アーミヤがバベルへ来てから、食堂で三人になることが増えた。
毎日というわけではない。俺が任務へ出ている日もあれば、テレジアが会議から戻れない日もある。アーミヤも検査や勉強で忙しい。
それでも時間が合えば、何となく同じ卓に集まるようになった。
今日もそのつもりだった。
「遅いですね」
向かいに座ったアーミヤが、入口へ顔を向ける。
俺も同じ方向を見る。
「会議長引いてるんじゃない?」
「でも、もう終わっているはずなんです。さっきケルシー先生に聞きました」
「じゃあ別の仕事かな」
「セラスティアさん、何か聞いてませんか?」
「何も」
最後にテレジアを見たのは朝だ。
少し用事があると言っていたが、詳しくは聞いていない。
「先に食べる?」
「もう少し待ちたいです」
「じゃあ待つか」
そう答えたところで、食堂の入口に二人分の影が見えた。
「あ」
アーミヤが立ち上がる。
「テレジアさん!」
テレジアと、その隣にドクターがいた。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」
「大丈夫です!」
アーミヤが嬉しそうに駆け寄る。
ドクターは椅子へ座ると、机の上に置かれていた水へ手を伸ばした。
「少し遅くなったな」
「あなたが途中で話を広げるからでしょう?」
「確認すべきことが増えたんだ」
「一つ確認すると三つ増えるのだもの」
「研究とはそういうものだろう」
二人の会話に、アーミヤが首を傾げる。
「研究ですか?」
「ええ。少し前の結果について、ドクターと確認していたの」
「どんな研究なんですか?」
「それは――」
テレジアが答えるより先に。
ドクターが口を開いた。
「以前見せてもらった実験の、その後についてだ」
「変化は?」
「少しだけ。まだ結論を出すには早いわ」
「次の観測には私も立ち会いたい。特に変換後の――」
「ドクター」
テレジアが名前を呼んだ。
静かな声だった。
ドクターが止まる。
「ああ」
短く答えて、水へ口をつけた。
アーミヤが二人を交互に見る。
「秘密なんですか?」
「今はまだ、ね」
テレジアが申し訳なさそうに笑う。
「もう少し形になったら、あなたにも話せると思うわ」
「本当ですか?」
「もちろん」
「分かりました!」
アーミヤはすぐに笑った。
俺は。
少しだけドクターを見る。
何の研究なんだろう。
普段なら、それ以上気にしなかったと思う。
ただ。
テレジアがわざわざ話を止めたことだけが、妙に頭に残っていた。
◇
午後。
アスカロンの訓練を見る予定だった。
予定通り行った。
ただ。
「遅い」
木剣が飛んでくる。
一瞬遅れて受ける。
「何が?」
「今の」
「そう?」
アスカロンが俺を見る。
「上の空」
「ちょっと考え事」
「珍しい」
「俺だって考えるよ」
「知ってる」
淡々と返された。
アスカロンは木剣を下ろす。
「続ける?」
少し考える。
「今日はやめとく」
「分かった」
理由は聞かれなかった。
助かる。
訓練場を出て、特に目的もなく廊下を歩く。
食堂へ戻る気にもならない。
部屋へ帰るほどでもない。
結局、適当に歩いているうちに甲板近くの通路まで来ていた。
窓の外には荒れた大地。
遠くに黒い結晶。
見慣れた景色。
「……何やってんだろ」
自分でもよく分からない。
ドクターが嫌いなわけではない。
むしろ信用している。
任務で背中を預けてもいいくらいには。
アーミヤを連れて帰ってきたことだって、よかったと思っている。
それなのに。
昼の会話が。
妙に頭から離れなかった。
「見つけた」
声がした。
振り返る。
テレジアがいた。
「何してるの?」
「それはこちらの台詞よ」
「散歩」
「船の中を?」
「悪い?」
「悪くはないけれど」
テレジアが隣まで来る。
手には二つのカップ。
片方を差し出された。
受け取る。
温かい。
「ありがとう」
