ダークマージ達の襲撃により、ソファラ城は少なからず被害が出ていた。
自身の対応の甘さがこのような事を招いた事を悔いるヨハルヴァは、最低野郎と自嘲してしまう。
しかし、マナは自身の凄惨な過去を語る事で、彼を落ち着かせるのであった。
やがてダークマージの逃げた地下牢へと向かったヨハルヴァ、ヨハン、マナであったが、そこで罪人の世話係であるルティアナが巻き込まれている現場に遭遇する。
服を破られ、襲われている彼女を見た瞬間、その凄惨な過去がフラッシュバックしたマナは、静かに激昂してしまう。
ヨハルヴァの指示で、その場はルティアナの治療に専念するマナであったが、怒りは収まらなかった。
結果的に彼のピンチに駆けつけるが、主犯であるダークマージを残虐に殺してしまう。
ヨハルヴァが身を挺した事で、彼女の暴走は収まる物の、黒い感情を晒してしまったマナは………。
5歳の頃、ヨハルヴァはヨハンと共に『罪』を犯した。
まだ世界を知らない歳だったのだから、仕方ないといえば仕方ないだろう。
だが、彼らは一生背負って行かなければならない罪を犯したのだ。
何故ならば………『あの2人』を………。
「うわあッ!?」
ヨハルヴァは冷や汗と共にベッドから飛び起きる。
荒い息を吐きながら、自分の両手を見て気付く。
失ったはずの左腕は元通りになっているし、焦げたはずの右腕も綺麗になっている。
「治ったの………か………。」
「眠っている間に、マナが治してくれた。」
目線を上げると、ベッドの近くにヨハンが座っており、顎で部屋の隅を指す。
そこにはマナがいたが、彼女は俯いていた。
「そうか………あの野郎が死んだから………って、何を落ち込んでるんだ、マナ?」
ヨハルヴァが疑問の声を投げかけたが、マナは目を合わせようとしない。
何か後ろめたいものを覚えているようであった。
代わりにヨハンが溜息を付きながら教えてくれる。
「冷静になれと言っておきながら冷静さを失い、お前の前で醜態を見せて傷つけてしまった。これだけの事をやらかしておいて、自己嫌悪にならない方がおかしいだろう。」
「………………。」
ザックリとまとめてくれたヨハンの言葉に、ヨハルヴァは少し唖然としながらも、考え込んでしまう。
つまり、マナはヨハルヴァに合わせる顔が無いのだ。
「あー………まあ、その………なんだ………。」
ヨハルヴァはベッドを出ると、足取りを確認しながら、マナの前まで行って片膝を付く。
正直、こういう空気は苦手だが、無言でいるわけにもいかない。
「俺は………兄貴のようにクールじゃないから、ハッキリとしか言えないけどよ………その、安心した。」
「……………何故?」
少しだけ顔を上げるマナは、やはり酷く落ち込んでいた。
自分の凄惨な過去はしっかりと語れるのに、他人を意図せず巻き込んだ際は、こんなにもネガティブになってしまっている。
その感情の変化が不思議でならなかったが、ヨハルヴァは少しだけ笑みを浮かべて言う。
「マナはプリーストなのに、色々滅茶苦茶できるだろ?完璧超人みたいだったから、脆い所を見せてくれて………何か人間らしく思えた。」
「ヨハルヴァ………貴方は私を何だと思って………。」
「闘技場で殺意をぶつけて来たんだから、仕方ないだろ?………まあ、アレでも加減してたって分かったけどよ。」
「……………。」
言葉の中身はともかく、地下牢で黒い感情を見せた事については、全く気にしていないヨハルヴァに、マナは申し訳なさを覚えている感じだ。
彼女は、ポツリと静かに呟いた。
「私が暴走した原因………昔、帝国兵に処女を奪われたって話をしましたが、続きがあるんです。」
「無理に言わなくても………。」
「その時の年齢で………私は襲って来た男を殺しました。」
ヨハルヴァ達が無言になる中で、マナは語り出す。
もしも、そのまま無抵抗だったらマナは最終的に殺されていただろう。
