私が見たい、デジモン×百合です。
ハートブレイクがとても良いので、投稿します。
誰か、こういうの書いてください。

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ちょっといじめ描写ありです、ご注意ください。
金髪ツンデレ×なんでも許してくれる女の子、良いよね。
誰か、この続きください。


序章

『AIが、インターネットを支配するまで後一年ほどしか時間がない。』

 

私、朝光 熾音(あさみつ しおん)は、学校の授業でそんな話を聞いた。

小学校4年の『プログラミング』の授業だったと思う。

皆でパソコンやタブレットに触れて、使いこなせるようにするための授業が、私が通うお台場第三小学校には残っていた。

その授業の時間で、AIの使い方を習う時のことだった。

 

AIは知っている。みんな、気軽に触れているものだし、学校の宿題もAIに聞けば全部答えてくれると言っている子もいる。

どこまで行っても、熾音にとってAIとは道具のイメージだ。

それが、インターネットを支配する。

その意味があるのかなんてわからず、何か怖いことが起きるのだと漠然と不安になった。

 

だから、私はAIが嫌いになった。

すごい便利だけれど、とても恐ろしいものだと思って、触りたくなくなった。

 

そして、同時に宿題をAIに代わりにやってもらうことをずるいと感じるようになっていった。

ただ、私はその「ずるい」という気持ちを自分の中だけで押し込めておくべきだった。

誰かにそれを強制することは、酷くお門違いで自分を孤独にする一歩なんだって今では思う。

 

四年生の秋口の頃だった。

私は友達の江丹 彗(えたみ けいこ)ちゃんが、AIを使って国語の作文の宿題をやってきたことを自慢げに語っているのを聞いてしまった。

宿題にAIを使うことは、考える力が身につかないからと禁止されていて、周りの子達も困惑していた。

私は、即座に彗ちゃんに注意をし、先生にそのことを報告した。

思えば、注意をするだけで良かった気がする。

 

AIを使ったことは、大問題になった。

 

その日のうちに、彗ちゃんの親が学校に呼ばれ、校長室ですごく長い時間話をすることになった。

そんなつもりなんてなかった。

ただ、AIを使うことをやめてもらいたかっただけなのに。

私は、その話を聞いてからずっと校長室の前で待っていた。なんて言おうかは考えていなかったけれど、自分のせいで大変な目にあった彗ちゃんに一声かけたいと言う気持ちだけがあった。

 

校長室の扉が開いた時、彗ちゃんは親に叱られながら手を引かれており、涙を流していた。

そして、外で待っていた私と目が合った。

 

今でも、私は覚えている。

 

その時、彗ちゃんが私を見つけた時に、瞳に宿った強い憎悪の色を。

 

今でも、私は覚えている。

 

その時、彼女との間にあったはずの友情が砕ける音がしたことを。

 

朝光 熾音。

お台場第三小学校、五年生。女子。

友達は、四年生の後半からずっと0人。

周りからは、『チクリ屋』と呼ばれている。

 

 

DIGITAL MONSTER / DNA Digivolution

 

 

ペンキをかけられた。

小学校四年生の冬だった。

 

学習発表会の準備をしていた時のことだ。看板を塗る役目で周りと話すことなく黙々と作業をしていたら、先生の目を盗んで彗ちゃん達に、筆についたペンキを絶えず飛ばされていた。

体操着に着替えていたため、服は汚れなかったが嫌な気分にはなっていた。それが表情に出たのが面白かったのか、蓋についたペンキをかけられた。

流石に周りがざわついて、彗ちゃん達は逃げていったが残されな私の髪についたペンキはすぐに乾いていった。

あらっても、なかなか落ちなくて、でも一人で私を育ててくれているお母さんにも知られたくなくて、そっと床屋さんに向かった。

幸い根元にはついていなかったけれど、お母さんとお揃いにするために背中まで伸ばしていた髪は肩で切り揃えることになった。

家に帰ってきたお母さんが、「なんでぇ…?」と涙声で聞いてきたのが、悲しかった。

 

そして、友達だったはずのあの子たちは謝ることなく、その髪の毛のことを馬鹿にして、周りは見て見ぬふりをしていたのを覚えている。

 

でも、そんな日々も今日で終わりだ。

 

今日は、小学五年生の最初の日だ。

 

なんと、クラス替えがある。

私が通うお台場第三小学校は、毎年クラス替えがあり新しくなったクラスメイトたちと授業を受けることになる。

クラスの数も4つあり、1クラス30人いることからクラスが一緒になる可能性は低い。

つまり、いじめをしてくる彗ちゃんたちと同じクラスにはされないだろう。

 

だが、現実は非常で教室の真ん中に集まってクラス替えを喜んでいる子達の中に、彗ちゃんとその友達たちの姿があった。

とても残念なことに、私も同じクラスだ。

また、同じような日々が始まるのかと、憂鬱になる。

私は、もう初日で学校に着たくないと思っています。

 

彼女たちに関わらないように、教室の輪から離れて自分の席に座る。

苗字順で、私は朝光、私より早い名前はなく、一番前の席であった。

 

周りの音をシャットアウトし、目をとじてホームルームを待つ。

早く始まって、早く終わって欲しかった。

 

幸いなことに彗ちゃん達に声をかけられることなく、今年の担任の先生が入ってくる。

女性の先生で、去年も私のクラスの担任で私のいじめを見て見ぬふりをしている人だった。嬉しくない。

先生は何が嬉しいのか、にこにこと教壇に立って挨拶をする。

 

「はい、5年2組の皆さん! 今年も元気な皆さんと、お会いできて嬉しいです。日和 美寿子です。一年間よろしくね!」

 

周囲の子達は、よろしくお願いしますと返すが、私は窓の外を見ている。この人とは、もう関わりたくない。

 

「さて、今日は皆さんに新しいお友達を紹介します。転校生が来ています!どうぞ、入ってきて!」

 

その言葉と共に、入ってきた子を見て教室は騒めいた。

キラキラとした金髪と、青い瞳。整った目鼻立ちをしている子だった。物憂げに伏せられている瞳のまつ毛は、とても長い。

かく言う私も、横目で眺めていたのに、思わず見入ってしまった程の美少女だった。

彼女は教師の示すままに、教壇に上がり一礼。

 

「闇夜 真宵(あんや まよい)」

 

そして、自分の名前を告げた。

それ以降、口を開くことなく地面に目を向けている。

 

「え、えっと、闇夜さんは親御さんの仕事の関係で海外から日本に戻ってきました。

日本に慣れてないだろうから、優しくしてあげてね」

 

「…先生、座っても?」

 

さらりと闇夜さんは、そう言うと教室内で唯一空いている席、私の後ろの席を示す。

先生は、その様子に気圧されたように頷いた、

 

そのままホームルームと始業式が始まったが、それまでに闇夜 真宵について分かったことは、恐ろしいほど無口で無愛想であると言うことだけだった。

愛らしい容姿の彼女の周りには、彗ちゃんたちを含めて複数のクラスメイトが集まって話しかけた。

 

「ねぇねぇ、闇夜さんはどの国にいたの?」

 

「イギリス」

 

「えっ、すごいね! イギリスってどんな所?」

 

「ネットで調べたら?」

 

あまりにも感想かつ、突き放したような言葉に彼女の周りからすぐに人はいなくなった。

ホームルームが終わり、解散となった教室の前の席である私と闇夜さんの側には誰も寄り付かない。

 

闇夜さんは、周囲の反応を気にすることなく、早々に準備を整えると、下校する。

ふと、その荷物に目をやるとその腰には、丸い形をした黒色のデバイスが下げられていた。

見たこともないデバイスで、少しだけどこの会社のものなのか気になった。

 

その後ろ姿を見送った後、私も帰るべく立ち上がる。あまり長居をすると、難癖をつけられてしまうからだ。

今日は、なんとか平和に終わりそうだ。

 

「ねぇ、熾音ちゃん」

 

その呼び声に、体が震えた。

慌てて振り返れば、そこには彗ちゃんが立っていた。

江丹 彗ちゃん、半年前までは友達だった子。

今は、私をいじめている子。

可愛い衣服に身を包み、手足が長くすらっとしていて私よりも大きな身長。

黒く長い背中までかかる髪に、切れ長の目。

一見すると高校生に見える女の子がそこにいた。

 

今も半笑いを浮かべて、似たような雰囲気の子を二人従えており、よく見ると薄ら化粧もしている。

そして、私を完全に見下した目で見ていた。

ついこの前まではそんな事なかったはずなのに、彗ちゃんはすっかり変わってしまっていた。

彼女はニヤニヤとした微笑みを浮かべつつ、私に近づくと唐突にこう言った。

 

「ね、闇夜さんって嫌な感じがしない?」

 

「は?」

 

「なーんか、感じ悪いし、顔が可愛いからって調子に乗ってそうだよね?」

 

彼女はニコニコと笑顔で闇夜さんの悪口を言う。

昔は、楽しいと思ったことをニコニコと話していた口で、私の悪口を言っていたし今度は闇夜さんの悪口を言うのだ。

なんで、変わってしまったんだろうか?

