ダムへ向かう道は、興宮の中心部から離れるにつれて少しずつ景色を変えていった。駅前には商業施設や中層の建物が並び、新しく整備された道路を車が絶えず行き交っている。
しかし、そこから山側へ向かうと、徐々に住宅の数が減り、代わりに緑が増え始めた。道路沿いには古い民家や田畑が残り、その先には山肌を切り開いて造られた新しい住宅地が見えてくる。レナは慣れた様子で道を進んでいく。
「こっちだよ、圭一くん!」
「お、おう!」
圭一も後を追った。途中、道路の脇から見える景色が一変した。それまで山々に隠れていた巨大な構造物が、突然目の前に現れたのである。
「……うおっ」
圭一は思わず足を止めた。遠くから見たことは何度もあった。しかし、こうして近くまで来ると、やはり迫力が違う。山と山の間を塞ぐように築かれた巨大な堰堤。その向こうには広大な水面が広がっている。春が終わりを告げて、初夏になりつつある大地。陽光を受けて細かな波がきらきらと輝いていた。左右には深い緑の山々が連なり、湖の奥には水没を免れた高台の集落が小さく見える。
「……すげぇな」
思わず口から漏れた。レナが嬉しそうに振り返る。
「でしょ?」
「ああ。遠くから見た時もでかいと思ったけど、近くで見ると全然違うな」
圭一は欄干へ近づき、下を覗き込んだ。遥か下方には、放流された水が流れていく川が見える。周囲の山々と比較して初めて、この建造物がどれほど巨大なものなのかを実感出来た。
「これ、全部人間が造ったんだよな……」
「うん」
「とんでもねぇもん造るなぁ」
圭一は感心したように呟いた。もっとも、これでも当初の計画から大幅に規模を縮小したものだという。もし最初の予定通りに建設されていたなら、ここから見える雛見沢の集落さえ、ほとんど水の底へ消えていたのかもしれない。そんなことを考えていると、レナが少しだけ静かになった。
「……圭一くん」
「ん?」
「ここ、綺麗でしょ?」
「ああ」
「レナもね、好きなんだ」
レナは湖の方へ目を向けた。
「お天気がいい日は、ずっと向こうの山まで見えるんだよ。夕方になると水が赤くなって、すっごく綺麗なの」
「へぇ。そりゃ一度見てみたいな」
「うん。今度、一緒に見に来ようね」
「おう」
圭一は何気なく答えた。しかし、そこで一瞬だけ別の光景が頭をよぎった。一昨日の夕方。川沿いの遊歩道。夕焼け。そして、ぬいぐるみを抱えた魅音。圭一は小さく眉を寄せた。
「……?」
レナが不思議そうにこちらを見る。
「圭一くん?」
「あ、いや。何でもねぇ」
圭一は慌てて笑った。
「で、どこで食うんだ?」
「えっとね、もう少し向こうにベンチがあるんだよ」
レナはそう言って、先へ歩き始めた。圭一はその後ろ姿を追いながら、もう一度湖へ目を向けた。綺麗な景色だった。それは間違いない。しかし、昨日の新聞を読んだ今となっては、ただ綺麗だと感心するだけでは済まないものがあった。この水の下には、かつて人が暮らしていた。家があり、道があり、田畑があった。村そのものが、確かにそこに存在していたのである。それが今では、どこまでも静かな水面に覆われている。
「……変な感じだな」
圭一は誰にともなく呟いた。
ベンチはダム湖を見渡せる小さな広場にあった。近くには休憩用の建物と公衆トイレがあり、平日の昼間ということもあって人の姿はまばらだった。時折、観光客らしい家族連れや、近くで働いているらしい人間が通り過ぎていく程度である。二人は湖を見渡せる位置へ腰掛けた。
「それじゃ、いただきまーす!」
レナが元気よく手を合わせる。
「いただきます!」
圭一もそれに続き、途中で買ってきた弁当の蓋を開けた。しかし、隣を見た瞬間、思わず声を上げた。
「……おい、レナ」
「ん?」
「お前の弁当、何かすげぇな」
