藍染様と行く、厄ネタ満載の多重聖杯戦争 〜冬木終了のお知らせ〜 作:たんく
※初投稿です。よろしくお願いします。
「きゅっとしてー、」
「──── !!離れなさいッ!アーチャー!アレが来るッ!」
彼女の服装は絵本から飛び出して来たかのような、フリフリとしたリボンのついた可愛らしい姿。
黄色の髪は絹のよう、紅の瞳は宝石のよう。
手に持っているのは真紅の炎が燃え盛る大剣。
まるで幻想から這い出て来た怪物のような彼女。
彼女の手は、撫でるようにアーチャーの腕に触れ。
そして────
「ドッカーン!」
「──── がっ!!」
気の抜けるような
まただ。彼女の手に触れれば、全てが一瞬で粉々になってしまう。
正しく理不尽という表現が適切な、想像を絶する
空には美しいまでに密集された夜空の星屑のような“弾幕”が展開され、ソイツ等が流れ星のように降り注いで、俺たちの安全圏を刻一刻と狭めている。
「次は、アンタたちだよ」
幼子はまるでこの破壊が遊びの一環でしかないようにゆっくりと翼をはためかせ、こちらへ接近してくる。
──と思った次の瞬間には、音が追いつかないほどの速度で間合いを詰め始めていた。
「衛宮士郎、遠坂凛。
身を護るといい。足手まといになることだけは、許さないがね」
セイバーは、そんな状態でも変わらずに真っ直ぐに戦場で立ち続けている。
「わかってるわよ!構えなさい、士郎。
足を引っ張ったら承知しないんだから」
遠坂に発破をかけられ、俺はそれに何とか頷く。
『一応言っておくけど、今回の聖杯戦争はヤバいわ。聖杯戦争の体を成していないと言っても良い。
それでも、アンタは参加するのかしら』
──あの時の忠告が、頭をよぎる
分かってる。俺は、衛宮士郎はこんなことを許さない為に聖杯戦争に参加したんだ。
だから、こんなところで逃げるわけにはいかない。
「ふふふふ…………」
キャスターの妖艶な笑い声に、俺の身体はたまらず恐怖を抱えてしまう。
理屈じゃない。体が、細胞が、あれを『出会ってはいけない天災』だと叫んでいる。
くそ、震えるな。恐れるな。
ボロボロになりながら、何とか身体を奮い立たせる。
だが、そんな俺の前にあるのは絶望。
その事実は何も変わらない。
軍隊がマシンガンをぶっ放したかのような、速度と密度で、無数の魔力弾が迫る。
夜空の星屑のようなアレが、一つでも当たったら死ぬ。
それを前に、俺たちは何とか身体を立たせ、立ち向かって行く。
「ウォおおおおおああ」
叫ぶ。
全身で。
まるで、恐怖を忘れさせるかのように。
ああ。確かに、彼女の言っていた通り。
この聖杯戦争は、“無茶苦茶”だ。
*
時は、遡る。
*
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
宝石を溶かして書いた魔法陣の上で、私……遠坂凛は僅かなミスも残さない程に神経を細く尖らせ、集中していた。
現在、私が行なっているのは英霊の召喚。
二百年近く続く大儀式、聖杯戦争に参加する為の準備だった。
英霊というのは、読んで字の如く“英”雄の幽“霊”。
大国を治めた王様、歴史の教科書に載っている英雄、有名な物語の豪傑──そういった、歴史に名を刻んで、死後に英霊の座という場所に召し上げられた人間を超えた存在。
そんな規格外を召喚し、サーヴァントとして使役し、最後の一人になるまで戦う。
これこそが聖杯戦争だ。
聖杯戦争はサーヴァントを召喚した時点で勝敗が決すると言っても過言では無い。
そんな中で、私は最優のサーヴァント、セイバーを召喚する為に最高の触媒を用意した。
石板。
かつて、ブリテンの英雄アーサー王の持った最強の剣、エクスカリバーを
間違いなく、これを使えば私は最強のセイバー、アーサー王を引き当てることができる。
そうなったのなら勝ったも同然。
「
一瞬だけ、時計に目を向けた。時間は完璧。後は、本番に移るだけ──!
