前回。
船長を見たリオ。
「……なんか変な気がする」
そして、
「気のせい」
で済ませました。
本当に?
ジョジョの世界で。
DIOを追っている最中に。
乗っている船の船長に違和感を覚えて。
それを「気のせい」で済ませて。
本当に何も起こらないのでしょうか。
まあ。
起こるんですけどね。
というわけで今回は、いよいよ海上での戦いです。
それでは第五話――
『違和感は気のせいではない』
どうぞ!
香港を発った船は、南シナ海を進んでいた。
目的地はシンガポール。
空は晴れている。
海も穏やか。
今のところ、敵の姿もない。
「…………」
甲板の手すりにもたれ、リオは海を眺めていた。
「なあ」
「何?」
「お前、さっきからずっと海見てねえか?」
ポルナレフだった。
「そうだけど」
「飽きねえの?」
「ちょっと飽きた」
「飽きてんじゃねえか!」
「でも他に見るものないし」
「俺がいるだろ」
「海見る」
「なんでだよ!」
リオは無視した。
風。
波。
船体の振動。
太陽から降り注ぐ光。
ブラックサファイアで扱えるものを考えれば、海上という環境はなかなか面白い。
だが。
「…………」
視線が横へ動く。
船長。
この船を預かる男。
「また見てるな」
「よく見てるね、俺のこと」
「気持ち悪い言い方すんな!」
ポルナレフも船長を見る。
「何かあんのか?」
「分からない」
「またそれかよ」
「なんか変なんだよね」
「だから何が?」
「それが分かったら苦労しない」
「じゃあ気のせいじゃねえのか?」
「かもね」
リオは船長から視線を外した。
結局。
この時点では、それ以上考えなかった。
◆
事態が動いたのは、その後だった。
「人だ!」
海上に。
一人の人間がいる。
引き上げてみれば、それは少年――。
いや。
少女だった。
「女?」
ポルナレフが目を丸くする。
「何よ!」
「いや、別に」
「今なんか失礼なこと考えたでしょ!」
「考えてねえよ!」
「顔に出てる!」
「出てねえ!」
「うるさい」
「お前は黙ってろ、リオ!」
少女は密航者だった。
当然、船長はそれを問題視する。
だが。
承太郎は別のことを警戒していた。
DIOの刺客。
スタンド使い。
こんな場所で現れた人間を、簡単に信用できる状況ではない。
そして。
少女が疑われる中。
承太郎は突然――。
少女を海へ突き落とした。
「…………」
リオが瞬きをする。
「承太郎」
「なんだ」
「今、普通に落とした?」
「ああ」
「女の子を?」
「ああ」
「…………」
ポルナレフが叫ぶ。
「お前何やってんだ承太郎ォ!」
ジョセフたちも驚く。
船長も当然、怒った。
「この無法者め!」
「…………」
リオが船長を見る。
それから承太郎を見る。
「無法者だって」
「聞こえてる」
「否定しないの?」
「うるせえ」
「まあ今のは無法者って言われても仕方ないと思う」
「てめーも海に落とすぞ」
「やってみれば?」
「お前らまで喧嘩するな!」
ジョセフの声が飛ぶ。
だが。
承太郎は船長から目を離していなかった。
何かを。
確かめるように。
◆
少女の一件が落ち着いた後。
承太郎が船長へ声をかけた。
「おい、船長」
「何だ?」
「一つ聞くぜ」
承太郎の声。
その雰囲気に。
リオも口を閉じる。
「スタンド使いかどうかを見分ける方法を知ってるか?」
「…………」
「え?」
最初に反応したのはポルナレフだった。
「そんな方法あるのか?」
「わしも知らんぞ」
ジョセフも眉を寄せる。
「僕も初耳ですね」
花京院。
「……私もだ」
アヴドゥル。
リオは承太郎を見る。
「あるの?」
「ああ」
「へえ」
全員の注目が承太郎へ集まる。
承太郎は平然と。
言った。
「スタンド使いってのはな」
間。
「タバコの煙を吸うと、鼻の頭に血管が浮き出る」
「なにィ!?」
ジョセフ。
「マジか!?」
ポルナレフ。
「そんな特徴が……?」
アヴドゥル。
「初めて聞きました」
花京院。
「…………」
リオ。
自分の鼻を触る。
「俺、出てる?」
「俺に聞くな!」
ポルナレフも自分の鼻を確認する。
「俺は!?」
「知らない」
「見ろよ!」
「嫌だよ」
「なんでだ!」
ジョセフまで鼻へ手をやり。
花京院も僅かに意識を向け。
アヴドゥルも困惑している。
そして。
船長も。
「…………」
反射的に。
自分の鼻へ手をやった。
その瞬間。
承太郎の目が鋭くなる。
「やはりてめー……スタンド使いだな」
「…………!」
空気が凍った。
船長の動きが止まる。
ジョセフたちも構える。
リオもブラックサファイアを出そうとして――。
