明日もきっと
ー2018年 10月30日ー
「優!明日はハロウィ〜ンだよ!!」
時量の寮の部屋の扉をバンッ!と開けてそんな事を宣う五条。
「へ?ハロウィン?あっ、そっかぁ!明日か!」
五条の言葉に一度考え込み、カレンダーの方を向いて大声を出す。
「優、昔からイベント事にあまり触れてこなかったって話してたじゃん?だから明日は1年生全員で渋谷ハロウィンを楽しんじゃおう!!」
両手を顔の横で合わせてニコニコと提案をする五条、その言葉を聞いて時量は首が取れるのかという速さで頷く。
「うん、うん…!!ありがとおにーさん!!絶対に行こうね!約束だよ!」
時量は小指を差し出す。その小指に五条は笑みを浮かべながら自身の小指を絡ませた。
「「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!ゆびきった!!」」
「えへへ…」
時量は明日の約束のため、いつもより早く床に就いた。
ーーーーー
ー2018年 10月31日ー
19時丁度、東急百貨店東横店を中心に半径およそ400メートルの帳が降ろされる。
ー文化村通り道玄坂2丁目東【帳内】ー
「どうなってんだ!!!」
「何で通れないの!?」
帳内に閉じ込められた一般人の怒号が飛び交っていた。
「早く五条悟を連れてこい!!」
「五条って誰だよ?」
「知らねぇよ!!でもソイツが来ねぇと出られないって言われたんだよ!!」
「誰に?」
「知らねぇよ!皆だよ!!」
言い合う一般人のすぐ後ろ、その帳がトプンッと揺れる。帳の外から掌が侵入してきた。
ドンッ、という音と共に入ってきた人間がぶつかる。
「痛っ…!」
倒れ込んだ一般人を見て侵入してきた人間…『五条悟』はひと言呟く
「あ、ごめん」
ー20時31分 五条悟 現着ー
ーーーーー
「こりゃ酷い…」
五条は現在、地下ホーム上空にて佇んでいた。
((この下を中心に、外と同じ一般非術師を閉じ込める帳が降りてるのか…))
そこまで考えて五条は自身が立っていたアーチから下の群衆に向けて飛び降りる。そのまま空中を浮遊し、地下鉄線路上空へと歩いていった。
「ふぅん…何となく狙いは分かったかなぁ……」
((優との約束を無下にしてしまってムカついてるし…))
「乗ってやるよ」
ーーーーー
「あ?」
地下鉄に佇む五条のさらに上空。植物の根の様なものが地下鉄の空中を覆い、逃げ道を無くした。
「はぁ…んなことしなくたって逃げないよ、僕が逃げたらオマエらここの人間全員殺すだろ?」
嘆息しながら目の前の呪霊と思われる三体にそう話しかける五条。
「逃げたらか…回答は…」
呪霊の言葉が紡がれるその瞬間、駅のホームドアが開かれ、多くの一般人が悲鳴と共に線路内に落ちてくる。
「逃げずともだ!!!」
落ちてきた人間を手で制しながら五条は警告して、呪霊を見据える。
「下がって、死ぬよ」
((ああ…さっきの出口塞いだのは、向こう側に人間が居るか分からなくするためのブラインドみたいなものか))
「キェァァァァッ!!」
「……、」
呪霊2体が駆け抜けながら燃やし、潰し、もぎ取り、一般人を大量に殺害、血の雨が舞う。
「赤血操術…苅祓」
もう一体の呪霊?がしゃがみ込みながら血の球体を作り出し、そこから高圧の血のレーザーを五条へ向けて放つ…が無下限によって止められる。
『ハァァァァァッ!!』
しかしその血が目隠しとなり、駆け抜けてきた呪霊2体の拳が無下限へと突き刺さる。
『領域展延!!』
ゴリゴリと五条の無下限を削りながら拳が迫る。その様子を見て顎に手をやり少し考えこんだ後、五条は瞬間的にホームドアの上へ移動する。
「なるほど…というか、呪詛師と組んでんだからそう来るか」
((領域展延…優が使ってるのを見てたから警戒はしてたが…やっぱり使ってくるよねぇ…))
考え込む五条、すると五条の上空に何者かが転移してきた。
「おにーさん!お待たせっ!!」
「…!!優!」
ニヤリと笑った五条は、時量とハイタッチして呪霊達を見据えた。
ーーーーー
「そこの雑草、会うのは三度目だな…まずはオマエから
「任せてよ、ちゃちゃっとお掃除しちゃうよ〜!」
((もう一人の特級術師…!!どうなっておるのだ夏油…!!このままでは我々の本懐は成し遂げられんぞ!!))
