『力』の少女・マナ   作:擬態人形P

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第2話:魔道拳

ドズル家三男のヨハルヴァは、父ダナンから何度も子供狩りを命じられ、苛立ちを募らせていた。

子供を生贄にしたり、洗脳教育を施したりするのは、女子供に手を出さないヨハルヴァにとっては、許せない事だったのだ。

 

だが、続いて訪れた次男ヨハンは、自分の収める領土だけを守るだけでは、大陸全体を包む悲劇は、一向に改善されないと言う。

そして、セリス率いる解放軍の存在を挙げて、彼らが決起した時にどう行動するか、問うのであった。

 

ユグドラル大陸全体を救う事が、途方もないという事だと考えるヨハルヴァ。

収めている領土の事も考えると、リスクが高すぎると思ってしまう。

 

気分を変えるために、闘技場で鍛錬を行うヨハルヴァであったが、そこで対戦相手になったのは、華奢な女プリーストだった。

最初は、女子供に手を出さないというポリシーも有り、戸惑ってしまうヨハルヴァ。

しかし、その杖による攻撃は苛烈で、本気で殺しに掛かって来ていた為、こちらも真剣に応じる事に。

 

プリーストもどきの少女は、自分の名を告げる。

その名前は、マナ………であると。

 

 

 

思わぬ熱戦が繰り広げられる事で、熱狂に包まれている観客席の端で、ヨハンはちゃっかりと腕を組んで座っていた。

ヨハルヴァが煮詰まったら闘技場に通う癖には呆れる限りであったが、対峙している少女の容赦の無さには、正直驚きすら覚えている。

非力である為なのか、狙っているのは確実に仕留められる相手の急所ばかり。

しかも、明確な殺意があるのに、思考は冷静さを保っていられるのが末恐ろしかった。

 

尤も、それだけ領主であるヨハルヴァの実力を認めていると言えるのかもしれないが………。

 

「だが………杖を振り回すだけでは、限界がある。」

 

あのマナという少女には、何か別の切り札があるのでは?………そう、ヨハンは感じた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「何なんだよ、僧侶もどきぃッ!?」

 

ヨハルヴァと対峙するマナは、杖を器用に何度も振りかざす。

頭、腕、膝、左胸、股間など、当たれば確実に身動きが封じられるポイントを、的確に狙ってきている為、ヨハルヴァとしてはたまった物じゃない。

とてもじゃ無いが、普通の手段で鍛えられたプリーストとは思えなかった。

 

「こんにゃろうがぁッ!!」

 

ここでヨハルヴァは、斧を持っていない左拳を振るった。

顔面を殴るコースの拳は、マナが後ろに飛びのく事で回避されるが、この隙を逃さず、ヨハルヴァはもう一度突撃する。

 

「うらぁッ!!」

 

「!?」

 

斧による一撃は杖で防御されるが、狙いはそこ。

鈍器となっている杖に斧がぶつかる際に力を加え、ヒビを入れたのだ。

 

「これでもうダメだろ!?」

 

更に連撃を加えられた事で、杖は横に真っ二つ。

攻撃手段が封じられた事で、ヨハルヴァは投降を促そうとし………目を見開く。

マナが呟きながら右拳を握ると、何と赤い炎に包まれたのだ。

 

「今の私の実力では、完全に魔導書を扱えません………。だから、魔法は飛ばせませんが………。」

 

「コイツ!?袖に魔導書の切れ端を仕込んでやがる!?」

 

恐らく『ファイアー』を詠唱したのだろう。

焔の拳が、勢いよく振りかぶられる。

 

「クソッ!?」

 

「私はこの応用を、『魔道拳』と呼んでいます。」

 

咄嗟にヨハルヴァは鋼の斧で防御するが、熱を帯びたマナの拳は、斧を溶解させて破壊しまう。

今度は逆にヨハルヴァが、武器を失ってしまった。

 

「何なんだよ………てめえは!?」

 

「私はプリーストのマナ。戦いはできませんが治療の杖が使え………。」

 

「もうそのネタはいいんだよッ!」

 

