JOJOの奇妙な冒険 黒きサファイアの旅路   作:将吾

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朗報。

主人公、戦います。

第一話。
戦いました。

第二話。
飯食いました。

第三話。
ポルナレフの戦い見てました。

第四話。
船乗りました。

第五話。
承太郎が戦いました。

第六話。
承太郎が猿倒しました。

第七話。
自動ドアとベッドで遊びました。

第八話。

寝てました。

そして第九話。

ついに。

ようやく。

やっと。

主人公のターンです。

ブラックサファイアさん、お待たせしました。

リオ、お前もだ。

ちゃんと働け。

リオ「別に働きに来たわけじゃないけど」

知らん。

お前は主人公なんだよ。


黒いサファイア

翌朝。

 

 シンガポール。

 

 空は晴れていた。

 

 街は賑わっていた。

 

 人々は普通に歩いている。

 

 車も普通に走っている。

 

 建物も。

 

 動かない。

 

「…………」

 

 リオ・ブランドーは建物を見上げた。

 

「動かないね」

 

「当たり前だろ」

 

 ポルナレフが答える。

 

「昨日から何回目だ、その確認」

 

「船が動いたから」

 

「船は普通動くんだよ!」

 

「そういう意味じゃない」

 

「分かってるよ!」

 

 ジョセフが地図を広げる。

 

「いいか。今日はまず今後の移動手段を――」

 

「飛行機?」

 

「乗らん」

 

「早い」

 

「絶対に乗らん!」

 

「なんで?」

 

「なんでってお前」

 

 ポルナレフ。

 

「このジジイ、飛行機二回落としてんだぞ」

 

「わしが落としたんじゃない!」

 

「二回?」

 

 リオがジョセフを見る。

 

「…………」

 

「…………」

 

「二回も?」

 

「事故じゃ!」

 

「同じ人が?」

 

「事故じゃ!」

 

「すごいね」

 

「何がじゃ!」

 

「才能?」

 

「事故に才能もクソもあるか!」

 

 承太郎が帽子を下げる。

 

「ジジイが乗るならやめとけ」

 

「お前まで!」

 

「…………」

 

 リオが一歩、ジョセフから離れた。

 

「何で離れる!」

 

「いや」

 

「言え!」

 

「飛行機以外も危ないかなって」

 

「わしを災害扱いするなァ!」

 

     ◆

 

 結局。

 

 一行は一度、別行動を取ることになった。

 

 今後の移動手段。

 

 食料。

 

 必要な物資。

 

 情報。

 

 エジプトまでは、まだ遠い。

 

「昼には戻るんじゃぞ」

 

 ジョセフ。

 

「分かった」

 

 リオ。

 

「本当に分かっとるか?」

 

「多分」

 

「多分!?」

 

「冗談」

 

「お前の冗談は分かりづらい!」

 

 リオが歩き出す。

 

「待て」

 

「何?」

 

「金」

 

「あるよ」

 

 じゃら。

 

 硬貨。

 

「…………」

 

「…………」

 

「それだけか?」

 

「うん」

 

「昨日と変わっとらんじゃろ!」

 

「減ったよ」

 

「もっと悪いわ!」

 

 ジョセフが頭を抱え、財布を出す。

 

「ほれ」

 

「…………」

 

「持っとけ」

 

「いいの?」

 

「腹が減って変なことするなよ」

 

「しないよ」

 

「食い逃げとか」

 

「しない」

 

「本当か?」

 

「…………」

 

「なんで黙る!」

 

「冗談」

 

「だから分かりづらいと言っとるじゃろうが!」

 

 リオは金を受け取る。

 

「ありがとう」

 

「……なくすなよ」

 

「子供じゃないよ」

 

「十七歳は十分子供じゃ!」

 

「承太郎も十七」

 

「俺を見るな」

 

「承太郎は金持ってる?」

 

「知るか」

 

「自分の財布なのに?」

 

