超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
率直に言って俺と酒寄の想定は甘かった。甘過ぎた。
かぐやは宇宙人で、当然のことながら配信のことなんて何も分からない。
だから片っ端からなんでもやる。楽しそうなこと、思い付いたこと、興味の沸いたこと、文字通りなんでも。
ダンス動画を見て、それがかわいいと思えば自分もやり。
酒寄から紹介された、綾紬からメイクを教わり、そのビフォーアフターをアップしたり。
諌山から食レポ動画を教わればそれもやり。
ヤチヨのお悩み相談配信を見て真似してみたり。
二番煎じとか、後追いとか、気負いや照れ、そういったものとは無縁のまさに体当たり的なかぐやの配信は、ほぼ毎日という更新頻度の多さも相俟って、無名のド新人としては出来すぎといってもいいような大健闘をみせている。
そんな色々なことをやってる中でも特に伸びてる動画が、
『───誰も止められやしない───歌わずにはいられない』
歌だ。歌枠とか呼ばれたりもする配信や動画。
テキトーに選んだ、暖かな春風のような心地好い歌声の再生が終わると同時に、スマートフォンを閉じる。
酒寄を見る。酒寄はこっちを見ない。
「なぁ」
「チガウヨ」
「まだ何も言ってない」
「ワタシジャナイヨ」
「だからまだ何も言ってねぇって」
とりあえずこっち向けや、このチョロ甘。目を見て話せ目を。
かぐやを甘やかすなって? どの口が言ってんだ、どの口が。
ホイホイお願い聞いてオリジナル曲作成に伴奏までやりやがって…………作曲に伴奏!?
「多才過ぎないか酒寄!?」
「え、何、突然。……ありがとう?」
「で、お前は歌わないの?」
「ホントに何、突然!?……やだよ、やめてよ。歌わないよ」
「そっか」
「……今度、カラオケでも行く?」
「行く」
日程を決めるべく頭の中でカレンダーを捲っていると、酒寄が壁に貼った夏休みの予定表が目に入った。
わぁ、ギチギチだぁ……。休みや遊びってのが申し訳程度にしか入ってない。
予定表から目を反らす。すると今度は酒寄の部屋の惨状が映る。
物で溢れ返っていた。どう使うのかわからないおもちゃに知らないキャラクターのぬいぐるみ、そもそもなんなのかも分からない物、モノ、もの。
「しっかし……前に来たときも思ったけど、かぐやのおもちゃばっかだな」
「片付けろって何度言っても聞かなくて……立花からも言ってくれない? あの子、立花の言うことは比較的聞くじゃん?」
「わかった。……けどこれじゃ寝るスペースも無いだろ? いくらか俺の部屋で引き取ろうか?」
「助かります……」
手始めに横たわるトーテムポールみたいなのを持ち上げ運ぶ。
……でけぇな、これ。何に使うものなの? 配信の小道具? ……え、いや、だから配信で、何に使うの?
本来の用途はハンガーラック? ……ハンガーラックを配信でどう使うつもりなんだよ、かぐやは。
そうやって片付け(俺の部家に放り込むだけ)をしていると、自然と話題は不在のかぐやに。
「かぐやは? 夕飯の買い出し?」
「芦花と連れて水着買いに行ってる。再来週、みんなで海行くから」
「……お前このギチギチのスケジュールで海行く余裕あんのか?」
「知らないの? ホントのエリートは遊びにも手を抜かないんだよ」
「無理はするなよ」
「はいはい」
テキトーに返事しやがって。……ホントにわかってんのかなぁ。
「そうだ。立花も来る? 今年は海の家のバイト無いんでしょ?」
「女四人で男俺一人は流石に気まずいぞ」
「やっぱり? 真実の彼氏も誘ったりはするんだけど断られるんだよね」
「どうしても気ぃ遣っちゃうからな。そうなるとお前らも気を遣って楽しく遊べなくなるし」
最後にでかいぬいぐるみを放るように投げて、片付け完了。
酒寄の部屋は多少マシになったのではなかろうか。
「……あれ、アグモンは?」
「里帰り。明日の朝までには戻るってさ」
「そんな気軽に行けるんだ異世界……」
割と気軽に行けるんですよ、
▼
七回。
夏休みに入ってからと、その直前の、俺がデジモンに対処した回数を合計した数だ。
内五回は成熟期相手の戦闘に発展している。
多い。いくらなんでも多すぎる。
平時は月に一回、ないし二回。それも成熟期のように戦闘に適応した個体が来ることなんて稀も稀だった。
なのに七回。半月も経っていないのに、だ。
