『力』の少女・マナ   作:擬態人形P

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第6話:生き恥

ティルナノグに着いたヨハルヴァを出迎えたのは、セリスであった。

独特の雰囲気を持つセリスに困惑しながらも、彼の家にヨハルヴァは案内される。

 

交渉が進む中、ヨハルヴァの父親を殺さなくていいのか?………という発言に、怪訝な顔をするセリス達。

彼は今更親殺しに抵抗が無いと言うと、アイラとレックスの子供達………スカサハとラクチェに全ての真実を伝えた。

 

バーハラの悲劇から5年後、リボー城の近くで捕らえられた事。

帝国の忠誠を示す踏み絵として、幼いヨハンとヨハルヴァがトドメを刺した事。

そして………最期の最期まで子供達を愛していた事。

 

最初はヨハルヴァの罪に激昂したラクチェだったが、親からの愛の言葉を聞いて泣き崩れるのであった。

 

壁も乗り越え、セリスと同盟を無事に結んだヨハルヴァであったが、そこにヨハンからの伝書鳩が来る。

しかし、書かれていたのは『私を殺せ』という衝撃的な言葉。

 

ヨハンに何が起こったというのか………?

 

 

 

「それじゃあ、ちょっとひとっ走り行ってくるよ。少し時間が掛かるかもしれないけれど、ちゃんと伝えるから!」

 

伝書鳩を寄こしたヨハンの状態が分からない事もあり、一度イザーク城の様子を見た方がいい。

そう感じたセリスは、2人の騎馬兵を送る事にした。

1人は、元々イザークの城下町出身でもあり、今回の任務に特化しているディムナ。

もう1人は、やたらイケメンのフリーナイトであるトリスタンという名前の男だ。

何でも、親はノディオンで騎士をしていたらしい。

 

「2人いればティルナノグとソファラに、それぞれ情報を送れるだろう。」

「無茶だけはしないでくれよ。最悪、あの変態兄貴は見捨ててくれ。」

 

トリスタンの言葉に、セリスやマナ、ルティアナと隠れ里の入り口に見送りに出ていたヨハルヴァは、念を押す。

兄弟仲は良くないが、あの変態兄貴がそこまで切羽詰まった行動を行うのだから、余程の事が起こったのだろうと解釈できる。

仮に生き恥を晒す真似になるとしたら、ヨハンにとっても不本意であるはずだ。

 

「兄貴がおかしいと感じたら、迷わず殺してやってくれ。」

「心得ておく。………只、もう少し兄を大事にしてやってもいいのでは無いのか?」

「愚弟愚弟って言いまくる変態兄貴だぜ?………それに、これ以上何かの拍子に罪を犯す事を、兄貴は多分望まねえよ。」

「そうか………。」

 

トリスタンは何か言いたげであったが、やがて馬に乗るとセリスに頭を下げる。

一方でディムナもマナと会話をしていた。

 

「マナ、ヨハルヴァを頼むよ!」

「兄さんも気を付けて!」

「ちょっと待て、お前ら俺を何だと思ってるんだ!?」

 

ヨハルヴァのツッコミも気にせず、やがてディムナはトリスタンと共に馬を全力で走らせていく。

帝国兵が捜索をしている中だが、まだ目立たない抜け道は幾つもあるらしい。

ここは、地理に詳しい者達に任せるしか無いだろう。

 

「ヨハン様………大丈夫でしょうか………。」

「ディムナは勿論、あのトリスタンって男も鍛えられている感じだ。上手く立ち回ってくれるさ。」

 

ルティアナの頭をポンポンと叩くヨハルヴァ。

彼女にしてみたら、ソファラ城の地下牢で助けてくれた者の1人だから、心配なのだろう。

とにかく、まずは2人に任せる事になった。

一方でセリスは太陽の動きを見る。

 

「このままだとトンネルに戻る前に陽が沈むね。お兄さんの事が気になると思うけれど、今日はティルナノグで一晩休むといいよ。」

「分かった………。」

 