「
体の中にある、見えないスイッチを入れ、私の魔力回路を呼び起こす。
起動した魔力回路を通じて、わたしの全身に魔力が行き渡る。これを変換して、別のカタチにする。
これこそ全ての魔術に共通する手順だ。身体に鈍い痛みが走るが、それがどうした?
とっくに慣れたものだし、これを理由に逃げる理由にはならない。
だって、この痛みの先にあるのは、わたしが求めた道──!
「──―告げる」
準備万端。
魔力も完璧。
失敗なんてありえない。
変換した魔力を召喚陣に注ぎ、彼を呼ぶための詠唱は、最終段階に到達する。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ」
空気が、変わった。
膨大な魔力は渦となり、銀色の眩い光が私の部屋を包む。
私はとっさに目を閉じた。こんな状態で目を見開いていたら、目を焼かれたっておかしくない。
もう、引き返す理由は無い。こうしてサーヴァントを召喚すれば、私は晴れて聖杯戦争の参加者。
殺し合いの場に、自身の命をベットすることになる。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」
──かいっしん、だ。
間違いなく、私は最強のカードを引き当てた……!
ああもう、どんなのが来たのかしら……!?
期待と不安の割合、7対3の状態で目を開ける。
そこにいたのは──
「アタシを呼び出したのは、アンタか?」
薄いオレンジ色の髪の、小柄な少女。
彼女の服は装飾として可愛らしいフリルが大量につけられた、俗にいうメイド服という奴でその上から無造作にスカジャンを羽織っている。
スカジャンは龍が刻印された派手なデザインで、召喚の余韻でか僅かに揺れている。
鋭い目で私を睨みつけ、鎖で繋がれた二丁のサブマシンガンを肩に担ぐ。
「まあいい。呼ばれたからにゃあ、やることをやるだけだ。
問おうか、アンタがアタシのマスターか?」
Ok。彼女が私のサーヴァントか。
………うん。
私は、大きく息を吸った。
肺が、これ以上ないくらいに広がる。
「だっれええええええええええええええええええええ!?」
「あぁ!?うっせえぞッ!!」
アーサー王を呼んだと思ったら、知らないメイドの女の子を呼んでた……その状況を認識して、私は叫ばずにはいられなかった。
*
「なるほどねえ。」
召喚の際のハプニングと、それに対する興奮も冷めた翌日の朝。
私は彼女に叩き起こされ、仕方なく腰を据えて彼女と話すことにした。
「キヴォトス、そこの学校の一つに所属するエージェント……」
「いや……何、冷静です感出してんだよ。
髪ボサボサ、服はパジャマ。アタシが言うのも何だが、だらしねえぞ。女子高生としてどうなんだ」
「うっさいわね。アンタが叩き起こさなきゃもっとマシな格好してたわよ。
地獄に落ちなさい、アーチャー」
売り言葉に買い言葉、互いに文句を言い合いながらも、取り敢えずは良好な関係は築けている……と思う。
取り敢えず受け入れなければならない話だが、恐らく彼女は私の世界の人間ではない。
学園都市、キヴォトス。
その中の三大校の一つ、ミレニアム。
生憎として一度も聞いたことはない。
聖杯戦争とは、あらゆる時代の英霊が集まる殺し合い。
その時代には、
それならば他の世界の英霊が召喚されたとしても何もおかしく無い。
こことは違う別の世界の存在は、既にキシュア・ゼルレッチによって証明されている。
そうであるなら、彼女の存在も何とか受け入れられる。
呑み込むにも、宝石ぐらいの大きさがあるけど。
……ああ、頭痛がして来たわ。
「ダメよ、凛。
貴女は遠坂の当主にして、この冬木の管理人。
この程度でへこたれちゃ、おしまいよ」
「何だよ、小せえ声でぐちぐちと」
「い、いえ、何でもないわ。
それよりアーチャー。
私たちは、サーヴァントとマスター。文字通り一連托生の存在なわけだけど、ここは互いのことをもっと詳しく知るべきじゃないかしら」
私の提案に、アーチャーは静かに納得する。
どうやら、言動は粗暴でも頭まで粗暴というわけじゃないみたい。会話の余地がある。
ある意味じゃ、サーヴァントとしちゃそこまで悪くないのかも。
「んで、アタシはアンタのことを何て呼んだら良いんだ?
