夏雪草が帰る場所   作:Bestmeever

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第32話 誰を守るのか

フロストノヴァ。

 

その名前を聞いてから、戦場の空気が少し変わった。

 

レユニオンの残存部隊は、それまでのようにばらばらに逃げているわけではない。スノーデビル小隊を中心に再びまとまり始め、スラム街の奥へ人を集めているらしい。最初は、逃げるために戦力を固めているだけだと思った。けれど、届く報告を聞いていると少し違う。

 

「撤退路を確保してる?」

 

端末を持ったオペレーターが頷く。

 

「はい。レユニオンの残存部隊だけではありません。周辺に取り残されている感染者も、同じ経路へ誘導しているようです」

 

「龍門の住民も?」

 

「確認中です。ただ、少なくとも無差別に排除している様子はありません」

 

今朝までなら、それだけでは特に引っかからなかったかもしれない。ただ、メフィストの牧群を見た直後に聞くと、差が大きすぎる。

 

「同じレユニオンなのよね」

 

テレジアが俺の横で言った。

 

「ああ」

 

「ずいぶん違うわ」

 

「同じサルカズだって、全員同じじゃないだろ」

 

「それはそうね」

 

俺たちは何百年もそれをやってきた。同じサルカズというだけで一つに括られ、外からは同じように恐れられる。そのくせ中では、考え方も目的も違って、互いに争うことさえある。分かっていたはずなのに、レユニオンという腕章を見ると、どこかで一つの集団として考えていた。

 

「セラスティアさん」

 

アーミヤの声で顔を上げる。ドクターとブレイズも一緒だった。

 

「これからスラム街側へ移動します。避難が遅れている人たちの捜索を優先します」

 

「スノーデビル小隊は?」

 

「近衛局と交戦中です。それと……黒い服の人たちも動いています」

 

今日、グレースロートが見た連中。武器を捨てたレユニオンまで追っていたという、龍門近衛局ではない部隊。アーミヤの表情が少し硬くなる。

 

「私たちは、私たちの任務を続けます。救助できる人がいるなら、まずそちらを」

 

「分かった」

 

それで十分だった。誰と戦うのかより、今は、誰を助けるのかを見た方がいい。

 

◇

 

スラム街へ近づくほど、気温が下がった。最初は風のせいかと思ったが、建物の壁に薄く霜が張っているのを見て違うと分かる。地面にも白い筋が伸びていた。

 

「これがフロストノヴァのアーツ?」

 

「はい」

 

アーミヤが答える。

 

「廃都市で戦った時も、周囲一帯が凍りました」

 

「随分厄介そうだな」

 

「……強いです」

 

返事まで少し間があった。怖い、というだけではないらしい。

 

「前に会ったんだよな」

 

「はい」

 

そこまでは前に聞いている。廃都市で偵察隊を救出する途中、フロストノヴァと交戦したことも、戦えなくなって撤退したことも。ただ、アーミヤの表情を見ると、それだけではなさそうだった。

 

「何かあった?」

 

アーミヤがドクターを見る。ドクターもこちらを見た。

 

「地面が崩れた」

 

「それは聞いた」

 

「その時、私とフロストノヴァが一緒に地下へ落ちた」

 

初めて聞く。歩きながら続きを待つ。

 

「上ではロドスとスノーデビル小隊が一時的に戦闘を止めた。双方の指揮官を掘り出すために」

 

「……一緒に?」

 

「ああ」

 

敵同士で、ついさっきまで殺し合っていた相手と。

 

「地下では?」

 

俺が聞くと、ドクターが少し考えた。

 

「話をした」

 

それだけ答えた。詳しく聞こうとしたところで、前方から声が飛ぶ。

 

「生存者です!」

 

全員がそちらへ向かった。

 

◇

 

崩れかけた建物の陰に、数人の住民が集まっていた。感染者もいれば、非感染者もいる。近衛局の隊員が確認していたが、その中に幼い子供を抱いた女がいた。怪我はなく、服にも戦闘の跡はほとんど見えない。それでも、ひどく怯えていた。