「考え事禁止っ!!」
五条より速く、術式によって加速した時量が火山頭の呪霊…『漏瑚』に飛び蹴りを食らわせた。
「グボァッ!!」
口から紫色の液体を噴出し、線路内奥へと吹き飛ぶ漏瑚。その様子を見ながら五条も植物型の呪霊…『花御』へと突きを食らわせた。
「やるね!優!」
((コレなら心配いらないね、正直助かるな…優の術式なら一般人を結界で守りながらの戦いも容易だろ))
「グゥ!!ハァ!!」
漏瑚は指をクンッと上げて線路内の壁に小型の火山を作り出した。その火山から極高温の炎が時量に向けて放出される。
が、時量は空間を歪ませて炎を別の座標に転移させる事で無効化、そのまま駆け抜けて漏瑚の片腕をボキリともぎ取った。
「はい無駄っ!!」
「グガァッ!!?」
一方五条は漏瑚の様子に助けに入ろうとした花御を壁へと吹き飛ばし、自身の無下限によりゴリゴリと圧をかけ潰そうとしていた。
耐える花御だが、体はもうボロボロ、虫の息である。その様子に気づいた漏瑚は時量から離れて一般人に掌を向け叫ぶ。
「五条悟!!こっちを見ろ!!」
掌の炎を一般人に向け脅すことで五条の注意を逸らそうとする漏瑚。しかしその様子を無視しながら更に圧力をかけ続ける。そのうちバチュンッ!!という音をたてながら花御は無下限の圧力に潰された。
「花御……」
呆然とする漏瑚に五条は目をやる。
「次」
それは最強の呪術師による死刑宣告であった。
ーーーーー
漏瑚は五条の周りを高速で走り回る。
「脹相!!協力しないのであれば、貴様から殺すぞ!!!」
もう一体の呪霊?『脹相』にそう怒鳴る漏瑚。
「はいはい…」
脹相はそう言って圧力をかけた血液を一般人を貫くように放った。
「ソレはダメ」
しかし血液が一般人を貫く直前に時量が血液を結界により受け止めた。
((付かず離れず…でもソレも限界でしょ。呪霊が見えない人たちが僕を避け始めた。このまま人が減り続けスペースが出来れば火山頭を獲られられる…優のおかげで一般人への被害もかなり抑えられてる。さっきみたいに術式を解いて誘うのはナシだな…コッチの狙い、近接フルボッコはもう晒したし、距離をとって九相図と人混み越しに大技を出されても面倒だ…今まで助けられなかった人たち…ごめん…その代わり絶対祓ってやる…!))
((まだか!?もう20分は経ったハズだ…!!時量優も現れた今…もう余裕は無いぞ!?))
漏瑚の思考を読んだように、線路の奥深く、そこに居座る夏油は呟く。
「まだまだ…五条悟全然余裕じゃん…もっとヒリヒリしないと」
ーーーーー
『8両編成で参ります…』
戦闘中…ふと電車のアナウンスが聞こえた。
「あ?」
五条が違和感を覚える。
そのアナウンスを聞いて一般人は我先にと電車へと群がった。
車輪から火花を上げて到着する電車…その中に居たのは…
大量の、改造人間であった。
一般人の悲鳴が鳴り響く、次々と喰われる。怒号、威圧、叱責…負の感情が入り乱れる。
「何考えてやがる…!?」
「おにーさん!!早く止めないと!」
余りに急な出来事に混乱する五条に声をかける時量。その声にハッとした五条は構える。
「漏瑚〜!!スゥ~!!いやぁ…空気が美味しいね!!恐怖が満ちてる!やっぱ人間少しは残そうよ!週末は森に放して狩りをするんだ!!」
電車から現れたのは改造人間を作り出した諸悪の根源、「真人」
暫く二人で話した後、五条に攻撃を仕掛けてきた。
真人は自身の腕を刃物の様に変化させ、五条を貫こうとする。が、やはり無下限によって止められた。
「ハハッ!マジで当たんない!!」
((ツギハギ…!!七海と悠仁が言ってたヤツか!!))
