黄の節制との戦い。
殴れば喰われる。
触っても喰われる。
熱もあまり効かない。
リオ「面倒だね」
そして承太郎が出した答え。
リオ「能力そのものを攻略しないんだ」
そう。
無敵なら。
別に無敵のままでもいい。
本体まで無敵とは限らないのだから。
リオ「最後は結局殴ってたけど」
承太郎「うるせえ」
さて。
そんなこんなで旅を続ける一行ですが。
ここで一つ、非常に重要なことを確認しておきましょう。
リオ・ブランドー。
17歳。
素性不明。
両親不明。
出身地不明。
DIOと同じ名字。
強力なスタンド持ち。
香港で突然現れて、そのまま勝手についてきました。
…………。
怪しくない?
リオ「俺でもそう思う」
自覚あったんだ。
それでは第十三話。
信用されていない。
シンガポールを発つ日の朝。
リオ・ブランドーは、ホテルの廊下で立ち止まっていた。
「…………」
目の前には扉がある。
別に怪しい扉ではない。
普通の扉だ。
昨日までなら、それで終わっていた。
「…………」
リオはノブに手を伸ばした。
止めた。
少し考える。
もう一度伸ばす。
「何をしているんです?」
後ろから声がした。
振り返る。
花京院だった。
「扉を開けようとしてる」
「見れば分かります」
「じゃあ聞かなくていいだろ」
「扉を開けるだけの人間は、普通そこまで警戒しませんよ」
リオは扉を見る。
花京院も見る。
「……人形が襲ってきた」
「ええ」
「船も襲ってきた」
「ええ」
「花京院も襲ってきた」
「僕ではありません」
「見た目は花京院だった」
「そこは訂正しておきます」
「つまり」
リオは扉を指差した。
「扉が襲ってきても、そんなに驚かない」
「驚いてください」
「分かった」
リオはノブを回した。
何も起こらなかった。
扉が開く。
「…………」
「…………」
「普通の扉だね」
「だから何なんですか、この確認作業は」
二人は部屋へ入った。
◆
「遅いぞ!」
ジョセフの第一声だった。
部屋には既に承太郎、アヴドゥル、ポルナレフが揃っている。
テーブルには地図。
荷物もまとめられていた。
どうやら今後の経路について話していたらしい。
「すみません。リオが扉と戦っていまして」
「戦ってない」
「扉と?」
ポルナレフが聞き返した。
「勝った?」
「だから戦ってない」
「なら引き分けか」
「なんでそうなるの?」
「くだらねえこと言ってねーで座れ」
承太郎に言われ、リオは空いている椅子へ座った。
花京院もその隣へ。
ジョセフは全員を見回してから、地図を指で叩いた。
「さて。ラバーソールの奴から大した情報は得られんかった。DIOについても、リオについてもな」
「俺については聞いてないよ」
「お前が聞いたじゃろうが!」
「聞いたけど、知らなかった」
「それを『得られなかった』と言うんじゃ!」
「なるほど」
「お前さん、時々わざとやっとるじゃろ」
「何を?」
「…………もういい」
ジョセフは額を押さえた。
アヴドゥルが地図へ視線を戻す。
「問題はここからだ。敵は我々の現在地を把握している可能性が高い。ラバーソールだけで終わるとは考えない方がいい」
「当然だな」
花京院が頷いた。
「これまでの刺客を見る限り、能力の傾向にも統一性がありません。単純な戦闘能力だけを警戒しても意味がないでしょう」
「船そのものがスタンドだったくらいだからな」
ポルナレフが椅子にもたれかかる。
「次は何だ? ホテルか?」
「それはもう言った」
「お前は黙ってろ。怖くなる」
「車とか」
「黙れって言ってんだろ!」
リオは口を閉じた。
数秒。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……何じゃ、この沈黙は」
「黙れって言われたから」
「極端なんじゃよ!」
承太郎が帽子のつばを下げた。
「やれやれだぜ」
話は続いた。
次の目的地。
移動手段。
DIOの刺客。
そして――
「もう一つ」
ジョセフの声が変わった。
リオは顔を上げる。
老人の指が地図から離れていた。
「リオ」
