JOJOの奇妙な冒険 黒きサファイアの旅路   作:将吾

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前回。

記念すべき第十話。

主人公はパンを食べました。

街を歩きました。

また食べました。

そして最後。

花京院が二人いました。

リオ「分身できる?」

花京院「できません」

本人から正式に否定されました。

というわけで。

花京院が二人いる。

でも花京院は一人しかいない。

つまり。

どっちかがおかしい。

リオ。

間違えて本物殴るなよ。

リオ「殴る前提?」

念のためだよ。

承太郎なら殴って確認しそうだから。

承太郎「聞こえてんぞ」

……。

それでは第十一話。

花京院は二人いない。


花京院は二人いない

翌朝。

 

 シンガポール。

 

 ホテルの朝食。

 

 リオはパンを食べながら、向かいに座る花京院を眺めていた。

 

「…………」

 

 花京院は新聞を読んでいる。

 

「…………」

 

 一面を読み終える。

 

 紙をめくる。

 

「…………」

 

 二面。

 

 さすがに花京院が新聞から目を上げた。

 

「リオ。さっきから何です? 僕の顔に何かついていますか?」

 

「いや」

 

「では、なぜ見ているんです?」

 

「昨日のこと考えてた」

 

「昨日?」

 

「花京院を見た」

 

 花京院が少し眉を上げる。

 

「ああ、その話ですか。昨日も言いましたが、その時間なら僕はあなたと一緒にいたでしょう。見間違いでは?」

 

「多分。でも、結構似てた」

 

「僕に?」

 

「うん。だから確認したいんだけど」

 

「何でしょう」

 

「分身できる?」

 

「できません」

 

 即答だった。

 

「本当に?」

 

「できませんし、昨日から急にできるようにもなっていません。そもそも僕のスタンド能力と何の関係もないでしょう」

 

「そうだよね」

 

「納得したなら、なぜ少し残念そうなんです?」

 

「便利そうだったから」

 

「僕が二人いたら、何をさせるつもりだったんですか」

 

 リオはパンを一口食べる。

 

 少し考えた。

 

「片方に買い物」

 

「自分で行ってください」

 

「怪我人なのに」

 

「昨日一人で敵と戦った人が、それを言いますか?」

 

「昨日は昨日」

 

「傷は一日で治りませんよ」

 

「少しは治った」

 

「そういう問題ではありません」

 

 リオはパンをもう一口。

 

「花京院」

 

「何です?」

 

「最近ジョセフっぽい」

 

「それはあなたの世話をする人間が、全員同じことを言い始めているだけでは?」

 

「…………」

 

「反論は?」

 

「ない」

 

「でしょうね」

 

 隣の席でコーヒーを飲んでいた承太郎が、鼻で笑った。

 

 リオがそちらを見る。

 

「何?」

 

「別に」

 

「今笑ったよね」

 

「気のせいだ」

 

「…………」

 

 リオは承太郎を数秒見た。

 

 何も言わずパンへ戻る。

 

 承太郎もコーヒーを飲む。

 

 花京院も新聞へ戻った。

 

 少し離れた席で。

 

「なんかあいつらだけ朝から静かすぎねえか?」

 

 ポルナレフが言った。

 

「お前が騒がしすぎるんじゃ」

 

 ジョセフが答えた。

 

     ◆

 

 朝食後。

 

 ジョセフが地図をテーブルに広げた。

 

「さて。いつまでもシンガポールでのんびりしとるわけにもいかん。目的地はエジプトじゃ。飛行機は……まあ、色々あって避けたい。ここから先の移動経路を考え直す必要がある」

 

「色々?」

 

 リオが聞く。

 

 ジョセフは無視した。

 

「海路を使うにしても、同じ手段だけでは目立つ。DIOの手下にこちらの行動を読まれる危険もあるからの」

 

「なるほど」

 

「というわけで、わしとアヴドゥルは情報を集める。お前さんたちは――」

 

 ジョセフの目がリオで止まった。

 

「何?」

 

「今日は大人しくしとれ」

 

「昨日も言われた」

 

「昨日言われて大人しくしとらんかったから今日も言っとるんじゃ!」

 

「敵が来たから」

 

「路地に入ったのはお前さんじゃろ!」

 

