地下牢での戦いで気絶していたヨハルヴァは悪夢を見てしまい、荒い息を吐きながら自室で目覚める。
傷はマナが癒してくれていたが、彼女は酷く落ち込んでいた。
マナは自身の凄惨な過去の続きを語りながらも、地下牢で感情を制御できなかった事を、ヨハルヴァに詫びる。
それに対しヨハルヴァは、軽くデコピンをする事でおあいこだと言い、マナに腹を括ったからセリスと同盟を結びたいと告げた。
ところが兄のヨハンは、自身も暗殺対象になった事でイザーク城が心配になった為、ヨハルヴァに交渉を一任して、一旦別れる事になる。
セリスのいる隠れ里………ティルナノグには、地下牢で襲われていたルティアナも付いてくる事になった。
鉱山跡のトンネルを抜ける為、山を登ったヨハルヴァ達は、途中マナの兄ディムナと出会う。
彼に付いてトンネルを抜け、隠れ里へと到着したヨハルヴァは、その入口でセリスと対面するのであった。
「あんたが………光の公子セリス。」
「うん、そう呼ばれているね。」
ヨハルヴァの見たセリスの第一印象を、正直に答えれば童顔だ。
確か年齢は19歳で、兄のヨハンと同じ。
ヨハルヴァは、実は17歳なので彼の方が年上のはずだが、とてもそうは見えなかった。
それよりも、恐ろしいと感じたのは、敵対心が全くない所だ。
勿論、事前に伝書鳩で情報を送ったのもあるが、仮にも相手がドズルの男なのだから、もっと周りの護衛のように身構えるものだろう。
しかし、よくよく見たら、セリスは護身の剣も腰に差していない。
「どうしたの?かしこまった方が良かったかな?」
「いや、対応はそれでいいが………その、何で武器を持ってないんだ?」
「同盟を結ぶ相手の前で、武器を持つわけにはいかないよ。」
「……………。」
思わずヨハルヴァは、後ろのマナやディムナを見た。
2人共苦笑しており、内心では勘弁してほしいと思っている。
実際、丸腰で何かあったら、取り返しがつかないだろう。
只、相手がその態度であるのならば………。
「マナ、武器預ける。」
「重いから嫌です。」
「セリスが丸腰なのに、武器を持ってたら俺がアホだろ?それに、里の奴等が怖がるから、持っていてくれ。」
「仕方ないですね。」
渋々マナはヨハルヴァの鋼の斧などを預かる。
これで、一応は対等条件になった事で、ヨハルヴァは問う。
「んで………どこで話をすればいい?」
「私の家に行こうか。」
「来客を招く感覚でいいのか………?」
護衛の面々もやれやれという感じなので、正直同情してしまう。
只、セリスなりの礼節なのだろうという事で、ヨハルヴァは彼に付いていく事になった。
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当然ながら、隠れ里の面々はヨハルヴァを警戒する。
彼が近くを通るたびに怯え、震え、或いは睨みつけて来た。
そういう目はソファラの地で慣れている為、ヨハルヴァは気にしないが、ルティアナがかなり震えてしまっている。
マナが気遣ってくれてはいるが、正直居心地は良く無かった。
「悪ぃ、ルティアナ………もう少し考えるべきだった。」
「そ、そんな………ヨハルヴァ様が謝る事では………。」
「もう城仕えじゃないから、様付けしなくていい。」
「で、ですが………。」
そんな会話で彼女の気を紛らわせている内に、木で出来たセリスの家へと着く。
正直、他の家よりは大きめだが、それでも王族の暮らすような家では無かった。
ヨハルヴァの視線が分かったのか、セリスが聞いてくる。
「幻滅したかい?」
「いや………悪趣味なオヤジの部屋に比べれば、百倍マシだ。」
「………ウソは苦手みたいだね。」
「ああ………兄貴からは統治者に向いてねえって散々言われてる。」
隠し事などは、ヨハルヴァにとっては大の苦手だ。
だから基本、彼は包み隠さずに正直に告げる。
自分でも割とバカだと分かってはいるが、それがヨハルヴァの本質であった。
そうして、セリスの家の中に入ると、中には本棚が複数あった。
恐らく、指南書や武術所、帝王学などを学ぶための物だろう。
中には誰もいなかったので、ここに来て気付く。
真っ先にセリスを守るために、強烈な威圧感を発揮しそうな人物達の存在がいない事に。
「シャナン様やオイフェ殿はどうしたんだ?」
「シャナンは神剣『バルムンク』を求めて南西のイード砂漠に出かけているし、オイフェはレスターとデルムッドと一緒に周辺諸国に協力を求めに行っている。」
「待て待て待て!?」
割と衝撃的な発言を受け、用意された椅子に座ろうとしたヨハルヴァは、思わず転びかけてしまう。
解放軍の中枢とも言える2人の人物が同時にいなくなってしまっているのだ。
これは、色々とヤバイのでは無いのか?