セリスの気遣いに、ヨハルヴァは従う。

只、ここで気になったので聞いた。

 

「空き家はあるのか?いや………監視付きじゃないと、里の奴らが落ち着かないだろ?何処で眠ればいい?」

「そうだね………マナ、泊めてあげてよ。」

「分かりました、兄さんがいないから、人は入れますし。」

「待て待て………それでいいのか?」

 

幾らマナが護身術に長けているとはいえ、異性の少女の住まう家に野郎を泊めていいのか?………とヨハルヴァは思った。

一方でマナは、そこまで気にした様子も無く、笑顔でこう告げる。

 

「大丈夫ですよ。夜に何も出来なくなるくらいに、こき使いますから。」

「色々とひでえな!?」

 

ヨハルヴァは思わず叫んでしまった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

ティルナノグに戻ったヨハルヴァの監視役は、ある意味では当然かもしれないが、マナが付いた。

とはいえ、一応プリーストである彼女1人だけというわけにはいかないので、剣士が2人更に付く事になる。

それは、スカサハとラクチェと同じく双子の兄妹であった。

1人は、血気盛んだが割と呑気でもあるロドルバン。

もう1人は、男嫌いではあるが綺麗であるラドネイ。

オードの王族の固有技である流星剣こそ使えないものの、現状その王族の2人超える実力を持っているのは、確かであった。

 

「アンタ達もシャナン様の弟子なのか?」

「そうよ。アンタが下手な事したら、首を斬り裂く事は出来るから。」

「はは………物騒だな。そしたら、マナがキレるぞ?」

「どうして、私の名前が出てくるのでしょうか?」

 

本当に物騒な会話を4人で繰り広げる中、その後ろから1人とぼとぼと歩く人物が。

ここに移住する事になったルティアナが、まだ馴染めないでいたのだ。

 

「大丈夫ですか、ルティアナ?」

「は、はい………大丈夫です………。皆さん、仲が良くていいですね………。」

「何処をどう見れば、そんな結論に至るんだ!?」

 

ヨハルヴァが思わずツッコミを入れるが、ルティアナは震えていた。

怖がらせてしまったか?………と思わず、ヨハルヴァは身構えてしまうが、ルティアナはか細い声を絞り出して言う。

 

「私………このままでいいのでしょうか………。」

「え……………?」

「思い出すんです………地下牢で、襲われた時のことを………。怖くて………怖くて………。」

 

ルティアナの傷は一生癒される事は無いだろう。

しかし、それを15歳の時からずっとトラウマとして抱えるには残酷すぎる。

少し皆で考え込んでしまうが、やがてラドネイが、静かにルティアナの傍に近寄り、声をかけた。

 

「要するに………貴女はケダモノを追い払う力が欲しいのね。」

「え………?」

「もう二度と繰り返すのがイヤなら、力を付けるしかないわよ。」

「でも………どうやって身に付ければ………。」

 

只の市民であるルティアナの手をラドネイが引くと、ヨハルヴァに向き直る。

 

「折角だし、アンタも案内しようか。多分、受け入れてくれるだろうし。」

 

ラドネイの言葉の意味が分からなかったヨハルヴァは、黙ってついていく事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

ティルナノグの奥地の方には、セリスの家よりも大きな建物があった。

修道院………そう言えるような雰囲気の場所では、親を失ったイザークの子供達が遊んでいる。

子供達はヨハルヴァを見て怯えるものの、中心にいた金髪の女性があやす事で落ち着かせていく。

疲れからなのか老け込んでいたが、その女性は凛とした瞳を持っているのがヨハルヴァには分かった。

 

「アンタは………。」

「よく来てくれました。私の名前はエーディン。昔はユングヴィの公女でしたが、今はお世話になっているティルナノグで、修道院を借りて孤児院を開いています。」

「エーディン………いや、エーディン殿って………バーハラの悲劇を生き残っていたのか。」

 

