使い続けると死ぬシステムを使って戦う女の子達の戦う理由を消しちゃったチート転生者の話 作:POTROT
ヴァルハラとかいう大層な名前の付いているらしいこの建物の内部は、存外に快適に作られているようだった。
俺が今現在軟禁されている部屋はエアコン完備で、空気清浄機に、死ぬほどオプションの付いた照明もあり、大体のサブスク契約済みのテレビまで置いてあった。
この待遇は至れり尽くせり……というよりは、この場所に誰かを閉じ込めておくことなど全く想定していなかったので、ホテルのスイートルームも斯くや、といったこの部屋が俺に割り当てられた、と言ったところだろう。
アニメやら動画やらが見放題なので退屈しないのは実に有り難かった。
俺がここに閉じ込められてから丸一日もまだ経っていないが、これが無ければ、俺は退屈のあまりここから抜け出していたかも知れない。
……勿論、冗談だ。流石にそうすると、今世の俺の周りの人間が色々シャレにならない事になりそうだしな。
チート持ちの俺は問題ないが、家族とか友人とかはそうではないのだ。
目を付けられるのは、俺だけでなくては。
と、そんな事を考えていると、ノックの後に俺の返答を待たず扉が開いた。
入って来たのは、ここのトップらしい美人さんだった。
年齢は……分からない。というか多分、分からない方が良い。
しかし何やら、随分と、つかれている様子だ。覇気がない、というか。
「今から話を聞かせてもらう。出ろ」
「わかった」
そう言って俺が部屋を出ると、俺の後ろに同年代くらいの女の子が二人、付いた。
リアルになってはいるが、見たことのある顔だ。
具体的には、映画のポスターとかで。
彼女たちは、いわゆる主人公組のメンバーというヤツなのだろう。
だからと言って、原作を知らない俺からしたら、何か思う事があるというわけでも無いが。
「ここだ」
沈黙の中、歩き続けること数十秒。
通されたのは、
が、中はとてもではないが会議などできそうになかった。
衝立で完璧に仕切られ、椅子と机が置いてあるだけの、小部屋に作り替えられている。
「……急拵えって感じだな、見るからに」
「拵えてもらった、と考えて欲しいものだ。そちらへ座ってくれ」
示された席に座ると、少女二人は俺の背後におっかなびっくり並んだ。
こういったことは初めてなのだろうか。
いや、初めてなのだろう。
今まで相手にしてきたのは、言語の通じない怪物だけだっただろうしな。
「オルガ・フローロヴナ・ロマノワだ。ここの長官をしている。貴殿の名前を伺いたい」
「では、ハルミチだ。偽名だが、そこは納得していただきたい」
「……ほう? それは、立場を弁えての発言かな?」
「当然、あなた方の立場を弁えての発言だとも」
今現在、この組織は、土台を失って傾いている状態だ。
外宇宙的侵略者、ヘルズが居たから成り立っていた組織なのに、ヘルズが消えてしまったのなら、どんな形であれ立ち消えるしかない。
というか、各国がこぞって消しに来るだろう。
V-システム、だったか?
アレに関する資料が手に入るのなら、それこそ強引にでも事を推し進めるはずだ。
それと、V-システムを組み込まれた彼女達も、標的になるだろう。
後ろ盾にすら現状をバラすわけにもいかない。
だからこの組織は、下手な動きが出来ない。
妙なことをすると、バレる恐れがあるから、何も動かせない。
俺がどれだけ妙な真似をしても、何もできない。
俺が何もしなくても、この組織は崩れる。
今はもうそういう段階だ。
だから俺がしてやるのは、崩れ方を調整してやるだけ。
「それで、聞きたいことは? まぁ、大体想像は付くが」
「…………では私はお前の想像通りの質問をする。その上で、お前が用意した答えをノータイムで聞かせてくれることを期待する。……どのようにして、連中を処理した?」
「親玉を狙撃した後、共食いをさせた。以上」
本当にノータイムで返って来た回答に、オルガさんは鼻白む。
「親玉を、狙撃して、共食いを……って?」
「ど、どういうこと、ですか?」
後ろの二人も、困惑している具合だ。
「連中が、まぁ、特殊で微弱な波長を放っていることは知ってると思うが」
「……確かに、そうだ。だが、何処でその情報を?」
「何処も何もない。直接、感じ取った」
「……は?」
「直接、俺が、感じ取って。逆探知して大元の発信源まで辿って、その地点に向けて狙撃した。そんでその後、大本の信号を偽装して、全てを共食いさせた後、残った少数をまた狙撃した。狙撃の方法は……まぁ、秘密って事で」
「…………貴様は、我々を馬鹿にしているのか?」
オルガさんが立ち上がる。
口調こそ静かだが、その目も表情も、憤怒の感情を隠しきれていない。
「馬鹿にしているわけでは無いが」
「いいや、馬鹿にしているとも。嘘を吐くな。そしてはぐらかすな。貴様は一体、何をした?」
「先ほど言ったことが全てだ。特に特別なことはしていない。どれもこれも、俺一人ですべて完結した」