私は少しだけ呆然としながら、彼女の言葉を聞いた。

要するに、闇夜さんが気に入らないので虐めよう、と言う事らしい。

それに対する私の答えは決まっている。

 

「あんまり思わないし、虐める気はないかな」

 

一瞬、教室から音が消えた。

彗ちゃんも、その友達も他の見ているだけの子も、驚いたように私を見ている。

たぶん、闇夜さんをいじめると言ったら私へのいじめは無くなるんだろう。

でも、私は誰かに酷いことなどしたくない。

私がいじめられてると察した時のお母さんの顔が忘れられない。

だから、私が誰かにあんな顔をさせることがないようにしようと決めていた。

 

「だから、そっとしておいてあげようよ」

 

私はそう告げると、ランドセルを背負い教室を出る。

ふと、廊下に出てから気がつく。

彗ちゃんは、昔から可愛いものが好きだったな、と。

化粧を頑張り、ちゃんと可愛くなろうとしているのは、彼女らしかった。

 

ーーーーーー

 

それから数日、結局イジメのターゲットは私に戻ってしまった。

闇夜さんは、クラスメイトへの態度は冷たいままで、何を言われても受け答えは最低限しかしなかった。

どこか、孤高の雰囲気を持っておりそれが彼女によく似合っていると思う。

一方で、私はいつものように嫌味を言われたり、酷い時は物を隠されたりする毎日であった。

物を隠されると、私はとても困るのでやめて欲しい。

私の家庭はお母さんしかいない。

お父さんが、私が小さい時に亡くなったからだ。

いつもパソコンで不思議な生き物を調べていたが、あまり遊んでくれない人だったことを覚えている。

そのお父さんがいないため、お母さんは毎日頑張って働いてくれている。それに、私のことが大好きでとっても忙しいのに、無理して私と一緒に食事をしてくれているのを知っている。

でも、お金があんまりないことも、知っているのだ。

いつも、通帳と睨めっこして難しい顔をしていたり、おやつやデザートを私だけにくれて、お母さんはお腹がいっぱいと言っているのは、お金がないからだろう。

だから、物を無くされるのはとっても困る。

 

今回、隠されてしまったのは、学校から貸し出されているタブレットだった。

壊れると、高いお金を払って直さなくてはいけないものだ。無くしてしまったとなれば、大変なことになるのは目に見えていた。

放課後に探し始めたが、すっかり夕方になってしまい下校を促す放送が流れ始めている。

教室、トイレ、植え込みから始まり、様々な教室を回ったが見当たらない。

唯一残された場所は、最近彗ちゃん達が溜まり場にしていると言う情報室だった。

そこは、大昔はパソコンが一人に一台配布されておらず、一つの教室に集められていた頃の名残でサーバーが置かれている部屋だ。

そこはいつでも冷房が効いていて、スマホを持っている子にはWi-Fiがよく入ることでも有名だった。

時間が遅いため、もう彗ちゃん達も残っていないだろうが、鉢合わせたら嫌だなと思う。

知らず知らずのうちに足が遅くなっていたが、ついにその部屋の前にたどり着きその扉を開ける。

 

「あ、熾音ちゃんやっと来た〜」

 

その声が聞こえた瞬間に眩暈がした。

中では彗ちゃんとその友達二人が待ち構えており、私が扉を開けるとその二人の女子は私の手を掴み中に引き入れる。

彗ちゃんの手には、見覚えのあるタブレットが握られておりそれをヒラヒラと私に見せた。

 

「もしかして、このタブレット探してたぁ? 見つけたから拾っておいてあげたよー」

 

「彗ちゃん…。そう、ありがとね」

 

私は搾り出すようにそう伝え、彼女が持つタブレットに手を伸ばす。

しかし、彗ちゃんはそれを私の手が届かないように頭上にかざした。

 

「ねぇねぇ、タブレットって落としただけでも画面割れちゃうの知ってる?」

 

「そうだね、返してくれる?」

 

「うん、私も返してあげたいから、もう一回聞いてあげるね?」

 

そのまま、彗ちゃんは顔を私に近づける。

おしゃれな彼女が近づくと、優しい香りがした。

 

「ね、あの闇夜さんって、感じ悪いよね?」

 

彼女は、あの時と同じ質問をした。

余程、闇夜さんが気に食わないのだろう。

そして、私の返答次第ではタブレットを壊すつもりだ。

お母さんに迷惑をかけるわけにはいかない。元々、私と親しかった彗ちゃんは、私の事情もよく知っている。

だから、頷くと確信している。

 

私は、こう言うしかなかった。

 

「思わないよ」

 

この前と同じ答えに、彗ちゃんの顔が怒りに染まる。

 

「そうやって、いつも、いつも…!」

 

彼女はそのまま私の襟首を掴み上げて、顔を間近に怒鳴る。

 

「いつも、いい子ちゃんの顔して、それを貫いて!! なんで、あんな奴を庇うの!? 少しは、私の言うことを聞いてもいいじゃない!?」

 

「そっとしておいてあげよう?」

 

「馬鹿にしてっ!!」

 

私の言葉は届かなかったようで、そのまま彗ちゃんはタブレットを叩きつけた。

べきり、と鈍い音がしてタブレットの液晶画面が見る見るうちに液漏れで滲んでいく。

どうしよう、と涙が溢れてくる。

お母さんにまた、迷惑をかけてしまうことが悲しかった。

次いで、ドンと圭一ちゃんに押された私は思わず尻餅をつく。

 

「そうやって泣いて…! 少しは怒りなよ!!」

 

怒る、と言うのはよくわからなかった。

ただ、悲しい。彗ちゃんにこんな事をさせてしまうことが、お母さんに迷惑をかけることが、悲しい。

私は、ただ彗ちゃんを見上げるしかなくて。

 

「なんで、AIの言ってた通りに貴方はならないのよ!!」

 

彗ちゃんは私の視線に耐えられないように、そう叫んで手を振り上げる。

叩かれる!

そう思ってぎゅっと目を閉じるが、いつまでも痛みはこなかった。

 

「複数人で囲んでタブレット壊しておいて、怒れって…頭おかしいの?」

 

闇夜 真宵がそこにいた。

普段の人形のような無表情からかけ離れた、呆れた目を彗ちゃんに向けている。

その手は、振り下ろされるはずの彗ちゃんの腕をつかんでいた。

いつの間に入ってきたのだろう、と私が目を瞬かせていると彼女は今度は私に呆れたように話しかける。

 

「こいつらの台詞じゃないけど、普通は嫌がって怒るものよ。貴女、イカれてたりする?」

 

その言い方に、さしもの私もムッとする。

 

「なっ、イかれてないよ!」

 

「ここまで言われても、本当に怒らないなんてどこかおかしいわよ」

 

「怒るより悲しいが先に来たんだもの」

 

「筋金入りね、理解できないわ」

 

闇夜さんは、そう言うと腕を払って彗ちゃんを押し除ける。

 

「それで? そんなに私を虐めたいの?」

 

「な、何よ。貴女が悪いんでしょ、スカした態度とって」

 

「スカすも何も、貴女達に興味がないから関わりたくないって言ってるの。

いい加減、毎日毎日うざったいのよね…無駄に絡んできて」

 

どうにも、今日の闇夜さんは饒舌だった。

彼女の言い分では、普段は関わりたくないから言葉が少なくなっていたのだろう。

だとすると、今は彼女の気持ちを超えてしまい、興味が出てきたと言う事だ。

彗ちゃんの構って攻撃が効果を発揮するとは、可愛いところがあるなと思ってしまい、私は思わず吹き出した。

直後、闇夜さんからものすごい目で睨まれる。

 

「あんたね…どう言う神経してるのよ」

 

「えっ? でも、可愛いなって思って…」

 

「信じられない」

 

闇夜さんは、処置なしとばかり頭を抱えるが、気を取り直したように彗ちゃん達に向き直る。

 