思わず苦虫を噛み潰したような顔をするヨハルヴァに対し、マナは再び言葉を紡ぐ。

今度は手刀の形を模した右手がスパークし始めた。

『サンダー』を使ったのは、言うまでもない。

 

「ゼロ距離で直撃すれば、下位の魔導書でも効果は強いです。」

 

「だな………っ!」

 

容赦なくヨハルヴァの左胸………心臓に向けてマナの手刀が伸びる。

当たれば電流が流れ、最悪の場合、命が無いだろう。

だが、彼は動かなかった。

 

「肉を切らせて骨を断つって………知ってるか!?」

 

「え………!?」

 

手刀が炸裂する瞬間、ヨハルヴァは左手で無理やりマナの右手を掴み上げた。

当然ながら激しい電気が体に流れるが、急所に直撃するよりは、はるかにダメージは軽減できる。

 

「………っくしょうが!!」

 

ヨハルヴァは左手が焦げるのを感じながらも、マナが次の行動を取る前に右拳を握った。

思いっきり顎目掛けてアッパーを喰らわせたのだ。

 

「グ………!?」

 

流石にマナにとっては予想外の攻撃だったのだろう。

彼女は防御が出来ず、思いっきり殴り飛ばされる。

地面に転がった事で、少女は気絶した。

 

「……………。」

 

観客の様々な声や拍手が響く中で、ヨハルヴァは気絶したマナを見る。

こうして寝顔だけ見ていると、普通の少女だ。

正直、ついさっきまで死闘を繰り広げたとは思えなかった。

 

「………仕方ねえな。」

「よ、ヨハルヴァ様!?何を!?」

 

司会進行役が驚く中、ヨハルヴァは痺れていない右腕でマナを担ぐ。

そして、闘技場の出口へと向かう。

 

「あ、あの………その少女は………。」

「俺が責任を持って預かる。勝ったんだから、好きにしていいだろ………!」

 

有無を言わさないように睨みつけると、ヨハルヴァはそのまま門をくぐり外へと出て行く。

 

このまま気絶した少女を置いておくと、不届き者達に何をされるか分からない。

痛い目を見たとはいえ、マナを放っておけなかったのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「やれやれ………愚弟を持つと、心労が絶えぬ。」

「その割にはニヤついてるじゃねーかよ………しかも、何を勝手にまた人の部屋に入ってるんだ?」

「何、私はその愚弟が女性を相手に、不埒な行動が起きないように見張っているだけさ。」

「変態兄貴が何か言ってやがるぜ………。」

 

ソファラ城のヨハルヴァの自室では、ベッドの上でマナが横たえられていた。

ヨハルヴァの傷は、神官達に癒して貰っているので、すっかり回復している。

 

癒しの杖というのは不思議な物で、生きていれば欠損した部位を修復する事も可能だ。

勿論、それだけの魔力が必要にはなるが、超常現象を引き起こせるのも魅力ではある。

 

とにかく、そうやって傷を癒したヨハルヴァは、ヨハンと共に椅子に座っていた。

彼の手には、マナの袖から取り出した3枚の千切った本の切れ端が握られている。

 

「それぞれ、ファイヤー、サンダー、そして『ウインド』だっけ?魔道拳と言ってたが、あんな芸当が出来るなんてな………。」

「恐らく、特別な教育や訓練を受けたのだろうな。」

「あんな芸当教えるバカがいるのか………?」

「実際にいるから、こうして使われているのだろう。しかし………。」

 

ここで、ヨハンは一瞬言葉に詰まる。

もしかしたら………という言葉と共に、彼は小声でヨハルヴァに告げる。

 

「彼女もまた………セリスの元に集っている者なのかもしれないな。」

「マジ………か!?」

「根拠はない。只の直感だから、言葉に詰まった。だが………アレだけの戦闘技術をプリーストに備えさせる組織は、ほとんど無いだろう。」

 

セリス軍の中核を担っているのは、イザークの王子であるシャナンと、シアルフィの遺臣オイフェだ。

帝国兵や父ダナンの軍勢から身を守るため………そして、セリスを守る為に、護身術を教えた可能性は否めない。

尤も、護身術にしてはかなり過激であるが………。

 

