ジン「現在も、書いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」   作:笑嘲嗤

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番外編④ ドン「水見式したら出汁の味がして水が溢れて葉っぱが上下に揺れてカルキが結晶化してブルーハワイの色になった」

暗黒大陸長期観測記録統合解析計画。

 通称、ビッグデータ。

 その作業中、ジンはふと気づいた。

「そういや、あんたの念って何だ?」

 向かいで三百年前の野帳を読んでいたドンが顔を上げた。

「念?( ˙ω˙ )」

「ああ。能力。三百年も向こうにいたんだ。生存に特化した何か持ってんだろ」

「あー」

 ドンは納得したように頷いた。

「これだ!( ˙ω˙ )」

 ぶわっ。

 オーラが出た。

「…………」

「…………」

 ジンは待った。

 ドンも待った。

「……それだけ?」

「うん」

「ただオーラ出しただけじゃねえか」

「便利だぞ?」

「何が?」

「暑いと涼しい」

「……は?」

「寒いと暖かい」

「待て」

「あと怪獣に踏まれそうな時は硬い」

「待て待て待て」

 ジンが立ち上がった。

「お前、それどうやってんだ?」

「どうって?」

「オーラの性質変えてんのか? 温度を変化させてる? それとも肉体を強化して――」

「知らない( ˙ω˙ )」

「知らない!?」

「こう、暑い時は涼しくなれーって」

「…………」

「寒い時は暖かくなれーって」

「…………」

「踏まれそうになったら硬くなれーって」

「お前、三百年間その理解で念使ってたの!?」

「三百年間ずっとじゃないぞ」

「あ、そうなのか」

「もっと後」

「そういう問題じゃねえ!」

     ◇

「そもそもお前、念をいつ知った?」

「結構あとだな」

「習った相手は?」

「いない」

「じゃあ誰に念を教えてもらったんだよ」

「読者」

「…………読者?」

「うん」

 ドンは懐かしそうに天井を見た。

「昔、カキンの王子に会ったことがあってな」

「……おい」

「後ろに変なのがいたんだよ」

 ジンの顔から表情が消えた。

「どんなのだ」

「動物みたいなんだけど、動物じゃなくて。王子について回ってた」

「……王子本人には?」

「見えてなかった」

「…………」

「俺には見えたから、霊感に目覚めたと思った( ˙ω˙ )」

「なんでだよ!?」

「他の人に見えないものが見えたら霊だと思うだろ」

「思わねえよ! いや場合によっては思うけど!」

「だから『東』にも書いた」

「書いたの!?」

「『カキンで霊を見た』って」

「…………」

「そしたら本を出した後、読者から手紙が来た」

 ドンは記憶を辿る。

「『ドン先生がご覧になったものは、おそらく念能力に由来するものと思われます』って」

「妙に丁寧だな」

「念っていう生命エネルギーがあって、それが見える人間もいるって。簡単な説明まで書いてくれてた」

「それで?」

「へーって思った( ˙ω˙ )」

「終わり!?」

「返事も書いたぞ」

「なんて?」

「『教えてくれてありがとう。霊じゃなかったんですね』」

「そこじゃねえよ!!」

 ジンは頭を抱えた。

 三百年以上前。

 念の存在すら知らない男が、カキン王族に付随する念獣らしきものを目撃した。

 本人はそれを霊だと思った。

 旅行記に書いた。

 読者が訂正した。

 そして本人は、

「それから念って呼ぶようになった( ˙ω˙ )」

「理解は!?」

「便利なやつ」

「三百年近く何も進歩してねえ!!」

     ◇

「六性図は?」

「なにそれ?」

「水見式」

「知らない」

「纏」

「?」

「絶」

「?」

「練」

「?」

「発」

「?」

「お前もう喋んな!!」

「聞いたのジンだろ( ˙ω˙ )」

 ジンはコップを用意した。

 水を満たし、葉を一枚浮かべる。

「いいか。これは水見式っていう念能力者の系統を調べる方法だ」

「へえ」

「オーラを出せ」

「さっきのでいい?」

「そうだ。余計なことすんなよ。いつも通りでいい」

「分かった( ˙ω˙ )」

 ドンが手をかざす。

 オーラが膨らんだ。

 水面が盛り上がった。

「……水量が増えた」

「おお」

「強化系か」

 ジンが呟いた、その直後だった。

「ん?」

 ドンがコップを覗く。

「なんだ」

「白いの出てきた」

「は?」

 水の中に、微細な白い不純物が浮かんでいた。

 ジンの眉が寄る。

「……具現化?」

「カルキかな( ˙ω˙ )」

「知らねえよ。つーかなんでカルキを具現化すんだよ」

 ドンが指先で水を掬った。

 舐める。

「しょっぱい」

「飲むな!」

「さっきよりしょっぱいぞ」

「味が変わった……変化系か?」

「あ」

「今度はなんだ!?」

「だしみたいな味になった」

「なんの!?」

「分からない。魚じゃないと思う」

「そういう食レポ求めてねえんだよ!!」

 ぽよん。

 葉が動いた。

「…………」

 ぽよん。

「…………」

 ぽよん。

 葉っぱが一定の間隔で上下運動を始めた。

「楽しそうだな( ˙ω˙ )」

「操作系まで出てきたぞ!?」

「これ俺がやってるの?」

「お前以外に誰がいるんだよ!!」

「すごいな、念」

「他人事みたいに言うな!!」

 そして。

 水が青くなった。

「…………」

 鮮やかな青だった。

 透明感のある、南国の海のような青。

 ドンの顔が明るくなる。