「尾行されてたから」

 

「それを一人で確かめに行くなと言っとる!」

 

 リオは少し考えた。

 

「でも勝った」

 

「勝敗の話じゃない!」

 

 向こうで承太郎が小さく息を吐いた。

 

「諦めろジジイ。こいつに言っても無駄だ」

 

「お前がそれを言うか!」

 

「俺は勝手にしろとは言ってねえ」

 

「ほぼ同じじゃ!」

 

 リオは二人を見比べた。

 

「仲良いね」

 

「「よくねえ」」

 

 声が重なった。

 

「…………」

 

 リオが花京院を見る。

 

 花京院は新聞を畳んだ。

 

「僕を巻き込まないでください」

 

     ◆

 

 昼前。

 

 シンガポールの街。

 

 リオと花京院は並んで歩いていた。

 

 別に目的があるわけではない。

 

 ジョセフから頼まれた買い物を済ませ、その帰り。

 

 リオが紙袋を持っている。

 

「ジョセフ、俺に買い物頼むんだね」

 

「一人では行かせていないでしょう」

 

「信用されてない?」

 

「昨日の今日ですから」

 

「花京院は監視?」

 

「付き添いです」

 

「言い方変えただけじゃない?」

 

「気のせいです」

 

「…………」

 

 最近。

 

 この一行。

 

 気のせいの使い方が雑になっている。

 

 リオはそう思った。

 

 口には出さなかった。

 

 大通りには車が行き交い、歩道には観光客と地元の人間が混じっている。

 

 露店から漂う香辛料の匂い。

 

 知らない言葉。

 

 暑い空気。

 

 リオは嫌いではなかった。

 

「花京院」

 

「はい」

 

「こういうところ好き?」

 

「旅行として来ていたなら、もう少し楽しめたと思いますよ。今はいつ敵に襲われるか分かりませんからね」

 

「昨日は楽しかった」

 

「敵に襲われる前までは?」

 

「うん」

 

「それなら何よりです」

 

 花京院は少し笑った。

 

「あなたは意外と、知らない場所を見るのが好きなんですね」

 

「そうかも」

 

「自覚がなかったんですか?」

 

「考えたことなかった」

 

 リオは前を見る。

 

 知らない街。

 

 知らない景色。

 

 知らない人間。

 

「知らないものは、見てみたい」

 

「DIOも?」

 

 リオの足が、ほんの少しだけ遅くなった。

 

「……うん」

 

 それ以上は言わなかった。

 

 花京院も聞かなかった。

 

     ◆

 

 帰り道。

 

 リオは露店の前で止まった。

 

「…………」

 

 花京院も止まる。

 

「食べたいんですか?」

 

「見てただけ」

 

「そうですか」

 

 二人とも動かない。

 

「…………」

 

「…………」

 

「食べる?」

 

「僕に聞くんですか?」

 

「一人で食べるよりいいかなって」

 

「では、いただきましょうか」

 

 買った。

 

 名前は分からなかった。

 

 リオが一口。

 

 花京院も一口。

 

「…………」

 

「…………」

 

 リオが見る。

 

「どう?」

 

「美味しいですね」

 

「うん」

 

 終わり。

 

 二人はまた歩き出した。

 

 しばらくして。

 

「昨日も似たようなものを食べましたね」

 

 花京院が言った。

 

「昨日の方が甘かった」

 

「そうでしたね」

 

「こっちの方が好きかも」

 

「僕は昨日の方ですね」

 

「じゃあ次から別々に買おう」

 

「なぜ次がある前提なんです?」

 

「ないの?」

 

「……まあ、機会があれば」

 

 そんな話をして。

 

 角を曲がった。

 

 その瞬間。

 

「…………」

 

 リオの足が止まる。

 

「どうしました?」

 

 花京院が振り返る。

 

 リオは答えなかった。

 

 十数メートル先。

 

 人混み。

 

 黒髪。

 

 学生服。

 

 横顔。

 

 ほんの一瞬。

 

 建物の陰へ消えた。

 

「……また」

 

「何がです?」

 

 リオは隣を見る。

 

 花京院。

 

 間違いなくいる。

 

「花京院」

 

「はい」

 

「今、向こうにもいた」

 