「仮に兄貴の直感が当たっていたとして………だ。何で、そいつが闘技場に通ってるんだよ?」

 

「それは、闘技場通いのヨハルヴァ様を通じ、貴方達2人と接触したかったからです。」

 

少女の声に、ヨハルヴァはヨハンと共にベッドを凝視する。

そこには、目を覚ましたマナが布団から出ようとしていた。

 

「俺達と接触って………セリスは、俺達に会いたいのか?」

「そうです。まず、ヨハン様………貴方は先日、ラクチェ様を見逃してくれましたね?」

「ラクチェ………そうか、あの女剣士の名前は、そう言うのか………何と見た目と同じく美しい名だ!」

「兄貴………変態度抑えろ!真剣な場面だぞ!」

 

アイラの娘であるラクチェの名前を知った事で、何処かトリップしそうになったヨハンをヨハルヴァが軌道修正する。

マナは特に気にした様子も無く、ベッドから降りると頭を下げて告げる。

 

「貴方達2人が、ドズル家のダナンが推奨する子供狩りに反対しているという話も伝わってきています。」

「成程、読めて来た。マナ………君が私達に伝えたい言葉は………。」

 

ヨハンの言葉に、マナは頷く。

 

「はい、単刀直入に言います。解放軍を率いるセリス様と同盟を結びませんか?」

 

ドンッ!!

 

その瞬間であった。

部屋のドアが蹴破られると、鉄の斧を持った荒くれの男達が3人なだれ込んでくる。

 

「何だ!?」

 

「悪いが死んでもらうぜ!」

 

荒くれの1人がヨハルヴァに斧を振り下ろす。

咄嗟に座っていた椅子でガードするが、簡単に割れてしまう。

 

「おいおい!?今は俺様の城だぞ!?見張りは何をやってる!?」

 

「安心しろよ!お前もおんなじ場所に送ってやるから………ガハッ!?」

 

全てを言い終わる前にヨハルヴァと対峙していた荒くれ者が血を吐き倒れる。

ベッドの方を振り向いたヨハルヴァはギョっとした。

マナがローブのスカート部分を捲り上げていたのだ。

当然ながら、下着が見えてしまうが、その横の腰の部分に、ナイフが挟まっている。

その2本の内の1本を、荒くれの左胸に投げつけていたのだ。

 

「な、女ぁ!?」

 

仲間が不意打ちでやられた事に驚いた荒くれの2人目であったが、その動揺を見逃さなかったマナがもう1本のナイフを持って接近。首に突き刺しあっという間に命を奪う。

 

「ヨハルヴァ!」

「滅茶苦茶だな、本当に!?」

 

ヨハンが最後の1人に、自分が座っていた椅子を投げつける。

持っていた鉄の斧が弾かれた隙を突き、ヨハルヴァが飛び掛かる。

そのまま馬乗りになって首を絞めて動きを拘束した。

 

「グ………ァ………。」

 

「何処の誰の命令だ!?というか、俺の部下達をどうした!?」

 

ヨハルヴァが問い詰めるが、扉の外で何かの呟きが聞こえた。

 

「離れて!」

 

マナの警告を受け、ヨハルヴァは飛びのく。

すると、多数の怨霊が飛来し、最後の荒くれを襲う。

 

「ギャァアアアアアアアアアアアッ!?」

 

つんざくような悲鳴と共に、生命力を奪われた男は絶命する。

ヨハルヴァは扉の外で黒いローブを着た男が走り去っていくのを見た。

 

「あの服は暗黒教団の!?」

「さっきの魔法は『ヨツムンガンド』ですね。」

「闇魔法か?成程………これは警告かもしれんな。」

 

ヨハンは、訝しげに呟く。

ロプト教団に従わなければ、ダナンの息子達でも処刑対象になると。

だが、ヨハルヴァは、それよりも気になる事があった。

 

「ここ部屋に来るまで、城の衛兵達が守っているはずだ………。あいつ等はどうなった………?」

「調べる前に………この部屋を出る前に、装備を整えた方がいいかもしれませんね。」

「………だな………ちょっと待っていろ。」

 

