GOD EATER ― 神への挑戦 ― 作:Mr.チュウニビョウ
最近ゴッドイーター熱が再燃したため二次創作を書いてみたくなったので投稿させていただきます。
完結出来るように頑張るので応援よろしくお願いします。
文明を築き、科学を発展させ、数え切れないほどの命を育んできた人類。
しかし、ある日を境に、その立場は逆転する。
オラクル細胞。
あらゆる物質を捕食し、自己増殖を繰り返す未知の細胞。それらが集合し、独自の形態と本能を獲得した存在――人類はそれを、アラガミと呼んだ。
銃弾は通じず、戦車は食い破られ、都市は次々と地図から消えていった。
人類が生き残るために生み出した対抗手段。それが、オラクル細胞を制御する力を持った特殊な兵士、ゴッドイーターだった。
彼らは特殊な武器、神機を手に取り、人類の天敵へと立ち向かった。
だが、ゴッドイーターの誕生によって戦況がすぐに好転した訳でも、人類が失った土地を取り戻せるわけでもなかった。
戦力は足りない。
時間も足りない。
そして何より、人類には決定的な力が欠けていた。
アラガミを圧倒し、単独で戦場を制圧できるほどの存在。
人類の生存を左右する、究極の対アラガミ戦闘個体。
既存のゴッドイーターの枠組みを超えた、最強のゴッドイーター。
その構想を実現するため、ある研究機関が秘密裏に動き始めた。
旭日生体科学研究所。
文明崩壊以前、世界最高峰のアスリートを育成し、人体の潜在能力を研究していた組織である。
崩壊後、彼らはフェンリル傘下へと下り、フェンリルの資金と設備を利用し、研究対象を人間の身体能力からオラクル細胞へと広げていた。
人間の肉体が秘める可能性を追求してきた研究者たちは、やがて一つの事実に注目する。
偏食因子。
それは、ゴッドイーターの適合性を左右する重要な因子であり、その適合には個人差が存在する。
そして、極めて特異な成功例が確認されていた。
ソーマ・シックザール。
歴史上最初に発見されたP73偏食因子との適合に成功し、通常の人間とは異なる身体的特性を示した少年。
彼の存在と生体データは、研究者たちに新たな可能性を提示した。
人間の身体能力を極限まで引き上げ、P73偏食因子への適合性を備えさせ、さらにオラクル細胞そのものを肉体に組み込むことができれば。
従来のゴッドイーターを超える存在を、人為的に生み出せるのではないか。
神機に依存せず、自らの肉体を武器としてアラガミと戦うことができれば。
既存の兵器では成し得なかった戦闘を、たった一人で実現できるのではないか。
人間の意志を保ったまま、アラガミの力を自在に扱う存在。
それは、人類が生き残るための切り札となる可能性を秘めていた。
しかし、その実現には大きな壁があった。
P73偏食因子への適合。
オラクル細胞との共存。
そして、肉体を構成する細胞そのものを変化させながら、人間としての自我と人格を維持すること。
どれか一つでも失敗すれば、実験体は命を落とすか、制御不能な存在へと変貌する危険があった。
それでも、研究者たちは計画を進めた。
人類の未来を切り開くために。
そして、彼らが求める究極の戦闘個体を生み出すために。
その計画の名は――。
ヴィーザル計画。
ヴィーザル計画の目的は、単なる身体能力の強化ではなかった。
目指していたのは、人間の身体を持ちながら、アラガミに匹敵する力を備えた、究極のゴッドイーターの創造である。
研究者たちは、ソーマ・シックザールの生体データを基礎研究の重要な指標として利用した。
P73偏食因子への適合性。
オラクル細胞に対する身体の反応。
通常の人間とは異なる生理的特性。
それらを分析し、人間の身体能力を極限まで引き出すための遺伝的・生物学的条件を探った。
同時に、文明崩壊以前から蓄積されていたトップアスリート達の遺伝的特徴や身体運用データも研究対象となった。
筋力、瞬発力、反射速度、持久力、運動制御能力。
人間が持つあらゆる可能性を分析し、最適な組み合わせを追求する。
その研究成果を結集し、人工的に設計された子供――デザイナーズチルドレンを生み出す。
それが、計画の第一段階だった。
だが、遺伝的に優れた人間を生み出すだけでは、研究者たちの目的は達成できない。
必要なのは、P73偏食因子との適合性を備え、オラクル細胞と共存できる身体。
