前回。
船が敵でした。
正確には、
オランウータンのスタンドが船でした。
リオ「スタンドって何でもあり?」
だいたいそんな感じです。
そして一行は、ようやくシンガポールへ。
船長が敵。
船が敵。
ここまで海上で散々な目に遭いました。
なら陸に上がれば安心ですね!
ホテルもあります。
ベッドもあります。
屋根もあります。
よかったね。
……ジョジョじゃなければ。
それでは第七話――
『ホテルは敵ではない』
どうぞ!
シンガポール。
長かった。
本当に長かった。
香港を出てから、色々あった。
船長が敵だった。
船が爆発した。
海を漂流した。
助かったと思ったら、今度は船そのものが敵だった。
そして。
今。
「…………」
リオ・ブランドーは。
地面にしゃがみ込んでいた。
「何してんだ、お前?」
ポルナレフが聞く。
リオは答えない。
地面へ手を置く。
「…………」
「おい」
「動かない」
「は?」
「地面」
「…………」
「動かない」
「当たり前だろ」
「…………」
リオが立ち上がる。
「いいね」
「何がだよ」
「陸」
「お前、そんなに船嫌いになったのか?」
「別に嫌いじゃないよ」
「じゃあなんで地面に感動してんだ!」
「船長は敵にならない」
「普通はならねえよ!」
「船も敵にならない」
「普通はならねえんだよ!」
「地面は?」
「敵にならねえよ!!」
ポルナレフの声が響く。
「多分」
「多分をつけるな!」
ジョセフが振り返る。
「お前ら、着いて早々騒ぐな!」
「こいつが変なこと言うんだよ!」
「事実しか言ってないけど」
「地面が敵になる可能性を考えるな!」
「スタンドならありそうじゃない?」
「…………」
ポルナレフが黙った。
「…………」
ジョセフも黙った。
花京院も考える。
アヴドゥルも否定しきれない顔をする。
「ほら」
「納得させんな!」
◆
「今日はホテルに泊まる」
ジョセフが言った。
「ホテル」
リオが繰り返す。
「そうじゃ」
「へえ」
「なんじゃ、その反応は」
「泊まったことない」
「…………」
「…………」
「…………」
全員の足が止まった。
「ホテルに?」
花京院。
「多分」
「多分とはどういう意味だ?」
アヴドゥル。
「覚えてないから」
「お前よぉ」
ポルナレフが顔を覗き込む。
「今までどうやって生活してきたんだ?」
「普通に」
「その『普通』を聞いてんだよ!」
「寝て起きて食べてた」
「人類全員そうだ!」
「ポルナレフは違うの?」
「同じだよ!」
「じゃあ合ってる」
「そういう話じゃねえ!」
承太郎が横を通り過ぎる。
「放っとけ」
「承太郎」
「あ?」
「ホテル詳しい?」
「普通だ」
「じゃあ部屋に入ったら何すればいい?」
「寝ろ」
「まだ昼だけど」
「知るか」
「冷たいな」
「フロントでスタンド能力でも教えてもらえ」
「ホテルってすごいね」
「んなわけあるか!」
ジョセフのツッコミが飛んだ。
◆
ホテルへ到着。
立派な建物だった。
リオは入口で止まる。
「…………」
「今度は何だ?」
承太郎。
「扉が勝手に開いた」
「自動ドアじゃ」
ジョセフが言う。
「スタンドじゃない?」
「違うわ!」
「本当に?」
「何でもスタンドだと思うな!」
「昨日船がスタンドだったから」
「反論しづらいこと言うんじゃない!」
リオが自動ドアの前から一歩下がる。
閉じる。
一歩前へ。
開く。
一歩下がる。
閉じる。
一歩前へ。
開く。
「…………」
「…………」
「…………」
ポルナレフが横に並んだ。
一歩前へ。
開く。
一歩下がる。
閉じる。
「おお」
「面白いね」
「だな」
二人で一歩前。
開く。
一歩後ろ。
閉じる。
「お前ら」
承太郎の低い声。
「何やってんだ」
「実験」
「遊んでんじゃねえ!」
ジョセフに二人まとめて引っ張られた。
◆
チェックイン。
そこで。
問題が発覚した。
「では」
ジョセフが振り返る。
「部屋を――」
「待って」
リオ。
「なんじゃ?」
「ホテルって金いる?」