「ブルーハワイだ( ˙ω˙ )」

「…………」

「俺、かき氷はブルーハワイが好きなんだ」

「聞いてねえよ!!」

 水量は増えている。

 謎の白い不純物が浮いている。

 しょっぱい。

 途中からだし味。

 葉っぱが上下運動している。

 そしてブルーハワイ色。

 ジンは六性図を見た。

 コップを見た。

 ドンを見た。

 もう一度、コップを見た。

「……特質系?」

「俺に聞くなよ( ˙ω˙ )」

「だよな。お前、念知らねえもんな……」

「読者に教えてもらったぞ」

「知識の出典がファンレターの奴に聞いた俺が馬鹿だった」

     ◇

 ジンは実験を続けた。

「もう一回だ」

「いいぞ」

「今度は何も考えるな」

「分かった」

「本当に何も考えるなよ」

「うん」

 ドンがオーラを出した。

 水が少し増えた。

 葉が横に移動した。

 味は甘くなった。

「…………」

「美味しくなったぞ( ˙ω˙ )」

「何考えた?」

「何も」

「嘘つけ」

「ちょっと蜂蜜のこと考えた」

「考えてんじゃねえか!!」

「何も考えないって難しいな」

「じゃあ今度は暑い日のやつをやれ」

「暑い日の?」

「涼しくするやつ」

「分かった」

 オーラが変わる。

 ジンの目が細くなった。

「……さっきと質が違う」

「涼しいだろ?」

「次。怪獣に踏まれる時」

「怪獣いないぞ?」

「想像しろ!」

「んー」

 ドンは少し考えた。

「でっかいのが来た( ˙ω˙ )」

「想像だよな!?」

「うん」

 オーラが一気に重くなる。

「……おい」

「これ」

「出力上げすぎだ!」

「踏まれるから」

「今は踏まれねえよ!」

「でも踏まれる時はこれくらいいるぞ」

「何に踏まれたんだよ!?」

「色々」

「暗黒大陸を教材にして念覚えんな!!」

「覚えてないぞ?」

「…………」

「なんとなくやってただけ( ˙ω˙ )」

 その一言で、ジンが止まった。

「……待て」

「?」

「お前、修行したことあるか?」

「何の?」

「念の」

「ない」

「一度も?」

「ない」

「三百年近く?」

「旅行してたからな」

「じゃあこのオーラ量なんなんだよ!?」

「知らない」

「毎日練を何時間とか」

「してない」

「瞑想」

「寝る方が好き」

「極限修行」

「怪獣には踏まれた」

「それは事故だ!!」

 ジンはしばらく黙った。

 そして最悪の可能性に思い至った。

「……お前、単純に長生きしてる間に増えただけじゃねえだろうな」

「何が?」

「オーラだよ」

「そうなの?( ˙ω˙ )」

「俺が聞きてえよ!!」

     ◇

「発は?」

「はつ?」

「固有の能力だ」

「そんなの作れるの?」

「…………」

「へえー」

「お前、今ちょっとワクワクしただろ」

「個性出せるの?( ˙ω˙ )」

「まあ……そういう言い方もできる」

「んー」

 ドンは腕を組んだ。

 考える。

「んーんん?」

「…………」

「何がいいかな?」

「人に聞いてる時点で素質ないよ!!」

「えっ」

「念の素質マジでない!!」

「さっきオーラ多いって言ってたじゃん」

「オーラの話じゃねえ! 発想が念能力者じゃねえんだよ!!」

「じゃあジンが考えてよ」

「だからそういうもんじゃねえ!!」

 ドンはしばらく悩んだ。

 そして、ぽんと手を打った。

「あ」

「なんだ」

「ゴキブリが近づけなくなる能力」

「…………」

「欲しい( ˙ω˙ )」

「三百年生きた人間が初めて考えた固有能力がそれかよ……」

「便利だぞ?」

「円で探せ」

「円?」

「……知らねえの?」

「知らない」

「周囲にオーラを広げて、範囲内のものを感知する技術だ」

「へえ」

 ドンは試しにオーラを広げた。

 ジンの顔が引きつる。

「……できてんじゃねえか」

「これか( ˙ω˙ )」

「やったことあるだろ?」

「夜にゴキブリがどこにいるか分からないと怖いから、周りにオーラ広げて探してた」

「それを円っていうんだよ!!」

「便利だよね」

「そうだよ!!」

「でも欠点がある」

「なんだ」

「壁の向こうにゴキブリがいるのまで分かる」

「…………」

「余計怖くなる( ˙ω˙ )」

「じゃあ何のために覚えたんだよ!!」

 ドンは水見式のコップを持ち上げた。

 青い。

 水量が増えている。

 白い何かが浮いている。

 葉っぱはいまだに、ぽよん、ぽよんと上下していた。

 一口飲む。

「まずいブルーハワイだな( ˙ω˙ )」

「だから飲むな!!」

「でも念って便利だぞ」

「何がだよ」

「夏は涼しい」

「…………」

「冬は暖かい」

「…………」

「踏まれても痛くない」

「…………」

「ゴキブリも見つけられる」

 ジンは顔を覆った。

「……あんた、三百年も念使って、それしか感想ねえの?」

「うん」

「もっとこう……強さとか、極致とか、自分だけの能力とか……」

「別に強くなりたくないしな( ˙ω˙ )」

「…………」

「旅行できればいい」

 ジンは黙った。

 ほんの少しだけ、納得しかけた。

 その瞬間。

「あ、ブルーハワイ食べたくなってきた」

「台無しだよ!!」

「買いに行こうぜ( ˙ω˙ )」

「水見式終わってねえよ!!」

「まだやるの?」

「むしろ何一つ分かってねえんだよ!!」

 コップの中で、葉っぱだけが楽しそうに上下していた。

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