しかし、偶然近くにナイフが落ちていたのだ。
そのナイフを無我夢中で手に取ったマナは、油断しきっていた男の首元に思いっきり突き刺したのだ。
「怖かったんです………。襲われた事もそうですが、あの年で人を平然と殺せた自分が。」
「マナ……………。」
「『力』が無ければ守れない………それは正しいです。でも、自分の『力』を律する事が出来なければ、取り返しの付かない事になります。」
闘技場では、ヨハルヴァの実力も計算に入れて、適度に戦う事が出来た。
しかし、地下牢での戦闘では、その限りではない。
敵を残虐に苦しめたいと願うあまり………自分を制御できなかった。
「私は………危うく止めようとした貴方を殺す所でした。ゴメンなさい………。」
「……………。」
泣きそうになっていたマナを見て、本当に人間らしい所があるんだな………とヨハルヴァは思ってしまう。
しかし、ここまで自己嫌悪になった少女を、どうやって励ませばいいのか分からない。
何を言ってもダメな気がしたのだ。
だからこそ、ヨハルヴァは迷った挙句、溜息を付いて指を出し………。
「うら!!」
「あいた!?」
マナは思わず自分のおでこを押さえる。
ヨハルヴァは指で彼女のおでこを弾いたのだ。
「何でも、デコピンって言うんだとよ。これで、おあいこだ。」
「で、でも………。」
「俺が満足したんだから、それでいいんだよ。大体、お前は俺に自分を追い込むなって言ったんだから、ちゃんと守れよ。」
そうやってニヤリと笑うと、ヨハルヴァは立ち上がり、マナの手を掴む。
唖然としていたマナは、彼に手を引っ張られ、釣られて立ち上がった。
「じゃあ、罰ゲームも追加だ。………今回のロプト教団の襲撃で、もう腹を括った。解放軍のセリスに今から会わせてくれ。」
「い、今からですか!?もう少し………。」
「時間がねえ。また襲撃される前に、段取りを付ける。兄貴もそれでいいだろ?」
ヨハルヴァはヨハンを見るが、彼は何かを考え込んでいた。
そして、首を振ると彼は告げる。
「ヨハルヴァ。私の分もセリスに宜しく頼んでおいてくれ。」
「おい、行かねえのか!?ラクチェに会いたいんじゃないのかよ!?」
「会いたいのはやまやまだが………ソファラ城がロプト教団に襲われたのだ。イザーク城がどうなっているのか、気になってしまってな。」
「あ………。」
ヨハンの言葉に、ヨハルヴァはハッとする。
暗殺対象は兄弟2人に及んでいた。
この経緯を考えると、イザーク城でも何か起こっているかもしれなかったのだ。
「私は城に一度戻る。想いはお前と同じだから、セリスに宜しく伝えてほしい。」
「兄貴………。」
「心配するな、ロプト教団に対し腹を括ったのは、私も同じだ。マナ………この愚弟を頼む。」
「気を付けて下さい、ヨハン………。」
ヨハンは2人に、自信たっぷりであるキザな笑顔を向け、部屋を出ていく。
彼は騎馬を駆ると、数名の部下達と共にイザーク城へと帰っていった。
――――――――――――――――――――
ソファラ城の北西は、高い山々に囲まれている。
マナがヨハルヴァを案内したのは、その高い山であった。
「山に向かうって事は………トンネルでもあるのか?」
「はい。私達の隠れ里………『ティルナノグ』に繋がっている長いトンネルがあるんです。」
彼女が言うには、昔は鉱山地帯であった為に、採掘用のトンネルがあるらしいのだ。
そのトンネルの進み方次第で、ティルナノグの近くまで到着するらしい。
「ラクチェが見つかった位置や、トンネルの位置から考えれば、ガネーシャ城の西側の奥地って所か。襲われた場合、最悪このトンネルを使えば、セリスは逃げる事が出来る。」
「その通りです………でも、セリス様はお世話になった人達を置いて逃げるのは、良いと思っていないみたいです。」
「光の公子としての立場を考えたら、甘ったれてるな。だけど、俺はそういう正義感の強いヤツは嫌いじゃない。」