それに、その発言が確かであるのならば………。
「じゃあ、何だ!?俺と兄貴との同盟は、お前の独断か!?」
「そうだよ。………状況が状況だから、急ぐ必要があると思ったんだ。」
少し柔和な側面をひそめ、真剣に語るセリスの言葉に、ヨハルヴァはハッとする。
解放軍のアジトの噂はイザーク中に広がっており、いつティルナノグが知れ渡ってもおかしくない。
そうなる前にセリスにしても、このイザークの地で少しでも協力できる者を集いたいのだ。
だからこそ、プリーストとして比較的目立たないマナが、ソファラの闘技場に行く事になったのだろうが………。
「滅茶苦茶なギャンブルだな………まあ、こうなっちまったら仕方ねえ。俺達は何をすればいい?」
「私達が決起した際に、イザークの民を解放して欲しいのと、統治している領土を通過する許可が欲しいかな。」
「ん?それだけでいいのか?解放軍に参加して、オヤジの頭をカチ割る事はしなくていいのか?」
ヨハルヴァの言葉に、今度はセリス達が固まった。
何かマズイ事でも言ったのか?………と、彼は考え込んだが、すぐにセリスが理由を教えてくれる。
「ヨハルヴァは………実の父親を殺せるのかい?」
「ああ、そういう事か………。」
そう言われ納得する。
セリスを始め、解放軍にいる中核を担う者の多くは、17年前の悲劇で親を失った。
そうした者達からしてみたら、その親が生きているのに、平然と命を奪おうとする発言が納得できなかったのだ。
しかし………。
「今更………俺も兄貴も、肉親の命を奪う事に抵抗はねえよ。」
「ヨハルヴァ………?」
いつになく暗い表情をするヨハルヴァに、マナが首を傾げる。
しかし、彼は改まって立ち上がると、周囲の護衛達を見て告げた。
「この中に………アイラ様とレックスおじさんの子供はいるか?」
思わぬ2人の名前が出た事で、セリス達の視線が2人の黒髪の剣士の兄妹に集まる。
1人は、控えめながらも勇敢そうな少年。
1人は、勝気ながらも美しそうな少女。
恐らく、ディムナが言っていたスカサハとラクチェであろう。
驚いた顔をしているが、特にラクチェの方は美形で、確かに惚れてしまいそうだった。
只、変態兄貴みたいに場の空気を乱すわけにはいかないので、それは黙っておきながら、2人の方を向いて頭を垂れる。
「俺と兄貴は………イザークの領土の支配以外にも、罪を犯した。」
「どういう事………?」
ラクチェが問う中、ヨハルヴァは少し言葉に詰まる。
苦い記憶で、正直トラウマにもなっていたが………意を決すると話し出す。
「今から12年前………あのバーハラでの悲劇から5年後か。アイラ様とレックスおじさんが………オヤジの収めるリボー城の近くで捕らえられたんだ。」
「え………?」
スカサハの言葉に、ヨハルヴァは静かに2人を見つめる。
こうして見ると、本当にアイラ様に似ている。
あの時、雨の中ではあったが、ドズルの兵士達を流星剣でなぎ倒す姿は、末恐ろしくも美しく………しかし、儚かった。
「逃亡生活の中で、手負いだったんだろうな………。アイラ様もレックスおじさんも抵抗してたけど………最終的に捕まっちまって………。」
「殺されたの………?」
ヨハルヴァは首を横に振る。
一瞬、スカサハとラクチェの顔に希望が灯るが、彼の紡いだ言葉は残酷すぎた。
「帝国への忠誠を示す為に………オヤジは俺と兄貴に………トドメを任せたんだ。」
後ろ手を縛られても、睨みつけていた2人は絶望しただろう。
自分に向けて、震えるように斧を構えていたのが、当時5歳と7歳の子供だったのだから。
「忠誠を示す為の踏み絵だった。殺さなければ殺されたし………そもそも、あの年で善悪がどちらにあるかなんて、分からなかった。だから………。」
荒く息を吐きながらも、ヨハルヴァは2人見据えて言う。
「俺達は、あんた達の親の頭を………カチ割った。」
「貴様ああああああッ!!」
心の何処かでは、まだ両親は生きているかもしれない………そう思っていたのだろう。
その望みが完全に消えた事で、ラクチェが怒りに燃えて剣を引き抜き、ヨハルヴァを斬り倒そうとする。
ヨハルヴァは抵抗する気が無かった。
しかし………その剣は寸での所で封じられる。
「!?」
何とラクチェの剣を、割って入ったマナが杖で受け止めたのだ。
唖然とするヨハルヴァとラクチェであったが、マナは涼しい顔で静かに言う。
「セリスの行動を………全て無にするつもりですか?」
「でも………でも………!」
「ラクチェ………流石にそれはいただけないよ。」
スカサハがゆっくりと立ち上がると、悔しそうにするラクチェの肩を押さえる。
そして、彼は俯いてしまったヨハルヴァに問いかけた。
「父さんと母さんは………最期に何て言っていたか、教えてくれないか?」
