ジン「現在も、書いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」 作:笑嘲嗤
暗黒大陸長期観測記録統合解析計画。
通称、ビッグデータ。
その作業中、ジンはふと気づいた。
「そういや、あんたの念って何だ?」
向かいで三百年前の野帳を読んでいたドンが顔を上げた。
「念?( ˙ω˙ )」
「ああ。能力。三百年も向こうにいたんだ。生存に特化した何か持ってんだろ」
「あー」
ドンは納得したように頷いた。
「これだ!( ˙ω˙ )」
ぶわっ。
オーラが出た。
「…………」
「…………」
ジンは待った。
ドンも待った。
「……それだけ?」
「うん」
「ただオーラ出しただけじゃねえか」
「便利だぞ?」
「何が?」
「暑いと涼しい」
「……は?」
「寒いと暖かい」
「待て」
「あと怪獣に踏まれそうな時は硬い」
「待て待て待て」
ジンが立ち上がった。
「お前、それどうやってんだ?」
「どうって?」
「オーラの性質変えてんのか? 温度を変化させてる? それとも肉体を強化して――」
「知らない( ˙ω˙ )」
「知らない!?」
「こう、暑い時は涼しくなれーって」
「…………」
「寒い時は暖かくなれーって」
「…………」
「踏まれそうになったら硬くなれーって」
「お前、三百年間その理解で念使ってたの!?」
「三百年間ずっとじゃないぞ」
「あ、そうなのか」
「もっと後」
「そういう問題じゃねえ!」
◇
「そもそもお前、念をいつ知った?」
「結構あとだな」
「習った相手は?」
「いない」
「じゃあ誰に念を教えてもらったんだよ」
「読者」
「…………読者?」
「うん」
ドンは懐かしそうに天井を見た。
「昔、カキンの王子に会ったことがあってな」
「……おい」
「後ろに変なのがいたんだよ」
ジンの顔から表情が消えた。
「どんなのだ」
「動物みたいなんだけど、動物じゃなくて。王子について回ってた」
「……王子本人には?」
「見えてなかった」
「…………」
「俺には見えたから、霊感に目覚めたと思った( ˙ω˙ )」
「なんでだよ!?」
「他の人に見えないものが見えたら霊だと思うだろ」
「思わねえよ! いや場合によっては思うけど!」
「だから『東』にも書いた」
「書いたの!?」
「『カキンで霊を見た』って」
「…………」
「そしたら本を出した後、読者から手紙が来た」
ドンは記憶を辿る。
「『ドン先生がご覧になったものは、おそらく念能力に由来するものと思われます』って」
「妙に丁寧だな」
「念っていう生命エネルギーがあって、それが見える人間もいるって。簡単な説明まで書いてくれてた」
「それで?」
「へーって思った( ˙ω˙ )」
「終わり!?」
「返事も書いたぞ」
「なんて?」
「『教えてくれてありがとう。霊じゃなかったんですね』」
「そこじゃねえよ!!」
ジンは頭を抱えた。
三百年以上前。
念の存在すら知らない男が、カキン王族に付随する念獣らしきものを目撃した。
本人はそれを霊だと思った。
旅行記に書いた。
読者が訂正した。
そして本人は、
「それから念って呼ぶようになった( ˙ω˙ )」
「理解は!?」
「便利なやつ」
「三百年近く何も進歩してねえ!!」
◇
「六性図は?」
「なにそれ?」
「水見式」
「知らない」
「纏」
「?」
「絶」
「?」
「練」
「?」
「発」
「?」
「お前もう喋んな!!」
「聞いたのジンだろ( ˙ω˙ )」
ジンはコップを用意した。
水を満たし、葉を一枚浮かべる。
「いいか。これは水見式っていう念能力者の系統を調べる方法だ」
「へえ」
「オーラを出せ」
「さっきのでいい?」
「そうだ。余計なことすんなよ。いつも通りでいい」
「分かった( ˙ω˙ )」
ドンが手をかざす。
オーラが膨らんだ。
水面が盛り上がった。
「……水量が増えた」
「おお」
「強化系か」
ジンが呟いた、その直後だった。
「ん?」
ドンがコップを覗く。
「なんだ」
「白いの出てきた」
「は?」
水の中に、微細な白い不純物が浮かんでいた。
ジンの眉が寄る。
「……具現化?」
「カルキかな( ˙ω˙ )」
「知らねえよ。つーかなんでカルキを具現化すんだよ」
ドンが指先で水を掬った。
舐める。
「しょっぱい」
「飲むな!」
「さっきよりしょっぱいぞ」
「味が変わった……変化系か?」
「あ」
「今度はなんだ!?」
「だしみたいな味になった」
「なんの!?」
「分からない。魚じゃないと思う」
「そういう食レポ求めてねえんだよ!!」
ぽよん。
葉が動いた。
「…………」
ぽよん。
「…………」
ぽよん。
葉っぱが一定の間隔で上下運動を始めた。
「楽しそうだな( ˙ω˙ )」
「操作系まで出てきたぞ!?」
「これ俺がやってるの?」
「お前以外に誰がいるんだよ!!」
「すごいな、念」
「他人事みたいに言うな!!」
そして。
水が青くなった。
「…………」
鮮やかな青だった。
透明感のある、南国の海のような青。
ドンの顔が明るくなる。
「ブルーハワイだ( ˙ω˙ )」
