前回、新たにポルナレフが加わりました。
これで一行は、
承太郎。
ジョセフ。
アヴドゥル。
花京院。
ポルナレフ。
そしてリオ。
六人です。
リオ「俺は仲間じゃないけど」
……はい。
というわけで今回は、六人になった一行がいよいよ香港を離れます。
一人増えた原作メンバー。
一人多いブランドー。
果たしてこの六人、まともに旅ができるのでしょうか。
できるわけないですね。
それでは第四話――
『六人目ではない』
どうぞ!
ジャン=ピエール・ポルナレフ。
DIOによって肉の芽を植え付けられ、その支配下に置かれていたスタンド使い。
空条承太郎たちとの戦いを経て支配から解放された彼は――。
「なるほどな」
腕を組み。
何度か頷き。
目の前にいる少年を見た。
「つまりお前はDIOと同じ『ブランドー』って名前で」
「うん」
「なのにDIOのことを知らなくて」
「今日知った」
「自分の親も知らない」
「知らない」
「どこで生まれたかも?」
「知らない」
「なんでブランドーって名前なのかも?」
「知らない」
「で、DIOに会うためについて来てる」
「そう」
「でも仲間じゃない」
「うん」
「…………」
「…………」
「お前なんなんだよッ!?」
ポルナレフの叫びが香港の街に響いた。
「だからリオだって」
「名前を聞いてんじゃねえ!」
「じゃあ何を聞いてるの?」
「俺にも分からなくなってきた!」
「落ち着け、ポルナレフ」
アヴドゥルが肩を叩く。
「私たちも先ほど似たような経験をした」
「お前らよくこんなの連れて歩いてたな!?」
「勝手について来とるんじゃ!」
ジョセフが即座に訂正した。
リオが少し不満そうに見る。
「こんなのって何」
「お前のことだよ!」
「失礼だな」
「俺は間違ったこと言ったか!?」
「声が大きい」
「そこじゃねえ!」
花京院が口元を押さえている。
どうやら笑っているらしい。
承太郎は帽子を深く被った。
「やれやれだぜ」
「承太郎!」
「あ?」
「お前からも何か言ってやれ!」
「面倒くせえ」
「俺だけがおかしいみたいになるだろ!」
「安心しろ」
リオが言った。
「お前が一番まともに見える瞬間、今だけだと思う」
「どういう意味だコラァ!」
◆
「それで」
ひとしきり騒いだ後。
リオがポルナレフを見る。
「お前もエジプトに行くの?」
「ああ」
先ほどまでの騒がしさが、ほんの少し消えた。
「俺には目的がある」
「DIO?」
「……それもある」
ポルナレフの声が低くなる。
「俺は探してる男がいる」
「男?」
「妹を殺した男だ」
リオが黙った。
ポルナレフの表情を見る。
先ほどまで大声で騒いでいた男と同じとは思えない。
「そいつを探すために旅をしていた。そしてDIOに出会った」
「それで肉の芽を?」
「……ああ」
ポルナレフの手が額へ触れる。
そこにはもう、あの異物は存在しない。
だが。
植え付けられていた事実まで消えたわけではない。
「DIOなら妹を殺した男を見つけられるかもしれない。そう思った俺は奴の話に乗った」
「…………」
「結果がアレだ」
自嘲するように笑う。
「情けねえ話だぜ」
「なんで?」
「何?」
「騙されたんだろ」
「ああ」
「じゃあ騙した方が悪いんじゃない?」
「……お前、意外とまともなこと言うんだな」
「どういう意味?」
「そのままの意味だ」
リオは少し考える。
「でも」
「あ?」
「次も騙されたら、今度はお前も悪いと思う」
「前言撤回だ!」
「学習しない方にも問題あるだろ」
「もう少し言い方ってもんがあるだろーが!」
「面倒くさいな」
「お前に言われたくねえ!」
また始まった。
花京院が苦笑する。
だがアヴドゥルだけは、リオを静かに見ていた。
今の言葉。
慰めるでもない。
同情するでもない。
ただ事実として。
一度目と二度目を分けた。
やはりこの少年の物差しは、自分たちとは少し違う。
◆
エジプトへ向かう。
その目的自体は変わらない。
問題は移動手段だった。
「もう飛行機は嫌じゃ!」
ジョセフが力強く宣言した。
「誰も乗れって言ってないけど」
「お前さんは知らんからそんなことが言えるんじゃ!」
「墜ちたんだろ?」
「二度もな!」
「二度?」
リオが瞬きをした。
「二度墜ちたの?」
「そうじゃ!」
「…………」
リオがジョセフを見る。
「何じゃ」
「いや」
「なんじゃその目は!」
「飛行機と相性悪いんだなって」
「わしが悪いみたいに言うな!」
承太郎が横から呟く。
「事実だろ」
「承太郎まで!?」
ポルナレフが首を傾げる。
「二度ってどういうことだ?」
「聞かない方がいいですよ」
花京院が答えた。
「長くなります」
「気になるだろ!」
「俺も聞きたい」
「お前は余計なところで食いつくな!」
◆
結果。
一行は海路を選んだ。
香港から船でシンガポールへ。