「…………」
「…………」
「…………」
「お前さん」
ジョセフが。
ものすごく嫌な予感のする顔をした。
「まさか」
「?」
「金」
「あるよ」
「あるのか!」
ジョセフの顔が明るくなる。
「うん」
リオがポケットを探る。
じゃら。
硬貨が数枚。
掌へ。
「…………」
「…………」
「これ」
「足りるかァァァッ!!」
ホテルのロビーに。
ジョセフの絶叫が響いた。
「やっぱり?」
「やっぱりじゃない!」
「香港で見せたじゃん」
「増えとるかもしれんじゃろ!」
「減ったよ」
「なぜじゃ!」
「食べたから」
「お前の金で食べてないじゃろ!」
「あ」
「あ、じゃない!」
ポルナレフが腹を抱える。
「ハハハハハ! お前マジで金ねえのかよ!」
「ポルナレフはあるの?」
「当然だ!」
「じゃあ貸して」
「断る!」
「即答」
「ジョースターさんがいるだろ!」
「お前までわしを財布扱いするな!」
「してねえよ!」
「今したじゃろうが!」
リオは硬貨を見る。
「じゃあ外で寝る」
「待て」
ジョセフ。
「なんで?」
「待て」
「大丈夫だよ」
「待て」
「ブラックサファイアもいるし」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあどういう問題?」
「十七歳のガキを異国の路上に放置できるか!」
「承太郎も十七でしょ」
「…………」
全員が。
承太郎を見る。
「…………」
承太郎が眉をひそめる。
「なんだ」
ジョセフが考える。
「…………」
「…………」
「承太郎ならまあ」
「ジジイ」
「冗談じゃ!」
「差別だ」
「お前も乗っかるな!」
結局。
ジョセフが払った。
「ありがとう」
「…………」
「何?」
「いや」
ジョセフが少しだけ驚く。
「普通に礼を言えるんじゃな」
「俺を何だと思ってるの?」
「分からんから困っとる」
「最近それよく言われる」
「自覚せい!」
◆
次。
部屋割り。
「俺は一人部屋な!」
ポルナレフが真っ先に宣言した。
「なんで?」
リオ。
「いいだろ!」
「寂しくない?」
「子供じゃねえ!」
「十九歳でしょ」
「そうだよ!」
「二歳しか違わない」
「年齢の話じゃねえんだよ!」
「じゃあ何するの?」
「…………」
「…………」
ポルナレフの目が泳いだ。
「寝る」
「一人じゃないとできない?」
「できるわ!」
「じゃあ一緒でいいじゃん」
「嫌だ!」
「なんで?」
「お前質問多いな!」
花京院が口元を緩める。
「ポルナレフには、一人でなければならない事情があるのでは?」
「花京院!」
「事情?」
リオが見る。
「ねえよ!」
「顔赤いけど」
「暑いんだよ!」
リオがポルナレフの額へ手を伸ばす。
「熱?」
「触んな!」
「元気そう」
「最初から元気だ!」
「じゃあ大丈夫だね」
「何の確認だったんだ!?」
アヴドゥルが。
静かに顔を逸らした。
「アヴドゥル」
「何だ」
「笑ってる?」
「笑っていない」
「肩動いてるけど」
「気のせいだ」
「それ大体気のせいじゃないやつ」
「……覚えたな」
◆
「じゃあ」
リオが言う。
「俺も一人部屋」
「駄目じゃ」
ジョセフ。
「なんで?」
「金を出すのはわしじゃ」
「横暴」
「金を払ってから言え!」
「じゃあ誰と?」
リオが一人ずつ見る。
ジョセフ。
「寝言うるさそう」
「まだ寝とらんじゃろ!」
アヴドゥル。
「朝早そう」
「悪いか?」
「起こされそう」
「起こさん!」
承太郎。
「…………」
「…………」
「…………」
「嫌だ」
「こっちの台詞だ」
「まだ何も言ってないけど」
「目が言ってる」
「便利だな、俺の目」
「てめーが分かりやすいだけだ」
最後。
花京院。
「…………」
「…………」
「花京院で」
「消去法で選ばれるのは複雑ですね」
「一番安全そう」
「何からです?」
「いろいろ」
「具体的には?」
「ジョセフの寝言とか」
「わしの寝言から離れろ!」
◆
部屋。
「…………」
リオは。
ベッドの前に立っていた。
