ジン「現在も、書いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」   作:笑嘲嗤

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第12話 ドン「癖になってんだ。音出さずゴミ拾うの、っていう奴と働いてた」ジン「息子の親友っぽいやつだなぁ」

戦争が終わった。

 めでたいことである。

 少なくとも、もう明日の朝まで生きているかを心配しながら眠らなくていい。

 問題が一つだけあった。

「仕事がない( ˙ω˙ )」

「ないな」

 ドンの隣で、親友が答えた。

 二人とも復員したばかりだった。

 正確には病院から放り出され、軍からも放り出され、自由になった。

 自由にはなった。

 金はなかった。

「平和って金かかるんだな」

「戦争中も金はかかったよ」

「じゃあずっと金かかるじゃん」

「今気づいたのか?」

 そんな二人が流れ着いたのが、流星街だった。

 街の中ではない。

 外苑。

 大量の廃棄物が積み上げられた、そのさらに外側。

 住民でもない。

 仲間でもない。

 かといって敵でもない。

 勝手に捨てられたものを拾い、住民のものには触れない。

 街の中にも勝手に入らない。

 そんな距離を守っているうちに、向こうも二人を放っておくようになった。

 そして。

「我が社へようこそ( ˙ω˙ )」

「…………」

「…………」

「…………」

 ドンが両手を広げた。

 背後にあるのは段ボールだった。

 段ボールの壁。

 段ボールの屋根。

 拾ってきた板で補強された段ボール。

 入口には木炭で文字が書かれている。

『資源回収株式会社(仮)』

「会社?」

 銀髪の青年が聞いた。

「会社( ˙ω˙ )」

「これが?」

「本社」

「段ボールだぞ」

「本社だぞ」

「雨降ったら?」

「休み」

「会社じゃねえよ」

 親友が頭を抱えた。

 新しく加わった二人も復員兵だった。

 仕事がなかった。

 金もなかった。

 そのうち一人。

 ネテロという姓を持つ男は、武術をやっていた。

「腕には自信がある」

「何ができる?( ˙ω˙ )」

「手刀」

「いらない」

「即答するな」

「ゴミ拾いに手刀いらないだろ」

「重いものも持てる」

「採用( ˙ω˙ )」

「基準そこなのか?」

 もう一人は銀髪だった。

 細身で、端正な顔立ちをしている。

 猫を思わせる目。

 後世、その血を引く一族を知る者が見れば、どこか見覚えを感じたかもしれない。

「得意なことは?( ˙ω˙ )」

「…………特にない」

「重いもの持てる?」

「まあ」

「採用」

「だから採用が軽いんだよ!!」

     ◇

 事業内容は単純だった。

 ゴミを拾う。

 分ける。

 使えるものを直す。

 金属は売る。

 布も売る。

 瓶も売る。

 銅は高く売れた。

 これがよくなかった。

「あった!!( ˙ω˙ )」

 ドンが廃材の奥へ手を伸ばす。

 銅線。

 その瞬間。

 すっ。

「…………あれ?」

 消えた。

 さっきまでそこにあった銅線がない。

 振り向く。

 十メートルほど先に銀髪の青年がいた。

 その手には銅線。

「お前!!」

「俺が拾った」

「俺が先に見つけた!」

「拾ったのは俺だ」

「返せ!」

「嫌だ」

 翌日。

 ドンは気づいた。

 青年が歩く音がしない。

「なんで?( ˙ω˙ )」

「何が」

「足音」

「お前がうるさすぎる」

「普通だぞ」

「瓶を踏む。缶を蹴る。廃材を動かす。お前が来れば音で分かる」

「なるほど」

「…………」

「じゃあ俺も音出さなきゃいいのか( ˙ω˙ )」

「待て」

 それから競争になった。

 ガラスを踏まない。

 缶を蹴らない。

 砂利を鳴らさない。

 体重移動を最小限にする。

 ゴミ山の不安定な足場を、銀髪の青年は日に日に音もなく進むようになった。

 親友はある日、とうとう聞いた。

「お前さ」

「何だ」

「なんでゴミ拾いにそこまで足捌き極めてんの?」

 銀髪の青年は鼻で笑った。

「決まってる」

 そして、少しだけ得意げに言った。

