カドゲ世界で「このカードが君の所に行きたがっている」屋さんになった 作:ユ◯ギさんみたいになりたい
カードゲーム世界は、カードが何よりも大事だ。
特に他人から送られたカードは、物語において重要な役割を果たす事が多い。
別に使われないことも多いが。
それでも、カードを送ればその人の窮地をカードが救ってくれるかも知れないのである。
だからカドゲ世界に転生した俺も、誰かにカードを送ってみたいと思った。
いわゆる、アレだ。
「このカードが君のところに行きたがってる」
ってやつ。
ああいうの、かっこいいよね。
というわけで、なった。
折角なのでそれを仕事にしようということで、カードショップを開いたのだ。
しかし、考えても見てほしい。
カードゲーム世界というのは、変人が多いホビアニ世界の中でも変な人が特に多い。
正統派ホビアニ系ギャグキャラや、シリアスにやってるのに変な人を始め、とにかく多種多様だ。
そんな奴らが俺のところにやってくるということは、それだけ変な奴らに振り回されるということだ。
まぁ、それはそれで楽しいんだけどな。
俺は別にホビアニ世界でカードのチャンピオンになろうとか思ってないし。
世界を救うための戦いに身を投じたいわけでもない。
それを遠巻きに眺めながら、楽しく生きられればそれでいいのだ。
が、しかし。
そんな普通の転生者である俺は、どういうわけか店にやってくる変人と同類扱いを受けてるんだよなぁ。
そんなことないだろ……多分。
■
俺の店は、札山市という如何にもカード世界っぽい名前の街の一角にある。
比較的奥まったところにあるこじんまりとした店。
名前を「カードが君の所に行きたがってる」という。
略してカード
なんか魔法界にありそうだけど。
──ちりんちりん。
「いらっしゃい」
で、そんな店にも客というのはそこそこやってくる。
週末にはショップ大会があって、そこでは常連客がわんさかと。
平日はほとんど人が来ないけど、その分濃いめの来客が多い。
具体的には──
「あ、あの……こ、ここでカードが買えるんです……か?」
「ああそうだぞ、今日はどんなカードを探しに来たんだ?」
「こ、このデッキに必要なカードが……ほしくって」
──今回の場合は、一見すると気弱な雰囲気の少女である。
ふんわりとした黒髪と、クソデカイアホ毛。
目は片方が髪に隠れていて、口元は緊張できゅっとしている。
年の頃は小学生くらいだろうか、ワンピース姿の少女だ。
どこにでもいる、平凡な見た目の少女に見える。
しかし、それが逆に
カードゲーム世界においては、髪型がすごかったり髪色がすごかったりは当たり前。
中にはそれどうやってセットしてるんだ? ってやつも多い。
そんな中で、あまりにも平凡すぎる見た目は、いわゆるアレだ。
「──君は、運命に選ばれたんだね」
「えっ!?」
まぁ、主人公にも蟹だのエビだの変な髪型は多いが、こと女の子が主人公になる場合は普通の髪型に落ち着くことが圧倒的に多いだろう。
女の子主人公のカードゲームアニメって滅茶苦茶希少だけどさ。
なんならちょっと地獄みたいなアニメも多いけどさ。
いや面白くはあるんですけどね? こう、人間関係とか……
ともかく。
「そのデッキ、誰から譲ってもらったものなのかな?」
「えと……今は遠くに行ってしまっているママのデッキ……です」
「そうか……それは大変だね」
俺は、彼女が差し出してきたデッキを許可を得て受け取る。
そうして中を見ていくと、概ね思った通りのものだった。
遠くに行ってしまった──カドゲ世界だと死んでも復活は結構あるので、行方不明扱いでいいと思う──母親のデッキということで、カードの大半は十年以上前のカードだ。
中には禁止制限で使えなくなっているカードもあり、このまま使うとデュエマの漫画版第一話みたいになりそうである。
まあ、その前にデッキを持ってきてくれたんだから、ここはいい感じに現代風にしてしまおう。
「そうだね、少し待っててくれ」
言いながら、俺はデッキを少女の元に返して、カウンターからカードを持ってくる。
確かこの辺にあったかな、とかそれっぽいことを言いつつカウンター裏のカード置き場から、ごそごそと。
実際には、別にどこにカードがあってもいいんだけど。
今回の場合は──
「あった、ここだ」
俺の視界には、ぽわっと光を帯びているカードが一枚見えている。
カードを送るにあたって、必要なカードを簡単に見つけ出せるよう身につけた技術だ。
そして、見つけ出したカードを俺は少女の元へ持っていく。
さて、ここからが俺にとって一番楽しい所、要するに──
「──このカードが、君の所に行きたがっている」
そうして差し出すカードに、少女は視線を奪われていた。
くぅ~これこれ、これを言う時が一番楽しいのだ。
相手がカードに興味を示し、俺の差し出したカードに意識を奪われる。