「何?」
「お前さんのことじゃ」
部屋の空気が、ほんの少し変わった。
ポルナレフが黙る。
花京院も口を挟まない。
アヴドゥルだけが静かにリオを見ている。
「…………」
リオは椅子の背にもたれた。
「俺?」
「そうじゃ」
ジョセフは腕を組んだ。
「最初に会った時にも確認した。じゃが、状況はあの時より変わっとる」
「どこが?」
「お前さんがDIOの部下ではない可能性は、かなり高くなった」
「良かったね」
「最後まで聞け」
「はい」
「じゃが――だからといって、お前さんを信用したわけではない」
静かだった。
廊下の向こうを誰かが歩いていく。
足音が遠ざかる。
リオはジョセフを見た。
「うん」
それだけだった。
ジョセフの眉が動く。
「……それだけか?」
「他に何かある?」
「いや……もう少し反応するかと思ったんじゃが」
「例えば?」
「怒るとか」
「なんで?」
本当に分からないらしい。
リオは首を傾げた。
「俺だって、会って数日の人間を信用してないよ」
「…………」
「お互い様じゃない?」
ポルナレフが口を開きかける。
だが、何も言わなかった。
代わりにアヴドゥルが尋ねた。
「我々とこれだけ行動していてもか?」
「行動してることと信用してることは別だろ」
リオは淡々と答えた。
「承太郎は強い。花京院は頭がいい。アヴドゥルは俺よりスタンドについて知ってる。ジョセフは金を払ってくれる」
「最後!」
「重要だよ」
「ワシだけ評価がおかしくないか!?」
「あと経験がある」
「後付け感がすごいぞ!」
リオは少し考えた。
「ポルナレフは――」
「待て」
ポルナレフが手を上げる。
「なんで俺だけ考える時間が必要なんだ」
「…………」
「おい」
「面白い」
「もっと他にあるだろ!?」
リオは考えた。
「銀の戦車が速い」
「俺自身を褒めろよ!」
「髪型が特徴的」
「もういい!」
そこで僅かに空気が緩んだ。
だが。
ジョセフの顔から警戒が完全に消えたわけではない。
「……お前さんは、それでいいのか?」
「何が?」
「信用されておらんことじゃ」
「別に」
即答だった。
「信用って、頼んだらしてもらえるものなの?」
ジョセフが黙る。
「俺がDIOと同じ名字で、どこで生まれたのかも分からなくて、スタンドを持ってて」
リオは一本ずつ指を折った。
「そのうえ、勝手についてきてる」
最後の指を折る。
「俺でも怪しいと思う」
「自覚あったのかよ……」
ポルナレフが呟いた。
「あるよ」
「あるならもう少しどうにかしろ!」
「どうやって?」
「もっとこう……『僕は怪しくありません』って感じを出すとか!」
「僕は怪しくありません」
「今のでさらに怪しくなったな」
花京院が冷静に言った。
「難しいね」
「そういう問題ではないと思います」
ジョセフはしばらくリオを見ていた。
やがて、小さく息を吐いた。
「……まあええ」
それ以上は追及しなかった。
だが、リオには分かっていた。
本当に「まあええ」と思ったわけではない。
ただ、今ここで話しても答えが出ない。
そう判断しただけだ。
それでいい。
リオ自身にも答えがないのだから。
◆
荷物をまとめ、ホテルを出る。
リオの荷物は相変わらず少なかった。
ポルナレフがそれを横目で見る。
「お前、ほんとにそれだけなんだな」
「うん」
「着替えは?」
「ある」
「何枚?」
「必要な分」
「だから何枚だよ」
「必要な分」
「会話する気ある?」
「あるよ」
「じゃあ数字で答えろ!」
前を歩いていた承太郎が振り返る。
「うるせえ」
「なんで俺だけ!?」
「声がでけーからだ」
「こいつがまともに答えねえからだろ!」
「俺は答えてる」
「答えてねえ!」
リオは自分の鞄を見る。
そして、ふと思い出した。
「そういえば」
「今度は何だよ」
「ホテル代」
少し前を歩いていたジョセフの肩が動いた。
「…………」
「結局いくらだったの?」
「知らんでいい」
「なんで?」
「お前さんが知ったところで払えんじゃろ」
「払えない」
「即答するな!」
「じゃあなんで聞いたの?」
