超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
翌朝、目が覚めた俺は昨夜のことが幻覚でもなんでもないことを痛感した。
「夢じゃなかったか………」
まさかハジメテの女子の家にお泊まりがこんな色気もクソもないとは。理由が夜泣き対策って。しかも結局子守唄の後は夜泣きなんてせずに朝までぐっすりですよ。
フローリングで雑魚寝した俺は伸びをしつつ起き上がる。体痛いし、そこらじゅうパキパキいう。
寝乱れたパジャマの隙間から見える肌色だとか少しだけ寝癖のついた髪だとか穏やかな寝顔だとか、ぐっすり寝ている酒寄の姿は一般的かつ健全な男子高校生たる俺には非常に目の毒なので、極力視界に入れないようにしてキッチンへ向かう。
鍋で哺乳瓶を煮沸消毒しつつ、もう一つの鍋でお湯を沸かす。酒寄ん家のコンロが二口のヤツで助かったな………。
待つ間、赤ちゃんの様子を見ようと振り返るとちょうど目の毒が起きた所だった。
「………ん?」
「おはよう酒寄、今ミルク用のお湯沸かして───」
「………んんんっ!?」
「オイ待てキサマ何故服の乱れやら股やら布団やらを入念にチェックしている……?」
嘘だろ、信用されてねぇの俺!?
そしてそんな信用度のやつを泊めるんじゃねぇよ酒寄さぁん!!
「いやホラ男は狼って言うし」
「言ったの誰だよ。絶対単なる耳年増だよ」
「真実」
「……彼氏持ちが言ってると思うと説得力違うな……」
「………一応、謝っとく。疑ってごめんなさい」
「いいよ。よく考えたら普通のことだったわ」
目線を伏せる酒寄に手を振って気にしてないとアピール。
話していると赤ちゃんが起きた。
…………なんかでかくね?昨日は首すわってなかったぞ?
「あうー?たいっ」
「………夢じゃなかったんだ」
俺と同じこと言ってやがる。
「起きたんならオムツ替えてやってくれ。たぶん
「うん。………って重たっ。え、何、オムツってこんな重くなんの?」
「ビックリするよな。この量の水分そのちっさい体から出て平気なんだ、ってなるよな」
▼
その後、向かったのは子供用品専門店の西竹屋。
キャッチコピーは『子育ての味方』。
俺はオムツやミルクに哺乳瓶と最低限のモノしか買ってきていなかったのだ。服とか抱っこ紐とか諸々忘れてたぜ。
「無理無理無理無理!」
「うっわ哺乳瓶用の消毒液とかあるんだ……」
「無理ぃ!」
通路で悲鳴を上げる酒寄。商品棚を見ながら遠くを見つめる俺。
オムツとか買ったときも思ったけど子供用品って地味に高くない?そのくせ短期間しか使わないものが多いだろう?
どうなってんの?
ぼったくり???
でも俺たち買うしかないのよ……。
赤ちゃんのためなのよ……。
「お会計が八千八百三十二円になります」
「……QRで」
たっけぇ……昨日の合わせたら余裕で万金飛んでったぞ。
▼
「感謝しなさいよアンタ……。結構な出費だからね?」
「たうー?」
帰ってきて再びの酒寄の部屋。
酒寄の言葉を理解しているのかいないのか、赤ちゃんは抱かれた状態でしきりに酒寄の頬に手を伸ばしている。
あ、酒寄が赤ちゃんの手ぇ摘まんだ。ムニムニした感触が気持ち良さそうだ……ニマニマしてやがる。
泣いてないときの赤ちゃんは可愛くてマジ天使だからな。
泣くとマジ悪魔と化すけど。
まぁ、そんなこんなで、
「ふぇええぇ」
「はいはい何何ミルク?さっきあげたばっかでしょ?」
「たぶん暇だから構えってこととみた。ほ~ら、おいで~?」
くずれば買ってきたガサガサ音のなる布製のボールで遊んでやり、
「いぃぃぃ!」
「酒寄ー!お嬢様はお腹が限界だそうです!」
「お腹空いたのね?ちょっと待ってね今ミルク作ってるからねー!?」
腹が減ったと泣けばミルクを作って飲ましてやり、
「きゃっきゃっ」
「………何してんの?」
「足伸ばしてたらコイツ俺の足をアスレチックにして遊び始めやがった」
また遊んでやったり、
「すぷぅ……すぅ……」
「おお……あんなに抵抗してたのがアッサリと……流石、酒寄の子守唄」
「なんで眠いつって泣いて騒ぐのよ赤ちゃんは……」
酒寄から子守唄を歌って貰ったりしてると、三連休はあっという間に過ぎ去っていた。
▼
三連休最終日、その夜。
赤ちゃんのお世話の忙しさや大変さで眼を反らしていた問題とそろそろ向き合わなければならない。
つまり、
「明日、朝イチでこの子を交番に届けよう」
「それしかないよね……」
そういうことだった。
明日からは学校が始まる。酒寄も俺も赤ちゃんの面倒を付きっきりで見る、なんてことは出来なくなるのだ。
二、三日は学校を休んでも問題ない。一週間でも、たぶん大丈夫。
では1ヶ月なら?もしくは半年、いやいや一年なら?
