カドゲ世界で「このカードが君の所に行きたがっている」屋さんになった 作:ユ◯ギさんみたいになりたい
この世界にはダークライダーというやつがいて、まぁ悪い奴らなわけだ。
俺はあまり、こういう奴らと関わることはない。
単純に、自分から積極的に悪を誅するとかそういう意志がないだけだ。
無論、俺がカードを渡した相手に悪いやつが倒されることもあるし、渡したカードが決定打になることもある。
逆にダークライダーになりそうな奴が俺のカードで失敗して反省し、道を正すこともあるだろう。
じゃあ、ダークライダーにカードを渡すことはあるのかって?
それはしていない、そもそも奴らはカードを奪っていく存在であって、渡される存在ではないからだ。
だからまぁ、連中が俺からカードを奪おうとすることはある。
夜の闇に紛れて店にやってきて、カードを持っていこうとするのだ。
そういう連中に俺は──あまり容赦をするつもりはなかった。
■
「へへ! ほ、本物だ……本物の<
闇、夜。
この世界全てが深淵に呑まれたかのような、そんな気配が漂う中。
店に、一人の招かれざる客が訪れていた。
黒装束に身を包んだ男は、手にした一枚のカードを見ながら興奮している。
「行方が解っている二枚……行方がわからない二枚……そして行方はわからないながらも、噂になっている二枚……そのうち噂になっている一枚が……ここに!」
<バハムート>は、各地に散らばっている。
かつての所有者の後継が所有し、使用しているのが一枚。
博物館に寄贈されたものが一枚。
完全に行方知れず──なんらかの最強ライダーが活躍していた時代からどこにあるかわからない──が二枚。
そして、一枚は最強ライダーの隠されたもう一人の後継が所有しているとされ、そしてもう一枚は彼が認めたある男が所有しているという噂があった。
「し、しかし……なんでこんなチンケな店の店主が、こいつを持ってるんだ?」
ただ疑問なのは、かの覇王と呼ばれた最強ライダーは数十年前に既に寿命でこの世を去っていること。
ここの店主は若く、覇王とは顔を合わせる機会がないはず。
であるのに、どうしてこれを所有しているのか。
タイムトラベルでもしていなければ、説明がつかない。
あるいは、覇王の霊から認められたとか?
まさかその時代も生きていたとか、そんなことはあるまい。
なんにしても、そんなことはオカルトだ。
あるわけがない。
そう考えながら、盗人は店から逃げ出そうとした。
その時である。
『──あーあ、あいっかわらず店主は不用心でおバカさんなのだわ』
ふいに、声がした。
それと同時に、ピッキングして鍵はかかっていないはずの扉が開かなくなる。
「ああ!?」
慌てて扉を開こうと何度も押すが、びくともしない。
どころか、扉から盗人でも解るくらい膨大な量の黒いオーラが吹き出しているのだ。
これは、本来この盗人では見ることもできないオーラである。
しかし今回は、あまりにも量が多いために、可視化できてしまっていた。
加えて言えばこいつが、既に”領域”へ引きずり込まれていることも示唆している。
もう、どこにも逃げられないのだ。
「──いらっしゃい」
「っっっ!?」
そして先程から、
男は恐怖に引きつった顔で、こちらにガバっと振り返った。
ちなみに眺めているだけだったのは、男が<バハムート>以外に目もくれなかったからだ。
ケースを破壊して店を荒そうとしてたら、流石に止めている。
多分、<バハムート>の噂を聞きつけてやってきたんだろうな。
噂の出処はルーシーさんじゃないぞ。
俺、結構<バハムート>を人に見せてるからな。
さすがに何人にも見せてたら、いろんなところから少しずつ洩れて噂にもなるだろう。
つまり原因は俺だ、わはは。
「今日はもう終わったよ──」
「な、なんで……」
「悪いけど、帰ってくれないかな? 店じまいしているから、商品は置いていってもらって──」
「な、なにもんだぁ! てめぇ!」
いいながら、男はライドボードを構える。
残念、このまま何もせず帰るつもりはないみたいだ。
『本当、お馬鹿さんなのだわ。店主、貴方まさかカードを返したらそのまま帰すつもりだったの?』
「”まだ”何もしてないからなぁ。であれば、営業時間外でも一応相手は客だ」
「だ、誰と会話してやがる!」
『私のことが見えてないのね! こういう奴を放置するから、つけあがるのよ!』
「今は精霊モードなんだから当然だろ、アリス。それで、客じゃないならお前は──」
しょうがないので、俺もまたライドボードを構える。
それはそれとして、この店は狭い。
大きな店だったら店内でバトルをするためのスペースを確保できるんだろうが、うちは雰囲気重視でこじんまりとしている。
もし仮に立ったままボードでバトルしたい場合は、バーチャル世界にダイブする必要があるのだ。
が、今回はそうしない。
俺達はバーチャルの世界ではなく──
「────
闇の中へと、引きずり込む。
周囲は完全な闇に覆われ、俺と敵である男だけがぼんやりと輪郭を持ってその場に立っている。
男は黒ずくめだから、本来なら闇の中に紛れてしまうだろう。
しかしどういうわけか、この場所でははっきりとその姿が見える。
そういう場所なのだ、ここは。
「な、なんだよ! なんなんだよ、てめぇええ!!」
「俺自身は、ただの一介の店主さ。しかし──」
俺はライドボードを構え、宣言する。
「お前がここから、ただで帰れると思うなよ?」
さて、バトルの始まりだ。
■
「
「でぃ……
盗人の男は、理由がわからなかった。
眼の前の店主はなんだ?
