主人公、戦います。
第一話。
戦いました。
第二話。
飯食いました。
第三話。
ポルナレフの戦い見てました。
第四話。
船乗りました。
第五話。
承太郎が戦いました。
第六話。
承太郎が猿倒しました。
第七話。
自動ドアとベッドで遊びました。
第八話。
寝てました。
そして第九話。
ついに。
ようやく。
やっと。
主人公のターンです。
ブラックサファイアさん、お待たせしました。
リオ、お前もだ。
ちゃんと働け。
リオ「別に働きに来たわけじゃないけど」
知らん。
お前は主人公なんだよ。
翌朝。
シンガポール。
空は晴れていた。
街は賑わっていた。
人々は普通に歩いている。
車も普通に走っている。
建物も。
動かない。
「…………」
リオ・ブランドーは建物を見上げた。
「動かないね」
「当たり前だろ」
ポルナレフが答える。
「昨日から何回目だ、その確認」
「船が動いたから」
「船は普通動くんだよ!」
「そういう意味じゃない」
「分かってるよ!」
ジョセフが地図を広げる。
「いいか。今日はまず今後の移動手段を――」
「飛行機?」
「乗らん」
「早い」
「絶対に乗らん!」
「なんで?」
「なんでってお前」
ポルナレフ。
「このジジイ、飛行機二回落としてんだぞ」
「わしが落としたんじゃない!」
「二回?」
リオがジョセフを見る。
「…………」
「…………」
「二回も?」
「事故じゃ!」
「同じ人が?」
「事故じゃ!」
「すごいね」
「何がじゃ!」
「才能?」
「事故に才能もクソもあるか!」
承太郎が帽子を下げる。
「ジジイが乗るならやめとけ」
「お前まで!」
「…………」
リオが一歩、ジョセフから離れた。
「何で離れる!」
「いや」
「言え!」
「飛行機以外も危ないかなって」
「わしを災害扱いするなァ!」
◆
結局。
一行は一度、別行動を取ることになった。
今後の移動手段。
食料。
必要な物資。
情報。
エジプトまでは、まだ遠い。
「昼には戻るんじゃぞ」
ジョセフ。
「分かった」
リオ。
「本当に分かっとるか?」
「多分」
「多分!?」
「冗談」
「お前の冗談は分かりづらい!」
リオが歩き出す。
「待て」
「何?」
「金」
「あるよ」
じゃら。
硬貨。
「…………」
「…………」
「それだけか?」
「うん」
「昨日と変わっとらんじゃろ!」
「減ったよ」
「もっと悪いわ!」
ジョセフが頭を抱え、財布を出す。
「ほれ」
「…………」
「持っとけ」
「いいの?」
「腹が減って変なことするなよ」
「しないよ」
「食い逃げとか」
「しない」
「本当か?」
「…………」
「なんで黙る!」
「冗談」
「だから分かりづらいと言っとるじゃろうが!」
リオは金を受け取る。
「ありがとう」
「……なくすなよ」
「子供じゃないよ」
「十七歳は十分子供じゃ!」
「承太郎も十七」
「俺を見るな」
「承太郎は金持ってる?」
「知るか」
「自分の財布なのに?」
「てめーに教える必要はねえ」
「ケチ」
「オラされてえのか」
「ほら!」
ジョセフが叫ぶ。
「そういうことするから心配なんじゃ!」
「今の承太郎が悪くない?」
「どっちもじゃ!」
◆
一人。
街を歩く。
知らない街。
知らない国。
知らない店。
目的もなく、それを見る。
「…………」
嫌いではない。
むしろ少し楽しい。
「何食べよう」
今のところ。
重要なのはそちらだった。
◆
一度目。
店の前。
男。
二度目。
交差点。
同じ男。
三度目。
路地の向こう。
「…………」
リオが足を止める。
振り返る。
人混み。
いない。
「…………」
再び歩く。
右。
左。
わざと細い道へ入る。
表通りの喧騒が少し遠ざかる。
左右には煉瓦造りの建物。
店の裏口。
積まれた木箱。