「どういたしまして」
しばらく二人で外を見る。
テレジアからは何も言わない。
急かさない。
俺が話すまで待っている。
そういうところは、昔から変わらない。
「……昼に話してた研究」
先に口を開いたのは俺だった。
「ええ」
「聞いてもいい?」
テレジアが少しだけ考えた。
「本当なら、まだ多くの人に話す段階ではないの」
「じゃあいいよ」
「本当は」
すぐに続く。
「あなたにも、まだ話すつもりはなかったわ」
「なら、無理に言わなくていいって」
「でも」
テレジアが俺を見る。
「あなたが一人で気にしたままなのは、嫌なの」
「気にしてる?」
「あなた、さっきからずっと気にしているでしょう?」
「……そんなに分かりやすい?」
「少なくとも、私には」
少しだけ困る。
テレジアは小さく笑った。
「だから、あなたには話しておくわ。ただし――」
「秘密?」
「ええ」
「分かった」
「ありがとう」
それを聞いてから。
テレジアが窓の外へ視線を戻した。
「バベルから少し離れたところに、秘密の実験地があるの」
「外?」
「ええ。源石の影響がとても強い場所よ」
「そこで何してるの?」
「源石の研究」
それだけなら珍しくない。
バベルも。
ケルシーも。
ドクターも。
ずっと源石と鉱石病について調べている。
けれど。
テレジアは少し違う言い方をした。
「源石を、別のものへ変える研究よ」
「別のもの?」
「ええ」
少しだけ。
テレジアの声が明るくなる。
「今の私たちにできることは、まだ本当に小さいわ。ほんのわずかな活性源石を、別の形へ変えることくらい」
「何に?」
テレジアが俺を見る。
そして。
笑った。
「花よ」
一瞬。
何も言えなかった。
「……花?」
「ええ」
嫌な予感ではない。
でも。
何かが胸に引っかかった。
「何の花?」
少し間があった。
「夏雪草」
手が止まった。
「……夏雪草?」
「ええ」
知っている。
知っているどころではない。
昔。
まだ俺たちが子供だった頃。
二人で見つけた花。
俺が自分の名前を嫌いじゃなくなった理由。
押し花にして。
今でも持っている。
その花。
「何で」
思ったより低い声が出た。
「夏雪草なの?」
「特別な理由があったわけではないの」
テレジアが答える。
「実験に使える場所を探していた時、谷の外で偶然見つけたのよ」
「偶然?」
「ええ」
テレジアが少し笑う。
「もちろん、見つけた時にあなたのことを思い出さなかったわけではないけれど」
顔を上げる。
「俺?」
「ええ」
そのくらいは。
少し嬉しい。
でも。
すぐに別のことが浮かぶ。
「ドクターには見せたんだ」
「ええ」
また声が低くなった。
テレジアが俺を見る。
「今日は随分と分かりやすいのね」
「何が?」
「その話をしている時だけ、声が低いわ」
「そんなことない」
「アーミヤと話していた時は普通だったでしょう?」
「……」
「研究の話をしていた時も」
よく見てるな。
「夏雪草だと分かってからよ」
逃げ道を塞がれた。
少し黙る。
テレジアは笑わなかった。
ただ待っている。
「俺が勝手に気にしてるだけだよ」
「何を?」
「……あの花」
カップを持つ手へ視線を落とす。
「昔から、俺たちの間にあるものだと思ってたから」
言ってから。
少し恥ずかしくなった。
花なんて。
俺たちだけのものではない。
誰が見たっていい。
「夏雪草を?」
「分かってるよ。別に俺たちのものじゃない」
「セラスティア」
「だから、勝手に気にしてるだけ」
「そうではなくて」
テレジアが少し近づく。
「あなたが、そう思ってくれていたことを知らなかったの」
「何が?」
「あの花を」
一度、言葉を切る。
「私たちの間にあるものだと思ってくれていたこと」
声が少しだけ柔らかくなる。
「……嫌だった?」
「どうして?」
「勝手にそう思ってたから」
「むしろ反対よ」
テレジアが小さく笑った。