さっきからずっと、アンタアンタなんて呼んではいるが、この関係が良いのか?」
彼女は椅子の上で足をぷらぷらと揺らしながら、私に言葉をかける。
その言葉に、私はハッと顔を上げる。
確かに、私はまだ大切なことをしてなかった。
「ごめん、自己紹介がまだだったわ。……わたし、遠坂凛よ。貴女の好きなように呼んでちょうだい、アーチャー」
「Ok、リン……リンか。そういや、連邦生徒会にもそんな名前の奴がいたな。
まあ良い。そっちがすんなら、こっちも自己紹介だ。
美甘ネル、ミレニアム学園のエージェント、C&Cのリーダーで、コールサインは00。
良いぜ。リン。
この、
「……約束された、勝利の象徴」
彼女の言葉を、私は脳内で反芻していた。
そう………なるほど。彼女が呼ばれたのにはそう言った理由があったのね。
「……ええ。頼りにしてるわよ。アーチャー」
私はそう言って、彼女に手を差し出す。
確か、あの触媒はお父様が用意してくださったものだ。
最初はアーサー王じゃなく、変なチンチクリンが呼び出されてガッカリしたなんてものじゃなかったけど、それでもそんなに悪いモンじゃないと思う。
「おう。」
彼女は、太陽のような笑みを浮かべ、ゆっくりと私の手を取った。
これで、私の聖杯戦争は始まり。
彼女と共に命懸けの戦いが幕を上げた。
*
サーヴァントを召喚した翌日は、まる一日を使って市内の案内をした。
アーチャーに町の様子や地形を教えつつ、ついでに他のマスターやサーヴァントを探してみたのだが……世の中、そう幸運は転がっていないものらしい。
まあ、無駄に一日を浪費したというワケでもないので、その点では良かったと考えるべきだろう。収穫もそれなりにはあったのだし。
……それで。一晩ぐっすり眠った後、わたしは居間でアーチャーと向かい合っていた。
「──で、学校に行こうと思うんだけど」
「……いいんじゃねえか?」
お、ここで簡単に承諾してくれたのは嬉しいわね。
正直、一見すると学校に通う理由って戦術的には無いから反対されると思っていたんだもの。やっぱり彼女とは割と気が合うのかしら。
「やけに簡単に許可してくれて嬉しいわ。アーチャー」
「……これでも学生なんでな。学校に通うことの重要さは理解してるさ。
つーか、行きたくねえって駄々こねるんなら蹴り飛ばして連れてくとこだった。」
そう言うことをアッサリと言ってくれるのも、正直やり易い。
サーヴァントと腹の探り合いとか、バカらしくてやってられないもの。
冬木には聖杯戦争に参加できる魔術師の家系は、もう遠坂を除いて残っていない。
そうなるなら、聖杯戦争の参加者は大体冬木の外部の魔術師と言うことになる。それなら人の多い学校は『神秘の秘匿』で姿を隠さなければいけない魔術師から見を守るのに最適と言うわけだ。
「……じゃ、さっさと行くから霊体化しなさい。そんな格好、英霊だとは思われないだろうけど、別の意味で目立つんだから」
「っせえ。こっちだってこんな格好したきゃねえよ」
*
また、私の一日は終わる。
太陽はとうの昔に沈み、街は静かな闇に覆われている。
時刻は、既に夜の八時。
面倒なことに、私の学校に結界が仕掛けられていた。
私のテリトリーで勝手なことを、と憤慨したが、既に仕掛けられてしまった以上どうすることもできない。せめてもの抵抗として学校中の呪刻を潰して回っていた。
これで結界の発動を阻止することは出来なくとも、少なくとも妨害は出来ているはずだ。
「ったく、面倒なことするわね」
『……なあ、アレを仕掛けたのは学校内の人間なのか?』
霊体化しているアーチャーが尋ねてくる。
「多分ね。
先生か、生徒か、それとも完全な部外者なのか分かったものじゃないけど。
警戒するに越したことはないわ。
貴女も今度からは警戒を強めて頂戴」
『………お前の先生も、容疑者なのか?』
「ええ。魔術師なら社会的肩書きよりも自分のことを優先する。
生徒だろうと魔術師にとっちゃ関係ないのよ」
『………そうか』
学校に結界が貼られていることを知ってから、やけにアーチャーの声が重い。