 花京院の表情が変わった。

 

 今度は笑わない。

 

「昨日と同じですか?」

 

「うん」

 

「見間違いだと思いますか?」

 

「二回目だから、ちょっと思わなくなってきた」

 

 花京院も人混みを見る。

 

「スタンド能力の可能性を考えた方がいいでしょうね。僕の姿を作るだけなら、変装か幻覚という可能性もある。昨日から僕の姿を使っているなら、目的があるはずです」

 

「俺を騙す?」

 

「あなたとは限りません。僕の姿なら、承太郎たち全員に近づける」

 

「なるほど」

 

 リオはもう一度、男が消えた方向を見る。

 

「追いますか?」

 

 花京院が聞く。

 

 リオは少し考えた。

 

「やめとく」

 

「意外ですね」

 

「昨日怒られたから」

 

「学習したんですね」

 

「俺を何だと思ってるの?」

 

「一人で怪しい路地に入って敵と戦って帰ってくる人です」

 

「…………」

 

「事実でしょう」

 

「うん」

 

     ◆

 

 二人はホテルへ戻った。

 

 事情を聞いた承太郎は、しばらく黙っていた。

 

「花京院そっくりの奴か」

 

「うん」

 

「二日続けて?」

 

「昨日一回。今日一回」

 

「顔は間違いねえのか」

 

「多分」

 

「多分じゃ分からねえだろ」

 

「遠かったから。でも」

 

 リオは隣の花京院を見る。

 

「似てた」

 

「僕自身が見られなかったのが残念ですね」

 

 花京院は少し考える。

 

「もし僕の姿を使うスタンド使いなら、狙いは接近でしょう。こちらから探し回るより、しばらく警戒して相手が動くのを待った方がいいかもしれません」

 

 アヴドゥルが頷いた。

 

「同感だ。敵の能力が分からない以上、下手に分散する方が危険だろう」

 

「じゃあ全員一緒?」

 

 リオ。

 

「少なくとも一人になるのは避けるべきじゃな」

 

 ジョセフが答える。

 

「リオ。特にお前さんじゃ」

 

「何で俺だけ名前呼んだの」

 

「心当たりがありすぎるわ!」

 

     ◆

 

 翌日。

 

 リオは一人だった。

 

「…………」

 

 正確には。

 

 一人にされた。

 

「昼には戻ってください」

 

 花京院から言われている。

 

 ジョセフたちはそれぞれ用事。

 

 承太郎も外出。

 

 ポルナレフもどこかへ行った。

 

 結局。

 

「一人になるな」は一日で崩壊した。

 

「…………」

 

 リオは街を歩く。

 

 昨日と同じ露店。

 

「…………」

 

 買った。

 

 一口。

 

「昨日の方が美味しい」

 

 歩く。

 

 その時。

 

 視界の端。

 

 黒。

 

 リオの足が止まった。

 

 今度は近い。

 

 人混みの向こう。

 

 花京院。

 

「…………」

 

 昨日までなら。

 

 追った。

 

 今日は。

 

 少し考える。

 

 そして。

 

「花京院」

 

 声をかけた。

 

 黒髪の少年が振り返る。

 

「ああ、リオ」

 

 普通の顔。

 

 普通の声。

 

 普通の笑い方。

 

「一人ですか?」

 

「うん」

 

「ジョースターさんたちは?」

 

「別行動」

 

「そうですか。僕も少し用事があって出ていたところです」

 

 自然。

 

 少なくとも。

 

 一目では分からない。

 

 リオは食べながら近づく。

 

「花京院」

 

「何です?」

 

「昨日のやつ、覚えてる?」

 

「昨日?」

 

「二人で食べたやつ」

 

「ああ。もちろん覚えていますよ」

 

「美味しかった?」

 

「ええ。なかなかでした」

 

「どっちが好き?」

 

「どっち?」

 

「一昨日のと昨日の」

 

「…………」

 

 ほんの僅か。

 

 間。

 

「昨日の方ですね」

 

「そっか」

 

 リオはもう一口食べる。

 

 歩き出す。

 

 偽の花京院も隣へ並んだ。

 

「何か変ですか?」

 

「別に」

 

「そうですか」

 

 歩く。

 