「で、私を虐めたいんだったわね? そう、なら」

 

彼女は、腰のベルトに吊るしていたデバイスを手に取った。

円形の黒いガジェットに、中央に画面のようなものがある。まるで、その画面は扉のようにも見える。

それを彗ちゃん達に向け、闇夜さんは壁際に歩いていく。

そこには、室内の灯りのスイッチがあった。

パチリ、と言う音と共に明かりが消え、サーバールーム内が暗闇に包まれる。

ひっ、と彗ちゃん達が息を呑む声がした。

 

「やって見せなさいよ、『リアライズ』」

 

直後、そのデバイスから輝きが放たれる。

真っ黒い影が飛び出し、闇に紛れて駆け出した。

 

「ルナ、程々にのしちゃって」

 

「私はブラックテイルモンなのだけど? その名付けっていうのまだ続けるの?」

 

その闇夜さんの言葉に、女性のような高く柔らかな声が応じる。

ただ、室内の闇の中では黄色に輝く二つの大きな瞳だけが見えた。

大人の背丈ではない、私たちの腰よりも低い位置にあるそれは、猫のように縦長の瞳孔をしている。

何故か、私はその影を見たことがあるような気がした。今ではない、どこかで…。

 

『見てご覧、熾音。これが、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎だ』

 

頭の中で、男の人の声が響く。知っている声な気がする。

 

「私のブラックテイルモンだって分からないじゃない…それに、こういうのは最初に全力で〆るに限るわ」

 

「はいはい、仰せのままに? マヨイ」

 

直後、凄まじい勢いで暗闇をそれは動き始めた。

まるで、車のテールランプのように黄色の瞳が暗闇の中で線を描く。

 

「猫パンチ(弱)」

 

殴打の音が三回。

そして、誰かが倒れる音がする。

 

「生命力と感情エネルギーもデジタナイズして、吸収しておきなさい」

 

「子供の喧嘩でそこまでやる?」

 

「やるなら、徹底的によ」

 

「はぁ、貴女が選ばれたのはこんな事をするためではないのだけど」

 

その言葉の後、倒れていた彗ちゃん達の体が、闇夜さんが手にするデバイスからの光を受けて緑色に『発光』し始める。

同時に、その体から0と1で構成された光が溢れていき、いつのまにか闇夜さんの傍に立っていた黄色の目を持つ影の元へ向かっていく。

影はそのまま口元を動かし、まるで咀嚼するようであった。

 

「うーん、質も味も悪い…。こんなの食べても腹の足しにならないわ」

 

「でも、こうして感情を食らっておけば当分絡まれないわ」

 

感情をくらう。

その言葉を聞いた時には、体が動いていた。

暗闇の中で手探りで、影と彗ちゃんたちの間に立っていたのだ。

影が困惑したような声を上げ、その黄色の瞳で私を睨む。

 

「あら? 私、貴女も助けてあげたつもりなんだけど?」

 

「そうなのかも…ありがとうね。でも、その感情を食べるって言うの良くない気がして…やめてもらえる?」

 

自分でも、驚くぐらいはっきり言葉が出た。

驚いているのは相手も同じようで…その大きな金色の目を瞬かせた後、大笑いを始める。

 

「アハハハハ! ねぇ、真宵! 目の前にいるのは本当に人間!? こんなの初めて見たわ!」

 

「残念ながら、新種のデジモンでは無さそうよ」

 

「まあ、ちょっと面白かったし、そもそも子供を痛ぶるのは好きじゃないからもう辞めるわね。

やっぱり、強いやつが屈辱に歪んだ顔を見る方が楽しいわよ」

 

「貴女の趣味趣向は、とやかく言わないけどそれを私に押し付けないでね。まあ、これぐらいでいいでしょう、戻ってルナ」

 

直後、闇夜さんが持つガジェットから光が出て、その次の瞬間には影は消えていた。

パチリ、と闇夜さんが壁のスイッチの灯りをつければ、室内で立っているのは私と彼女。そして、私の足元に彗ちゃんたちが倒れていた。

 

「彗ちゃん…大丈夫?」

 

触っで平気なのだろうか? よく頭を動かしてはいけないと聞くが…。

闇夜さんは、彗ちゃん達の傍に膝をついた私を見下ろした。

 

「あんた…こいつらに虐められてたのよね? それとも、何か特殊なプレイだった?」

 

「プレイ…? っていうのはよく分からないけど、そうだよ。いじめられてた」

 

「…じゃあ、なんでそいつらを庇うのよ」

 

闇夜さんは、不思議な事を言う。

そんなの、決まっている。

 

「私がいじめられてたって、命が危なそうなら助けるでしょ? 普通」

 

「…気持ち悪い。あんたみたいなのが、『天使』に選ばれるんでしょうね」

 

素直に聞かれたことに答えたのに、闇夜さんの反応は厳しい物だった。

そこまで言われるなんて、悲しい。

闇夜さんは、心底嫌そうな表情を私に向けて、情報室を出ていった。

天使、ということも言っていたが、なんだったんだろうか…それに、彼女が出していたあの影。

どうやら生き物だったようだが、その姿は見えなかった。

…あれは、一体何だったんだろうか?

 

そんな事を考えながら、彗ちゃん達の治療のため、保健室の先生を呼びに行った。

事情の説明が難しく、たまたま帰り際に見つけたと説明をしたが怪しまれてしまった。

そのため、来てもらうのにとても時間がかかってしまったが、なんとか救急車を呼んでもらえた。

詳しくは教えてもらえなかったが、熱中症という扱いになったようだ。

私も簡単な事情聴取をされた後に、特に叱られることなく、むしろ彗ちゃんたちを見つけた事を褒められて帰宅したのだった。

 

 

-------

 

その夜、お母さんにタブレットを壊してきた事を謝った。

お金は保険というものを使えば大丈夫らしい。

ただ、お母さんに何があったかは聞かれてしまった。落としてしまったと伝えたのだが、悲しそうな顔をされてしまった。

もしかしたら、私が嘘をついていることに気がついたのかもしれない。

でも、私は普段よりずっと前向きな気分でいた。

あの影のことが、気になっている。見たことがある気がする、昔に。

そして、ふと思い出したあの男の人の声。もっと、思い出したいと思ったのだ。

だから、闇夜さんに聞いてみよう。

とっても詳しそうだっから、なにか分かるかもしれない。

 

翌日、学校に行ったら彗ちゃんたちは、入院をしたとのことで少しだけ教室が広くなっていた。

私が登校すると、みんなそわそわと私を見ては互いの顔色を窺ってい、ヒソヒソと話している。

 

そんな中でも、代わりがないのは闇夜さんだけだった。

彼女はいつも通り他人を拒絶したように関わりを断ち、周囲の様子を気にしていない。

その腰には、昨日影を呼び出していたデバイスが下がっている。私が彼女の前の席つくと一瞬だけ顔を上げ、私を見るとその無表情が崩れ、顔を歪ませた。

 

「なによ…」

 

「おはよう、昨日はありがとう」

 

「…話しかけてくるなんて正気?」

 

「えっ、挨拶とお礼を言っただけなのに」

 

当たり前のことをしただけなのに、そんなことを言われるなんて…。

少ししょんぼりしつつ、座るとはたと思いつくことがあった。

そのまま後ろの席へ振り返り、闇夜さんへ話しかける。

 

「あ、そうだ、闇夜さん」

 

「えっ、このまま話し続けるつもり?」

 

「えっ、何か変だった…? それで、聞きたいことがあるんだけど」

 

「ぐ、ぐいぐいくる…!」

 

「昨日出してたのって何だったの? 女の人の声だったけど」

 

「ちょっ…!?」

 

私が聞くと、闇夜さんは慌てたように私の口を塞いでくる。な、なんでー!? むぐむぐ。

 

「よ、よりによってそれを今聞くの…!?」

 

「ぷは、だってに気になるし」

 

「…あと、普通は言えないって思わない?」

 

「そうなんだ?」

 

「少なくとも、話すつもりはないわ、もう話しかけないで」

 

残念…。

私はおとなしく前を向くことにして、そしてもう一つ質問を思いついたので振り返る。

 

「あ、そうだ。それじゃあ、その腰に下げてるやつは?」

 

「話しかけないでって言ったわよね!?」

 

「え? だから、あの影の話はやめたよね?」

 

「この後もってことよ…!」

 