レナの膝の上には、色とりどりのおかずが綺麗に詰められた弁当箱が置かれていた。卵焼きに唐揚げ、野菜の和え物、それに小さなおにぎりまで入っている。どれも手間が掛かっていそうで、圭一が買ってきた弁当とは随分と違っていた。
「えへへ。今日はちょっと頑張っちゃった」
「これ自分で作ったのか?」
「うん。朝、少し早く起きてね」
「へぇ……」
圭一は素直に感心した。レナが料理をすることは知っていたが、こうして実物を見せられると改めて驚かされる。普段は部活で妙な罰ゲームを提案したり、可愛いものを見つけては暴走したりしているくせに、こういうところでは妙にしっかりしているのである。
「……レナって、意外と家庭的なんだな」
「い、意外って何かな!?」
「いやいや、褒めてんだよ」
「本当かな? かな?」
「本当だって!」
レナは頬を膨らませたが、すぐに笑った。
「じゃあ、圭一くんにもあげるね」
そう言って、弁当箱の中から唐揚げを一つ差し出してくる。
「おっ、いいのか?」
「うん。食べてみて」
圭一はそれを口へ運んだ。
「……うまっ」
「ほんと!?」
「ああ、普通にうめぇ!」
「はぅ……よかったぁ」
レナは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、卵焼きも食べる?」
「いいのか?」
「うん!」
「よっしゃ!」
圭一が喜ぶと、レナはさらに嬉しそうになり、結局、圭一の買ってきた弁当よりもレナの手料理の方へ箸が伸びる回数が多くなってしまった。
「おいおい、レナ。これ本当に全部貰っていいのか?」
「全部は駄目だよぉ!」
「さっきから俺に勧めてくるじゃねぇか!」
「圭一くんが美味しそうに食べるから、つい……」
「じゃあ仕方ねぇな!」
「仕方なくないよぉ!」
二人は笑った。周囲には穏やかな風が吹いている。湖面には小さな波が立ち、時折、水鳥の鳴き声が聞こえてきた。遠くの山々は春の緑に覆われ、雲の影がゆっくりと斜面を移動していく。圭一は弁当を食べながら、しばらく景色を眺めていた。今朝からずっと考えていたことが、少しだけ遠くなった気がした。試験のこと。鉄平のこと。大石のこと。昨日読んだ新聞のこと。そのどれもが、今はこの広い景色の中へ溶けていくようだった。
「……こういうのもいいな」
圭一は呟いた。
「ん?」
「いや、学校終わって、こうやって外で飯食うのも悪くねぇなって」
「えへへ。でしょ?」
レナは嬉しそうに頷いた。
「レナ、たまにこうしてお弁当持って来るんだよ。ここ、静かだから」
「確かにな。興宮とは全然違う」
「うん」
「……でもさ」
圭一は湖の方へ目を向けた。
「ここって、元々村だったんだよな」
レナの箸が僅かに止まった。
「……うん」
「昨日、ちょっと調べたんだ。ダムが出来る前は、もっと向こうまで家とか田んぼがあったんだってな」
「……そうだね」
レナは静かに答えた。
「今は見えないけど、昔はあの辺りにも道があったんだよ。家もあって、畑もあって……。レナが雛見沢に来た時には、もうダムは完成してたんだけどね」
「……そっか…ん?レナって、興宮に住んでたんじゃないのか?」
「んーと。去年までは茨城に住んでたの。元々は雛見沢に居たんだけど、レナが来た時にはもう雛見沢は丸々変わってた感じかな、かな」
「へぇ。そうだったのか、全然知らなかった」
圭一は水面を見つめた。どれほど綺麗な景色でも、その下にあったものが消えた事実までなくなるわけではない。それに、ここまで巨大な建造物を造るためには、一体どれほどの人間が関わったのだろう。昨日の記事にはダム反対運動についても書かれていたが、新聞の短い文章だけでは、当時の村民たちがどんな思いで争っていたのかまでは分からなかった。
「……なあ、レナ」
「ん?」
「ちょっと聞いていいか?」
「うん。何かな?」
