『強制TS転生なんて、あんまりだ!』

主人公は、いつの間にかトラックにはねられ、気付けば白い空間にいた。
そこに現れた神様は空から何十枚ものカードを呼び出して言う。

「この中から転生先を選ぶのじゃ」

「……『女』戦士とか『女』勇者とか、女しかないんだけど!?」

「おまえさんは女子枠に当選したんじゃ。その代わり大サービスでどれでも選べるぞい」

「TSかよ!」

「あと制限時間内に決められんかったら、ランダム選択じゃからな」

「嘘だろ」
 
主人公は少しでもマシな転生先を探す。
しかし残された時間はわずかしかない。

(ん……あれは? 男!?)

けれどそこに1枚だけ、神様が間違えて呼び出したと思われる「男」で始まるカードがあった。
制限時間が迫る中、主人公はそれをすぐさま選び取るのだが、はたして……?

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女子枠転生

「うお、眩しっ!」

 

 二つの明かりにまっすぐ照らされた僕は、次の瞬間全身の痛みを感じて、ふわりと浮き上がった。

 

(おかしいな。どうして自分の部屋で勉強していたのに、トラックに跳ね飛ばされたんだ?)

 

 でも、すぐに痛みが引いて、そんなことを考えていた。

 

「はっ!」

 

 目を開くとそこは周囲全てが白い空間で、僕は宙に浮いていた。

 慌てて手足をばたばたと動かす。

 傍から見たら、まるで死にかけのゴキブリみたいだろう。

 

(ああ、たぶんこれは、ほんとに死んだんだな)

 

 だったらもういいやと、僕は手足の動きをぴたりと止めた。

 すると身体が勝手に90度くるりと前回転して、地面の感触が足に伝わってきた。

 

「ほい、おまたせ。一名様、ご到着じゃな。ええと、鵜狩(うかり)蜂太(はちた)くんね」

 

 そうしたら白い空間が等身大の四角形に切り取られて、そこからのっそりと誰かが入って来た。

 眼鏡をかけて、腰を曲げた、長いひげのご老人だ。

 頭はつるっぱげ、いわゆる仙人みたいだ。

 

「え、なんで知って? というか、誰? ……まさか、神様とか?」

 

「あー、うん、そう神様、神様じゃ」

 

 嘘くさい。うさんくさい。

 でも、これって、もしかして……。

 

「というわけでな、神様から、プレゼントじゃ。おまえさんを異世界に転生させてやるかのう。ほほいのほいじゃ」

 

 神様はそう言いながら、子どもがトンボの目を回そうとするように、指をくるくる回した。

 すると空中からぱらぱらと何十枚ものカードが散らばって落ちてくる。

 

「今回限定、特別大サービス中じゃ。転生先は自由に選べるようになっとるからのう。この中から好きに選ぶとええぞい」

 

「マジっすか」

 

「マジじゃ」

 

(異世界転生かあ。ファンタジーだなあ。まさか本当にあるなんてなあ)

 

 僕は自分が死んだことなんてどうでもよくなって、転生先で待っているに違いないバラ色の人生に思いを馳せる。

 

(だったら、しっかり吟味しないとな)

 

 そうして僕は、まるで神経衰弱をするときみたいにそこらじゅうに散らばったカードを、1枚ずつ確認することにした。

 重なったりはしているが全部表を向いている。

 いちいち裏返さなくて済むのが良い。

 

「ええと……『女戦士』、うん、パス」

 

(せっかくの異世界、どうせならモテる男がいいな)

 

「『女勇者』ね、はい、パス」

 

(そのままハーレムとかできちゃったりして)

 

「『女傭兵』、パス、パスっと」

 

(こういう女の子たちを仲間にして、うふふな毎日を過ごしたい)

 

「『女魔王』……?」

 

(いや、それはちょっとハーレム要員には相応しくないかな)

 

「『女奴隷』……は?」

 

(このカード、いらなくない? ハーレム要員には必要かもだけど、なりたくはないでしょ)

 

「『女給』……ああ、なるほど、メイドさんか」

 

(これもか。だけど、お世話係は必要だよね……って、あれ? なんかおかしくないか?)