 

「こちらへ。安全な場所まで案内します」

 

アーミヤが声を掛ける。女はすぐには動かなかった。子供を抱き寄せ、何かを必死に説明している。近くにいた隊員が聞き取り、途中で表情を変えた。

 

「どうした?」

 

俺が尋ねると、隊員が答えた。

 

「この二人……レユニオンに助けられたそうです」

 

一瞬、聞き返しそうになった。

 

「レユニオン?」

 

「白い髪の女と、その部下だと」

 

アーミヤが女を見る。

 

「……フロストノヴァ」

 

名前が小さく漏れた。

 

聞けば、母子が建物の中へ取り残されているところを、スノーデビル小隊が見つけたらしい。二人は感染者でもレユニオンでもなかったが、それでも安全なところまで逃げろと外へ出されたという。その話を聞いている間、子供がアーミヤの耳を不思議そうに見ていた。怖がってはいない。少なくとも、ここへ来る途中でレユニオンから何かされた様子はなかった。

 

「この人たちを避難所へ」

 

「了解です」

 

オペレーターへ任せる。母親は何度か頭を下げてから歩き出した。子供も肩越しにこちらを見る。その姿が角を曲がって消えるまで、アーミヤは黙って見送っていた。

 

「敵なんだよな」

 

俺が言う。

 

「……はい」

 

「フロストノヴァは」

 

「今は、敵です」

 

アーミヤはそう答えた。敵だから人を助けないわけではなく、味方だから正しいことだけをするわけでもない。今日、黒い雨合羽を見たグレースロートの顔を思い出す。

 

「敵って言葉だけで見れば、随分簡単なのにね」

 

テレジアが母子の消えた方を見る。

 

「便利すぎるんだよ」

 

「ええ」

 

あれは敵、これは味方。そう決めてしまえば考えることは減るし、その方が戦いやすい。だからこそ、たぶん危ない。

 

◇

 

別の区画でグレースロートと合流した。腕に包帯が巻かれている。その少し後ろにはブレイズ。今朝は、二人の間には目に見えて距離があった。今は少し違った。近いわけではないが、互いを避けてもいない。

 

「怪我したの?」

 

俺が聞く。

 

「大したことはありません」

 

グレースロートが答える。ブレイズが横から口を挟んだ。

 

「感染者の子供を守ろうとして無茶したの」

 

グレースロートの眉が僅かに動いた。

 

「説明する必要ありました?」

 

「別に隠すことでもないでしょ」

 

それ以上は続かなかった。今朝、感染者に対するグレースロートの考え方を巡って、あれだけ空気が張り詰めていた二人だ。何があったのか細かく聞かなくても、少しは分かる。

 

「子供は?」

 

「無事です」

 

グレースロートの返事は早かった。それで十分だった。

 

「そう」

 

テレジアが二人を見ている。

 

「半日でも、人の見方って変わるものなのね」

 

俺は返事をしなかった。ブレイズも、グレースロートも、たぶん今朝のままではない。変わったというより、知らなかったものを一つ知っただけなのかもしれない。

 

◇

 

スラム街の奥では、戦闘が続いていた。直接そこへ入ることはなく、俺たちはそこから逃げてくる住民と負傷者を受け入れていた。

 

報告だけが次々に入る。スノーデビル小隊が撤退路を維持している。そこへレユニオンの残存兵が集まっている。龍門近衛局が接近。黒い雨合羽の部隊も戦闘へ入った。フロストノヴァが広範囲のアーツを使用。そして、端末から聞こえた言葉に眉を寄せた。

 

「唯一の退路?」

 

『他の経路は崩落しています。現在使用できるのは一か所だけで、そこをスノーデビル小隊が維持しています。レユニオンだけでなく、周辺住民も逃がしていることが確認されています』

 

さっきの親子だけじゃない。

 