ヨハルヴァの正直な言葉に、マナはクスリと笑みを浮かべた。
山を少しずつ登るたびに、2人は後ろから付いてくる者を気に掛ける。
「付いて来れるか、ルティアナ。」
「は、はい………すみません………。」
大きな荷物を背負ってヨハルヴァ達に追従していたのは、ソファラ城の地下牢で世話係をしていたルティアナであった。
あの一連の事件の後、ロプト教団に襲われた事がトラウマになってしまった彼女は、ソファラの地にいられなくなってしまったのだ。
だからと言って、何が起こっているか分からないイザーク城に戻るヨハンに付いていくわけにも行かない。
そこで、同じく自分を助けてくれたヨハルヴァやマナに付いていく事にしたのだ。
「まあ、元々はイザークの民だから、その隠れ里も受け入れてくれるだろうよ。」
「伝書鳩で情報は送りましたから、大丈夫ですよ。」
「そうだと………いいんですけれど………。」
トラウマも有り、完全に縮こまってしまうルティアナ。
こればかりは、時が解決するのを待つしか無いだろう。
とりあえず、周りに山賊などがいないか確認をしながら、3人は山を登っていく。
やがて、ヨハルヴァは動きを止めた。
「ヨハルヴァ様………?」
「入口はこの近くか?木の上から弓で狙っているヤツがいる。」
「!?」
ビクッと震えるルティアナの前に立つようにしながら、ヨハルヴァは前方上方を見据える。
マナは溜息と共に、気にせず前に進むと、声を上げた。
「ディムナ兄さん!警戒しなくても大丈夫よ!」
珍しくマナの砕けた声が聞こえた途端、前方の木から緑の服を着た男が降りてくる。
『はがねのゆみ』と矢を構えていたが、こちらはヨハルヴァと違って本職なのだろう。
優しそうな顔と裏腹に、隙が無さそうであった。
「堅苦しい言葉は苦手だから単刀直入に言う。ドズル家三男ヨハルヴァ………次男ヨハンと共にセリス率いる解放軍と同盟を結びたい!」
ディムナと呼ばれた青年は、しばらくの間ヨハルヴァに矢を向けていたが、彼が武器を取り出さないのを確認すると、ニコリと笑って武器を降ろす。
そして、笑みを見せた。
「改めて、僕はディムナ。妹がヤンチャしたみたいで迷惑をかけたね。」
「いきなり矢を向けて来た兄貴の言う事じゃないけどな………武器は預けた方がいいか?」
「構わないよ。ティルナノグには、僕より凄腕が沢山いるから。」
謙遜だ………とヨハルヴァは思った。
少なくともこのディムナという男は、特別な力は持っていないものの、間違いなく名人と言える腕前を持っている。
それに、ヨハルヴァはディムナが弓を構える時に、少し足を開いているのが気になった。
「まさかとは思うが………元々騎馬兵か?」
「よく分かったね………僕はアーチナイト。馬はトンネルをくぐれないから連れてきていないけれど。」
これは、騎馬兵であるヨハンの癖を見ていたから直感で分かっただけだ。
歩兵とはどうしても、違う部分が発生してしまう。
「後、後ろのルティアナっていう娘はイザークの民だから、可能な範囲でいいから怖がらせないでくれ。これでも色々あったんだ。」
「了解。じゃあ、ティルナノグに行こうか。」
ディムナはそう言うと、近くの岩を覆っている蔦を持ちあげる。
そこには、例のトンネルが隠されていた。
「たいまつが無いと暗くて危ないな………。通るのも命懸けじゃねえのか?」
「炎の魔導書や杖の光も頼りになるから、意外と困らないよ。ところで、そのルティアナって子………震えているけど、大丈夫?」
「い、いえ………気にしないで下さい。」
恐らく襲われた地下牢のような薄暗さであるのが、トラウマを蘇らせているのだろう。
脂汗を流すルティアナの元に、マナが回り込み杖で照らす。
こうして、ディムナを先頭に、ヨハルヴァ、ルティアナ、マナと続いて行った。
――――――――――――――――――――
トンネルは長く続いているので、足下に気を付けながら歩いていく事になる。
