リオ・ブランドー。
17歳。
素性不明。
両親不明。
出身地不明。
DIOと同じ名字。
強力なスタンド持ち。
そして。
勝手についてきた。
ジョセフ「信用したわけではない」
リオ「うん」
リオ「俺でも怪しいと思う」
自覚はあった。
そんなわけで。
一緒に旅をしている。
一緒に飯を食っている。
一緒にホテルにも泊まった。
でも、まだ完全に仲間ではない。
そんな微妙な距離感の六人です。
さて。
今回は移動です。
目的地へ向かって。
普通に移動します。
それだけです。
リオ「平和だね」
…………。
リオ「何?」
いや。
何でもない。
それでは第十四話。
普通の移動。
旅というものには。
移動がある。
当然である。
目的地へ向かうのだから、歩くなり、車に乗るなり、船に乗るなり、何らかの方法で移動しなければならない。
そして。
移動している間。
普通は。
何も起きない。
「…………」
リオ・ブランドーは窓の外を眺めながら、そんなことを考えていた。
「…………」
景色が流れていく。
道路。
建物。
人。
車。
空。
「…………」
平和だ。
とても平和だ。
「……おかしい」
「何がです?」
向かいに座っていた花京院が顔を上げた。
「何も起きない」
「いいことでは?」
「三十分くらい何も起きてない」
「普通ですよ」
「本当に?」
「あなたは日常生活を何だと思っているんですか」
リオは考えた。
「船が襲ってくる」
「それは日常ではありません」
「人形が襲ってくる」
「違います」
「知り合いが二人になる」
「僕は一人です」
「車とか」
「…………」
花京院が窓の外を見た。
ちょうど一台の車が通り過ぎていった。
「…………」
「…………」
「何?」
「いえ」
花京院は視線を戻した。
「最近、あなたが適当なことを言うと少し不安になるだけです」
「気にしすぎじゃない?」
「原因は誰だと思っているんです」
◆
一行は移動を続けていた。
DIOはエジプトにいる。
そこへ辿り着く。
言葉にすれば簡単だ。
実際には国境を越え、交通手段を確保し、敵の襲撃を警戒しながら進まなければならない。
しかも。
「飛行機は駄目じゃ!」
ジョセフ・ジョースターが断言した。
「絶対に乗らん!」
「まだ言ってる」
リオが言う。
「当たり前じゃ! ワシが飛行機に乗ったら何が起きると思っとる!」
「落ちる」
「そうじゃ!」
「自覚あるんだ」
「あるわ!」
ポルナレフが横から顔を出した。
「じゃあ逆に考えたらどうだ? 爺さんだけ別の飛行機に乗せれば、俺たちは安全なんじゃないか?」
「ワシを生贄にするな!」
「合理的だね」
「リオまで乗るな!」
アヴドゥルがため息をついた。
「飛行機を使わないこと自体には私も賛成だ。敵に我々の動きを把握されている以上、密閉された機内で襲撃されれば逃げ場がない」
「ほれ見ろ!」
「ジョースターさんの場合、それ以前の問題もありそうですが」
花京院が付け加えた。
「花京院!?」
「二回落としてるんだろ?」
承太郎。
「承太郎まで!」
リオは少し考えた。
「三回目なら逆に成功するかも」
「何の根拠があるんじゃ!」
「確率?」
「むしろ悪化しとるわ!」
承太郎が帽子を下げた。
「やれやれだぜ」
◆
昼。
一行は食事を取るため、街道沿いの店に立ち寄った。
大きな店ではない。
地元の人間が使う、小さな食堂。
リオはメニューを見ていた。
「…………」
長い。
隣ではポルナレフが既に注文を決めている。
「まだ決まらねえのか?」
「読めない」
「さっきから真剣に見てたじゃねえか!」
「見てれば分かるかなと思って」
「分かるわけねえだろ!」
「写真あるし」
「じゃあ写真で選べ!」
「それだと負けた感じする」
「何にだよ!?」
リオは再びメニューを見る。
