前回までで、
承太郎。
ジョセフ。
アヴドゥル。
花京院。
そして――
リオ。
……あれ?
一人多くない?
はい。
一人多いです。
しかも本人は未だに、
「仲間ではない」
と言い張っています。
仲間ではないのに人数だけ増えている。
そんな一行の前に、今度は新たな人物が現れます。
果たして原作の出会いは、一人増えた状態でも無事に進むのか。
たぶん進みます。
たぶん。
それでは第三話――
『一人多い』
どうぞ!
香港。
空条承太郎たちがこの地へ降り立ってから、それほど時間は経っていない。
にもかかわらず。
飛行機は墜ちた。
DIOの刺客には襲われた。
そして、正体不明の少年が一人増えた。
「正体不明は失礼じゃない?」
「お前さんはもう少し自分の情報を持っとけ!」
ジョセフの怒鳴り声に、リオは肩をすくめた。
「名前は知ってる」
「名前しか知らんじゃろうが!」
「スタンドの名前も知ってる」
「そういう話をしとるんじゃない!」
その横を歩いていた花京院が小さく笑う。
「でも、昨日よりは一つ増えましたね」
「何が?」
「DIOという名前です」
「……まあね」
リオの返事がほんの少しだけ遅れた。
ディオ・ブランドー。
自分と同じ姓を持つ男。
まだ、それだけだ。
DIOが何者なのか。
なぜジョースター家と敵対しているのか。
そして自分と何か関係があるのか。
何も知らない。
ただ――気になる。
「おい」
承太郎の声。
リオが顔を上げる。
「何?」
「ボサッとすんな」
「考え事してただけ」
「歩きながらするな」
「器用だから大丈夫」
「さっき看板にぶつかりかけてたぞ」
「…………」
リオが後ろを見る。
確かに看板がある。
「見てたの?」
「見える位置にいたからな」
「教えてくれてもよくない?」
「ぶつかった方が面白え」
「性格悪いな、お前」
「てめーに言われたくねえ」
「なんじゃお前ら、もう仲良くなっとるじゃないか」
「なってない」
「なってねえ」
二人同時だった。
「そこだけ息ピッタリなのやめんか!」
◆
一行は食事を取るため、店へ入った。
つい先ほど食事をしたばかりのリオも当然のようについて来ている。
「お前さん、また食うのか?」
「食べないよ」
「じゃあなぜ来た」
「お前たちについて来たから」
「だからそれを仲間というんじゃ!」
「同行者」
「まだ言うか!」
そんなやり取りをしながら席につく。
――その時。
リオが視線を動かした。
「…………」
「どうしました?」
花京院が気付く。
「あいつ」
少し離れた場所。
一人の男がいた。
銀色の髪。
妙に目立つ髪型。
外国人。
そして――。
「こっち見てる」
承太郎たちも気付いていた。
アヴドゥルの表情が険しくなる。
「気をつけろ」
「知り合い?」
「いや」
「じゃあナンパ?」
「なぜそうなる」
「ずっと見てるから」
ジョセフが小声で言う。
「お前さんは少し黙っとれ」
「はいはい」
男が立ち上がった。
そして、こちらへ歩いてくる。
警戒する四人。
リオだけは椅子に座ったまま男を眺めていた。
男は一行の前まで来る。
視線が、
承太郎。
ジョセフ。
花京院。
アヴドゥル。
そして。
リオ。
そこで止まった。
「…………」
「…………」
男がもう一度人数を数える。
「…………」
リオが首を傾げる。
「何?」
「……一人多くないか?」
沈黙。
ジョセフが額を押さえた。
「気にするな」
「いや、気になるだろう!」
男が即座に返した。
「聞いていた人数と違うぞ!」
リオの目がわずかに細くなる。
「聞いていた?」
空気が変わった。
男も自分の失言に気付いたらしい。
「…………」
承太郎が椅子から立ち上がる。
「てめー」
「待て、承太郎」
アヴドゥルが前へ出た。
「おそらく――」
「ああ」
ジョセフも理解した。
「DIOの刺客じゃな」
その名前が出た瞬間。
リオの目が男へ向く。
「お前」
「あ?」
「DIOを知ってるの?」
「…………」
男はリオを睨んだ。
「貴様……何者だ?」
「リオ」
「いや名前じゃなくてだな!」
「聞かれたから答えたんだけど」
「そういう意味では――」
「リオ」
ジョセフが割って入る。
「今は黙っとれ」
「なんで?」
「話が進まん!」
◆
男の名は、
ジャン=ピエール・ポルナレフ。
そして予想通り――スタンド使いだった。
姿を現した人型のスタンド。
その手には剣。
リオの視線が釘付けになる。
「…………」
花京院が横目で見る。
「楽しそうですね」
「剣使うスタンド初めて見た」
「そうでしょうね」
「速そう」
「戦いたいとか言わないでくださいよ」
「まだ言ってない」
「『まだ』?」
「花京院」
「何です?」