………無理だ。酒寄には目標があり、俺には父と兄貴との約束がある。
そんなには休めないし、そもそも未だ高校生の俺たちには赤ちゃんの、というか自分以外の人生を背負えないし背負う余裕も無い。
「………………」
「………………」
お互い、言葉が見つからない。
この赤ちゃんには振り回されたし子育ては非常に大変だった。
だけど同じくらい、いやそれ以上にその笑顔と可愛らしさに、魅了され、絆されてもいたのだ。
だから、
「さびしくなるな……」
「絆されすぎでしょ…」
酒寄、自分では気付いてないようだけどお前も顔に出てるからね?
書いてあるからね?『さびしい』って。
熱心に面倒見てたもんな……。
「………まぁ、こうしててもしょうがない。明日は早いんだから、さっさと寝よう」
「夜泣き対策もあるし今日も泊まっていってよ」
「そう…だ、な。泊まらせてもらうよ」
ありがとな、酒寄。
この子、全然夜泣きしないのに。
▼
「ねー、ねー」
赤ちゃんのぐずり声が聞こえる。
「お腹空いた」
「……承知ですぅ」
どうやらお腹が空いて、起きてしまったらしい。珍しいな。
酒寄の声も聞こえてきた。続いてのそのそとした軽い足音。
酒寄が対応してくれてるのか、なら俺は寝てよう。
「ミルクー」
「少々お待ち下さいませぇ」
「イロハー、ボクにもなんかちょうだい?」
「かしこまりましたぁ」
……………………………。
「うわぁっ!?」
「うおぉっ!?」
「何なにどうしたのー?」
……おいおい二人とも大きい声出して。夜中だぞ、たぶん。近所迷惑になるだろ……って、ん……?
「あ、ああぁぁぁああ、」
「ビビったぁ……」
「?」
「アンタ誰!?てか、そっちの黄色いのに至っては何!?」
「誰って……何言ってんの?彩葉と立花が育ててくれたんじゃん」
「ぼくアグモン。デジモンで、リツカのパートナーだよ」
はーい目ぇ覚めましたー!白雪立花、バッチリしっかり完全覚醒でーす!!これから頑張って誤魔化しまーす!!!
▼
無理でした。
「なるほど。つまり小学生のとき異世界……デジタルワールド?を大冒険の末に救って立花はこの世界に帰ってきた、と」
「そうそう」
「で、例の、約束した相手ってのがこの……」
「ぼくアグモン。デジモンで、リツカのパートナーだよ。よろしくね、イロハ」
「あ、うん、よろしく……」
握手を交わす酒寄と
「モグモグ……あ!アグモンだけずるーい!」
(『ちょっと頭冷やして冷静になってくる!』と出てった酒寄が買ってきた)コンビニのオムライスをがっついてた十歳ぐらいの少女が、そう言って酒寄の手を引ったくり、自分とも握手させた。
いつの間に仲良くなった?俺が寝てる間?そっか……。
「って、えぇい!そうじゃなくて!」
あ、酒寄が手ぇ振り払った。
「デジモンってかアグモンのことは、いいよ。分かった……いや全然分かんないけど、分かった。それであなたは?てか何で突然そんなでっかくなってんの!?怖っ」
「ん~?まぁ最近はなんもかんものスピードが早いんですわ~」
「何それどっかのインタビュー?」
おう、秒でオムライスがっつく作業に戻んな。
頭が痛いとでも言いたげに眉間を押さえる酒寄。
「……どこから来たの?」
「ん」
持ってたスプーンで上を、というか窓の外に見える満月を指した。当然でしょ、みたいな顔で。
………赤ちゃん状態の、更に前の記憶があるってことか?