明らかな異常事態。だからこそアグモンは一度デジタルワールドへ確認に戻って、俺はといえばかつての仲間たちと直接あっての相談と情報共有をすることになった。
そのために俺達はいつだか兄夫婦と面会した喫茶店に集まろうとした……のだが、健は親戚に不幸があって来れなかった。
なのでとりあえず三人で集まることに。
「いやいやいや。七回? 一人で? しかも半月? 流石に多すぎますって!」
「わたしたち二人合わせても多かったときで二、三回とかですよ~?」
四人掛けのテーブル席。向かいに座るのは二人の少女。
チェックのプリーツスカートと半袖のシャツに細めの赤いリボンタイ。二人とも制服姿だ。
その顔立ちは非常によく似ており、これまた非常によく整っていた。ひと目で血縁関係がよくわかる。
しかし色々と不都合なのか、二人とも他者に分かりやすい様に容姿に
例えば、
「センパイの住んでるとこ、なんか呪われてるんじゃないんですか?」
しっかり者の印象で基本的に誰にでも分け隔てなく優しい子だ。
「みっちゃん、あんまり変なこと言ったらダメだよ?」
そう言って姉を咎めるのは妹の
しっかりした印象の姉とは打って変わっておっとりした性格、しかしキレると簡単に手と足が出る暴れん坊。
二人とも、高校一年生の十六歳で双子だ。
「でも、まーちゃん。七回だよ七回! 絶対何かあるんだって! 引き寄せる何か!」
「何かって?」
「……それはわかんないけど。でも変でしょ!?」
「それはそう……立花先輩? お心当たりとか、ありますか?」
「……んー、ねぇな~……」
腕を組んで考える。
……チラリと騒がしい宇宙人のことが頭を過ったが、増え始めたのはアイツが来る少し前、6月の半ばくらいからだ。関係ないだろ。
返事を聞いた御姫はチュゥっとストローでコーラをひとくち飲んでから、
「ちゃんと『無理!』ってなる前に連絡くださいよ? センパイのためならアタシ、すぐに、どこでも、何時でも駆けつけますから!」
「みっちゃんだけじゃなくて、わたしも。ちゃんと頼って下さいね」
「はいはい」
「ホントにわかってるんですかぁ~……?」
揃ってそんな疑わしいものを見る目を向けんなよ。
大丈夫。わかってますって。
心配してくれてありがとな、二人とも。
「……ところであの~。話は変わるんですけど、先輩?」
「? どした?」
「いえその。先輩って武蔵川高校、でしたよね?」
「そうだけど?」
「……ろ、ROKAさんのサインって、お願いできたりとか……?」
…………流石はファン数十七万人のインフルエンサー。こんな身近にファンの子がいるとは。
「わかった。聞くだけ聞いて、頼むだけ頼んでやるよ」
「本当ですかっ!?」
「こんなことで嘘言わないよ。でもそんなに親しいわけじゃないから、あんま期待すんなよ?」
「……あ、それでいったらアタシも! まみまみのサイン欲しいっ」
御姫、お前もか。ええい期待するなよ。後、口外も。他の子の分とかは頼まんからな。
……あ、そうだ。ついでだ。俺も二人にお願いしとこう。
「あのさ二人とも。『かぐや・いろPチャンネル』って知ってる?」
▼
八月に入った。
俺はバイトと勉強、たまに来るデジモンへの対処で毎日忙しい。
普段通り酒寄の部屋でかぐやの作った飯を食っているとかぐやがこんなことを言ってきた。
「ねぇ立花~?やっぱりアグモンを」
「配信には出させません」
「ちぇっ」
「ゴメンねカグヤ。リツカがどうしてもダメだって」
舌打ちすんなよ。てかまだ諦めてなかったのか。
「……じゃあ立花は?」
「俺?」
「そうそう。立花、一緒に配信出て盛り上げてくれない?」
「……お前最終的に酒寄を出させようとしてるだろ」
俺は外堀か。少しは考えたな。
「そそそ、そそ、そ、そんなにこと、無い、よ?」
「しどろもどろが過ぎるでしょ……」
「因みに酒寄さん、出演のご予定は?」
「ない」
「……だってさ」
「ぬぅわぁんでぇ~~!? かぐやちゃんまだ四百位だよ!? このままじゃハッピーエンドにならない~~」
「……まぁ俺はたまになら裏方というか、サポートみたいなのなら出てもいいぞ」
「ホントっ!?」
かぐやも一回出りゃ満足してもう言わなくなるだろ。
女の子のチャンネルに男が出てきたらクソ程叩かれるんだろうけど。……いや、たしかコイツ配信内で普通に俺のこと言ってたな。なら大丈夫か?