彼女の話じゃ、先生ってのに何だかんだお世話になっているみたいだけど、それは彼女の世界の場合。
魔術師、それは根源への到達の為に長い時をかけて魔術の研究に取り組む集団のこと。
基本的には魔術師として人から隠れて過ごしているけど、今の現代社会だとそういうのも上手くは行かない。
だから、最近は教師なんかの社会的地位のある職業に就く人間も多いらしい。
だが、教師という職業についても所詮は魔術師。教師という大勢の人間と関わりのある立場なのを利用して、不特定多数の人間に魔術的処理を行い実験を行っていた、なんて話も聞く。
自分だけが全て。魔術師というのはおおよそそんな感じだ。
ただまあ、これを直接伝える必要性があるとは思えない。取り敢えず励ましてやるか。
「ま、アンタの気持ちは私には完全には分からないけど、あそこであんなことされちゃ私だって黙っちゃいられない。
アーチャー、必ず犯人をぶっ潰してあげましょう」
『──── !
ああ。勿論だ』
ようやく彼女の言葉に覇気が戻った。
全く、我がサーヴァントながら世話が焼けるわね。
そうして、私とアーチャーが歩き出そうとした。
まさに、その時だった。
『リン、後ろだッ!!』
「──── !」
アーチャーの突然の叫び声と共にゾクリと身体中を走る、鋭い爪で首元をなぞられたかのような悪寒。
咄嗟に私はその場所から右に転がった。
バキリ、と鈍い音が鳴って転がりながら背後を確認してみれば、夜よりも暗い漆黒の装束……いや装束といっていいのか。体に張り付くような黒で染め上げた人影が拳で私が先ほどまでいた場所を殴り、コンクリートを粉々に打ち砕いていた。
「このッ!!」
突然の襲撃に驚愕を浮かべながら、私は背後に向けて宝石を投下、魔力を流して爆発させる。
あーもう!せっかくたくさん貯めてたってのに、あっという間に一つ使ってしまった。
だが、そこまでしても人影を仕留めることは叶わず、人影はバックステップで距離を取り爆発の範囲外へと逃れる。
月明かりが人影を照らし、その姿を露わにする。
「失礼。
聖杯戦争のマスターと判断し、いち早く奇襲を仕掛けさせて頂きました」
そこにいたのは女だった。
友人の綾子のような、男勝りな雰囲気を纏ったスーツ姿の女。
赤みがかったショートヘアに整った顔立ち。美人、と一目で分かる顔立ちをしているが抜き身の刀のような殺気と、西洋剣の如き闘気を纏った出で立ちが彼女が戦士であると明快に伝えてくる。
動きやすさに特化したスーツとグローブには良く見れば複数のルーンが刻まれている。
なにより先ほどの口ぶりからするに、彼女は私と同じ令呪をもつ聖杯戦争の参加者だ。
「強力な宝石魔術といい、先の手並みといい、この街のセカンドオーナーにして御三家の一角――遠坂家の頭首だとお見受けしました」
女はその鋭い姿を一切緩めることなく私に言葉を投げかけてくる。
「礼儀として名乗りましょう。私はバゼット・フラガ・マクレミッツ。魔術協会より聖杯戦争にマスターとして派遣された魔術師です」
「マクレミッツ!!?」
私が驚きの声を上げた瞬間にはバゼットはボクシングのファイティングポーズのような構えを取り、既に戦闘体制に入っている。
そう……私が認識した次の瞬間には、彼女の拳は私の目前にまで迫っていた。
「──うそっ!?」
最初から話しあいなんて通じる相手じゃないとは思っていたけど、彼女は完全にやる気だ。
しかもマクレミッツっていったら魔術協会でもばりばりの武闘派。封印指定となった魔術師を狩る執行者だ。そんな彼女の拳を喰らってしまったら、無事で済むわけがない。
回避行動を。
──そう思うより早く、私の身体は彼女の拳から離れていた。
「──危なかったなッ!」
アーチャーが私のことを小脇に抱え、私の代わりに回避行動を取ってくれていた。
「ごめん。助かったわ、アーチャー!」
「気にすんなッ!!」
アーチャーの身体から離れ、バゼットへ指先を向ける。
さっきは油断したけど、次はこうはいかない。
相手の得意とする距離に、絶対に近づかせないように、このまま遠距離で相手してやる!!