圭一は一瞬迷った。別に、今ここで聞かなければならないことではない。せっかくの昼食なのだから、余計な話題を持ち出さずに帰ったっていい。しかし、目の前にはかつての雛見沢を沈めたダムがある。そして、自分の隣には、その雛見沢を大切に思っているレナが座っていた。聞くなら、今なのかもしれない。
「……オヤシロさまって、知ってるか?」
その瞬間。レナの手が止まった。圭一は横目でそれを見る。ほんの僅かな変化だった。けれど、先ほどまで楽しそうに弁当を食べていたレナの雰囲気が、少しだけ変わったことには気づいた。
「……オヤシロさま?」
「ああ」
「……圭一くん、どうして?」
「いや、昨日新聞読んでたら名前が出てきてさ。雛見沢じゃ有名なのかなと思って」
レナはしばらく圭一を見つめていた。そして。
「……うん」
静かに頷いた。
「もちろん、知ってるよ」
「へぇ。やっぱり有名なのか」
「うん。オヤシロさまはね、雛見沢をずっと守ってくださってるんだよ」
レナはそう言って、湖の向こうへ視線を向けた。
「昔から、この土地を見守ってくださってる神様なの。村の人たちが元気に暮らせるように、ずっとね」
「……神様、か」
圭一は頷いた。なるほど。雛見沢に昔から伝わる土地の神様。そう考えれば、別に不思議なことではない。日本中どこへ行っても、土地ごとに神社や祭りがあるのだから。しかし。
「……じゃあさ」
圭一は少し考えてから続けた。
「オヤシロさまの祟りってのは、何なんだ?」
レナはすぐには答えなかった。先ほどまでの柔らかな笑顔が、少しずつ消えていく。
「……圭一くん」
「ん?」
「祟りのこと、調べたの?」
「いや、詳しくは。ただ、新聞に書いてあったからさ。何年も続けて変な事件が起きてるって」
圭一はそこで言葉を切った。沙都子の兄。梨花の両親。魅音と詩音の祖母。そこまで口にする気にはなれなかった。レナがどこまで知っているのかも分からないし、何より、友人たちの家族のことを興味本位で話しているように思われたくなかったのである。
「……それで、ちょっと気になったんだよ」
レナは俯いた。しばらく、風の音だけが聞こえていた。やがて。
「……オヤシロさまはね」
レナが口を開いた。
「雛見沢を大切にしている人には、とっても優しいんだよ」
「……おう」
「でも、村を傷つけたり、オヤシロさまを怒らせたりした人のことは、許してくれないの」
圭一は眉を寄せた。
「……許さない?」
「うん」
レナは頷いた。
「オヤシロさまはね、ちゃんと見てるんだよ。誰が何をしたのかも、どんなことを考えてるのかも。だから、悪いことをした人は、ちゃんと罰を受けるの」
その言葉を聞いて、圭一は何とも言えない気分になった。レナは怒っているわけではない。むしろ、当たり前のことを説明しているような口調だった。しかし、その当たり前という部分が、圭一には妙に引っ掛かったのである。
「……でもさ、レナ」
「ん?」
「祟りって言っても、実際に何が起きたのか分かってないんだろ?」
レナがこちらを見る。圭一は続けた。
「事故だったり、失踪だったり。そういう事件が同じ時期に起きたから、みんな祟りだって言ってるだけかもしれねぇじゃねぇか?」
「……」
「そりゃ、何年も続けて起きてるのは変だと思うけどさ。だからって、神様がやったって決めつけるのもおかしくねぇか?」
自分では、別に変なことを言ったつもりはなかった。新聞で読んだ事件は、どれも現実に起きた出来事である。ならば、何かしら原因があるはずだった。それを最初から祟りだと決めつけてしまえば、それ以上何も分からなくなってしまう。しかし、レナは笑わなかった。
「……圭一くん」
「ん?」
「オヤシロさまのこと、信じてないの?」
その声は、先ほどまでとは少し違っていた。圭一は戸惑った。
「いや、信じる信じないっていうか……」
「……うん」