そこからさらにエジプトを目指す。
港へ向かう途中。
ポルナレフが、ふと気付いたようにリオを見る。
「そういやお前」
「何?」
「荷物は?」
「これ」
リオが小さな鞄を示した。
「……それだけ?」
「それだけ」
「服は?」
「入ってる」
「金は?」
「…………」
「おい」
「少しある」
「いくらだ?」
「なんでお前に言わないといけないの」
「目を逸らすな!」
ジョセフが口を挟む。
「こいつ、さっき飯代も足りんかったぞ」
「マジかよ!?」
「足りなかったんじゃなくて、持ってなかっただけ」
「もっと悪いじゃねえか!」
「少しは持ってた」
「飯が食えない額じゃろうが!」
ポルナレフが頭を抱えた。
「お前、どうやって今まで旅してきたんだ……?」
「歩いたり」
「うん」
「乗せてもらったり」
「うん」
「適当に」
「最後で全部ダメになったぞ!」
リオは首を傾げる。
「なんとかなってるけど」
「なってる奴は他人に飯代払わせねえんだよ!」
「ジョセフが払った」
「そういう問題じゃない!」
ポルナレフがジョセフを見る。
「ミスター・ジョースター」
「なんじゃ」
「こいつ絶対放っておけないタイプだぞ」
「分かっとる!」
「別に放っておいていいよ」
二人同時にリオを見る。
「「お前は黙ってろ!」」
「…………」
リオは花京院を見る。
「なんで怒られたの?」
「日頃の行いでは?」
「今日会ったばっかりなのに」
「今日だけで十分だったということです」
「ひどい」
◆
港へ着く。
海の向こうまで続く水平線。
潮の匂い。
並ぶ船。
リオは足を止めた。
「…………」
「どうした?」
承太郎が気付いた。
「いや」
海を見る。
「船、久しぶりだなと思って」
「乗ったことあるのか?」
「ある」
「いつだ」
「覚えてない」
承太郎が眉を寄せる。
「……覚えてねえ?」
「景色だけ」
リオは海を見たまま言う。
「船の上から海を見たことは覚えてる」
「誰といた」
「それは覚えてない」
「どこへ行った」
「知らない」
「何歳だ」
「それも」
「…………」
承太郎は黙った。
リオも、それ以上話そうとはしない。
ただ。
しばらく海を見ていた。
断片。
リオの過去に残っているものは、いつもそんなものだった。
場所。
景色。
音。
時々、匂い。
だが。
そこに誰がいたのか。
なぜそこにいたのか。
自分がどこから来たのか。
肝心なものだけが抜け落ちている。
「思い出せそうか?」
「別に」
リオは歩き出した。
「無理に思い出すほどでもないだろ」
「…………」
「船に乗ったら思い出すかもしれないし」
「そうかよ」
承太郎も歩き出す。
それだけだった。
◆
船へ乗り込む。
「へえ」
リオは周囲を見回した。
「結構いい船だね」
「お前さん」
ジョセフが振り返る。
「くれぐれも勝手な行動をするんじゃないぞ」
「なんで俺だけ?」
「自覚がないのか!?」
「ポルナレフもいるだろ」
「なんで俺まで!?」
「なんとなく」
「なんとなくで巻き込むな!」
アヴドゥルがため息をつく。
「二人とも、船の上では大人しくしていろ」
「俺は何もしてねえだろ!」
「俺も」
「お前は昨日からしとるわ!」
ジョセフの怒鳴り声を聞き流しながら。
リオは甲板へ出た。
風が強い。
陸上とは違う。
遮るもののない風。
海面から反射する光。
船を動かす機関の振動。
波。
音。
熱。
「…………」
リオの口元が少し上がった。
ブラックサファイア。
その能力を持つ彼にとって。
船上という場所は、周囲に存在するエネルギーの種類が多い。
使えるか。
どう使えるか。
どこまで扱えるか。
考え始める。
「楽しそうだな」
声。
ポルナレフだった。
「まあね」
「船が好きなのか?」
「別に」
「じゃあ何が楽しいんだ?」
「色々あるから」
「何が?」
「エネルギー」
「…………」
ポルナレフが一歩離れた。
「お前、時々怖いぞ」
「失礼だな」
「普通、海見て最初に考えることじゃねえだろ!」
「綺麗だとも思ってるよ」
「後付けだろ!」
「バレた?」
「バレるわ!」
◆
「そういや」
ポルナレフが手すりにもたれた。
「お前のスタンド、ブラックサファイアだったか?」
「うん」
「エネルギーを操るんだよな」
「ある程度は」
「じゃあ俺のチャリオッツの剣も止められるのか?」
リオがポルナレフを見る。
「試す?」
「おっ?」
「今やる?」
「お前、話が早いじゃねえか!」
「おい」
二人の背後。
承太郎が立っていた。
「船の上でスタンド出そうとしてんじゃねえ」
「まだ出してねえだろ!」
「これから出す顔してたぜ」
「顔で分かるのかよ!?」
「分かる」
「すげえな!?」
リオがポルナレフを見る。
「じゃあやめる?」
「……いや、ちょっとだけなら」
「聞こえてんぞ」
「冗談だ」
「切り替え早いね」
「お前もだろ!」
