ジン「現在も、書いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」   作:笑嘲嗤

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第4話 ドン「ヘルベルは一人旅だと暇そうだった♤」ジン「試験管ごっこやめろや?!」

「次はヘルベルだ」

ジンが資料を机の上に置いた。

ドンは『新大陸紀行・西』の原稿に何かを書き足していた。

「ヘルベル?」

「ああ」

「どんなのだっけ( ˙ω˙ )」

「お前、本当に三百年も暗黒大陸にいたのか?」

「名前が違うんだよ。俺が勝手につけた名前と」

「お前が勝手につけた名前?」

「うん」

ジンは嫌な予感がした。

ブリオン。

ゾバエ病。

この男と話していると、人類が命懸けで集めてきた暗黒大陸の情報が、次々と妙な方向へ転がっていく。

「双尾の蛇だ」

「ああ」

「知ってるな?」

「うん」

「人間の殺意に作用する。遭遇した調査隊は互いに殺し合い、壊滅した」

「そういうこともあるだろうなぁ」

ドンは頷いた。

ジンの目が細くなる。

「……ずいぶん軽いな」

「危ないぞ?」

「なら聞かせろ」

ジンが身を乗り出した。

「殺意を伝染する厄災――」

そして訊いた。

「どう攻略したんだ?」

ドンは鉛筆を置いた。

ジンを見る。

ほんの少し口角を上げた。

「逆に聞くよ♤」

「どこぞの奇術師の試験官ごっこやめろ!!」

「95点♧」

「やめろっつってんだろ!!」

「最近覚えたんだ( ˙ω˙ )」

「何を覚えてんだよ!」

「インターネットで見た」

「インターネットはお前に何を教えてんだ!!」

ドンは笑いながら鉛筆を持ち直した。

「じゃあ普通に聞くけどさ」

「最初からそうしろ」

「殺意って、誰に向けるの?」

「…………」

ジンが止まった。

「何?」

「だから」

ドンは首を傾げる。

「一人しかいなかったら、誰を殺したくなるんだ?( ˙ω˙ )」

「…………」

「…………」

「…………」

ジンは椅子へ座り直した。

「待て」

「うん」

「お前、ヘルベルの生息域を一人で通ったのか?」

「うん」

「それで?」

「普通に通れた」

「…………」

「しばらくついてきたぞ」

「ついてきた!?」

「何日か」

「五大厄災に尾行されるな!!」

「蛇だからな。尾はあるぞ。二本」

「そういう意味じゃねえ!!」

ドンは原稿をめくった。

「俺が最初に会った時は、小さい奴だった」

「小さい?」

「成体かどうかは分からない。双尾だったから同じ種類だとは思うけど」

「攻撃されたか?」

「されてない」

「殺意は?」

「特に」

「身体の異常は?」

「なかった」

「精神状態は?」

「普通」

「……本当に?」

「その日の野帳には『蛇がついてくる。かわいい』って書いてある」

「お前の普通を信用していいのか分からなくなってきた」

「失礼だな( ˙ω˙ )」

ジンは考える。

「じゃあ、お前の考えではヘルベルは人間に殺意を発生させるわけじゃない?」

「そこまでは言ってない」

即答だった。

「じゃあ何だ?」

「分からない」

「またか」

「分からないものを分かったって言ったらダメだろ」

ドンは指を一本立てた。

「俺が一人でいる時には、明確な異常は確認できなかった」

二本目。

「複数の人間がいる時には、異常が起きた」

「……複数?」

「うん」

「他の探検隊に会ったのか?」

「うん、途中まで一緒に歩いたことがある」

ジンの顔が変わった。

「どうなった?」

ドンは少し考えた。

「仲が悪くなった」

「…………」

「ものすごく」

◇ ◇ ◇

最初は普通の探検隊だった。

六人。

ドンが彼らと出会ったのは、森と湿地の境界だった。

