ジン「現在も、書いてる途中か、だ!」ドン「書き終わったから帰ってきたぞ」   作:笑嘲嗤

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メビウス湖の西側。

そこはきっと未踏の地。

誰がそれを保証したんだ?






第7話 ビヨンド「未踏を舐る!」ドン「そうだな。まだ知らないものを見たいから歩くんだ」

翌朝。

「ドン=フリークス!!」

扉が開いた。

朝食を食べていたドンが振り返る。

「ん?( ˙ω˙ )」

入ってきた大男を見て、ジンは露骨に嫌そうな顔をした。

「……朝からうるせえのが来た」

ビヨンド=ネテロ。

その手には『新大陸紀行・西』の原稿があった。

付箋だらけだった。

「読んだぞ!!」

「早いな」

「面白い!!」

ドンが嬉しそうに笑う。

「ありがとう( ˙ω˙ )」

「そこで聞きたい!」

ビヨンドは原稿を机へ叩きつけた。

「お前が行っていない場所はどこだ!?」

ドンが瞬きをする。

「いっぱいあるぞ」

ビヨンドの目が輝いた。

「どこだ!?」

「いっぱい」

「だから場所を教えろ!」

「地図ある?」

「ある!」

即座に広げられる。

メビウス湖。

人類の既知世界を内包する巨大な湖。

そして。

その外側。

暗黒大陸。

ビヨンドが笑った。

「俺はお前が見たものを見に行きたいんじゃない」

指を地図へ置く。

「お前が三百年歩いて、それでも見られなかったものを見たい」

「いいなぁ」

ドンも嬉しそうだった。

「そういうの俺も好きだぞ( ˙ω˙ )」

「だろう!」

「俺が行ってない場所ならいっぱいある」

「教えろ!」

「この辺も行ってない」

「ほう!」

「ここも」

「いいな!」

「この山脈の向こうも、ほとんど見てない」

「そこだ!!」

ビヨンドの指が地図へ落ちる。

「ここへ行く!」

「いいんじゃない?」

「お前が三百年かけても辿り着かなかった未踏地!」

「いや」

ドンはパンを齧った。

「そこは未踏地じゃないと思うぞ」

ビヨンドの指が止まった。

「……何?」

「俺が行ってないだけ」

「同じことだろう」

「全然違うよ」

「何が違う?」

ドンはコーヒーを飲む。

「俺が行ったことがない場所と、人間が行ったことがない場所は別だろ?( ˙ω˙ )」

ビヨンドが黙った。

ジンは。

昨夜からほとんど寝ていなかった。

机の横には、開いたままの野帳が置かれている。

「……ドン」

ジンが言った。

「昨日の話だな」

「昨日?」

「サヘルタ」

「ああ」

ビヨンドの目が動く。

「サヘルタがどうした?」

ジンは答えなかった。

代わりに訊いた。

「ドン」

「ん?」

「確認するぞ」

ジンは地図を広げ直した。

「お前自身が行ってない場所は、メビウス湖周辺にも大量にある」

「あるぞ」

「だが」

一拍。

「人間が一度も行ったことのない場所は?」

ドンは考えた。

ビヨンドも黙って答えを待つ。

十秒。

二十秒。

「うーん」

ドンが地図を見る。

「少なくとも」

指でメビウス湖周辺を大きく囲った。

「この辺には、もうないんじゃないかな( ˙ω˙ )」

沈黙。

ビヨンドの笑顔が消えた。

「……もう一度言え」

「メビウス湖周辺?」

「ああ」

「俺が行ってない場所はいっぱいあるよ」

ドンは言った。

「でも」

その指が。

地図の西側へ動く。

「俺以外の人間がいた」

別の地点。

「ここも」

南西。

「ここも」

北方。

「この辺は人間そのものは見てないけど、野営跡があった」

「…………」

「焚き火」

「…………」

「切った枝」

「…………」

「石を積んだ目印」

さらに。

「人間世界の包装紙が落ちてたところもある」

ジンが低い声で訊いた。

「年代は?」

「バラバラ」

「どのくらい?」

「古いのは分からない。新しいのなら数十年前くらいかな」

「国籍は?」

「分からないのも多い」

「所属は?」

「もっと分からない」

「公式の探検隊だった可能性は?」

「あるよ」

「公式記録と照合したか?」

「してない」

「俺はした」

ドンがジンを見る。

ビヨンドも。

「……ジン?」

「昨夜な」

ジンが野帳を持ち上げた。

「こいつの記録と、俺が把握してる渡航記録を照らし合わせた」

「それで?」

「合わねえ」

空気が変わった。

「全部ではない」

ジンは言った。

「一致する可能性のある記録もある。年代が曖昧で判断できないものもある」

ページをめくる。

「だが――」

止める。

「明らかに説明できない奴がいる」

昨日のページだった。

約五十年前。

メビウス湖西方。

統一された装備。

サヘルタの軍用規格と思われる刻印。

南西へ移動。

缶詰を一つもらった。

美味しかった。

「これだ」

ビヨンドが読む。

そして。

表情が変わった。

「五十年前?」

「ああ」

「西?」

「ああ」