五条は無下限越しに真人の拳を振り払い自身の打撃を食らわせようと拳を突き出す。
真人はその拳をしゃがみ避けて空中へ飛び上がった。
「人間のキショい所教えてやるよ!…い〜っぱいいるトコ」
真人は指を空中へ向けながらそう話す。すると植物の根によって塞ぎ止められていた地下鉄上空、その根が崩れ宙から一般人が落ちてくる。
『無為転変 多重魂 撥体』
『赤血操術 百斂 穿血』
真人と脹相の攻撃が一般人達へと向かう。
「させないよっ!」
くるりと手を回して真人と脹相の攻撃を空間ごと消去する時量。
「チッ…!」
「アイツも面倒だね〜」
そんな事を呟きながら真人は内心で考える。
((五条悟は虎杖悠仁とは違って冷酷さを持ち合わせている事は知っている…ある程度の犠牲を前提として、確実に俺等を祓いに来るだろうと、だが死者が増え生者も増え続けるこの状況ではその『ある程度』の天秤はもう機能しない…!))
((貴様が今すぐしなければならないのは無量空処で儂らと人間を皆殺しにし領域外の人間を救うこと…だがソレは出来んだろう…!貴様が想定している犠牲は、呪霊に殺される人間であって五条悟に殺される人間ではないからだ!考えろ…!迷え…!集中するのだ…!!))
この危機的状況…五条悟が取った行動は…
『…!!?』
「マジか!?」
ー領域展開
無量空処ー
一瞬にして虚空が広がる…その虚空は直ぐに消えたが、巻き込まれた呪霊、改造人間、一般人はその場に呆然と立ち尽くしていた。
五条は改造人間に駆け出す。
一か八か0.2秒の領域展開…!!
「おにーさんナイス!!」
時量は展開された無量空処に反応し、咄嗟に簡易領域を発動。駆け出す五条に続き改造人間を屠る。
二人で一般人の間を抜ける、通り際に改造人間が次々と葬られる。
((やっぱり優は僕の領域に対応してくれた…!!コレなら予想より速く…改造人間を殲滅出来る!!))
一体、また一体と改造人間が地に堕ちる。
現代最強の呪術師、現代最新の特級術師…五条悟と時量優は地下5階に放たれた改造人間凡そ1000体を…領域解除後僅か199秒で、鏖殺。
「おにーさんお疲れ様っ!……おにーさん?」
時量が五条に声を掛けるが反応が無い。五条の目線の先には…正方形の何かが…落ちていた。
ーーーーー
((あの呪物内の結界とも違う領域…!!アレは
「おにーさん!!今すぐそこから離れ…」
呪物内の情報を術式故に読み取ってしまった時量、時量は直ぐにその場から離れるよう五条に伝えようとする。しかしその時、『声』が響いた。
『獄門疆 開門』
正方形の呪物『獄門疆』が開く、血の滴る大きな眼球が、五条を捉えた。
「…!」
五条はふと我に返り、反対方向へと逃げようとする…
が、獄門疆の方から声が聞こえた。
「や、悟」
「…は?」
その声に思わず振り返った五条。
五条は目を見開く、そこに居たのは…紛れもなく
「…久しいね」
去年、自身が殺したはずの…親友。
((偽…者?変身の術式?…いや違う…本物!!))