 会話が途切れる。

 

 それでもリオは隣を見る。

 

 顔。

 

 声。

 

 歩き方。

 

 よく似ている。

 

 というより。

 

 同じに見える。

 

「花京院」

 

「今度は何です?」

 

「俺が最初に会った時、何て言ったか覚えてる?」

 

「ずいぶん昔の話をしますね」

 

「まだそんな経ってないよ」

 

「そうでしたか?」

 

「一週間も経ってない」

 

「旅をしていると長く感じますからね」

 

 答えない。

 

「覚えてない?」

 

「細かい会話まで全て覚えているわけではありませんよ」

 

「そう」

 

 おかしくはない。

 

 普通なら。

 

 ただ。

 

 花京院なら。

 

 質問されたら、分からないなら分からないと答える。

 

 誤魔化す時も。

 

 もう少し上手い。

 

「リオ」

 

「何?」

 

「さっきから質問ばかりですね。まるで僕を疑っているみたいだ」

 

「疑ってるよ」

 

「…………」

 

 足が止まる。

 

 リオも止まった。

 

「昨日から、僕の偽物を見たと言っていましたね」

 

「うん」

 

「それで、今度は僕が偽物だと?」

 

「まだ分からない」

 

「なら」

 

 花京院が笑う。

 

「そんなくだらない質問を続けるより、仲間を信じたらどうです?」

 

「…………」

 

 リオの目が。

 

 少し細くなった。

 

「何です?」

 

「今ので結構怪しくなった」

 

「なぜ?」

 

「仲間」

 

「…………」

 

「花京院、俺にそれあんまり言わないよ」

 

「言葉一つで疑うんですか?」

 

「それだけじゃない」

 

 リオが持っていた食べ物を見る。

 

「昨日」

 

 顔を上げる。

 

「花京院は一昨日の方が好きって言った」

 

「…………」

 

 笑顔が止まった。

 

「さっきお前、昨日の方って言ったよね」

 

 沈黙。

 

 街の喧騒だけが聞こえる。

 

 リオは静かに続けた。

 

「それくらいなら忘れるかもしれない」

 

 一歩。

 

「最初に会った時の会話も、忘れてるかもしれない」

 

 もう一歩。

 

「『仲間』って言ったのも、別におかしくないかもしれない」

 

 ブラックサファイア。

 

 リオの背後へ。

 

 ゆっくり現れる。

 

「でも」

 

 青い光。

 

「全部重なると」

 

 拳を握る。

 

「結構怪しいよ」

 

「…………」

 

 花京院の顔が。

 

 歪んだ。

 

「クク……」

 

 声も変わる。

 

「なるほどな」

 

 頬。

 

 黄色い何かが。

 

 ぬるり。

 

 と這う。

 

「思ったより面倒なガキだ」

 

「よく言われる」

 

「なら、こいつも見覚えがあるか?」

 

 花京院の皮膚が。

 

 崩れる。

 

 いや。

 

 剥がれているのではない。

 

 黄色い物質が。

 

 形を変えている。

 

 頬。

 

 顎。

 

 首。

 

 制服。

 

 全てが。

 

 どろり。

 

 と。

 

 別の姿へ。

 

「…………」

 

 リオは数秒見た。

 

「気持ち悪い」

 

「第一声がそれか!」

 

「他に何て言えばいい?」

 

「恐れろ!」

 

「嫌だ」

 

「そういう意味じゃねえ!」

 

 黄色い肉が膨らむ。

 

「俺のスタンド――『黄の節制』!」

 

 イエローテンパランス。

 

 それは。

 

 肉のようで。

 

 粘液のようで。

 

 生き物のように蠢いていた。

 

 リオの視線が黄色い表面を追う。

 

「触ったらまずそう」

 

「ほう?」

 

「見た目」

 

「勘だけはいいらしいな」

 

 男――ラバーソールが笑う。

 

「こいつは喰うぜ。生物だろうが、スタンドだろうがな」

 

「…………」

 

 ブラックサファイアが一歩前へ。

 

 リオは。

 

 殴らせなかった。

 

「昨日学んだからな」

 

「あ?」

 

「分からない能力を、最初から殴るのやめた」

 

「慎重になったじゃねえか!」

 

