お付き合いいただけると嬉しいです
アーミヤがバベルへ来てから、船の中は少しだけ賑やかになった。
俺の生活そのものが大きく変わったわけではない。任務へ出て、戻れば誰かに呼ばれる。時間があればアスカロンの訓練を見る。
最近はそこに、廊下の向こうから俺を見つけて走ってくる小さな影が増えたくらいだ。
そんな日のことだった。
「……邪魔」
後ろから声がした。
「何?」
振り返る。
白い髪に、赤い服。見覚えはある。何度か船の中ですれ違ったこともあった。
確か。
「W?」
「知ってるのね」
「名前くらいは」
「それなら話が早いわ」
Wが俺の肩越しを指差す。
「そこ退いて」
「ここ?」
「そう」
言われた通り一歩横へずれると、Wが小型の撮影機器を構えた。
視線の先を追う。
少し離れたところで、テレジアが何人かの構成員と話していた。
「写真?」
「声大きい」
小声で怒られた。
「撮りたいなら本人に言えばいいだろ」
「それじゃ意味ないのよ」
「何が?」
「自然なところを撮りたいの」
よく分からない。写真なんて、写っていれば同じじゃないのか。
「今いい感じだから、黙ってて」
「分かった」
Wがもう一度構えたので、俺も少し離れる。
その瞬間。
「セラスティア」
呼ばれた。
反射的に振り返ると、テレジアがこっちを見ていた。
「あ」
隣で小さな声がした。
テレジアがこちらへ歩いてくる。
「こんなところにいたのね」
「探してた?」
「少しだけ」
「何かあった?」
「後で一つ確認してほしい書類があるの」
「分かった」
横を見ると、Wが撮影機器を下ろしていた。
すごく嫌そうな顔で俺を見ている。
「……何?」
「別に」
「怒ってる?」
「怒ってないわよ」
明らかに怒っている。
テレジアもWに気づいた。
「あら、W」
「テレジア殿下」
さっきまでとは、少し声が違った。
「二人で何をしていたの?」
「何も」
Wが即答する。
俺も答えようとした。
「Wがテレジアの――」
脇腹に肘が入った。
「痛っ」
「セラスティア?」
「何でもない」
今度は俺が答える。
Wが満足そうに笑った。
何だこいつ。
◇
それから少し経った。
テレジアに頼まれた用事を終えて廊下を歩いていると、また声を掛けられた。
「ねえ」
振り向く。
Wだった。
「また?」
「何よ、その反応」
「さっき殴られたから」
「軽くでしょ」
「殴ったことは否定しないんだな」
Wは気にした様子もなく、俺の横へ並ぶ。
「一つ聞きたいんだけど」
「何?」
「あんた、本当に強いの?」
足が止まる。
「急だな」
「だって」
Wが俺を見る。
「噂だけはよく聞くのよ。テレジア殿下の昔からの護衛で、アスカロンの訓練まで見てる。前線に出れば大抵無傷で戻ってくる」
「誰から聞いたの?」
「その辺」
雑だ。
「あたしが直接見たことあるのは、テレジア殿下の横を歩いてるか、アーミヤに捕まってるところくらいだけど」
「最近はそういう日も多い」
「だから気になったの」
Wが笑う。
挑発する時の顔だ。それくらいは初対面に近い俺でも分かる。
「本当は大したことなかったりして」
「分かりやすいな」
「あら、何が?」
「俺を乗せようとしてるだろ」
「乗らないの?」
「乗らない」
歩き出す。
後ろから。
「怖い?」
止まった。
数秒何も言わず、それから振り返る。
Wが楽しそうに笑っていた。
「……それ言えば乗ると思ってる?」
「もう乗ってるじゃない」
腹が立つ。
「訓練場」
「話が早くて助かるわ」
どうやら、最初からそのつもりだったらしい。
◇
「本当にやるんですか?」
アーミヤが心配そうに聞いた。
「模擬戦だよ」
「でもWさん、爆弾を持っています」
見る。
Wは訓練用に威力を落とした爆薬を確認していた。
今回使っているのは、実戦を想定して床や壁を補強してある区画らしい。それでも、爆発は爆発だ。
「持ってるな」
「大丈夫なんですか?」
「たぶん」
「たぶんじゃ困ります」