薄い笑みを浮かべた五条。
五条悟の脳裏に溢れ出す…忘れられない『三年間の青い春』
そんな五条悟の脳内時間では…一分など疾うに…
一瞬で消え去った獄門疆が、五条の体に張り付く。拘束される五条。
「…!!?」
「おにーさん!!」
五条に駆け寄る時量だが、夏油が指を軽く振ると時量の周りの空間だけが停止した。
その場に駆け寄る姿勢で固まる時量を眺めて夏油は呟く。
「君には用が無いからね…この世界から空間を切り取り別の次元に貼り付ける特級呪物…『亜空恐紙』…君なら1時間もかければ脱出できるさ…にしても、ダメじゃないか悟…戦闘中に考え事なんて…」
薄ら笑いを浮かべて五条にそう問いかける夏油。
((優が事実上戦闘不能…呪力が感じられない…体に力も入らん…詰みか…))
「で?誰だよ、オマエ」
「夏油傑だよ…忘れたのかい?悲しいねぇ」
「肉体も呪力も…この
勢い良く噛み付いてくる五条、その様子を見た夏油は顔を歪ませて笑みを浮かべる。
夏油は額の縫い目から糸を引き抜く…
「キッショ…なんで分かるんだよ」
夏油は額の縫い目から上の部分を取り外し、脳味噌を露出させながらそう言う。
「…!!」
「そう言う術式でね…脳を入れ替えれば肉体を転々と出来るんだ…勿論、肉体に刻まれた術式も使えるよ?彼の呪霊操術とこの状況が欲しくてね…君さぁ…夏油傑の遺体の処理を家入硝子にさせなかったろ?」
額を元に戻しながら話を続ける。
「変な所で気を遣うね…おかげで、楽にこの体が手に入った。心配しなくても、封印はそのうち解くさ…100年…いや1000年後かな?キミ強すぎるんだよ…私の目的に邪魔なの」
そんな夏油を見据えて五条は笑みを浮かべる。
「ハッ!忘れたのか?僕に殺される前、その体は誰にボコられた?」
夏油は顔をしかめながら答える。
「乙骨憂太か…私は彼に、そこまで魅力を感じないね。無条件の術式模倣、底なしの呪力…どちらも最愛の人の魂を抑留する縛りで成り立っていたにすぎない。残念だけど、乙骨憂太は君には成れないよ…そうだな…」
そこまで言って、夏油は宣誓する。
「次の肉体は…
夏油の言葉に五条は強く反応する。
「オマエッ!!そんな事をしてみろ…!!必ず!何処までも追いかけて…!殺してやるからな…!!」
「おお…怖いね、そろそろおしまいにしようか…おやすみ五条悟、新しい世界でまた会おう」
「…僕はな、オマエはそろそろ起きろよ、何時まで良いようにされてんだ、傑」
五条の言葉が夏油傑の肉体へと届く…彼の右手が、反応した。
「…?…!?!?」
夏油の右手が他ならぬ夏油自身の首を強く締め付ける。
「クックック…ハッハッハ!!!凄いな!?始めてだよ!こんなの!!」
五条と夏油の周り、佇む一般人を一人押し倒して、今さっき起きた呪霊、真人は夏油へと話しかける。
「げとぉ〜…」
「真人、見てくれ!!君は魂は肉体の先に在ると述べたが、やはり肉体は魂であり、魂は肉体なんだよ!でなければこの現象にも、入れ替え後の私の脳に、肉体の記憶が流れて来るのにも、説明がつかない」
夏油は左手で右手を離しながら興奮気味に演説する。
「ソレって一貫してないといけないこと?俺と夏油の術式では世界が違うんじゃない?」
「術式は世界か…良いねぇ…素敵だ」
「おぉ〜い」
夏油と真人の会話を遮る様に五条の声が響く
「やるならさっさとしてくれ、むさっ苦しい上、眺めも悪い」
「コチラとしてはもう少し眺めていたいが…そうだね」
夏油は時量を見つめる。
「何かあっても嫌だし…」
夏油はニコリと微笑んで呟いた。
『閉門』
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