その間にも負傷者が運ばれてくる。感染者も非感染者もいて、服装だけを見ても、どちらなのか分からない人間もいる。避難所の入口で、近衛局の隊員が声を上げた。

 

「感染者はこちらへ!非感染者は奥の――」

 

「待って」

 

思わず口を挟んだ。隊員が振り返る。すぐそばでは、腕から血を流した男が壁にもたれている。感染者だった。反対には、ほとんど怪我のない非感染者の家族が立っている。

 

「分けるのはあとでいい」

 

「ですが、感染者と非感染者を同じ場所に入れるのは――」

 

「今は怪我の重い順に診てくれ」

 

医療班を見る。

 

「歩ける人は奥へ。動けない人を先に運ぶ。感染者かどうかは、そのあと確認すればいい」

 

隊員はまだ迷っていた。無理もない。龍門では、それが普通なのかもしれない。

 

「目の前で死にかけてる人間に、先に感染者かどうかを聞く必要ある?」

 

返事はなかった。少しして、医療オペレーターが先に動いた。

 

「重傷者から診ます。こちらへ!」

 

周囲もそれに続く。壁にもたれていた感染者が担架へ乗せられ、そのすぐ後ろでは非感染者の老人が処置を受ける。同じ場所で、同じ順番の中で。

 

「さっき言っていたことね」

 

テレジアが俺の横へ来る。

 

「何が?」

 

「感染者だから、レユニオンだから。それだけで決めたくないって」

 

自分で言ったことくらい覚えている。ただ、言った時と、実際に目の前で決める時では少し違った。

 

「……別に、大したことしてないだろ」

 

「そうね」

 

テレジアは否定しなかった。

 

「普通のことよ」

 

今朝、アーミヤの指示を聞いて、普通のことを言っていると思った。普通のことほど、戦場では忘れられる。なら、今度は俺が忘れなければいい。

 

「セラスティア!」

 

別のオペレーターが走ってくる。

 

「南側で建物が崩れました!避難民が巻き込まれています!」

 

「行く」

 

反射的に答える。アーミヤもこちらを向いた。その直後、別方向から近衛局の通信が入る。スノーデビル小隊のいる区画へ、チェン長官たちも向かっているらしい。

 

「アーミヤ」

 

ドクターが呼ぶ。彼女は南側と、冷気の立ち込める奥を交互に見た。

 

「セラスティアさん。南側をお願いできますか?」

 

「ああ」

 

「私たちは、ここに残ります」

 

それ以上は聞かなかった。俺には俺の持ち場があり、アーミヤにはアーミヤの場所がある。

 

「頼んだ」

 

「はい。そちらもお願いします」

 

走り出す。後ろからテレジアもついてくる。スノーデビル小隊のいる方角とは逆だった。一瞬だけ、そちらへ目を向ける。白い霧のような冷気が、遠くの建物の間から立ち上っていた。

 

「行かなくていいの?」

 

テレジアが聞く。

 

「俺の場所はこっち」

 

答えて前を見る。今は、ここに助けを必要としている人がいる。

 

◇

 

崩れた建物から最後の一人を引き上げた頃には、戦況が大きく動いていた。

 

俺が戻ると、先にアーミヤの姿が見えた。近くにはドクター。少し離れた場所にはチェン長官もいる。ブレイズも戻ってきていた。誰もすぐには口を開かなかった。その空気だけで、何かが終わったと分かる。

 

「アーミヤ」

 

呼ぶと、こちらを見る。顔色が悪い。

 

「スノーデビル小隊は?」

 

少し間があった。

 

「……見届けました」

 

それだけで胸の奥が重くなる。アーミヤは続けた。

 

「フロストノヴァをファウストの部下たちに託して、自分たちは残りました」

 

「何のために?」

 

「撤退する感染者の人たちを逃がすためです」

 

フロストノヴァだけじゃなく、逃げていく感染者たちのために。

 

