気怠いくらいの暖気に包まれて、目が覚めた。
微かな煤の匂い。炎が、ぱちぱちごうごうと荒ぶる。
窓掛けの隙間見える世界は灰色。
静かに泣くような雨が、ざあざあと、もう何日も降っていて、草葉がはにかみ、赤らむのを邪魔している。
雑音だけが、小さな家を取り囲んでいるように感じた。
暖炉の脇では「本」が積まれている。
齢を刻む筋が幾重にも走っていて、それらの一つ一つが、読み上げられるのを待つように折り重なっていた。
霜が降りるまでに、もっと高く積み上げなくてはいけない。
太陽が空から遠くなっていくにつれて、草花は枯れて灰になり、霜のように泥土を覆う。
枝木は葉を零して、縮こまる。弱いものはやはり、朽ちて灰になるだろう。
木枯らしでそれらが舞い上がって、青い空を覆い始める。
半月のうちに、それが何度か繰り返されて、やがて冬が重く町にのしかかる。
その前に、この小さな殻に閉じこもる備えをしなくてはならない。
――目が覚めてから、どれくらいの時間が経っただろうか。
私は怠惰な腰を上げて、「ねこ」を押して町に向かった。
買えるだけの水と保存食。少しの贅沢として、小さな酒瓶と豆の詰まった小袋、ひとつまみの干し肉の入った紙袋を鞄に押し込む。
ねこに積めるだけの本を積み込んで、がたがたごろごろと転がす。
自宅に戻って、仕入れた本を並べる。
雨で濡れてしまって使い物にならないから、暖炉の前に乾かすように並べた。
そうしてから、棚から気に入った一つだけ取り上げて、寝床の傍らに置く。
日暮れ頃になってようやく空が僅かに赤らんで、町の明かりが、徐々に灯る。
それと入れ替わるように、私は小さな家の錠をかける。
一杯の酒をグラスに注いで、小皿に豆を零す。買って来た肉を薄く切って、何枚か皿に盛る。赤と緑の香辛料を一つ、二つ、三つ、――四つと瓶から振り出して、一仕事終えたような満足感を得た。
椅子にもたれて、本を手に取る。歳月によって刻まれた一つ一つを指でなぞり、目でそれを追う。
気が付けば夜の帳が下りて、窓は塞がれたように暗かった。
からんと氷が転んだ。グラスはほとんど空だ。
もう一刻もすれば、最後の電車が、いつのものかも分からない灰の噛んだ車輪をがりがりと回して駅に到着するだろう。
働き盛りの若者たちが町に戻って来て、日付が変わるまでの間、歌と踊りと酒で町が活気づく。
僅かに残された、琥珀色の液体の奥に、その光景が浮かぶ。
それはもう、たいそう魅力的ではあるのだがと暖炉に目をやる。
消えかけの炎が燻り始めて、新たな火種を求めていた。
仕方なしに、炭酸水を注いで、僅かに酒を足した。
堅いパンを切って、バターとガーリック、やはり香辛料を、今度は控えめに振りかける。
浅い鍋に網を敷いてパンを置く。
それを暖炉にかけると、程なくして香ばしい香りが立ってきた。
その間にも、本を読み進めた。
良く焼けたパンを齧って、酒でふやかして流す。
右手で、本をなぞる。
やがて、読み終えた頃には、時計の針は天辺を指していた。
読み終えた本を暖炉にくべる。
眺めていると、弱った火が、ゆっくりと燃え移る。
やがて、しばらくして、私がこれから得た想像力が弾けるように、火は連なって、背丈を伸ばしてきた。
それに安心したように、睡魔がどっと押し寄せてきて、私は布団に閉じこもる。