時々休憩をしながら、1~2日くらいかけて山をくぐるのだ。
「隠れ里に着く前に、水浴びしないとな。」
「ちゃんと泉があるから大丈夫だよ。」
周囲の時間を確かめながら、トンネルの広い場所で仮眠を取る。
元々鍛えていないルティアナは精神的疲労も有り、マナに支えられる形で壁にもたれて2人で眠っていた。
その間に、ヨハルヴァはディムナと話をする機会に恵まれた。
「その弓の技術は………誰に教わったんだ?」
「オイフェ様だよ。………マナからは、どれだけ聞いてるんだい?」
「割と色々とだな………。」
昔、イザークの城下町で帝国兵に襲われて、トラウマを背負った事。
杖の扱い、魔道拳、暗器などの戦闘技術に長けている事。
意図しない形で仲間を傷つけてしまう事で、酷く自己嫌悪に陥ってしまう事。
それらの話を聞いていたディムナは、割と驚いたような顔をして、そして笑った。
「マナは、意外とヨハルヴァになついているのかもね。」
「それ………兄貴として………というか、ドズルを憎むイザークの民としてどうなんだ?」
「認める事は認めないと、先には進めないよ。オイフェ様はそう教えてくれた。」
マナと違って、ディムナは砕けた言葉でヨハルヴァと接している。
別に彼は気にしてはいないが、ドズルの民に頭を垂れる気などさらさらないと言っているようなものだ。
今までやって来た事を考えれば当然だが、その中でもディムナは、ヨハルヴァやヨハンが子供狩りをしなかった事実を認めてくれている。
正直、それは有り難かった。
只………。
「俺と兄貴は………他にも、イザークの民に許されない事をしている。」
「それは、今話せる事かい?」
ヨハルヴァは首を横に振る。
子供の頃に残る苦い記憶。
彼とヨハンが犯した『罪』を思い起こす度に、悪夢に晒される。
だが、受け入れなければならない確かな事実。
「一番に話さないといけない人物がいるんだよ。ディムナ………答えられる範囲で教えてくれ。アイラ様と………レックスおじさんの子供は何人いるんだ?」
「スカサハ様とラクチェ様がいるね。………その2人に関係しているのかい?」
「ああ………イザーク城の様子を見に行った兄貴の分も、しっかり伝えないとな。」
ヨハルヴァの表現は曖昧であったが、ディムナはそれ以上何も言わなかった。
しっかりと語るという彼の顔に、偽りが無いと感じたからだろう。
こうして4人はトンネル進み、やがて出口に到着する。
森の中に出た時、正面に泉が見えた。
「綺麗だな………。」
「ヨハルヴァって、美意識があるんですね。」
「………まだ出会って数日だが………何か妙に容赦が無くなってないか?」
「気のせいです。」
そんなやり取りがヨハルヴァとマナで繰り広げられながらも、4人は男女交代で水浴びをし、身体を清潔にする。
更に、山間を西に進む事半日………彼らは急に開けた空間に出る。
緑の木々に囲まれた、美しい空間。
人々の営みが………確かに広がっていた。
「ここが………隠れ里なのか?」
「ようこそ、ティルナノグへ。歓迎するよ、ヨハルヴァ。」
その入口に、護衛付きであったが、1人の青い髪の青年が立っている。
見間違うはずもない………彼こそが、逆賊シグルドの息子であり、光の公子セリスであったのだ。
遂に踏み入った解放軍のアジト。
ヨハルヴァとマナの物語は、ここから更に加速する。
『マナ』という言葉は、『力』と日本語訳をする事が可能です。
今回のタイトルの大元でもあり、
マナという少女を見るうえでも欠かせないワードにもなります。
力を律する事が出来なければ、過ちを犯してしまう。
それは、マナだけに言える話では無いでしょうね。
ここでヨハンが離脱し、ディムナが加入する事になりました。
オリキャラであるルティアナも、付いてきていますね。
そして、アイラの夫がレックスである事も判明。
何やらヨハルヴァは後ろめたい物を感じているらしいですが…?