「どうしました?」
花京院。
「これ?」
「ベッドです」
「知ってる」
「では何を?」
リオが。
座る。
ぽふ。
「…………」
立つ。
座る。
ぽふ。
立つ。
座る。
ぽふ。
「…………」
花京院は黙って見ている。
リオが振り返る。
「何?」
「いえ」
「やる?」
「結構です」
「面白いよ」
「そうですか」
「うん」
ぽふ。
「…………」
「…………」
ぽふ。
「リオ」
「何?」
「気に入ったんですね」
「別に」
ぽふ。
「…………」
「…………」
「気に入った」
「でしょうね」
◆
夕食。
「これ」
リオがメニューを指す。
「駄目じゃ」
ジョセフ。
「まだ値段見てないけど」
「一番高いやつじゃ!」
「なんで分かったの?」
「値段を見たからじゃ!」
「じゃあこっち」
「それも高い!」
「こっち」
「高い!」
「…………」
リオがジョセフを見る。
「何ならいいの?」
「遠慮というものを覚えろ!」
「じゃあ水」
「極端すぎるわ!」
「難しいな」
「何がじゃ!」
ポルナレフが笑う。
「好きなの食わせてやれよ、ジョースターさん」
「ではお前が払え」
「リオ」
「何?」
「水はタダだぞ」
「お前ェェェ!」
結局。
普通に食事は出た。
「美味しい」
「そうか……」
ジョセフが疲れている。
「ジョセフ」
「なんじゃ」
「ありがとう」
「…………」
「?」
「いや」
ジョセフがため息をつく。
「礼を言われると怒りづらいのう……」
「じゃあもっと言おうか?」
「そういう打算を口にするな!」
◆
食後。
廊下。
「じゃあ俺は部屋戻るぜ」
ポルナレフが手を上げる。
「おやすみ」
リオ。
「おう」
「死なないでね」
「…………」
「…………」
「…………」
ポルナレフが。
ゆっくり振り返る。
「お前」
「何?」
「なんで普通のおやすみに一言足した?」
「DIOの刺客いるし」
「ホテルだぞ!」
「船長も敵だった」
「…………」
「船も敵だった」
「…………」
「次はベッドかも」
「やめろォ!」
リオがベッドを見るような仕草をする。
「実はスタンド」
「俺今日寝れなくなるだろうが!」
「冗談だよ」
「お前の冗談、最近現実になるんだよ!」
「じゃあ人形とか」
「なんで人形!?」
「なんとなく」
「縁起悪いこと言うんじゃねえ!」
承太郎が通り過ぎる。
「くだらねえ」
「承太郎」
「あ?」
「承太郎の帽子がスタンドだったらどうする?」
「寝ろ」
「本体どっち?」
「寝ろ」
「帽子?」
「オラされてえのか」
「人間だった」
「何の確認だ!」
ジョセフの声が響いた。
◆
夜。
さすがに。
ホテルは静かだった。
「…………」
「…………」
「花京院」
「起きていたんですか」
「ベッドが柔らかすぎる」
「昼間あれだけ遊んでいたでしょう」
「遊んでない」
「何度も座っていましたが」
「確認」
「何を?」
「柔らかさ」
「何度確認すれば気が済むんです?」
「七回くらい」
「数えていたんですね……」
暗闇の中。
少し。
笑う。
そして。
しばらく。
沈黙。
「…………花京院」
「はい」
「DIOって」
空気が。
少しだけ変わった。
「どんな奴?」
「…………」
「前にも聞いたけど」
「ええ」
「もうちょっと知りたい」
花京院は。
すぐには答えなかった。
「なぜです?」
「同じ名字だから」
「それだけですか?」
「…………」
リオは。
天井を見る。
「分からない」
「…………」
「最初は、それだけだった」
「今は?」
「ポルナレフも」
静かな声。
「お前も」
花京院は何も言わない。
「頭にあれ入れられてたんだろ」
「……肉の芽ですね」
「うん」
「…………」
「人間の頭の中に自分の細胞入れて、言うこと聞かせる奴が」
リオの声から。
いつもの軽さが。
少しずつ消える。
「俺と同じ名字」
「…………」
「気になるよ」
花京院が。
リオを見る。
「会うつもりは変わりませんか?」
「変わらない」
「殺されるかもしれません」
「死にたくはないよ」