壁際の街灯。
路地の先には、大通りを行き交う人影が見える。
リオは、その真ん中で止まった。
「出てきたら?」
返事なし。
「三回目」
沈黙。
「尾行」
振り返る。
「あんまり上手くないよ」
ぱち。
ぱち。
ぱち。
拍手。
「大したものだ」
男が路地の奥から現れる。
三十代ほど。
細身。
黒髪。
穏やかな笑顔。
「三度で気づいたか」
「二度目で気づきたかった」
「…………」
「何?」
「いや」
男が笑う。
「負けず嫌いらしい」
「よく言われる」
「そうか」
「誰?」
「…………」
「DIOの手下?」
男の笑顔が、少しだけ薄くなる。
「なぜそう思う」
「最近そればっかりだから」
「なるほど」
「当たり?」
「ああ」
「やっぱり」
「驚かんのだな」
「慣れてきた」
「DIO様の刺客に?」
「うん」
「奇妙な小僧だ」
「それもよく言われる」
「私が命じられたのはジョースター一行の始末だ」
「俺は?」
「知らん」
「…………」
「昨日から見慣れぬ顔が一人増えている」
男がリオを見る。
「何者か確認していた」
「なるほど」
「名は?」
「リオ」
「それだけか?」
「…………」
少し間。
「リオ・ブランドー」
「ブランドー?」
「うん」
「聞かぬ名だ」
「…………」
「何だ?」
「いや」
「?」
「そっちは反応しないんだなって」
「何の話だ?」
「DIO」
男の目が僅かに細くなる。
「DIO様がどうした」
「フルネーム」
「……何?」
「DIOの他の名前、知らない?」
「…………」
男は本当に意味が分からないという顔をした。
「DIO様はDIO様だ」
「…………」
「何を聞いている?」
「……そっか」
リオの目が少しだけ下がる。
「じゃあいい」
「…………」
「多分、お前も知らないから」
「何の話だ」
「こっちの話」
空振り。
DIOの部下なら。
何か知っているかもしれない。
そう思った。
だが、この男にとってDIOは。
ただDIOなのだ。
「質問は終わりか?」
「うん」
「ではこちらの質問だ」
「何?」
「ジョースターたちはどこにいる?」
「教えない」
「仲間ではないのだろう?」
「うん」
「ならば構わんはずだ」
「別に」
「何?」
「仲間じゃないからって」
リオが男を見る。
「お前に教えなきゃいけない理由もないだろ」
「…………」
「俺が教えたくない」
「理由は?」
「ないよ」
「…………」
「俺が決めた」
男の笑顔が消える。
「そうか」
「うん」
「ならば」
その背後。
細身の人型が浮かび上がる。
長い腕。
長い指。
身体の各所に刻まれた、円環のような意匠。
「無理にでも吐いてもらおう」
「…………」
リオの背後にも。
黒。
青。
人型。
ブラックサファイア。
「やってみれば?」
◆
「『サイレント・ランニング』」
男の背後に立つスタンドが、右手で路地の壁を撫で、続けて足元の石畳に触れた。
何をしている。
そう考えた瞬間。
五メートルほどあった距離が、一気に消えた。
「――速い」
右拳。
ブラックサファイアが左腕で受け止める。
鈍い衝撃が腕を走るより早く、リオはその運動エネルギーを奪った。
敵の拳が不自然なほど、ぴたりと止まる。
「!」
「こっちは止められる」
がら空きになった胴体へ。
ブラックサファイアの拳。
――ドゴォン!!
「…………?」
男は一歩も動かなかった。
代わりに。
二人の右側にあった煉瓦の壁が、内側から殴られたように陥没した。
砕けた煉瓦が路地へ降り注ぐ。
リオは男と壁を交互に見る。
「今の、俺だよね」
「さあな」
「じゃあ、もう一回」
ブラックサファイアが踏み込む。
顔面へ一発。
――ガシャァン!
男の背後。
積まれていた木箱が粉々になる。
脇腹へ二発目。
――バキン!
