ジン「現在も、描いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」   作:笑嘲嗤

1 / 1
第1話 ジン「現在も、書いている途中か、だ!」ドン( ˙ω˙ )「西編、書き終わった」

「現在も――描いてる途中か、だ!」

ジンは確信を持って、そう告げた。

『新大陸紀行』。

三百年以上も前に記されたという、暗黒大陸についての旅行記。

現存しているのは『東』のみ。

しかし、その著者ドン=フリークスが現在も生きていて、いまだ『西』を書き続けているのだとしたら――。

その時だった。

――♪ ♪ ♪

「…………?」

ジンの胸元から電子音が鳴った。

携帯電話だった。

ジンは一瞬、眉をひそめる。

「……俺の携帯の番号を知ってる奴なんているはずが……?」

優れたハンターであるジン=フリークスの携帯番号を、本人の許可なくハントできる者など、そうはいない。

そもそもジンは、自分から連絡するために携帯電話を持っているのであって、他人から電話を受けることをほとんど想定していない。

故に――。

ジンの携帯電話が鳴ること自体、異常事態なのである!!

ジンは警戒しながら通話ボタンを押した。

「……もしもし。ジン=フリークスだ」

『あっ! やっぱり合ってましたね、フリークスさん!』

「誰だ?」

『私、シュウA社の者なんですが』

聞き覚えのない声だった。

「……なんで俺の番号を知っている?」

『え? 普通にハンター協会に問い合わせましたよ。パリストンさんという方が教えてくれました』

「…………」

ジンはゆっくり顔を上げた。

視線の先。

少し離れた場所にいたパリストンが、にっこり笑って手を振った。

「…………」

あいつは本当に碌なことをしない。

というか、目の前にいる。

「……それで、俺に何の用だ?」

『それがですね! うちにあなたの親戚っぽい人が来て困ってるんですよ!』

「親戚?」

『はい! 毎日毎日、原稿を持ち込んでくるんです!』

「そんな馬鹿なことする親戚はいないんだが?」

『でもフリークスって名乗ってますよ!』

「……名前は?」

『ドン=フリークスさんです』

「…………」

ジンの動きが止まった。

『最初はノンフィクションだって言うから読んだんですよ。でも、どう読んでもラノベなんです!』

「…………」

『うちは純文学かノンフィクションなんですよ! 異世界転生は扱ってないんです!』

「待て」

『しかも毎日持ってくるんですよ! こっちが指摘すると書き直してくるんですけど、表現が違うだけで内容はラノベのままですし!』

「今なんて言った?」

『ですから異世界転生は扱って――』

「ちげえよ!! その前だ!!」

『え?』

ジンが立ち上がった。

「どこのフリークスだ!?」

『ですから、ドンさんですって。ドン=フリークス』

「…………」

『いやあ、最初はペンネームだと思ったんですよ。ほら、ワンピースの影響ですかね? うるせえ! ドン! みたいな』

「そいつをそこに止めておけぇ!!」

『えっ!?』

「絶対に帰すな!! 今から行く!!」

『引き取ってくれるんですね!? 助かります!』

「引き取るってなんだ!!」

『お待ちしてます!』

電話が切れた。

「…………」

ジンはしばらく携帯電話を握ったまま動かなかった。

やがて、ゆっくりパリストンを見る。

パリストンは笑顔だった。

「 」

「……お前」

「はい?」

「なんで俺の番号を出版社に教えた?」

「だってフリークスさんの親戚だというので」

「名字が同じだけだろ!!」

「でも、お知り合いかもしれないじゃないですか」

「知り合いだったら三百年以上前の人間だよ!!」

「じゃあ違いました?」

「それを今から確認しに行くんだよ!!」

ジンは走った。

先ほどまでの推論が頭の中を駆け巡る。

『新大陸紀行』。

東と西。

発見されていない西。

そして――ドン=フリークス。

現在もなお暗黒大陸にいる可能性。

「……まさか」

いや。

そんなはずはない。

しかし――。

◇ ◇ ◇

シュウA社。

応接スペースへ飛び込んだジンが最初に見たものは、大量の原稿だった。

机の上に積まれている。

分厚い。

一冊ではない。