さらに、オラクル細胞の力を単に受け入れるのではなく、自らの意思で制御できる可能性を持った個体だった。
そのため、選定された受精卵には、研究段階で確立された処置が施された。
遺伝的な設計に加え、P73偏食因子とオラクル細胞を組み合わせた特殊な生体処置。
そして、誕生後も継続的な観察と調整を行い、成長の過程で身体の特性を検証する。
計画の中心に据えられたのは、最初から一人の少年だった。
彼は偶然生まれた異常個体ではない。
実験中に突然変異を起こした存在でもない。
人類がアラガミに対抗するため、研究者たちの知識と技術を結集して生み出した、意図的な設計の産物だった。
その少年の名は――。
神無冥(かんな・めい)。
彼は、人間として生まれた。
だが、その誕生には自然な生命の営みとは異なる、人為的な目的が組み込まれていた。
彼が生まれる前から、研究者たちは彼に求める役割を決めていた。
最強のゴッドイーターとなること。
アラガミを討伐すること。
そして、人類を守るための究極の戦闘個体となること。
冥自身がそれを望んだわけではない。
彼は、生まれた瞬間から、その目的を背負わされていた。
午前六時。
研究施設の一室に、電子音が鳴り響いた。
「被験体番号、V-01。起床時刻です」
無機質な音声が告げる。
白いベッドの上で、一人の少年が目を開けた。
黒い髪。黒い瞳。白い肌。
この3つが合わさることで神秘的な強いコントラストを感じさせる彼の年齢は八歳。
整った顔立ちは年相応の幼さを残しているものの、その表情には奇妙なほど感情がなかった。
「……」
少年――神無冥は、何も言わずに上体を起こした。
洗顔、着替え、朝食。
指定された時間内に、決められた動作をこなしていく。
食事に喜びはない。
着替えに面倒くささもない。
誰かに話しかけることもなければ、何かを欲しがることもなかった。
彼は生まれてからずっと、この施設で育てられてきた。
教えられたのは、身体の使い方と戦闘技術。
覚えさせられたのは、アラガミの生態と弱点。
繰り返し刷り込まれたのは、ただ一つの命令だった。
――アラガミを殲滅しろ。
それ以外の感情は、戦闘の邪魔になる。
研究者たちはそう考えていた。
「被験体V-01、身体能力測定を開始します」
冥は測定室へ移動した。
跳躍力、反応速度、握力、動体視力、持久力。
年齢を考えれば、どの数値も異常だった。
だが、研究者たちが注目していたのは単純な筋力ではない。
冥の身体は、あらゆる動作において無駄が極端に少なかった。
足を踏み出すときの重心移動。
着地の衝撃を逃がす関節の角度。
視線と身体の向きを切り替えるタイミング。
それらは、長年鍛錬を積んだ熟練者を思わせる精度だった。
もちろん、八歳の肉体はまだ完成していない。
骨格も、筋肉も、腱も、成長の途中にある。
だが、冥の身体にはオラクル細胞が存在していた。
細胞は彼の身体を構成するだけでなく、動作に必要な筋力や安定性、神経と筋肉の連携を微細な単位で補っていた。
本来なら肉体の未成熟さによって実現できない動きも、彼は実行できる。
しかし、それは技術をオラクル細胞から与えられているという意味ではなかった。
冥は四歳の頃から訓練を受けていた。
研究所に蓄積された武術、軍隊格闘術、世界荒廃によって失伝したと思われていた古武術、トップアスリートの身体運用データ。
膨大な記録を学び、自らの身体で反復し、修正し、実戦で使える技術へと変えてきた。
技術を身につけたのは冥自身。オラクル細胞は、その技術を幼い肉体で実現するための補助にすぎない。
それが、ヴィーザル計画の被験体と、単なる高性能な生体兵器との違いだった。
「……素晴らしい」
観察室の研究者が、測定結果を見つめながら呟いた。
「反応速度だけではありません。動作の修正速度が、前回の測定よりも向上しています」
「戦闘シミュレーションの結果は?」
「記録済みの格闘技術との照合では、最適解に近い動作を自力で選択しています。未知の動作に対しても、二度目以降の対応精度が大幅に上昇しました。このまま成長すれば、1度見せたものは通用しないと言えるところまで行くでしょう」
「学習能力も想定以上か」
研究者は満足げに頷いた。
彼らが見ているのは、成長する兵器だった。