目的地が途中まで同じだったため、数日だけ同行することになった。

「いい人たちだったぞ」

「どんな連中だ?」

「よく分からない」

「そこ覚えてないのかよ」

「三百年も歩いてたら全員の所属なんて覚えてられないよ」

「それはそうか……」

「でも料理が上手い人がいた」

「そこは覚えてんのか」

「飯は大事だぞ( ˙ω˙ )」

最初の二日間は、何も起きなかった。

三日目。

一人が言った。

自分の保存食が減っている。

「実際に減ってたのか?」

「分からない」

「調べなかった?」

「本人が食べた量を記録してなかったからな」

四日目。

別の一人が言った。

夜中、誰かに見られている気がする。

五日目。

隊長が自分たちを危険な道へ誘導していると、一人が言い始めた。

「……それで?」

「みんな喧嘩し始めた」

「どの程度だ」

「最初は口喧嘩」

ドンの表情が少しだけ変わった。

「そのうち、武器を触るようになった」

ジンは黙った。

「明らかに変だった?」

「うん」

「全員?」

「程度は違った。でも俺以外は」

「お前は?」

「腹減ったなぁって思ってた」

「お前だけ危機感の向いてる方向がおかしい!!」

「飯の時間だったから」

「そういう問題じゃねえ!」

ドンは続けた。

「それで思い出したんだ」

「何を?」

「例の蛇」

「ヘルベルか」

「うん」

「近くにいた?」

「いた」

「いつから?」

「たぶん最初から」

ジンの眉が動いた。

「お前についてきてた奴か?」

「同じ個体かは分からない」

「……そこは断定しないんだな」

「模様が少し違った気もするし」

「で、どうした?」

「全員の武器を預かった」

「よく預けたな」

「まだ話が通じるうちだったから」

「その後は?」

「テントを離した」

「…………」

「飯も別々にした」

「…………」

「見張りも一人ずつ」

「…………」

「三日くらい、なるべく顔を合わせないようにした」

ジンが目を細めた。

「それで?」

「落ち着いた」

「…………」

「仲直りしたぞ( ˙ω˙ )」

「人間関係の冷却期間じゃねえか!!」

「大事だぞ?」

「五大厄災への対処法として聞いてんだよ!」

「だから対処したじゃん」

「やり方が夫婦喧嘩なんだよ!!」

ドンは首を傾げた。

「でも効いたぞ?」

「…………」

ジンは反論しようとして。

やめた。

効いた。

少なくとも、ドンの観察では。

「……その蛇は?」

「いつの間にかいなくなってた」

「殺したのか?」

「なんで?」

「危険だからだよ!」

「危険だからって何でも殺したら、生態分からなくなるだろ」

「…………」

「それに」

ドンは少し考えた。

「ヘルベルだけが悪いのか、分からなかったからな」

「どういう意味だ?」

「最初に保存食の話をした人」

「ああ」

「もともと隊長とちょっと仲悪かったらしい」

「…………」

「夜中に見られてるって言った人も、その前の日に見張りの交代で揉めてた」

「…………」

「別の二人は、歩く速度で喧嘩してた」

ジンの表情が変わる。

「つまり」

「あの蛇が、何もないところから殺意を作ったのか」

ドンは言った。

「それとも」

「…………」

「もともと人間の中にある嫌な気持ちを、大きくしただけなのか」

沈黙。

「俺には分からなかった」

「…………」

「だから『殺意を伝染させる蛇』っていう説明も、ちょっと気になってる」

「どこが?」

「伝染っていうと、一人の殺意が別の人に移ったみたいだろ?」

「ああ」

「でも全員、嫌いな相手も理由も違ったんだよ」

ジンが腕を組む。

「……増幅か」

「かもしれない」

「感情そのものに作用している?」

「かもしれない」

「集団内の敵意に反応する?」

「かもしれない」

「何らかのフェロモンや毒物は?」

