こいつ泣かせたら世界終わる 作:黒狸
神の手元が狂ったのだと思う。
ノーチェは有神論者ではないが、現状が自らの天運に由来するとは考えたくなかった。
性悪な神が無様にサイコロを振った結果であった方が幾分かマシである。
「また夜泣きか。今日はいつもよりすごいぞ」
「ちょ、ちょ~っと待ってねぇ。足がすくんじゃって」
夜の気配が深まる、そんな時刻である。
迷宮で野営をしていたノーチェたち一党は、突如として出現した魔物の群れに包囲されていた。夜闇の先からは喉を締めた鳥のような鳴き声や、子供の悲鳴にも似た唸り声が聞こえて。ただしいずれも好意的なそれではなく、状況的には死地であることが伺える。
そんな中、背中越しの荒い呼吸と温かみが、ノーチェに冷静な判断を迫らせていた。
過去殺した魔王から託されたのが、この少女型の『厄災』だった。
「んぅ、ひっく、」
「アンミー。寝ときな」
背負った少女――アンミーの頭をフード越しに撫でる。
子供の高い体温を感じているはずが、何故だか爆弾でも背負っているかのように冷や汗がやまない。
「こういう感じでいいんだっけ?」
「えぇ?」
気を紛らしたくて尋ねると、へっぴり腰の相方が荷物を漁っているところだった。
そんなもう一方の女――レンリだが、角と尻尾、隠しているが翼も生えた立派な竜人であるわりに、こういった危険を孕む土壇場にはめっぽう弱い気質がある。
「そんなの聞かれてもわかんないよぉ。ぼかぁ子供の面倒とか見たことないんだってば」
「俺もだよ。とにかく早くアレ持ってきてくれ、優しくな」
「わかってるってぇ。ええと毛布毛布......優しくって何? 普段のじゃ足りなかった?」
震えた脚で抗議してくる相方に、早くしろと目線だけで促す。
「いいから。なんというか、こう、お前の中のお母さん像を爆発させてくれ」
「竜の子育てって結構スパルタなんだけど」
「人間基準でもなんでもいいから早くしろって! じゃないと首絞めちまう!」
「怖すぎるよぉ......」
そんな問答の間にも彼女の泣き声と共に魔物の気配が増え、荒い息遣いに乗じて大地が揺れる。
周囲は夜をも塗りつぶすどす黒い瘴気に満たされており、魔物たちの気配は立ちどころに濃くなっていて。事態の切迫感をひしひしと感じつつ、ノーチェは祈るような心もちでアンミーの頭を撫でくりする。
「よいしょっと」
そうこうしていると、もう一方の少女――レンリはゆったりブランケットを被せてきた。
次いでぎゅっと抱きついてくる。彼女はじんわりと伝わる体温で包み込み、規則的に優しく背中をさすって。
「はいはいよしよし」
撫でてみたり、優しくとんとん叩いてみたり。次第にアンミーの様子が落ち着いていく。
魔物も、地震も、瘴気も、眠るように消え、事態が収まっていって。
いつしか鳴き声の一つもなくなった夜を静寂が包みなおしていた。
そこまで把握し、安堵の息をつく。どうやらひとまずは難を逃れたらしい。聞こえるのは時折パチリと弾ける焚き火に、アンミーの寝息くらいなもので。
「すぅ、すぅ」
苦笑、
「収まったか。捨ててもいいか、この荷物」
「ふふ。寝顔は可愛いんだけどねぇ」
かくして、もはや何度目かもわからないこの作業を終える。
脊髄をつうと撫でられるかのような悪寒に、嫌な浮遊感。行為それ自体は慣れたものだが、その都度生命が天秤にかけられる感覚ばかりはどうにも慣れない。
故にノーチェは、せめてもの抵抗にこう呟くのだ。
「クソ、ままならない」
▽
嫌な夢を見た、とアンミーは言った。
そこらの子供であれば、だからなんだと鼻で笑ってやるところだ。