「嬉しいわ」
顔を見る。
冗談ではない。
本当に嬉しそうだった。
「でも」
窓の外へ目を戻す。
「だったら余計に分かんない」
「何がかしら」
「何でドクターを連れてったの?」
思ったより直接聞いてしまった。
テレジアは驚かなかった。
「ドクターに、あの庭を見せる必要があったからよ」
「庭?」
「ええ」
テレジアが外を見る。
「そこで咲いている夏雪草は、ただ自然に生えている花ではないの」
「……どういうこと?」
「私たちが源石から変えたものなの」
思わず顔を見る。
テレジアは静かに続ける。
「もちろん、まだ小さな一歩よ。庭と呼べるほどのものにするためにも、多くの人の力を借りているわ」
「源石から、花を?」
「ええ。源石術で咲かせているわけではないの」
俺には。
その違いまではよく分からない。
でも。
テレジアにとって大きな意味があることだけは分かった。
「私は、源石をただ人を傷つけるもののままにしたくないの」
荒れた大地の向こう。
黒い結晶が見える。
「いつか、カズデルに戦うためではなく、生きるための土地を作りたい」
静かな声だった。
「天災が源石を降らせなくなって。感染者が身体を蝕まれなくなって」
少しだけ。
遠くを見るような目になる。
「荒れた大地に、普通に花が咲くようになったら」
テレジアが笑う。
「素敵だと思わない?」
「……うん」
知っている。
こういう時のテレジアを。
本当に。
その未来を見ている。
「ドクターは源石のことを、私たちよりずっと深く知っている」
「だから?」
「力を貸してほしかったの」
テレジアが俺を見る。
「研究の結果だけではなくて、私がその先にどんな未来を見ているのかも、知ってほしかった」
「だから見せた?」
「ええ」
納得した。
今度は。
ちゃんと。
ドクターを連れていったのは。
特別な花を見せたかったからではない。
テレジアが作ろうとしている未来を。
その人に見せる必要があったから。
分かった。
分かったはずなのに。
まだ。
ほんの少し。
胸に何か残っている。
「何?」
テレジアが聞く。
「まだ何かあるのでしょう?」
「……」
言うか。
やめるか。
たぶん。
やめた方がいい。
でも。
口が先に動いた。
「ドクターのこと好きなの?」
言った。
言ってしまった。
数秒。
テレジアが瞬きをした。
「……それは」
さすがに予想していなかったらしい。
「いや」
急に恥ずかしくなる。
「忘れて」
「待って」
「今のなし」
「駄目よ」
「何で」
「聞いたのはあなたでしょう?」
「そうだけど」
「なら、ちゃんと答えるわ」
テレジアが俺を見る。
「ええ。大切な仲間としては好きよ」
胸の奥が少しだけ沈む。
その変化まで。
たぶん見られた。
「でも」
テレジアの声が柔らかくなる。
「あなたが聞いているのは、そういう意味ではないのでしょう?」
全部ばれている。
「……たぶん」
「たぶん?」
「そうだよ」
もういい。
ここまで来たら。
「そういう意味で聞いた」
今度はテレジアが黙った。
「それなら」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「違うわ」
息が抜けた。
自分でも分かるくらい。
「……そっか」
「安心した?」
聞かれた。
いつもなら誤魔化したと思う。
でも今日は。
「した」
答えた。
テレジアの目が少しだけ大きくなる。
今度こそ。
本当に予想していなかったらしい。
「……そう」
小さな声。
頬がほんの少しだけ赤く見えた。
俺も何を言えばいいか分からない。
静かになる。
さっきまであれだけ聞きたかったのに。
答えをもらったらもらったで。
次がない。
外では風に砂が流されている。
「セラスティア」
「何?」
「一つだけ、私も聞いていいかしら」
「内容による」
「今さら逃げるの?」
「一応聞くだけ」