その兵器が、自分の生まれた意味を考えているかどうかなど、誰も気に留めなかった。
「模擬戦闘を開始します」
訓練区画の中央。
冥の正面に、複数の戦闘用機械が展開した。
銃撃を模した射出装置。
接近戦を想定した可動式アーム。
人間の反応速度を超えるタイミングで動作する、戦闘シミュレーター。
「被験体V-01、戦闘を開始してください」
電子音が鳴った。
最初の射出体が飛来する。
冥は頭をわずかに傾けた。
弾丸を模した射出体が、頬のすぐ横を通過する。
一瞬の時間差で放たれていた射出物も身体を半歩ずらして回避する。
続いて、右側から可動式アームが迫った。
冥は後退しない。
攻撃を皮一枚の所まで引き付けて、爆発的な足捌きで完璧な位置へと移動した。
その引き付けはまさに極限といっても過言ではなかった。
避けたと完全に同時に肉体変形により生み出されていたナイフの剛撃で、アームを完全に両断した。
その時更にもう一本のアームが冥を叩き潰さんと迫っていた。
冥は表情ひとつ変えることなく、強烈な上段受けで止めたと同時に銃に変形させていた片腕から、一呼吸で4発の銃撃を放つ。
それはアームの主要可動部を正確に撃ち抜き、アームは機能停止するが、冥はそれを更に蹴り潰すことで完全に破壊した。
訓練区画には、動作を停止した戦闘用機械だけが残っていた。
「戦闘終了。被験体V-01、損傷なし」
冥は静かに立ち上がった。
息は乱れていない。
表情にも変化はない。
「終わりですか」
彼が尋ねたのはそれだけだった。
観察室の研究者たちは満足そうに顔を見合わせた。
八歳の少年が、自分の年齢を超越した戦闘技術を身につけている。
それだけでも十分な成果だった。
それに加えて、冥が自身の肉体そのものに潜む、ゴッドイーターの常識からも外れた力を完全に使いこなしていたから。
ヴィーザル計画の研究区画には、通常のゴッドイーター研究では扱わない設備が存在していた。
オラクル細胞の挙動を解析する隔離実験室。
偏食因子の適合状態を監視する特殊装置。
そして、被験体V-01の生体反応を常時記録する観測システム。
研究者たちにとって、冥は人間であると同時に、未知の生物でもあった。
彼は人間として誕生した。
出生時、すでにP73偏食因子とオラクル細胞の影響を受けていた。
その細胞群は、単に体内へ侵入しているのではない。
冥の身体を構成し、維持し、変化させる根幹そのものになっていた。
人間の細胞が担うはずの機能を、オラクル細胞が代替し、あるいは補完している。
そのため、通常の人間ならば致命傷となる損傷であっても、条件次第では驚異的な速度で修復することが可能だった。
もちろん、無制限に再生できるわけではない。
損傷の規模や、必要となる物質とエネルギーには限界がある。
だが、既存の人類が持つ生物学的な常識では、彼の身体を説明しきれなかった。
「偏食因子の状態は?」
研究主任が尋ねた。
「安定しています。拒絶反応は確認されていません」
「オラクル細胞の活動は?」
「通常時でも一定の活動を維持しています。筋肉の運動や外部刺激に応じて、細胞の分布と活動量が変化する傾向があります」
「つまり、本人の意思で制御できる可能性があると?」
「現時点では断定できません。しかし、訓練中に身体の一部へ活動が集中する現象を確認しています」
研究主任は、モニターに表示されたデータを見つめた。
画面には、冥が拳を振るう瞬間の生体反応が記録されていた。
拳を握り込んだ直後、前腕から手の甲、そして拳へとオラクル細胞の活動が集中している。
偶然なのか。
反射なのか。
それとも、冥自身が無意識に制御しているのか。
答えはまだ出ていなかった。
「次の実験で確認する」
研究主任はそう告げ、画面を切り替えた。
そこに映し出されたのは、アラガミの組織片だった。
人類を捕食する存在。
通常の兵器を無効化し、ゴッドイーターでさえ命を懸けて戦わなければならない敵。
その細胞を前にしても、冥の身体は拒絶反応を示さなかった。
むしろ――。
「……反応が強まっています」
研究員の声がわずかに震えた。
「被験体のオラクル細胞が、組織片に反応しています。捕食行動に類似した活動を確認」
「捕食だと?」