うーん……わからん。
その後、俺は安請け合いを後悔することになる。
▼
「なぁ、かぐや? このアルミホイルの塊はいつまで叩けばいいの?」
「ん?……えーっと、あと、五時間くらい?」
「先長ぁっ!? 俺明日バイトあるって言ったよな!?」
「お願い立花! 彩葉も呆れて付き合ってくれなかったし、一人じゃ心折れそうなの! その後ヤスリがけとかもあるからそれもよろしくっ!」
「…………やってやるよコンチクショォォオ!!」
「ねー立花。ペットボトルロケットってさ。……突き詰めれば飛べるんじゃないかな?」
「かぐや」
「なーんてウソウソ。流石のかぐやちゃんもそんなん無理だってわか───」
「天才の発想だ。直ぐに試作品を作って、特許申請しよう」
「マジでぇ……? あ、演技とかじゃなくてマジだ、ホントに取り方検索してる……疲れてるのかな?」
「今日はお外で料理配信! アパートの他の住人からも許可取って焼き鳥焼きます! 炭火と七輪使った本格派だよ!」
「炭の提供は俺のバ先です」
「ご協力ありがとうございます!」
「じゃあ焼いてくぞー。かぐや、何食べたい?」
「あ、後で焼き係交代しようね?」
「どうせ二人なんだから一緒に焼いちまおう。俺のはかぐやが育ててくれ」
「おお、責任重大。承った!」
▼
酒寄がテキトーに選んだ、俺も出ている動画の再生を止める。そのままスマートフォンを鞄に仕舞った。
酒寄がこっちを見てくる。俺は顔を逸らす。
「…………」
「…………」
「ねぇ」
「チガウヨ」
「まだ何も言ってない」
「オレジャナイヨ」
「だからまだ何も言ってないって」
「サングラスシテルシベツノヒトダヨ」
「あれ着けただけで誰か判別出来なくなるわけないでしょ」
意外と炎上とかしてなくってぇ……SNSでも好感触だったりコメント欄で好評だったりすると嬉しくなっちゃってぇ……。
『次も、出てやっても……良い、ケド……?』みたいなツンデレ気分になってぇ……。
分かってよ。 お前も一回出たら俺みたいになるから。
『かぐやちゃんが一人のときじゃ見られない甘えん坊っぽいところとか最高!』とか見ると、うちのかぐやの可愛さを全世界に知らしめるのにもっと頑張らないとって思うんだよ!
「あのときの焼き鳥おいしかったね、イロハ」
「アグモン……美味しかったし嬉しかったけど、でもぉ」
思い出してヨダレを垂らすアグモン。
『そうじゃない、そうじゃないのよ……』と机に突っ伏す酒寄。
まぁ気持ちはわかる。最近、かぐやの配信に掛けるエネルギーは益々増えている。
それでどうなったかというと、単純にうるさくなった。
基本的に配信してるのがド深夜なせいで酒寄は寝不足を加速させている。
かくいう俺も出演以外にも、(酒寄には内緒で)切り抜きだのショート動画だのの作成をお願いされ、さらに余裕のない日々を過ごしている。
流石にちょっと疲れたし、眠たい。俺も酒寄も。
かぐやも買い出しで居ないので二人と一匹してだらけてると酒寄のスマートフォンのアラームが鳴った。
「うう、バイトぉ……」
「いってらっしゃい」
「いってきまーす……」
大丈夫かな、酒寄。……まぁ途中でヤチヨの曲聞くなりして気分アゲてなんとかするだろ。
さぁて俺も少し休んだら勉強勉強。コツコツやらないと直ぐに成績下がるからな!