テレジアが少し考える。
それから。
「もし」
俺を見る。
「私がドクターを、あなたが今気にしていた意味で好きだったら」
一度、間を置く。
「あなたは嫌だった?」
すぐには答えられなかった。
でも。
答え自体はもう分かっている。
「嫌だったと思う」
「そう」
「たぶん今よりずっと」
言ってから、テレジアを見る。
彼女は笑っていなかった。
ただ。
どこか安心したような顔をしていた。
「何でそんな顔してるの?」
「どんな顔?」
「嬉しそう」
「そう見える?」
「見える」
テレジアは少しだけ困ったように目を伏せた。
「それなら」
カップの中を見る。
「少し、性格が悪いのかもしれないわ」
「何で?」
「あなたが嫌だと思ってくれることを、嬉しいと思ってしまったから」
心臓が変な音を立てた。
「……それ」
「ええ」
「どういう意味?」
聞いた。
けれど。
テレジアはすぐには答えなかった。
「あなたがあの花を、私たちの間にあるものだと思ってくれていたでしょう?」
「うん」
「私も似たようなものなのよ」
それだけ。
意味を考える。
分かるような。
分からないような。
いや。
たぶん分かっている。
ただ。
分かったと言ったら。
その先まで行ってしまう気がした。
「ずるくない?」
「何が?」
「俺には答えさせたのに」
「私は何も聞いていないわ」
「聞いたじゃん」
「嫌だったかどうかを聞いただけよ」
「同じだろ」
「少し違うわ」
「絶対わざとだ」
今度はテレジアが笑った。
いつもの穏やかな笑い方。
でも。
頬の赤みはまだ消えていない。
少しして。
俺はもう一度、窓の外を見る。
「あの実験地」
「ええ」
「いつか見せてもらってもいい?」
「もちろん」
少し考える。
でも。
今すぐ行きたいとは思わなかった。
そこは。
テレジアが未来を作るための場所だ。
夏雪草があるからといって。
俺たちが昔見つけた場所と同じではない。
「やっぱり」
「なあに?」
「あそこは今度でいいや」
「いいの?」
「うん」
「見たがっていたでしょう?」
「見てみたいとは思う」
ドクターが見た庭。
テレジアの研究。
それはそれで。
いつか見ればいい。
でも。
「今度また、普通に探しに行こう」
「夏雪草を?」
「うん」
昔みたいに。
何もないところを歩いて。
見つける。
そっちの方がいい。
テレジアが目を細める。
「二人で?」
聞き返された。
「二人で」
迷わず答える。
テレジアは少し黙った。
「……そう」
「何?」
「いいえ」
口元だけが少し緩む。
「二人で、ね」
「そう言ったけど」
「確認しただけよ」
「何の?」
「秘密」
「また?」
テレジアは答えず。
少しだけ嬉しそうに笑った。
「ええ」
そして。
「約束ね」
「忘れないよ」
「本当に?」
「何年一緒にいると思ってるんだよ」
「長いわね」
「だろ?」
「でも、あなたは昔から時々大事なことを忘れるもの」
「例えば?」
「そうね」
テレジアが少し考える。
「自分のこととか」
言葉が止まった。
「それは」
「だから」
彼女の指先が、俺の手の甲へ触れた。
ほんの一瞬。
そう思った。
でも。
離れない。
テレジアの指先だけが。
そこに残っている。
「……テレジア?」
「何?」
「手」
「ええ」
「何で?」
聞くと。
ほんの少しだけ指先が動く。
「……もう少しだけ」
「何が?」
「何でもないわ」
「いや、何でもなくないだろ」
「そう?」
「そうだよ」
言いながらも。
俺も手を引かなかった。
テレジアも離さない。
手を重ねているわけではない。
指先が触れているだけ。
なのに。
妙にそこだけが熱い。
「セラスティア」
「何?」
「今度は、忘れないでね」
「……何を?」
テレジアは答えなかった。
ただ。
俺の手に触れたまま。
しばらく窓の外を見ていた。
俺も何も言わない。
やがて。
遠くから人の声が聞こえた。