「ちなみに」
承太郎が続けた。
「今のはウソだ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
味方まで止まった。
「…………嘘?」
リオが聞いた。
「ああ」
「鼻の血管は?」
「そんなもん出ねえ」
「…………」
リオがゆっくり鼻から手を離す。
「承太郎」
「あ?」
「俺たちまで騙す必要あった?」
「てめーらが勝手に引っかかったんだろ」
「承太郎ォ!」
ジョセフが叫ぶ。
「わしまで騙したのか!」
「俺も信じたぞ!」
ポルナレフ。
「……なるほど」
花京院が苦笑する。
「僕たちの反応まで自然だったからこそ、相手も疑わなかったというわけですね」
「そういうことだ」
「…………」
リオが承太郎を見る。
「性格悪いな」
「てめーに言われたくねえ」
「俺でもあんな嘘つかないけど」
「さっき女を海に落とそうとしただろ、お前」
「落としてない」
「止められただけだろうが!」
「結果的には落としてない」
「そういう問題じゃねえ!」
その時。
「フフフ……」
船長が笑った。
全員の視線が戻る。
「見事だ……空条承太郎」
その表情は。
先ほどまでの船長のものではなかった。
「やっぱり」
リオが呟く。
「何じゃ?」
「違和感」
船長を見る。
「気のせいじゃなかった」
「なら早く言わんか!」
「言ったよ」
「もっと具体的にじゃ!」
「具体的に分からなかったんだから仕方ないだろ」
「開き直るな!」
男がスタンドを出現させる。
海を支配する異形。
ダークブルームーン。
「DIOの刺客か」
アヴドゥルが構える。
「また?」
リオが言った。
「またじゃ」
「何人いるんだろ」
「知るか!」
「DIOって人望あるの?」
「そういう問題ではない!」
◆
戦いが始まった。
敵の狙いは承太郎。
そして。
戦場は海へ。
「承太郎!」
海中へ引き込まれた承太郎を見て。
ジョセフが叫ぶ。
リオも手すりへ駆け寄る。
「ブラックサファイア」
黒い人型が姿を現した。
「待て、リオ!」
アヴドゥルが制止する。
「何?」
「相手は水中戦を得意としている!」
「見れば分かる」
「なら飛び込むな!」
「水の流れなら多少は弄れる」
「だとしてもだ!」
リオは海を見る。
スタープラチナ。
ダークブルームーン。
海中。
相手の土俵。
「…………」
「おい」
ポルナレフが横に来る。
「あいつを見ろ」
「見てる」
「負けそうに見えるか?」
「…………」
リオは少し考えた。
「不利には見える」
「そうじゃなくてよ」
「?」
「負ける気がある顔かって聞いてんだ」
「…………」
リオはもう一度見る。
そして。
ブラックサファイアを消した。
「ないね」
「だろ?」
「じゃあ見る」
「お前、ほんとそれ好きだな!」
◆
ダークブルームーン。
海中での速度。
鋭い攻撃。
さらに。
スタープラチナへ付着するフジツボ。
力を吸い取る。
「まずいぞ!」
ジョセフが叫ぶ。
リオも黙って見ている。
「…………」
そろそろ。
本当に危険なら。
入る。
その判断をしようとした。
直後。
スタープラチナの指が。
伸びた。
「…………」
敵を貫く。
「…………」
リオが固まる。
「…………は?」
◆
戦いが終わり。
承太郎が戻ってきた。
「承太郎」
「なんだ」
「指」
「あ?」
「伸びたよね」
「ああ」
「なんで?」
「伸ばした」
「そうじゃなくて」
「うるせえな」
リオが自分の手を見る。
指を伸ばしてみる。
伸びない。
「ブラックサファイアは伸びない」
「知るか」
「チャリオッツは?」
「俺に振るな!」
ポルナレフが叫ぶ。
「試してみて」
「嫌だよ!」
「気にならない?」
「…………」
「…………」
「ちょっと気になる」
「だろ?」
「だろ? じゃねえ!」
「お前ら!」
ジョセフが怒鳴った。
「そんなことをしとる場合ではない!」
「何?」
「船に爆弾が仕掛けられとる!」
「…………」
リオが黙る。
「先に言ってよ」
「今言ったわ!」
◆
爆発。
船体が揺れる。
「急げ!」
乗員たちを救命艇へ。
少女も。
全員を逃がす。
飛び散る破片。
「ブラックサファイア!」
黒いスタンド。
飛来する金属片へ触れる。
運動エネルギーを奪う。
一つ。
二つ。
三つ。
次。
爆風。
「……っ!」
処理量が増える。
全部は無理だ。
「リオ!」
「分かってる!」
必要なものだけ。
人へ直撃するもの。
脱出を邪魔するもの。
そこへ処理を集中する。
花京院。
アヴドゥル。
ポルナレフ。
ジョセフ。
承太郎。
全員が動く。
やがて。
全員が船から離れた。
