「…………月からぁ?やってきたぁ?かぐや~~~?」
「うん、月からきたかぐやっ!ぶいっ」
寝起き故か、”月からやってきた”と話しながらピースをする同い年のように見える少女を前に呆気に取られている朝季。
彩葉も理解は出来なかったらしいのだが、まさか……と思い、少女に対しある質問をする。
「……隣に赤ちゃんいた筈なんだけど、もしかして」
「あ、彩葉!その節はありがとぉ~!助かった!勿論君にも感謝~っ!」
「………………は???」
彩葉と朝季の手を握りながらブンブンと振るかぐや。二人は本当に状況が飲み込めずお互いに顔を見る。
呆気に取られていた二人だが、かぐやの腹が鳴り始め……。
「……ごめん、お腹空いた!ご飯ちょーだい!」
「「…………………………」」
とりあえず、目の前のわがままなお姫様の腹を満たさせてあげないといけないようだった。
「ごめん、こんな時間に買いに出かけさせて……!」
「いいよ別に、女子高生が深夜に出歩くよりかはマシだ」
「ありがと~!朝季!!」
「コイツマジであの時の赤ちゃんなの……!?」
朝季はとっととスマホを持って外出し、コンビニへ向かい色々買い足してそのままアパートへ戻って来た。
とりあえず、オムライスとタコライス。後ペペロンチーノとか、チキンステーキとか……腹の足しになる奴。それくらいあれば十分なのだ。
「コンビニでそんままあっためて来た、すぐ食えるだろ」
テーブルに買ってきた物を並べる朝季、まあ元赤ちゃんのかぐやにはこれぐらいが丁度いいだろうと、かぐやの前に容器に入ったままのオムライスをスッ、と差し出す。
「うっひょ~!なにこれ」
「それはオムライスだよ……ほら」
「ほえ、ありがと」
開け方が分からなかったかぐやを見かねて、隣で座っていた彩葉は蓋を開き、スプーンも目の前に置いてあげた。
かぐやはスプーンを握り締め、オムライスを一口大に掬い、口に入れる。
「────うまっ、うまうま、うんっま!やば!」
口に入れた途端、ぱぁっと笑顔が広がるかぐや。
二人はその顔を見て、一応育てていた思い出が頭に過ぎり……ちょっと頬が綻んだ。
「もう全部食べちゃった!おかわりは?」
「無いよ」
「えー!?……君の美味しそ~……」
「えっちょっ」
「チキンステーキでも食ってろ」
「わーい」
食いしん坊なお姫様であるかぐやが次に彩葉のタコライスに狙いを定めるも、朝季が差し出したチキンステーキを見て、そちらにターゲットを変えた。
チキンにガブリとかぶりつく姿を見ながらも、彩葉はちょっと前からずーっと気になっていた質問を投げかける。
「ねぇ……さらーっと流してたけどさ、なんで私達の名前知ってるの?お互いに言いあってないよ?」
「本当だ、オレ……その人の名前知らない」
冷静に考えてみると、育児で手一杯すぎたせいか……二人ともお互いに名前を全く知らない珍しい状況に陥っていた。
「えー!?なんで私が二人の知ってて、朝季と彩葉がお互いの名前知らないのー!?」
「それはそう」
「いやそうだけどっ!どうやって私達の名前を知ったか気になるの!?」
「朝季は紙のカレンダーの名前の所で見た、彩葉はスマホ動かしてる時にちょっと覗いて把握した」
「こわっ!?」
月からやってきた恐るべきかぐや姫様、たった一瞬で二人の名前を把握していたらしい。怖すぎる。
朝季はかぐやの人並外れた記憶能力にドン引きしており、勿論彩葉もちょっと引いていたのだが、気を取り直してもう一つ質問する。
「後……かぐや?ってさ、成長早過ぎない?」
「んー?私の成長の速さ?まあ最近は色々流れが早いからね~」
「流れが早いじゃあ説明がつかねーだろ」
「でも本来はもうちょっと成長が遅いハズなんだけどね~……二人に育てられたから、その分早くなったのかな?」
片手を開いて、閉じる。その行動を繰り返しながらかぐやは自らの成長の速さに少し驚いていた様子。
いやそもそも赤ちゃんから同い年ぐらいに一夜で成長するのがおかしいだろ、それでちょっと遅いって何?その時点でめちゃくちゃ早いだろうが!?
