第十話。
ここまで来ました。
主人公、九話にしてようやくまともに単独戦を終えました。
怪我もしました。
能力も攻略されかけました。
関節も極めました。
リオ「最後のは俺がやった側だけど」
そうだった。
というわけで今回は。
戦闘――
ありません。
リオ「…………」
ブラックサファイア「…………」
いや休め。
昨日あれだけ戦っただろ。
たまには普通に飯食って、街歩いて、何も起きない一日があってもいいじゃない。
何も。
起きない。
一日が。
リオ「それ言うと起きそう」
気のせいです。
たぶん。
翌日。
シンガポール。
朝食の席で、リオはパンを三つ取った。
少し考えて。
四つ目も取った。
ジョセフが見ている。
「…………」
「…………」
リオは四つ目を戻した。
「何も言っとらんぞ」
「顔が言ってた」
「何と」
「遠慮しろって」
「怪我人なんじゃから食え」
「じゃあ取る」
四つ目を取った。
五つ目も取った。
「増えとるじゃろ」
「怪我人だから」
「便利な言葉を覚えたのう」
向かいで承太郎がコーヒーを飲んでいる。
ポルナレフが新聞を広げている。
花京院が果物を切っている。
アヴドゥルは静かだった。
昨日。
リオはDIOの刺客と戦った。
壁が壊れた。
窓も壊れた。
街灯も壊れた。
リオも少し壊れた。
そして今日は。
「…………」
パンを食べる。
「平和だね」
誰も反応しなかった。
「…………」
もう一口。
「平和だね」
「二回言うな」
承太郎だけ反応した。
◆
「今日は安静じゃ」
食後。
ジョセフが言った。
「分かった」
「本当に?」
「うん」
「一人で出歩くなよ」
「分かった」
「敵を見つけても追うな」
「分かった」
「怪しい路地にも入るな」
「分かった」
「喧嘩もするな」
「分かった」
「…………」
「…………」
「妙に素直じゃな」
「信用ないんだね、俺」
「昨日一日でなくした」
「昨日まではあったんだ」
「…………」
ジョセフは答えなかった。
「なかったんだ」
◆
三十分後。
リオは街にいた。
隣には花京院がいる。
「安静では?」
「歩くくらいならいいって」
「ジョースターさんが?」
「俺が」
「でしょうね」
二人で歩く。
シンガポールの街は朝から人が多かった。
車。
露店。
観光客。
聞き慣れない言葉。
漂ってくる食べ物の匂い。
リオが一軒の店を見る。
「…………」
「食べたいんですか?」
「見てただけ」
「そうですか」
二十秒後。
二人は店の前にいた。
「…………」
「食べたいんですね」
「うん」
◆
買った。
名前は分からない。
花京院も分からなかった。
「美味しい?」
「まだ食べてません」
「毒だったら?」
「普通、売り物に毒は入ってませんよ」
「スタンドかも」
「昨日までなら否定していました」
「今日は?」
「否定しきれません」
「成長したね」
「嫌な方向に」
二人で食べる。
「…………」
「…………」
「美味しいですね」
「うん」
それだけだった。
何も起きない。
爆発しない。
襲ってこない。
人間にも変身しない。
リオは食べ物を見る。
「本当にただの食べ物だった」
「少し残念そうですね」
「安心してる」
「そうは見えませんでした」
◆
少し先。
承太郎とポルナレフがいた。
「何してるの」
リオ。
「買い物だ」
承太郎。
「承太郎が?」
「俺が買い物しちゃ悪いのか」
「何買った?」
「…………」
「…………」
「何で黙るの」
「てめーに関係ねえ」
リオが袋を見る。
承太郎が袋を後ろへ隠した。
「…………」
「…………」
リオが右へ動く。
承太郎も右へ。
左。
左。
右。
右。
ポルナレフが二人を眺める。
「何やってんだお前ら」
「別に」
二人同時だった。
「仲良いなお前ら」
「よくない」
また同時だった。
沈黙。
承太郎が歩き出した。
リオも反対方向へ歩き出した。
花京院がポルナレフを見る。
「触れない方がいいでしょう」
「ああ」
◆
昼。
五人で店に入った。
ジョセフとアヴドゥルは別行動だった。
料理を待つ。
ポルナレフが暇そうにテーブルを叩いている。
リオは窓の外を見ている。
承太郎は黙っている。
花京院がメニューを読んでいる。
「…………」
リオが言った。
「普通だね」
「何がです?」
「今日」
「普通?」
「誰も襲ってこない」
「まだ昼だぞ」
ポルナレフが言った。
「夕方なら来る?」
「そういう意味じゃねえ」
「夜?」
「時間帯の問題じゃねえよ」
「じゃあ大丈夫か」
「何でそうなる」
そこで会話が終わった。
料理が来た。
◆
しばらくして。
リオが箸を止める。
「花京院」
「はい」
「昨日の敵」
「ええ」
「もし攻略できなかったら、どうしたと思う?」
「僕に聞くんですか?」
「うん」
花京院は少し考えた。
「周囲への被害を無視して、最大出力で攻撃した」
「…………」
