ソファラの闘技場でプリーストであるマナと対峙したヨハルヴァは、その戦闘技術に苦戦する。
卓越した杖の扱いに加え、魔導書の魔法を拳に纏わせて戦う魔法拳。
やがて彼はマナに追い詰められるものの、肉を切らせて骨を断つ戦法で、何とか逆転勝利をする。
結局、その場には置いておけず、気絶したマナを担いで城に戻ったヨハルヴァ。
彼は、ヨハンから彼女が解放軍セリスの仲間ではないかという推測を受け、驚愕してしまう。
そして、目覚めたマナから受けた誘いは、そのセリス率いる解放軍との同盟であった。
しかし、ここで謎の荒くれ達が襲撃してきて、ヨハルヴァ達の命を奪おうとする。
暗器を仕込んでいたマナの機転もあり、何とか乗り切る物の、暗黒教団のダークマージに逃げられてしまった。
ダークマージを追いかける前に、隠し部屋で準備を整えた3人。
ついでにヨハルヴァは、マナに自分達の事は呼び捨てでいいと話すのであった。
「………なんだよ、こりゃ。」
ヨハルヴァの嫌な予感の通り、ソファラ城内は少なからず被害が出ていた。
さっきの黒ローブの人物………ダークマージや荒くれ達にやられたのだろう。
衛兵などの働いている者達が所々で倒れており、プリースト達が治療に追われていた。
「ヨハルヴァ様!ヨハン様!ご無事でしたか!?」
「………黒ローブの野郎は、何処に行ったか分かるか?」
「ち、地下牢に向かって行きました!」
血みどろの光景を前に、ヨハルヴァは吠えなかった。
しかし、その静かな言葉には威圧感が詰まっており、城仕えのプリースト達を畏怖させる。
「ヨハルヴァ、気持ちを静めろ。冷静さを失ったら、自分を見失う。」
「分かってんだよ………クソ兄貴。でもよ………俺の臣下がロプトの奴等にやられたんだ。許せねえ………。」
既に命を落とした者もいる中、その無残な姿を見てヨハルヴァが歯ぎしりをする。
マナはその者達の前で膝を付いて、祈りをささげた。
そして、静かに呟く。
「………ヨハルヴァは優しいんですね。」
「優しくねえよ………優しかったらオヤジの言いなりになんかなってねぇ………。」
「それが………ヨハルヴァの本音なのですね。」
マナの言葉に、ヨハルヴァはハッと気付く。
今自分は、父ダナンの言いなりになっていた事を後悔していた。
ダナンに逆らったから、こうして見せしめとして城の民が襲われたというのに………。
「俺は、最低野郎だよ………オヤジにもセリスにもどっちつかずの対応でいたから………こうなっちまったんだ。」
父に従っていれば起きなかった悲劇。
しかし、それは子供狩りを認める事だから許されない。
だが、腹を括って解放軍にさっさと協力する真似もしなかった。
その結果、ロプト教団にこうした警告を受けてしまったのだろう。
「この城には、ドズル家の奴等は勿論、俺に理解を示してくれて働きに来ているイザークの民もいる。俺が色々と先延ばしにした結果、みんなを巻きこんじまったんだ………。」
ドズル家もイザークの民も裏切った。
その事実が、ヨハルヴァを苛立たせる。
しかし、マナは立ち上がると、ヨハルヴァの正面に立って頬を両手で包み込んだ。
「貴方が最低野郎ならば、ヨハンも最低野郎ですよ?」
「いいんだよ、クソ兄貴も同罪だ。」
「酷い言い草だが、今回ばかりは否定できんな。」
「では………貴方達が最低野郎でない証明が必要ですね。」
マナは少し苦笑すると、ヨハルヴァの顔を包み込んだまま静かに告げる。
彼らにとっては、衝撃過ぎる発言を。
「私は昔………イザークの城下町で帝国兵に処女を奪われました。」
『な!?』
彼女の言葉の意味を理解できない程、ヨハルヴァは子供ではない。
彼は勿論、現イザーク城の領主であるヨハンも激しく動揺してしまう。
一方でマナは寂しそうな笑みを浮かべていたが、2人を落ち着かせるように言葉を紡いでいく。
「貴方達が統治する前ですから、大丈夫ですよ。むしろ、これでも感謝しているんです。帝国の暴挙を………子供狩りを………止めてくれて。」
本当に感謝するように、マナは微笑む。
しかし、その顔が痛々しく、ヨハルヴァは直視出来ない。
顔は包み込まれるように固定されていたが、目を背けてしまう。
「最低野郎は、もっと別にいます。自分を追い込まないで下さい。………ね?」
「マナ……………。」
ヨハルヴァは、どう答えればいいか分からない。
そんな中、ヨハンはマナの横に立つと、片膝を付き、頭を垂れた。
「マナ………君の気遣いは有り難い。だが、仮初とはいえ現領主として、一度だけ謝らせてくれ。申し訳なかった………。」