承太郎は帽子を押さえる。
「ったく」
リオが尋ねる。
「承太郎もやる?」
「やらねえ」
「スタープラチナ相手なら、どこまで受けられるか試したいんだけど」
「断る」
「なんで」
「船が沈む」
「加減するよ」
「信用できねえ」
「ひどくない?」
「昨日会ったばかりの奴を信用する理由がねえ」
「それもそうか」
あっさり納得する。
ポルナレフが二人を見る。
「……お前ら仲悪いのか?」
「普通」
「知らねえ」
「どっちだよ!」
◆
船は香港を離れていく。
徐々に小さくなる陸地。
リオは手すりにもたれ、それを眺めていた。
隣に花京院が来る。
「香港ともお別れですね」
「そうだね」
「後悔してませんか?」
「何が?」
「ついて来たことです」
「まだ一日も経ってないけど」
「だからですよ」
リオは少し考えた。
「今のところは」
「今のところ?」
「面白いから」
「やはりそれですか」
「花京院は?」
「僕?」
「なんでエジプトまで行くの」
花京院が少し黙る。
「僕にも、DIOとは因縁がありますから」
「肉の芽?」
「……ええ」
リオの視線が花京院へ向く。
「お前も?」
「僕もです」
「…………」
リオの顔から、少しだけ笑みが消えた。
「ポルナレフだけじゃないんだ」
「ええ」
「他にもいる?」
「おそらく」
「…………」
風が吹く。
リオの金髪が揺れる。
「本当に趣味悪いな」
「同感です」
「自分の言うことを聞かせたいなら、普通に話せばいいのに」
「それで全員が従うとは限りません」
「だからって頭に変なの入れる?」
「普通は入れませんね」
「だよね」
また。
一つ。
DIOについて知った。
ポルナレフだけではない。
花京院も。
自分の意思を奪われていた。
「……何人いるんだろ」
「分かりません」
「そう」
短い返事。
だが。
その目だけは、しばらく海を見ていなかった。
◆
やがて。
船員たちが慌ただしく動き始める。
出航後の確認。
航路。
乗員。
設備。
その様子を眺めていたリオの横を、一人の男が通り過ぎた。
船長。
リオは一瞬だけ、その背中を見る。
「…………」
男はそのまま離れていく。
「どうした?」
ポルナレフが聞いた。
「いや」
「また何か面白いものでも見つけたのか?」
「別に」
リオは視線を戻した。
「気のせい」
「ならいいけどよ」
ポルナレフも歩き出す。
リオだけが、ほんの一瞬その場に残った。
「…………」
何か。
引っかかった。
理由は分からない。
殺気ではない。
敵意でもない。
ブラックサファイアが何かに反応したわけでもない。
ただの違和感。
「リオ!」
遠くからジョセフの声。
「勝手に離れるなと言ったじゃろうが!」
「離れてないだろ」
「十分離れとる!」
「今行くよ」
リオも歩き出す。
だから。
その違和感について深く考えることはなかった。
船は進む。
香港からシンガポールへ。
空条承太郎。
ジョセフ・ジョースター。
モハメド・アヴドゥル。
花京院典明。
ジャン=ピエール・ポルナレフ。
そして。
本人曰く、仲間ではない――
リオ・ブランドー。
六人を乗せた船は。
静かな海を進んでいく。
その航海が、
何事もなく終わるはずもないというのに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
というわけで第四話でした。
ポルナレフも加わり、ついに六人での旅がスタート!
……と言いたいところですが。
リオ「仲間ではない」
まだ言ってます。
一緒に飯を食って。
一緒に港まで来て。
同じ船に乗って。
スタンドの話までして。
それでも仲間ではないそうです。
じゃあ何なんだお前。
そして今回。
ポルナレフとリオも、さっそく騒がしくなってきました。
個人的には、
「お前なんなんだよ!?」
に対して、
「だからリオだって」
と返すリオが好きです。
そういうこと聞いてんじゃねえんだよ。
たぶんポルナレフは今後も、この男にかなり振り回されることになるでしょう。
頑張れポルナレフ。
君はツッコミ役になれる。
たぶん。
そして。
今回ほんの少しだけ出てきた、リオの記憶。
船から海を見たことは覚えている。
けれど――
誰といたのか。
どこへ向かっていたのか。
何歳だったのか。
何一つ覚えていない。
これが何を意味するのかは、まだ秘密です。
そもそも意味があるのか。
ただの記憶なのか。
それとも――。
今はまだ、リオ本人にも分かりません。
そして最後。
船長を見たリオが感じた、小さな違和感。
本人は、
「気のせい」
で済ませました。
こういう時の『気のせい』が本当に気のせいだった試し、あんまりないよね。
果たして六人の船旅は、無事シンガポールまで辿り着けるのか。
まあジョジョなので。
無事なわけないですね。
それでは次回もよろしくお願いします!