弱そうな男に試合の手配をさせると、入口の鉄格子が堂々と開門する。
ヨハルヴァは開かれた扉をズカズカと通り、円形のスタジアムへと入った。
「よう!俺様の代わりにこのソファラ城の支配者になるのは、誰だ!?」
「俺様だ~~~~~!!」
ヨハルヴァの勇ましい声に応えて出てきたのは、軽そうな斧と重そうな斧を両手で持った男。
偶然にも、ヨハルヴァと同じアクスファイター………斧使いである。
只、元々屈強なヨハルヴァよりも更に一回り大柄。
そして、持っている装備は、それぞれ『ておの』と『はがねのおの』であった。
「何だ?投げつける用の手斧を用意しているなんて、体格の割に弱気だな。」
「うるせえ!勝てばいいんだよ!貴族様がわざわざ出て来やがって!俺様に潰されな~~~~!!」
試合開始のベルと共に、先制で投げられる右手の手斧。
ヨハルヴァは鋼の斧しか持っていないので、遠距離攻撃は回避できない。
しかし、彼は動くまでも無く、自分に飛来する手斧を鋼の斧で軽く叩き落とした。
「あ………。」
「アホだから、勘弁してやるよ!勉強し直してきな!!」
そのまま一気に距離を詰めたヨハルヴァは、斧を振りかぶる。
相手はたたらを踏んだのも有り、左手の鋼の斧を振りかざせない。
だが、ヨハルヴァは斬りつける寸前で、斧を横にして、刃先ではなく平面である斧刃を叩きつける。
完全な『みねうち』であったが、その強烈な一撃はあばら骨を数本軽く折った。
大柄な男は衝撃で白目をむいてしまい、倒れてしまう。
「歯ごたえがねえな………。次だ、次!早くしろ!」
「し、しかし………。」
「何だ?俺に遠慮してるのか?」
「い、いえ………おい、連れてこい!」
自分が倒した男が複数の兵士に運ばれていく中、ヨハルヴァは司会進行の男の指示が下され、次の対戦相手が出てくるのを待つ。
しかし………闘技場の空気が急に変わる。
観客がざわつき始め、ヒソヒソ話が聞こえてきたのだ。
「ん………?何だ………?」
異様な空気の中、自分が出て来た反対側の門が開き、中から人影が現れる。
だが、その人物を視認した瞬間、ヨハルヴァは目を見開いた。
「貴方が、次の相手ですか………宜しくお願いしますね。」
人影は、ペコリと頭を下げてくる。
その体格は、さっきの男と比べると、恐ろしい程に華奢であった。
白を基調としたローブを身に纏っており、手に持った杖を両手で大切に持っている。
髪は光に当たると茶色に輝く黒のボブカットであろうか。
そして何より、その体つきは………。
「お、女ぁーーーーーッ!?」
「どうしたのですか?男女差別は良くないですよ?」
「いや………というか、その杖「ライブのつえ」だろ!?プリーストが何で闘技場にいるんだよ!?」
プリースト………即ち神官は、攻撃手段を持たない。
見た所、目の前の『少女』は怪力であるようにも見えない為、普通に戦ったら、ヨハルヴァが圧倒的に有利だ。
というか、そんな事をしたら、イジメというか虐待にも近い行動になってしまう。
元々、女子供に手を出す事をタブーとしている彼にとっては、絶対に戦えない相手であった。
「勘弁してくれよ!?何の嫌がらせだ!?」
「嫌がらせとは言いますが………これまで3試合は勝ち抜いていますよ?」
「ウソだろ………?」
思わずヨハルヴァは振り返り、司会進行の男を睨むが、彼はコクコクと少女の言葉を肯定するように頷く。
唖然としたヨハルヴァであったが、目の前の少女はまるで聖母のように微笑む。
「さて………始めましょうか。私が勝ったら、1つ願いを叶えて貰いますね。」
「願いって………本気………。」
「では、行きますよ。」
試合開始のベルが鳴る。
ヨハルヴァはあたふたしていたが、次の瞬間、固まった。
少女が腰を落とし右手のライブの杖を振りかざすと、目にハッキリとした『殺意』が宿ったのだ。
「!?」
次の瞬間、プリーストの少女は、地面を蹴りスタジアムを走った。
あっという間に距離を詰めると、先程ヨハルヴァがやってみせたように、杖で右から叩きつけるように振るう。
だが、ヨハルヴァと違うのは、みねうちでは無く、左胸の横から骨を砕き心臓を叩き潰そうとしている事だ。
「コイツ!?」
そのまま受けていれば、心臓が破裂して死んでいただろう。
鍛えていた故に、反射的に体が動き、右手の斧を左腰に当て、何とか攻撃をガードする。
容赦の無い急所を狙った一撃に、ヨハルヴァは自分の考えが甘かった事を痛感した。
「これで、分かって貰えましたか?」
少女は、初撃が防御された瞬間に、杖を引き今度は脳天を叩き割ろうと大上段から振り下ろす。
ヨハルヴァは咄嗟に後ろに転がる事で回避。
「逃げ回ってばかりでは、死にますよ?」
尚も、少女は地面に叩きつけた杖を振りかぶると、猛ダッシュ。
起き上がったヨハルヴァの股間に蹴りを当てて怯ませようとしてきたので、これも咄嗟に斧を舌に向けて防御する。
「………の女ぁッ!!」
後ろに飛びのいたヨハルヴァは、先程の対戦相手が落としていた手斧を拾い上げ、更に距離を詰めようとした少女に投げつけた。
少女は、ライブの杖を横からぶつけ、手斧の軌道を変えて弾く。
「うおおおおおおおおお!!」
その隙を狙ってヨハルヴァは突撃をして鋼の斧を振りかざした。
杖と斧が連続でぶつかり合い、嫌な音を立てる。
「悪かった!………てめえの認識を改めねえとな!!」
至近距離で鍔迫り合いになった事で、ヨハルヴァが少女に叫ぶ。
一方で、杖で受け止める少女も、男を睨みつけながら告げる。
「現領主が闘技場に出てくると聞きましたが、本当だったのですね………。」
「みっちりと鍛えてぇからな!お陰で、とんでもねえ相手に出会えたぜ!………名前は!?」
「名前ですか………私はプリーストのマナ。戦いはできませんが治療の杖が使えます。」
「それが、僧侶もどきの言う事かぁッ!?」
これが、ヨハルヴァにとっての、マナ………『力』という名を与えられた少女との出会いであった。
大陸を震撼させた悲劇から17年後………光を継ぐ者達が戦いの準備をする中で、神々の力に見放された者達が、ソファラの闘技場で出会っていた。
平民の少女マナ、聖遺物を持てない貴族ヨハルヴァ………この出会いが、この後何をもたらすのかは、今は誰も分からない。
知っている方は、こんにちは。
知らない方は、初めまして。
ハーメルンで活動している擬態人形Pと申します。
今回、どういう事か話のネタという天啓が降りて来たので、
こうして聖戦の系譜の話を書き始めました。
代替キャラでプリーストであるマナ。
聖斧スワンチカを持てないヨハルヴァ。
強力な子世代キャラがいる中で、どうしても主力にしにくい2人ですが、
それ故に今回、この2人から見た聖戦を描いてみようかなと思いました。
新作の万紫千紅が出ている時に、今更という感想を持つ方もいるかもしれません。
それでも、ネタを閃いてしまったので、気が向いた方は付き合ってくれると嬉しいです。
皆様、どうぞ宜しくお願いしますね。
しばらくは、3日に1回くらいのペースで書いていこうと思います。