「…………」
読めない。
やはり読めない。
「花京院」
「嫌です」
「まだ何も言ってない」
「読んでほしいのでしょう?」
「なんで分かったの?」
「あなたと何日一緒にいると思っているんです」
「…………」
リオが少し黙る。
花京院も。
自分が何気なく言った言葉に気づいたらしい。
何日、一緒にいる。
「……じゃあ、これ」
リオはメニューを指差した。
花京院も何も言わず、その料理について説明した。
「辛いですよ」
「どれくらい?」
「かなり」
「じゃあそれ」
「聞いた意味は?」
「辛いって分かった」
「避けるために聞いたのではないんですか」
「食べたくなった」
「そうですか」
少し離れた席。
ジョセフとアヴドゥルが、その様子を見ていた。
昨日。
信用について話したばかり。
それでも。
こういう瞬間だけを見れば。
普通の旅仲間にしか見えない。
「…………」
ジョセフは何も言わなかった。
◆
「辛い」
数分後。
リオが言った。
「だから言ったでしょう」
「想像より辛い」
「水飲め水!」
ポルナレフがグラスを押し出す。
リオは飲んだ。
「…………」
「どうだ?」
「辛い」
「変わってねえじゃねえか」
「水だから」
「何ならいいんだよ」
「牛乳?」
「ここにあるか!」
承太郎が黙って自分の飲み物を遠ざけた。
リオが見る。
「…………」
「やらねえぞ」
「まだ何も言ってない」
「顔に書いてある」
「最近それ言われる」
「分かりやすくなったんじゃねえか?」
「嫌だな」
「何がだ」
「成長」
「そこは喜べ」
リオはもう一口食べた。
「辛い」
「なら食うなよ!」
「美味しい」
「どっちだよ!」
「両方」
ポルナレフが頭を抱えた。
◆
食事を終える。
会計。
リオは財布を出した。
「…………」
開く。
「…………」
閉じる。
ジョセフを見る。
「駄目じゃ」
「まだ何も言ってない」
「その流れ何回目じゃ!」
「貸して」
「返せるのか?」
「いつか」
「いつじゃ!」
「将来」
「範囲が広すぎるわ!」
ジョセフは頭を抱えた。
だが。
結局払った。
「ありがとう」
「……お前さんな」
「何?」
「いや」
ジョセフは財布をしまった。
「今度何かで返せ」
「分かった」
即答だった。
「…………」
「何?」
「ちゃんと覚えとけよ」
「覚えてるよ」
リオは店を出る。
ジョセフはその背中を見た。
昨日。
敵になれば止める。
そう言った。
今もその考えは変わらない。
だが。
「……やりにくい奴じゃのう」
小さく呟いた。
◆
午後。
再び移動。
途中から景色が変わった。
街が遠ざかる。
舗装された道。
乾いた土地。
時折、すれ違う車。
リオは助手席の後ろから外を見ていた。
「…………」
一台。
対向車。
通過。
しばらくして。
「…………」
また。
同じような車。
リオの目が僅かに動く。
「どうした?」
アヴドゥルが気づいた。
「いや」
リオは振り返った。
「似た車が多いなって」
「車種が?」
「うん」
それだけ。
不自然というほどではない。
街道なのだから。
同じ車種くらい走る。
リオは再び窓の外を見る。
「…………」
また。
車。
今度は違う。
「気のせいか」
呟いた。
「おい」
ポルナレフが即座に反応した。
「何?」
「今なんつった?」
「気のせい」
「やめろ」
「何が?」
「お前がそれ言うと怖えんだよ」
「俺のせいじゃないだろ」
「違和感を気のせいで済ませた直後に敵だったことあっただろ!」
「一回だけ」
「一回で十分だ!」
花京院が外を見る。
「何か気になったのですか?」
「似た車を見た」
「何度?」
「二回」
「同じ車だと?」
「分からない」
花京院は少し考えた。
「念のため覚えておきましょう」
「ほら!」
ポルナレフが言った。
