超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
7月18日、水曜日。現在時刻、午後8時40分過ぎ。
────現在地(?)、電脳空間ツクヨミ。
「うおぉ、コレ
金髪ギャルいかぐや姫調のアバターを纏うかぐやが露天で買ったドリンクを飲むと不思議そうに首をかしげていた。
有名コーヒーチェーン店の人気商品をリスペクトしたそれは確かに甘く、少しだけほろ苦く、美味しい。
だけど
味の濃淡ではなく現実のものと違って変化に乏しく、
例えば冷たい飲み物を飲んだとする。
ひとくちに飲んだといっても実際は口に含み、喉を通して、胃に入る。そのとき液体は体温によって温められ、香りや味なんかも微妙に変化するはずだ。
ツクヨミにはまだそれらが無い、つまり
「味覚だけじゃなくて匂いとか温度とか感触とか? 頑張ってはいるらしいけど、やっぱどうしても現実を完全再現ってのはまだムリみたいよ」
他のVR空間はそれらを実装すら出来てないどころか足掛かりすら作れてない、というのがネット上の噂だ。
ツクヨミ恐るべし、である。
そんなところの管理人だっていうんだからやっぱりヤチヨはスゴい。
「えー、なんかやだー。肩透かしー」
「はいはい文句言わない。いつか天才科学者サマが
倫理的にどうとか安全性がこうとか色々あるらしいけど。
何年後かにはやってくれるはずだ。ていうかやれ。
て、ヤバい!時間っ!
「走るよかぐや! 間に合わなくなるっ!」
「はぇ? ───待って、待ってぇ!?」
待たない!
頭に疑問符を浮かべるかぐやを置いて走り出す。
「間に合わなくなるって何に!?」
「ヤチヨのライブっ。何度も送って、やっと当選したの!」
長かった。苦節一年近く抽選を送っては外れて送っては外れて、やっと当たったヤチヨのミニライブ。
……ホントは前回のライブのお礼に立花を誘ってたんだけど。何日も前から伝えてあったんだけど。
当日、今日の今日、今の今で急用が入ってしまったんだそうだ。
……あの野郎きっと仕方ない事情があるのはわかるが私との約束を反故にしやがって。だいたいなんだ急用って。夕飯は一緒に食べたじゃないか。ツクヨミ内とはいえこれ実質デートではとか思ってたの私だけか。誘うとき実は結構緊張したんだぞ。こうなれば今日のヤチヨのライブを目一杯楽しんで、その素晴らしさを存分に聞かせて悔しがらせてやる……!
「い、彩葉~? 彩葉さ~ん……何か顔怖いよぉ?」
「え何言ってるの何時も通りでしょイライラなんてしてないしてないドタキャン許せねぇとか思ってないし」
「怖っ! 何で早口なの怖っ!」
そんなふうに騒ぎながら走ること数分。
時間ギリギリにライブ会場に到着、なんとか滑り込む。
『キタキタキター! これがないとツクヨミの夜は始まらない! 本日もヤチヨのミニライブ開演だぁーー!!! 』
MCライバー・忠犬オタ公のマイクパフォーマンスが興奮と熱狂をマイクを通して会場に響かせる。
詰め掛けた観客たちは歓声でもって応えた。もちろん、私も。
会場のボルテージが高まる中、巨大モニターの画面が切り替わり、カウントダウンが始まった。
「何ナニなに?ライブって何なの!?」
「見てればわかる!」
ごめんかぐや。説明する時間も精神的な余裕も一っ切、無いっ!
「5……4……3……」会場の声と生中継を見守る声がシンクロする。いやそれだけじゃない。きっとツクヨミにログイン中の全ユーザーが一斉に「0」と叫ぶと、
『おまたせっ、えへへ』
『ヤオヨロー! 神々のみんな~ 、今日も最高だった?』
ツクヨミの管理人にしてトップライバー、月見ヤチヨが顕現した。
会場に渦巻く興奮のギアが一段上がる。
『うんうん。よーし、今宵も皆を誘っちゃうよ☆』
『Let's Go on a trip!』
『幾千の時を巡って今、僕ら出会えたの──ほら、見失わないように──手を離さないで──』
そしてなにものをも魅了する電子の歌姫の歌声が響くと、会場は熱狂の海となった。
そのときにはもう、ここに居ないアンチクショウへの不満など頭の片隅にも無かった。
▼
「今頃、酒寄はかぐやとヤチヨのライブ中かぁ」
正直メチャメチャ羨ましい。
去年のライブ、そして酒寄からの布教活動により(グッズとかは買ってないものの)俺もすっかり月見ヤチヨのファンだ。
酒寄と行きたかったな~……。
でも仕方ない。仕方ないのだ。
「ぬおっ!? 危ねっ」
「『ベビーフレイム』! ……ダメだぁ、当たんないや」
走る、走る、走る。
俺のすぐ右横を射撃が掠め、バランスを崩しそうになるのをなんとか堪えて、また走る。
アグモンと共に、閑静な住宅街をベースにした疑似空間を走り抜ける。
追われていた。
サイボーグ代した巨大な蜂の姿のデジモン、ワスプモンがブンブンという羽音と肩の推進器のジェット音を同時に撒き散らしながら飛び、追跡してくる。
時折、アグモンが牽制してくれているが効果は薄い。
地べたを走る俺達を悠々と見下ろすワスプモンは腹部の毒針、というか砲身をこちらに向け、再び攻撃体勢に入った。
「『ターボスティンガー』!」
大口径レーザー射撃がまたも俺の左横を掠めていった。
微妙に狙いの精度が粗いのはアグモンの吐き出した火の玉が当たった時に頭、というかセンサーに付着した煤が原因だろう。
「ええい、くそ! 降りてこいコンニャロー!」
「高いとこ飛ばれてるとどうにも出来ないね~」
アグモンは完全体になれば飛べる。
けど完全体が暴れるには俺のデジヴァイス一つだけで構築出来る疑似空間の強度が足りないのだ。
恐らく、完全体に進化して技のひとつかふたつでも撃ち放った時点で疑似空間は耐えられずに崩れ、現実世界で戦うことになってしまうはず。
「思いっきり跳べばアイツに届くか?」
「ムリだと思う。届く前に撃ち落とされちゃう」
それもそうだな。ならどうすっか……あれ、意外と結構ピンチ?