と、朝季は目の前の異常性の塊に総ツッコミを入れていた。
だが彩葉の質問は止まらない。
もう一つの疑問を解消すべく、かぐやに対し口を開いた。
「成長が早いのはもうそういう物だって受け入れるけど……月からやって来たのは、本当?」
「うん、本当!マジマジ!月ってさ?すっごくつまんなかったから、姫様の仕事ほっぽり出して逃げてきちゃった!」
「脱サラならぬ脱ンセスかよ」
本当に経歴も今も全てに突っ込み所満載なかぐやに対し、朝季は突っ込むのに対して疲れが出始めた。
「────ちょっと待って、"月からやってきたかぐや"?」
「何何?それがどーかしたの?」
「…………待て、竹取物語だろそれ!」
「???」
電柱から出てきて、高速で成長して……自分を"かぐや"と名乗る。
いや、原作の竹取物語は名前を"付けられた"から、自分からかぐやと名乗るはずはないんだけど────どういう事なの……?
彩葉は目の前の少女に対して疑問を膨らませた。
「竹取物語って何?」
「ゴニョゴニョ」
「は!!!?!?つっっっまんな!!!ハッピーエンドじゃないじゃんそれ!!!」
「だよな~彩葉さん」
「なんで私!?」
竹取物語についてまーったく知らなかったかぐやに対し、朝季が雑に説明すると……かぐやはその終わり方に憤慨してしまった。
「な~にが"姫様は記憶を無くして皆の前から去っていきました!めでたしめでたし!"~!?ふんっ!私も同じ"かぐや"だけど、この人みたいにはならないっ!」
「私が目指すのは超ッ!いや!それを更に超えた!!超超超!!!ハッピーエンドッ!!!!」
「お~頑張れ~」
「頑張りま~すっ」
「はぁ……ハッピーエンドだなんていらないって……」
かぐやが高らかに宣言し、朝季がパチパチと手を鳴らす。
彩葉はそれ以上に……!
もう色んな事が渋滞的に襲いかかってきて、頭がパンク寸前だったのだが……スマホの日付を見て、それ所では無くなってしまったようだ。
「うっっっわ、明日から学校!?嘘でしょ……」
子育てやバイト、その他諸々で彩葉の三連休はとーっくに使い切られていたのである。
彼女はその事実に絶望し、力無くフローリングに横たわってしまった。
「おつかれ~」
「おつかれ~、って!アンタのせいなんですが〜っ!?」
「……そんなに大変な事になってんのかよ、お前……」
冷静に考えたら名前すら聞いていなかったが、彼女は目の下にクマが出来ていたり子育て(?)期間中に自分の部屋に戻ってたりしており、その上顔の良さで誤魔化し切れないタイプの激務をこなしているとなると、この人はどれだけ凄い人なんだろうな~、と朝季は心内で彼女の事を高く評価した。
「もうおしまいだぁ~……」
「大変だねぇ~」
「……ご愁傷様です」
兎にも角にも、かぐや姫をこれからどうするか……
正直、お互いに自分の生活で精一杯だというのに!めんどくさい!という気持ちが、二人の中で膨らみまくっている。
「朝季さん、かぐやの事お願いします」
「嫌です、自分で何とかして下さい」
「む~り~で~すぅ~」
「なんでだよ~~~」
「ちょっと二人とも!私の為に争わないでっ!」
「「かぐやはちょっと黙って(ろ)!!!」」
「ヒャイ」
ついに互いに姫様を押し付けあっている二人。
かぐやはそんな二人を止めようとするも、こんな事態になった元凶でしか無い為、普通に叱られる。当然。
彩葉は本当に現在の事情的にもかぐやを押し付けられるのが嫌だった為、一か八かある"賭け"に出た。
「…………はぁ~~、しょうがない」
文武両道高嶺の花系美少女である酒寄彩葉は、これまでの朝季の態度や行動を分析し、あるひとつの答えを導き出す。
多分この人────私に惚れてる。
いや、惚れてるといかずとも!見とれてはいたはず。私の顔よく見てたし。
だったらやる事は一つ!…………あんまりやりたくなかったけど、背に腹はかえられぬ……!
彩葉は腹を括り、朝季に対してそそくさと身体を寄せ始める。
「えっ、な、いきなり何」
「────かぐやの事、面倒見て欲しいなぁ……♡」
ぺたん座りからの半目遣いで彼に対し、(家族が見たら卒倒しそうな)ハニートラップを仕掛ける彩葉。
「うっわ!コッテコテな色仕掛けじゃん!」
「面倒見てくれると……本当助かるんだけど♡」
「面倒、かぁ……じゃあ!いや、でもな……」
かぐやは彩葉の変貌ぶりにドン引きしながらも、彩葉はそんなものは気にせず真っ向にプライドを捨て、朝季に迫る。
流石に朝季も彼女の顔の良さとそれを存分に利用して暴力的すぎる態度に、弱みを見せようとしてしまうが……。
いやいやオレにはiroが居るっ!とギリギリまで堪え続けていた。意外と根性ある。
だがもう彼の美少女形容キャパシティは崩壊寸前。あと一押し!