「別に、神様なんかいないって言ってるわけじゃねぇよ。ただ、祟りって言われても、俺にはよく分かんないしさ」
レナはしばらく圭一を見つめていた。そして、ゆっくりと微笑んだ。
「……そっか」
圭一は少し安心した。どうやら、怒らせてしまったわけではなさそうだった。しかし。
「でもね、圭一くん」
レナは続けた。
「オヤシロさまは、本当にいるんだよ」
「……」
「だから、圭一くんも気をつけてね」
「……気をつける?」
「うん」
レナは笑顔のまま頷いた。
「オヤシロさまを、怒らせちゃ駄目だよ?」
圭一は何も答えられなかった。風が吹いた。湖面に細かな波が広がり、遠くで鳥が鳴いた。周囲の景色は先ほどまでと何も変わっていない。それなのに、圭一には何となく、空気が冷たくなったように感じられた。
「……はは」
圭一は無理に笑った。
「何だよ、そんな怖いこと言うなって」
「怖いことじゃないよ」
レナは穏やかに答えた。
「さっきも言ったようにオヤシロさまは、雛見沢を守ってくれる良い神様なんだよ」
「……そっか」
それ以上、何と言えばいいのか分からなかった。圭一は弁当へ視線を落とした。レナはしばらくこちらを見ていたが、やがて何事もなかったように箸を持ち直し、残っていたおかずを食べ始めた。
「……あ、圭一くん」
「ん?」
「卵焼き、もう一つ食べる?」
「……お、おう」
「えへへ。じゃあ、はい」
レナはいつもの笑顔で卵焼きを差し出してきた。圭一も礼を言って受け取った。しかし、味は先ほどほど分からなかった。別に、レナが変なことを言っていると決めつけるつもりはない。信仰というものは、そういうものなのかもしれない。自分だって、雛見沢に来るまで土地の神様について何も知らなかったのだ。昔からここで暮らしている人間にとって、オヤシロさまが大切な存在だということくらいは理解出来る。それでも。
――悪いことをした人は、ちゃんと罰を受けるの。
その言葉だけが引っ掛かった。
昨日読んだ新聞。一年目、園崎お魎。二年目、北条夫妻。三年目、古手夫妻。四年目、北条悟史。あの人たちは、何か悪いことをしたのだろうか。いや。そもそも、誰がそれを決めたというのか。圭一はレナを横目で見た。レナは既にいつもの調子へ戻っており、湖に浮かぶ鳥を見つけては楽しそうに指差している。
「見て見て、圭一くん! あそこ!」
「ん?」
「鳥さん、可愛いねぇ。はぅ……お持ち帰りしたいなぁ……」
「お前、あんな遠くの鳥まで持ち帰る気かよ!」
「だ、だって可愛いんだもん!」
「無理に決まってんだろ!」
そうして笑い合っていると、先ほどまでの妙な空気が嘘だったように思えてくる。いつものレナだった。少し変わっていて、可愛いものには目がなくて、料理が上手くて、仲間思いの女の子。それなのに、オヤシロさまの話をした時だけは、まるで別人のように感じられたのである。圭一は小さく息を吐いた。思えば、大石もそうだった。雛見沢のことを知っている人間は、何かを当然のように知っている。一方で、自分は何も知らない。大石は事件について語り、レナは祟りについて語る。しかし、どちらも圭一の疑問に答えてくれたわけではなかった。むしろ、聞けば聞くほど分からなくなっていく。
――君が今、誰と仲良くしているのか。それは少し考えておいた方がいいかもしれませんねぇ。
大石の言葉が頭へ浮かんだ。圭一はすぐにそれを打ち消した。
「……馬鹿馬鹿しい。祟りなんて…あるわけねぇだろ」
小さく呟く。そんなことを言われたくらいで、仲間を疑ってどうする。魅音も、レナも、沙都子も、梨花も。みんな、自分が雛見沢へ来てから仲良くしてくれた連中である。たった一か月ほどの付き合いではあるが、それでも一緒に笑い、一緒に騒ぎ、何度も馬鹿な勝負を繰り返してきた。
だけど。
──もし仲間たちが隠し事をしていたら?
