ジン「現在も、描いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」 作:笑嘲嗤
「現在も――描いてる途中か、だ!」
ジンは確信を持って、そう告げた。
『新大陸紀行』。
三百年以上も前に記されたという、暗黒大陸についての旅行記。
現存しているのは『東』のみ。
しかし、その著者ドン=フリークスが現在も生きていて、いまだ『西』を書き続けているのだとしたら――。
その時だった。
――♪ ♪ ♪
「…………?」
ジンの胸元から電子音が鳴った。
携帯電話だった。
ジンは一瞬、眉をひそめる。
「……俺の携帯の番号を知ってる奴なんているはずが……?」
優れたハンターであるジン=フリークスの携帯番号を、本人の許可なくハントできる者など、そうはいない。
そもそもジンは、自分から連絡するために携帯電話を持っているのであって、他人から電話を受けることをほとんど想定していない。
故に――。
ジンの携帯電話が鳴ること自体、異常事態なのである!!
ジンは警戒しながら通話ボタンを押した。
「……もしもし。ジン=フリークスだ」
『あっ! やっぱり合ってましたね、フリークスさん!』
「誰だ?」
『私、シュウA社の者なんですが』
聞き覚えのない声だった。
「……なんで俺の番号を知っている?」
『え? 普通にハンター協会に問い合わせましたよ。パリストンさんという方が教えてくれました』
「…………」
ジンはゆっくり顔を上げた。
視線の先。
少し離れた場所にいたパリストンが、にっこり笑って手を振った。
「…………」
あいつは本当に碌なことをしない。
というか、目の前にいる。
「……それで、俺に何の用だ?」
『それがですね! うちにあなたの親戚っぽい人が来て困ってるんですよ!』
「親戚?」
『はい! 毎日毎日、原稿を持ち込んでくるんです!』
「そんな馬鹿なことする親戚はいないんだが?」
『でもフリークスって名乗ってますよ!』
「……名前は?」
『ドン=フリークスさんです』
「…………」
ジンの動きが止まった。
『最初はノンフィクションだって言うから読んだんですよ。でも、どう読んでもラノベなんです!』
「…………」
『うちは純文学かノンフィクションなんですよ! 異世界転生は扱ってないんです!』
「待て」
『しかも毎日持ってくるんですよ! こっちが指摘すると書き直してくるんですけど、表現が違うだけで内容はラノベのままですし!』
「今なんて言った?」
『ですから異世界転生は扱って――』
「ちげえよ!! その前だ!!」
『え?』
ジンが立ち上がった。
「どこのフリークスだ!?」
『ですから、ドンさんですって。ドン=フリークス』
「…………」
『いやあ、最初はペンネームだと思ったんですよ。ほら、ワンピースの影響ですかね? うるせえ! ドン! みたいな』
「そいつをそこに止めておけぇ!!」
『えっ!?』
「絶対に帰すな!! 今から行く!!」
『引き取ってくれるんですね!? 助かります!』
「引き取るってなんだ!!」
『お待ちしてます!』
電話が切れた。
「…………」
ジンはしばらく携帯電話を握ったまま動かなかった。
やがて、ゆっくりパリストンを見る。
パリストンは笑顔だった。
「 」
「……お前」
「はい?」
「なんで俺の番号を出版社に教えた?」
「だってフリークスさんの親戚だというので」
「名字が同じだけだろ!!」
「でも、お知り合いかもしれないじゃないですか」
「知り合いだったら三百年以上前の人間だよ!!」
「じゃあ違いました?」
「それを今から確認しに行くんだよ!!」
ジンは走った。
先ほどまでの推論が頭の中を駆け巡る。
『新大陸紀行』。
東と西。
発見されていない西。
そして――ドン=フリークス。
現在もなお暗黒大陸にいる可能性。
「……まさか」
いや。
そんなはずはない。
しかし――。
◇ ◇ ◇
シュウA社。
応接スペースへ飛び込んだジンが最初に見たものは、大量の原稿だった。
机の上に積まれている。