「もし面倒見てくれるなら、毎日この部屋に来てあげてもいいかもなぁ~♡」
「─────────かぐや、面倒、見てやる」
「負けた~~~~~~!?!?」
「っっっっっっし!!!!!!!」
物の見事に負けた朝季と、それと引き換えに何か大切な物を失った様な気がする彩葉。
そして絶対にあんな色仕掛けみてえなおねだりとかしたくなさすぎる……!と頭を抱えるかぐや。
三者三様の態度をを表し、この事件(事件?)は終わりを迎えたのであった。
そうして彩葉は一度自分の部屋へ戻り、朝季とかぐやは二人きりになるのであった。
「さっきの彩葉、プライド捨ててたよね」
「正直眼福だったけど、これからどうすりゃいいんだ......」
「いや眼福って何?」
これから次々とやってくる幸せと困難、一体全体どうやって対処すりゃいいんだ!と頭を抱える朝季。
正直!見た目が同い年の女子だからって!好きでもない女と二人きりって困る!!!
つーかそもそも赤ん坊から育ててる女好きになる訳ねーだろ!オレはならない!
てかてか!iroが居るのに彩葉さんにまで恋してたら浮気だろーがっ!あーもう……オレは一途な恋をしたいんだよ~~っ!!!
そう考え尽くした後、地に頭を付け────
「…………」
「あ、寝た」
しっかり眠りについた。
時計の時針は二を刺している、つまりは深夜二時……流石に眠ってもおかしくはない時間だ。
「……電気消そ、朝季が寝たなら私もねよーっと」
かぐやも朝季に続き、ベッドをお借りして直ぐに眠りについた。
「やっぱり、やらなきゃ良かった…………」
自分の部屋に戻って布団に横たわっていた彩葉は、自らの行動により生まれてしまった後悔の念にじわじわと襲われていた。
一応かぐやを朝季に任せられたのはいいものの、自分らしくないハニトラの様なものをしてしまったし!
毎日見には行くし、あっちが面倒見てくれるとはいえ、押し付けてしまった、みたいになっているのも少々申し訳無く感じてしまう。
「どうしよう、やっぱりかぐやをこっちに呼ぶべきかな……」
だが勉強・バイト・ツクヨミの推し活を既に同時並行しているのに、同い年の女の子の面倒まで見るのは……
…………待って、ツクヨミ関連で何か大切な事を忘れていた様な気がする。
彩葉は、ちょっと前にツクヨミで話し合ったある事を思い出す。
『そういや、オレここに住む事にしたんだけどさ……結構ボロいよな? まあオレは気に入ってるけど』
そういえば、迅狼が事情があって東京に来るとか言ってたような────その時に見せてきたのがあのアパートの写真で……
それで、あの朝季って人は金曜に引っ越してきて……時間とか計算すると……!
「…………………………うっそ─────」
おーまいがー、今明かされる衝撃の真実。
どうやら迅狼=朝季(苗字は聞き忘れた)という事がほぼ確になってしまったようだ。
ということはつまり、ツクヨミではiroである私が迅狼に対し、あんな事を────
「や、や、や、やらかした…………」
ついでのように不安の種が増えてしまった、増えなければよかったのに。
どうやら、私は彼に対してツクヨミのアバターがバレない様に立ち回らないと行けなくなってしまいました。
というか、バレると多分ロクな事にならないような気がする!
万が一バレてしまったら……い、いや!想像するのも怖すぎるっ!やめよう!
「うぅ、神様……これは彼にかぐやを押し付けてしまった事による天罰なのでしょうか~……?」
「がっくし」
彩葉は残酷すぎる運命に絶望しながら、気を失うようにそのまま眠りについたのでした。
そして翌日、先に起きたかぐやがたまたまつけっぱだった朝季のスマホを使ってネットサーフィンをしていると。
"ツクヨミ"へと入り込む事が出来るスマコンなる物を発見し、面白そう!買ってみよ~!と、他人(しかも育ててくれた恩人)の金を勝手に使って買い物しようとするアルティメットド畜生ムーブをやろうとしていた。
……まぁ、一応はその他人(弟)の為に送った他人(姉)の金ではあるのだが。
「ほへー、分割かぁ!最近は便利な物もあるんですな~」
不幸中の幸いか、かぐやはリボ払いという悪魔の様な支払い方法をギリギリ回避して分割払いを選択した。
回数は十二。めちゃくちゃ長い様な気がするが、まあいいよね!