「俺のこと分かってきたね」
「嬉しくないですね」
ポルナレフが剣を構える。
アヴドゥルも前へ出た。
「私が相手をしよう」
「一人で?」
リオが尋ねる。
「ああ」
「手伝わなくていい?」
「必要ない」
「そう」
あっさり引いた。
ジョセフが意外そうに見る。
「止めんのか?」
「本人がいらないって言ってるから」
「もっと首を突っ込むかと思ったわい」
「戦ってる奴の邪魔する趣味はないよ」
少し間を置き、
「それに」
リオの目がポルナレフのスタンドへ向く。
「見てた方が面白そう」
「やっぱりそっちか!」
◆
戦いが始まった。
ポルナレフのスタンド――シルバーチャリオッツ。
対するアヴドゥルのマジシャンズレッド。
剣。
炎。
まるで正反対の能力。
リオは黙って見ていた。
先ほどまでの軽い表情が消えている。
「…………」
速い。
シルバーチャリオッツの剣。
一撃一撃が鋭い。
そして正確。
「近距離型……」
リオが呟く。
「承太郎のと似てる」
「タイプとしてはな」
承太郎が答えた。
「でも違う」
「ああ」
スタープラチナは拳。
シルバーチャリオッツは剣。
単純な違いだけではない。
間合い。
動き。
攻撃方法。
戦い方そのものが違う。
「面白い」
「お前さん、そればっかりじゃな」
「面白いもの見て面白いって言って何が悪いの?」
「命の取り合いじゃぞ!」
「だから?」
ジョセフが言葉に詰まる。
リオは戦いから目を離さない。
炎が走る。
剣が閃く。
ポルナレフは強い。
だが。
「アヴドゥルが勝つ」
リオが言った。
花京院が見る。
「なぜ?」
「あいつ」
ポルナレフを指す。
「自分のスタンドの速さに自信がありすぎる」
「…………」
「だからアヴドゥルも、そこを狙う」
承太郎がわずかに目を細めた。
「てめー」
「何?」
「ちゃんと見てやがるな」
「見るだけならタダだからね」
「飯代はジジイ持ちだがな」
「それは関係ないだろ」
「あるわ!」
◆
戦いは決した。
アヴドゥルの炎がポルナレフを追い詰める。
そして――。
「…………」
リオは動かなかった。
助けることも。
止めることも。
ただ見ていた。
敗北したポルナレフ。
それでも。
彼は逃げようとはしなかった。
死を前にしてなお、妙なほど潔い。
「…………」
リオの目が少し変わる。
アヴドゥルも、それを見ていた。
敵ではある。
だが。
誇りまで失った男ではない。
やがて。
ポルナレフが生き残った。
「殺さないんだ」
リオが言った。
アヴドゥルが振り返る。
「不満か?」
「別に」
「ならなぜ聞く」
「お前なら殺すと思ってた」
「なぜだ?」
「敵だから」
「敵なら必ず殺すというものでもない」
「…………」
リオはポルナレフを見る。
「そう」
それだけだった。
正しいとも。
間違っているとも言わない。
◆
だが。
そこで終わりではなかった。
ポルナレフの様子がおかしい。
承太郎たちが確認する。
そして――。
「……何、それ」
初めて。
リオの声から、好奇心とは別のものが混じった。
ポルナレフの額。
そこに存在する異物。
「肉の芽じゃ」
ジョセフが言った。
「肉の……芽?」
「DIOの細胞から作られたものだ」
リオがジョセフを見る。
「細胞?」
「ああ」
「……何に使うの?」
誰もすぐには答えなかった。
やがてアヴドゥルが言う。
「人間の脳に入り込み、精神を支配する」
「…………」
リオから表情が消えた。
「支配」
「ああ」
「こいつは自分の意思でお前たちを襲ったんじゃない?」
「完全には、な」
リオがポルナレフを見る。
先ほどまで剣を振るっていた男。
誇り高く。
死を前にしても逃げなかった男。
その頭の中に。
別の人間が、自分の細胞を植え付けていた。
「…………」
リオがしゃがみ込む。
肉の芽をじっと見る。
手を伸ばしかけ――。
「触るな」
承太郎が止めた。
「危険だ」
「分かってる」
「分かってねえ奴の動きだったぞ」
「見るだけ」
「手が出てただろうが」
「…………」
リオは手を引っ込めた。
「細かいな」
「死にてえのか」
「まだ」
「なら触るな」
承太郎たちによって肉の芽が取り除かれていく。
リオは黙ってそれを見ていた。
やがて。
「……趣味悪いな」
誰にともなく呟く。
「DIOが?」
花京院が尋ねた。
「他に誰がいるの」
「あなたと同じブランドーですね」
「…………」
一瞬。
リオが花京院を見る。
だが怒りはしなかった。
「名字が同じだからって、趣味まで同じとは限らないだろ」
「それはそうですね」
軽い返事。
だが。
リオはもう一度、取り除かれた肉の芽を見る。
昨日まで――いや、数時間前まで。
DIOはただの名前だった。