壁際の街灯が途中から折れ曲がった。
三発目。
その直前。
リオの拳が止まる。
「……消してない」
砕けた壁。
木箱。
街灯。
そして。
戦闘が始まる前。
男が触れていた場所。
「俺が殴った分を、別の場所に逃がしてる」
「正解だ」
男が笑った。
「私の『サイレント・ランニング』は、触れたもの同士に道を作る」
「道?」
「エネルギーのな」
壁。
地面。
街灯。
「衝撃も。熱も。振動も」
男が両腕を広げる。
「流れ込んできた力を、別の接続先へ逃がす」
「…………」
「つまり」
笑う。
「貴様の力は私には届かん」
「それは違う」
「何?」
「届いてる」
リオが折れた街灯を見る。
「その後、逃げてるだけ」
「…………」
「同じじゃないよ」
◆
サイレント・ランニングが石畳を蹴った。
真正面。
右。
左。
右。
拳が連続で飛ぶ。
ブラックサファイアが一発目から運動を奪い、二発目を前腕で逸らす。
三発目。
脇腹を掠めた。
「っ」
四発目。
頬。
リオは上体を反らして避ける。
拳が鼻先を通過した瞬間。
「そこ」
ブラックサファイアの拳が敵の胸へ突き刺さる。
ドンッ!!
また。
男は動かない。
代わりに。
――ガシャァァン!!
背後の店。
窓ガラスが一斉に砕け散った。
「…………」
リオの拳が止まる。
窓の向こう。
店内にいた客たちが、何事かとこちらを見ている。
「どうした?」
男が笑う。
サイレント・ランニングが壁へ触れる。
看板。
停車していた車。
店の外壁。
次々に。
「接続先はいくらでもある」
「…………」
「殴れ」
男が両腕を広げる。
「貴様の力を見せてみろ」
リオは路地を見渡した。
左。
店。
右。
建物。
背後。
大通り。
人がいる。
「もし」
男が建物へ手を置く。
「貴様の力が、この建物へ流れたら」
「…………」
「どうなるだろうな?」
リオの目が冷える。
「人質?」
「そう思うか?」
「うん」
「ならば撃てんだろう」
「撃てるよ」
即答。
男の笑みが僅かに消える。
「知らない人だし」
「……なら、なぜ撃たん?」
「必要ないから」
ブラックサファイアが拳を下げる。
「知らない人を助けたいわけじゃない」
「…………」
「でも」
リオは男を見る。
「お前一人倒すために、わざわざ他まで壊す必要ないだろ」
「……甘いな」
「そう?」
「結局、撃てん!」
「違うよ」
「何が違う!」
「必要ならやる」
淡々と。
「今は必要ないだけ」
「…………」
男から。
笑みが消えた。
◆
「ならば防ぎ続けろ!」
一気に間合いが消える。
一発目。
ブラックサファイアが吸収。
二発目。
逸らす。
三発目。
――処理が遅れた。
「――ッ!」
拳がリオの腹へ深く突き刺さる。
身体が浮く。
二メートルほど後ろの壁へ、背中から叩きつけられた。
「ぐ……っ」
肺から空気が抜ける。
顔を上げた時には。
もう敵が目の前にいた。
「貴様は攻撃できない!」
拳。
ブラックサファイアが受ける。
「私は攻撃できる!」
二発目。
肩。
「っ!」
「いずれ!」
三発目。
「貴様の方が!」
リオが首を傾ける。
拳が。
その背後の壁へ。
――ドゴッ!
めり込んだ。
「…………」
リオの目が止まる。
「何だ?」
「今の」
「?」
「逃がさなかったね」
「…………!」
壁。
普通に壊れている。
「……なるほど」
リオが口元の血を拭う。
「勝手に流れるんじゃないんだ」
「黙れ!」
敵が踏み込む。
右拳。
ブラックサファイアが受け止める。
左。
リオが頭を沈める。
拳が髪の上を通過する。
そのまま。
懐へ。
リオ自身が踏み込んだ。
「な――」
殴らない。
ブラックサファイアが男の右手首を掴む。
「捕まえた」
「離せ!」
サイレント・ランニングの拳。
ブラックサファイアの顔面へ。
ドッ!