「てめーに教える必要はねえ」

 

「ケチ」

 

「オラされてえのか」

 

「ほら!」

 

 ジョセフが叫ぶ。

 

「そういうことするから心配なんじゃ!」

 

「今の承太郎が悪くない?」

 

「どっちもじゃ!」

 

     ◆

 

 一人。

 

 街を歩く。

 

 知らない街。

 

 知らない国。

 

 知らない店。

 

 目的もなく、それを見る。

 

「…………」

 

 嫌いではない。

 

 むしろ少し楽しい。

 

「何食べよう」

 

 今のところ。

 

 重要なのはそちらだった。

 

     ◆

 

 一度目。

 

 店の前。

 

 男。

 

 二度目。

 

 交差点。

 

 同じ男。

 

 三度目。

 

 路地の向こう。

 

「…………」

 

 リオが足を止める。

 

 振り返る。

 

 人混み。

 

 いない。

 

「…………」

 

 再び歩く。

 

 右。

 

 左。

 

 わざと細い道へ入る。

 

 表通りの喧騒が少し遠ざかる。

 

 左右には煉瓦造りの建物。

 

 店の裏口。

 

 積まれた木箱。

 

 壁際の街灯。

 

 路地の先には、大通りを行き交う人影が見える。

 

 リオは、その真ん中で止まった。

 

「出てきたら?」

 

 返事なし。

 

「三回目」

 

 沈黙。

 

「尾行」

 

 振り返る。

 

「あんまり上手くないよ」

 

 ぱち。

 

 ぱち。

 

 ぱち。

 

 拍手。

 

「大したものだ」

 

 男が路地の奥から現れる。

 

 三十代ほど。

 

 細身。

 

 黒髪。

 

 穏やかな笑顔。

 

「三度で気づいたか」

 

「二度目で気づきたかった」

 

「…………」

 

「何?」

 

「いや」

 

 男が笑う。

 

「負けず嫌いらしい」

 

「よく言われる」

 

「そうか」

 

「誰?」

 

「…………」

 

「DIOの手下?」

 

 男の笑顔が、少しだけ薄くなる。

 

「なぜそう思う」

 

「最近そればっかりだから」

 

「なるほど」

 

「当たり?」

 

「ああ」

 

「やっぱり」

 

「驚かんのだな」

 

「慣れてきた」

 

「DIO様の刺客に?」

 

「うん」

 

「奇妙な小僧だ」

 

「それもよく言われる」

 

「私が命じられたのはジョースター一行の始末だ」

 

「俺は?」

 

「知らん」

 

「…………」

 

「昨日から見慣れぬ顔が一人増えている」

 

 男がリオを見る。

 

「何者か確認していた」

 

「なるほど」

 

「名は?」

 

「リオ」

 

「それだけか?」

 

「…………」

 

 少し間。

 

「リオ・ブランドー」

 

「ブランドー?」

 

「うん」

 

「聞かぬ名だ」

 

「…………」

 

「何だ?」

 

「いや」

 

「?」

 

「そっちは反応しないんだなって」

 

「何の話だ?」

 

「DIO」

 

 男の目が僅かに細くなる。

 

「DIO様がどうした」

 

「フルネーム」

 

「……何?」

 

「DIOの他の名前、知らない?」

 

「…………」

 

 男は本当に意味が分からないという顔をした。

 

「DIO様はDIO様だ」

 

「…………」

 

「何を聞いている?」

 

「……そっか」

 

 リオの目が少しだけ下がる。

 

「じゃあいい」

 

「…………」

 

「多分、お前も知らないから」

 

「何の話だ」

 

「こっちの話」

 

 空振り。

 

 DIOの部下なら。

 

 何か知っているかもしれない。

 

 そう思った。

 

 だが、この男にとってDIOは。

 

 ただDIOなのだ。

 

「質問は終わりか?」

 

「うん」

 

「ではこちらの質問だ」

 

「何?」

 