自分と同じ姓を持つ。
強いらしい男。
会ってみたい。
それだけ。
だが今は違う。
ほんの少しだけ。
輪郭ができた。
人間の頭へ自分の細胞を植え付け。
意思を奪い。
駒として使う男。
「…………」
「リオ?」
花京院の声。
「何?」
「いえ」
「変な顔してた?」
「少し」
「そう」
リオは立ち上がった。
「まあいいや」
「いいんですか?」
「会えば分かるだろ」
「何が?」
「どんな奴なのか」
リオは歩き出す。
花京院はその背中を見た。
やはり。
この少年は危うい。
危険だと分かれば避けるのではない。
危険だと分かったからこそ、
確かめたくなる。
◆
「……で」
しばらくして。
意識を取り戻したポルナレフは、一行を見渡した。
承太郎。
ジョセフ。
花京院。
アヴドゥル。
そして。
「…………」
リオ。
「やっぱり一人多くないか?」
「そこから?」
リオが言った。
「いや気になるだろ!」
「リオ」
「名前はもう聞いた!」
「覚えてたんだ」
「そうじゃない!」
ジョセフがため息をつく。
「こいつはリオ・ブランドーじゃ」
「ブランドー?」
ポルナレフが止まった。
「…………」
「…………」
リオも見る。
ポルナレフがジョセフを見る。
「ブランドー?」
「ああ」
「DIOと同じ?」
「ああ」
ポルナレフがリオを見る。
リオが片手を上げた。
「どうも」
「どうもじゃないだろ!?」
「俺に言われても」
「どういうことなんだ!?」
「知らない」
「何が!?」
「全部」
「全部!?」
ポルナレフは頭を抱えた。
「待て待て待て! こいつはDIOとどういう関係なんだ!?」
「知らん」
「本人は!?」
「知らない」
「なんで誰も知らないんだよ!」
「わしが一番聞きたいわッ!」
ジョセフの叫び。
リオは少し考えてから、ポルナレフへ言った。
「お前、面白いね」
「今の流れで俺の感想!?」
「声大きいし」
「誰のせいだ!」
アヴドゥルが額を押さえる。
花京院は笑いを堪えている。
承太郎は一言。
「やれやれだぜ」
◆
こうして。
DIOの刺客だった男。
ジャン=ピエール・ポルナレフは、その支配から解放された。
そしてリオ・ブランドーは。
DIOについて、一つ知った。
強さでも。
血筋でも。
過去でもない。
その男が――
他人の意思を奪うことを躊躇わない人間であるということ。
それを知った上で。
なお。
「DIOに会うの、やめる?」
花京院が尋ねた。
「なんで?」
リオは即答した。
「むしろ余計に気になった」
「…………」
「…………」
「…………」
ジョセフが頭を抱えた。
「やっぱりこいつ、連れて行って大丈夫か?」
「だから」
リオが言う。
「連れて行かれるんじゃない。勝手について行く」
「もっと悪いわッ!」
香港に、再びジョセフの叫び声が響いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
というわけで第三話でした。
ついに登場。
ジャン=ピエール・ポルナレフ!
そして開口一番。
「……一人多くないか?」
ごもっともです。
本来そこにいないはずの少年が、当然のような顔で混ざっています。
しかも説明しようにも、
名前はリオ・ブランドー。
出自は不明。
両親も不明。
生まれた場所も不明。
なぜ『ブランドー』という名を持っているのかも不明。
何も分からない。
そりゃポルナレフも混乱する。
そして今回。
リオは初めて――
『DIOという人間が何をするのか』
その一端を知ることになりました。
肉の芽を植え付け。
意思を奪い。
人間を自分の駒として使う。
それを目の前で知ったリオの感想は、
「……趣味悪いな」
でした。
まあ、それはそう。
普通なら、
「そんな奴には近づかない方がいい」
となりそうなところですが――
「むしろ余計に気になった」
なんでだよ。
数時間前まで。
DIOはリオにとって、ただの名前でした。
自分と同じ『ブランドー』を名乗る。
それだけの男。
けれど今は違う。
少しずつ。
ほんの少しずつ。
DIOという男の輪郭が見え始めている。
では。
逆はどうなのでしょう。
リオはDIOを知らない。
今日、その名前を初めて聞いた。
なら――
DIOは?
『リオ・ブランドー』という名前を聞いた時。
あの男は、どんな顔をするのでしょうか。
驚くのか。
笑うのか。
それとも――
最初から、何かを知っているのか。
そもそも。
二人が同じ『ブランドー』を名乗っていることに、本当に意味はあるのでしょうか。
偶然なのか。
そうではないのか。
まだ、誰にも分かりません。
少なくとも――
リオ本人は、何も知らない。
それでは次回もよろしくお願いします!