そんなー。

それっきり外界を遮断するように、闇夜さんは腕に顔を押し当てて視線を逸らしてしまう。

残念に思うが、本当にもう話したくないのだろう。

大人しく正面を向くと、先生が入ってきてホームルームが始まった。

彗ちゃん達がいなくても、授業は変わりなく進んでいく。

 

そして、あっという間に放課後になる。

闇夜さんは、早々に席を立って教室を出ていく。

 

「あ、待って、闇夜さん」

 

人目のあるところで聞くことじゃない、と言うことならどこか別の場所なら聞いていいんだろう。

私も彼女についていくために、ランドセルに荷物を仕舞っていく。

そして、ランドセルを背負ったところで、珍しいことに声をかけられる。

 

「あ、朝光さん、ちょっといい?」

 

「ん?」

 

四月早々から彗ちゃんたちにいじめられていた私に、このクラスで話しかける人はいなかった。

私に話しかけて庇ってしまうと、今度は自分がいじめられてしまうからだ。

そして、声をかけてきたのも大人しそうな見た目の、名前も聞いたことがない女の子だった。

同時に、なぜかクラスが静まり返っている。

騒いでいたはずの男の子達も、こちらを見つめている。

なんだろう、少し居心地が良くない。

 

「どうかした?」

 

「えっと、その…闇夜さんと仲良いの?」

 

「え? よくないよ、嫌がられてるみたい」

 

「あ、そ、そう?」

 

「うん。それだけ? じゃあ、さようなら」

 

何が聞きたかったんだろう?

私は何か聞きたそうな彼女を置いて、早々に教室を出る。

廊下の奥に、まだ闇夜さんの金髪が見えた。

廊下は走ってはいけない。

でも、急いで歩くのは問題ないよね。

凄い勢いであったことから、途中すれ違った先生に注意されてしまう。

 

「こら、廊下は走らな…走ってない!?」

 

「はい! 歩いてます!」

 

走っていると言う誤解は解けているようでホッとしつつ、闇夜さんを追いかける。

先生の声で闇夜さんも気がついてくれ、こちらを振り返る。それに手を振ってみる。

 

「闇夜さん、一緒に帰ろう」

 

何故か、闇夜さんの歩く速度が上がった。

と言うより…走り始めてしまった。金髪がたなびき、下足バコに向かっていく。

どうしたんだろうか?

私もさらに歩く速度を上げ、下足に履き替えてからは走り出した。

そのおかげで、なんとか校門を出る前に闇夜さんに追いつき声をかけることが出来た。

 

「闇夜さん、追いついた! 足早いね!」

 

「な、何で追いかけてくるのよ…!」

 

「? だって、聞きたいことがあって」

 

「話さないって言ってるでしょ!」

 

「でも、それならあの時に私もやっつけちゃえば良かったのに…」

 

「こんなにしつこいなら、そうすれば良かったわね…!」

 

闇夜さんはそう脅しつけるように私を睨むが、不思議と彼女の言葉は怖くなかった。

ため息をついた闇夜さんは、私に向き合い顔を近づけてくる。

彼女の整った顔と見透かすような青い瞳が近づき、すこしドキドキしてしまう。

 

「少しだけ話してあげる。でも、本当に危ないことだから、これ以上首を突っ込まないこと」

 

真剣な表情に、私も頷きを返す。

私はあの影の正体が気になっており、それを知りたい。それ以上は、何か求めるつもりはないのだから。

頷いた私に、闇夜さんは着いてきてと、告げて歩き出す。

連れてこられたのは、公園のベンチだった。

彼女と二人連れ立って座る。

 

「いい? 教えるのは、あれがどんな存在かって言うことと、このデバイスのことだけ」

 

彼女はそういうと、腰から例の丸型の黒いデバイスを取り出した。

それは、夕陽を受けてきらりと光る。

よく見ると黒いボディに、紫のフレームが走り赤いボタンが幾つか備わっている。

どこか、禍々しい雰囲気を感じるそれは、不思議の美しく感じた。

 

「これは、デジヴァイス。私とルナとの絆の証」

 

「デジヴァイス…? ルナって、あの影のこと?」

 

「影じゃないわ、あれは暗闇に隠れて動いていただけ。ルナは、デジモンっていう生き物なの」

 

「デジ…モン?」

 

どこかで聞いたことがなる呼称だった。

 

「彼らは、ネットワーク上の電脳空間に生息する生命体でね…このデジヴァイスを通すことで、こっちの世界にも姿を表せるの」

 

「この前、その子が彗ちゃん達を倒しちゃったの?」

 

「そう、この子よ」

 

そして、そっと闇夜さんはデジヴァイスを構えた。

同時に、画面部分が光り輝く。

 

「リアライズ」

 

闇夜さんの言葉と共に現れたのは、デジヴァイスと同じ真っ黒なデジモンだった。

二足歩行する黒猫。手には紫色の手袋をつけており、黄色の目はあの日見たもので間違いがない。

そして、見覚えがあった。

 

「ブラックテイルモン…」

 

気がつけば、そう口にしていた。

闇夜さんと出てきたばかりのデジモンは、私の言葉にとても驚いたようだ。

 

「貴女、知ってたの?」

 

「この前の時のを覚えてたんじゃない?」

 

「えっと、なんでか貴女を見てると、その名前を思い出したんだ」

 

「そう…まあ、何にせよこのルナがこの前貴女を助けたの」

 

「よろしく、変な子」

 

「えと、朝光 熾音です」

 

「そう、よろしくね熾音」

 

ルナちゃんは、そのまま私に手を差し出してくれる。どうやら、私と握手をしてくれるようだ。

そっと、私が差し出された手を握ろうとした瞬間、ルナちゃんの手が上げられて手が避けられた。

ルナちゃんは、クスクスと笑っている。

どうやら、揶揄われてしまったようだ。

闇夜さんは、呆れ顔でルナの首根っこを掴む。

 

「あんたね、イタズラも大概にしなさいよ…ごめんね、えーっと…朝光さん」

 

「熾音でいいよ」

 

「朝光さん、言っておくけどこのルナはそんなに安全な生き物じゃないわ」

 

「えっと…?」

 

「本気で殴れば人なんて簡単に殺せちゃうし、街なんかも簡単に壊せる。

それに、あの時見たと思うけど…こいつらは、人の感情や生命力をデータ化して食べてしまう」

 

「人の、感情を…!?」

 

思い起こされる、あの日見た0と1で構成された緑色の光。あれが、きっとその感情や生命力だったんだ。

闇夜さんは嬉しそうに、微笑みを浮かべた。

 

「ええ、生命力を食べられ過ぎればもちろん死んじゃうし、感情を食べられすぎれば廃人になるわ。

あの子もあと少し食べてたら二度と起き上がることはなかったでしょうね」

 

「そんな…」

 

「恐ろしい? それにね、この子達は遺伝子に戦い続けて相手を喰らい、『進化』し続けることが本能にすりこまれている」

 

「『進化』?」

 

「ええ、ルナも多くの『敵』を倒して今の姿まで進化した。ふふふ!怖くなってきたかしら?」

 

「そ、そんな、ルナちゃんとっても頑張ったんだね」

 

「…はぁ?」

 

「でも、人は殺しちゃいけないから気をつけてね」

 

私の言葉に闇夜さんは愕然とし、代わりにルナちゃんがケラケラと笑いながら答えた。

 

「あははは! 貴女、本当に変な人間ねぇ、ええ真宵は優しいからね人間相手の場合は手加減してるわ」

 

「ほっ、良かった」

 

「よくないわよ、本当になんなの貴女?」

 

私が胸を撫で下ろしていると、闇夜さんは何故か怒り出してしまった。

 

「え、えっと、ごめんね?」

 

私が首を傾げていると、何故か本当に腹立たしげな表情になった闇夜さんは私に背を向けた。

 

「…ルナ、もう戻りなさい」

 

彼女はそのままこちらへ手を振るルナへ、デジヴァイスを向ける。デジヴァイスが光ると、ルナちゃんの姿は消えていた。

 

「さて、これで約束は果たしたわよ…もう付き纏わないで」

 

その言葉と共に、闇夜さんは立ち上がった。

ここまでだろう、これ以上は闇夜さんにも迷惑をかけてしまう。

だから、頷いた。

 

「うん、ありがとう。色々教えてくれて」

 

「…ふん」

 

去っていく彼女の後ろ姿を見た時、口が勝手に動く。

 

「ねぇ、闇夜さん。また、お話ししない?」

 

「…お断りよ」

 