シグルド軍を全滅させたバーハラの悲劇。

その悲劇から、逃れられた者がいる。

この事実は、解放軍を活気づかせるだろうとヨハルヴァは感じ取った。

だが………。

 

「残念ながら、私はもう戦えません。これでも身体に深い火傷の跡があるのです。それでも、こうして子供達のお世話をする事は出来るので、役に立つように努めています。」

「そうか………。」

 

確かに、よくよく見れば、首周りなど服から覗く肌には火傷の跡があった。

そして、彼女は悲しそうに更に呟く。

 

「それに………戦場に出たら、私は神に仕える身でありながら、狂気に支配されるでしょう。」

「狂気って………何があったんだ?」

「愛する夫を………ミデュールを、目の前で失いました。」

 

エーディンが語るには、忠臣であるミデュールと恋に落ち、子供にも恵まれたらしい。

だが、彼は最期までエーディンを守るために囮になって戦い、そして目の前で散っていったという。

 

「茂みに隠れていた私も自暴自棄になって飛び出しそうになり、『彼』に止められました。その後、こうして彼と共に生き恥を晒しています。」

「彼って………誰だ?」

 

エーディンは無言でラドネイを見つめる。

頷いたラドネイは、子供達を彼女から預かった。

エーディンはゆっくりとした足取りではあったが、隣接するように立っている小屋へと皆を案内する。

 

「ここには………私の『現夫』が、今は娘のラナと共にお仕事をしています。」

 

扉を開けると、そこにはモフモフな髪を持つ少女に手伝われながら、屈強な男が作業をしていた。

顔は正直、美形では無い………というか、ぶっちゃけ強面だ。

それでいて眉が細く、正直アンバランスである。

 

男は金槌を握っており、炎の熱がこもる『鍛冶場』で武器を錬成していた。

そんな男に、エーディンが声をかける。

 

「アーダン。お客様です。」

「おう、アンタが噂のヨハルヴァか?屈強な体だな!」

「アーダン………アーダン殿って………。」

「知ってるのは有り難いな。………そうさ、俺が元シアルフィの重騎士………今は鍛冶屋の真似事をして、こうして生き恥を晒しているアーダンだ。」

 

アーダンはそう言うと、強面の顔を苦笑させながらも、ヨハルヴァを迎えた。

そして、色々と出来た武器を運んでいた少女も挨拶をする。

 

「ラナです。ヨハルヴァ、宜しくお願いしますね。」

「アンタはマナと同じく丁寧口調なんだな。」

「プリーストですから。」

 

その割には、かなり重い鋼の武器を腕で掴み運んでいる………と思ったが、同じ職種のマナがハチャメチャである為、今更ツッコみを入れる気になれなかった。

とにかく、アーダンがエーディンの『現夫』と呼んでいる人物ではあるらしいが………。

 

「何でこうなったか、経緯が分からないって感じの顔してんな。」

「ええっと………失礼なのは承知で、流石に分かんなくて。」

 

アーダンは少し溜息を付くと、エーディンを見る。

話していいのか?………という確認であった。

エーディンは頷くと、アーダンは語り出す。

 

 

 

アーダンがバーハラから逃げられたのは、様々な奇跡が重なったからだ。

まず、進軍が遅い故に部隊の後方………出口付近にいた。

次に、襲い来るグランベル軍の遠距離炎魔法『メティオ』の破片で、纏っていた鎧が取れて身軽になれた。

更に一度外に出てしまえば、『重騎士』という情報で知れ渡っているアーダンは、平民に紛れやすかった。

 

「そんな中、エーディンを連れたミデュールとある日再会した。だけど、その時は2人共ボロボロで追手は迫っていて、俺は鎧が無くて………。」

 

状況を理解したミデュールは、愛馬と共に最期の賭けに出た。

愛するエーディンをアーダンに託すと、自分はがむしゃらに抵抗して果てたのだ。

その時のエーディンの取り乱し方がどうだったのかは、言うまでもない。

口を塞ぎ彼女が早まるのを防ぐのが、やっとであったのだ。

 