「調べてない」

「念能力の可能性は?」

「当時、念って系統あることすら知らなかった( ˙ω˙ )」

「お前三百年間ほんと何してたんだよ!!」

「旅行」

「知ってるよ!!」

ドンは笑った。

「だから、今なら専門家に調べてもらった方がいいと思う」

「捕獲するのか?」

「できれば殺さずに」

「危険だぞ」

「うん」

「調査員同士が殺し合う可能性もある」

「だから最初から一人ずつ離しておけばいいんじゃない?」

「…………」

「通信も必要最低限」

「…………」

「武器も持たせない」

「…………」

「あと全員個室」

「ホテルじゃねえんだぞ」

「仲の悪い人は同じ班にしない」

「修学旅行の班決めじゃねえ!!」

「でも大事だろ?」

「……否定できねえのが腹立つ」

ドンは原稿に何か書き始めた。

「何書いてる?」

「西編の追記」

ジンが覗き込む。

そこには。

ヘルベル

殺意への作用:確認例あり。

作用機序:不明。

単独行動時の発症:自身では確認できず。ただし安全を意味しない。

複数人の場合、既存の対人感情を増幅する可能性あり。要検証。

ジンは頷いた。

「まともだな」

「あと」

ドンがさらに書く。

団体旅行には向かない。

「旅行ガイドに戻すな」

さらに。

仲の悪い友達とは絶対に行かない方がいい。( ˙ω˙ )

「仲のいい友達とも行くな!!」

「じゃあ一人旅?」

「それも安全だと確認できてねえんだろ!」

「難しいなぁ」

「五大厄災だからな!!」

ドンはしばらく考えた。

そして何かを思い出したように顔を上げる。

「そうだ」

「なんだ?」

「ジンにも苦手なやつがいるだろ?そいつとは暗黒大陸に行かない方がいい」

それで思い浮かんだのはパリストンのさわやかな笑顔。

ジンは眉を寄せて渋い顔をする。

そしてドンが目を細めた。

「合格♤」

「だから奇術師の試験官ごっこやめろ!!」

◇ ◇ ◇

その日の夜。

ジンはドンの昔の野帳を読んでいた。

ヘルベルと遭遇した時期の記録。

簡潔な文章だった。

――同行者六名。

――三日目より対人関係の悪化を確認。

――五日目、武器への接触頻度が明確に増加。

――全員の了承を得て武器を隔離。

――野営地点を分散。

――接触機会を減らす。

――三日後より改善。

その次のページ。

――双尾の蛇を再確認。

――因果関係は不明。

さらに次。

――同行者たちと別れる。

――全員生存。

ジンの指が止まった。

最後に一行。

――仲直りできてよかった。( ˙ω˙ )

「…………」

ジンは少しだけ笑った。

殺意を伝染させる。

そう呼ばれる厄災。

もし本当に。

人間の中に存在する小さな疑念や怒りを、大きくする生物なのだとしたら。

恐ろしい。

だが。

同時に妙なことでもある。

ヘルベルが去ったあと。

人間たちは。

また仲直りできた。

「……なあ、ドン」

「んー?」

隣の部屋から声がする。

「お前、あの時の六人がその後どうなったか知ってるか?」

「知らない」

「そうか」

「でも」

ドンが顔を出した。

「最後にみんなで飯食ったぞ」

「…………」

「料理上手い人がスープ作ってくれた」

「美味かった?」

「美味かった( ˙ω˙ )」

「そうか」

ドンは再び部屋へ戻ろうとして。

止まった。

「ジン」

「なんだ?」

「ヘルベルって、怖い蛇だと思うよ」

「ああ」

「でも」

少し考える。

「人間が仲直りできるところまでは、奪えなかったんだな」

「…………」

ジンは野帳を閉じた。

「そうかもな」

「うん」

そしてドンは言った。

「だから一人旅がおすすめだぞ♤」

「いい話で終われよ!!」

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