謎の手紙を寄こしたヨハンとイザーク城が心配になった為、セリス達は、騎馬兵のディムナとトリスタンを偵察に送る事になる。
ヨハルヴァは、自分の兄がこれ以上罪を重ねる前に最悪楽にしてほしいと言うが、特にトリスタンは何かしら思う所があるのであった。
鉱山のトンネルを抜けてソファラ城に戻るには、時間が掛かる為、一晩ティルナノグに泊まる事になったヨハルヴァ。
彼の監視役には、マナの他、ロドルバンとラドネイが付く事になる。
そんな中、地下牢での傷を引きずるルティアナに対し、力を付けるしかないと言うラドネイ。
彼女達が紹介したのは、孤児院を営む過去の英雄の1人エーディンと、彼女を夫ミデュールから託され現在はラナと共に鍛冶を営むアーダンであった。
彼らの協力の元、ルティアナの武器適性の判別が始まる。
アーダンとエーディンは、横に広い机の上に、それぞれ武器と魔導書を置く。
武器は青銅で出来ている殺傷力の低い物であり、魔導書はファイヤーなどの下級クラスの物だ。
目を丸くするルティアナに対し、アーダンが言う。
「まずは武器からだな。実際に順番に軽く振り回してみろ。」
「わ、分かりました………。」
緊張した面持ちで『せいどうのけん』から順番に手に取るルティアナ。
小柄ではあるが、地下牢で世話係をしていただけあり、意外と力はあった。
軽く剣を素振りし、同じように斧、槍、そして弓を構える。
その様子を、アーダンはジッと見ていた。
「ど………どうでしょうか?」
「………全く悪いわけじゃないが、実戦で使うには今からじゃ時間が足りないかもな。」
「そ、そうですか………。」
元々はジェネラルであっただけに、アーダンは4つの武器に精通していた。
だからこそ、こういう見極めは得意なのだろう。
今更ながら、ヨハルヴァは凄い人だと改めて感じながら、次はエーディンを見る。
「まずは、杖を持って魔力を送ってみて下さい。」
「は、はい………。」
ルティアナは杖を持ち、魔力を送る。
すると、杖が仄かに輝く。
明らかな変化を見たアーダンは、こう告げる。
「プリースト系の才能は割とあるみたいだ。後は、各魔導書がどうなるか………。」
「ルティアナ、手をかざしていってくれませんか?」
エーディンに言われるまま、ルティアナは順番に魔導書に右手をかざす。
すると、ファイヤーの魔導書もまた、仄かに輝き熱を帯びる。
サンダーの魔導書は、電気を帯び光が弾ける。
ウインドの魔導書は、風が舞った。
だが………『ライトニング』………光の魔導書は、何の反応も示さない。
明らかな違いに、ヨハルヴァは納得する。
「ルティアナは攻撃魔法だと、炎と雷、風の素質を持ってるって事か………。」
「もう1つ残っています。」
エーディンが示したのは、黒い魔導書。
ヨツムンガンドの闇の魔導書であった。
「えっと………流石に………。」
恐る恐るルティアナは手をかざすが、驚くべき事が起こる。
何とページが勝手にめくれると、中から小さな怨霊が複数飛び出し、ルティアナの右手の周りを舞ったのだ。
「ひ………!?」
思わず手を引っ込めるルティアナ。
怨霊は魔導書のページに吸い込まれるように消えていき、何事も無かったかのように閉じられた。
震えるルティアナをマナに任せると、ヨハルヴァが念のためヨツムンガンドに手をかざす。
しかし、彼に対しては何の反応も示さなかった。
「エーディン殿………これって、まさか………。」
「はい、ルティアナは………闇魔法と特に相性がいいらしいです。」
「ええ!?」
悲鳴に近い叫びをあげるルティアナ。
それもそうだろう。
彼女を襲った主犯格はダークマージ………暗黒教団の魔導士だ。
そのダークマージの素質があるというのだから、ルティアナにとって抵抗感が芽生えてもおかしくはない。
しかし、そんな怯える彼女に対し、マナは静かに前に出るとライトニングとヨツムンガンドにそれぞれ手をかざした。
すると………ページが勝手にめくれる事は無かったが、ライトニングは光を発し、ヨツムンガンドは小さな亡霊が舞った。
「まさか………マナ………。」
「私は、このまま磨き続ければ、下位の光魔法と闇魔法が使えるらしいです。」
「こ、怖く無いんですか、マナ様!?」
珍しく叫ぶルティアナに対し、マナは首を横に振る。
驚く彼女に対し、マナは目を見据え静かに告げた。
「守る為の力を、選んでいる場合ではありません。むしろ、使える物があるのならば、使わなければ損でしょう。」
自分の身や大切な者達を守る為ならば、闇魔法にも手を出そうというマナの覚悟。
その重さに触れた途端、ルティアナは目を見開いてしまう。
「このティルナノグは、それぞれのやり方で自分達の力を磨く者ばかりです。例えば、セリスやスカサハ、ラクチェは、鍛えるのに手段を選びません。シャナン様やオイフェ様が留守の時は、ロドルバンやラドネイなどに徹底的に鍛えて貰っています。」
