三題小噺として、三つのテーマから考えたショートショートを投稿します。
テーマは、
父親からのテーマ✕母親からのテーマ✕兄からのテーマ
です。
タグは保険です。
本作シリーズは、noteで先に投稿します。
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https://note.com/hamorehisuku

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柿✕萩✕麻婆


ラブレター

 麻婆豆腐好きに善人はいない。救われないほどに存在しない。私の経験則だ。

 目の前の男は学食で毎回『スペシャル激辛鬼神級麻婆豆腐』を恍惚の表情で食す異生物だ。人の形をしているのが恐怖である。

 

 場所は校舎裏。放課後の下駄箱に一通の封筒から、青春真っ盛りとスキップでもしながら鼻歌を歌った結果、地獄に叩き落とされる気分。かの世界一臭いシュールストレミングでも嗅ぐ方がマシかもしれない。

 

「北条萩さん。……手紙、読んでくれたんですね」

「…………一応、ほんとーに一応、……読みました」

 

 手紙を要約すると、校舎裏来い、だ。

 

「花言葉の意味は?」

 

 ん? と首を傾げる。確かに封筒には何かの枝が入っていたが、あまり見かけたことがない葉っぱがついていた。あれが花と言われたら、確かに黄色だったからそうかもしれないが、正直私は言われるまでただの葉っぱが付いた枝だと思っていた。

 私の反応に麻婆豆腐宇宙人は溜息を吐いてがっかりした様子だった。こっちこそがっかりだわ。

 

「じゃあ、俺が君を呼んだ意味も、わからない?」

「…………えっと、愛の告白……ではなさそうだね」

 

 頷く異生物に嫌悪感を抱きながら、少し疑問が生じた。

 この悪人が一体何のために私を呼んだのか? それはこの枝に付いた花言葉にあるようだ。

 

「これ……何の花?」

「それは柿の花だよ」

 

 柿。あの柿か。よく海にいるやつと聞き間違えられる柿か。確かに実をつけるのだから花が咲くのは道理だが、初めて見た。

 若干の感動を覚えマジマジと花を見る。地味だ。

 

「花言葉の意味って何?」

「色々あるよ」

「たとえば?」

「『自然美』『優しさ』『恩恵』とかかな」

 

 はて、その中から私を呼んだ理由があるとは思えない。私はスマホを取り出す。現在の高校ではスマホ常備が許可されている。少なくとも我が校では。

 軽く検索し、AI出力の概要を見る。確かにそのようだ。そして、気になるもう一つの意味も見つけた。

 

『広大な自然の中で私を永遠に眠らせて』

 

 スマホの画面を消した。見ていないことにした。

 

「つまりそういうことだよ」

「どういうことだよ。自◯幇助しろってこと? 嫌だよ」

「萩ちゃんは」

「下の名前で呼ぶな。ぶっ◯すぞ」

「『萩』の花言葉とは印象が違う娘だね」

 

 それは何度か言われたことがある。意味は、『思案』『内気』『柔軟な精神』『柔らかな心』だ。

 思案するより即行動。相手には強気で主義主張ははっきりする。柔軟な精神? 柔らかな心? なにそれおいしいの?

 

「がさつで悪ーござんした」

「つまり、そういうことだよ」

 

 はぁ? 意味がわからず煽るような溜息を吐く。

 

「ちょっと宇宙人さん、話の流れわかってます? 日本語通じてます?」

「俺が渡した柿の花は、君と同じように、という希望さ」

 

 同じ。意味がわからん。

 

「最終ヒントだ。俺の名前は?」

「知らん」

「残念だ」

 

 それじゃね、と立ち去ろうとする悪人。

 

「いやいやいやいや、待て待て待て待て。謎を残して勝手にいなくなるな!」

「目的は達したから帰るだけだよ」

「はいそうですかお帰りくださいってこっちはならんわ! 説明責任!」

 

 溜息を吐いた宇宙人。こっちが吐きたいわ。

 

「俺の名前は、柿人だ」

「あー、『柿』の字が入ってる訳だ」

「そして、私は柿の花を萩ちゃんに渡した」

「ちゃん付けするな。っと、それでどうなる?」

「願掛け」

「言葉少ね! 詳細に主語述語はっきり具体的にプリーズ!」

「明日、俺、手術なんだ」

 

 ピタリと心が冷やされる。

 

「成功するかどうかも、わからないらしい」

 

 頭の中が回転し始める。『広大な自然の中で私を永遠に眠らせて』を私に渡す意味。

 

「もしかしたら、萩ちゃんの力で、花言葉が少し変わって、『人工物の中で手術後も生きていく』にならないかなって、……そう思っただけ」

「……こじつけかよ」

 

 宇宙人は笑った。いや、柿人が諦めている顔で微笑んでいる。

 

「……そんなにやべーのか? 元気そうに見えるが」

「今はね。もう少し早く見つかれば良かったけど、ちょっと微妙なラインらしい」

 

 病名を聞いたが知らん名だった。

 

「ごめん。こんなの聞かされても困るよね。知らないやつに」

「……知らない訳じゃなかったから、そりゃ別にいい」

 

 柿人が意外そうな顔をした。私は咳払いをした。

 

「私が入学後すぐに間違って激辛麻婆頼んでしまった時、お前が颯爽と現れて食った。そして、食べてやったから金払えって言うから払った。後でてめぇーの大好物だと知って金払うんじゃなかったって思った。以上」

「……そっか、あの時の。え、印象違うね? 前の時は」

「『萩』の花言葉通りだったろ?」

 

 どうして、と柿人が言う前に一気に言う。

 

「お前みたいに傍若無人くらいがいいんだなって思ったんだ。友達ゼロ人の私にはあの時のお前が救世主だった。だから、自分を変えるキッカケにした。……ただそれだけ。たまたまそう思えただけ」

 

 つまり、と柿人に詰め寄る。

 

「私を変えたのはお前で、花言葉の意味を変えたのもお前だ! 自分の花言葉くらい自分で変えろ!」

 

 柿人は目を丸くして突っ立ったままになった。私は言いたいことが言い終わったので、校舎裏からづかづかと堂々と怒ったように去った。

 

 

 

 帰ってから、少し不安になった。が、まぁ自分が心配しても状況は変わらないし、変えられるとしたら手術医と本人だけだ。

 家に帰って、母親に開口一番。

 

「今日は激辛麻婆にして」

 

 そして部屋に行く。母親は呆気にとられた顔をしていた。私が麻婆豆腐嫌いを知ってのことだ。

 夕飯で本当に激辛麻婆が出て、白と赤のグロテスクを口へ突っ込む。あいつ風に言えば、願掛けみたいなものだ。たぶん。

 

 夜。歯磨きはしたが、唇と口腔内と咽が痛すぎて寝れなかった。ずっとカーテンを開けて流れ星を探したが、少なくとも私の肉眼では見えなかった。

 

 徹夜して、眠い登校。下駄箱を開ける。上靴しかない。

 目を瞑って、そのまま教室へ。授業を寝ながら受け、放課後。下駄箱を見た。下靴のみだった。目を瞑って、帰路についた。

 

 そんな毎日、夕食は毎回麻婆豆腐にして、流れ星を探して、徹夜で登校して下駄箱から上履きだけ取り出して寝ながら授業を受けて放課後に下駄箱から下靴のみ取り出して帰って麻婆豆腐。

 

 そんな日々が続いた。

 3週間後、放課後の下駄箱に手紙が入っていた。開封したら萩の花が入っていた。文面は前回と同じ。走って、校舎裏へ行った。

 

 そして、そこにいた。

 

 

 

 


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