「花京院も警戒してんじゃねーか!」
「警戒することと敵だと決めつけることは別です」
「そうそう」
「お前が言うと腹立つな!」
承太郎がバックミラー越しに後ろを見る。
「……今はいねえ」
「じゃあ普通の車だったかな」
「そうだといいがな」
それで会話は終わった。
少なくとも。
その時は。
◆
しばらくして。
休憩。
一行は車を止めた。
ジョセフとアヴドゥルが地図を確認する。
花京院も加わる。
承太郎は少し離れた場所。
ポルナレフは身体を伸ばしている。
リオは。
車の横にしゃがんでいた。
「何してんだ?」
ポルナレフ。
「見てる」
「何を?」
「車」
「…………」
ポルナレフが嫌そうな顔をした。
「お前、前に『車とか』って言ってたよな」
「言ったね」
「やめろよ」
「何を?」
「車を疑うの」
「疑ってない」
リオはタイヤを見る。
「じゃあ何してんだ」
「構造見てる」
「なんで?」
「暇だから」
「もっと他にあるだろ!」
「例えば?」
「景色見るとか!」
リオは周囲を見る。
乾いた景色。
道。
空。
「見た」
「終わるの早えよ!」
「じゃあ車」
「なんで戻るんだよ!」
リオがボンネットへ手を置こうとする。
「待て」
承太郎の声。
手を止める。
「何?」
「不用意に触るな」
「自分たちの車だよ?」
「だからだ」
リオは少し考えた。
「細工?」
「ねえとは限らねえ」
「…………」
手を引く。
「承太郎」
「あ?」
「最近、俺より疑り深くない?」
「誰のせいだと思ってやがる」
「DIO?」
「てめーも含めてだ」
「酷い」
「事実だ」
承太郎は車体を確認する。
リオも、今度は触らずに見る。
「……何もなさそうだな」
「うん」
「行くぞ」
「はい」
リオが立ち上がる。
その時。
遠く。
道の向こう。
一台の車が。
止まっていた。
「…………」
リオが見る。
「どうした?」
承太郎も視線を向ける。
車。
古びた。
特別珍しくもない車。
「さっきの?」
「分からない」
「…………」
二人が見ていると。
車は。
ゆっくり動き出した。
そして。
遠ざかる。
「…………」
「追う?」
リオが聞く。
「証拠がねえ」
「だよね」
「だが」
承太郎の目が細くなる。
「覚えとけ」
「うん」
◆
夕方。
日が傾き始める。
一行は再び道を進んでいた。
何も起きない。
一時間。
何も起きない。
「…………」
リオが窓の外を見る。
「言うなよ」
ポルナレフが先に言った。
「何を?」
「平和だね、とか」
「言おうと思った」
「やめろ!」
「なんで?」
「フラグになる!」
「フラグ?」
「何でもいい! とにかく言うな!」
「じゃあ」
リオは考えた。
「今日は普通だね」
「同じだろうが!」
ジョセフが運転席から叫ぶ。
「車内で騒ぐな! 運転に集中できん!」
「爺さんが事故ったら洒落にならねえからな」
「ワシは車なら大丈夫じゃ!」
全員。
一瞬。
黙った。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「何じゃ」
ジョセフがバックミラーを見る。
「なんで誰も同意せん」
「いや」
リオが言った。
「別に」
「言え! 気になるじゃろ!」
その時だった。
バックミラー。
遠く。
一台の車。
「…………」
承太郎が最初に気づいた。
「ジジイ」
「ん?」
「後ろ」
ジョセフが見る。
車。
距離はある。
だが。
同じ道。
こちらと同じ方向。
リオも振り返る。
「…………」
ポルナレフの顔から笑いが消えた。
「おい」
「うん」
「さっきのか?」
「分からない」
「またそれかよ」
「分からないものは分からない」
花京院が後方を見る。
「速度を上げてみましょう」
「分かった」
ジョセフがアクセルを踏む。