▼
『かぐや・いろPチャンネルって知ってる? 俺、今その裏方というかサポートや手伝いみたいなことしてて』
『ヤチヨカップあるじゃん? そこでなるだけ上位に食い込みたいんだよね。お前らも二人もチャンネルあるし、どうだろう。コラボとか……お願いできない……?』
黒川御姫は、アタシはその日を、その時を楽しみにしていた。
もちろん妹の真白、まーちゃんもそうだ。
指折り数えて待ったほどだ。
───ウソ。ホントは一週間も待ってない。
アタシたちは揃ってその場での了承だった。
センパイはサインとの交換条件として捉えてる節があったけど、そんなことは関係ない。アタシたちがセンパイからのお願いを断ることなんて万にひとつもないのだ。
そのあと、日時を決めて内容も詰める。ざっくりした進行の流れを書いた
でも、それだけ。
あまりガチガチに固めすぎてしまうと配信の幅が狭くなってしまう。ある程度のゆとりは必要だ。
とりあえずツクヨミ内の大人気ゲーム『KASSEN』。その三つあるモードの内のひとつ、一対一の対人戦モード『SETUNA』の初心者講座的な内容にすることに。
「ねぇ、まーちゃん? 変じゃない? 寝癖とかついてない?」
「みっちゃん、ここはツクヨミだから寝癖とかつかないよ」
そんなことはわかってる。わかってるが、妙に落ち着かない。
もう一度、自分のアバターのスキンを確認する。
色味としては黒と赤。フリルのあしらったゴスロリ風のスカートとスチームパンク風のトップスを合わせた独特の装束。
ツクヨミのユーザー名、『ミヒメ』。
ライバーとしての名前も『ミヒメ』。
「あと少しで配信開始だよ? 大丈夫?」
対するまーちゃんのアバターは和の要素が相応に強かった。
昭和ロマンまんまの和洋折衷。矢絣柄の着物に朱色の袴を合わせている。アタシとお揃いの編み上げブーツを履いていて、背中には白い翼と頭には天使の輪っかが浮いている天使モチーフ。
ツクヨミのユーザー名『マシュマロ』。
ライバーとしての名前は『マシロ』。
「大丈夫! 緊張はしてないから」
これは本当。
アタシたち、ゲームの実況と配信を主とする『ミヒメ&マシロのゲーム実況チャンネル』は途中高校受験のための半年以上の休止期間を挟みつつもデビューからは四年経つ。すっかり慣れてもうベテランと呼んでもらって構わないレベルだ。
…………それにしても、
「センパイ、遅くない?」
「うーん、急用かな……?」
配信開始時間の夜七時、その十分前を過ぎてもまだ来ない。
アタシたちのツクヨミ内の配信用スペースへのコードは送信済みだ。
メッセージも送ってみたが既読が付かない。ドタキャンにしてもセンパイの性格的にメッセージの一件も無いというのは考えられない。
───これは何かあったかな?
本番前に軽く打ち合わせもしたかったが、仕方ない。
ファンの皆にはゲストが来ることは事前に話していたが、それも『もしかしたら来るかも?』みたいなボカした言い方にしたつもりだ。
最悪、アタシたち二人で『SETUNA』プレイヤー人口増加のための初心者講座として押し切ってしまおう。
───そんなふうに思っていると、ライブ開始まで1分を切った。
ツクヨミ内ゲーム配信用の半透明な追従型ライブカメラの位置を確認、深呼吸。
十五分前から立てられていた待機所には小気味良いジングルがアタシたちのファンアートと共に流れている。
十秒前、
「さて、と。いける? マシロ」
「オッケー、ミヒメ」
呼び捨ては配信用、頭の切り替えだ。個人としての意識を
さん、にぃ、いち、
───集中。
ぜろっ!
「ファンのみんなー! こんヒメー! ミヒメだよっ!」
「こんシロー。マシロで~すっ!」
配信開始と同時に、元気よく挨拶。
「今回は、『SETUNA』の初心者講座となっておりまっす!」
「事前に告知していた通り、今回はゲストが来ていま~す!」
───マシロ!? センパイは来てないって。
混乱しそうになるが、直ぐに持ち直した。いつものマシロの悪戯だ。
ホントは既に来ていたのに伝えず、別の場所で待機させてヤキモキするミヒメの反応を見て楽しんでいたのだ。
「では、登場していただきましょう! この方で~す」
それに乗ったであろうセンパイ含めて、後で文句を言ってやらねば!
そんな気持ちを抱くが、抑えて、滞りなく台詞を引き継いだ。
空間を光の波紋が走る。
それを切り裂くように、アタシの大好きなセンパイが現れて───
「かぐやっほー! 月からやって来た、かぐやだよー!!」
「違うっっっ!!!!!」
───金髪、ミニスカ着物のギャルかぐや姫が出てきてアタシは叫んでしまった。
片手を上に付き出した元気なポーズのまま固まるかぐや姫にズカズカ大股で近付いてガシッと肩を掴み、
「貴っ様、アタシの愛しのセンパイを何処へやったァァアッ!!??」
「あばばばばっ! は、話と違う話と違うっ! 立花ぁ! 全っ然話と違うんだけどぉっ!? 優しくティーチングしてくれる双子はぁっ!?」
「呼び捨てぇっ!? ……彼女か、彼女か貴様ぁっ!!」
「アッハッハッハッ!!」
ガックンガックン揺さぶるアタシ。されるがままのかぐや姫、爆笑するマシロ。
───『ミヒメ&マシロのゲーム実況チャンネル』と『かぐや・いろPチャンネル』の記念すべき初コラボは、放送事故であった。
かぐや:初のコラボ配信、立花からの紹介で安心してたら初っ端ガックンガックンされた。被害者。
ミヒメ:コラボ相手の動画を確認してなかった+舞い上がってた=立花とのコラボと勘違いしてた。一応、被害者。
マシロ:ミヒメが勘違いしてるのを気付いてたけど面白がって黙ってた。犯人。
立花:コラボには自分も出るつもりだったけど、直前でデジモン出てきちゃってアグモンと対処中。