「……………。」
ヨハルヴァは思わず震える。
その言葉は、一番伝えないといけない事だ。
だが………一番のトラウマを思い出そうとすると、脳が拒絶してしまう。
そんな彼を………マナが後ろから抱きしめた。
「マナ……………。」
「ゆっくりでいいです。ちゃんと、話してくれませんか?」
聖母のように告げるマナの温かさを感じながら、ヨハルヴァは静かに息を整え、もう一度2人見据える。
2人の少年によって、最期の時が迫る中、2人の英雄は………何と微笑んでくれた。
恨まないから………そう言わんばかりに。
「レックスおじさんは、斧を振り上げた兄貴にこう言った。ドズルとイザークを………ユグドラル大陸を頼む………と。」
「………………母様は?あんたが………トドメを指したんでしょ?」
ラクチェの言葉に、ヨハルヴァは当時の事を思い出してしまい、後悔から涙が出た。
それでも、しっかり言葉を紡ぐ。
「アイラ様は………私達の子供達を助けてほしい………と。そして、俺が斧を振り下ろす瞬間、こう伝えてほしいと言った………ずっとずっと愛してるって………。」
ヨハルヴァが大事にしていた言葉を聞いた途端、ラクチェは手で顔を覆い崩れ落ちる。
スカサハはそんな彼女を包み込みながら、何度も頷いていた。
ヨハルヴァやラクチェが立ち直るまで、少し時間を要した。
特にヨハルヴァの方はその場で胡坐をかいて座り込んでしまったが、一番言わなければならない事を伝えられたからか、新たに決意も固まる。
「そういった罪を犯した身だ………。今更親殺しの汚名を着る事に、抵抗はねぇ。兄貴もオヤジに斧を振るう事を躊躇わないだろうよ。」
セリスに対して、眼光鋭く新たに自分達の想いを伝えるヨハルヴァ。
彼は少し複雑な表情をしていたが、今は同志を集う事が大切だと思っていた故に、ヨハルヴァの想いを受け入れる選択肢を取る。
「改めて、宜しく頼むよ………ヨハルヴァ。」
「宜しく頼む、セリス。」
握手を交わして秘密裏に同盟成立。
これで、ソファラの地とイザークの地は、何事も無ければ解放軍が好きに通る事が出来るだろう。
「それで、これから君はどうするんだい?」
「ひと段落したら、ソファラ城に戻ろうと思ってる。当たり前だが、城下町で働いているのはイザークの民だからな。解放軍に合わせて秘密裏に決起できるように準備するさ。」
これでも、父ダナンに反抗的な態度を取っていたのだ。
ヨハルヴァに仕えるドズルの兵士も子供狩りを嫌う者ばかりだし、城下町に情報屋などのパイプは持っている。
こういう所は、口うるさいヨハンの助言に従ったかいがあった。
「後は、ルティアナを隠れ里に保護してくれねぇか?伝書鳩で大体の事は把握してると思うが………。」
「うん、そこは大丈夫。宜しくね、ルティアナ。」
「は、はい………セリス様、宜しくお願いします。」
「セリスでいいよ。私も色々と習う身だからね………かしこまらないように里の掟にしているんだ。」
そう言えば、さっきマナもセリスの事を初めて呼び捨てで呼んでいた。
ここら辺は、セリスも強情なのだろうと感じてしまう。
「色々とあるんだな………ん?」
ヨハルヴァは窓の外に、鳩の姿を察知する。
特徴的なのは、やたら輝く金の輪を足に付けている所か。
「あのオヤジに似て悪趣味な装飾を付けてるのは、ヨハン兄貴のか?」
「ヨハンって、あの斧騎士でしょ?どんな趣味しているのよ………。」
ラクチェが前に、偶然遭遇してしまった時のことを思い出したのだろう。
思わずゲンナリした声を上げる中、セリスが窓を開き、鳩を中に入れる。
ヨハルヴァはその鳩の輪を外し、中に挟まっている紙を広げた。
そして、目を見開き固まった。
「どうしたのですか、ヨハルヴァ?」
「……………。」
マナが紙を覗き込み………同じように固まる。
そこには、礼節を守るヨハンにしては珍しい、殴り書きでこう書かれていた。
『わたしを ころ せ 』
イザーク城へと戻ったヨハンに、何が起こったのか?
ヨハルヴァ達が取るべき行動は………?
遂に聖戦の系譜の後半の主人公である、セリスが登場。
スカサハやラクチェといった主要人物達も登場する中、
ヨハルヴァの口から衝撃的な過去が語られます。
この過去話のヒントは、察した人もいるかもしれませんが、
昔読んだ漫画版の聖戦の系譜の話を参考にしています。
只、自分がダナンなら、皇帝陛下への忠誠を示す為に、
幼いヨハンやヨハルヴァで反逆者にトドメを刺すかなと(外道)。
この話のイメージとしては、代替世代のキャラは物語開始時点では全体的に練度が高く、
子世代のキャラをみっちりと鍛えているような印象です。
マナが杖でラクチェの一撃を防げたのも、そういった部分が大きいからですね。
最後のヨハンの手紙…果たして何が起こったのか?