 

 その後、落ちているカードをさらに確認してみると。

 女魔法使い、女司祭、女鍛冶師、女領主、女格闘家、女盗賊、女、女、女……。

 

「なんで女ばっかりなんだよっ!!」

 

 全体の一割ほどを確認したところで、僕は思わず叫んでいた。

 

「おおそうじゃ、言い忘れとった。そりゃあのう、おまえさんが、女子枠に当選したからじゃ」

 

「ジョシワク……?」

 

「そうじゃ。実はのう、男子ばっかり転生してきては不公平で困ると、向こうの世界のとっても偉い神様から苦情があったらしくてのう。それに応じたこっちの世界の一番偉い神様から無言の圧力があったらしいんじゃ。それに屈したわしよりちょっと上の方の神様が色々考えたあげく、女子枠が創設されたというわけじゃ。だからわしに文句を言われても困るぞい」

 

「いや、意味わかんない。それに、僕、男なんだけど」

 

 確かに僕は、背も小さくて女顔だと友達から言われることもある。

 だけどれっきとした男だ。

 

「それがのう。女子枠ができたはいいものの、こっちの世界で転生願望をもっとるのが男子ばっかりでのう。仕方なく、男子を女子として転生させることになったんじゃ。ほら、確かこっちの世界で流行っとるじゃろ。ええと、なんていったかのう」

 

「TSかよっ!」

 

「おおそうじゃそうじゃ、そのテーエスとやらじゃ。喉に刺さった小骨がとれたわい。よかったよかった」

 

「そんなの……あんまりだ」

 

「しかしのう、そのかわりの特別サービスで、好きなの選んでよいことになっとるんじゃ。感謝するがいいぞい」

 

 僕はがっくりと膝をついた。

 

(そんな……。ハーレムの夢が……)

 

「あっ、そうじゃ。ちなみにあっちのほうに見えておるんじゃが、10分以内に選ばんとランダムで決定されるからのう。気を付けるんじゃぞ」

 

 神様は右手の人差し指をぴんと立てた。

 

「なっ!」

 

 僕がその指の先を見上げると、そこにはデジタルな数字が浮かんでいた。それはちょうど「05:00」となったところだった。

 

(5時間……じゃないよね)

 

 すぐにそれは「04:59」となった。

 

「おまえさんがここに来た時から始まっとるからのう」

 

「……ねえ、あのドアみたいな演出なんだったの?」

 

「すまんのう、ここんところトイレが近くてのう。ほれ、はやくしたほうがよいぞ」

 

「嘘だろ……」

 

(や、やばい。ランダムなんて……女奴隷とかになったら最悪だ。ええい、こうなったら、少しでもマシなの選ばないと)

 

 僕はまだまだ残っている未確認のカードに、ざざっと目を通していく。

 相変わらず並んでいるのは、「女」で始まるカードばかりだ。

 女錬金術師、女狩人、女軍師、女、女、女、女、男(・)、女、女……。

 

(ん? あれっ? 今、男って見えたような……ど、どこだ!)

 

 僕はもう一度、きょろきょろとあたりを見回す。

 見ていたのは確か、神様の足元あたりだ。

 

(あった!!)

 

 そこには確かに、「男」と書かれたカードがあった。

 だけどその下半分は「女勇者と魔王の間に生まれた最強の娘」というカードで隠されて見えない。

 

(『女勇者と魔王の間に生まれた最強の娘』ってものすごく気になるんだけど……。い、いや、そんなこと気にしてる場合じゃない!)

 

 僕は上空を見て、時間を確認する。

 残り1分だった。

 

(まずいぞ、時間がない!)

 

 神様を見れば、眼鏡を外してハンカチで拭いているところだった。

 

(よし、気付いてないぞ。たぶんあのカード、間違えて入ってるんだな。見つかると没収されるかも。だったら、気付かれないように近づかないと!)