その直後。
船は爆発した。
◆
救命艇。
炎に包まれ、沈んでいく船。
「…………」
「どうした、リオ?」
花京院が尋ねる。
「いや」
リオは海を見る。
「俺、最初からあの船長に違和感あったんだよね」
「そう言ってましたね」
「でも正体までは分からなかった」
「…………」
「承太郎は分かった」
承太郎を見る。
「しかも」
少し間。
「俺まで騙された」
「まだ気にしてんのか」
「気にするだろ」
「くだらねえ」
「なんか負けた感じする」
花京院が言った。
「今回は明確に負けたのでは?」
「…………」
「船長の正体を暴いたのは承太郎ですし、あなた自身もハッタリに引っかかりました」
「花京院」
「はい?」
「うるさい」
「事実を言っただけですが」
「それがうるさい」
承太郎が鼻で笑う。
「やれやれだぜ」
「…………」
「なんだ」
「次は俺が先に見抜く」
「勝手にしろ」
「絶対」
「好きにしろ」
ポルナレフが二人を見る。
「お前ら何の勝負してんだ?」
◆
問題は。
船がなくなったことだった。
「で」
ポルナレフが海を見回す。
「俺たち、これからどうすんだ?」
「今考えとる!」
ジョセフが頭を抱える。
「泳ぐ?」
「お前だけ泳げ!」
「エジプトまで?」
「死ぬわ!」
「じゃあ無理だね」
「最初から分かれ!」
その時。
水平線の向こう。
巨大な影が見えた。
「おい!」
ポルナレフが立ち上がる。
「船だ!」
巨大な船。
こちらへ向かってくる。
「助かった……!」
ジョセフが息を吐く。
「運が良かったですね」
花京院も言う。
「…………」
だが。
リオは船を見たまま。
黙っていた。
「どうした?」
アヴドゥルが尋ねる。
「いや」
また。
気のせい。
そう言いかけて。
やめた。
「……一応、警戒しとこう」
承太郎が横を見る。
「珍しく意見が合ったな」
「さっき船長に騙されたばっかりだから」
「俺は騙されてねえ」
「…………」
「なんだ」
「そうだった」
「てめーと一緒にすんな」
「やっぱりムカつくな、お前」
「やれやれだぜ」
巨大な船が。
ゆっくりと近づいてくる。
今度こそ。
救いの船なのか。
それとも。
また別の何かなのか。
その答えを。
まだ誰も知らない。
ただ一つ。
確かなことがあるとすれば。
この旅で。
「気のせい」で済む違和感など、そう多くはない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
というわけで第五話でした。
前回のリオ。
「気のせい」
今回。
気のせいじゃありませんでした。
だから言ったじゃん!
……作者が。
本人は何も知りません。
今回は偽船長との戦いでしたが、基本的に承太郎の戦いにはリオを割り込ませませんでした。
だってここでブラックサファイアが全部解決したら、
スタープラチナの出番なくなるからね。
そしてリオ。
海へ引きずり込まれた承太郎を見ても、
「あいつが、あの程度で終わると思えない」
とのこと。
出会ってまだ一日経ってません。
仲間でもありません。
信用もしてないそうです。
それを信用って言うんじゃないかな。
本人は否定しています。
そして今回最大の衝撃。
スタープラチナ。
指が伸びました。
リオ「なんで?」
承太郎「伸びたからだ」
なんで?
ジョジョなので深く考えてはいけません。
たぶん。
一方で。
今回リオにとって地味に重要だったのが、船長への違和感です。
リオは最初から何かがおかしいとは思っていた。
でも理由が分からない。
証拠もない。
だから――
「気のせい」
として処理した。
リオは頭の回転が速いです。
観察も得意です。
戦闘になれば、かなり冷静に状況を分析できます。
でも。
分からないことまで分かるわけではありません。
そして、自分の判断にそれなりの自信があるからこそ。
「判断材料がないから保留する」
という選択が、裏目に出ることもあります。
今回、それをちょっとだけ本人も学びました。
……学びましたよね?
リオ「多分」
おい。
そして船は爆発。
海の上に放り出された一行の前へ現れた、巨大な船。
普通なら、
「助かった!」
となるところですが。
この漫画。
ジョジョの奇妙な冒険です。
しかもさっき船長が敵だったばかりです。
さすがにリオも学習しました。
「一応、警戒しといた方がいいんじゃない?」
はい。
今度はその直感、大事にしようね。
果たして今度の船は安全なのか。
誰が乗っているのか。
そして――
本当に、
『誰かが乗っている』のでしょうか。
それでは次回もよろしくお願いします!