しかしそういうわけにもいかないのがこのパーティだった。のっぴきならない事情があるのである。
一人は寂しくないと、アンミーは言った。
そのくせ迷宮に行く間の留守番を頼むと、待って、ごめんなさい、私が悪いなら謝るから置いていかないでください、ごめんなさい、ごめんなさ――と泣きついてくる。
へたくそな嘘をついて震える手のひらを握ってやらないと、夜を越せないのだ。
ブランケットを埋葬しているのだと、アンミーは言った。
よくわからなかった。は? と突っぱねそうになる自分を殴りつけて堪えた。
何事だ冗談じゃないぞと考え話を聞いてみると、昨夜の悪夢から生まれた瘴気によって、お気に入りの寝具が汚染されてしまったのだそうだ。
あいにく寝具の予備もなく、であれば迷宮由来の材料で作ってしまえばいいじゃないかと。そう思いたったのが数時間前になるだろうか。
「くそ。新しい寝具じゃなきゃ寝れないとかなんとか、ワガママ言いやがって......」
その汚れも抱えてしまった面倒ごとも、全部洗い流せればどれだけ気が楽になるだろう、なんて。
あくまでもそうできたら良いなと妄想を膨らませるだけで、現状に変化は訪れない。子供型の悪夢爆弾はいなくならないし、物知りだがどこか抜けた竜は頼りないままだし、きりきりした胃痛や心労が絶えることだってないわけで。
そんな現状をため息一つで誤魔化しながら、ノーチェは目の前の現実に向き合う。
ーーーーーーッ!!!
響くは咆哮。不気味さからなる重苦しい雰囲気が空間を支配していた。
体の各所が白い羽毛に包まれ、鳥類特有の強靭な趾、人の頭など余裕でついばめるであろう鋭く大きなくちばしも特徴的だ。
ようは巨大な鶏なのだけど、大きく異なるのは尾の先が白い羽でなく牙をむく蛇である点だろう。
「コカトリス。上層で羽毛が取るってなったら、まあこいつだわな」
「もふもふ」
「あっちょ、アンミーは下がっててねぇ」
恐れ知らずというかなんというか。
放っておいたら本当に触りに行ってしまいそうなので、視線だけを交し役割分担。レンリはしゃがみ込んでアンミーを抱え込むような体制をとる。
互い、睨みあいや読みあいにまで発展するほど高尚なそれではない。
対峙は一瞬。正面からくるコカトリスの突進を、ノーチェはすんでのところで身を翻して躱し。そのままくちばしで突こうとするのでバックステップで距離を取るが、踏み込み一つでその距離が縮められる。
次いで鋭い蹴りが飛んできた。着こんだローブから短剣を取り出して防ぎ――同時に横に薙ぎ払われた。
「っぐ、!」
馬車でもぶつかったかと錯覚するほどに重い衝撃。
体が軋み、肺を絞られるような感覚。無理矢理に吐き出させられた息には血の香りがした。しかして状況は即座に理解でき、要は手玉に取られたのだ。
正面の攻撃に気を取られ、死角から鞭のように放たれた尻尾による殴打を食らっていた。
(やってくれたな、こいつ)
鈍い痛みによってか思考は冴えている。
幸いしたのはここが日陰の多い地帯であり、ノーチェにとって有利な戦場であったことだろう。こういった場所でこそ『ドッペルゲンガー』なる種族は本領を発揮できるものだ。
一呼吸。ノーチェは周囲の影と身体を同調させ、どろりを体に纏わせる。
同時に腰元にざわざわしたどこかむず痒くなるような感覚があるが、気にせず眼前に集中する。
「さて、それじゃもう一回」
呟くなり、痺れを切らしたコカトリスが再び突っ込んできた。
ノーチェが突進を躱せばくちばしによる突きが繰り出される。それを短剣で防ぐ折、視界の端では振るわれる尻尾の先端が確かに見えた。
強靭な膂力にて放たれる尾の鞭が、今度はノーチェの頭を狙う、その刹那。