最近、アーミヤに怒られることが増えた。
「心配しなくても、致命傷になるものは使わないわよ」
Wがこちらを見る。
「たぶん」
「おい」
「冗談」
絶対楽しんでいる。
気づけば見物人まで増えていた。
アーミヤにドクター、アスカロン。少し離れたところにはケルシーまでいる。
「何でみんないるの?」
「Wが騒いでいた」
アスカロンが答える。
「騒いでないわよ」
「爆弾持って訓練場に向かってれば目立つだろ」
「それもそうね」
認めるのか。
訓練用の剣を一本取り、軽く振る。
悪くない。
「ルールは?」
俺が聞く。
Wが起爆器を弄びながら答える。
「戦闘不能か降参で終わり。致命傷になる攻撃は禁止」
「爆発はあり?」
「当然」
「当然なんだ」
「爆弾使わないあたしと戦って何が楽しいのよ」
「俺は別に楽しむために来たわけじゃない」
「あたしは楽しむためだけど?」
噛み合わない。
少し距離を取る。
Wも向かいに立った。
「準備は?」
「あたしはいつでも」
随分余裕そうだ。
剣を肩へ乗せる。
「じゃあ一つだけ」
「何?」
Wを見る。
「一応言っとくけど――」
少し間を置く。
「挑戦者はそっちだからな」
一瞬。
Wの目が丸くなった。
すぐに。
口元が大きく吊り上がる。
「……言ってくれるじゃない!」
足元が爆ぜた。
「うわっ!?」
横へ飛ぶ。
爆音。
さっきまで立っていた場所から煙が上がる。
「始めるって言ってないだろ!」
「実戦で敵が待ってくれる?」
「模擬戦だろ!」
返事の代わりに。
二つ目が飛んできた。
剣の腹で弾く。
落ちる前に距離を取る。
爆発。
視界が煙に覆われる。
正面。
気配がない。
「……」
右。
振り向く。
Wがいた。
その手から何かが落ちる。
地面。
細い線。
後ろへ跳ぶ。
次の瞬間。
線の先が爆ぜた。
煙が広がる。
「真正面ばっかり見てると死ぬわよ!」
声だけが聞こえる。
「よく言われる!」
「誰に?」
「ケルシー!」
少し離れたところで。
ケルシーが何か言いたそうな顔をした。
今は無視する。
煙の中へ踏み込む。
Wの姿は見えない。
でも。
動く音はする。
左。
剣を振る。
金属音。
短剣で受けられた。
「へえ」
「爆弾だけじゃないんだな」
「傭兵舐めないでくれる?」
蹴りが飛んでくる。
腕で受ける。
一歩下がる。
その隙にWが距離を取った。
追う。
目の前へ。
小さな爆弾が転がってくる。
止まる。
「残念」
Wが笑った。
起爆。
――しない。
「偽物?」
その瞬間。
横で爆発が起きた。
「っ!」
間に合わない。
咄嗟に身体を捻ったが。
爆風が肩から背中を叩いた。
足が浮く。
床を二度転がって止まる。
「セラスティアさん!」
アーミヤの声。
「大丈夫」
起き上がる。
肩口を見る。
服が少し焦げていた。
痛い。
でも動く。
Wが少し離れたところで笑っている。
「一回」
「何が?」
「あんたが死んだ回数」
「訓練用だろ」
「本物ならね」
「数えるの?」
「もちろん」
楽しそうだな。
俺は剣を構え直す。
一度。
二度。
呼吸する。
今のは。
爆弾を見せたんじゃない。
見る場所を決めさせられた。
偽物を見せて。
そっちへ意識を向けて。
本命を別から通す。
「……なるほど」
「何が?」
Wが聞く。
答えない。
代わりに。
今度は俺から踏み込む。
爆薬が飛んでくる。
避ける。
その先。
さっきと同じように、少しだけ広く空いた場所がある。
行かない。
踏み込みを変える。
「……」
Wの眉が動いた。
別の方向へ回る。
足元。
細い線。
その手前で止まる。
「ちょっと」
「何?」
「何でそっちなのよ」
「そっちに行かせたそうだったから」
「……一回見ただけで?」
「全部は分からないよ」
剣を構えたまま答える。
「でも、何を見せたいのかは分かってきた」
Wの目が少し細くなった。
爆薬を投げる。
今度は追わない。
Wを見る。
手。
肩。
足。
投げた直後。
身体が逆へ動いた。
そっち。