「……仕方ないな。アグモン!」
「わかった!」
「まだ何も言ってない!」
「言われなくてもわかる!」
マジか。でも、そうか。何度か間空いたけど、付き合い濃いし長いもんな。
突き当たった丁字路を俺は右へ、アグモンは左へ。
二手に別れてまた走る。
上空のワスプモンが困惑したように2、3秒止まり、そして狙いを定めたのか、俺を追ってきた。
「こっちに来たか!」
道幅は2メートルと少し。しばらくは曲がり角も分岐路もありはしない。
真っ直ぐ進むしかなくて、逃げ道は無かった。
ズザァッ、と滑るように急ブレーキ、振り返る。
ワスプモンは高度を下げ、砲身の先にエネルギーを溜めていた。たぶん、避けるスペースも与えないような大出力の射撃を撃ち込むつもりなんだろう。
静止してるのも、より正確に照準を合わせるため。
でも、いいのか?
「『ベアバ──「『シャープネイル』!」──ガギィっ!?」
民家の塀、さらには屋根、最後は電柱。2度の跳躍で高さを確保しながら加速し、勢いよく行われたアグモンの大ジャンプ。
それは飛行する相手の高度へ確かに届き、同時に振るわれたアグモンの鋭い爪が、発射寸前であったが故に避けられないワスプモンの背中の羽に少なくないダメージを与えた。
堪らず悲鳴をあげて怯むワスプモンにアグモンは更なる追撃を加えた。
「『ベビーフレイム』! もっかい『ベビーフレイム』!!」
自由落下する体をそのままに2連続で火炎を吐き出す。それらは吸い込まれるようにワスプモンの肩にある推進器に当たり、引火。
───内部からの爆発がワスプモンを木っ端微塵に粉砕した。
「やったっ!───うわわ、」
「アグモンっ───う、おおぉっ!」
ワスプモンの撃破を確認して歓声をあげるアグモンだが、落下中なのを忘れていたらしい。気付いて慌てるが、間一髪。
タックル気味に受け止めた俺とゴロゴロと地べたを転がることで事なきを得た。
「ふぃー……ありがとリツカ」
「……間に合って良かったよ」
「アレであってた?」
「ん? 」
一瞬、何のことを言ってるのかわからなかったが少し考えればすぐにわかった。
「ああ。大正解だ、アグモン」
「エヘヘ~」
「ハハハっ」
よくあんな短いやりとりでも『どちらかが囮になって相手を引き付け、その背中をもう一方が叩く』なんて雑な作戦を察してくれた。
それだけじゃなく、しっかり成功させてんだから百点満点だよアグモン。
擦り傷と砂埃まみれだらけの身体を無視して、俺たちはお互いに笑いあうのだった。
▼
後日。
夏休み、初日。
「ねぇアグモン? かぐや、ヤチヨカップ優勝してハッピーエンドにしたいの。だからお願い!」
パンッ、と何故か金髪になってるかぐやが柏手とともにアグモンを拝み倒した。
「一緒に配信して! アグモンが出てくれたら大バズり確定だから!!」
「いいよー……それで、ハイシンってなぁに?」
「いいわけねぇだろうがっ!!」
何かもわかってないのに安請け合いすんじゃねぇアグモン!
「えー!? な~ん~でぇ~!? アグモンは良いって言ってくれてるじゃん!」
「そうだよリツカ。友達が困ってるなら助けになってあげたいよ」
「えぇい、うるさい! 良いか、かぐや?アグモンはデジモンです」
「うん」
「デジモンの存在は秘密です」
「みたいだね。ネット探してもデジモンの話題なんて、なんとかって人達しかしてないし」
『なんとか』ってなんだ?……もしかして選ばれし子供たちのことか? 何で知ってる? そこら辺は話したっけか?