「――ここ、だろ」
呟く声は、虚空を一閃する風切り音によって搔き消された。
ノーチェは身を地面と平行になるまで低く下げていた。頭を狙う一撃はすかされ、想定と違う状況にコカトリスがその黒目をしかと見開いて。
お返しとばかりに振りぬく『尻尾の一閃』が、コカトリスの頭を打ち抜いた。
「ギョエェェッ!」
手ごたえというか、確実に意識を刈り取る感覚があったように思う。
その実感に違わず、コカトリスは数歩ほどゆらゆらと距離を取るような仕草を見せたが、程なくしてその巨体が地面に沈んだ。
尻尾を使うというのは中々どうして慣れない感覚だったが、結果良ければ全て良しである。
「やるぅ。ボクの出番はなかったねぇ」
コカトリスが倒れたのを見るなり、近くの岩影から飛び出してきた二人も合流。
「尻尾」
「あっおいこら触るな」
触ろうとしてくるが、なんともむず痒いのでごめん被る。
アンミーの空色の髪を抑えつけるうち、即席の黒尻尾は残滓となり影に溶けていって。彼女はひどく残念そうに息をついた。
「消えちゃった。残念」
「所詮偽物だしな。大体参照元からしてただの蛇だし、肌ざわり良くないだろ」
「確かに。じゃあいいや」
実際コカトリスの尻尾は蛇の様相を呈しており、なんだったら蛇そのものである。
それを影で模した即席尻尾であれば、当然触り心地は良くないだろう、と。そこまで考えてはたと思う。実際に尻尾が蛇そのものであったとして、その意識は本体と同期するのだろうか。
例えば体は共通だが頭は別であり、であれば鶏側が気絶していたとして蛇側の方は、と。
実際一難去った後の一難も退け、安堵の雰囲気が漂っていた。
それを感じとったのか。必殺の瞬間まで気配を殺していたのかは定かではない。
「きゃ!?」
とにかく事実を述べるなら、尻尾の蛇側の意識は依然として健在だった。
赤い瞳には純然たる敵意を宿し、その顎からは鋭利な毒牙を覗かせて。ノーチェたちの虚をついてアンミーに嚙みつこうと身を伸ばし――。
ズズンッ、と。
コカトリスの踏み込みを思わせる、重い音がした。
「全く。尻尾があるのは君だけじゃないんだよねぇ」
そんな威力と速度間でもって尻尾を振り下ろしたレンリが、自慢げに呟く。
彼女は腰元から伸びる橙色の尻尾をご機嫌に揺らしており、陥没した地面には今度こそ意識を失った蛇ことバジリスクが倒れていた。
「竜さんありがと」
「ふふ。どういたしましてぇ」
そう返すレンリの深紅の瞳はらんらんと輝き、口端はどことなく吊り上がって見える。
ようは見るからにどう? たまには私もやるでしょ。すごいでしょ。ほめてほめてーとでも言いたげなどや顔なのだが、実際即座に状況把握し的確に対処せしめた、まさしくお手柄だ。
というのもあそこでアンミーが噛まれれば、パーティどころか迷宮、ひいては更なる被害だって考えられるわけで。成果には報いるのが冒険者の流儀である。
「助かったよ」
フード越し。伸びた双角を避け、労いの意を込めて後頭部をぽんと軽く叩いてやる。
「......おお。なんか新鮮な反応だねぇ」
「うるせ」
「し、しかしちょうどよかったね! 質の良い羽毛の方からやってきてくれるなんてさぁ」
「そうな。日没までそう時間もないし、さっさと取り掛かろう」
何も無目的にコカトリスを討伐したわけでなく、ノーチェとたちにはれっきとした目的があるわけで。
三人揃って腕をまくり、ノーチェがコカトリスの解体担当、レンリが裁縫担当、そしてアンミーが簡易的な拠点の準備担当と三手に別れて各自作業に取り掛かっていく。
「レンリ、これ乾かしてくれ」
「んー、」
しばらく経ち。丁寧に揉み洗いされたコカトリスの羽毛を前に、レンリはなんとなしな返事。