そんな疑問が沸いて出て来た。突拍子もない話だ。隠してたという根拠も…ない。
それに、自分だって秘密を持っている。蜘蛛に噛まれてからの身体の変化も、夜の街で何をしているのかも、魅音たちには話していない。詩音と葛西に知られているとはいえ、それだって必要があって知られたにすぎないのである。秘密があるからといって、相手を信じていないわけではない。だから、みんなにも話したくないことくらいあるのだろう。それだけの話だ。
「……圭一くん?」
「ん?」
レナが顔を覗き込んできた。
「また考え事?」
「……ああ、ちょっとな」
「テストのこと?」
「……まあ、そんなとこ」
レナはくすりと笑った。
「圭一くん、そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
「いや、気にしなきゃ駄目なんだけどな……」
「じゃあ、次は一緒に勉強しよっか?」
「お、いいのか?」
「うん! レナでよければ」
圭一は少し笑った。
「じゃあ頼むわ。今度こそちゃんと勉強しねぇとな」
「えへへ。うん!」
レナも嬉しそうに頷いた。それからしばらく、二人はどうでもいい話を続けた。試験の問題について愚痴を言い合い、次の部活ではどんな勝負をするかを考え、先ほど見つけた鳥がどこへ飛んでいったのかを探したりもした。いつも通りの時間だった。少なくとも、表面上は。やがて弁当を食べ終え、圭一が空になった容器を片づけていると、レナが立ち上がった。
「あ、圭一くん」
「ん?」
「レナ、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「おう。行ってこい」
「うん。すぐ戻るから」
レナはそう言って、休憩施設の方へ歩いていった。圭一はその背中を見送ると、もう一度ベンチへ腰を下ろした。目の前には、相変わらず広大なダム湖が広がっていた。春の陽射しを受けた水面は眩しいほどに輝き、遠くの山々は青く霞んでいる。時折吹き抜ける風は心地よく、少し目を閉じれば、そのまま眠ってしまいそうなほど穏やかな午後だった。しかし、圭一の頭の中は少しも穏やかではなかった。
「……オヤシロさま、ねぇ」
小さく呟く。昨日までは、ただの新聞記事に書かれた奇妙な言葉だった。それが今日になって、大石の口から出てきた。さらに、レナも当然のようにその存在を信じている。一体、何なのだろう。オヤシロさまの祟り。四年連続で起きた事件。そして、昨日の鉄平。どこかで繋がっているのだろうか。それとも、自分が勝手に関係のないものを結びつけているだけなのか。圭一は湖の向こうへ目を向けた。あの水の下に、かつての雛見沢がある。今では誰も住んでいない。道も家も、水の底へ沈んでいる。そこに暮らしていた人々は、今どこで何をしているのだろう。
「……分かんねぇなぁ」
圭一は大きく息を吐いた。そして、もう一度湖面を見つめた。その時だった。
「……あら」
背後から、不意に女性の声が聞こえた。
「随分と難しい顔をしているのね」
圭一は振り返った。そこには、白衣を羽織った一人の女性が立っていた。