「ぐっ……!」
衝撃がリオにも響く。
だが。
離さない。
「貴様!」
「…………」
「何をする気だ!」
「考えてる」
「この状況でか!」
「うん」
もう一発。
リオが頭を振って避ける。
拳が壁へめり込む。
「…………」
「何だ!」
「やっぱり」
リオが男を見る。
「自分から出した攻撃は、そのままなんだ」
「――!」
「逃がすかどうか」
手首を握ったまま。
「お前が決めてる」
「黙れ!」
男が腕を振りほどく。
サイレント・ランニング。
突進。
「つまり」
リオ。
構える。
「忙しいんだ」
「何!?」
敵の拳。
ブラックサファイア。
受ける。
吸収。
反撃。
男がその衝撃を壁へ逃がす。
――ドゴン!
その瞬間。
リオ本人の足が。
男の踵へ。
「な――!」
払う。
体勢が崩れる。
ブラックサファイアが肩を押す。
男の身体が石畳へ落ちる。
衝撃。
地面へ流れる。
「ハハッ!」
男が即座に起き上がる。
「無駄だ!」
「うん」
リオ。
「知ってる」
ブラックサファイアの足が。
男の右手を。
石畳へ押さえつける。
「――ッ!」
「これ」
「退け!」
「エネルギーじゃないよ」
敵スタンドの拳。
ブラックサファイアの顔面。
ドッ!
「ぐっ!」
リオの頭が揺れる。
それでも。
足は退けない。
「離せ!」
「嫌だ」
「サイレント・ランニング!」
連打。
腕。
肩。
脇腹。
全ては処理できない。
「――ッ!」
血。
それでも。
リオは前へ出る。
「離せ!」
「嫌だって」
「死ぬぞ!」
「聞こえてる」
ブラックサファイアが敵スタンドの腕を掴む。
リオ自身も。
男の腕を取る。
「だから」
「何!?」
「早く終わらせる」
捻る。
「ぐあッ!」
男が反射的に能力を使う。
だが。
「な……!」
腕は。
曲がったまま。
「やっぱり」
「何が……!」
「衝撃は逃がせる」
さらに捻る。
「ぐッ!」
「でも」
肩。
肘。
手首。
関節。
「腕の向きまでは逃がせない」
「貴様ァ!」
サイレント・ランニングがリオを殴る。
一発。
二発。
ブラックサファイアが受ける。
三発目。
肩。
「――ッ!」
それでも。
腕を離さない。
「殴るから」
リオの息が少し荒い。
「逃がされる」
「や、やめろ……!」
「投げても」
関節をさらに固定する。
「衝撃を逃がされる」
「ぐ……ッ!」
「じゃあ」
冷たい目。
「殴らない」
「――!」
「投げない」
腕を。
逆へ。
「ただ」
「ぐあッ!」
「動けなくする」
「貴様の能力は!」
男が苦痛に顔を歪める。
「エネルギー操作だろう!」
「うん」
「ならそれを使え!」
「…………」
リオは一瞬だけ黙った。
そして。
少し笑う。
「使わなくても勝てるなら」
ブラックサファイアが拘束を強める。
「使わなくていいだろ」
「ぐあああああッ!!」
男の膝が石畳へ落ちた。
サイレント・ランニングの姿が揺らぐ。
そして。
消えた。
「…………」
静かになった路地。
砕けた壁。
折れた街灯。
割れた窓。
その真ん中で。
男だけが地面に倒れている。
リオは口元の血を拭った。
「思ってたより」
倒れた男を見る。
「地味な勝ち方になったな」
「……貴様が……やったんだろうが……」
「そうだけど」
◆
「……殺せ」
「…………」
リオが男を見下ろす。
「何で?」
「私は……貴様を殺そうとした」
「うん」
「次も殺す」
「そう」
「ならばなぜ殺さん!」
「…………」
少し考える。
「今」
「何?」
「お前」
声が冷たくなる。
「何もできないだろ」
「…………」
「だから」
事実を言うように。
「今殺す必要がない」
「…………!」
「必要になったら」
一拍。
「その時殺すよ」
「…………」
男は何も言わなかった。
「それより」
リオがしゃがむ。
「DIOについて」
「…………」
「何か――」
止まる。
「…………」
「何だ」
「いや」
立ち上がる。
「やっぱいい」
「……?」
「お前」
少しつまらなそうに。
「多分知らないから」
◆
「リオォォォ!」