「警告はしたはずだが!?」
ダン、と。机が叩かれる。
まぁ、その反応も頷けるというものだろう。
普通に考えて、そんなことが出来るわけがない。
よくてガキの戯言か、そうでなければ気狂いの妄言か。
平時であれば、そのように切って捨てていただろう。
だが、今は違う。
実際にヘルズ共が消え去って、その影も形も見当たらない。
であるなら、俺の発言にも信憑性が生まれる。生まれてしまう。
もしかしたら本当なのかもしれない、と。そう思えてしまう。
その上で、そんなことがあって欲しくない。
そう考えているのだろう。
だが、俺はチート転生者だ。
「現状が全てだ」
「「「ッ!!」」」
それを言われたら、黙らざるを得ない。
そんな様子だった。
「やれそうだと思って、やったら、出来た。それだけの話なんだよ、俺にとっては。認めたくないだろうけど」
「……荒唐無稽にも程がある……!」
「荒唐無稽なことが起きているんだぞ? 荒唐無稽な方法でそうなっていても不思議じゃない」
「だからと言って……貴様如きがッ! 私たちの、15年を……ッ!」
如き、ねぇ。
……まぁ、言わんとしていることは分かる。
俺には、積み重ねが無いのだ。
地球に飛来した13匹のヘルズを殺して死骸を手に入れ、連中から発される微弱な波長を察知できる機械とV-システムを作った、だとか。
人道に悖る行為を堂々と行うために、各政府に脅しをかけて多額の資金援助と情報の隠蔽を約束させたりだとか。
そういった、目に見える努力の数々が、存在しない。
文字通り死力を尽くした彼女たちの苦労を超えるだけの何かが、見えない。
だから、認めたくない。
そんな彼女の血を吐くような詰問に対して、俺が返す回答は。
「俺は17歳だ。15年より長いな」
ブチン、と。
彼女の中で何かが切れる音が聞こえたような気がした。
彼女が腕を振りかぶり、俺の顔面に向けてその平手を振り抜く。
背後の少女たちが慌てて止めようとするが、しかし間に合わず。
彼女の手は、俺の体の周囲に貼られたバリアに完璧に阻まれた。
否、それはバリアというより、クッションに近いものだ。
柔らかな抵抗を受け、ゆっくりと速度を落とした彼女の平手が、俺の頬の手前で静止した。
その場にいた全員の目が、驚愕に見開かれる。
「……何だ、何なのだ、これは……?」
「超能力、神通力、奇跡。何とでも呼んでくれていい」
「馬鹿な!?」
「馬鹿も何もない。見ての通りだ」
そう、見ての通り。
特に変な効果があるわけでも、面白い何かがあるわけでも無い。
やんわりと手を止めるためだけの何かが、俺と彼女の間にある。
それだけだ。
種も仕掛けも、全く無い。
彼女の顔が色を失う。
似たような力を身近で知っているからこそ、理解できてしまったのだろう。
俺の力が、彼女の知るそれとは全く別の何かである事を。
「さて」
俺の言葉に、彼女の肩が微かに震えた。
「これまで俺のやったことは語った。これで十分だ。その上で、これからの事を語りたい」
「まだ話は───」
「終わったんだよ。貴方が認めないだけで、俺が語ったことが全てだ。そんなことよりも、貴方たちのこれからの事だ。自覚はあるだろ? なぁ?」
論点の転換が雑にも甚だしいが。
しかし、この状況であれば、徹せる。
「今現在、この組織の置かれている状況は非常にマズい。存在意義を失って空中分解不可避どころか、地球の防衛という大義名分の下見過ごしてもらっていた様々な非合法行為が原因になってケツ毛まで毟り取られそう、ってところか。なまじ価値あるものが多すぎるばかりだものな」
後ろの少女達に目を遣る。
それこそ彼女達の身柄なんか、軍事力が欲しい国からすれば垂涎ものだろう。
「ッ……それは、貴様のせいだろうが……! 貴様が妙な真似をしなければこのようなことにはならなかった、違うか!?」
「その通りなんだよ。だから俺が責任持って後処理に来た」
「んなッ……!」
「常識的に考えてもみろ。こうなると分かっていて、わざわざ手間暇かけて報告にだけ来るアホはいない」
俺だって宇宙生物滅ぼしてそれで終わり、とかだったら良かった。
だが後処理しないと変な火種とかになりそうで、後々俺自身の首どころか世界中の人間の首を絞める結果になりそうだったから、後処理のためにここまでやって来たのだ。
「安心してくれよ長官殿。俺が穏便に事を済ませてやる。だから一切を俺に任せてくれればそれでいい」
「だ、黙れ、黙れッ、悪魔め!」
「……悪魔? 酷い言い草だな」
俺は別に、甘言で惑わしたり、魂まで取ったりしないとも。
ただ単に、上手な倒れ方が出来るように導いてやるだけだ。
それよりも───
「俺にしてみれば。むしろ、あのまま戦いが続いていてくれれば良かった、とも取れるような発言を、彼女たちの目の前でしている貴方の方が、よほど悪魔らしいと思うがね」
彼女がハッと息を呑み、揺れる視線が俺の背後に移る。
そうして、力なく椅子に座り込んだ。