貴族だとか平民だとか、そんな拘りをしている場合ではない。
自分達の練度を高め強くなる為ならば、より実力のある者達の手を借りるのだ。
「極めつけはラナ。彼女は私と違って力があります。光と闇の素養は無いですが、将来的に魔道拳の基礎威力は、私よりも高くなるでしょう。」
「あのハチャメチャ格闘術に弟子がいるのかよ!?」
思わずヨハルヴァがツッコんでしまうが、マナは平然と頷きラナを見る。
ラナは腕捲りをして力こぶを作ると、近くの鋼の斧を持ち、頭上で振り回す。
「私は斧の才能も有るらしいです。お義父様………アーダン様に見て貰う事もあるんです。」
「もっと、実戦的な斧使いがいるといいんだけどな。ヨハルヴァ、この後少し見てやってくれねえか?」
「それはいいけど………本当に手段を選んでないな………。」
一見呆れているように思えるヨハルヴァであったが、内心ではかなり感心していた。
逆に言えば、そのような技を磨かなければ、生き残れないと散々言われたのだろう。
マナだけを見ても、杖での急所狙いの撲殺術や、隠しナイフによる暗殺術など、手段を選んでいない部分が垣間見える。
恐らく、辛酸を味わったアーダン達が、考え抜いたのだろう。
その想いはルティアナも感じたらしい。
ずっと俯いていたが、やがて顔を上げる。
「や、闇魔法でも………力になるなら………私………!」
「流石に講師がいないから、独学に頼る部分が多くなるでしょう。それでも、私達も可能な限り手ほどきをします。」
「お願いします!」
深々と頭を下げるルティアナを見て、ヨハルヴァは彼女が次のステップに進められと感じ、少しホッとした。
ルティアナがエーディンを講師にして、闇魔法の基礎練習に励む中、ヨハルヴァはラナの講師をする前に、彼女の扱う斧を確認していた。
一般的に鉄の斧や鋼の斧などは、ヨハルヴァのようなガタイの良い男に合わせて作られている。
ラナに力があったとしても、体格の問題があるので、ヨハルヴァは少し小さめの斧を選択した方が扱いやすいかもしれない………とアドバイスを送ったのだ。
「本職の斧使いの言う事は違うな………でも、そんなサイズの斧は中々無いんじゃないの?」
「無ければ作ればいい。その為の鍛冶だ。」
割と呑気にロドルバンが言う中、ヨハルヴァはマナにお願いし、ラナの腕の長さや身長を測って貰っていた。
そして、的確なサイズをアーダンと相談して、ハンマーで鉄を叩きながら作り上げていく。
柄の部分が長いと、遠心力を活かして叩き割るうえでは便利だろう。
思い切って長くすれば、『ポールアクス』のような形状になり、騎馬兵相手に戦いやすくなる。
だが、ラナの本職は杖でのサポートを行うプリースト。
あくまで護身のための装備で、更に接近されたら魔道拳が使える事も合わせれば、なるべく柄は短めで軽めの方が良いとヨハルヴァ達は感じた。
やがて、ロドルバンも交え、3人の男達は、熱のこもる鍛冶場で、鉄を真っ赤にしてハンマーで叩き、軽量の両刃の斧を作る。
「とりあえずは、このくらいから合わせ始めるといいだろうよ。後は、自分の戦闘スタイルに合わせて、アーダン殿に調整して貰えばいい。」
「ありがとうございます。ちょっと、外で振ってみますね!」
ラナはそう言うと、鍛冶場の外に出て、斧を上下左右に振り回してみる。
最初に振り回した時から薄々感じていたが、確かに才能はあるように感じた。
「しかし、斧を振るうプリーストって何て言うんだろうな?」
「『バトルシスター』でいいんじゃね?まあ………本音を言えば魔力を活かせる武器だと楽なんだけどな………。」
「オイフェ様達も言っていたけど、そんな変わった武器もあるのか………。」
ロドルバンの疑問に答えながら、ヨハルヴァは考える。
通称で言うと『魔法剣』と呼ばれるような武器が、ラナには似合っていると思えた。
例えば『ひかりのけん』や『だいちのけん』といった武器には、不思議な魔力が秘められている。
それらの魔力を帯びた武器が、斧にもあるのならば、それはラナにとって最適な武器になるだろう。
「無ければ作るしかねえんだけどな………。」
「そういえば、気になったけど………どうして鍛冶をする気になったんだ?言ったらなんだけど、斧なんて幾らでも貰えるだろ?」
「………あのオヤジの貰い物に頼りたく無かったんだよ。」
苦虫を潰したように言うヨハルヴァの言葉に、ロドルバンは成程………と言う。
酒池肉林をするダナンの貰い物でなく、自分で作った武器に頼ろうというのは、ヨハルヴァなりの反抗であったのだ。
お陰で、色々と知らなかった事を学べたから、結果としては良かったが。
「少し、ヨハルヴァに対する認識を改めないといけませんね………。」