針と糸を脇に置くと、彼女の手のひらに魔力が込められていく。
「竜使いが荒いなぁ。......ほいほいっと。じゃあボクは裁縫に戻るねぇ」
「助かる」
気だるそうではあるが頼られて悪い気はしないらしく、八重歯の覗く口端がによによ緩んでいた。
というわけで火と風の混合魔法で一気に乾かしてもらい、寝具の中身がひとまず完成。獣臭さだったりが残っていないか、アンミー監督官からの厳しいチェックが入る。
「そうだね、及第点」
「何様だこいつ」
顔をうずめて深呼吸するアンミーはそんな評価だった。実際、及第点なのだろう。
羽毛はコカトリスの胸元にあたる部位から拝借したもので、それなりな量が採取できる上に魔力を込めればほのかに熱を持つ性質がある。ある種寝具にするにはうってつけといえるが、素材が魔物由来であるため汚れと血生臭さがどうしても課題だった。
「実際どうよ。お前が我慢するくらいなら俺がもう一時間くらい洗うけど」
「これくらいなら別に気にならないかな」
「ならいいか? 何か気が付いたら全然言ってくれ。言われない方が困るから」
建前ではなく、本当に困るのであくまでノーチェは本音だ。
ケモノ臭に包まれて寝たことによる悪夢だと、ゴミやヘドロの雨が降るのだろうかと。そんな思考を遮るように快活そうなレンリが割り込んでくる。
「こっちもできたよ! 裁縫もできちゃうんだから、流石ボクだよねぇ」
「うん、及第点」
「何様かなぁ」
レンリはこれまた口端の吊り上がったどや顔だった。鋭い犬歯も覗いていた。
ただし厳しい監督官の前ではこれまた及第点に留まる。ローブやらから切り貼りして作った大きめの布地を二枚重ねに縫い合わせてあり、羽毛が偏らないようにするためか縫い目がいくつか区切られてもある。
そんなわけで羽毛を格納した布地を、改めてレンリが結びつけて。
「完成~!」
思い立ってから数時間、コカトリスの羽毛ブランケットが完成したのだった。
「結構大きめに作ってある?」
早速被って中に潜り込んだアンミーが、ひょこりと顔だけを出してくる。
「気持ち大きめになったねぇ。一応ボクもノーチェも入ろうと思えば入れるよ」
「黙ってろ」
「辛辣ぅ......」
実際その気になれば大人二人くらいは収まるだろう大きさである。
とはいえノーチェは死んでもごめんだし、レンリも寝相の悪さ故に論外。一度二人で添い寝させてみた日があるが、結果として特にひどい目にあったのをよく覚えている。
今でも忘れない。あの日は確か空からクジラが落っこちてくる一夜だったはずだ。
寝返りを打ったレンリに潰されたアンミーが悪夢を見て、それが現実に反映されたものだった。
「たまにはいいと思うけどなぁ、添い寝。誰かの体温がそこにあるって良いもんだよ。アンミーは体温ちょっと高くてさ、抱いて眠ると気持ち良いんだよねぇ」
「そりゃいい。翌日には冷たくなって発見されるだろうな」
「怖いこと言うねぇ」
「怖い目に遭ってんだっつの」
正直二度とごめんである。
というわけでノーチェは断固たる姿勢で突っぱねつつ、自分の寝具も用意して。
「で、なんで隣に寄ってきてる」
「?」
わざわざ離れた位置に寝具を広げたにも関わらず、アンミーが近くにやってきてしまった。
これでは距離を置いた意味がない。助けを求める意でレンリに視線を送ると、これはもう仕方ないよねぇ、とでも言いたげな生温かい視線で返された。
「それじゃお休みぃ」
こいつ。
「もういい。明日は早いから早く寝な。お前のわがままに付き合ったから、まだ本来の依頼が終わってないんだ」
「......ごめんなさい」
