花京院が二人いました。
正確には、
花京院が一人。
偽花京院が一人。
リオ「やっぱり二人いた」
そういう話じゃない。
そして偽花京院の正体は――
黄の節制。
殴ると危ない。
触っても危ない。
スタンドまで喰ってくる。
リオ「熱もあんまり効かなかった」
承太郎「先に言え」
というわけで。
昨日はリオ。
今日は承太郎。
リオ「負けたら笑うから」
承太郎「やかましい」
それでは第十二話。
殴れないなら。
「昨日はてめーがやったんだろ」
空条承太郎は、帽子のつばを下げた。
「なら今日は俺がやる」
「順番制?」
「違う」
リオ・ブランドーは少し考えて。
一歩、下がった。
「じゃあ任せる」
「最初からそうしろ」
「負けたら笑うから」
「やかましい」
そのやり取りを聞きながら。
男――ラバーソールは。
笑っていた。
「ククク……」
黄色い粘液。
黄の節制。
イエローテンパランス。
それが男の身体を覆っていく。
「ずいぶん余裕じゃあないか……空条承太郎」
承太郎は答えない。
「そこのブランドーとかいうガキから聞いたんだろう? 俺の能力を」
「ガキ」
リオが呟く。
「そこ気にするんですか?」
隣の花京院が聞く。
「一応」
「今は戦闘中ですよ」
「知ってる」
ラバーソールがリオを指差す。
「そいつは逃げた!」
「…………」
「俺の黄の節制を前にして、何もできずになァ!」
「逃げたね」
「認めるのかよ!」
「危なかったから」
「…………」
ラバーソールの方が一瞬黙った。
リオは気にせず続ける。
「殴ったら危ない。触っても危ない。熱を動かしても表面にしか効かなかった。怪我も残ってた」
「だから逃げたと?」
「うん」
「プライドはないのか!」
「死ぬよりはあるよ」
「…………」
「それに」
リオは承太郎を見る。
「続きやる人いるし」
「勝手に押しつけんじゃねえ」
「嫌?」
「そうは言ってねえ」
「じゃあいいだろ」
「よくねえ」
ラバーソールの額に青筋が浮かんだ。
「てめーら……」
黄色い肉塊が。
蠢く。
「俺を無視してんじゃあねえぞッ!」
黄の節制。
伸びる。
承太郎へ。
「承太郎」
「分かってる」
スタープラチナ。
現れる。
拳。
だが。
「殴ると――」
「うるせえ」
「…………」
リオが口を閉じた。
拳。
直撃。
「オラァッ!」
黄の節制が大きく歪む。
ラバーソールの身体が後方へ押される。
しかし。
「クク……」
黄色い粘液が。
スタープラチナの拳へ。
絡みつく。
「だから言ったのに」
「うるせえっつってんだろ」
承太郎が即座に腕を引く。
付着した部分を振り払う。
「ハハハハハ!」
ラバーソールが笑った。
「無駄無駄! 俺の黄の節制に直接攻撃は通用しねえ!」
「…………」
リオの目が。
少し細くなる。
昨日。
自分も試した。
ブラックサファイアの拳で直接触れることは避けた。
だが、黄の節制そのものが攻撃と防御を兼ねていることは確認している。
触れれば。
喰われる。
殴っても。
その衝撃を柔らかい肉のように受け流す。
「最強だ!」
ラバーソールが両腕を広げる。
「俺の黄の節制は完全な防御! そして触れたものを喰らい、どんどん成長する!」
「完全」
リオが呟く。
「そういうこと言う奴、だいたい負けるよね」
花京院が横を見る。
「今それを本人に言いますか?」
「聞こえた方がいいかなって」
「聞こえてるぞブランドー!」
「よかった」
「よくないでしょう」
◆
ラバーソールが動いた。
黄の節制が腕のように伸びる。
承太郎。
回避。
地面へ。
黄色い肉が張りつく。
「チッ!」
さらに。
横。
上。
複数方向。
スタープラチナが承太郎の身体を引く。
「なるほど」
リオ。
「何がです?」
「攻撃そのものは速い。でも本体の動きはそれほどでもない」
「ええ。黄の節制で身体を覆っている分、防御に重点を置いているようにも見えます」
「じゃあ本体だけ殴ればいい」
「それができれば苦労はしないでしょう」