即答。
「でも」
「?」
「会わない理由にはならない」
「…………」
「俺が知らないことを」
リオは目を閉じる。
「あいつが知ってるかもしれないから」
花京院は。
しばらく答えなかった。
「……そうですか」
「うん」
それ以上。
二人は話さなかった。
◆
同じ頃。
別の部屋。
「ったく……」
ポルナレフは一人。
ベッドへ腰掛けた。
「死なないでね、じゃねえっつーの」
リオの声を思い出す。
「縁起でもねえ」
ホテル。
一人部屋。
静かな夜。
今度こそ。
何も起こらない。
――はずだった。
カタン。
「…………」
ポルナレフの顔から。
笑いが消えた。
「誰だ?」
返事はない。
カタン。
もう一度。
部屋の隅。
「…………」
一体の。
人形。
「なんだ、こいつ」
先ほどまで。
気にも留めなかった。
ただの。
人形。
そのはずだった。
「…………」
ポルナレフが近づく。
人形は動かない。
「リオの野郎」
鼻で笑う。
「人形がスタンドとか言ってやがったな」
手を伸ばす。
「まさかな」
――その時。
声がした。
「…………!」
ポルナレフの手が止まる。
低い。
男の声。
そこに。
いるはずのない人間の声。
「誰だッ!」
シルバーチャリオッツ。
即座に出現。
返事はない。
ただ。
人形の。
目が。
ゆっくりと。
ポルナレフを見た。
「…………」
笑い声。
憎悪。
殺意。
そして。
離れた別の部屋。
リオ・ブランドーは。
「…………すぅ」
寝ていた。
完全に。
熟睡していた。
ポルナレフが。
たった一人で。
殺意と向き合っていることなど。
知る由もない。
ホテルは敵ではなかった。
ベッドも。
帽子も。
地面も。
敵ではない。
ただ。
ひとつだけ。
リオが冗談で口にしたものがあった。
人形。
そして。
今夜。
その人形は――
笑っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
第七話でした!
ようやくシンガポール。
ようやく陸。
ようやくホテル。
リオ「もう船じゃない」
よかったね。
船長が敵。
船が敵。
次はホテルが敵――
ではありません。
ホテルは悪くありません。
悪いのは部屋にいる人形です。
さて。
今回はかなり日常寄りのお話でした。
リオ、ホテルの自動ドアで遊ぶ。
リオ、ベッドで遊ぶ。
リオ、金がない。
リオ、ジョセフに飯を奢ってもらう。
リオ、ポルナレフに「死なないでね」と言って寝る。
…………。
あれ?
こいつ主人公だよな?
第一話から数えて、もう七話。
ブラックサファイアというスタンドまで持っている。
能力もエネルギー操作。
設定だけ見るとめちゃくちゃ戦いそう。
なのに。
承太郎「偽船長倒した」
承太郎「猿倒した」
ポルナレフ「次俺」
リオ「ベッド柔らかい」
主人公ォ!!
いや、第一話では戦ってるんです。
戦ってるんですけど。
能力のお披露目に近かったので、
「リオ・ブランドーのガチバトル」
と呼べる戦闘は――
まだありません。
七話なのに。
主人公なのに。
作者「原作キャラの見せ場は奪いたくないなあ」
↓
原作キャラに戦わせる。
↓
リオは横で見る。
↓
作者「…………」
↓
主人公が戦ってねえ。
やってしまった。
ということで。
そろそろ。
ブラックサファイアにも、
ちゃんと働いてもらおうと思います。
もちろん何でも吸収して無双!
とはなりません。
容量もあります。
処理速度にも限界があります。
相手との相性もあります。
設定欄で説明するだけではなく、
その辺も実際の戦闘で見せたいところ。
そして今回。
ポルナレフ。
一人部屋。
人形。
リオ「人形とか」
ポルナレフ「なんで人形!?」
なんで当てたんだよ。
なお本人は現在。
寝ています。
めちゃくちゃ寝ています。
主人公が戦っていない間に、
脇で原作キャラが命懸けです。
本当に主人公か?
次回。
ポルナレフ。
頑張れ。
リオ。
お前もそろそろ頑張れ。
それでは次回もよろしくお願いします!