彼女はそう口にし、私にあっかんべー、と舌を見せた。

顔が美人で仕草が可愛くて、わざわざ私に色々説明をしてくれるあたりとても面倒見がいい。

どうしよう、この子のことを好きになってしまった。

 

ーーーー

 

それから数日、私の周りは色々と変化していった。

アレだけされていた虐めは、慶ちゃん達が退院してからも再開されなかった。

そればかりか、クラスの子達が私にどんどんと声をかけてくれるようになったのだ。

そんなに色々と話すことはないが、それでも空気のように扱われるよりは心が楽になっていた。

時折り、後ろの席に座る闇夜さんにも声をかけているが、あの日以降はあまり反応は芳しくない。

彼女との仲が特に進展することもなく、気がつけば五年生のゴールデンウィークに入る直前であった。

 

また、彗ちゃんたちは最近は大人しいこともあったが、そもそも彗ちゃんの様子がおかしくなっている。

頻繁にスマホに触れて、何かを調べをているようでメイクで隠されているがクマが出来てあまり眠っていないようだった。

早く、いつもの調子に戻ってくれるといいなと思いつつ、いじめられるのは嫌だなとも思う。

彗ちゃんたちの話が、漏れ聞こえてきたことから察するに、最近は『The Almighty』というAIアプリが流行っているらしい。

スマホを持たない私は詳しく知らないが、最近テレビのCMでもやたらと流れているAIアプリで、これまでのものと比較してかなり早い速度で返信してくれるらしい。

彗ちゃんたちは、普段からそのAIの言うことに従っているそうだ。

その話を聞いた時、もし私をいじめることもAIの指示だったら嫌だなと思った。

 

闇夜さんと仲良くなれないこと、彗ちゃんたちの様子がおかしいこと、AIアプリのこと。

その3つのことが嫌で、私はゴールデンウィークに入るのが憂鬱だった。

 

ゴールデンウィークに入る前日の放課後、私の下駄箱に手紙が入っていた。差出人は闇夜さんになっている。

話があるから、この後に情報室に来るように書かれてある。ただ、手紙は手書きではなく、私のことを熾音と書かれてあった。

うーん、怪しい。

闇夜さんは私と話したくないと言っていたし、そもそも私のことを熾音とは呼ばない。

誰かの悪戯かなと思いつつ、ただ何となく、行かなければならない気がした。

理由はない。でも、そうでないと誰かを助けられないのではないかと不安に駆られる。

気がつけば、私は情報室へ向かっていた。

 

情報室で待っていたのは、予想通り闇夜さんではなかった。

そこにいたのは、最近ようやく退院してきた彗ちゃんだ。

スマホを手に持ち、なんだかじっとりとした微笑みを私に向けてくる。

 

「あはっ、いらっしゃい熾音ちゃん♡」

 

「彗ちゃん? 彗ちゃんが、私を呼んだの?」

 

「うん、闇夜の名前を使って誘き出したのが私…がっかりした?」

 

「ううん、でも、普通に声をかけてくれれば私はお話ししたのに」

 

私の言葉に、彗ちゃんの顔から微笑みが消えた。

 

「いつも、いつもそうやって…!」

 

そして、彼女が腰から取り出したのはカッターナイフだった。

それを私に向ける彼女の瞳は、どこまでも黒く濁っている。

 

「け、彗ちゃん…?」

 

「動かないで、動くと切っちゃうかも」

 

チキチキ、と音を立てながらカッターの刃を出す彗ちゃんは、そっとその刃を私の頬に当てた。

冷たい刃物の感触にドキリとしてしまう。

 

そして、私が動かないことを確認した彗ちゃんは嬉しそうにスマートフォンに語りかける。

 

「OK、捕まえたよ『オールマイティ』。次は、どうすればいいの?」

 

『頑張ったね、彗! それなら、次はその子自身に自分の手足を縛らせよう!

ちゃんと、カッターで脅すのを忘れないで!』

 

彗ちゃんの言葉に答えたのは、機械の合成音だった。

ゾクリとする。

彗ちゃんが、読んでいた名前から察するに、『The Almighty』が音を出しているのだろう。

本当は禁止されているはずの、人を傷つけることへの具体的提案をしている。

まるで、そこに悪意があるようだった。

彗ちゃんは、それに従うように私にカッターナイフを向けると同時に紐を放る。

 

「結んで、自分で」

 

「彗ちゃん…やめよう?」

 

「いいから!!」

 

彗ちゃんは、切羽詰まったように声を張り上げる。

それでも、私は頷くことは出来なかった。

 

「なんで、こんな事をするか分かんないけど、やめよう? それの言うことに従ってるの、変だよ」

 

「うるさい! いつも、いつも、そうやって私を否定して…! なんで、あんたは私のことだけ否定するのよ!?」

 

「そんなこと…」

 

「あの時もそうだった! 他の子だってAIを使ってたのに、私だけ先生に報告した!

何で!? 一番の友達だったでしょ!?」

 

頭を殴られたように感じた。

あの時、彗ちゃんはこんな風に思っていたのかと。私が考えなしで行った行動が、どんな風にみんな見えるのか考えたこともなかった。

彗ちゃんは、涙を流しながらスマートフォンに叫ぶように声をかける。

 

「『オールマイティ』! 相手が従わないわ! どうすればいいの!?」

 

『OK! それなら、耳を落としてみよう! 耳の付け根にカッターナイフを当ててゆっくり前後にこすりながら下に切っていくと簡単に切れるよ!』

 

「み、耳を、落とす?」

 

雲行きが怪しくなってきた。明らかに、『The Almighty』は暴走している様子だ。

彗ちゃんも、あんまり冷静では無さそう。

そして、彗ちゃんは一度私の顔を見た後に、ごくりと生唾を飲み込みカッターナイフを向けてくる。

 

「か、片っ方、だけだから」

 

「彗ちゃん…お願い、やめて」

 

「貴女が…悪いのよ。私を裏切った貴女が」

 

そして、ゆっくりとカッターナイフが私の耳に向けられた時

 

「流石に、それは見過ごせないわ」

 

闇夜さんの声がした。

 

「猫パンチ!」

 

ルナちゃんがそう叫ぶと共に、彗ちゃんが大きく吹き飛ばされた。

まるで、私を庇うようにルナちゃんが私と彗ちゃんの間に立つ。

その傍には、闇夜さんの姿もあった。

闇夜さんは一度私を振り返ると、本当に嫌そうに顔を顰める。

 

「貴女、もっとちゃんと抵抗しなさいよ。

その子を人殺しにしたいの?」

 

「そ、そんな…」

 

「まったく、どいつもこいつもイライラする…!

勝手に自分を押さえ込んで、勝手に自滅して行って…! そんなだから、AIに飲み込まれるのよ!」

 

「AIに、飲まれる?」

 

「見てなさい、何でもかんでもAIに身を任せて、そして最後は自分自身すらも明け渡してしまう愚か者の姿を」

 

彗ちゃんは、泣いていた。

当然だ。吹き飛ばされて、痛かったのもあるしびっくりしてパニック状態のはずだ。

吹き飛んだ際に折れたカッターが手を掠めてしまったようで、血も出ている。

 

「ひぐっ、ぐすっ、いたい…いたいよ…助けて」

 

『了解しました、彗! それでは、後は私に任せてくれませんか? 貴女を助けたいんです!』

 

「ぐす、ぅぅぅ…まかせる、任せるから、助けて」

 

そう彗ちゃんが言った直後、スマートフォンから光が放たれる。

そして、不気味な合成音が告げた。

 

『Artificial intelligence Realize』

 

直後、スマートフォンから大量のコードのようなものが溢れ出す。

そして、爆発的な勢いで広がったそれは、彗ちゃんを瞬く間に包み込んだ。

 

しばらくし、落ち着いた時にはそこに彗ちゃんはいなかった。

現れたのは、大人ほどの背丈がある人型の生き物だった。ただ、その顔は爬虫類に近く、顔全体を鉄のヘルメットで覆っている。そして、そこから飛び出た髪の毛は赤色。両の手足には大きな爪が見える。

まるで、トカゲと人が一緒になったような姿の『デジモン』がそこにいた。

 

『STLIKEDRAMON copied』

 

その音声が流れると共に、カランとその場に彗ちゃんのスマートフォンが転がる。そして、現れた相手を見て一つ頷いたルナちゃんが口を開いた。

 

「あー、ストライクドラモンか。巻き込まれないようにね、真宵」

 

「は? ちょっ!?」

 

『ギャハハハハハハ!!!!』

 