「そうなんだよね」
黄色い肉。
身体を。
ほぼ完全に覆っている。
防御を抜くには。
黄の節制そのものへ触れなければならない。
触れれば。
喰われる。
「…………」
リオは腕を組んだ。
「面倒」
「あなたも昨日そう思ったんでしょう?」
「思った」
「では、どうするつもりだったんです?」
「まだ考えてた途中」
リオは黄の節制を見る。
「まず、どこまでエネルギーを処理できるか試す」
「熱は効きにくかったのでは?」
「表面だけならね。もっと局所的に温度差を作るとか、振動を使うとか。あとは本体が中にいるなら――」
そこで。
リオが止まった。
「いや」
「?」
「それも多分、警戒される」
ラバーソールは。
リオの能力を。
すでに少し見ている。
なら。
ブラックサファイアで正面から能力の穴を探すより。
別の方法。
「…………」
リオが承太郎を見る。
「承太郎はどうするんだろ」
◆
「どうしたァ!」
ラバーソールが叫ぶ。
「自慢のスタープラチナも俺の黄の節制には手も足も出ねえようだな!」
「…………」
「殴れば殴るほど喰われる! 触れれば俺の餌になる!」
承太郎は。
黙っている。
「オラオラはどうしたァ!?」
「…………」
「さっきから逃げてばかりじゃあねえか!」
「…………」
リオが。
じっと承太郎を見る。
「何です?」
花京院。
「いや」
「何か気づきましたか?」
「承太郎」
少し間。
「怒ってるなって」
「…………」
「そこですか」
「結構大事だよ」
承太郎のこめかみに。
青筋。
浮かんでいた。
「言いたいことはそれだけか?」
「あ?」
承太郎が。
初めて。
ラバーソールを見る。
「てめーの能力が無敵だの、最強だの」
帽子のつば。
下げる。
「さっきからうるせえんだよ」
「なんだと?」
「殴れねえなら」
承太郎が。
周囲を見る。
「殴れるようにすりゃあいい」
「…………?」
リオの目が。
動いた。
◆
戦場が移る。
追う。
追われる。
黄の節制が。
承太郎を執拗に狙う。
そして。
水。
「…………」
リオが足を止めた。
「水?」
花京院も。
承太郎を見る。
ラバーソールは気づいていない。
いや。
気づいていても。
意味を理解していない。
「逃げ場はねえぞ承太郎ォ!」
黄の節制。
迫る。
承太郎が。
動く。
スタープラチナ。
ラバーソールを。
掴む。
「なっ――」
そのまま。
水中へ。
「――ッ!?」
水飛沫。
「…………」
リオが。
目を瞬いた。
「そういうこと?」
◆
黄の節制。
無敵の防御。
殴られても。
衝撃を吸収する。
触れたものを。
喰らう。
だが。
スタンド能力が。
どれほど強くても。
本体は。
人間。
呼吸が必要。
水中。
ラバーソールの動きが。
変わる。
「ごぼっ……!」
黄の節制が。
揺らぐ。
防御。
呼吸。
両方。
維持。
できない。
「…………」
リオは。
水面を見ながら。
黙っていた。
「リオ?」
花京院。
「…………」
「どうしました?」
「いや」
「はい」
「俺」
少し考える。
「黄の節制そのものをどう突破するか考えてた」
「ええ」
「承太郎」
水面。
激しく揺れる。
「能力、攻略してないね」
「…………」
花京院も。
少し考えた。
「本体を攻略していますね」
「…………」
「そうですね」
「何か嫌だな」
「何がです?」
「正しい」
リオが。
ほんの少し。
嫌そうな顔をする。
「俺だったら、あの黄色いのをどうにかしようとする」
「承太郎は、どうにかする必要がないと判断した」
「うん」
「…………」
「頭いいのかな」
「いいと思いますよ」
「力技じゃない?」
「それも否定しません」
「両方?」
「おそらく」
「一番嫌なやつだ」
「本人に聞こえたら怒られますよ」
「聞こえてないから大丈夫」
◆
水面。
爆ぜる。
ラバーソールが。
飛び出した。
「ハァッ! ハァッ……!」
息。
乱れている。
黄の節制。
さっきまでの。
完全な防御ではない。
「き……貴様ァ……!」