何冊あるのかすら、一目では分からない。

そして、その原稿の山の向こう側。

一人の男が茶を飲んでいた。

男はジンを見ると、軽く手を上げた。

「お」

ジンは動けなかった。

男が立ち上がる。

「ジン=フリークス?」

「…………ああ」

「編集さんから聞いた。俺の親戚なんだって?」

「それはまだ分からねえ」

「そうなの?」

「フリークスって名字だけじゃ何とも言えねえんだよ」

「そうだな。俺の故郷じゃ結構いたし」

「…………は?」

「フリークス」

男は茶を一口飲んだ。

「日本でいう鈴木くらい」

「初耳だよ!!」

編集者が二人の間に割り込んだ。

「フリークスさん! この方です!」

「俺もフリークスだ!!」

「この方を連れて帰ってください!」

「だから犬猫みたいに言うな!!」

男が首を傾げる。

「俺、帰るところ探してる途中なんだけど」

「…………」

ジンは男を見る。

「お前」

「うん?」

「名前は?」

「ドン」

「…………」

「ドン=フリークス」

ジンは机の上を見る。

原稿の表紙に、題名が記されていた。

『新大陸紀行・西』

著者。

ドン=フリークス。

ジンは原稿を掴んだ。

「……これを書いたのか?」

「うん」

「どこで?」

「暗黒大陸」

編集者がため息をついた。

「ほら! こういうこと言うんですよ!」

「…………」

「設定は面白いんです。でも、うちは異世界ものを扱ってませんから!」

「設定じゃねえ」

「はい?」

ジンは原稿をめくった。

一ページ。

二ページ。

三ページ。

速読する。

地形。

植生。

生物。

距離。

方角。

観察記録。

知らない情報ばかりだった。

だが――。

知っている人間にしか書けない。

ジンの顔から表情が消えた。

「編集さん」

「はい?」

「これ」

ジンは原稿から目を離さなかった。

「たぶん全部実話だ。」

「…………はい?」

ドンが茶を飲む。

「だから最初からそう言ってるじゃん( ˙ω˙ )」

「…………」

編集者の顔が引きつった。

ジンはドンを見る。

「……一つ聞かせろ」

「いいぞ」

「お前、今までどこにいた?」

「暗黒大陸」

「何年間?」

ドンは少し考えた。

「三百年くらい?」

「…………」

「途中から数えるの面倒になった」

「……じゃあ」

ジンは自分がほんの少し前に口にした言葉を思い出す。

現在も。

本の著者は。

書いている途中か――。

「お前、『西』を書いてる途中だったんじゃねえのか?」

「うん」

「だった、ってことか?」

「うん」

「…………」

ドンは当然のように答えた。

「書き終わったから帰ってきたぞ( ˙ω˙ )」

「…………」

ジンは天井を仰いだ。

推理は。

完璧に当たっていた。

ただし――。

情報が数日前までのものだった。

「タイミング悪すぎんだろ……!!」

「?」

ドンは不思議そうに首を傾げた。

そして思い出したように、原稿の山から一冊を引っ張り出す。

「あ、そうだ」

「今度はなんだ」

「東編に訂正あるぞ」

「……訂正?」

「ブリオン」

ジンの目つきが変わった。

五大厄災。

謎の古代遺跡を守る、正体不明の球体。

「何が分かった?」

「兵器じゃなかった」

「……何?」

ドンはさらっと言った。

「球技の道具だった( ˙ω˙ )」

「…………は?」

「俺、間違えてた」

「ちょっと待て」

「西編では訂正しておいたぞ」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」

三百年ぶりに帰還した男によって。

この日。

ジン=フリークスの知っていた暗黒大陸は――。

帰還初日から壊れ始めた。




富、名声、力――
この世のすべてには、特に興味がなかった男。
探検家、ドン=フリークス。
彼が三百年の旅で見つけた未知は、人々を暗黒大陸へ駆り立てた。
ドン「俺の記録か? 読みたければ読めばいい。
 この世の知らないことを、そこに書いてきた( ˙ω˙ )」
世はまさに――
大暗黒大陸時代!!
ジン「だから一般人を煽るなァァァ!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。