「宇宙人ってことか?」
「何しに来たの?侵略?」
「んー……?」
宇宙人はスプーンを咥えたまま腕を組み、小首を傾げて考え始めた。
こら、止めなさい。お行儀悪い。
しばらく考えて、
「………わかんなーい。何かー、毎日毎日超つまんなくて?楽しいとこ行きたーい逃げ出したーい、ってなってた気がする」
「説明ふわっふわっだな」
「結局目的わかんないし。つか逃げるな~」
「え~~、なんで~~?」
「逃げるのは簡単でもその後の再スタートが大変なの。覚悟あるの?」
「え~?覚悟~?やりたなかったらやらない。やりたかったらやる!」
『それでいいじゃん!』みたいな顔されてもな。
「逃げたり諦めるのは一瞬でも、あとでもできるけど、立ち向かうのはその時しかできないんだよ」
「それに日常なんてつまんなくて当たり前」
「えー!やだやだやぁだぁ!彩葉も立花もそれでいいのぉ!?」
「んー、今偉そうなこと言った手前あれだけどよく考えたら俺も嫌なことから逃げた口だったな」
「ほらぁ!」
「え?なんかあったっけ?」
「新婚夫婦の幸せイチャイチャ空間から逃げて一人暮らし中だよ俺」
「アンタ自認それだったの……?」
「なんかイヤなことの意味ちがくない?」
イヤなことではあるぞ?『居た堪れない』とか『糖尿病なるわこんなん』とか思うから。あと『俺は完全に邪魔者だな』とか。
………止めよう。話題変えよう。
「そういえば、名前は?」
無いならつけるけど。何時までもお前とかあなたとかアンタとかじゃ、ダメだし。
「名前くれるの!?」
お、おお。スゴい喜びようだな……。
思えば名前ってのは親から子への最初の贈り物だ。
いかん、責任重大だぞこれ。
「そんなん『かぐや』でいいでしょ?」
「酒寄……。月から来たからかぐや姫って、んな安直な……」
「『かぐや』!かぐや、かぐや………そっか、かぐやかあ~!」
「良いのかよ!?」
絶対酒寄のやつテキトーに名付けたぞ。
……嬉しそうに笑っちゃって、まぁ。笑った顔は赤ちゃんの時の面影強く出てる気がするなぁ。
「エヘヘ~、アグモン。かぐやだって!かぐやはかぐやって言うんだよ~」
「よかったねカグヤ」
「………竹取物語から取っただけだよ?」
あまりにも嬉しそうに笑うかぐやに罪悪感が湧いてきたのか、酒寄が言う。
「竹取物語って?」
「えーと、な。お爺さんが光る竹の中から女の子の赤ちゃんを拾います、かぐやと名付けられます、すくすく育ちます、そんで、結婚申し込まれたりなんだり……みたいな」
「けっこん?」
「雑すぎるでしょ。えっと、」
酒寄が授業用タブレットを取り出して古典の教科書の、竹取物語のページを開く。絵本調ながら可愛らしさの少ないデザインのイラストだ。
「お爺さん、
「たけー?」
「竹じゃなくて電柱から出てきたけどな」
「カグヤ、お姫様なの?」
アグモン、それ今重要じゃない。
「とにかく、アンタの名前はその、かぐや姫から取っただけなの。だからあんまり喜ばれると……」
「えー、でも彩葉がくれたんじゃん。かぐやは好きだよ?かぐや、って名前!」
ルンルンと鼻歌まで歌いそうな調子でオムライスを完食するかぐや。
続けてアグモンが、
「それで?」
「ん?」
それをかぐやが引き継いで、
「お話の続きは?」
「ああ」
そのことか。
「なんだっけか、月からお迎えが来ます、お爺さんたちが渡すまいと抵抗するも空しく、かぐや姫は月の羽衣を着せられ地球でのことを忘れて、月に帰ります」
「ふんふん……で?」
「で?」
「月に帰って~、からの続きは?」
「ないよ。めでたしめでたし」
「え、月に帰って終わり?それどこがめでたしなの!?バッドエンド!地球のことも忘れて超バッドエンドじゃん!!かぐや姫絶対不幸じゃん!!」
すげぇ勢いで畳み掛けてくるな。そりゃ自分の名前の元になった物語がバッドエンドだと、ちょっと嫌か。
かぐやって名前を気に入ってただけに余計許せないのだろう。
「月の羽衣も四六時中着てるわけじゃないだろ。その内、地球のこともポロっと思い出してたかもだ」
そんで『あんなことあったな』『こんなこと楽しかったな』って思い出して笑顔になれてたら、かぐや姫にとってはバッドエンドでもないんじゃないか?
「変な二次創作追加しない。かぐや姫は、竹取物語はそういうお話なの」
「バッドエンドやだ~~♪ハッピーなのが、い~い~♪」
話は終わり、とオムライスの乗ってた皿を流しに持ってく酒寄。しつこく粘るかぐや。
「しょうがないでしょ。暴れたって、歌ったって、決まってることが変わるわけじゃないんだから。受け入れて覚悟するしか、ない」
「……………」
「……………」
酒寄のそれは、かぐやに向けた言葉ではなく酒寄が酒寄自身に言い聞かせる言葉だったのかも知れない。
「ま、酒寄はああ言ってるけど、結果が変わらなくても過程は変えれるから。過程が変われば結果に対する心持ちも変わるし、あんま気負わずにな」
「……………」
「……………」
結局、自分がその結果をどう思えるかが大事なんだよ。
………おいなんだこの空気。俺がスベったみたいじゃねぇか。
「よし、決めた!」
かぐやが決然と言い放ち、立ち上がった。
「自分でハッピーエンドにする!そんで、彩葉も立花も、ハッピーエンドに連れてく!一緒に!」
「おお~」
ビシッ!と、ポーズを決めるかぐやに、感嘆の声をあげ拍手までするアグモン。
「ハッピーエンドいらなーい、普通のエンドで結構です」
「うそうそうそ!んなことないっしょ?ハッピーが一番っしょ?ねー、アグモン」
「幸せなのが一番だよ、カグヤ」
あんま意地悪言ってやんなよ酒寄。
そういや今何時だ?
深夜3時?そりゃ眠いわけだよ………。
なんか色々話して疲れたし、もう寝ちまおうぜ。
アグモンと積もる話もあるし、かぐやを結局どうするかとかもあるけど、明日、つうか後にしよう後に。
はい、おやすみなさい。