「どうした」
承太郎。
立つ。
「自慢の無敵は」
「…………!」
「息までは作ってくれねえらしいな」
「承太郎」
リオ。
「何だ」
「今のちょっと格好いい」
「黙ってろ」
「はい」
ラバーソールが。
後退。
「ま、待て!」
さっきまでの余裕。
ない。
「取引だ!」
「…………」
「DIO様の情報を教える!」
リオの表情が。
変わった。
花京院も。
承太郎を見る。
「…………」
ラバーソールは。
それを見逃さない。
「そうだ! お前たちはDIO様を追っているんだろう!?」
「…………」
「なら俺を殺すな! 情報を――」
「喋れ」
承太郎。
短く。
「知ってること全部だ」
◆
ラバーソールは。
喋った。
DIOの配下。
刺客。
スタンド使い。
これから先。
彼らを待つ者たち。
全てを知っているわけではない。
だが。
断片。
名前。
特徴。
危険。
承太郎たちは。
黙って聞く。
リオも。
いつもの軽口を挟まない。
そして。
「……以上だ!」
ラバーソール。
必死に言う。
「俺が知っているのはそれだけだ!」
「…………」
リオが。
一歩。
前へ出た。
「一個いい?」
「な、なんだ?」
「DIO」
「…………」
「DIOの昔の名前」
ラバーソールが。
眉を寄せる。
「昔の……?」
「ディオ・ブランドー」
「…………」
反応。
薄い。
知らない。
少なくとも。
その名前に。
意味のある反応はない。
「知らない?」
「何の話だ?」
「そう」
リオは。
それ以上聞かなかった。
「もういい」
「…………」
ほんの少しだけ。
残念そうに。
◆
「これでいいだろ!?」
ラバーソールが叫ぶ。
「情報は喋った! だから――」
「そうだな」
承太郎。
「じゃあ」
ラバーソールの顔に。
安堵。
「助け――」
「てめーがやったこととは別の話だ」
「…………」
「え?」
スタープラチナ。
現れる。
「ちょ、ちょっと待て!」
「…………」
「情報を喋っただろ!?」
「聞いた」
「なら!」
「それでチャラになるなんて」
承太郎。
帽子を下げる。
「誰が言った?」
「――!」
「オラァ!」
拳。
今度は。
届く。
「ぐぶッ!」
ラバーソールの身体が。
大きく浮く。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――ッ!!」
連打。
「オラァッ!!」
吹き飛ぶ。
静寂。
「…………」
リオ。
見ていた。
「…………」
花京院。
見ていた。
「…………」
「リオ」
「何?」
「笑わないんですか?」
「…………」
リオは。
倒れたラバーソールを見る。
承太郎を見る。
「笑えなかった」
「当たり前だ」
承太郎が答える。
「ちょっと残念」
「次はてめーを殴るぞ」
「やめとく」
◆
三人。
歩く。
少し遅れて。
リオが承太郎を見る。
「ねえ」
「何だ」
「最初から水に落とすつもりだった?」
「途中からだ」
「いつ気づいた?」
「てめーが言っただろ」
「何を?」
「本体の動きはそれほどでもねえって」
「…………」
リオが止まった。
承太郎は歩き続ける。
「聞いてたんだ」
「あ?」
「俺と花京院の話」
「聞こえてただけだ」
「ふーん」
「何だ」
「別に」
また歩き出す。
「俺なら、あのスタンド自体をどうにかしようとしてた」
「だろうな」
「…………」
「何?」
「何で分かるの?」
「てめーはそういう奴だからだ」
「どういう奴?」
「目の前に問題があったら、そいつを解こうとする」
「普通じゃない?」
「普通だな」
「じゃあ」
「だが」
承太郎が。
少しだけ。
振り返る。
「解く必要のねえ問題まで解こうとする」
「…………」
リオ。
黙る。
花京院が。
小さく笑った。
「言い得て妙ですね」
「花京院?」
「僕も少し思っていました」
「いつから?」
「割と最初から」
「…………」
「だから」
承太郎。
「無敵だってんなら、無敵のまま放っときゃいい」
「本体を狙う」