「はい。ただし、通常のアラガミによる捕食とは異なる可能性があります。被験体の身体が、外部のオラクル細胞を取り込もうとしているように見えます」
「ソーマ・シックザールのデータを基礎にした適合性の研究……。その先に、ここまでの現象が現れるとはな」
ソーマ・シックザール。
研究所の資料に記された名前の一つ。
自分が生み出される過程で、重要な研究対象となった人物。
しかし、冥はまだソーマに会ったことがなかった。
彼が自分とどのような関係にあるのかも、知らされていなかった。
研究者たちが見ていたのは、二人の間にある共通点と相違点だった。
ソーマは、P73偏食因子への適合に成功した特異な人間。
一方、冥は、その研究データを基礎として人為的に設計され、オラクル細胞を肉体の根幹に組み込まれた存在。
ソーマが研究の出発点の一つであるなら、冥はその研究が目指した到達点の一つだった。
もちろん、両者の生物学的な仕組みは同一ではない。
だが、研究者たちの目的は明確だった。
ソーマの成功例を足掛かりに、人為的に最強のゴッドイーターを生み出すこと。
そして、神無冥はそのために生み出された少年だった。
研究室に沈黙が落ちた。
人間がアラガミを捕食する。
そんな現象が、現実に起きようとしている。
だが、実験はそこで中断された。
主任の指示によって組織片が隔離され、冥の生体反応も監視下に置かれた。
冥自身は、何が起きていたのかを詳しく知らされなかった。
彼に与えられた説明は、いつもと変わらない。
「検査は終了しました。次の訓練に備えてください」
「……わかりました」
冥は短く答えた。
研究者たちが彼をどう見ているか。
自分が何のために生み出されたのか。
それらを理解するには、まだ幼すぎた。
あるいは――理解する機会そのものを、与えられていなかったのかもしれない。
冥が初めて自分の意思について考えたのは、五歳の頃だった。
その日、彼は戦闘訓練を終えた後、研究施設の通路を歩いていた。
次の訓練まで、わずかな休憩時間が与えられていた。
通路の先には、研究員たちが使う休憩室がある。
扉の向こうから、誰かの笑い声が聞こえた。
冥は足を止めた。
それは、訓練区画では聞いたことのない種類の声だった。
軽く、自然で、何かを楽しんでいるような声。
彼は扉を見つめた。
なぜ、彼らは笑っているのだろう。
何が楽しいのだろう。
自分も、あのように笑うことができるのだろうか。
疑問が浮かんだ。
しかし、答えは出なかった。
「被験体V-01。訓練開始まで残り三分です」
天井のスピーカーから声が響く。
冥は視線を戻した。
そして、何事もなかったかのように歩き始めた。
人為的に作られた生命体である彼にとって、行動指針は組織から提示され続けている、アラガミをこの世から殲滅すること。
そのような目的で生み出された神無はそれ以外知らず、受け入れるしかなかった。
命令には従う。
訓練には取り組む。
求められた成果を出す。
それ以外の行動を選ぶ理由が、自由が、彼にはなかった。
六歳になる頃には、冥は自分の身体をある程度意識的に制御できるようになっていた。
拳にオラクル細胞の活動を集中させる。
脚部の活動を高め、瞬間的な加速を得る。
負傷した箇所へ細胞の活動を集め、修復を促す。
偏食因子とオラクル細胞の作用によって、常人とは天と地以上の差の能力を獲得していた。
その精度は、日々の訓練とともに向上していった。
七歳になると、彼はアラガミの行動を再現する戦闘訓練にも参加するようになった。
敵の攻撃を観察し、軌道を読み、動きを予測する。
一度見た攻撃は、再び通すことを極めて難解にした。
未知の攻撃に対しても、失敗から得た情報を次の判断に反映する。
武術の資料から学んだ身体操作や、見の目もここで役立った。
相手の力を正面から受け止めず、軌道をずらす。
攻撃の起こりを見極め、無駄な動きを減らす。
身体の一部だけに頼らず、全身を連動させて力を伝える。
それらは、人間同士の戦闘を想定して生み出された技術だった。
しかし、身体の使い方という根本的な原理は、アラガミとの戦闘に応用できる部分も多々あった。
冥はそれらを学び、自分の肉体と能力に合わせて変えていった。
ただし、どれほど優れた技術を身につけても、実際のアラガミとの戦闘は経験していない。