「ジョースターたちはどこにいる?」

 

「教えない」

 

「仲間ではないのだろう?」

 

「うん」

 

「ならば構わんはずだ」

 

「別に」

 

「何?」

 

「仲間じゃないからって」

 

 リオが男を見る。

 

「お前に教えなきゃいけない理由もないだろ」

 

「…………」

 

「俺が教えたくない」

 

「理由は?」

 

「ないよ」

 

「…………」

 

「俺が決めた」

 

 男の笑顔が消える。

 

「そうか」

 

「うん」

 

「ならば」

 

 その背後。

 

 細身の人型が浮かび上がる。

 

 長い腕。

 

 長い指。

 

 身体の各所に刻まれた、円環のような意匠。

 

「無理にでも吐いてもらおう」

 

「…………」

 

 リオの背後にも。

 

 黒。

 

 青。

 

 人型。

 

 ブラックサファイア。

 

「やってみれば?」

 

     ◆

 

「『サイレント・ランニング』」

 

 男の背後に立つスタンドが、右手で路地の壁を撫で、続けて足元の石畳に触れた。

 

 何をしている。

 

 そう考えた瞬間。

 

 五メートルほどあった距離が、一気に消えた。

 

「――速い」

 

 右拳。

 

 ブラックサファイアが左腕で受け止める。

 

 鈍い衝撃が腕を走るより早く、リオはその運動エネルギーを奪った。

 

 敵の拳が不自然なほど、ぴたりと止まる。

 

「!」

 

「こっちは止められる」

 

 がら空きになった胴体へ。

 

 ブラックサファイアの拳。

 

 ――ドゴォン!!

 

「…………?」

 

 男は一歩も動かなかった。

 

 代わりに。

 

 二人の右側にあった煉瓦の壁が、内側から殴られたように陥没した。

 

 砕けた煉瓦が路地へ降り注ぐ。

 

 リオは男と壁を交互に見る。

 

「今の、俺だよね」

 

「さあな」

 

「じゃあ、もう一回」

 

 ブラックサファイアが踏み込む。

 

 顔面へ一発。

 

 ――ガシャァン!

 

 男の背後。

 

 積まれていた木箱が粉々になる。

 

 脇腹へ二発目。

 

 ――バキン!

 

 壁際の街灯が途中から折れ曲がった。

 

 三発目。

 

 その直前。

 

 リオの拳が止まる。

 

「……消してない」

 

 砕けた壁。

 

 木箱。

 

 街灯。

 

 そして。

 

 戦闘が始まる前。

 

 男が触れていた場所。

 

「俺が殴った分を、別の場所に逃がしてる」

 

「正解だ」

 

 男が笑った。

 

「私の『サイレント・ランニング』は、触れたもの同士に道を作る」

 

「道?」

 

「エネルギーのな」

 

 壁。

 

 地面。

 

 街灯。

 

「衝撃も。熱も。振動も」

 

 男が両腕を広げる。

 

「流れ込んできた力を、別の接続先へ逃がす」

 

「…………」

 

「つまり」

 

 笑う。

 

「貴様の力は私には届かん」

 

「それは違う」

 

「何?」

 

「届いてる」

 

 リオが折れた街灯を見る。

 

「その後、逃げてるだけ」

 

「…………」

 

「同じじゃないよ」

 

     ◆

 

 サイレント・ランニングが石畳を蹴った。

 

 真正面。

 

 右。

 

 左。

 

 右。

 

 拳が連続で飛ぶ。

 

 ブラックサファイアが一発目から運動を奪い、二発目を前腕で逸らす。

 

 三発目。

 

 脇腹を掠めた。

 

「っ」

 

 四発目。

 

 頬。

 

 リオは上体を反らして避ける。

 

 拳が鼻先を通過した瞬間。

 

「そこ」

 

 ブラックサファイアの拳が敵の胸へ突き刺さる。

 

 ドンッ!!