 

 僕は忍び足で、そーっと神様へと近づいた。

 残り30秒。

 

「……」

 

 そーっと、そーっと。

 残り20秒。

 

「よしっ!」

 

 残り15秒。

 

「これだっ!」

 

 残り10秒。

 僕はしゅたっと、神様の足元にあった「男」カードを奪い取った。

 

「ほいほい、決まったのね。ほいさっさー!」

 

 神様がもっていた眼鏡をくるくる回す。

 そうして僕の視界がぐにゃりと曲がっていく。

 なんとなく、神様がハンカチをこちらにフリフリして見送っている気がした。

 

 

 ※ ※ ※

 

 

「……ふぎゃふ!」

 

 驚いた僕は、変な声を出した。

 

「あぎゃ! うぎゃ!」

 

(あれ、おかしいな、うまく喋れない。む、なんだ、この小さな手は。……ああ、そうか)

 

 どうやら赤ん坊に転生したらしい。

 ある意味お約束かもしれない。

 だがそんなことよりも重要なことがある。

 

「……!!」

 

(よかった、ついてる)

 

 足を動かしておまたをむにむにすると、ちゃんと我がムスコの感触があった。

 僕はTS転生を回避し、無事に男のままらしい。

 

(それで、ここは、どこだろう?)

 

 僕はベビーベッドに寝かされているようだ。

 柵の向こうに見える白い石壁には、高級そうなタペストリーがかかっている。

 

(もしかして、貴族?)

 

 だとしたら願ったり叶ったりだ。ハーレムだって作れるかもしれない。

 

「あぎゃあ!」

 

 そんなことを思っていると、ふわりとした感触に僕は包まれた。

 どうやら抱きかかえられたらしい。

 というのは目の前に、とても綺麗な女性の姿があったからだ。

 

「アレク」

 

 その女性は僕を抱きかかえると、そう呼んだ。

 どうやらそれがこの世界での僕の名前らしい。

 

(アレク……アレキサンダーかな? カッコいい!)

 

 僕の中の何かが疼きそうだ。

 それはともかく、この女性が僕の母親なのだろう。

 

「エミリア、わかってるね?」

 

 その横合いから、母を呼ぶ別の声がする。

 

「はい、お母様」

 

 どうもそちらは、僕の祖母にあたる人らしい。

 

「ならいい。だけどくれぐれも慎重になるんだよ。ランナーベック領の未来がかかってるんだからね」

 

 そう言いながら、なかなかに貫禄のある鋭い表情の祖母が、僕を覗き込んだ。

 

「いいかい、おまえ」

 

 そして、祖母はこう続けたのだ。

 

「おまえは、女として生きるんだよ、アレクシス」

 

(……え゙っ?)

 

「でなきゃ、みんなの首が飛ぶからね。……物理的に」

 

「おぎゃー!」

 

 嫌な予感を覚えた僕は、大きく叫んだ。

 赤ん坊の訴え声なんて、誰も聞いちゃくれなかった。

 

 ※ ※ ※

 

 

「ん、これはなんじゃ?」

 

 そのころ神様は、散らばったカードをケースに収納していた。

 その中に、なぜか「女」という文字が頭についていないカードが1枚だけあったのだ。

 

「ふーむ?」

 

 神様は老眼鏡を外して、それが鼻に接するぐらいの距離まで持ってきた。

 

「男の娘、じゃと? なんじゃ、間違えたかと思ったが、これは女子じゃな。なんせムスメじゃしな」

 

 神様は特に気にせずそのまま、そのカードを元通りにしまい込んだ。

 

「テーエスとか、ほんに最近の言葉は難しいのう」

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 ニールンド王国、ランナーベック領。

 そこは代々、女領主しか治めてはならないと、定められていた。

 昔々、男領主が反乱を起こしたからとか、うんたらかんたら。

 

 名君と謳われた女領主アレクシスは、生涯未婚を貫き、家督は姪に譲ったという――。

 

 

(おしまい)

 

 


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