「託された以上は、責任を持って子供達の所まで連れて行くしかねえ。2人旅で隠れながら、この隠れ里を目指したのさ。」

 

だが、当時のエーディンは精神不安定で、何度もミデュールの後追いをしようとしてしまったのだ。

時になだめ、時に叱咤する事で、アーダンは彼女が生き続けるように手を尽くした。

 

「ティルナノグに着いて、子供達と再会して………こうして孤児院を経営するようになって、ようやく安定した。だから、俺達の夫婦っていうのは形式だけの仮初の関係だよ。」

 

一応、ラナ達も含め同じ屋根の下で暮らしているが、エーディンは今もミディールを愛している。

只、擬似的なものでも家族愛を感じさせる事で、彼女に温もりを与えているのだ。

 

 

「アーダン殿………アンタ、いい人だな。」

「ミディールとは勝利の美酒を飲みあった事もあるんだ。主君を守れなかった男なのに………男が男の約束を守れなかったらダメ過ぎるだろ?」

 

過去話を聞いて正直な感想を述べたヨハルヴァに、アーダンはまた苦笑する。

彼にとっては、生き恥を晒している中で、出来る限り償いをしているだけなのだ。

 

「それに………俺も、もう戦えないんだよ。騎士として果てる事も出来なくなっちまった………。」

 

アーダンの上着はシャツ1枚であったが、ハッキリと分かるくらいの火傷の跡が付いていた。

古傷に悩んでいるのは、エーディンだけでは無いのだ。

哀しそうに告げるアーダンに対し、ヨハルヴァは何とか一言告げる。

 

「で、でも………俺は鍛冶屋の仕事も立派だと思うぜ!俺もソファラ城で真似事をしてるから………その苦労も少しは分かるし。」

「ヨハルヴァ………鍛冶出来るのですか?」

 

この言葉に、マナが目を丸くする。

そういえばまだ話していなかったな………と改まると、彼は静かに告げる。

 

「自分に合う武器を作りたいから、城下町のおやっさんの元でたまに修行をしているんだ。そのおやっさんが情報屋もやっていてな。セリスに決起の準備をすると言ったのも、そういう関係からなんだ。」

「貴方………私の事をプリーストもどきって言っていますが、貴方自身も十分斧使いとしては異端では無いですか………。」

「そ、そうか………?」

 

思わずジト目になるマナ。

だが………ここで苦笑していたロドルバンが、会話に割り込んで来る。

 

「はいはい、痴話喧嘩はそこまで。………エーディン様、アーダン様。今回ここに来たのには、理由があって………ちょっと頼みたい事が有るんです。」

「その嬢ちゃんか?」

 

強面のアーダンに見つめられた事で、ルティアナはビクッと震えるが、ロドルバンが笑みを浮かべながら背中をそっと押す。

大丈夫、怖くないから………と言いながら。

 

「実は、このルティアナって子………15歳ですけれど、自分を守る力が欲しいんですよ。それで、この子の武器適性を判別してほしいんです。」

 

 

ロドルバンの言葉に、驚くヨハルヴァやルティアナ。

これから一体、何が行われるのか………?




トリスタン、ロドルバン、ラドネイ、ラナの登場で、
現状ティルナノグにいる主要メンバーは、あらかた出ました。
不在にしているシャナン、オイフェ、レスター、デルムッドも合わせれば、
結構な戦力なのかもしれませんね。

ここで生き残っていたアーダンの話により、
レスターとラナの父親…エーディンの夫がミデュールだと判明。
聖戦の系譜の話を書くうえで、一番大変なのは、カップリングかもしれませんね。

また、この世界線のヨハルヴァが、鍛冶に精通している事も判明。
理由は次回語りますが、色々と錬成出来るのは強みかもしれません。

さて、現状では力を持たないシビリアンのルティアナですが…、
これからエーディンやアーダンは、何をするのか?
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