 

 また。

 

 男は動かない。

 

 代わりに。

 

 ――ガシャァァン!!

 

 背後の店。

 

 窓ガラスが一斉に砕け散った。

 

「…………」

 

 リオの拳が止まる。

 

 窓の向こう。

 

 店内にいた客たちが、何事かとこちらを見ている。

 

「どうした?」

 

 男が笑う。

 

 サイレント・ランニングが壁へ触れる。

 

 看板。

 

 停車していた車。

 

 店の外壁。

 

 次々に。

 

「接続先はいくらでもある」

 

「…………」

 

「殴れ」

 

 男が両腕を広げる。

 

「貴様の力を見せてみろ」

 

 リオは路地を見渡した。

 

 左。

 

 店。

 

 右。

 

 建物。

 

 背後。

 

 大通り。

 

 人がいる。

 

「もし」

 

 男が建物へ手を置く。

 

「貴様の力が、この建物へ流れたら」

 

「…………」

 

「どうなるだろうな?」

 

 リオの目が冷える。

 

「人質?」

 

「そう思うか?」

 

「うん」

 

「ならば撃てんだろう」

 

「撃てるよ」

 

 即答。

 

 男の笑みが僅かに消える。

 

「知らない人だし」

 

「……なら、なぜ撃たん?」

 

「必要ないから」

 

 ブラックサファイアが拳を下げる。

 

「知らない人を助けたいわけじゃない」

 

「…………」

 

「でも」

 

 リオは男を見る。

 

「お前一人倒すために、わざわざ他まで壊す必要ないだろ」

 

「……甘いな」

 

「そう?」

 

「結局、撃てん!」

 

「違うよ」

 

「何が違う!」

 

「必要ならやる」

 

 淡々と。

 

「今は必要ないだけ」

 

「…………」

 

 男から。

 

 笑みが消えた。

 

     ◆

 

「ならば防ぎ続けろ!」

 

 一気に間合いが消える。

 

 一発目。

 

 ブラックサファイアが吸収。

 

 二発目。

 

 逸らす。

 

 三発目。

 

 ――処理が遅れた。

 

「――ッ!」

 

 拳がリオの腹へ深く突き刺さる。

 

 身体が浮く。

 

 二メートルほど後ろの壁へ、背中から叩きつけられた。

 

「ぐ……っ」

 

 肺から空気が抜ける。

 

 顔を上げた時には。

 

 もう敵が目の前にいた。

 

「貴様は攻撃できない!」

 

 拳。

 

 ブラックサファイアが受ける。

 

「私は攻撃できる!」

 

 二発目。

 

 肩。

 

「っ!」

 

「いずれ!」

 

 三発目。

 

「貴様の方が!」

 

 リオが首を傾ける。

 

 拳が。

 

 その背後の壁へ。

 

 ――ドゴッ!

 

 めり込んだ。

 

「…………」

 

 リオの目が止まる。

 

「何だ?」

 

「今の」

 

「?」

 

「逃がさなかったね」

 

「…………!」

 

 壁。

 

 普通に壊れている。

 

「……なるほど」

 

 リオが口元の血を拭う。

 

「勝手に流れるんじゃないんだ」

 

「黙れ!」

 

 敵が踏み込む。

 

 右拳。

 

 ブラックサファイアが受け止める。

 

 左。

 

 リオが頭を沈める。

 

 拳が髪の上を通過する。

 

 そのまま。

 

 懐へ。

 

 リオ自身が踏み込んだ。

 

「な――」

 

 殴らない。

 

 ブラックサファイアが男の右手首を掴む。

 

「捕まえた」

 

「離せ!」

 

 サイレント・ランニングの拳。

 

 ブラックサファイアの顔面へ。

 

 ドッ!