踏み込む。
「っ!」
距離を潰す。
Wが短剣へ持ち替えた。
一撃。
受ける。
二撃目。
流す。
三撃目。
今度は蹴り。
後ろへ下がる。
そのまま短剣が追ってくる。
速い。
剣の柄で受ける。
肘が飛んでくる。
避け切れず。
頬を掠めた。
「爆弾だけじゃないって言ったでしょ」
「言ってたな」
Wが笑う。
すぐ近くで。
爆薬へ手を伸ばす。
その手首を取る。
「離しなさい!」
「嫌だ」
振りほどこうとする。
力を逃がす。
逆方向へ回る。
体勢が崩れる。
それでも。
Wはそのまま身体を捻った。
短剣を逆手へ持ち替える。
首元。
一歩引く。
刃が目の前を通る。
「危な」
「余裕あるじゃない」
「今のはなかった」
「あるわよ」
もう一度踏み込む。
今度は。
手元を見ない。
Wが逃げようとした方向へ。
先に身体を入れる。
「……は?」
反対へ切り返す。
そっちにも入る。
Wの表情が変わった。
さっきまでの笑いはない。
「何なのよ、あんた」
「何って?」
「その動きよ!」
「最初は知らなかったから」
「だからって急に全部避ける!?」
「全部じゃない」
肩を見る。
焦げている。
頬も少し痛い。
「ちゃんと当たってる」
「そういう話してない!」
また来る。
今度は二つ。
爆薬。
片方だけを見る。
もう一つは。
W自身が動くための目隠し。
爆発。
煙が上がる。
その中。
足音。
一歩。
二歩。
右。
煙を抜ける。
目の前。
Wが目を見開いた。
「ちょっと待って」
「待たない」
「模擬戦でしょう!?」
「実戦で敵が待ってくれる?」
「それあたしが言ったやつ!」
近づく。
Wが下がる。
一歩。
さらに一歩。
気づけば。
壁が近い。
Wも気づいた。
横へ逃げる。
その前へ剣を置く。
反対。
身体を入れる。
逃げ道を塞ぐ。
「……」
「どうした?」
「腹立つ」
「何で?」
「全部よ!」
Wが最後の爆薬を掴む。
反対の手が起爆器へ伸びる前に。
手首を取る。
握っていた爆薬が床へ落ちる。
蹴る。
遠くへ滑っていく。
Wの腕を背中側へ回す。
壁へ押さえる。
剣先を。
首元へ。
止めた。
「終わり」
静かになった。
Wは。
動かない。
数秒。
「……降参?」
「したくない」
「じゃあこのまま?」
「それも嫌」
「面倒くさいな」
「うるさい」
力を緩める。
離れる。
Wは腕を振って、こっちを睨んだ。
「……最初からそれくらい動きなさいよ」
「最初は戦い方知らなかったって」
「一回見ただけで全部分かるわけ?」
「全部じゃないよ」
「じゃあ何で途中から罠に入らなくなるのよ!」
「狙い方が分かってきたから」
「それがおかしいって言ってるの!」
少し離れた場所で、アーミヤが目を丸くしていた。ドクターも黙っている。
アスカロンだけはいつも通りで、ケルシーは腕を組んだままだった。
Wが息を吐く。
「……まあいいわ」
「いいの?」
「良くない」
どっちだ。
Wが起爆器を取り出す。
「でも」
少しだけ、さっきまでの余裕が戻った顔で笑う。
「勝った気になるのは早いんじゃない?」
「何で?」
「背中」
「背中?」
「あんた、最初の煙の中で一回――」
言いながら、Wが起爆器へ指を掛ける。
俺は懐へ手を入れた。
一つ。
小さな訓練用爆薬を取り出す。
Wの動きが止まった。
「これ?」
「……」
「これのこと?」
「何で持ってるのよ」
「最初の煙の中で、背中に何か触れたのは分かってた」
Wが完全に黙った。
「……気づいてたの?」
「何か来たなとは」
「煙の中よ?」
「うん」
「爆発してたでしょ?」
「してた」
「その中で?」
「だから、その時は何かまでは分からなかったよ」
爆薬を見る。
「爆風食らって転がったあとに確認したら、これだった」
Wが起爆器と爆薬、それから俺を順番に見る。
「ほんっとムカつく」
「さっきも聞いた」
「何回でも言うわよ」
爆薬を返すと、Wはそれを受け取ってじっと見た。
それから。
「……普通なら?」