「へえ、ソイツがアーチャーのサーヴァントかい?」
突然声がして、バゼットの背後に少女が現れる。
少女は身長以上に丈のある槍を手にし、可動域を広げるためか、前側が大きく開いたノースリーブの真紅のドレスを身に纏っていた。
身長に関しては、多分アーチャーと同じくらい。
手にはリンゴを持っていて、飄々とした態度を取っているが、纏った神秘や立ち振る舞いからサーヴァントであることは察せられる。
「──食うかい?」
「ランサーの、サーヴァント──!」
「せーかい。んまあ、それならあたし達の目的はわかるだろ?
戦争なんだ────取り敢えずくたばんな!」
ランサーがそう言って手に持った槍を振るうと地面から赤い鎖のようなものが張り巡らされ、高い壁となって私の背後を塞いだ。
「………ランサー」
そんなランサーのサーヴァントをバゼットは手で制した。
「……んだよ?マスター。
獲物の退路を塞いでやったんだ。感謝こそされ、文句を言われる筋合いはねえぞ」
「いえ。そういうわけではありません。
遠坂の相手は私がします。
サーヴァントならともかく、マスター相手に貴方の力を借りているようでは、どうせこれから先を勝ち抜いていくことなど出来ない。マスターの相手は同じマスターである私が」
「ハッ、この後に及んで、なに甘いことを……………」
「すみません、話は後で。
────ハアッ!!」
「聞けよっ!」
ランサーが何やら言おうとしていたようだが、バゼットはそれを完全に無視。
そのまま先ほどの速度と同等、いやそれ以上の速度で私に殴りかかってくる。
「アーチャーッ!!手は出さないでよッ!」
さっき、バゼットは私にサーヴァント無しで挑むと言ってきた。
だったら、こっちも同じように受けて立とう。どうせ、サーヴァントを使って迎撃を行ったって、相手のサーヴァントが黙っちゃいない。
だったら、私はマスター。
アーチャーはランサーを相手にするだけのこと。
バゼットの拳を受け流しつつ、兄弟子譲りの太極拳で応戦する。
それに対して、アーチャーとランサーは。
「ほら、マスターの指示だ。
構えろよ、ランサー」
「へえ。随分と可愛らしい服着てるくせに、やたらと好戦的じゃん。アーチャーのサーヴァント」
「テメェこそ、なんだその格好。どっかの魔法少女か?」
「魔法少女だよッ!!」
その一言で、空気が変わった。
アーチャーが二丁のサブマシンガンを構えると同時に、ランサーの槍が多節に分かれた。鎖で繋がれた槍が、鞭のようにしなる。
銃声が響く。
ランサーは鞭状の槍を振るい、飛来する弾丸をことごとく叩き落とした。その一瞬の隙を突き、アーチャーが接近する。
アーチャーは銃身を二刀のように叩きつけ、接近戦を仕掛ける。それをランサーはいなし、鞭のように槍を振るった。
地面が抉れ、コンクリート片が舞う。
「やるじゃねえか。アタシの間合いに踏み込んで、まだ立ってられるなんて」
「ハッ、この程度でそんな口を叩くなんて、随分とぬるま湯に浸かってたみたいだな、おチビちゃん」
「誰がチビだッ!!」
アーチャーが距離を詰める。銃を構えたまま、近接に持ち込む動き。ランサーはそれを読んだように鎖を伸ばし、アーチャーの腕を絡め取ろうと迫る。
「……分かってんだよ」
ランサーが低く笑う。
「さっきから撃つことには躊躇ってねえが、殺意がねえ。アンタ、人を殺したことがないし、殺すつもりもねえんだろ?