テレジアの指が離れる。
少しだけ。
惜しいと思った。
そのことに気づいて。
余計に何も言えなくなる。
「戻りましょう。アーミヤが待っているわ」
「……うん」
テレジアが歩き出す。
俺も追いかけて、隣へ並ぶ。
しばらくして。
「さっきの何?」
やっぱり聞いた。
「何のこと?」
「手」
「何かしたかしら?」
「しただろ」
「覚えていないわ」
「嘘つけ」
テレジアが笑う。
廊下の先から。
聞き慣れた声がした。
「テレジアさん!セラスティアさん!」
アーミヤだ。
俺たちは同時にそちらを見る。
それから。
どちらからともなく歩き出した。
並んで。
いつもと同じ距離で。
ただ。
さっきまで触れていた手が。
妙に気になった。
◇
「テレジアさん!」
こちらへ手を振るアーミヤに、私も小さく手を振り返す。
隣を歩くセラスティアは。
時々、自分の手を見ていた。
気づくたび。
胸の奥が少しだけくすぐったくなる。
たぶん。
さっきのことを考えている。
私も同じだった。
「ドクターのこと好きなの?」
あの言葉は。
まだ耳に残っている。
違うと答えた時。
彼は。
「安心した」
そう言った。
誤魔化さずに。
自分の言葉で。
そのことが。
思っていたよりずっと嬉しかった。
だから。
触れた。
ほんの一瞬のつもりだった。
それなのに。
彼が手を引かなかったから。
私も離せなくなった。
「……欲張りね」
小さく呟く。
「何か言った?」
すぐ隣から声がした。
「いいえ。何も」
「絶対何か言っただろ」
「気のせいよ」
「今日それ多くない?」
「そうかしら」
少しだけ歩く速度を上げる。
セラスティアも当然のようについてくる。
昔から。
そうだった。
私が前へ進めば。
彼は隣に来る。
それが嬉しくて。
同時に。
ずっと怖かった。
私が望むから。
私がそう言うから。
彼は自分の行き先を決めずに。
私の隣へ立っているのではないか。
だから。
自分で選んでほしいと願ってきた。
私が何も言わなくても。
自分の人生を。
自分の足で。
今日。
彼は言った。
「今度また、普通に探しに行こう」
私が誘ったのではない。私についてくると言ったのでもない。
彼自身が、そうしたいと選んでくれた。
そのうえで。
「二人で」
と言ってくれた。
それが嬉しい。
自分で選んでほしい。
私の言葉だけで道を決めてほしくない。
それでも。
その自分で選んだ道の中に。
私がいてほしい。
少し勝手だとは思う。
けれど。
今は。
それくらい期待してもいいのかもしれない。
「テレジア?」
「何かしら?」
「やっぱり今日変じゃない?」
「あなたにだけは言われたくないわ」
「何で?」
「秘密よ」
「またそれ?」
思わず笑ってしまう。
アーミヤがもうすぐそこまで来ている。
だから。
これ以上は言わない。
今はまだ。
言わなくていい。
もし。
いつか。
私が何も言わなくても。
この人が自分で行き先を選べるようになって。
そのうえで。
私の隣にいたいと言ってくれる日が来たなら。
その時は。
私も。
ちゃんと伝えよう。
ずっと前から。
あなたが隣にいることを、当たり前以上に大切にしていたのだと。
「二人とも、何を話していたんですか?」
アーミヤが私たちを見上げる。
「秘密よ」
そう答えると。
隣から。
「また!?」
不満そうな声が上がった。
アーミヤが目をぱちぱちさせる。
「セラスティアさん、今日はテレジアさんに秘密にされてばかりですね」
「そうなんだよ」
「まあ」
私は少し笑う。
「そのうち教えてあげるわ」
「いつ?」
「そうね」
少し考えるふりをする。
「夏雪草を見つけた後かしら」
「……」
セラスティアが固まった。
「テレジアさん?」
アーミヤが首を傾げる。
「何でもないわ」
「いや、それ絶対わざとだろ!」
思わず声を上げる彼を見て。
私は笑った。
今度は。
隠しきれなかった。