「フロストノヴァを逃がすために残って、黒い雨合羽の部隊を足止めしました。そのあと、近衛局とも交戦して……」

 

アーミヤは一度、視線を落とした。

 

「それでも、最後まで退きませんでした」

 

ブレイズが拳を強く握っている。助けようとしたのだろうが、間に合わなかった。

 

「生存者は?」

 

アーミヤは首を横に振った。行けば間に合ったのか、と頭に浮かぶ。でも、その時、俺は別の場所で崩れた建物から人を助けていた。両方には行けない。前に分かったつもりだったが、こういう時だけは簡単には飲み込めない。

 

「行きたかった?」

 

テレジアが静かに聞く。

 

「……ああ」

 

「そう」

 

「でも、俺が行かなかったから助かった人もいる」

 

「ええ」

 

テレジアは、どちらが正しいとも言わなかった。その二つが同時にあるだけだった。

 

「本人たちが選んだんだよな」

 

俺が呟くと、アーミヤが頷いた。

 

「はい」

 

誰かを逃がすために残る。その気持ちなら、少しくらいは知っている。

 

◇

 

しばらくして、俺たちも戦闘の跡が残る区画へ入った。路面が割れている。壁は凍りつき、ところどころ黒く焼けていた。近衛局の戦闘だけではない。黒い雨合羽の部隊が通った跡なのだろう。

 

倒れている者の中に、スノーデビル小隊の服が見えた。一人ではない。少し離れた場所にも、さらに奥にも。誰も動かない。俺は一人のそばへしゃがんだ。もう確認する必要もなかった。

 

「……最後まで、ここを守っていました」

 

後ろでアーミヤが言う。誰を守ったのか。フロストノヴァ、逃げていく感染者たち、あの道を通った龍門の住民もいた。それを全部逃がすために、ここへ残った。

 

「馬鹿だな」

 

言葉が漏れた。テレジアがこちらを見る。

 

「逃げればよかったのに」

 

自分でも、誰に向けて言っているのか分からなかった。倒れている相手か。フロストノヴァか。それとも、似たようなことを何度もしてきた自分自身か。

 

「本人たちは、そうしたかったのかもしれないわ」

 

テレジアが言う。

 

「誰かに命令されたからではなくて?」

 

「分からない」

 

俺には確かめようがないが、アーミヤは、その最期を見ている。

 

「だから嫌なんだよ」

 

「何が?」

 

「分かるところがあるのが」

 

レユニオンなのに、敵なのに、と続けそうになってやめた。それこそ、さっきまで考えていたことと同じだ。

 

テレジアは何も言わず、亡骸のそばへしゃがむ俺の隣にいた。触れられなくても、いつものように。

 

◇

 

大きな戦闘は、もう終わりへ向かっていた。レユニオンの残存部隊は撤退し、龍門近衛局も追撃の範囲を狭めている。作戦の確認が続く中、聞き慣れた声がした。

 

「ドクター」

 

ケルシーだ。ドクターが振り返る。ケルシーはアーミヤや俺ではなく、真っ直ぐドクターの前へ向かった。少し離れたところで二人が話し始める。全部は聞こえない。それでも、いくつかの言葉は届いた。龍門は、これ以上逃げた感染者を執拗に追わないこと。龍門側の戦いは、ここでほぼ終わること。そして、ロドスには、まだやるべきことが残っていること。

 

「……強制はしない」

 

ケルシーの声が聞こえる。ドクターは黙っている。

 

「ここから先に参加しないという選択肢もある」

 

少し間が空いた。

 

「だが、お前なら行くだろう」

 

ドクターが顔を上げる。

 

「相手がメフィストであろうと、フロストノヴァであろうと」

 

返事は短かった。

 

「ああ」

 

ケルシーはそれ以上、引き止めなかった。話を終えたドクターがこちらへ戻ってくる。

 

「行くの?」

 

俺が聞く。

 

「ああ」

 