マナは静かに首を振る。
ヨハンは、それ以上は何も言わずに立ち上がると、身に纏っていたマントを翻す。
「ヨハルヴァ、地下牢へ案内してくれ。まずは、今回のケジメを付けなければならない。」
「そうだな………悪かった、マナ。それと………ありがとな。」
「大丈夫ですよ………行きましょうか。」
マナはそう言うと、ヨハルヴァの頬から手を放す。
何をするにも、まずはロプト教団の刺客を何とかしなければならなかった。
――――――――――――――――――――
地下牢の入り口も見張りが倒されており、プリースト達が治療に専念していた。
ヨハルヴァは、状況確認をしながら、そこにダークマージの男が逃げた事を確認する。
「じゃあ、ここに潜んでいるあの野郎をぶっ潰せば………。」
「そ、それなんですが………まだ地下牢にはルティアナが………。」
「何!?」
ルティアナという知らない名前を聞いて、マナは首を傾げる。
ヨハルヴァは、彼女が地下牢に囚われている罪人達の、世話係をしている15歳の少女だと教える。
地下牢には、現状ならばドズル家に逆らったイザークの民の監禁場所となっているのだが、この2人の兄弟の場合は違う。
本当に罪を犯した者達を公平に捕らえているのが大きな特徴であり、ある意味では正しい姿とも言えた。
だからこそ………。
「嫌な予感がする………。」
慎重さを保ちながらも、足早に地下牢へと足を踏み入れるヨハルヴァ達。
薄暗い中であったが、奥に進んでいくごとに、彼らは気付く。
牢の中に捕らわれていたはずの罪人が、いなくなっている事に。
「扉は閉まったままだな………。血が流れた跡も無い………。」
「あのダークマージが『ワープのつえ』で、回収したのかもしれませんね。」
「戦力増強のためにか?じゃあ、ルティアナも………。」
年齢は15歳くらいであるらしいが、子供狩りの被害にあったのかもしれない。
そうヨハルヴァが悔しそうにした時であった。
少女のか細い声が奥から聞こえてくる。
「ぅ………ぁ………。」
「ルティアナか!?何処にいる!?」
返事はない。
だが、奥から何やら音が聞こえてくるので、慎重に武器を構えながらも、足早に向かっていく。
何故だか更に嫌な予感がした。
そして、予感は的中し、3人は見てしまう。
「ぁ………ぁぁ………。」
「ほほほ………いい絶望じゃ………ロプトウス様の為の生贄には、相応しいのう………。」
黒髪の小柄な少女が両手両足にナイフを刺され、仰向けで大の字で固定されていた。
黒いローブの年老いた男が、奥で邪悪な笑みを浮かべる前で、卑しい顔の男達が数人少女を取り囲んでいる。
少女は服を破かれており、そして………。
「てめえ………ッ!?………ってオイ!?」
状況を察したヨハルヴァが激昂したが、それ以上に早くマナが動いていた。
彼女はナイフを素早く取り出すと、少女を取り囲む男達が武器を構える前に、次々と首筋に刃を付きつけ失命させてしまう。
あまりの早業に、ダークマージの老人は目を見開く。
「な、何をしている!?早くあの女を殺せ!!」
少女の前に立つようにしたマナがどんな顔をしているか、ヨハルヴァ達からは見えなかったが、強烈な殺意を抱いているのは確かであろう。
ところが、攻撃態勢を取ったマナの後ろから、ヨハルヴァが鉄の弓を扱い、矢を放って突進してきた男達を数名倒していく。
「前に出るな、マナ!」
「ですが………!」
「お前、本職プリーストだろ!?ルティアナを治療しろ!!」
傷ついているルティアナを癒せるのは、マナだけだ。
ヨハルヴァはすれ違い様にマナの頭を叩くと、更に奥へと走っていくダークマージと取り巻きを追っていく。
ダークマージは逃げながらもヨツムンガンドの魔導書を扱い、怨霊を飛ばしてくるが、マナが加護をくれた斧を振り回すと、不思議な事に霊体が真っ二つになって消滅した。
「兄貴!ルティアナを任せる!!」
「心得た!」
元々騎馬兵のヨハンよりも、こういう室内での戦闘はヨハルヴァの方が長けている。
少女の救出を兄に任せた末っ子は、諸悪の根源を追って行った。
一方で、マナは固まっていた。
ヨハンは、先程彼女が、自分は幼い頃処女を帝国兵に奪われたと言っていたのを思い出す。
それ故に、今のルティアナの状況を見て記憶がフラッシュバックしてしまい、冷静さを失ってしまったのだろう。
なるべく体を見ないようにしながらも、ルティアナの四肢を縫い留めているナイフを抜くと、マナに治療を求める。
マナは俯きながらも、ライブの杖でルティアナの傷を癒していった。
「ぅ………ぁぁぁ………。」