「癖になってんだ」

「何が?」

「音出さずにゴミ拾うの」

「そんな癖捨てろ!!」

     ◇

 事件が起きたのは、その日の夜だった。

「ひぇっ!?」

 男の声がした。

 全員が飛び起きた。

「敵!?」

「襲撃か!?」

「どこ!?( ˙ω˙ )」

 段ボール本社の隅。

 ネテロが立っていた。

 動かない。

 顔だけが険しい。

「……いた」

「何が?」

 指差す。

 黒いものが走った。

「ゴキブリだ( ˙ω˙ )」

「…………」

「…………」

「…………」

 銀髪の青年がネテロを見る。

「今の声、お前か?」

「違う」

「お前以外いないぞ」

「違う」

「『ひぇっ!?』って」

「言ってない」

「言ったぞ( ˙ω˙ )」

「言ってない」

 ネテロは無言で作業用のゴム手袋を装着した。

 さらに。

 その上からビニール袋を被せた。

「…………」

 ドンが首を傾げる。

「そこまでする?」

「汚いじゃろ」

「そこは普通なんだな( ˙ω˙ )」

 ゴキブリが走った。

 ネテロが消えた。

 パァン!!

 手刀が床へ突き刺さる。

 沈黙。

「…………」

「…………」

「…………」

 ネテロがゆっくり手を上げた。

 一撃だった。

「すごい( ˙ω˙ )」

「床は?」

 親友が聞いた。

「加減した」

「ゴキブリじゃなくて床の心配かよ」

 銀髪の青年が鼻を鳴らした。

「無駄が多い」

「じゃあ次はお前やってよ( ˙ω˙ )」

「嫌だ」

「なんで?」

「触りたくない」

「同じじゃん」

「殺すことと触ることは別だ」

「お前たまに怖いこと言うな( ˙ω˙ )」

     ◇

 その夜。

 親友は目を覚ました。

 段ボールの壁の向こうから音がする。

 規則正しい。

 風でもない。

 何かを振る音。

 外を見る。

 ネテロがいた。

 月明かりの下。

 ただ一人。

 手刀を振り下ろしていた。

 一度。

 また一度。

 何度も。

 何度も。

 ゴキブリはいない。

 敵もいない。

 ただ、何かに感謝するように。

 祈るように。

 手刀を振り下ろしていた。

「…………」

 親友はしばらく眺めた。

 そして。

「……あいつ、昼間ゴキブリ見て『ひぇっ!?』って言ってたんだよな」

 その事実だけは墓場まで持っていこうと思った。

     ◇

 会社は少しずつ大きくなった。

 最初は四人だった。

 本社は段ボールだった。

 雨の日は休業した。

 主力商品は拾った銅線だった。

 けれど。

 拾うだけだった仕事に、分別が加わった。

 修理が加わった。

 再販売が加わった。

 運搬が加わった。

 仕事を頼む者が増えた。

 働く者も増えた。

 それでも四人は、流星街の住民にはならなかった。

 流星街もまた、四人を仲間とは呼ばなかった。

 ただ。

 敵でもなかった。

 互いの境界を越えない。

 必要な時には取引する。

 それだけだった。

 やがて親友は言った。

「この事業、流星街に渡そう」

「なんで?( ˙ω˙ )」

「ここで出るものを、ここで働く奴らが回収して、ここで金に変える仕事だ」

「うん」

「だったら、俺たちがずっと持ってる理由がない」

「タダであげる?」

「それは駄目だ」

「なんで?」

「商売だからだ」

 事業は売った。

 対価を受け取った。

 その金を元手に、四人が始めた会社は外の世界へ出た。

 資源回収から物流へ。

 物流から調達へ。

 倉庫。

 貿易。

 製造者と販売者を繋ぎ。

 必要なものを、必要な場所へ届ける。

 やがて会社は、世界のどこかで何かが必要になれば、それを探し、買い、運ぶ商社へと変わっていった。

 その頃には。

 ネテロは自分の道へ進み。

 銀髪の青年も去っていた。

 親友は会社に残った。

 そしてドンは。

「じゃ、ちょっと世界見てくる( ˙ω˙ )」

「仕事は!?」

「してるぞ。調査」

「誰に頼まれた!?」

「俺」

「それを仕事とは言わねえ!!」

 最低限の金だけ受け取って。

 世界中を歩き始めた。

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