「何?」
「普通なら、今ので何回くらい死んでた?」
少し考える。
「最初の偽物に引っかかって、横の爆発を食らったところ」
指を折る。
「煙の中で短剣が来たところ」
もう一つ。
「あとこれに気づかなかったら」
背中の爆薬を指す。
Wが数える。
「三回?」
「それくらい」
「じゃあ何であんたは死んでないのよ」
「今、生きてるから?」
「聞き方変えるわ」
Wが目を細めた。
「あんた、何年戦ってんの?」
「長いよ」
「答えになってない」
「長すぎて説明面倒」
「……あっそ」
それ以上は聞かなかった。
ただ、さっきまでとは違う目で俺を見る。
試すような目ではない。もっと、測るような、確かめるような目だった。
「何?」
「別に」
またそれか。
Wが視線を外した先、訓練場の入口にテレジアが立っていた。
「あ」
俺も気づく。
「テレジア」
Wの姿勢がほんの少し変わった。
「テレジア殿下」
「楽しそうね」
穏やかに笑っている。
「……いつから?」
俺が聞く。
「途中からよ」
「どこから?」
テレジアが少し考える。
「Wが『だからって急に全部避ける!?』と言っていたあたりかしら」
Wが顔を背けた。
「そこ聞かれてたの?」
「ええ」
「最悪」
「私は面白かったわ」
「殿下まで……」
テレジアが俺を見る。
「でも」
「何?」
「少し安心したわ」
「安心?」
「あなたが無茶をしているだけではなかったみたいだから」
「無茶してると思ってた?」
「爆発の中へ入っていった時は」
「必要だったから」
「そういうところよ」
困ったように笑われた。
隣でWがこっちを見た。
それからテレジアへ視線を移し、もう一度俺を見る。
「……まあ」
「何?」
「少し分かっただけ」
「何が?」
Wが少しだけ迷った。
「何であんたがテレジア殿下の横にいるのか」
思っていなかった言葉だった。
「昔からいるからだけど」
「そういう意味じゃないわよ」
「じゃあ何?」
Wが視線をテレジアへ向ける。
「少なくとも」
少しだけ間を置く。
「あんたが殿下の横にいるなら、簡単には何も起きないってことくらいは分かったわ」
一瞬、言葉が出なかった。
「……急に褒めるじゃん」
「気が変わった。今のなし」
「遅い」
「忘れなさい」
「嫌だ」
「爆破するわよ」
「もう勝負終わっただろ」
テレジアが小さく笑う。
Wが気まずそうに顔を背けた。
その時、懐から見覚えのあるものが覗いた。
「あ」
「何?」
「写真」
Wの目が変わる。
「言うな」
「テレジアの写真――」
足を踏まれた。
「痛っ!」
「どうしたの?」
「何でもない!」
Wが答える。
俺の台詞を取られた。
◇
テレジアが俺とWを交互に見る。
「写真?」
Wが黙る。
俺も今度は黙っておく。
少しして、Wが諦めたように息を吐いた。
「……一枚くらい」
「一枚?」
「撮っておこうかと思っただけです」
さっきまで俺に向けていた態度とは全然違う。
「私を?」
「……はい」
「そう」
テレジアが微笑む。
「それなら一緒に撮りましょうか」
Wが止まった。
「え?」
「せっかくだもの」
「いや、あたしはテレジア殿下の――」
「アーミヤも」
「はい!」
すぐ返事。
「ドクター」
少し離れた場所で見ていたドクターが自分を指差す。
「私もか?」
「もちろん」
「ケルシーも」
「私は――」
「一枚だけ」
テレジアに言われ、ケルシーが黙った。
「……一枚だけだ」
「アスカロンも」
アスカロンは頷いた。
逃げなかった。
最後に、テレジアが俺を見る。
「セラスティアもね」
「俺も?」
「何であんたが驚くのよ」
Wに言われた。
「いや、俺さっき爆発まみれになったし」
服を見る。
少し汚れていて、肩口は焦げている。
「自分から突っ込んだんでしょ」
「爆発させたのはお前だろ」
テレジアが笑った。
「そのままでいいじゃない」
「いいの?」
「今日の記念にはなるでしょう?」
何の記念だ。
Wに爆破された記念?