ビヨンドがドンを見る。

「間違いないのか?」

「何が?」

「場所だ!」

「場所は間違えないよ。天体と川と山の位置も書いてある」

「年代は!?」

「その前後の野帳から確認できる」

ジンが付け加えた。

「少なくとも数年単位でズレるような話じゃねえ」

ビヨンドが黙る。

やがて。

「その頃」

と言った。

「俺は東にいた」

「ああ」

ジンが答えた。

「だから昨夜から俺の顔色が悪いんだよ」

「寝てないからじゃない?( ˙ω˙ )」

「原因はお前の野帳だ!!」

「寝た方がいいぞ」

「誰のせいだと思ってんだ!」

だが。

ジンは笑っていなかった。

ビヨンドも。

「……俺たちは」

ビヨンドが地図を見る。

「許可を求めた」

「ああ」

「門番を通る」

「ああ」

「案内人が必要になる」

「ああ」

「資格、手段、契約」

「それが俺たちの知っている暗黒大陸への道だ」

ジンが言った。

「だから俺も、それを前提に考えてた」

「…………」

「正規の渡航記録にねえなら、行ってねえ」

「…………」

「そう考えてた」

ドンがパンの残りを食べる。

「でもいたぞ?」

「それが問題なんだよ」

「そうなの?」

「お前はもうちょっと問題意識を持て!!」

「だって俺、その制度ができる前に行ったし」

「そうだった……!」

ビヨンドが地図を睨む。

「なら」

指を西へ。

「こいつらはどうやって入った?」

ジンは答えない。

ドンが答えた。

「別の道じゃない?」

二人が同時にドンを見る。

「……別の道?」

「うん」

「あるのか?」

「知らない」

「お前はどうやって――」

「俺の道は三百年前の古文書に書いてあった道だから、今使えるか分からないぞ」

「それとは別に?」

「だから知らないって」

ドンはコーヒーを飲んだ。

「でも」

地図を指差す。

「ここにいたんだよ」

「…………」

「だったら、来る方法はあったんじゃない?」

あまりにも単純だった。

記録にない。

許可もない。

既知の経路とも一致しない。

それでも。

人間はそこにいた。

ならば。

どこかから来た。

「…………」

ジンが椅子へ深く座る。

「俺、ちょっと驕ってたな」

ビヨンドが見る。

「何がだ」

「仕組みを知ってるつもりだった」

「…………」

「許可、資格、手段、契約」

ジンは昨夜、自分が何度も読み返した言葉を口にする。

「全部本物だ」

「ああ」

「嘘じゃない」

「そうだ」

「だから疑わなかった」

ドンが首を傾げる。

「何を?」

ジンは地図を見る。

「その仕組みの外側だよ」

沈黙。

「表の仕組みが偽物なら、俺だって疑った」

「…………」

「でも本物なんだ」

門番はいる。

案内人もいる。

契約も必要だ。

危険も本物だ。

だから。

それが暗黒大陸へ至る唯一の方法だと。

いつの間にか思っていた。

「ドン」

ジンが訊いた。

「こいつら以外にもいるんだな?」

「いるぞ」

「軍人?」

「軍人っぽい人もいた」

「他は?」

「分からない」

「どの国だ?」

「分からない」

「何をしてた?」

「分からない」

「何を持って帰った?」

「知らない」

「何のために来た?」

「知らない」

ジンが苛立つ。

「何なら知ってんだよ!」

ドンは考えた。

「缶詰が美味しかった」

「それはもう聞いた!!」

ビヨンドが。

笑った。

小さく。

そして。

大きく。

「面白い」

ジンが睨む。

「おい」

「面白いじゃないか、ジン!」

「何がだ」

「俺は未踏地を探しに来た!」

地図を叩く。

「ドンが行っていない場所ならある!」

「あるぞ( ˙ω˙ )」

「だが人間が行っていない場所は、メビウス湖周辺にはもうない!」

「たぶんな」

「なら――」

ビヨンドの笑みが深くなる。

「こいつらが使った道を探せばいい!」

「やめとけ」

ドンが言った。

ビヨンドの動きが止まった。

ジンも。

ドンは。

さっきまでと同じ顔をしていた。

パンを食べ。

コーヒーを飲んで。

ニトロ米を死ぬほど不味いと笑っていた男。

その男が。

静かに。

もう一度言った。

「その道は、使わない方がいいぞ」

ビヨンドの笑みが消えた。

「なぜだ?」

ドンは少し考えた。

「それは」

テーブルの上の野帳を見る。

五十年前。

サヘルタ。

西方。

軍用装備。

南西へ向かった六人。

そして。

その先に続くページ。

「……ちょっと長い話になるな( ˙ω˙ )」

ジンは気づいた。

ドンが。

そのページを開こうとしない。

未知の話をするとき。

いつも楽しそうにページをめくる男が。

初めて。

続きを見せることを躊躇していた。




ドンがなぜ「裏道」を推奨しないのか?

ハンターなら裏の裏を読みな('ω')

真実はいつもお前の傍にいる。
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