 

「ぐっ……!」

 

 衝撃がリオにも響く。

 

 だが。

 

 離さない。

 

「貴様!」

 

「…………」

 

「何をする気だ!」

 

「考えてる」

 

「この状況でか!」

 

「うん」

 

 もう一発。

 

 リオが頭を振って避ける。

 

 拳が壁へめり込む。

 

「…………」

 

「何だ!」

 

「やっぱり」

 

 リオが男を見る。

 

「自分から出した攻撃は、そのままなんだ」

 

「――!」

 

「逃がすかどうか」

 

 手首を握ったまま。

 

「お前が決めてる」

 

「黙れ!」

 

 男が腕を振りほどく。

 

 サイレント・ランニング。

 

 突進。

 

「つまり」

 

 リオ。

 

 構える。

 

「忙しいんだ」

 

「何!?」

 

 敵の拳。

 

 ブラックサファイア。

 

 受ける。

 

 吸収。

 

 反撃。

 

 男がその衝撃を壁へ逃がす。

 

 ――ドゴン!

 

 その瞬間。

 

 リオ本人の足が。

 

 男の踵へ。

 

「な――!」

 

 払う。

 

 体勢が崩れる。

 

 ブラックサファイアが肩を押す。

 

 男の身体が石畳へ落ちる。

 

 衝撃。

 

 地面へ流れる。

 

「ハハッ!」

 

 男が即座に起き上がる。

 

「無駄だ!」

 

「うん」

 

 リオ。

 

「知ってる」

 

 ブラックサファイアの足が。

 

 男の右手を。

 

 石畳へ押さえつける。

 

「――ッ!」

 

「これ」

 

「退け!」

 

「エネルギーじゃないよ」

 

 敵スタンドの拳。

 

 ブラックサファイアの顔面。

 

 ドッ!

 

「ぐっ!」

 

 リオの頭が揺れる。

 

 それでも。

 

 足は退けない。

 

「離せ!」

 

「嫌だ」

 

「サイレント・ランニング!」

 

 連打。

 

 腕。

 

 肩。

 

 脇腹。

 

 全ては処理できない。

 

「――ッ!」

 

 血。

 

 それでも。

 

 リオは前へ出る。

 

「離せ!」

 

「嫌だって」

 

「死ぬぞ!」

 

「聞こえてる」

 

 ブラックサファイアが敵スタンドの腕を掴む。

 

 リオ自身も。

 

 男の腕を取る。

 

「だから」

 

「何!?」

 

「早く終わらせる」

 

 捻る。

 

「ぐあッ!」

 

 男が反射的に能力を使う。

 

 だが。

 

「な……!」

 

 腕は。

 

 曲がったまま。

 

「やっぱり」

 

「何が……!」

 

「衝撃は逃がせる」

 

 さらに捻る。

 

「ぐッ!」

 

「でも」

 

 肩。

 

 肘。

 

 手首。

 

 関節。

 

「腕の向きまでは逃がせない」

 

「貴様ァ!」

 

 サイレント・ランニングがリオを殴る。

 

 一発。

 

 二発。

 

 ブラックサファイアが受ける。

 

 三発目。

 

 肩。

 

「――ッ!」

 

 それでも。

 

 腕を離さない。

 

「殴るから」

 

 リオの息が少し荒い。

 

「逃がされる」

 

「や、やめろ……!」

 

「投げても」

 

 関節をさらに固定する。

 

「衝撃を逃がされる」

 

「ぐ……ッ!」

 

「じゃあ」

 

 冷たい目。

 

「殴らない」

 

「――!」

 

「投げない」

 

 腕を。

 

 逆へ。

 

「ただ」

 

「ぐあッ!」

 

「動けなくする」

 

「貴様の能力は!」

 

 男が苦痛に顔を歪める。

 

「エネルギー操作だろう!」

 

「うん」

 

「ならそれを使え!」

 

「…………」

 

 リオは一瞬だけ黙った。

 

 そして。

 

 少し笑う。

 

「使わなくても勝てるなら」

 

 ブラックサファイアが拘束を強める。

 