まぁ、それはどうでもいい。
「アグモンが配信に出た場合どうなる?」
「バズるっ!」
「バズるってなぁに? パズルみたいなおもちゃ?」
「そうだな、注目されるな」
ゴメンなアグモン。バズるって言葉の意味はわかるけど、どう説明すればいいのかわからん!
「秘密なのに注目されちゃダメじゃん」
「……ううぅっ……立花ぁ……どうしてもダメぇ……?」
「おう、酒寄ならともかく、俺に泣き落とし通じないの知ってるだろ?」
涙目でぶりっ子しながら来たって意味ないぞ。時間の無駄だ。
「けっ」
だからってやさぐれるなよ。
…………仕方ない。
「それ以外のことなら、まぁ俺が時間のあるときなら協力してやるから」
「いいのっ!? やったっ! なーにしよっかなー!!」
かぐやはやさぐれモードから一転。ぱあっ、とお日様みたいな満面の笑みを浮かべてはしゃぐ。
調子いいなぁ、かぐやは。
あまりの喜び様にこっちの心まで浮わついてくる。
そんな風に和んでると酒寄が突っ掛かってきた。
「コラ立花! かぐやを甘やかさないでって言ってるでしょ!」
「これ甘やかしてることになんの?」
ちゃんと断るべきは断ってるぞ俺は。くそ甘やかすお前と違って。
「あのね、いい? かぐやは宇宙人です」
「そうだな」
なんで今さらそんなことを?
「宇宙人なのに、目立っちゃダメじゃん」
「……………………あ」
……そうじゃん。かぐやも目立っちゃダメじゃん!
国連とかなんかそういう国際的な機関とか、ヘンテコな研究施設とかに見付かったら、実験やらなんやらの果てに解剖されちゃうじゃん!!
「か、かぐやっ。やっぱ無し! 今の、やっぱ無しっ!!───って」
「ふふふ~ん♪ ねぇアグモン? 立花は出ちゃダメだって言ったけど、配信のお手伝いはしてくれる?」
「いいよー」
聞いちゃいねぇっ!?
アグモンと二人並んで
「……ま、安心しなさい。トップはあの黒鬼だよ? 勝ち目なんてないから。ヤチヨカップ優勝なんて夢のまた夢よ」
「そ、そうか……?」
黒鬼ってアレだろ?
ブラックオニキス。ツクヨミで、というかたぶん日本で一番人気のある三人組のプロゲーマーユニット。
……なんか、心なしか、少し誇らしげじゃないか酒寄?
ファンだったっけ? 諌山がファンなのは知ってるけど。
「……ところで、さっきから言ってるヤチヨカップって何?」
「知らなかったの!?」
「知らない」
え、そんな有名なの? 知らないと恥ずかしい?
「あ、そうか。私とライブ行く約束すっぽかした後からツクヨミ入ってないのか……」
「ゴメンて」
すっぽかしてはないよ、ちゃんと連絡したじゃん。
埋め合わせはするよ、なんか別のことで。
「ヤチヨカップってのは……」
酒寄曰く、ヤチヨカップとはツクヨミのライバー限定のイベントで。
1ヶ月の期間中にどれだけ多くの新規ファンを、チャンネル登録者数を獲得できるかを競うモノなんだとか。
で、優勝者はツクヨミの管理人にしてトップライバーの月見ヤチヨとのコラボライブの権利が進呈される、と。
「……え、ヤチヨコラボライブすんの?」
「そうだよ! はじめてだよ! ヤバいよねっ!?」
すっげぇテンション上がってんな酒寄。気持ちはわかる。
俺も内心結構上がってる。うっわ楽しみ~……。
「むぅぅ~……!」
「リツカ、イロハ。カグヤがヤチヨ?って子のことばっかりに夢中にならないでって。もっとカグヤに夢中になってよって」
……放っといて悪かったから。そんなむくれんなよ、かぐや。
教えてくれてありがとうな、アグモン。
でも、もし俺がかぐやと似たようなことになっても
▼
暗い場所だった。
室内なのか外なのか。
空は、天地は、何がどうなっているのか。
何も分からない。そういう場所だった。
けれど一つだけ、明るい場所があった。
“窓”。あるいはテレビやPCの液晶画面。
物理的なものではない。だってそこには液晶も機材も何もない。
ただそれらに投影されるはずの映像のみが宙に浮かびあがり、周囲を照らしている。
そこに一人の人間がいた。
薄汚れた上着のフードを目深にかぶり、その顔も年齢も性別も伺い知れない。
傍らには大きな卵があり、大事そうに右手が添えられている。
そいつは食い入るように映像を見詰めている。
ツクヨミ。それも月見ヤチヨのライブ映像だが音はない。
映像が切り替わる。
金髪でギャルっぽいかぐや姫と、その近くにいる着物とパーカーを合わせた独特な格好の狐モチーフの少女。
かぐやと酒寄彩葉だった。
それを見て、そいつは映像に映る二人へとその手を伸ばして───
主人公と彩葉は飯食ったり勉強したりは頻繁にしてますが、一緒に遊ぶってことをあんまりしたことありません。
そういうのも含めて彩葉さんは結構楽しみにしてました。