マナの言葉を受けたヨハルヴァは、外に向きかけた足を堪えて、ベッドの方へと向き直して歩み寄ると、傍の棚を動かす。

すると、人が数人は入れるような窪みが出現し、そこには緊急用に備えてあった装備類が置かれていた。

 

「隠し部屋だ。最低限の物は備えてある。」

「持っていくぞ。」

 

そこで、ヨハルヴァとヨハンは鋼の斧を取る。

また、ヨハルヴァは念の為、練習中の『てつのゆみ』も加えて持っておく。

一方でマナは、ライブの杖を手に取り、ファイヤーとサンダーとウインドの魔導書を数枚破って、袖の中に隠す。

更に、先程使ったナイフの血をタオルで拭うと、堂々とスカートを捲り下着の中に閉まった。

 

「目のやり場に困るな………。」

「ヨハルヴァ様は、私に欲情するのですか?」

「欲情って、お前………一応、年頃の娘として心配しただけだ。」

「意外と真面目なんですね。」

 

マナはそう言うと少し笑って………しかし、その笑みの中には何処か寂しさがあって………ヨハルヴァはそれが不思議に思えた。

一方、マナは装備の準備を終えると、ヨハルヴァの元に歩み寄り、両膝を付く。

 

「相手は恐らくダークマージでしょう。ヨハルヴァ様、斧の刃先を私に向けてくれませんか?」

「こういう感じか?」

 

ヨハルヴァが言われた通りに、鋼の斧をマナに突きつける。

彼女はその斧をそっと両手で掴むと、何やら詠唱を始めた。

すると………心なしか、斧が何か温かい物に包まれるのを感じる。

 

「何だ………?」

「若干ですが、斧に魔力を纏わせました。ヨハルヴァ様の実力ならば、相手の魔法を「弾く」真似も、ある程度は出来ると思います。」

「へー………お前、何でも出来るんだな。」

「ですが、過信は禁物です。流石に膨大な魔力が相手では、貫通されてしまいますから。」

 

マナはそう言うと、ヨハンも招き、同じように斧に魔力のコーティングを施す。

これで、魔法を弾くという行為が多少なら可能になった。

 

「加護って言えばいいのか分かんねえけどよ、この弓矢にも出来るのか?」

「ヨハルヴァ様は弓矢を扱えるですのか?」

「練習中だ。無いよりマシってレベルで考えてくれ。」

 

ヨハルヴァはそう言うと、鉄の弓と鉄の矢数本もかざす。

マナは祈りを捧げるようにして、弓矢にもコーティングを施してくれた。

 

「これで準備は整ったな。」

「じゃあ、行くぞ………慎重に付いてこいよ。」

「分かりました、ヨハルヴァ様。」

 

部屋を出ようとした所で、ヨハルヴァは一瞬動きを止め、溜息を付く。

そして、マナに振り向くと面と向かい合って告げる。

 

「ヨハルヴァでいい。兄貴も呼び捨てでいいだろ?」

「うむ、こんな時に貴族と平民の関係に無駄に拘る程、落ちぶれてはいないからな。」

「そうですか。では、改めて………。私はマナと言います。宜しくお願いしますね………ヨハルヴァ、ヨハン。」

「ああ、分かった………気を付けろよ、マナ。」

 

ヨハルヴァに初めて名前を呼ばれたからなのか、マナは少しだけ微笑むと、2人の斧使いの後ろについて行った。

 

 

マナの招待の言葉とロプト教団の襲撃。

何かが確実に動き出そうとしていた。




この作品のマナは、『プリーストもどき』…と言われるような設定があります。

杖で撲殺を狙うわ、魔法を拳に纏うわ、
暗器でナイフを仕込んでいるわ、武器に魔力を纏わせられるわ…と言った感じですね。

後方支援役のプリーストが、ここまで泥臭い戦い方を身に付けているのには、
色々と理由がありますが、それはまた後ほど…という事で。

僧侶リフのネタは、この世界のマナには似合いませんよね。
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