ただ、日常のたわいな出来事を共有するだけで終わるはずだったのに。
突如として書き込まれた奇妙な記述によって、日常が少しずつ、狂気に引き込まれてゆく。
ただ、日常のたわいな出来事を共有するだけで終わるはずだったのに。
突如として書き込まれた奇妙な記述によって、日常が少しずつ、狂気に引き込まれてゆく。
「だからさ、交換日記って大きな視点から見たらberealと同じだと思わない?」
彼女はそう語る。
通信網が発達しインターネットが普及した現代人とって、はがきや手紙などの原始的な連絡手段は既に過去の物である。
であるならば、交換日記というのはもはや原始人の遊びと呼んでも差し支えないだろう。人類の叡智の最先端と比べるのは烏滸がましいと言う他にない。
だというのに、自分は今反論を口に出せずにいる。その理由は、目の前でそれを提案した相手が吹けば飛びそうなほどに意気消沈しているからに他ならない。
「だってさ、あれは毎日投稿しないと他の人の奴みれないじゃん?交換日記も、自分が書き込まないと他の人の奴見れないでしょ?なら、交換日記は太古のSNSと言っても差し支えないんじゃないかな?」
机に突っ伏したまま妄言を続ける同級生のギャル――不知火灯夏が意気消沈しているのは先日の帰宅中、川にスマホを落としてしまったからである。
ただのスマホではない。iPhoneの最新機種である。
iPhoneの最新機種と言えば今を時めくJKにとって一種のステータスとでも言える高級品であり、学生という身分で手を伸ばすにはいささか遠い目標と言わざるを得ない。
それを執念で成し遂げたのが一週間ほど前であり、バイト代を犠牲にウキウキで登校してきたのを覚えている。
無論、最新機種ゆえに耐水性は備わっていた。されど、橋の上から4~5メートルほど落下したスマホは川底へと衝突したのだろう。
如何に耐水性を持っていれども、破損した隙間から浸水するのは想定していなかったと思われる。
ここまでくれば修理という次元ではなく、バキバキに割れてショートしたスマホは二度と光を宿すことはないというのは火を見るより明らかだ。
財布は既に蟲の息、次のバイト代が入ってくるのは一か月後である。入って来たとしてもグレードは落ちる。
彼女の手に入れた栄光はたった一週間で終幕を迎えたのである。
「小学生の頃とかは虐めの温床になるからとかで禁止されてたから、実際にやったことある人はあんまりいないんじゃないかな?数少ない青春なんだから、いろいろな体験をするべきだと思わない?」
自分の返答は『はい』か『Yes』のどちらかしか求められていないのだろう。
かくして、私達は交換日記を始めることになった。
やるならば本格的にと校庭の隅にあるウサギ小屋の隣――古ぼけた百葉箱の中にノートを隠した。
無論、ノートは提案者が快く提供してくれた。最初のページの前に何枚か破られた跡があるのは使用済みのページを切り取ったからである。金欠に陥った彼女はリサイクル精神が芽生えたらしい。
クラスの中でそれとなく噂を流し、ルールと在処を周知させる。
あれよこれよと準備を進め、三日後には学校中に噂が広まっていた。