車が加速する。
後方。
車。
小さくなる。
「…………」
十秒。
二十秒。
三十秒。
「離れたな」
アヴドゥル。
「普通の車か?」
ポルナレフ。
「…………」
リオは見ていた。
小さくなった車。
やがて。
見えなくなる。
「……そうかもね」
誰も安心しなかった。
◆
数分後。
「前!」
花京院が叫んだ。
「何!?」
ジョセフが見る。
前方。
道。
そして。
一台の車。
「…………」
リオが目を細める。
古びた車。
さっき。
後ろにいたはずの。
「……どうやったの?」
ポルナレフが呟く。
「追い越されたか?」
「そんな車はなかった」
アヴドゥルが答える。
「脇道は?」
「見てない」
「…………」
承太郎が前を見る。
「ジジイ」
「ああ」
ジョセフの表情も変わる。
前方の車。
速度を落としている。
まるで。
こちらを待っているように。
「リオ」
花京院が呼ぶ。
「はい」
「先ほど」
「うん」
「車、と言いましたね」
「言ったね」
「…………」
「…………」
ポルナレフが。
ゆっくりリオを見る。
「お前」
「何?」
「今後」
「うん」
「適当なこと言うの禁止な」
「なんで?」
「当たるからだよ!」
リオは前を見る。
車。
古びた。
何の変哲もない。
普通の車。
「…………」
少し考える。
「じゃあ」
「言うな」
「まだ何も」
「言うな!」
「はい」
リオは黙った。
前方。
車のテールランプが。
一度だけ。
赤く光った。
まるで。
こちらへ。
合図するように。
「…………」
承太郎が帽子のつばを下げる。
「やれやれだぜ」
どうやら。
この旅には。
やはり。
普通の移動というものは存在しないらしい。
第十四話でした!
今回は移動回。
移動しただけです。
飯を食って。
金がなくて。
ジョセフに払ってもらって。
車に乗って。
移動しました。
うん。
普通ですね。
リオ「普通だったね」
本当に?
リオ「…………」
さて。
以前。
ホテルで人形に襲われたあと。
リオはこんなことを言っていました。
「次は車とか」
そして今回。
車が来ました。
ポルナレフ「お前もう適当なこと言うな」
ごもっとも。
しかも最初は、
似た車がいた。
気のせいかもしれない。
少し離れたところにもいた。
後ろにもいた。
速度を上げたら離れた。
よし。
普通の車だな!
――と思ったら。
前にいる。
リオ「どうやったの?」
それを次回調べるんだよ。
今回は戦闘まで一気に進めず、旅をしている時間そのものを少し長めに書いてみました。
敵と戦って。
次の敵と戦って。
また次の敵と戦って。
だけではなく。
飯を食ったり。
くだらない話をしたり。
少しずつ互いのことが分かってきたり。
そういう時間も、この六人の旅として書いていけたらと思っています。
そして地味に。
花京院。
「あなたと何日一緒にいると思っているんです」
もう普通にリオの行動パターンを読み始めています。
リオ「嫌だな」
花京院「何がです?」
リオ「理解されてきてる」
花京院「いいことでは?」
リオ「逃げにくくなる」
花京院「何から逃げるつもりですか?」
さて。
次回。
前方に現れた、一台の車。
普通の車なのか。
敵なのか。
スタンドなのか。
リオ「車そのものがスタンドだったりして」
ポルナレフ「言うなっつってんだろ!!」
船そのものはもういたからね。
今回も読んでいただきありがとうございました!
旅の空気感や六人の掛け合いなど、好きだったところがありましたら感想で教えていただけると嬉しいです。
短い感想でも大歓迎です!
評価の方も、もしよろしければポチッとしていただけると嬉しいです!
それでは次回。
第十五話。
リオ「普通の車だといいね」
ポルナレフ「もう喋るな」
リオ「酷くない?」