今は戦争だってのに。魔法少女になったら、何も出来ずに死ぬタイプだね」
地面から鎖が伸びる。
恐らく、先ほどから彼女が槍を担いでいるのはブラフだ。
槍を一本しか作れない、そうアーチャーに錯覚させる為の。
だが違う。彼女は、恐らくだが自身の魔力が許す限り幾らでも槍を作ることのできるのだろう。
ランサーというクラスではあるけど、多分その本質はキャスターが近い。
「──なっ!?」
鎖はアーチャーの身体に巻きつき、彼女を拘束。そのまま身動きの取れない空中へと放り投げる。
「これで終わりだよ。愚図が」
ランサーは、そう言って幾つもの槍を生み出して空へと放つ。
なるほど、確かにアレが当たればアーチャーはひとたまりもない。
現在、彼女は拘束されていて、そして身動きの取れない空中。
理屈の上じゃ、避けられる術はない。
だが、それは理屈の話だ。
理屈なんて簡単に越えられなきゃ、英霊なんて呼ばれない。
「──オラッ!!」
鎖が引き千切られる音がした。
アーチャーは拘束を力任せに破り、周囲に銃弾を乱射する。計算された動きで、飛来する槍をことごとく叩き落としていく。
そのまま、アーチャーはランサーに向けてサブマシンガンに繋がった鎖を巻きつけた。
「さっきはごちゃごちゃと、鬱陶しいこと言ってくれたなあッ!!」
アーチャーは宙に残った槍の残骸を両足で蹴り飛ばし、その勢いを加速させる。
「───お返しだ!」
「グエ!!」
そうして、空からの落下の勢いを利用して、ランサーに強力な頭突きをお見舞いした。
「やった!!」
「ええ。見事なサーヴァントです。
ですが、私との戦闘だということを忘れていませんか?」
やばっ!
ついうっかり、アーチャーの方にばっか集中してた。
バゼットの拳が、私の眼前へと迫り──
「やめろぉおおおおおっ!」
だが確定的だったその一撃は突然、私を庇うように飛び出してきた少年によって覆された。
鈍い音が響く。骨と肉を殴る音にしちゃ、あまりにも重すぎる音だった。
少年の身体は勢いのまま宙を舞い、地面に叩きつけられる。受け身すら取れていない。
「──なっ!?」
「ちょッ!?なんで
私とバゼットは、同時に困惑の声を漏らす。
強いて二人の違いを言うなら、私の方がちょっとだけ少年を知っていたぐらいだろうか。
「──テメェ!!」
「ぐっ……」
アーチャーがこちらへ向けて銃弾を撃つ。
それは、私には当たることはなく全てバゼットに向かった。
……何気にすごいことしてるわね。
「よそ見してんなよッ!!」
「うっせえッ!!」
その隙に、ランサーが一撃を叩き込もうとするが、アーチャーはそれをバク宙をしてアッサリと回避する。
「ちぇ……
戦闘経験はそっちの方が上か」
「たりめえだ。何年エージェントやってんと思ってんだッ!!」
アーチャーはそう言いながら、自身の銃弾は届きつつ、相手の槍は届かない絶妙な距離を取ら続けている。
ランサーはその拮抗状態に嫌気が差したのか、大きく飛び退きバゼットの側へと着地した。
「おい、マスター」
「どうかしましたか?ランサー」
「悪いけど、ちょっと時間を食い過ぎたな」
そう言って、彼女は自身の胸にあった宝石を指差す。
そこにあった宝石は、最初に私が見た時より少しばかり黒ずんで見えた。
それが何を意味しているのかは分からないが、恐らく良いことでは無いのだろう。