「違いますか?」
「分からない」
「分からない?」
「本当に他に方法がなかったら」
リオは水を飲む。
「やってたかもしれない」
ポルナレフの手が止まった。
承太郎だけは変わらない。
「でも、しなかった」
花京院。
「必要なかったから」
「それだけですか?」
「それだけ」
「…………」
花京院はリオを見る。
リオは料理を見る。
「これ美味しいね」
「…………」
「何?」
「いえ」
花京院も食事へ戻った。
「確かに美味しいですね」
ポルナレフだけが二人を見る。
「お前ら、今の話それで終わんの?」
「終わったけど」
「終わりましたね」
「…………」
「俺がおかしいのか?」
承太郎が答えた。
「今さら気づいたのか」
「テメーは黙ってろ!」
◆
午後。
再び街へ出る。
リオは前を歩いていた。
ふと。
人混みの中に。
見覚えのある横顔があった。
「…………」
黒髪。
学生服。
花京院。
角を曲がる。
消えた。
リオが隣を見る。
花京院がいる。
「…………」
「どうしました?」
「今」
「はい」
「向こうに花京院いた」
「僕はここにいますよ」
「うん」
「…………」
「…………」
「見間違いでは?」
「多分」
歩き出す。
三歩。
「花京院」
「はい」
「分身できる?」
「できません」
「そう」
また歩く。
「…………」
「…………」
「なぜ聞いたんです?」
「できたら便利だなと思って」
「誤魔化す気あります?」
「ちょっと」
「ちょっとなんですね」
花京院が振り返る。
だが。
そこにはもう。
誰もいなかった。
◆
その日のリオは。
久しぶりに。
ほとんど何もしていない。
朝食を食べた。
街を歩いた。
知らないものを食べた。
承太郎の買い物袋を覗こうとした。
昼食を食べた。
それだけ。
昨日のような戦いもない。
DIOの刺客もいない。
だから。
たぶん。
今日は平和なのだろう。
――少し離れた路地裏。
一人の男が鏡を覗いていた。
鏡の中にいるのは。
男ではない。
黒髪。
学生服。
花京院典明。
「ククク……」
花京院の顔が笑う。
頬の端から。
黄色い液体が。
ぬるり。
と這い出した。
男は指でそれを撫でる。
「さて」
笑う。
「どちらから喰ってやろうか」
その頃。
リオは。
「もう一個買えばよかった」
朝食のパンについて考えていた。
第十話でした!
二桁突入!
ここまで読んでくださっている方、本当にありがとうございます。
そして記念すべき十話で主人公がしたこと。
パン食べた。
街歩いた。
知らないもの食べた。
承太郎の買い物袋を覗こうとした。
昼飯食べた。
パンのこと考えた。
十話記念回とは。
前回あれだけ「主人公が戦った!」と騒いだ反動です。
何気に好きなのが承太郎との買い物袋の攻防。
右。
右。
左。
左。
リオ「別に」
承太郎「別に」
ポルナレフ「仲良いなお前ら」
二人「よくない」
仲良いじゃねえか。
あと、前回の戦いについて少しだけ。
「本当に他に方法がなかったら、周囲ごと攻撃していたかもしれない」
この辺はリオの倫理観ですね。
助けられるなら助ける。
無駄に巻き込む必要もない。
でも「絶対に犠牲を出さない」という線を引いているわけでもない。
そして本人たちはその話をした直後に、
「これ美味しいね」
で終わります。
ポルナレフ「お前ら今の話それで終わんの?」
ありがとうポルナレフ。
読者の代わりに言ってくれた。
さて。
そんなわけで今回はタイトル通り、
『普通の一日』
でした。
普通に朝食を食べて。
普通に街を歩いて。
普通に昼食を食べて。
普通に花京院が二人いました。
…………。
花京院が二人いました。
リオ「分身できる?」
花京院「できません」
でしょうね。
そして最後。
謎の花京院。
黄色い何か。
笑う男。
原作をご存じの方は、
あっ。
となっている頃でしょう。
リオ。
パンの心配してる場合じゃないぞ。
次回。
普通の一日は、
たぶん終わります。
そして最後に。
今回で無事、第十話まで来ることができました!
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
もし、
「ここ好きだった!」
「この掛け合い好き」
「リオ、お前もうちょっと働け」
「ここはこうした方がジョジョっぽいかも?」
などなどありましたら、感想を書いていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。
評価の方も、
ポチッとしていただけるとさらに喜びます。
感想も評価も、今後書いていく上でかなり励みになります!
もちろん、読んでいただけるだけでもありがたいです。
これからもリオと星屑一行の旅にお付き合いいただければ嬉しいです!
それでは次回!
リオ「次は誰が戦うの?」
知らん。
リオ「作者だろ」
原作に聞いてくれ。