「詩音ーー!!!!!!!!!出てけーー!!」
叫んだのは魅音だった。昼前の休み時間、淡くまだ塗装も新しいく輝く新校舎にやってきた詩音に対して、姉妹喧嘩を廊下で繰り広げていた。それを微笑ましく見る者、すさまじい怒号に驚く者。廊下は一つの騒ぎになっていた。当然、部活メンバーもその様子は一番近くから見ていることになっていた。
「まあ、お姉ったらそんなに固いこといわないでくださいよ~それにもう私たち同じ学校じゃないですか~」
「同じなわけあるかー!私たちは新校舎、詩音は旧校舎!これは絶対不可侵の領域じゃん!私に関わらないのが条件ってこの前言ったじゃん!」
「あれ?そんなこと決めましたっけ?私は別にお姉に要件があるって言ったわけじゃないんすよ」
軽く、当然であるかのように語る詩音。魅音は頭を搔いて、やりにくそうにしている。そこに詩音が畳みかけた。
「私は....時の人である圭ちゃんに会いに来たんですよ!ねー、圭ちゃん?」
唐突に圭一に振る詩音。圭一は予想もしていなかったのか、おかしいくらいに言葉を詰まらせる。
「えっ...あ、その、よろしくな、詩音」
「えー、まだ初対面づらですか?」
「え、圭ちゃん!詩音のこと知ってたの?」
「いや、俺は知らない。何も知らない」
焦ったように咄嗟に言葉を紡ぐ圭一。それを聞いて、詩音はハッキリと分かるウソ泣きをし始めた。
「ひどいです....ぐす...圭ちゃん、昨日の夜はあんなに私を熱い言葉で口説いてくれたじゃないですか...」
明確にぶりっ子がる詩音。その一言でみんなの視線は圭一へと向く。鋭い目であった。
「圭ちゃん!?どういうこと!?」
必死な目で訴える魅音。待て待て待てと、圭一は両手を前へ出したが、周囲が落ち着く気配はまるでなかった。
「違う! 違うぞ魅音! こいつが勝手に話を盛ってるだけだ!」
「盛ってる? じゃあ昨日会ったこと自体は本当なんだ!?」
「そこ拾うなよ!」
しまった、と圭一は思ったがもう遅い。
魅音の目がさらに鋭くなる。その横ではレナが両手を口元へ当て、何やら妙に楽しそうな表情をしている。沙都子に至っては、完全に人の不幸を見物する顔だった。
沙都子が水を差すように圭一の方に皮肉げに話しかけた。
「圭一さん、転校してきてまだ一月も経っていないというのに、随分とお早いのですね」
「何が早いんだよ!」
「昨日の夜、お二人で何をしていましたの?」
「何もしてねえ!」
「でも会ってはいたんですね?」
「ぐっ……」
沙都子の追及が妙に鋭い。圭一は詩音を見る。元凶はというと、自分が作った騒ぎだというのに実に楽しそうだった。
「詩音!いい加減にしろー!」
ついに圭一は堪忍袋の緒が切れたのか、爆発する。
「あら、私は嘘なんて言ってませんよ?」
「熱い言葉で口説いたとか言っただろ!」
「助けてもらったときに、とても頼もしい言葉をいただきましたから」
「意味が全然違う!」
詩音は肩をすくめる。魅音が一歩前へ出た。
「助けた?」
その言葉に、圭一と詩音がほぼ同時に黙った。まずい。
昨夜のことをそのまま話せるわけがない。圭一が覆面をつけて町をうろついていたことも、数人の危険な男たちを相手にしたことも秘密だ。
詩音もそれは理解していたらしい。
「ああ、ちょっと道で絡まれてたんですよ」
「絡まれてた?」
「はい。そこにたまたま圭ちゃんが通りかかって」
「……たまたま?」
魅音が疑わしそうに圭一を見る。
圭一は咄嗟に頷いた。
「そうそう! たまたま! 本当にただの偶然だ!」
「夜に?」
「夜に!」
「興宮で?」
「興宮で!」
「なんで圭ちゃんが夜の興宮にいたの?」
「…………」
詰んだ。
