ジン「現在も、書いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」   作:笑嘲嗤

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第13話 ジン「やっとドンの書いたメモ読み終わった」ドン「まだいっぱいあるぞ」ジン「(´;ω;`)」

「…………終わった」

 ジンが最後の野帳を閉じた。

 机の上には、読み終えた野帳が積み上がっている。

 植物。

 動物。

 気候。

 遺跡。

 人間。

 五大厄災。

 そして、ドン自身の過去。

 これだけでも研究者が一生を費やせる情報量だった。

「これで全部か」

「何が?( ˙ω˙ )」

「野帳だよ」

「ああ」

 ドンが頷く。

「ここにあるのは全部だぞ」

「そうか」

 ジンは大きく息を吐いた。

 ようやく終わった。

「まだあるけど」

「…………」

「ん?」

「今なんつった?」

「まだあるぞ( ˙ω˙ )」

「…………何冊?」

「知らない」

「知らない?」

「数えたことないから」

「どこにある」

「シェルター」

「シェルター?」

「帰ってきてから『西』を書くために、そこに行って読んでた」

「…………待て」

 ジンの表情が変わった。

「お前が持ってきた野帳を読んで『西』を書いたんじゃないのか?」

「違うぞ」

「じゃあこれは?」

「最近使ったやつとか、持って帰ってきたやつ」

「三百年分は?」

「シェルター」

「…………」

「見る?( ˙ω˙ )」

「今すぐ連れてけ」

     ◇

「ここ」

「…………」

 ジンは巨大な扉を見上げた。

「なんで旅行記の保管場所が地下シェルターなんだよ」

「俺が作ったんじゃないぞ」

「じゃあ誰が」

「昔の友達の会社」

「…………」

「野帳送ってくれてたところ」

 扉が開いた。

 照明が点いた。

 ジンは。

 何も言わなかった。

 言えなかった。

 棚。

 棚。

 棚。

 棚。

 その向こうにも棚。

 温度と湿度を管理された空間に、同じ規格の保存箱が並んでいる。

 箱には年代。

 地域。

 回収番号。

 管理番号。

「…………」

「いっぱいあるだろ( ˙ω˙ )」

「いっぱいで済ませるな」

 ジンが近くの箱を開いた。

 野帳。

 次の箱。

 野帳。

 その次も。

 野帳。

「お前」

「うん」

「これ全部」

「俺が書いた」

「…………」

「三百年分( ˙ω˙ )」

「なんで数えてねえんだよ!!」

「書く方が大事だったから」

 ジンは一冊を抜いた。

 開く。

『でかい鳥。昨日のとは違う。たぶん渡り。』

 数ページ後。

『違った。渡りじゃないかも。』

 さらに後。

『やっぱり渡りかもしれない。』

 別の年代の野帳を探す。

『二十七年後追記。渡りだった。( ˙ω˙ )』

「…………」

「どうした?」

「最高だ」

「鳥が?」

「記録がだよ!!」

 ジンの目が変わった。

「最初の観測がある。仮説がある。間違いがある。訂正がある。再観測がある。しかも年代が残ってる」

「そうだな」

「場所は?」

「だいたい書いてある」

「天気」

「書いてる」

「季節」

「書いてる」

「周囲の生物」

「気になったら」

「人間に会った記録は?」

「あるぞ」

「全部?」

「たぶん」

「遺跡」

「ある」

「病気」

「ある」

「食ったもの」

「いっぱいある( ˙ω˙ )」

「そこは少し減らせ!!」

 ジンは周囲を見渡した。

 もはや旅行記ではない。

 一人の人間が三百年間、同じ世界を歩き続けた。

 その観測記録。

 同じ土地を何十年後かに再訪した記録さえある。

 世界中の研究者が欲しがる。

 いや。

 欲しがるなんてものではない。

「ドン」

「ん?」

「この野帳、俺に預けろ」

「嫌だぞ」

「持ち出さねえよ」

「じゃあ何するの?」

「全部データ化する」

「全部?」

「全ページだ」

「大変じゃない?( ˙ω˙ )」

「だから人を集める」

     ◇