「大丈夫です………もう大丈夫だから………。」
マナが少女を抱きしめて落ち着かせている間に、ヨハンは身に纏っていたマントを取る。
そして、マナに渡してルティアナに巻いてあげるように頼んだ。
「ヨハルヴァの言う通り、彼女を見て………。」
「ヨハン、この子をお願いします。」
「待て、君が冷静さを失っては………。」
ヨハンが一度冷静になるべきだと忠告をするが、マナはもうヨハルヴァ達を追いかけていた。
その時の目がどのような物だったのかは、言うまでもない。
「仕方がない………生きて帰って来てくれ。」
ルティアナを放っておくわけにもいかず、ヨハンは大袈裟に嘆息した。
――――――――――――――――――――
「ロプト教団の理念に従わぬ者め!これ以上逆らうというのならば、死ぬがいい!!」
「うるせえ!今は俺が収めている城で、好き勝手しやがって!!」
ダークマージ達を追いかけていたヨハルヴァは、怨霊による闇魔法の攻撃を、加護付きの斧で弾いていく。
取り巻きの男は、後2人。
そろそろ最深部の壁にぶち当たる所なので、そこがチャンスとなるだろう。
だが………。
「げえ!?」
それまで怨霊を斬っていた斧が、急に重くなる。
何事かと思ったら、腐敗し始めボロボロに崩れたのだ。
「ホッホッホ!加護も流石に持たなかったみたいじゃな!!」
更に飛んできた怨霊の攻撃を慌てて左腕で加護付きの鉄の弓を取り出した事で叩き落とす。
しかし、怨霊は弓ごとヨハルヴァの左腕を飲みこみ、腐敗させて肘から先を奪ってしまった。
「これじゃあ………!」
「なぶり殺して、貴様にも絶望を刻み込んでやろう!行け!!」
ヨハルヴァに対し、迫る2人の護衛。
右手で矢を持って応戦しようとしたが、流石にどうしようもない。
万事休すかと思った瞬間………。
男達の首元が、前に出たプリーストのカミソリのような手刀で斬られた。
「マ………ナ………?」
今度はウインドの風魔法を右手に纏わせ、男達を薙ぎ払ったのだろう。
取り巻きが倒れた事で、ダークマージはヨツムンガンドを唱えようとするが、それより早くマナが接近し、首を掴み上げた。
「……………。」
「は、離せ………ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
次の瞬間、掴んだ手から電気が流れ、男を激しく感電させる。
容赦の無い攻撃に、暗黒教団の男は、つんざくような悲鳴を上げるが、身体をジタバタさせても離して貰えない。
「マナ………。」
マナの表情は見えなかった。
だが、後ろ姿だけでも威圧感があった。
この男だけは許さない。
苦しめて、苦しめて、殺してやると。
それは、男の悲鳴が止まり、項垂れて動かなくなった後でも続いた。
「止めろ、マナ!!」
片腕を失っていたヨハルヴァは咄嗟に動いていた。
マナに近づくと、自分も感電するのも構わず、マナの右手を強く握る。
「もういい、マナ!そいつはもう死んでいる!!」
マナは止まらない。
自分でも感情がコントロールできず、止められないのだ。
「お前まで、最低野郎に付き合わなくていいんだよ!!マナッ!!」
ヨハルヴァは右手が焦げるのも構わず、マナの手をダークマージから強引に引きはがす。
そして、彼女を後ろから片腕で抱きしめた。
「私は………。」
「もう………いいからよ………。」
ここでダメージが限界に来たのか、ヨハルヴァはマナに寄り掛かる形で気絶してしまう。
マナは、彼の右腕を両手で掴み………ここで自分が初めて涙を流している事に気付いた。
「ヨハルヴァ………私………。」
そのまま、ヨハルヴァと共に床に崩れてしまうマナ。
直後に、ヨハンや城の衛兵達が駆け付け、この戦闘は終結する。
マナは見せてしまった………ヨハルヴァに己の中の黒い物を。
この一連の事件は………ヨハルヴァ達の今後の方針を固める事になる。
マナがイザークの城下町出身という設定は、
まだ未登場のお兄さんの会話をそのまま引き継ぎました。
第6章の会話を見る限り、帝国兵の暴挙は色々とあったと思われますし、
きっと凄惨な物であったと考えさせられます。
そのような現状も考えれば、ある程度は仕方ないとはいえ、
ここでマナが過去から暴走し、ヨハルヴァを巻き込んでしまいました。
物語が色々と動き出す中で、次回…新たな主要人物が登場します。
尚、ここでオリキャラの『ルティアナ』という少女を出しましたが…、
名前被りしないように、ここだけはジェミニに聞いて検索して貰っています。
お話にAIは使いませんが、こういう所はAIに任せるしか無いですね。