ルナちゃんの言葉を聞いた瞬間、闇夜さんは私に飛びつきルナちゃんと距離を取る。

直後、ルナちゃんへ突貫したストライクドラモンは、そのまま彼女に体当たりし、情報室の扉をぶち抜き廊下へと飛び出していった。

 

窓ガラスが割れた音が響いたことから、そのまま外に出たのだろう。

それを確認した直後、闇夜さんはデジヴァイスを手に取り叫ぶ。

 

「屋上へ誘い出して! そこが被害が少ない!」

 

『わかったわ』

 

デジバイスからルナちゃんの声が聞こえ、何かを壊す音がどんどん上へ登っていく。

そして、私と共に転がっていた闇夜さんは立ち上がり、廊下へ駆けていった。

 

「あんたはそこにいなさい、動くんじゃないわよ!?」

 

そのまま、こちらを見ずに駆け出していく闇夜さん。

私は思わず呆然とそれを見送ったが、ふと足元の床に転がった彗ちゃんのスマホを手に取る。

彼女が色々と飾りつけているカバーが割れ、本体の背面が見えていた。

 

そこには、私と昔に撮ったプリクラが貼られていた。

 

それを見た瞬間、私は彗ちゃんのスマホを手に取り走り出す。

何もせず、待っているだけなんて、出来るはずがない。

彗ちゃんは、今も苦しんでいるのだから。

 

「屋上、行かなきゃ…!」

 

走る、走る走る!!

息が詰まっても止まらない、簡単に少し前を走っていた闇夜さんを追い越しても止まらない。

屋上を目指して走り続ける。

途中、闇夜さんに呼び止められたようだが、止まらない。

早く、私が、彗ちゃんを助けるのだ。

 

屋上への扉を開け放つと、そこではルナちゃんとストライクドラモンが激しくぶつかり合っていた。

 

「猫パンチ!!」

 

『ストライクファング!!!!」

 

ルナちゃんの拳の一撃と、燃え盛るストライクドラモン自身による突撃が激突する。

拮抗は一瞬だった。

 

「ルァァァァアアアア!!」

 

「きゃあ!?」

 

咆哮の後、ストライクドラモンが身に纏わせた炎が大きくなり、ルナちゃんの拳を弾き体当たりを命中させたのだ。

そのまま、ルナちゃんは勢いよく屋上の床へと打ち付けられた。

直後、後ろから走り続けてすっかり息が上がっている闇夜さんが到着。

素早く屋上を見渡し、倒れてしまったルナちゃんとそれに近づいていくストライクドラモンの状態を見定めると、デジヴァイスを掲げる。

 

「はぁ、はぁ…ルナぁ!! 」

 

荒い息をつく闇夜さんがルナちゃんの名を呼ぶと同時に、デジヴァイスが光を放った。

すると、その黒いデジヴァイスから放たれた、緑の0と1で構成された光がルナちゃんへと注がれる。

同時にルナちゃんの体が黒い光を帯びた。

すると、ルナちゃんは即座に体を起こし、再度ストライクドラモンへ向かっていく。

その速度は、先ほどのものとは比べ物にならないほど早い。

瞬く間に拳でストライクドラコモンを打ち据えていく。

一方的な打撃に、今度はストライクドラモンが屋上の床へ沈む。

 

「すごい、でもなんでいきなり強くなったのかな?」

 

私の質問に、ぜーはーと息を吐きながら、闇夜さんが説明してくれる。

 

「で、デジヴァイスには、あの子が吸収した感情や生命力データなんかを溜め込んでおけるの。

こうやって、戦闘時とかに発動すれば、一時的にルナの力を引き上げられるの」

 

「な、なるほど」

 

よくわからないが、凄そうだ。

そして、相手を床に倒したルナちゃんに、闇夜さんが声をかける。

 

「ルナ! 油断しないで、ちゃんと仕留めて!」

 

「えー? わかってるよー。『猫パンチ』!」

 

そして、トドメの一撃をルナちゃんが飛び上がり放とうとする。

しかし、次の瞬間倒れていたストライクドラモンに異変が起きた。

 

『Illegal Boost』

 

『いやぁぁぁぁぁ!?』

 

直後、体全身が赤い光に包まれ、そしてその体の中から悲鳴が響き渡った。

ああ、聞いたことのある声だ。

違う、よく知っている声だ。

ついさっき、襲いかかってきた声だ。

 

「彗ちゃん…?」

 

それは、彗ちゃんの声だった。まるで、苦しむように悲鳴が上がっている。

そして、ストライクドラモンは、赤い光に包まれながら起き上がる。

その動きは、最初に比べて明らかに早くなっている。

 

「ち、これだからAIのコピーデジモンは嫌なのよ。人間を取り込んだら好き放題ブーストして…」

 

「えっ…? ど、どういう、こと?」

 

「…あいつは、あの取り込んだ女から無理やり感情エネルギーと生命エネルギーを搾り取ってるの。

このままだったら、吸収されたあの女は死ぬわ」

 

「死ぬ…? 彗ちゃんが?」

 

「こっちも負けないけど…厄介ね」

 

死んじゃう…彗ちゃんが死んじゃう。

いつも、意地悪をしてきた子だった。でも、私がしたことが原因だった。

それが、死んでしまう。

 

嫌だ。まだ、仲直りもできていないのに! 謝れてもいないのに、嫌だ!!!!

 

気がつけば、彗ちゃんのスマホを握りしめていた。

すると、そのスマホから光が溢れ始める。

 

彗ちゃんがいなくなるなんてーーーーそんなの

 

『熾音…デジモンたちをーー』

 

「ダメーーーー!!!!」

 

言葉と共に、光が強くなる。

彗ちゃんのスマホが私の手から飛び出し、空中で一際強く力を放つ。

闇夜さんが、驚いて声を張り上げた。

 

「うそ、これは…まさか…!?」

 

スマホの形が変わっていく、白く染まり、丸みを帯びて…そしてボタンが装着されていく。

最後に、ゆっくりと私の眼前に降り立った、そのデバイスは

 

「デジヴァイス…」

 

私は、それを手に取った。

直後、画面から白く輝く何かがゆっくりと空中へ吐き出された。

それは、白く輝く卵で、瞬く間にヒビが入り、広がっていく。

そして、完全に広がりきると卵が弾けて中から、卵と同色の小さな生き物が飛び出した。

 

「しおーん!」

 

それは、そのまま私の胸に飛び込んできて体を擦り付けてくる。

 

「やっと会えたー」

 

「君、は?」

 

「わたち、ユキミボタモン! 貴女の、パートナーよ!」

 

「ユキミボタモン…?」

 

「うん! でも、すぐに進化させちぇ!」

 

「え、えっと、どうすればいいの?」

 

「デジヴァイスに、エネルギーを注ぐの! 守りたい気持ち、私に伝えちぇ!」

 

「まもり、たい」

 

そうだ…私は守りたいんだ。友達だった、彗ちゃんを!

だから、お願い!

 

「力を貸して! ユキミボタモン!!」

 

私は自分の気持ちを言葉にすると同時に、デジヴァイスを掲げた!

そして、デジヴァイスが白く光り輝き、緑色の0と1の光がそっとユキミボタモンへ降り注ぐ。

 

「ユキミボタモン、進化ぁ!!!!」

 

 

Evolution

 

 

0と1で構成された放た光の繭の中で、ユキミボタモンのデスクチャが剥がれ、フレームが再構成される。

新たな姿を得たユキミボタモンが、繭を突き破って姿を現した!

 

「ニャロモン!!」

 

それは、可愛らしい姿をした黄色く丸い、猫のような耳があるデジモン。

大きな目が愛らしく、私の手にすっぽりと収まるサイズであることから抱き枕に良さそうだ。

でも、名前が違う?

 

「あれ? 名前、変わった?」

 

「うん! 進化したのー」

 

なるほど、姿が変わると名前も変わるらしい。

ともあれ、ニャロモンはユキミボタモンだった頃より大きいので、ちょっと強そうだ。

これなら、行ける!

 

「よし、それじゃあニャロモン! あいつをやっつけるよ!」

 

「え? それは無理だよー」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

あれぇ?どう言うこと?