「一日で成長した」

 

「自分で言うな!」

 

     ◆

 

 黄色い塊が。

 

 突然伸びた。

 

「!」

 

 ブラックサファイアがリオの身体を引く。

 

 直前までいた場所。

 

 壁へ黄色い物質が張りついた。

 

 じゅ。

 

 嫌な音。

 

「…………」

 

 リオが見る。

 

 表面を。

 

 喰っている。

 

「本当に食べるんだ」

 

「だから言っただろうが!」

 

「敵の説明、どこまで信じていいか分からないから」

 

「疑い深すぎんだろ!」

 

「さっきそれでお前見破ったけど」

 

「…………」

 

「役に立ったね」

 

「ムカつくガキだなてめえ!」

 

 黄色。

 

 再び伸びる。

 

 リオが横へ跳ぶ。

 

 傷。

 

「っ」

 

 脇腹が痛む。

 

 僅かに遅れた。

 

 黄色い物質が服の端へ触れる。

 

「――!」

 

「ハハッ!」

 

 ブラックサファイア。

 

 即座に布を引き裂く。

 

 黄色い欠片ごと地面へ。

 

「判断が早いな!」

 

「褒めても何も出ないよ」

 

 リオが後退する。

 

 距離。

 

 狭い路地。

 

 左右に壁。

 

 後ろは大通り。

 

 昨日と似ている。

 

 ただ。

 

 相手は全く違う。

 

「…………」

 

 殴る。

 

 危険。

 

 触れる。

 

 危険。

 

 なら。

 

「熱」

 

「あ?」

 

 ブラックサファイアの手。

 

 周囲。

 

 熱エネルギー。

 

 集める。

 

 空気が少し冷える。

 

 黒い掌。

 

 熱が集中する。

 

「へえ」

 

 ラバーソールが目を細めた。

 

「そういう能力か」

 

「試すよ」

 

 放つ。

 

 熱。

 

 黄の節制。

 

 表面。

 

 焼ける。

 

 焦げた臭い。

 

 だが。

 

「無駄無駄ァ!」

 

 黄色い肉が。

 

 さらに膨らむ。

 

 焼けた表面を覆う。

 

 新しい層。

 

「…………厚い」

 

「俺のイエローテンパランスに弱点はねえ! どんな攻撃だろうが、この肉の鎧が受け止める!」

 

 リオは黙って見る。

 

 焼けた。

 

 だが。

 

 浅い。

 

「最近」

 

「あ?」

 

「相性悪い相手多くない?」

 

「知らねえよ!」

 

「俺も知らない」

 

「じゃあ言うな!」

 

 黄色い触手。

 

 リオへ。

 

 ブラックサファイアが石畳を蹴る。

 

 後退。

 

 もう一度。

 

「逃げるのか!」

 

「考えてる」

 

「逃げながらか!」

 

「止まったら食われるだろ」

 

「それはそうだが!」

 

 リオが一瞬だけ振り返る。

 

 前方。

 

 人。

 

 多い。

 

「…………」

 

 ここでは。

 

 戦いにくい。

 

 昨日と同じ。

 

 だが昨日と違い。

 

 敵そのものが。

 

 追ってくる。

 

「なら」

 

 方向を変える。

 

「場所変えよう」

 

「待ちやがれ!」

 

     ◆

 

 走る。

 

 傷が痛む。

 

 リオの足は。

 

 普段より明らかに遅い。

 

「昨日の怪我かァ!?」

 

 後ろからラバーソール。

 

「そう」

 

「運がねえな!」

 

「お前に会ったこと?」

 

「それもだ!」

 

「自分で言うんだ」

 

「うるせえ!」

 

 角。

 

 曲がる。

 

 その先。

 

「…………」

 

 見覚えのある帽子。

 

 学生服。

 

「リオ?」

 

 花京院。

 

 本物。

 

 その隣。

 

 承太郎。

 

「…………」

 

 リオは止まる。

 

 後ろを見る。

 

 ラバーソール。

 

 前を見る。

 

 花京院。

 

「やっぱり」

 

 息を整えながら。

 

「二人いた」

 

「何がです?」

 

 花京院が眉を寄せる。

 

「花京院」

 

「僕は一人ですよ」

 