「お前は………というか、ティルナノグの奴らは、俺の事を何だと思ってたんだ?」
「粗暴な末っ子。」
「否定はしないけど、ひでえな!?」
マナの率直な意見にヨハルヴァは溜息を付くが、ついさっきまで敵として把握していた者に対する認識は、そんなものだろう。
やがて、斧の使い心地を確かめたラナが、ヨハルヴァを呼ぶ。
その後も、ラナの訓練と武器の調整に彼は付き合う事になる。
結局ヨハルヴァは、夕方遅くに本当に疲れ切るまで、色々とこき使われる事になった。
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「で………疲れ切った所に、今度はお前が依頼かよ。容赦ねえな。」
「これに関しては謝ります。ですが………ヨハルヴァの実力を見直したので、お願いしたくなったのです。」
夕刻が過ぎ、暗くなる頃、鍛冶場の赤い光はまだ残っていた。
マナが、ヨハルヴァを家に案内する前に、自分の武器の錬成を願ったのだ。
ちなみにアーダンは、夕食などの為に、エーディンの家に1回帰宅している。
「というか、お前の武器って、そのスカートの中に隠し持っているナイフか?」
「はい。」
ヨハルヴァの問いに、マナは遠慮なくスカートを捲り上げ、下着から二振りのナイフを取り出す。
色々と目のやり場に困ると彼は思ったが、マナは冷静にヨハルヴァに刃物を見せてくる。
「もう少し改良は可能でしょうか?」
「まだ色々と用途を考えてるんだな………だったら、もっと刃の平の部分を薄くするか?」
「それだと………折れやすくなりませんか?」
「ラナにも通じるけど、護身用で魔道拳もあるなら、最低限の戦闘力が発揮できればいいんじゃねえのか?」
ヨハルヴァが説明を行う。
まず、刃を薄くする事で鋭さが増す上に、面積の関係で下着の中に計4本仕舞えるようになる。
加えて、2本は鋭さを増す事で、緊急時の投擲武器に出来る。
「残り2本は………?」
「ノコギリのようなギザギザの刃にする事で、殺傷力を上げる。」
元々マナは、不意打ちで喉元に斬りつけるような戦闘スタイルなのだ。
だったら、より斬り裂く力に特化させた方がいいと、ヨハルヴァは考えた。
「2本ずつ用途を変える事で、対応力も上がる。その分、咄嗟の判断能力も必要になるけどよ………。」
「……………。」
「何だ?俺の顔に何か………。」
「いえ………本当にヨハルヴァを見直しただけです。」
褒めているのか?………とヨハルヴァは溜息をまたついてしまうが、マナは頭を下げる。
そして彼女は、彼に笑顔で言った。
「ヨハルヴァが、味方になってくれて良かった。」
「……………。」
多分、純粋な言葉であったのだろう。
只、何故かヨハルヴァは温かさを感じた。
炉の火に照らされるマナの笑顔は、何故だか眩しくて………よく分からないけれど、何か照れてしまったのだ。
「………ヨハルヴァ?」
「さっさと作るぞ。ナイフは慎重に仕上げないとといけないからな。」
「宜しくお願いしますね!」
嬉しそうに微笑むマナに、普通にしていれば只の少女なのにな………と彼は思ってしまう。
鍛冶は結局深夜まで続き………くたくたになった彼は、マナの家に案内された後は、本当にほとんど何も出来ないまま眠ってしまった。
こうして、ティルナノグの空気を味わった彼は、翌日セリス達に見送られて再びトンネルを1~2日掛けて通過してソファラ城へと戻る事になる。
「今回は、俺も協力する事になった。宜しくな!」
「おう、決起に向けた準備は任せるぜ。」
一緒に向かう事になったのは、やはりマナと、更にロドルバンがいた。
ソファラ城へと戻った3人を待ち受けているのは?
『聖戦』の幕開けも、迫っていた。
『せいどう』…青銅シリーズは、暁の女神で登場した、必殺を出さない武器。
鉄よりも弱いので、相手を弱らせるのに最適です。
そのような練習用…とも言える武器も試す中、
元ジェネラルのアーダンと、元ハイプリーストのエーディンによって、
ルティアナの武器適性が試される事になりました。
結果的に彼女はダークマージの才能があるという事になりましたが、
密かにマナも光と闇の素養がある事が示されました。
…といっても、使えたとしても精々Cランクの魔導書ですね。
『ライトニング』と『ヨツムンガンド』が精一杯かと思われます。
また、ラナもかなりプリーストとしては異端というのが明らかになり…、
もうヨハルヴァが言っちゃってますが、覚醒の『バトルシスター』解禁です。
本職の斧使いによって、専用武器も作って貰い、ラナも準備万端でしょうね。
ロドルバンもソファラ城に同行する事になり、
いよいよ決起に向けた準備が行われます。
次回…物語の都合上、ちょっとオリキャラが増えます。
申し訳ありませんが、ご了承下さい。