私とニャロモンは二人して顔を見合わせてしまう。

そんな私たちの間を取り持ってくれたのは、闇夜さんだった。

 

「あのねぇ、デジモンには進化段階があって、今戦ってる二人は成熟期。この子は、幼年期Ⅱだからあの二人より二段階未熟な状態なの。戦闘力はそれこそ天と地ほど違うわ」

 

「そうなの!?」

 

「そうだよー」

 

私が驚くと、ニャロモンは嬉しそうに笑う。とっても可愛い。

でも、それなら…

 

「進化した意味はなんだったのー!?」

 

「えへへへ、ユキミボタモンの頃よりちょっぴり役立てるよ!」

 

「いや、スッこんでなさい。この天然コンビ」

 

そう言うと、闇夜さんはルナちゃんの戦闘に集中してしまい、こちらを見なくなってしまう。

だが、ストライクドラモンはそうではなかったようだ。私のデジヴァイスが来たあたりから、戦闘を辞めてじっと私を見ている。

ルナちゃんが挑みかかっても大きく距離を取ったほどだ。ルナちゃんは、それを訝しむ。

 

「なに? なんで、後ろに引いたの…?」

 

「何でもいいわ! ルナ、詰めなさい!」

 

「わかったわ!」

 

闇夜さんの指示に、ルナちゃんはすぐに従い大きく退いたストライクドラモンへ向かっていく。

その間もストライクドラモンは、私を見つめ続けていたがやがて口を開く。

 

『最優先削除対象の確認。脅威度測定、もっとも弱い因子から削除対応します』

 

直後、ルナちゃんの突撃を避けるように大きく跳躍。私とニャロモン目掛けて飛び込んできた。

…へ?

 

「っきゃぁぁぁぁ!?」

 

「わきゃー」

 

悲鳴をあげる私と、どこか余裕のありそうな悲鳴をあげるニャロモン。私は自分の上にかかった影に慌ててニャロモンを抱えたまま逃げ出す。

私が逃げ出した後、ストライクドラモンが、ズドン!と床を割るほどの威力で着地した。

 

「な、なななななんでこっちくるのぉ!?」

 

「あはー、最も弱いだってー」

 

「っ! 逃げなさい! 貴女たちが狙われてるわ!!」

 

そうは言っても、さっきの飛びつきを避けた時に屋上への出入り口から離れてしまった。

出入り口と私たちの間には、ストライクドラモンがいる。

闇夜さんとも離されてしまい、逃げようがない位置であった。

 

「あわわわ…」

 

「あはー、どうしよっか、熾音」

 

「に」

 

「に?」

 

「逃げなきゃ!!」

 

そのまま背中を向けて屋上の奥へ逃げ出していく私達のあとをストライクドラモンは凶悪な爪がついた腕を振り回していく。

ルナちゃんは、闇夜さんの指示で彼女を一切無視してこちらに襲いかかるストライクドラモンへ攻撃を繰り返す。

だが、ストライクドラモンは体の端々が『ほつれていく』ことを気にしたようにもなく、私たちを執拗に狙ってくる。

 

「ひ、ひぃ!?」

 

「このっ! 早く倒れなさい!」

 

床をどんどんと砕いて迫るストライクドラモンからなんとな逃げていくが、私たちは屋上の端へと追い詰められていく。

だんだんと逃げられる場所が減っていき、少しずつ攻撃が掠るようになる。

一方で、ルナちゃんの攻撃を受けて、ストライクドラモンもどんどんと光の粒子に変わっていった。このままいけば、いずれ倒せるのではないかと思う。

問題があるとすれば、それはストライクドラモンが消えるよりも、私に攻撃が命中する方が早いと言うことだ。

私は角に追い詰められ、ストライクドラモンはまだ原型を残していた。

 

「あ、あ、あ…」

 

「っ〜! ルナ、最大強化猫パンチ!」

 

「ええっ! これで!! 『猫パンチ』!!」

 

闇夜さんがそう言ってデジヴァイスを構えると、大量の緑色の0と1の光がルナちゃんに注がれる。

そして、黒い光を纏ったルナちゃんが、その光で巨大化した手袋をストライクドラモンに殴りつけた。

同時に、ストライクドラモンは腕を振り上げる。

やられる!

そう思った時、腕からニャロモンが飛び出す。

 

「熾音をいじめちゃダメー、『フォックステイル』!」

 

ニャロモンは、爪を振り上げたストライクドラモンに向けて、尻尾の毛を針金のようにして叩きつけた!

 

ぺちん!

 

「…?」

 

だが、ストライクドラモンとは力が違いすぎたようで、攻撃されたことに驚いて一瞬止まっただけだ。

だけど、今はその一瞬で十分だった。

 

「よくやったわね、おチビさん」

 

その一瞬で、ルナちゃんの猫パンチがストライクドラモンのデジコアを貫いた。ストライクドラモンは断末魔の叫びを上げながら、光の粒子へと変換されていく。

それは、ルナちゃんとニャロモンに吸収されていった。

光が消えた後には、彗ちゃんが倒れていた。

呼吸をしている様子から、ちゃんと生きているらしい。

 

「たお…した?」

 

「うん、だいしょーりー! 熾音、ニャロモンえらい?」

 

楽しそうに笑うニャロモンは、私の手に飛び込んだきて頭を擦り付ける。

そのふわふわの手触りに、ようやく自分が助かったとわかり、私の腰はずるずると腰が砕けていった。

彗ちゃんの無事を確かめたかったけど…もうダメだ。

ぺたりと座り込み、ニャロモンをぎゅっと抱きしめる。

 

「たすかったぁ…ありがとう、ニャロモン」

 

気がつけば、私は泣いていた。

しっとりと、ニャロモンの体に涙の雫が落ちてしまう。彼女は、不思議そうに私を見上げた。

 

「どうしたの? 熾音? 悲しいの?」

 

「怖かったぁ…」

 

そう言って、私はより強くニャロモンを抱き締めて泣き続けた。

ニャロモンは、不思議そうに私を見上げていたがやがてその大きな目に涙が浮かび上がってくる。

 

「ひぐ、ぐす、熾音が悲しいと、ニャロモンも悲しい…ふぇぇええん!」

 

本当に怖かった。

もう、こんなのはごめんだ。

 

「貴女でも、死ぬのは怖いのね」

 

不意に、これまでこちらを見ていた闇夜さんがそう呟いた。

私はニャロモンから顔を上げて頷く。

 

「そりゃそうだよ…あ、闇夜さんとルナちゃんもありがとうね。助けてくれて、本当にありがとう」

 

私は止まらない涙を拭いながら、そっと二人に頭を下げる。

 

「ああ、気にしなくていいわよ」

 

それに応える闇夜さんの声は、冷たかった。

そして、彼女は私にデジヴァイスを向ける。

 

「こらから、私があんたを傷つけるわけだし」

 

その青い瞳は、私を見透かすように鋭く細められていた。

 

「……ぇ?」

 

思わず漏れた声は、自分のものとは思えないほど掠れている。

闇夜さんの指示によるものだろう、ルナちゃんがどこか楽しげな足取りで私に近づいてくる。

 

「酷いことするのね、真宵。自分で助けておいて、自分で傷つけるの?」

 

「事情が変わったから、何か不満?」

 

「ううん、最ッ高! 信じた相手から、裏切られた絶望の表情って最高よ! さすが私のパートナー!

理解ってるぅ!!」

 

「黙りなさい、この邪悪毛玉。そんなんじゃないわ」

 

「…私を、どうするの?」

 

ルナちゃんを嗜めつつ、こちらに向けたデジヴァイスを下さない闇夜さんに問いかける。

何故、と言う言葉が頭の中でリフレインする。

理由がわからない、一瞬前まで助けてくれていた貴女がなんで…。

闇夜さんは、無表情に、そして無感動に口をひらく。

 

「殺すわ、ここで死んで」

 

悲しかった。

何故、自分の命を助けてくれた人にそんな事を言われなければいけないのだろう。

何故、仲良くなりたいと思った人にそんな事を言われなければいけないのだろう。

解らない。何も、解らなかった。

だから、聞いた。

 

「なんでぇ…?」

 

「私達、『選ばれし子供』はね。デジモンたちに選ばれたの。

貴女は、『天使型』や『神聖系統』のデジタルワールドの『善』のデジモン達に」

 

闇夜さんは、私の腕の中で彼女を威嚇するニャロモンを示した。

進化したニャロモンの尻尾には、黄金のリングが付いている。

 

「ニャロモンの尻尾についている、ホーリーリングがその証拠。

そして、貴女の白いデジヴァイスもね」

 

「『善側』に選ばれたから、それが何だって言うの?」

 

「簡単よ、『善側』に選ばれたなら『悪側』の敵ってこと」

 

彼女は、デジヴァイスを下さない。

黒い。私の白と正反対の黒いデジヴァイスを。

ああ、白が善なら…

 

「私は、『魔王型』や『暗黒系統』のデジタルワールドの『悪』のデジモン達に選ばれたの。

つまり、貴女の敵ってわけ」

 

黒は、悪なのだろう。

 

「さて、おしゃべりは終わりよ。ルナ」

 

「はいはい。じゃ、一撃で楽にしてあげるわね♪」

 

彼女のデジヴァイスから、0と1の光が放たれる。

ルナちゃんは、楽しげにへたり込む私の前に立ち手を振り上げた。

 

悲しい。

腕の中の、ニャロモンの威嚇が激しくなる。

悲しい。

闇夜さんが、「やりなさい」と命じる。

悲しい。

ルナちゃんが、技名を口にした。

 

「猫パンチ」

 

悲しいーーーーけど、『まだだ』!