「フロストノヴァを?」

 

「メフィストも。フロストノヴァも」

 

その言葉を聞いて、アーミヤも一歩前へ出た。

 

「私も同行します」

 

ドクターがアーミヤを見る。彼女の表情に迷いはなかった。

 

俺は少しだけ考えた。倒れていたスノーデビル小隊、助けられた親子、メフィストの牧群、ファウスト。全部同じレユニオンだった。それだけでは何も分からない。

 

「俺も行く」

 

言ったあとで、自分がテレジアへ何も聞かなかったことに気づいた。テレジアが少し笑う。

 

「何?」

 

「何でもないわ」

 

それ以上は聞かなかった。

 

◇

 

龍門の下層へ向かう途中、ドクターの隣を歩いた。

 

「さっきの話」

 

「フロストノヴァ?」

 

「ああ。地下では何を話した?」

 

少し沈黙が続く。

 

「スノーデビル小隊のことを家族みたいに思っている」

 

ドクターは前を見たまま答えた。

 

「みんなが生きられる場所を作ると約束していた」

 

さっきまで見てきたものと繋がる。

 

「それから、今のレユニオンにも疑問を持っていた」

 

「タルラに?」

 

「ああ」

 

ドクターが頷く。

 

「タルラが本当に感染者を裏切っているなら、自分で確かめるつもりだった」

 

少し間が空く。

 

「必要なら、自分で戦うつもりでもいた」

 

レユニオンの幹部だから従っている、という単純な話でもなかったらしい。

 

「それで、地下から出たあとも話した?」

 

「ああ」

 

「ロドスへ誘った?」

 

ドクターがこちらを見る。

 

「どうして分かった?」

 

「そこまで話せたなら、そのくらい言いそうだと思っただけ」

 

「掘り出されたあとに誘った」

 

地下での会話とは別だったらしい。

 

「答えは?」

 

「戦って、私たちが勝てたら考える、と」

 

少しだけ足が緩む。

 

「何だそれ」

 

「次に会えば敵だとも言っていた」

 

「……じゃあ、今から会うのがその次か」

 

「ああ」

 

隣でテレジアが小さく笑った。

 

「随分と物騒な再会になったのね」

 

「誘ったのはドクターだけどな」

 

もちろん聞こえていない。アーミヤが少し前を歩いている。その横にはブレイズ。グレースロートもいる。スノーデビル小隊はもういないが、まだフロストノヴァは生きている。話せる。選べる。少なくとも今は、まだ。

 

「セラスティア」

 

テレジアが呼ぶ。

 

「何?」

 

「会ったら、何を言うの?」

 

考える。答えは出なかった。

 

「分からない」

 

「そう」

 

「まず本人を見るよ」

 

名前でもレユニオンでも、誰かから聞いた話でもなく、自分の目で。

 

◇

 

下層へ進むにつれて、空気が冷たくなった。吐いた息が白い。壁に霜が浮かび、靴の下で薄い氷が割れる。ブレイズが前へ出た。

 

「近いね」

 

アーミヤも足を止める。誰も声を上げない。

 

通路の奥、薄暗い場所に、一人の女が立っていた。白い髪、長い耳。身体には隠しきれないほど源石の痕があり、呼吸も浅い。遠目でも、限界に近いと分かる。それでも、こちらを見る目だけは、まったく弱っていなかった。

 

アーミヤが一歩前へ出た。

 

「……やっぱり、ここにいたんですね」

 

白い女の視線がアーミヤからドクターへ移る。ドクターも彼女を見返した。

 

「こんにちは、フロストノヴァ」

 

一瞬、静かな間が落ちる。それから彼女は、俺たち全員を見るように視線を動かした。足元から冷気が広がる。テレジアが俺の隣で、その姿を見つめている。フロストノヴァは浅く息を吐いた。

 

「……こんにちは、ロドス」

 

今度は、名前だけではなかった。

 

目の前にいる。

 

一人の人間として。

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