「普通はそこで申し訳なさそうにするんじゃ!」
リオは考えた。
「…………ありがとう」
ジョセフが止まった。
前回と同じだった。
妙なところで。
リオは素直に礼を言う。
「……お、おう」
「どういたしましてって言わないの?」
「今言おうとしたわ!」
リオは少しだけ笑った。
それを見ていたアヴドゥルは、何も言わなかった。
◆
街を抜ける途中。
一行は必要な物資を買い足した。
水。
保存の利く食料。
医薬品。
その他、旅に必要なもの。
リオは少し離れた場所から、ジョセフと店員のやり取りを眺めていた。
「手伝わないんですか?」
花京院が隣に来る。
「何を?」
「荷物を持つとか」
「まだ買ってる途中だよ」
「終わったら?」
「持つよ」
「意外ですね」
「俺を何だと思ってるの?」
「ホテル代を払ってもらっている人です」
「…………」
「食事代も」
「…………」
「船代もですね」
「花京院」
「はい」
「最近、性格悪くなった?」
「誰かの影響かもしれません」
リオは少し考えた。
視線の先では、ジョセフが値段について店員と何か話している。
「……あのさ」
「はい」
「さっきの話」
「ジョースターさんの?」
「うん」
花京院は続きを待った。
「花京院も、俺のこと信用してない?」
思ったより真っ直ぐな質問だった。
花京院はすぐには答えなかった。
リオも急かさない。
「完全には」
やがて。
花京院はそう答えた。
「そう」
「ですが」
「?」
「それはあなたに限った話でもありません」
リオが見る。
「人間を完全に理解することなど、そう簡単にはできません。まして、あなたとはまだ出会って間もない」
花京院は少しだけ笑った。
「だから、今のところは見ています」
「何を?」
「あなたが何を選ぶ人なのかを」
「…………」
「名前ではなく」
リオは黙った。
ブランドー。
その名字が頭をよぎる。
「……面倒だね」
「何がです?」
「信用されるの」
「そういうものですよ」
「金払ったら?」
「ジョースターさんを見習って、もう少しお金を大切にしてください」
「ないけど」
「では不可能ですね」
「厳しい」
二人のところへ承太郎が来た。
両手に荷物を持っている。
リオが一本受け取った。
「何話してた?」
「信用について」
「くだらねえ」
「承太郎は俺を信用してる?」
「してねえ」
即答。
「早いね」
「妙な真似したらぶちのめす。それだけだ」
「分かりやすい」
「だろうな」
承太郎は歩いていく。
リオはその背中を見る。
「……花京院」
「はい」
「承太郎方式でいい気がしてきた」
「おすすめはしません」
◆
その日の午後。
移動の準備を終えた一行は、次の土地へ向かっていた。
窓の外の景色が流れていく。
リオは頬杖をつきながら、それを眺めていた。
少し離れたところでは、ジョセフとアヴドゥルが小声で話している。
リオには聞こえない。
聞こうとも思わなかった。
「…………」
やがて。
ジョセフが席を立った。
アヴドゥルだけが残る。
その表情は険しかった。
◆
「どう思う?」
少し前。
ジョセフはアヴドゥルにそう尋ねていた。
「リオのことか?」
「ああ」
ジョセフは声を落とす。
「DIOと同じブランドー。偶然で済ませるには、どうにも引っかかる」
「本人が嘘をついていると?」
「……分からん」
それが一番厄介だった。
「嘘をついているようには見えん。じゃが、嘘をついていないから安全とも限らん」
アヴドゥルは静かに頷く。
「本人すら知らない何かがある可能性か」
「ああ」
二人の視線が。
遠くのリオへ向く。
少年は窓の外を見ている。
何も知らない顔で。
「DIOの奴が、あの少年を見た時に何をするか」
ジョセフが呟いた。
「それが分からん」
「……ジョセフ」
「ん?」
「もしリオが我々の敵になったら、どうする」
短い沈黙。
ジョセフは答えた。
「止める」
迷いはなかった。
「必要なら、ワシらの手でな」
「…………」
「じゃが」
ジョセフはもう一度リオを見る。
「そうならんことを願っとるよ」
◆
リオは知らない。