その証拠に、ランサーは苦々しい顔で言葉を発している。
「今日のところは引くぞ。グリーフシードの数からして、これ以上は『割に合わねえ』」
「なるほど、限界ですか。
……いっそのこと、もうここで全部使っちゃいません?」
「ダメに決まってんだろ!!ほら、撤退するぞ!ここで仕留めなきゃヤバい奴でもないんだし」
「おっと、聞き捨てなんねえな。
こちとらまだ本気じゃねえんだ!後悔すんぞ!!」
「──アーチャー、行かせましょう。それより、こっち」
相手に向けて尚も噛みつこうとするアーチャーを制止して、私は足元の彼を指差す。
あの主従と戦闘を続けるのは得策じゃない。
それより、冬木の管理人として一般人を巻き込んだ責任をちゃんと取らないと。
バゼットも私の意思を察したのだろう。
先ほどまで漂わせていた、刃物のような殺意が収まっている。
「では、処理は任せますよ。
そうでなければ、我々が動くことになりますから。」
そう言って、バゼットは去っていく。
「………。」
『どうした?マスター』
「すみません、ランサー。
我々の根城、どっちでしたっけ?」
『バカ!右の方だ!この前一緒に街の下見しただろ!』
………今度こそ、そう言って、バゼットは去っていく。
*
「リン。ソイツはどんな感じだ?」
「落ち着きなさいったら。
取り敢えず、解析の魔術を使って……
良かった。取り敢えず、そんな重症じゃないわね」
あのバゼットの拳を喰らってピンピンしてるなんて、もしかしたら直前で彼女も手加減してくれたのかしら?
それとも彼が鍛えてるからなのか。
まあ、どっちにしろ不幸中の幸いという奴だ。
「コイツ、知り合いなのか?」
「ええ、同級生よ。
といっても、贔屓にしている後輩がお世話になってる同級生……なんて、知り合いと言って良いのかわかんない程度の関係なんだけどね」
アーチャーが私に向けて尋ねてくるが正直そこまで細かく話す必要があるのかは疑問なので、取り敢えず概要だけ伝えておく。
治療の為に、取り敢えず上の服を脱がして……なんでアーチャーは赤面してんのよ。
辞めなさい。こっちまで恥ずかしくなってくるから。
「お前、意外に大胆だな……」
「アンタ、意外にうぶね……」
ああ、もう!!
こんなことしてる場合じゃないってのに!!
とにかく、コイツを死なせるつもりはない。
業腹だが、幾つか小さめの宝石も使ってやろう。こうなりゃ、完璧に治療して日常生活に送り返してやるってのよ!
とっておきの宝石を使うのは……まあ、勘弁してもらおうかしら。心臓とか抉られてたんなら話は別だけど。
「ふーん…。なるほどね、ふーん……
リン、アタシはそういう目をしたやつは何人も見たことある。主に先生に対してだが。
だが、ここは別世界。アタシがとやかく言う理由もスジもねえ。
応援、しとくぜ」
「……バカなこと言ってないで、周囲の警戒をして。結界を張った術者がまだ近くにいるかもしれないでしょ」
急に親身になって肩に手を置いてくるアーチャー。
彼の治療の為に魔力が少なくなって軽くなる宝石の重さを感じながら、私は投げやりのように彼女に言葉を返していた。
ん?なんか忘れてるような……
まあ、いいわ。これで衛宮くんも回復するんだし。
こうして私達の聖杯戦争の初戦は終わった。
この後私の犯したミスに気がついて、慌てて彼を探ることになるのはまた後の話。