「使わなくていいだろ」

 

「ぐあああああッ!!」

 

 男の膝が石畳へ落ちた。

 

 サイレント・ランニングの姿が揺らぐ。

 

 そして。

 

 消えた。

 

「…………」

 

 静かになった路地。

 

 砕けた壁。

 

 折れた街灯。

 

 割れた窓。

 

 その真ん中で。

 

 男だけが地面に倒れている。

 

 リオは口元の血を拭った。

 

「思ってたより」

 

 倒れた男を見る。

 

「地味な勝ち方になったな」

 

「……貴様が……やったんだろうが……」

 

「そうだけど」

 

     ◆

 

「……殺せ」

 

「…………」

 

 リオが男を見下ろす。

 

「何で?」

 

「私は……貴様を殺そうとした」

 

「うん」

 

「次も殺す」

 

「そう」

 

「ならばなぜ殺さん!」

 

「…………」

 

 少し考える。

 

「今」

 

「何?」

 

「お前」

 

 声が冷たくなる。

 

「何もできないだろ」

 

「…………」

 

「だから」

 

 事実を言うように。

 

「今殺す必要がない」

 

「…………!」

 

「必要になったら」

 

 一拍。

 

「その時殺すよ」

 

「…………」

 

 男は何も言わなかった。

 

「それより」

 

 リオがしゃがむ。

 

「DIOについて」

 

「…………」

 

「何か――」

 

 止まる。

 

「…………」

 

「何だ」

 

「いや」

 

 立ち上がる。

 

「やっぱいい」

 

「……?」

 

「お前」

 

 少しつまらなそうに。

 

「多分知らないから」

 

     ◆

 

「リオォォォ!」

 

「…………」

 

 遠くから声。

 

「いたぞ!」

 

 ポルナレフ。

 

「うるさい」

 

「うるさいじゃねえ!」

 

 ポルナレフ。

 

 花京院。

 

 アヴドゥル。

 

 ジョセフ。

 

 承太郎。

 

 五人が路地へ入ってくる。

 

「お前さん!」

 

 ジョセフ。

 

「何しとるんじゃ!」

 

「散歩」

 

「散歩でなんで怪我するんじゃ!」

 

「色々」

 

「色々で済ますな!」

 

 アヴドゥルが倒れた男を見る。

 

「こいつは?」

 

「DIOの手下」

 

 全員の表情が変わる。

 

「一人で戦ったのですか?」

 

 花京院。

 

「うん」

 

「なぜ逃げなかった?」

 

 アヴドゥル。

 

「勝てそうだったから」

 

「…………」

 

「何?」

 

「いや……」

 

 ポルナレフがリオを見る。

 

「お前、結構ボロボロじゃねえか」

 

「昨日のポルナレフよりマシ」

 

「俺と比べんな!」

 

「勝った?」

 

「勝ったよ!」

 

「じゃあお揃い」

 

「嬉しくねえ!」

 

 承太郎が周囲を見る。

 

 陥没した壁。

 

 折れた街灯。

 

 砕けた窓。

 

 倒れた男。

 

「てめー」

 

「何?」

 

「何された」

 

「攻撃を逃がされた」

 

「?」

 

「俺が殴る」

 

 壁を指す。

 

「壁壊れる」

 

 地面。

 

「投げる」

 

 地面。

 

「衝撃逃げる」

 

「…………」

 

「だから」

 

 倒れた男。

 

「関節極めた」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ポルナレフが瞬きする。

 

「地味じゃね?」

 

「俺も思った」

 

「自分で言うな!」

 

 花京院が少し笑う。

 

「でも正解ですね」

 

「うん」

 

「能力を攻略するために、能力を使わなかった」

 

「正確には殴るのをやめただけ」

 

「同じようなものです」

 

 承太郎がリオの傷を見る。

 

「それでも」

 

「?」

 

「随分危ねえ戦い方だな」

 

「勝ったよ」

 