どうして自分が侵入したことを察知した?
あの声の主は一体どこだ?
この空間はなんなんだ?
わからないことだらけ。
理解しがたいことしか起きていない。
それでも、一つだけ解ることがある。
こいつに勝てば──<バハムート>が手に入るのだ!
「お、俺の先行だぁ!」
「──どうぞ?」
一般的に、カードゲームは先行のほうが有利とされる。
そうならないよう、ディスティニー・ロードでは先行でのドローが許されなかったりと、様々な措置が取られているわけだが、それでも先行有利に代わりはない。
こういう一発勝負で、先行を取れるということはそれだけ勝ちにつながるということだ。
ボードが決めた先行後攻、強者はこの順番を容易にイジれるという。
というよりも、双方の”オーラ”と呼ばれるものをぶつけ合い、オーラの量で勝ったほうが先行を取るのだとか。
無論、オーラの量だけで全てがきまるわけではないが、それでも格の違いが露骨に出るのが強者同士のバトル。
しかし今回、盗人の男が先行を取れたということは、この店主はそう大した男ではないということだ。
行ける、勝てる──!
そう考えて盗人の男は一枚目のカードをプレイした。
「俺は<スーパー・ハウンドドッグ>をスタート! 効果で──」
「────その効果に対し、俺はカードを発動する」
そう言って、店主は一枚ずつカードを見せた。
いわゆるそれは、手札から発動する誘発だ。
通常のプレイ以外のプレイ──いわゆるエクストラスタート──に反応してカードをドローする効果。
相手のサーチを封じる効果。
そして相手モンスターの効果を無効にする効果。
盗人の男は自分の手札を眺めて、それから相手の提示したカードを見る。
しばし──沈黙。
「────動けるわけねぇだろうが! ターンエンド!」
ふざけるな!
そう叫びたく成るのを抑えて、店主にターンを渡す。
そして店主は──
「俺のターン。俺は<四方天演舞台>を発動。さらに<
「────」
【四方】、聞いたことがあるデッキだった。
一言で言うと、後攻ワンターンキルデッキ。
つまり奴の手札は先攻を完璧に封殺する手札を有し、後攻で完璧にこちらを殺し切る手札を有しているわけだ。
<スザク>の効果をとめたところで<演舞>があるし、逆もまた然り。
要するに──詰んでいる。
それが解った途端、一気に恐ろしくなった。
眼の前の男は、先攻を取れなかったんじゃない。
取らなかったのだ。
得体が知れない。
なんなのだ、こいつは。
一見するとその佇まいは、どこにでもいる普通の店主に見える。
だというのに、どうしてこんな──世界の奥の、底の底の底を眺めているような気分になるのか。
「あ、ああ、ああ……!」
「さて、それじゃあ」
こんなことなら、<バハムート>なんて狙わなければ良かった。
失敗したのだ。
失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した────
「何もなければ、このまま
そこから先のことは、覚えていない。
盗人は気がつけばライド警察に捕まっていて、ぶつぶつと牢屋の中で何かをつぶやいていた。
その後、盗人がどうなったか知る者は──いない。
インガオホー……
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、感想、評価などで応援いただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。