「…………」
遠くから声。
「いたぞ!」
ポルナレフ。
「うるさい」
「うるさいじゃねえ!」
ポルナレフ。
花京院。
アヴドゥル。
ジョセフ。
承太郎。
五人が路地へ入ってくる。
「お前さん!」
ジョセフ。
「何しとるんじゃ!」
「散歩」
「散歩でなんで怪我するんじゃ!」
「色々」
「色々で済ますな!」
アヴドゥルが倒れた男を見る。
「こいつは?」
「DIOの手下」
全員の表情が変わる。
「一人で戦ったのですか?」
花京院。
「うん」
「なぜ逃げなかった?」
アヴドゥル。
「勝てそうだったから」
「…………」
「何?」
「いや……」
ポルナレフがリオを見る。
「お前、結構ボロボロじゃねえか」
「昨日のポルナレフよりマシ」
「俺と比べんな!」
「勝った?」
「勝ったよ!」
「じゃあお揃い」
「嬉しくねえ!」
承太郎が周囲を見る。
陥没した壁。
折れた街灯。
砕けた窓。
倒れた男。
「てめー」
「何?」
「何された」
「攻撃を逃がされた」
「?」
「俺が殴る」
壁を指す。
「壁壊れる」
地面。
「投げる」
地面。
「衝撃逃げる」
「…………」
「だから」
倒れた男。
「関節極めた」
「…………」
「…………」
「…………」
ポルナレフが瞬きする。
「地味じゃね?」
「俺も思った」
「自分で言うな!」
花京院が少し笑う。
「でも正解ですね」
「うん」
「能力を攻略するために、能力を使わなかった」
「正確には殴るのをやめただけ」
「同じようなものです」
承太郎がリオの傷を見る。
「それでも」
「?」
「随分危ねえ戦い方だな」
「勝ったよ」
「結果の話をしてんじゃねえ」
「…………」
「次も同じことやったら死ぬぜ」
「その前に倒す」
「そういうところだっつってんだ」
「…………」
リオ。
少しむっとする。
「何だ」
「勝ったのに怒られた」
「ガキかてめーは」
「同い年」
「精神の話だ」
「承太郎に言われたくない」
「やれやれだぜ」
「お前ら!」
ジョセフ。
「怪我人なんじゃから喧嘩するな!」
「俺は怪我してねえ」
「お前が煽っとるんじゃ!」
◆
少しして。
「何か聞けたか?」
ジョセフ。
「何を?」
「DIOじゃ」
「ああ」
リオ。
「名前は言った」
「ブランドーと?」
「うん」
「反応は?」
「なかった」
「…………」
ジョセフが少し止まる。
「『聞かない名前だ』って」
「そうか……」
「DIOのフルネームも知らなかった」
アヴドゥルが静かに言う。
「配下全員がDIOの過去まで知らされているわけではないのだろう」
「みたい」
リオは包帯を見る。
「ちょっと期待したんだけどな」
「…………」
「部下なら何か知ってるかなって」
少しだけ。
残念そうに。
「外れだった」
「リオ」
ジョセフ。
「何?」
「…………いや」
「?」
「何でもない」
「最近それ多くない?」
「気のせいじゃ」
「…………」
リオが少し考える。
「この前も、それで船長怪しかったけど」
「うっ」
「気のせいって、あんまり信用できないね」
「お前さん、自分が違和感を気のせいで済ませた側じゃろ!」
「だから学んだ」
「都合よく成長するな!」
少し前を歩いていた承太郎が鼻で笑った。
「学ばねえよりマシだろ」
「承太郎まで乗るな!」
◆
「ところでよ」
ポルナレフ。
「何?」
「お前」
にや。
「やっとまともに戦ったな」
「…………」
「…………」
「何その言い方」
「だってよ!」
指。
「偽船長!」
「承太郎」
「猿!」
「承太郎」
「昨日!」
「ポルナレフ」
「で」
ポルナレフがリオを指差す。
「お前最近何してた?」
「…………」
「…………」
「ホテル泊まった」
「ブハハハハハハ!」
「殴るよ」
「悪かった! 悪かったって!」
「ブラックサファイア」
「スタンド出すな!」
「殴らないよ」
「本当か?」
「関節極める」
「もっと嫌だわ!」
花京院が吹き出す。
「花京院!」
「すみません」
「笑ってるだろ!」
「笑っていません」
「肩動いてんぞ!」