「知ってる」

 

 ラバーソールが舌打ちする。

 

「チッ……」

 

 承太郎の目が。

 

 そちらへ向く。

 

「そいつか」

 

「うん」

 

「昨日から花京院の面ァ使ってやがったのは」

 

「そうみたい」

 

 承太郎が一歩前へ出る。

 

「てめー」

 

 ラバーソール。

 

「空条承太郎か」

 

「だったらどうした」

 

 黄色い肉が。

 

 蠢く。

 

「探す手間が省けたぜ」

 

「そいつ強いよ」

 

 リオが言う。

 

 承太郎は振り返らない。

 

「見りゃ分かる」

 

「殴ると危ない」

 

「そうか」

 

「触っても危ない」

 

「そうか」

 

「熱もあんまり効かなかった」

 

「そうか」

 

「スタンド食べる」

 

「…………」

 

 そこで。

 

 承太郎が少しだけ横を見る。

 

「先に言え」

 

「今言った」

 

「最初にだ」

 

「殴ると危ないから言った」

 

「順番の話だ」

 

「細かい」

 

「てめーな……」

 

 花京院が二人の間に入る。

 

「喧嘩は後にしましょう。それよりリオ、その傷で戦い続けるのは危険です。ここからは僕たちもいます」

 

「戦えるよ」

 

「昨日も聞きました」

 

「今日は昨日より治ってる」

 

「さっき走って痛そうにしていたでしょう」

 

「見てたの?」

 

「見れば分かります」

 

 承太郎が帽子を押さえる。

 

「下がってろ」

 

「…………」

 

「昨日はてめーがやったんだろ」

 

「うん」

 

「なら今日は俺がやる」

 

 リオは承太郎を見る。

 

「順番制?」

 

「違う」

 

「じゃあ俺も――」

 

「邪魔だ」

 

 短い。

 

 リオが黙る。

 

「…………」

 

「何だ」

 

「言い方」

 

「事実だ」

 

「…………」

 

 リオは少し不満そうだった。

 

 だが。

 

 一歩下がった。

 

「分かった」

 

 花京院が少し驚く。

 

「素直ですね」

 

「承太郎」

 

「あ?」

 

「負けたら笑うから」

 

「好きにしろ」

 

「あと」

 

「まだあんのか」

 

「多分、普通に殴っても倒せないよ」

 

 承太郎の口元が。

 

 ほんの僅かに。

 

 上がる。

 

「だったら」

 

 背後。

 

 スタープラチナ。

 

 紫の巨体。

 

 圧倒的な存在感。

 

「普通じゃねえ殴り方を考えりゃいい」

 

「…………」

 

 リオが目を細める。

 

「脳筋」

 

「聞こえてんぞ」

 

「聞こえるように言った」

 

「後で覚えてろ」

 

     ◆

 

 ラバーソール。

 

 黄の節制。

 

 空条承太郎。

 

 スタープラチナ。

 

 向かい合う。

 

 リオは少し離れた壁際へ。

 

 花京院も隣に立つ。

 

「リオ」

 

「何?」

 

「ありがとうございます」

 

「何が?」

 

「僕の偽物を見つけてくれたことです」

 

「別に」

 

「それでもです」

 

「…………」

 

 リオは少し黙った。

 

「花京院」

 

「はい」

 

「昨日食べたやつ」

 

「?」

 

「一昨日の方が好きだったよね」

 

 花京院が瞬きをする。

 

 そして。

 

 少し笑った。

 

「ええ。覚えていたんですか?」

 

「覚えてるよ」

 

「そうですか」

 

「偽物は間違えた」

 

「それで見破った?」

 

「それだけじゃないけど」

 

「なるほど」

 

 花京院はラバーソールを見る。

 

「随分細かいところまで見ているんですね」

 

「…………」

 

「何です?」

 

「別に」

 

 今度は。

 

 リオが前を見る。

 

「始まるよ」

 

     ◆

 

「来い」

 

 承太郎。

 

 スタープラチナ。

 

 拳。

 

 ラバーソールの全身を。

 

 黄色い肉が覆っていく。

 

「ククク……!」

 

 黄の節制。

 

 イエローテンパランス。

 

「この俺の『黄の節制』に弱点はねえ!」

 