「こういうときは謝罪より感謝しとけ。それで? 出来の方はどうよ。ちゃんと寝れそうか?」
そう問えば、アンミーはブランケットから顔だけを出して。
「ふふ、悪くない」
そう、へにゃりと笑うのだった。
▽
過ごしていた国に悪夢が舞い降りた。
何故か既に弱っていた悪夢を、死に物狂いでどうにか倒した。
体は呪われたが、別にそれくらいどうということもない。
悪夢は娘の名を呼んでいた。
最後にただ会いたかった、それだけだったのだと。
ただ、終わった。
振り返った自分の前には、燃え盛り闇に包まれた、誰もいない、否。全てが死に絶えた国が
▽
「......またあの夢か」
目的を考えるようになった。
そうしていなければ、前を向く理由がなければ、どうしても後ろを向いてしまいたくなってしまうから。
振り返る過去は甘美だ。誰もかれもが思い出話に花を咲かせたがるのは輝やかしい瞬間を反芻し、咀嚼したいからだろう。
ノーチェのそれは、随分と鈍く光っている気がしたけれど。
過去、特別な温かさがあった。
その時にはそれが全てだと考えられるくらいに大事だったように思う。
今でも温かさはあって、けれど偽物だと思った。
当時知っていたものとは別だからだ。けれどどちらも温かいことは確かで、強いて異なる点を挙げるならばそれはノーチェ自身の温度差だろう。
昔はノーチェ自身も温かくて、今ではひどく冷たい。言ってしまえばただそれだけの違いである。
「んぅ、」
アンミーがいた。
寝具は別々にしていたはずだが、寂しかったのか潜り込んできてしまったらしい。随分と寝入っているようで空色の髪はあちらこちらに跳ねていた。自分の懐で心地よさそうに眠る彼女の姿を見て、温かさに触れて。
その上で、ひどく冷たくなっている心を改めて自覚した。
「......」
無防備な頭に手を添える。
「ん、」
気がつけば、ノーチェの手は毒々しい刃の形を成していた。
影がそうさせていた。刃はすうと伝い、その細い頬を、首を、脈を。
「ひっく、」
「......ッ!」
咄嗟に、刃は指へと姿を戻していた。
手ぐしの要領でアンミーの短髪を優しく撫でる。それでも寂しそうに、悲しそうに、瞼の端に涙を滲ませる少女をノーチェは抱き寄せる。
それからそっと背中を叩いてしばし、周囲に漂い始めていた瘴気が霧散していくのがわかった。
アンミーは落ち着いた様子である。
ノーチェはどこか息苦しくて、思考にモヤがかかったかのような心地がある。
アンミーはすうとまた寝息を立て始めた。
ノーチェにとっては、不快さばかりが意識を引っ掻く。
アンミーがノーチェの手を手繰り寄せ、きゅっと握った。
微笑ましいはずの姿には憎悪が。まるで、自分の嫌な感情ばかりを逆撫でされ膨れ上がらせるような。
同時に小さくて、けれど確かな温かみが感じられて。
はたと気が付いて、大きく、おおきく、息をついた。
「俺は、何がしたいんだろうな」
呟く。
「終わらせる勇気が無かっただけだったんだ」
呟く、
「情なんてあるわけないはずなのに、可哀そうだとか思っちまってさ」
目的を考えるようになった。とある少女の行く末を見届けることだ。
ある日、空から落ちてきた魔王が。死に物狂いで討伐した魔王が。余波で国を滅ぼした魔王が。
その魔王が最後に会いたいと懇願した、『アンミー』なる少女の行く末を。
「なあ魔王。お前が滅ぼして、俺が殺した、お前の娘を、今育ててるよ」
わけのわからないことを言っている自覚はある。
けれど、最後に懇願されてしまったから。ある種の呪いですらあるとノーチェは思う。
今日も今日とて眠れやしないから、考えるのだ。
目先の目的以外に、考えたいことなどないから。