「そういうことだ」
リオは。
少し考えた。
「…………なるほど」
「珍しく素直だな」
「俺、いつも素直だよ」
「それはねえ」
「花京院?」
「僕に振らないでください」
◆
しばらく歩いて。
リオが。
ふと。
「でも」
「何だ」
「殴れない相手を水に沈めて弱らせて」
「…………」
「最後は結局殴るんだね」
「…………」
承太郎が止まる。
花京院も。
止まる。
「何?」
「てめー」
「うん」
「それ言いたかっただけだろ」
「途中で思いついた」
「…………」
「承太郎」
「何だ」
「やっぱり脳筋?」
「オラァ!」
「危なっ」
リオが避ける。
「何で俺!?」
「うるせえ!」
「事実確認しただけだろ!」
「確認方法がムカつくんだよ!」
花京院は。
二人の少し後ろを歩きながら。
小さく息を吐いた。
「……仲がいいな」
「よくない!」
「よくない」
今度だけは。
二人の答えが。
綺麗に重なった。
◆
こうして。
黄の節制。
ラバーソールとの戦いは終わった。
リオ・ブランドーは。
昨日。
自分の能力が通じにくい相手と戦い。
能力を使うことそのものをやめて。
勝った。
そして今日。
空条承太郎は。
殴ることのできない相手と戦い。
相手の能力そのものを攻略することをやめて。
勝った。
似ている。
だが。
違う。
リオは。
その違いを。
少しだけ。
面白いと思った。
もっとも。
本人には。
言わなかった。
「承太郎」
「今度は何だ」
「お腹減った」
「知るか」
「花京院」
「僕も少し空きました」
「じゃあ何か食べよう」
「最初から俺に聞くな」
「一応」
「何の一応だ」
いつものように。
くだらない会話をしながら。
三人は。
歩いていく。
エジプトまでは。
まだ遠い。
そして。
彼らを待つスタンド使いも。
まだ。
いくらでもいた。
黄の節制戦、決着!
リオ「殴ると危ない」
承太郎「分かった」
リオ「触っても危ない」
承太郎「分かった」
リオ「熱もあんまり効かなかった」
承太郎「分かった」
そして出てきた回答。
水に沈める。
リオ「そういうこと?」
そういうことです。
今回は前回とは逆に、リオはほぼ観戦側。
第九話ではリオがサイレント・ランニングを相手に、
「能力で勝てないなら、能力で攻撃するのをやめる」
という答えを出しました。
対して今回は承太郎。
黄の節制そのものをどう突破するかではなく、
「本体が人間なら呼吸は必要だろ」
という方向から攻めました。
リオはどうしても目の前にある能力を解析して、そこから突破口を探そうとします。
承太郎は必要なら、そもそもその問題を解きません。
リオ「頭いいのかな」
花京院「いいと思いますよ」
リオ「力技じゃない?」
花京院「それも否定しません」
リオ「一番嫌なやつだ」
たぶん両方です。
そして最終的には。
オラオラします。
結局それか。
あと今回、リオはラバーソールにもDIOについて少し聞いています。
ただし。
リオ「ディオ・ブランドー」
ラバーソール「誰だそれ」
また何も分かりませんでした。
主人公の出生情報。
進捗、ほぼゼロ。
まあ、まだ十二話ですからね。
焦らず行きましょう。
そして、ここまで読んでくださってありがとうございます!
十二話まで来て、リオ自身の戦闘だけでなく、他のキャラクターがどう戦うのかをリオが見る場面も少しずつ増えてきました。
「リオと承太郎のここ好き」
「今回の戦闘はここがよかった」
「この掛け合い好きだった」
など、何かありましたら感想を書いていただけると嬉しいです!
短い感想でも大歓迎です。
評価の方も、もしよろしければポチッとしていただけると嬉しいです!
それでは次回。
エジプトへの旅はまだまだ続く。
リオ「次は普通の敵がいい」
ポルナレフ「お前、それ前も似たようなこと言ってなかったか?」
リオ「普通のスタンド使い」
ジョセフ「その時点でもう普通じゃないんじゃが」
……ごもっとも。
次回もよろしくお願いします!