そんな話をされていることを。
知らないまま。
窓の外を眺めている。
「…………」
隣にはポルナレフ。
向かいには花京院。
少し離れて承太郎。
ジョセフとアヴドゥル。
気がつけば。
香港で出会った時より、この並びにも慣れていた。
「ねえ」
リオが言った。
「なんだ?」
ポルナレフが答える。
「腹減った」
「さっき食っただろ」
「移動すると減る」
「どういう身体してんだよ」
「17歳」
「年齢で説明すんな」
「ポルナレフ」
「あ?」
「何か持ってない?」
「ない」
「花京院」
「ありません」
「承太郎」
「ねえ」
「ジョセフ」
「ワシを見るな!」
「まだ何も言ってない」
「顔に書いてあるわ!」
「じゃあアヴドゥル」
「ないぞ」
「…………」
全滅だった。
リオは窓へ戻った。
「信用って難しいね」
「食い物の話からどうしてそうなるんだよ」
「誰もくれない」
「それは信用じゃなくてお前の食欲の問題だ!」
「うるせえぞ、ポルナレフ」
「また俺かよ!」
車内に声が響く。
リオは窓の外を見ながら、少しだけ口元を緩めた。
――信用されていない。
別に構わない。
自分だって。
彼らを完全に信用しているわけではない。
ただ。
もし明日。
この中の誰かが敵になったなら。
自分はどうするのだろう。
「…………」
そこまで考えて。
リオはやめた。
今考えても仕方がない。
必要になった時に決めればいい。
それが。
今のリオ・ブランドーだった。
◆
そして。
同じ頃。
遠く離れた場所で。
一人の男が、写真を見ていた。
空条承太郎。
ジョセフ・ジョースター。
モハメド・アヴドゥル。
花京院典明。
ジャン=ピエール・ポルナレフ。
そして。
「…………」
もう一人。
見覚えのない少年。
男の指が、その顔の上で止まる。
「六人……?」
聞いていた人数と違う。
男は少しだけ眉を寄せた。
だが。
すぐに笑った。
「まあいい」
写真を放る。
「一人増えた程度で――」
その手が。
腰元へ伸びる。
「弾丸の数が足りなくなるわけじゃあねえ」
金属が。
僅かに光った。
旅は続く。
誰を信用するかも。
誰を疑うかも。
誰が生き残るかも。
まだ――
決まってはいない。
第十三話でした!
今回は戦闘なし。
その代わり、今までちょっと曖昧になっていた部分のお話です。
リオ。
なんか普通に一緒に飯食って。
普通にホテル泊まって。
普通に旅して。
ポルナレフと喧嘩して。
花京院と話して。
承太郎に怒られて。
ジョセフに金を払ってもらっていますが。
改めて考えてみましょう。
こいつ、めちゃくちゃ怪しいです。
ジョセフたちからすれば当然なんですよね。
DIOを追っていたら香港で突然現れた、素性不明の「ブランドー」。
しかも本人は、
リオ「DIO? 誰だ、それ」
知らない。
何なんだお前。
ということで今回は、
一緒に旅をしている=完全に信用されている
ではないことを改めて書いてみました。
ジョセフとアヴドゥルも、ちゃんと警戒しています。
もしリオが敵になれば止める。
必要なら、自分たちの手で。
一方のリオ。
「信用されてないぞ」
リオ「うん」
「怒らないの?」
リオ「俺でも俺は怪しいと思う」
強い。
ただし。
本人はまだあまり自覚していませんが。
香港で出会った頃に比べれば、五人と一緒にいることが少しずつ「普通」になってきています。
仲間ではない。
信用もされていない。
本人も完全には信用していない。
なのに。
なんか普通に一緒にいる。
そんな微妙な距離感です。
そして最後。
また何かいます。
リオ「普通の人?」
さて。
どうでしょう。
今回も読んでいただきありがとうございました!
リオと一行のこの距離感や、好きだったやり取りなどありましたら、感想で教えていただけると嬉しいです。
短い感想でも大歓迎です!
評価の方も、もしよろしければポチッとしていただけると嬉しいです!
それでは次回。
第十四話。
リオ「今度こそ普通の移動?」
……。
リオ「なんで黙るの?」
ジョジョだからね。
リオ「答えになってない」