 承太郎は動かない。

 

「喰えるものなら」

 

 ラバーソールが笑う。

 

「喰ってみろって顔だなァ!」

 

「違うぜ」

 

「あ?」

 

「てめーを」

 

 承太郎の目が。

 

 鋭くなる。

 

「どうブチのめすか考えてただけだ」

 

 リオは。

 

 その横顔を見る。

 

「…………」

 

 昨日。

 

 自分も。

 

 似たことをした。

 

 能力が通じない。

 

 なら。

 

 別の方法を探す。

 

 ただ。

 

 承太郎が。

 

 自分と同じ答えを出すとは限らない。

 

 それが。

 

 少し。

 

 面白かった。

 

「花京院」

 

「はい?」

 

「承太郎って」

 

「はい」

 

「こういう時、楽しそうだね」

 

「…………」

 

 花京院は少し考えた。

 

「あなたも人のことは言えないと思いますよ」

 

「俺?」

 

「ええ」

 

「そうかな」

 

「そうですよ」

 

「…………」

 

 リオは否定しなかった。

 

 目の前。

 

 スタープラチナが。

 

 拳を握る。

 

 黄の節制が。

 

 蠢く。

 

 空条承太郎。

 

 対。

 

 ラバーソール。

 

 戦いは。

 

 ここからだった。




第十一話でした!

花京院。

一人。

偽花京院。

一人。

合計。

二人。

リオ「やっぱり二人いた」

そういう話じゃない。

というわけで、ついに登場。

黄の節制(イエローテンパランス)。

ラバーソールです。

今回はリオが偽花京院を見破る側になりました。

ただ、

「お前偽物だろ!」

でいきなり正解するのではなく。

昨日食べたもの。

昔の会話。

普段の言葉遣い。

一個なら気のせいで済む程度の違和感が、少しずつ積み重なっていく形です。

そして決定打。

偽花京院「仲間を信じたらどうです?」

リオ「…………」

そこなんだ。

リオ「花京院、俺のことあんまり仲間って言わないから」

理由が若干悲しい。

でもまあ。

本人が毎回、

「仲間になった覚えはない」

って言ってますからね。

そりゃ花京院もわざわざ言わない。

あと地味に、前日のどうでもよさそうな会話が役に立ちました。

花京院「僕は一昨日の方ですね」

リオ「じゃあ次から別々に買おう」

こんな会話。

誰が覚えてるんだ。

リオが覚えてました。

そして正体を見破った後は、黄の節制と少しだけ交戦。

殴らない。

触らない。

熱を試す。

効きが悪い。

リオ「最近、相性悪い相手多くない?」

作者もそう思う。

でも毎回ブラックサファイアで真正面から全部解決できたら、それはそれで困るんだ。

そして最後は。

承太郎、参戦。

リオ「強いよ、それ」

承太郎「そうか」

リオ「殴ると危ない」

承太郎「そうか」

リオ「触っても危ない」

承太郎「そうか」

リオ「スタンド食べる」

承太郎「先に言え」

ごもっとも。

今回は偽花京院発見から正体看破、黄の節制との接触まで。

承太郎VSラバーソールの本格戦は次回です。

リオは前回、自分が「能力が通じない相手」を攻略したばかり。

今度は承太郎が、単純に殴るだけでは危険な相手と戦います。

果たして承太郎はどうするのか。

まあ。

承太郎なので。

承太郎します。

何だそれ。

そして、ここまで読んでくださってありがとうございます!

十一話まで来て、リオも少しずつ星屑一行との距離が変わってきました。

「このシーン好きだった」

「このキャラとの掛け合い好き」

「リオってこう見える」

「ブラックサファイアの戦闘、ここが好き」

などなど。

何か思ったことがありましたら、感想を書いていただけると嬉しいです!

短い感想でも大歓迎です。

作者が喜んで読ませていただきます。

評価の方も、

もしよろしければポチッとしていただけると嬉しいです!

どちらも今後書いていく励みになります。

それでは次回!

空条承太郎VS黄の節制!

リオは横で見ています!

ポルナレフ「またかよ!」

リオ「昨日戦った」

……まあ。

今回は許してやってくれ。

昨日はちゃんと主人公してたから。
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