「…………」
「俺、かき氷はブルーハワイが好きなんだ」
「聞いてねえよ!!」
水量は増えている。
謎の白い不純物が浮いている。
しょっぱい。
途中からだし味。
葉っぱが上下運動している。
そしてブルーハワイ色。
ジンは六性図を見た。
コップを見た。
ドンを見た。
もう一度、コップを見た。
「……特質系?」
「俺に聞くなよ( ˙ω˙ )」
「だよな。お前、念知らねえもんな……」
「読者に教えてもらったぞ」
「知識の出典がファンレターの奴に聞いた俺が馬鹿だった」
◇
ジンは実験を続けた。
「もう一回だ」
「いいぞ」
「今度は何も考えるな」
「分かった」
「本当に何も考えるなよ」
「うん」
ドンがオーラを出した。
水が少し増えた。
葉が横に移動した。
味は甘くなった。
「…………」
「美味しくなったぞ( ˙ω˙ )」
「何考えた?」
「何も」
「嘘つけ」
「ちょっと蜂蜜のこと考えた」
「考えてんじゃねえか!!」
「何も考えないって難しいな」
「じゃあ今度は暑い日のやつをやれ」
「暑い日の?」
「涼しくするやつ」
「分かった」
オーラが変わる。
ジンの目が細くなった。
「……さっきと質が違う」
「涼しいだろ?」
「次。怪獣に踏まれる時」
「怪獣いないぞ?」
「想像しろ!」
「んー」
ドンは少し考えた。
「でっかいのが来た( ˙ω˙ )」
「想像だよな!?」
「うん」
オーラが一気に重くなる。
「……おい」
「これ」
「出力上げすぎだ!」
「踏まれるから」
「今は踏まれねえよ!」
「でも踏まれる時はこれくらいいるぞ」
「何に踏まれたんだよ!?」
「色々」
「暗黒大陸を教材にして念覚えんな!!」
「覚えてないぞ?」
「…………」
「なんとなくやってただけ( ˙ω˙ )」
その一言で、ジンが止まった。
「……待て」
「?」
「お前、修行したことあるか?」
「何の?」
「念の」
「ない」
「一度も?」
「ない」
「三百年近く?」
「旅行してたからな」
「じゃあこのオーラ量なんなんだよ!?」
「知らない」
「毎日練を何時間とか」
「してない」
「瞑想」
「寝る方が好き」
「極限修行」
「怪獣には踏まれた」
「それは事故だ!!」
ジンはしばらく黙った。
そして最悪の可能性に思い至った。
「……お前、単純に長生きしてる間に増えただけじゃねえだろうな」
「何が?」
「オーラだよ」
「そうなの?( ˙ω˙ )」
「俺が聞きてえよ!!」
◇
「発は?」
「はつ?」
「固有の能力だ」
「そんなの作れるの?」
「…………」
「へえー」
「お前、今ちょっとワクワクしただろ」
「個性出せるの?( ˙ω˙ )」
「まあ……そういう言い方もできる」
「んー」
ドンは腕を組んだ。
考える。
「んーんん?」
「…………」
「何がいいかな?」
「人に聞いてる時点で素質ないよ!!」
「えっ」
「念の素質マジでない!!」
「さっきオーラ多いって言ってたじゃん」
「オーラの話じゃねえ! 発想が念能力者じゃねえんだよ!!」
「じゃあジンが考えてよ」
「だからそういうもんじゃねえ!!」
ドンはしばらく悩んだ。
そして、ぽんと手を打った。
「あ」
「なんだ」
「ゴキブリが近づけなくなる能力」
「…………」
「欲しい( ˙ω˙ )」
「三百年生きた人間が初めて考えた固有能力がそれかよ……」
「便利だぞ?」
「円で探せ」
「円?」
「……知らねえの?」
「知らない」
「周囲にオーラを広げて、範囲内のものを感知する技術だ」
「へえ」
ドンは試しにオーラを広げた。
ジンの顔が引きつる。
「……できてんじゃねえか」
「これか( ˙ω˙ )」
「やったことあるだろ?」
「夜にゴキブリがどこにいるか分からないと怖いから、周りにオーラ広げて探してた」
「それを円っていうんだよ!!」
「便利だよね」
「そうだよ!!」
「でも欠点がある」
「なんだ」
「壁の向こうにゴキブリがいるのまで分かる」
「…………」
「余計怖くなる( ˙ω˙ )」
「じゃあ何のために覚えたんだよ!!」
ドンは水見式のコップを持ち上げた。
青い。
水量が増えている。
白い何かが浮いている。
葉っぱはいまだに、ぽよん、ぽよんと上下していた。
一口飲む。
「まずいブルーハワイだな( ˙ω˙ )」
「だから飲むな!!」
「でも念って便利だぞ」
「何がだよ」
「夏は涼しい」
「…………」
「冬は暖かい」
「…………」
「踏まれても痛くない」
「…………」
「ゴキブリも見つけられる」
ジンは顔を覆った。
「……あんた、三百年も念使って、それしか感想ねえの?」
「うん」
「もっとこう……強さとか、極致とか、自分だけの能力とか……」
「別に強くなりたくないしな( ˙ω˙ )」
「…………」
「旅行できればいい」
ジンは黙った。
ほんの少しだけ、納得しかけた。
その瞬間。
「あ、ブルーハワイ食べたくなってきた」
「台無しだよ!!」
「買いに行こうぜ( ˙ω˙ )」
「水見式終わってねえよ!!」
「まだやるの?」
「むしろ何一つ分かってねえんだよ!!」
コップの中で、葉っぱだけが楽しそうに上下していた。