あと1年で漫画家になる。新人賞30回落選のあたしを、消えかけの稲荷神が鍛える 作:鳳 雛
机に向かって今までのやりとりを全てログラインにまとめることにした。長鳴実門《ながなきみかど》は缶チューハイを開けると、ちょびちょびと飲みながらログラインを整理する。
物語の展開がはっきりと決まってきたので少し長くなっても大丈夫だと思う。担当の榊原《さかきばら》さんへ、ログラインを送ってみた。
『ルームシェア×ショウブフェア』
一途な彼氏が欲しい猫系女子高生は、親の都合で、見境なく女子に告白している、犬系の幼馴染み男子とルームシェアすることになる。何かを決めるときは公平な勝負で決める。
衝突しながらも(勝負は指相撲・お弁当作り・プレゼント交換など)彼の不器用な優しさに惹かれていく。だが、彼の一途さを信じられず、ついに別居を決意する。
最後の勝負(愛してるゲーム)で彼がずっと自分だけを好きだったと知り、敗北して別居が決まったはずが、彼は勝負の結果を覆して「離れたくない」と告白する。
勝ち負けを超えて本当の気持ちを伝え合った二人は、これからも一緒に暮らすことを選ぶ。
テーマは『本当の気持ちを伝えることの尊さに勝ち負けはない』。
今回は色々なテクニックを駆使して作ったので思い入れがある。このログラインが問題なければネームに進める。
「え、ログラインを送ったの3日のに連絡がない? 榊原君忙しいのかな?」
TCA《東京クリエイティブアクティヴ》専門学校の黄瀬《きせ》先生の言葉を聞いて、実門は背中を丸めた。やはり、あまり期待されていないのだろうか。『早く賞取って、連載して、単行本にして夢叶えましょうよ!』という言葉は嘘だったのだろうか?
先生にログラインを見てもらっている。プロの目から見て、どう評価されるのか気になった。
「ログラインとして考えるとかなり長いけど、ちゃんと魅力を伝えられていると思います」
「ありがとう存じます。勝手にネームに進んで良いでしょうか?」
「ここまでしっかりとログラインができているから、問題ないでしょうね」
「早速、ネームに入ります」
教室の白い机に座ると、赤羽龍姫《あかはねたつひめ》が側にやってきた。提出用の原稿用紙を持っている。
「前回の課題で5ページの漫画を描くっていうのが、あったじゃないですかー」
「あったわね。あたしは免除されたのだけれど」
「ミカ先輩からしたら楽勝ですもんね」
「まぁ、5ページくらいならそうね」
「私たち初心者は5ページでも大変ですよー」
「特にアナログは大変ね。あたしは慣れているけど」
「はぁ、早く漫画家になりたいなぁー」
「龍姫ちゃんは何で漫画家になりたいの?」
龍姫は鼻を掻きながら、肩を上げて背筋を伸ばした。
「私は好きな漫画家さんがいて、その影響ですかねー。何冊も出しているベテラン売れっ子漫画家なのですけど、とっても絵が繊細でそこが好きなんです」
「作画に憧れているのね。あたしは『花子物語』みたいな作品が描きたいわ。胸が熱くなって昂ぶるような燃える物語。でも少女漫画だから繊細な表現も重要ね」
「ミカ先輩は凄い速度で成長してますもんね。私も早く名刺欲しいなー」
「担当が付いただけじゃ何も変わらないわよ。良い担当と巡り会いたいわ。今の榊原さんはオシャレだしハンサムだけど、コミュニケーションが上手くいっていないの」
「既読スルー的な?」
「そうなのよね。でも、あたしは信じている。ちょっぴり恋愛感情もあるかもしれないし」
「えー、禁断の恋じゃないですか。でも、漫画家と担当の恋愛ってありそうですよね。ただ、前に授業で黄瀬先生が、『漫画家になりたいなら彼氏を作っている場合じゃない』って言っていましたよ」
「そうなの? 逆かと思っていたわ。恋愛していた方が創作に役立つと」
「でも、黄瀬先生は独身なんですよね。結構、歳取っていると思うんですけど」
「そのルートを辿りたくはないわね」
「漫画か恋愛か、どちらかしか選べないなら?」
「あたしは、もちろん漫画よ。漫画のことしか考えていないわ」
「じゃあ、恋愛はスパイスですね」
実門はシャーペンを置いた。頭を傾ける。
「龍姫ちゃんはどっちかしら?」
「私は編集担当を狙いたいですね。高学歴だし、贔屓してくれるかもしれない」
「結局はどっちも欲しいってことね。年上でも構わないの?」
「もちろんです。私も欲張りなんで」
「コネを作れるのも専門学校の強みよね」
実門は榊原に対する感情を整理できずにいた。たった3日返事を待てないというだけだ。
別に、好きだから早く返事が欲しいわけではない。
取りあえず気持ちを整えて、製図用インクにGペンを浸した。