「結果の話をしてんじゃねえ」

 

「…………」

 

「次も同じことやったら死ぬぜ」

 

「その前に倒す」

 

「そういうところだっつってんだ」

 

「…………」

 

 リオ。

 

 少しむっとする。

 

「何だ」

 

「勝ったのに怒られた」

 

「ガキかてめーは」

 

「同い年」

 

「精神の話だ」

 

「承太郎に言われたくない」

 

「やれやれだぜ」

 

「お前ら!」

 

 ジョセフ。

 

「怪我人なんじゃから喧嘩するな!」

 

「俺は怪我してねえ」

 

「お前が煽っとるんじゃ!」

 

     ◆

 

 少しして。

 

「何か聞けたか?」

 

 ジョセフ。

 

「何を?」

 

「DIOじゃ」

 

「ああ」

 

 リオ。

 

「名前は言った」

 

「ブランドーと?」

 

「うん」

 

「反応は?」

 

「なかった」

 

「…………」

 

 ジョセフが少し止まる。

 

「『聞かない名前だ』って」

 

「そうか……」

 

「DIOのフルネームも知らなかった」

 

 アヴドゥルが静かに言う。

 

「配下全員がDIOの過去まで知らされているわけではないのだろう」

 

「みたい」

 

 リオは包帯を見る。

 

「ちょっと期待したんだけどな」

 

「…………」

 

「部下なら何か知ってるかなって」

 

 少しだけ。

 

 残念そうに。

 

「外れだった」

 

「リオ」

 

 ジョセフ。

 

「何?」

 

「…………いや」

 

「?」

 

「何でもない」

 

「最近それ多くない?」

 

「気のせいじゃ」

 

「…………」

 

 リオが少し考える。

 

「この前も、それで船長怪しかったけど」

 

「うっ」

 

「気のせいって、あんまり信用できないね」

 

「お前さん、自分が違和感を気のせいで済ませた側じゃろ!」

 

「だから学んだ」

 

「都合よく成長するな!」

 

 少し前を歩いていた承太郎が鼻で笑った。

 

「学ばねえよりマシだろ」

 

「承太郎まで乗るな!」

 

     ◆

 

「ところでよ」

 

 ポルナレフ。

 

「何?」

 

「お前」

 

 にや。

 

「やっとまともに戦ったな」

 

「…………」

 

「…………」

 

「何その言い方」

 

「だってよ!」

 

 指。

 

「偽船長!」

 

「承太郎」

 

「猿!」

 

「承太郎」

 

「昨日!」

 

「ポルナレフ」

 

「で」

 

 ポルナレフがリオを指差す。

 

「お前最近何してた?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ホテル泊まった」

 

「ブハハハハハハ!」

 

「殴るよ」

 

「悪かった! 悪かったって!」

 

「ブラックサファイア」

 

「スタンド出すな!」

 

「殴らないよ」

 

「本当か?」

 

「関節極める」

 

「もっと嫌だわ!」

 

 花京院が吹き出す。

 

「花京院!」

 

「すみません」

 

「笑ってるだろ!」

 

「笑っていません」

 

「肩動いてんぞ!」

 

「それ」

 

 リオ。

 

「アヴドゥルもやってた」

 

「お前ら全員敵か!」

 

「仲間じゃないけど」

 

「今そこ掘り返すな!」

 

     ◆

 

 少し後ろ。

 

 承太郎。

 

 花京院。

 

「承太郎」

 

「あ?」

 

「リオ」

 

 花京院が前を見る。

 

 ポルナレフと。

 

 まだ言い合っている少年。

 

「最初は、自分の能力で何とかしようとしたのでしょうね」

 

「だろうな」

 

「それが通じないと分かった」

 

「…………」

 

「だから、能力を使わない方法を選んだ」

 

「それがどうした」

 

「いえ」

 

 花京院が少し笑う。

 

「面白いな、と」

 

「くだらねえ」

 