分厚い。
一冊ではない。
何冊あるのかすら、一目では分からない。
そして、その原稿の山の向こう側。
一人の男が茶を飲んでいた。
男はジンを見ると、軽く手を上げた。
「お」
ジンは動けなかった。
男が立ち上がる。
「ジン=フリークス?」
「…………ああ」
「編集さんから聞いた。俺の親戚なんだって?」
「それはまだ分からねえ」
「そうなの?」
「フリークスって名字だけじゃ何とも言えねえんだよ」
「そうだな。俺の故郷じゃ結構いたし」
「…………は?」
「フリークス」
男は茶を一口飲んだ。
「日本でいう鈴木くらい」
「初耳だよ!!」
編集者が二人の間に割り込んだ。
「フリークスさん! この方です!」
「俺もフリークスだ!!」
「この方を連れて帰ってください!」
「だから犬猫みたいに言うな!!」
男が首を傾げる。
「俺、帰るところ探してる途中なんだけど」
「…………」
ジンは男を見る。
「お前」
「うん?」
「名前は?」
「ドン」
「…………」
「ドン=フリークス」
ジンは机の上を見る。
原稿の表紙に、題名が記されていた。
『新大陸紀行・西』
著者。
ドン=フリークス。
ジンは原稿を掴んだ。
「……これを書いたのか?」
「うん」
「どこで?」
「暗黒大陸」
編集者がため息をついた。
「ほら! こういうこと言うんですよ!」
「…………」
「設定は面白いんです。でも、うちは異世界ものを扱ってませんから!」
「設定じゃねえ」
「はい?」
ジンは原稿をめくった。
一ページ。
二ページ。
三ページ。
速読する。
地形。
植生。
生物。
距離。
方角。
観察記録。
知らない情報ばかりだった。
だが――。
知っている人間にしか書けない。
ジンの顔から表情が消えた。
「編集さん」
「はい?」
「これ」
ジンは原稿から目を離さなかった。
「たぶん全部実話だ。」
「…………はい?」
ドンが茶を飲む。
「だから最初からそう言ってるじゃん( ˙ω˙ )」
「…………」
編集者の顔が引きつった。
ジンはドンを見る。
「……一つ聞かせろ」
「いいぞ」
「お前、今までどこにいた?」
「暗黒大陸」
「何年間?」
ドンは少し考えた。
「三百年くらい?」
「…………」
「途中から数えるの面倒になった」
「……じゃあ」
ジンは自分がほんの少し前に口にした言葉を思い出す。
現在も。
本の著者は。
書いている途中か――。
「お前、『西』を書いてる途中だったんじゃねえのか?」
「うん」
「だった、ってことか?」
「うん」
「…………」
ドンは当然のように答えた。
「書き終わったから帰ってきたぞ( ˙ω˙ )」
「…………」
ジンは天井を仰いだ。
推理は。
完璧に当たっていた。
ただし――。
情報が数日前までのものだった。
「タイミング悪すぎんだろ……!!」
「?」
ドンは不思議そうに首を傾げた。
そして思い出したように、原稿の山から一冊を引っ張り出す。
「あ、そうだ」
「今度はなんだ」
「東編に訂正あるぞ」
「……訂正?」
「ブリオン」
ジンの目つきが変わった。
五大厄災。
謎の古代遺跡を守る、正体不明の球体。
「何が分かった?」
「兵器じゃなかった」
「……何?」
ドンはさらっと言った。
「球技の道具だった( ˙ω˙ )」
「…………は?」
「俺、間違えてた」
「ちょっと待て」
「西編では訂正しておいたぞ」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」
三百年ぶりに帰還した男によって。
この日。
ジン=フリークスの知っていた暗黒大陸は――。
帰還初日から壊れ始めた。
富、名声、力――
この世のすべてには、特に興味がなかった男。
探検家、ドン=フリークス。
彼が三百年の旅で見つけた未知は、人々を暗黒大陸へ駆り立てた。
ドン「俺の記録か? 読みたければ読めばいい。
この世の知らないことを、そこに書いてきた( ˙ω˙ )」
世はまさに――
大暗黒大陸時代!!
ジン「だから一般人を煽るなァァァ!!」