 

私は咄嗟にデジヴァイスを掲げる。

それと共に、迫っていた猫パンチを0と1で構成された緑の壁が遮った。

どうやら、私のデジヴァイスの力らしい。

ルナちゃんの、猫パンチと拮抗している。

 

「なっ!? ファイアウォール!? どこからそんなエネルギーを!?」

 

「まだ、まだだよ」

 

私は、デジヴァイスを掲げる手を下ろさない。

そして、闇夜さんを真っ直ぐに見つめる。

そのどこか苦しそうな青い瞳と目が合った。不思議と見透かされるような気分はなく、むしろ彼女の気持ちが分かるようだった。

 

「だって、闇夜さんは、私を助けてくれたもの!!

それは、ニャロモンが出てきて、私がデジヴァイスを手にした後でもそうだった!

私が、『善側』だと分かってても助けてくれた!」

 

「それは、貴女を囮にすることで、ストライクドラモンを倒すために…」

 

「あの時、ストライクドラモンは私を狙っていたし、消えかけていた。

倒し切るために、ルナちゃんを強化する必要もなかったはず」

 

「それは…」

 

「だから、教えて」

 

私はデジヴァイスを構えながら、立ち上がった。

まだ、防壁は消えない。不思議と、強い気持ちが心から湧き上がり続ける。

 

「私には、わかんないことが多すぎる。

デジモンって、何?

デジタルワールドって何?

『選ばれし子供』って、何をするために選ばれたの?

善と悪って何?

ぜーんぶ、わかんないから教えて!!」

 

「質問ばかり…! 何でもかんでも応えて貰えると思わないで!!」

 

「私は知らない! 教えてくれないなら勝手に判断する!!

闇夜さんはとってもいい人で、ルナちゃんもいい子!

だから、もうやめよう! こんな事!!」

 

私は胸を張り、声を上げる。

ただ、まっすぐ闇夜さんを見つめた。

その言葉に、闇夜さんは……。

 

「ふざ、けるなぁ!!!!」

 

怒っていた。

な、なんでぇ!?

 

「いつもいつも、そんな反応ばかり! 世界がアンタにとって優しいものだと思ってるの!?

その反応も、その考え方も腹が立ってしょうがないわ!!」

 

「な、なにそれ、逆ギレ!? 人を殺しにかかってそれは、酷いと思うよ!?」

 

「うるさい! あんたいつもいつも能天気で、ヘラヘラしててムカつくのよ!

顔見てるとぶん殴りたくなるわ!!」

 

「ひ、酷い…!?」

 

「ルナ! そんなちゃちなファイアウォールぐらい、ぶち抜きなさい!!」

 

「えぇ〜、子供の喧嘩に首突っ込みたくなぁい」

 

「うるさい! やるの!!」

 

言葉と共に、闇夜さんからルナちゃんに流れ込む光が多くなる。

私も負けじと防壁に注ぐ力を増やすが…。

 

防壁に注ぐ私の力と、ルナちゃんに注がれる闇夜さんの力。

その光の流れが、次第に交わっていく。

ルナちゃんと防壁を通して、私と闇夜さんの力が直結した。

 

デジヴァイス同士が、繋がったのだ。

 

途端、防壁が消えると同時に、ルナちゃんへのバフが消える。

 

「へ?」

 

「なっ!?」

 

「あらら」

 

それどころか、私と闇夜さんのデジヴァイスの間に光の橋がかかる。闇夜さんの方からは黒い光、私の方からは白い光が走っている。

それは、どんどんと太くなっていき、やがて橋の中央に『穴』が開いた。

 

「あはー、デジタルゲートだ」

 

ニャロモンが、そう呟いた。

 

「えっ、何それ!?」

 

「デジタルワールドに繋がってるのー」

 

「な、何でそんなのが…?」

 

「さぁ…?」

 

「わかんないよね! 私も!!」

 

ただ、これについては闇夜さんも分からないようで、混乱していた。

ルナちゃんも、私から離れ闇夜さんにしがみついている。

そして、そのデジタルゲートはどんどんと大きくなっていき、やがて私たちを飲み込んでいった。

 

 

これから始まる大冒険。

私たちは、デジタルワールドとリアルワールドを行き来し、様々な事件をともに解決していく事になる。

 

そして、いつか、少し先の未来でーーーー。

 

 

私と真宵は、手を繋いでいた。

正面に見える、暴走してしまった原初のAIを見据えながら。

互いの相棒は、宙に浮きながら傍で悠然と構えている。

そして、私達の手を繋いでいない反対の手には、デジヴァイス。

 

「怖い? 熾音」

 

「ううん、真宵がいるもの」

 

「そ」

 

素っ気なく言い、前を見据える真宵の口元は嬉しそうに緩んでいた。

 

「ちょっと、お二人さん? 準備はいいの?」

 

「あはー、相変わらず仲良しさん」

 

レディーデビモンとエンジェウーモンになった二人が、方やニヤニヤ、もう一方はニコニコと微笑んでいる。

 

それに対して、私たちは頷くことで答えた。

 

「さあ、始めるわよ!」

 

「うん!」

 

私たちは、デジヴァイスを掲げる。

 

「「いくよ、二人とも!!」」

 

重なる私と真宵の声に、二つの声が答える。

 

「ええ!」

「まかせて!」

 

「レディデビモン!」

「エンジェウーモン!」

 

「「ジョグレス進化ぁぁ!!!!」」

 

直後、二つのデジヴァイスから光が溢れた。

 

 

DNA Digivolution

 

 

2体のデジモンが光となり、螺旋状に交わっていく。

そして、一つのデジタマを構成し、それが晴れた後には新たな姿の一体のデジモンが宙に浮かんでいた。

 

12枚の翼。体の右側が天使、左側が堕天使の女性の姿をしたデジモン。

 

その名を、

 

「「マスティモン!!」」

 

 

今、冒険が進化する。

 




暴走してしまったAI vs その被害に遭っているデジモンみたいな感じの世界です。
冒頭の文章のようなニュースを見て、あとマスティモンのジョグレス進化って良いよなと構想を得ました。
そのAIを倒すためにデジモン達は選ばれし子供を選定しますが、いつものデジモンっぽくまとまり切らず内輪揉めします。
光陣営と闇陣営が内ゲバし、それぞれがバラバラに抵抗してるためAIに押されつつある状況です。
テイマーの役割は、ハートブレイクっぽい感じで、デジモンにエネルギーを渡しつつ、高機能デジヴァイスを用いて、敵デジモンの弱点属性などを探し地形なども含めて戦略を練るイメージでした。

最後に簡単なキャライメージ
熾音ちゃん:光のやべーやつ。たぶん、お父さんがデジモン関係者。おそらくバリタチ。

真宵ちゃん:ツンデレ美人さん。人の良さが滲み出てしまっている。家庭環境悪い。
闇陣営に選ばれたのは、高潔な彼女がいつ堕ちるのか楽しみな邪悪な魔王達の計らい。たぶん、ネコ。

ニャロモン:超天然な呑気な子。このまま正統進化して、プロットモン→テイルモン→エンジェウーモンになる。
熾音ちゃんのヤバさについていけるやべーやつ。

ルナ(ブラックテイルモン):割と性格が歪んだやべーやつ。
真宵ちゃんが、いつどうやって落ちるのか、最前列でサイリウム振って待っていた。落ちないのは、それはそれで…というどうしようもないタイプ。

熾音ちゃんのママ:シングルマザーで頑張ってるのに、娘がデジモンに巻き込まれる。被害者。

以上です。誤字脱字ありましたら申し訳ありません。
お目汚し、失礼しました。

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