「トリプル?」

「申請する」

「ジンが?」

「ああ」

「なんで?」

「権限が足りねえ」

 ドンは首を傾げた。

「今でも偉いんじゃないの?」

「これを扱うには足りねえんだよ」

 生物学者がいる。

 植物学者がいる。

 地質学者がいる。

 気象学者がいる。

 医者がいる。

 感染症の専門家がいる。

 考古学者。

 言語学者。

 人類学者。

 統計学者。

 情報科学者。

 念能力の研究者。

「全部いる」

「そんなに?( ˙ω˙ )」

「三百年分だぞ」

「俺一人で書いたぞ」

「読む方は一人じゃ無理なんだよ!!」

「ジンならできると思ってた」

「俺を何だと思ってやがる!!」

     ◇

 申請は通った。

 ジン=フリークス。

 トリプルハンター。

 本人は称号を手に入れたその日のうちに、称号そのものへの興味を失った。

 欲しかったのは、その先だった。

 研究機関との連携。

 予算。

 人員。

 保存設備。

 情報へのアクセス権。

 そして。

 三百年分の記録を、人類が読める形へ変換するための巨大な研究計画。

「計画名は?」

「暗黒大陸長期観測記録統合解析計画」

「長いな」

「正式名称だからな」

「暗黒大陸ビッグデータプロジェクトでよくない?( ˙ω˙ )」

「…………」

「だめ?」

「……通称はそれでいい」

     ◇

 シェルターが騒がしくなった。

 ただし原本には、可能な限り触れない。

 全ページを撮影する。

 文字をデータ化する。

 年代を付ける。

 位置を整理する。

 記述された生物を分類する。

 気象記録を抽出する。

 病気を抽出する。

 遺跡を抽出する。

 人間との遭遇記録を抽出する。

 そして、決してやってはいけないことをジンは最初に決めた。

「ドンの間違いを消すな」

「しかし、明らかな誤認もあります」

「だから残すんだよ」

「?」

「最初に何を見て、どう考えて、何年後に何を見て、どう訂正したか。それ自体がデータだ」

 原文。

 構造化された観測データ。

 後日の訂正。

 現在の確度。

 専門家による注釈。

 全部を分けて残す。

「勝手に綺麗なデータにするな。三百年間の観測過程そのものを保存しろ」

     ◇

「バックアップは?」

「三つ用意しました」

「足りねえ」

「……では五つ」

「国も分けろ」

「そこまで必要ですか?」

 ジンがシェルターを見る。

「これ一個燃えたら」

 研究者たちが振り返った。

「人類が三百年分の観測結果を、もう一回取りに行くことになるんだぞ」

「…………」

「俺は嫌だ」

     ◇

 解析が始まった。

 そして。

 ドン自身さえ知らなかった暗黒大陸が、少しずつ姿を現し始めた。

「フリークスさん!」

「どっち?( ˙ω˙ )」

「ドンさんです!」

「なに?」

「この生物、約七十年周期で生息域を移動している可能性があります!」

「へえー!」

「あなたの記録ですよ!?」

 別の研究者が走ってくる。

「この植物の開花周期、百年以上あります!」

「そうだったの?( ˙ω˙ )」

「あなたが三回観測してるんです!!」

「全然気づかなかった」

「なんで!?」

 ジンが笑った。

「当たり前だ。一人の頭で三百年分を同時に比較できるわけねえだろ」

 ドンは世界を歩いた。

 点を残した。

 ひたすら。

 何万、何十万という点を。

 そして今。

 別の人間たちが。

 その点を繋ぎ始めた。

 ジンが巨大な地図を広げる。

「ドン」

「ん?」

「お前が三百年かけて集めた点を」

 一本の線を引く。

「俺たちは、線にしてんだよ」

「…………」

 ドンは地図を眺めた。

 やがて。

 笑った。

「面白いな( ˙ω˙ )」

「ああ」

「じゃあ俺、またデータ取ってくる」

「最高の研究員だなお前」

「旅行者だぞ」

「どっちでもいい」

「よくないぞ」

 ジンは次の野帳を開いた。

 まだ。

 始まったばかりだった。

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