「それ」
リオ。
「アヴドゥルもやってた」
「お前ら全員敵か!」
「仲間じゃないけど」
「今そこ掘り返すな!」
◆
少し後ろ。
承太郎。
花京院。
「承太郎」
「あ?」
「リオ」
花京院が前を見る。
ポルナレフと。
まだ言い合っている少年。
「最初は、自分の能力で何とかしようとしたのでしょうね」
「だろうな」
「それが通じないと分かった」
「…………」
「だから、能力を使わない方法を選んだ」
「それがどうした」
「いえ」
花京院が少し笑う。
「面白いな、と」
「くだらねえ」
「そうですか?」
「ああ」
承太郎が帽子を下げる。
「ただ」
「?」
「次に同じ手を食らったら」
少し間。
「もっと早く潰すだろうな」
花京院も前を見る。
「…………」
笑う。
「でしょうね」
◆
ブラックサファイア。
エネルギーを操る。
強力なスタンド。
だが。
今日。
その力を正面から封じられた。
強く殴れば。
別の場所へ。
力を増せば増すほど。
被害だけが周囲へ広がる。
だから。
リオは。
殴るのをやめた。
能力が使えないなら。
別の方法を。
一つが駄目なら。
次を。
それも駄目なら。
また次を。
血筋でも。
名字でも。
DIOでもない。
彼がDIOという男の存在を知るより。
ずっと前から。
その傍らにいたもの。
黒い身体。
青い輝き。
そして。
その力をどう使うかを決める。
一人の少年。
そのスタンドの名は。
――ブラックサファイア。
第九話でした!
ついに来ました。
リオ・ブランドー、ちゃんとした単独戦。
長かった。
本当に長かった。
ブラックサファイア「…………」
ごめんて。
今回は第一話の能力お披露目とは違って、最初から最後までリオ一人で戦ってもらいました。
相手は『サイレント・ランニング』。
殴る。
別の場所が壊れる。
もっと殴る。
もっと別の場所が壊れる。
リオ「…………」
敵「どうした! 自慢の能力を使え!」
リオ「じゃあ殴らない」
敵「え?」
関節技。
いや。
違うんだ。
作者も最初はもうちょっとこう……。
エネルギーがドーン!
ブラックサファイアがバーン!
みたいな決着になると思ってたんです。
でも能力を考えていった結果、
最適解:腕を極める。
になりました。
ブラックサファイア、エネルギー操作能力。
第九話の決め技。
関節技。
お前それでいいのか。
リオ「勝ったからいいだろ」
まあ……うん。
そして今回、少しだけリオの危ない部分も出しました。
「知らない人だから巻き込んでもいい」ではない。
「知らない人でも絶対助ける」でもない。
必要ならやる。今は必要ないからやらない。
さらに倒した敵にも、
「今殺す必要がない」
「必要になったら、その時殺す」
この辺り。
普段は金がないとかベッドが柔らかいとか言ってる十七歳ですが、やっぱり承太郎たちと全く同じ種類の人間ではありません。
でもそんなことより。
今回リオにはもう一つ目的がありました。
DIOの部下だ!
↓
ブランドーって名乗ってみよう!
↓
何か知ってるかも!
↓
敵「聞かぬ名だ」
↓
DIOの本名は?
↓
敵「DIO様はDIO様だ」
↓
情報ゼロ。
リオ「…………」
残念でした。
どうやらDIOの部下だからといって、全員がDIOの昔の名前や過去まで知っているわけではないようです。
つまり現在。
リオが自分について知っていること。
名前。
リオ・ブランドー。
以上。
九話まで来たのに主人公の素性が第一話からほぼ進んでねえ。
まあ、その辺はゆっくり行きます。
そして最後。
ポルナレフ「お前最近何してた?」
リオ「ホテル泊まった」
やめろ。
せっかく今回格好よく戦ったのに全部思い出させるな。
というわけで。
主人公、無事戦闘終了。
怪我しました。
能力も封じられました。
普通に殴られました。
でも自分で考えて勝ちました。
こういうのでいいんだよ。
次回。
せっかく主人公が働いたので――
たぶんまた誰かが働きます。
リオ「俺じゃない?」
知らん。
原作が決める。