その時、人は色んな表情を見せるのだ。
興味深そうにするもの、楽しそうにするもの、不安そうにするもの、渇望に満ち溢れたもの。
彼女の場合は、どうだろう。
その瞳は──
──
「……すごい」
それは、衝動でもある。
勝ちたいという欲求。
勝利への飽くなき探究心。
眼の前の相手をくらい尽くそうという、獰猛なまでの本能。
それを、先程までおどおどしていた少女の瞳が纏っていた。
なんという、力強い意志。
これが主人公の器っていうやつだ。
めっちゃ闇堕ちしそうだけど。
まあ青春のお痛は勲章だから……
「──いいね。このカードは君にあげるよ」
「えっ!? で、でもここ……お、お店なんですよね?」
「まぁ、普通に考えればよくないし、一緒に働いてる店員からは滅茶苦茶怒られるんだけど──君には素質がある」
まあこれ、カードを渡す相手には全員に言ってるんだけど、それはそれとして。
俺は少女に視線を合わせながら語りかける。
「君には、とても強い勝利への渇望が感じられる」
「え……っ!」
「それを指摘されるのは初めてかな? 何にしても、俺はその意思が誰にも妨げられず、高く飛翔するところを見てみたい」
これは俺の観察眼──主にメタ読みによる経験則──が告げている事だが、この子はとにかく負けん気が強い。
誰にも負けたくない。
勝って勝利の美酒に酔いしれたい。
そんなあまりにも強い欲望を心のなかに秘めている。
しかしそれを、気弱な心がひた隠しにしてしまっているのだ。
きっと、色々な理由があるのだろう。
さすがにそれら全てを把握することはできない。
だが類推はできる。
なぜなら
「君は
「あ……」
カドゲ世界のカードは魂と同じ。
そこからその人の本質を読み取ることは難しくない。
そしてそれをいい感じに話すと「カードが君の所に行きたがってる」屋さんとして雰囲気が出るのだ。
いやまあ、読み取るのはそこまで難しくないんですけどね。
何しろ俺が渡したカードが〈飛翔竜 トレイルブレイザー・ドラゴン〉だし。
「君の名前を聞かせてくれるかい?」
「え、えっと……鳥乃ソラ……です」
「ソラちゃん、いい名前だ」
「あう……」
引っ込み思案なのか、顔を俯かせてしまった。
まあ、気にせずつづけよう。
「──俺は定芽ユキト、この店の店主だ」
「店主さん……」
「俺のことを知ってる人は、だいたいそういうな」
「あ、はい……なんとなくわかります……雰囲気とか……」
この子結構言うタイプだな……?
ともかく、こうして俺はカードをいろんな人に渡していくわけだが……
ソラちゃんの場合は、一枚じゃ足りないんだよな……
いくら何でも……デッキが古い。
制限改定で使えなくなったカードもあるし、汎用も流石にパワーが足りない。
根幹となる【飛翔竜】カードは今でも通用するし、〈トレイルブレイズ〉が割ととんでもパワカなのでなんとかなるんだが。
「さて、ほかにも君のデッキは色々と調整したほうがいいと思うんだが……」
「あ、はい。私も勝つために、デッキを強くしたいんですけど……えと、お、お小遣いが……」
「だよなあ」
人によっては親のデッキであることにこだわりを持つものもいるだろうが、ソラちゃんはそうじゃないだろう。
代わりにお金がない、小学生だしな。
俺も一枚までなら渡しても店員のアリスに怒られるだけで済むんだが、二枚以上となると夕飯抜きにされるからな。
しょうがない、ここはこうするか。
「よし、
「……へ?」
俺はカウンターに置いてある自分用ボードに手を伸ばす。
ディステニー・ロード。
この世界で大流行しているカードゲーム。
人々は常に運命の道を歩き続けている。
それを現実で形にするのがディスティニー・ロードだ。
プレイヤーはライダーと呼ばれ、ライドボードを手に道を征く。
そんなボードに手をかけて……
「ドロー!」
俺はカードを創造した。
「わっ……!」
店内が光に包まれ、それが収まると数枚のカードが。
うん、それもソラちゃんのデッキと相性のいいカードだ。
「というわけで、このカードも君の所に行きたがってるぞ」
「え、あの!? カードの創造ってそんな簡単にやっていいんですか!?」
「いや、わりとみんなよくやってるだろ?」
「こ、こんな気軽にはしませんよお!」
突っこまれてしまった。
いやでも、カドゲ世界ならよくあるだろ?
「とりあえず、受け取ってくれ」
「う、受け取れませんよお! す、すっごい高価なカードもありますよ!?」
「いいんだよ、原価はタダなんだから」
「あ、あううううう!?」
ともかく、そこからも少しすったもんだがありつつ、ソラちゃんにカードを渡した。
さて、俺の渡したカードがどんなドラマを引き起こすのかなあ。
少し楽しみだ。
……それはそれとして、ソラちゃんからは俺を変な人だと思っているオーラが感じとられる。
いや、そんなことは全然ないんですけどねえ?