あまり残したくない。
◇
問題は誰が撮るかだった。
「私がやろう」
ドクターが言う。
「ドクター入らないじゃん」
「私は構わない」
「駄目よ」
テレジアが却下した。
「皆で撮りましょう」
「なら時間設定を使えばいい」
ケルシーがWの撮影機器を見る。
Wが瞬きをする。
「そんな機能あった?」
「自分の機材くらい把握しておけ」
「爆弾なら全部分かるわよ」
「自慢することではない」
結局、ドクターとケルシーが操作して、少し離れた台の上へ置くことになった。
「時間は?」
「十秒だ」
「並びましょう」
テレジアが中央へ行き、その隣にアーミヤが立つ。
反対側へWが行こうとして、少し止まった。
俺は後ろでいい。
そう思って移動すると。
「セラスティア」
呼ばれた。
「何?」
「こっち」
テレジアが自分の隣を示す。
Wとは反対側。
「俺そこ?」
「嫌なの?」
「嫌じゃないけど」
移動する。
目の前でWと目が合った。
「……何?」
「別に」
「また怒ってる?」
「怒ってない」
今日二回目だ。
今度も怒っている。
ただ、さっきまでとは少し違う。本気で気に入らないというより、何となく納得していないだけに見えた。
「アスカロン、もっとこっち」
アーミヤが手招きする。
アスカロンが一歩近づき、ドクターも戻ってきた。
ケルシーは一番端へ行こうとしたが、テレジアに見つかる。
「ケルシー」
「ここで十分だ」
「もう少し」
「……」
一歩前へ出た。
「もう少し」
「テレジア」
結局、さらに一歩出る。
アーミヤが笑っていた。
「撮れます!」
ドクターが言う。
「あと少しだ」
「分かるの?」
「表示されている」
「早く言え!」
みんなが前を向く。
俺も。
その瞬間。
Wが小声で言った。
「次は勝つから」
横目で見る。
「今日は俺の勝ちだろ」
「分かってるわよ」
珍しく認めた。
「じゃあ何で怒ってるの?」
「負けたから」
「素直だな」
「次は今日みたいにはいかないわよ」
「楽しみにしてる」
「余裕ぶってなさい」
小さな音がした。
◇
出来上がった写真を全員で覗き込む。
中央にはテレジアとアーミヤ。
その周りにドクター、ケルシー、アスカロン、俺、W。
「……」
Wが黙っている。
「どう?」
テレジアが聞く。
「え?」
「写真」
「あ……」
Wがもう一度見る。
さっきまであれだけ一人でテレジアを撮ろうとしていたのに、今は何を言えばいいのか分からないみたいだった。
「悪くないんじゃない?」
俺が言う。
Wが睨む。
「何であんたがテレジア殿下の隣なのよ」
「呼ばれたから」
「それは分かってる」
「じゃあ何?」
「気に入らないだけ」
「理不尽だな」
「でも」
Wが写真を見る。
それから俺へ視線を移し、ほんの少しだけ笑った。
「まあ、あんたならいいわ」
「何が?」
「何でもない」
アーミヤが笑う。
テレジアも。
ドクターまで少し笑っていた。
ケルシーは呆れている。
アスカロンは写真を見ながら口を開いた。
「セラスティア」
「何?」
「顔」
「俺?」
「少し変」
「どこが?」
Wが写真を覗き込む。
「あ、本当」
「お前に言われたくない」
「何でよ。あたしは完璧でしょ」
「テレジアしか見てないじゃん」
「は?」
「ほら」
指を差そうとすると、写真を奪われた。
「触んな!」
「見せろよ!」
「嫌!」
「俺も写ってるんだけど!」
「だから何よ!」
「二人とも」
テレジアの声で止まる。
「破らないでね?」
俺とWは写真を見て、それから同時に手を離した。
「……はい」
Wが答える。
「分かった」
俺も続く。
テレジアが笑った。
写真は結局、Wが持つことになった。
最初に撮りたがっていたのがWだから、それでいい。
「じゃあ」
俺は訓練用の剣を片付ける。
「戻る」
「セラスティア」
Wに呼ばれた。
「何?」
少しだけ間があった。
「……次、逃げるんじゃないわよ」
「誰が逃げるって?」
「言質取った」
「そっちが挑戦者だって言っただろ」
Wが笑う。
最初に見た、人を試すような笑い方とは少しだけ違った。
「その台詞」
写真を胸元へしまう。
「次も言えるといいわね」
「言うよ」
今度は、俺も笑った。