「そうですか?」

 

「ああ」

 

 承太郎が帽子を下げる。

 

「ただ」

 

「?」

 

「次に同じ手を食らったら」

 

 少し間。

 

「もっと早く潰すだろうな」

 

 花京院も前を見る。

 

「…………」

 

 笑う。

 

「でしょうね」

 

     ◆

 

 ブラックサファイア。

 

 エネルギーを操る。

 

 強力なスタンド。

 

 だが。

 

 今日。

 

 その力を正面から封じられた。

 

 強く殴れば。

 

 別の場所へ。

 

 力を増せば増すほど。

 

 被害だけが周囲へ広がる。

 

 だから。

 

 リオは。

 

 殴るのをやめた。

 

 能力が使えないなら。

 

 別の方法を。

 

 一つが駄目なら。

 

 次を。

 

 それも駄目なら。

 

 また次を。

 

 血筋でも。

 

 名字でも。

 

 DIOでもない。

 

 彼がDIOという男の存在を知るより。

 

 ずっと前から。

 

 その傍らにいたもの。

 

 黒い身体。

 

 青い輝き。

 

 そして。

 

 その力をどう使うかを決める。

 

 一人の少年。

 

 そのスタンドの名は。

 

 ――ブラックサファイア。




第九話でした!

ついに来ました。

リオ・ブランドー、ちゃんとした単独戦。

長かった。

本当に長かった。

ブラックサファイア「…………」

ごめんて。

今回は第一話の能力お披露目とは違って、最初から最後までリオ一人で戦ってもらいました。

相手は『サイレント・ランニング』。

殴る。

別の場所が壊れる。

もっと殴る。

もっと別の場所が壊れる。

リオ「…………」

敵「どうした! 自慢の能力を使え!」

リオ「じゃあ殴らない」

敵「え?」

関節技。

いや。

違うんだ。

作者も最初はもうちょっとこう……。

エネルギーがドーン!

ブラックサファイアがバーン!

みたいな決着になると思ってたんです。

でも能力を考えていった結果、

最適解:腕を極める。

になりました。

ブラックサファイア、エネルギー操作能力。

第九話の決め技。

関節技。

お前それでいいのか。

リオ「勝ったからいいだろ」

まあ……うん。

そして今回、少しだけリオの危ない部分も出しました。

「知らない人だから巻き込んでもいい」ではない。

「知らない人でも絶対助ける」でもない。

必要ならやる。今は必要ないからやらない。

さらに倒した敵にも、

「今殺す必要がない」
「必要になったら、その時殺す」

この辺り。

普段は金がないとかベッドが柔らかいとか言ってる十七歳ですが、やっぱり承太郎たちと全く同じ種類の人間ではありません。

でもそんなことより。

今回リオにはもう一つ目的がありました。

DIOの部下だ!

↓

ブランドーって名乗ってみよう!

↓

何か知ってるかも!

↓

敵「聞かぬ名だ」

↓

DIOの本名は?

↓

敵「DIO様はDIO様だ」

↓

情報ゼロ。

リオ「…………」

残念でした。

どうやらDIOの部下だからといって、全員がDIOの昔の名前や過去まで知っているわけではないようです。

つまり現在。

リオが自分について知っていること。

名前。

リオ・ブランドー。

以上。

九話まで来たのに主人公の素性が第一話からほぼ進んでねえ。

まあ、その辺はゆっくり行きます。

そして最後。

ポルナレフ「お前最近何してた?」

リオ「ホテル泊まった」

やめろ。

せっかく今回格好よく戦ったのに全部思い出させるな。

というわけで。

主人公、無事戦闘終了。

怪我しました。

能力も封じられました。

普通に殴られました。

でも自分で考えて勝ちました。

こういうのでいいんだよ。

次回。

せっかく主人公が働いたので――

たぶんまた誰かが働きます。

リオ「俺じゃない?」

知らん。

原作が決める。
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