「買っちった~!楽し」
「お 前 何 買 っ た ?」
「………………おぉぅ」
いつの間にか起きていた朝季が、かぐやの真後ろに立っていた。
「ス、スマコンって奴」
「どの口座で支払った?支払い方法は?」
「え、えと、ふじゅ~がいっぱいあった口座で、分割の十二回払い……」
「………………お前それ、本当はダメなんだからな」
かぐやのカミングアウトを聞いた朝季は、意外にもあまり怒ってはいなかった。
「え……?なんでそんな怒ってないの?普通もっと怒るはずじゃない?」
「いやまあそりゃこいつマジでやりやがったのかよホンマ街中引きずり回しの刑にしてやろうかとは思ったけど」
「ひえっ……」
やっぱりちょっと怒っていた朝季に対し、ビビって震え上がり始めたかぐや、だがその後……朝季は頭を掻きながら申し訳無さそうに呟いた。
「ま、これは姉さんの金だから……別にいいけどな」
「……お姉ちゃんいるんだ」
「失踪したけどな、金は送ってきてる」
「何それ~???」
「オレも知らない」
かぐやにはまあ話してもいいか、と姉の事情を明かした朝季。だが時計をチラリと覗くと……急に態度が変わったように急いで準備をし始めた。
「今火曜だよな!?」
「火曜だよ」
「やっべぇっ!!!!」
そうして準備を完了し、すぐさま玄関へと向かってドアを開ける。
「オレ学校行ってくる!お前は!?」
「一人だとつまんなそうだし着いてっていーい?」
「勝手にしろ!!!」
「やったぁ☆」
出来る限り、長袖長ズボンで礼儀正しい格好風に見せるファッションを身にまとい、彼は(ついでにかぐやを連れていきながら)学校へと向かい始めたのだった。
「あッッッッッぶねぇ~~~~……ギリギリ手続き済んだァ……」
「おつかれ~」
"色々"学校で済ませ、校門から出てきた朝季をダンゴムシと戯れながら暇つぶしをしていたかぐやが出迎えた。
「お前何してんだよ」
「土弄り」
「昭和のガキか?」
「は?こっちは令和の姫ガキなんだが?」
「あっそ」
そこに……やいやいと言い争っていたかぐやと朝季に対し、もう一人、付近で彼を待ち構えていた少年がいた。
「…………お前か?」
「いきなり何だよ」
「えっ何、この人誰」
髪色は黒主体で銀のメッシュが入っており、髪型は……例え難しいな、セミロング?なのか?
それで右上辺りをヘアクリップで止めてる、洒落てんなあ。
身長は……オレより二cm低くね?つーか身体ほっそ!面白!
「何笑いこらえてんだお前、てか隣の女子は誰?」
「かぐやだよ~」
「かぐやさんね、了解」
「いやンフッ、つーか用ならッハ早く済ませろよ」
「ちょっと笑いすぎじゃない?」
別にめちゃくちゃ細すぎる訳でもないのだが、妙にオシャレな髪と妙に細い体と自分より二cm小さいヤツが目の前で話しているのを見て流石に失礼か?と思いながらも、どうやら何故か朝季のツボに入ってしまったらしい。
「……はぁ、単刀直入に聞くけどさ」
「お前、"迅狼"だろ?」
「────!?」
「え?じんろー?って何?」
その名を彼から聞いた瞬間、ツボに入っていた朝季の背筋が凍りつき、笑顔が一瞬にして彼から消えてしまった。
なんでこいつが知ってる!?いや、名前自体は知っててもまあ問題は無い、何故俺が"迅狼"だとわかった……!?
彼は目の前の底知れぬ男に対し、警戒心を高めるが────。
「まあ落ち着いてくれ、俺は……」
「"クスネ"だ、同じ学校って言っただろっ?」
「…………マ、マジ?」
「…………え、なに?」
かぐやはまーったく、この状況についていけていなかった。
おつかれ、読んでくれてありがとう。
展開をちょーっと変えていこうかな?ぐらいには思っています。
後、オリジナルキャラのプロフとかを後書きとかで載せていきたいな~って思うんですけど。いるのかどうか分からない。まあ今は載せないかな。