模擬戦闘でどれほど優れた成績を収めても、本物の戦場には予測不能な事態が存在する。
研究者たちも、そのことを理解していた。
冥を次の段階へ進ませるには、実戦経験が必要だった。
八歳。
冥は、研究所が定めた戦闘訓練課程を修了した。
身体能力、身体操作、格闘技術、戦術理解、状況判断、精神力。
いずれも、通常の訓練生とは比較にならない水準に達していた。
彼の肉体は、通常の人間とは異なる構造を持つ。
P73偏食因子への適合性を備え、オラクル細胞を身体の根幹に組み込んでいる。
そのため、神機を用いずとも、肉体そのものを武器として運用できる。
拳に活動を集中させれば、接触した対象の組織を捕食する。
脚部に活動を集中させれば、未成熟な肉体の限界を超える瞬発力を発揮する。
損傷を受けても、オラクル細胞の働きによって修復を促進できる。
ただし、その能力は無制限ではない。
損傷の規模や、修復に必要な物質とエネルギーには限界がある。
また、アラガミの組織に反応する性質は、戦闘上の利点であると同時に、管理すべき危険性でもあった。
冥の身体は、単なる人間の強化形ではない。
人間として生まれ、人間としての自我を持ちながら、アラガミに近い性質を備えた存在。
研究者たちが求めた、究極の対アラガミ戦闘個体だった。
だが、研究所の中でどれほど優れた成績を残しても、それだけでは実戦能力を証明したことにはならない。
本物のアラガミは、訓練用の標的とは違う。
予測不能な動き。
圧倒的な捕食能力。
そして、戦場に存在するあらゆるものを脅かす危険性。
冥を次の段階へ進ませるには、実戦経験が必要だった。
「被験体V-01を、フェンリル極東支部へ移送する」
研究所の会議室で、研究主任が告げた。
「極東支部第一部隊への配属を申請します」
「承認が下りる見込みは?」
「ヴィーザル計画の概要と、これまでの測定データを提出しています。通常のゴッドイーターとは異なる運用になりますが、対アラガミ戦力としての有用性は認められるはずです」
「問題は、あの身体をどう扱うかだ」
別の研究者が口を開いた。
「通常の神機を使用させる必要はない。彼の能力を考えれば、武器の適合試験を優先する意味は薄い」
「しかし、極東支部が受け入れるとは限りません。彼は八歳です。通常のゴッドイーターと同じ基準では運用できない」
「だからこそ、現場で判断してもらう必要がある」
研究主任は資料を閉じた。
「彼は研究室の中で完成する兵器ではない。実戦でどこまで通用するかを確認しなければ、計画の成果を評価できない」
会議の結論は決まった。
神無冥は、旭日生体科学研究所からフェンリル極東支部へ移送される。
そして、第一部隊の指揮下で実戦任務に参加することになった。
移送当日。
冥は、研究所の出入口に立っていた。
目の前には、施設の外へ続く通路がある。
生まれてから八年間。
彼の世界は、この施設の中だけで完結していた。
訓練室。
測定室。
実験室。
寝室。
食堂。
毎日、決められた場所を移動し、決められた行動を繰り返す。
外の世界については、映像と資料でしか知らなかった。
荒廃した都市。
崩れた建造物。
防壁の内側で生活する人々。
そして、人間を捕食するアラガミ。
「神無冥」
背後から声がした。
振り返ると、研究主任が立っていた。
「これからお前は、フェンリル極東支部に所属する。そこでの任務は、これまでの訓練とは違う」
冥は黙って話を聞いていた。
「実際のアラガミと戦うことになる。命令に従い、与えられた任務を遂行しろ。お前の能力は、人類のためにある」
「わかりました」
「何か質問は?」
「なにもありません」
「そうか。ならば行け」
冥は、何も尋ねなかった。
彼はまだ、自分が何を望んでいるのか知らない。
何をしたいのかも。
何を大切にしたいのかも。
ただ、与えられた役割を果たすことだけは理解していた。
やがて、移送車の扉が開いた。
冥は振り向くことなく車に乗り込んだ。
自分の八年間を閉じ込めていた研究施設。
寂しさはなかった。
思い入れもなかった。
ただほんの少し、この外に何があるのか、知りたいと思った。
その感情が何なのか、冥にはまだわからなかった。
扉が閉まる。
車両が動き出した。
とりあえず一話書き終えられました…
これめっちゃ疲れますね