圭一は一瞬だけ天井を見上げた。
何かないか。適当な理由。買い物。散歩。親の使い。
「……本屋」
「本屋?」
「そう! 本屋だよ! どうしても欲しい本があってさ!」
「何の本?」
「そこまで聞く!?」
魅音は腕を組み、じっと圭一を睨んでいる。
圭一は必死に頭を回した。漫画と言えばどの漫画か聞かれる。参考書なら何の参考書か。下手なことを言えば後で確認される可能性まである。
だが、詩音が助け船を出した。
「お姉。そこまで追及したら可哀想ですよ。圭ちゃんにも、人に言いたくない本の一冊や二冊くらいあるでしょう?」
「おい! 余計ややこしくなる言い方すんな!」
周囲から笑いが起きた。
「圭ちゃん……」
魅音が掠れた声で言う。また、レナが少し頬を赤くしている。
「違うからな!? レナ、お前絶対変な想像してるだろ!」
「レ、レナ何も言ってないよ!」
「顔に出てる!」
「はぅ~!」
完全に収拾がつかなくなった。
圭一は頭を抱える。昨日は危険な男たちに囲まれている詩音を助けたというのに、今日になってどうして自分が追い詰められているのか。
そんな中、梨花だけは少し離れたところから一連の騒ぎを眺めていた。
「圭一は人気者なのですよ。にぱー☆」
「梨花ちゃんまで!」
「みぃ。詩音も圭一が好きなのですか?」
「おおっと!」
魅音の身体が跳ねる。
「梨花ちゃん!?」
詩音は一瞬だけ目を丸くした後、悪戯っぽく笑った。
「さあ、どうでしょうねぇ?」
「詩音!」
魅音がまた叫ぶ。
「お姉、顔赤いですよ?」
「赤くない!」
「赤いです」
「うるさい!」
再び姉妹喧嘩が始まった。
圭一はそこでようやく、自分への追及から話題が逸れたことに気づいた。今しかない。
そっと後ずさる。
一歩。
二歩。
このまま教室へ逃げ込めば――。
「圭ちゃん」
肩を掴まれた。
「うわっ!」
振り返ると、詩音がすぐ横に立っていた。
「な、何だよ」
圭一は周囲を見る。魅音はまだ沙都子とレナに何か言われて騒いでおり、こちらを見ていない。
詩音は笑顔のまま、圭一との距離を僅かに詰めた。
「ちょっと」
「?」
詩音はその耳元へ口を寄せ、他の誰にも聞こえない程度の小さな声で囁いた。
「放課後、待ってます」
圭一の表情が固まった。
「……どこで」
「近くの河川敷、人の少ないところで」
それだけ言うと、詩音はすぐに離れた。
ちょうど魅音が振り返る。
「詩音! まだいたの!?」
「はいはい。もう帰りますよ」
「最初から来んなー!」
「じゃあね、圭ちゃん」
詩音はわざとらしく手を振った。
圭一は引きつった笑みを浮かべる。
「……お、おう」
魅音の視線が再び突き刺さった。
「何でそんな親しそうなの?」
「...」
圭一は答えない。答えれば、また魅音が圭一を問い詰めるだろう。そんな危機感を募らせて、圭一は黙りこくった。
詩音はそのやり取りを見ながら満足そうに笑うと、旧校舎へ続く渡り廊下の方向へ去っていった。
嵐が通り過ぎた。圭一はそう思った。
だが魅音にとっては、まだ終わっていなかったらしい。
「圭ちゃん」
「何だよ」
「あとで詳しく聞くからね」
「勘弁してくれ……」
昼休みになる頃には、さすがに騒ぎも収まった。
転校してきた当初なら、突然こんな騒動の中心へ放り込まれれば疲れただろう。だが今では、魅音たちに振り回されることにも少しずつ慣れてきている。
昼食の時間。
いつものように圭一、レナ、魅音、沙都子、梨花が集まり、机を囲んで弁当を広げる。
「で?」
魅音が卵焼きを箸で摘みながら言った。
「何がだよ」
「昨日」
「まだやるのかよ」
「当たり前じゃん。妹が男の子に助けてもらったなんて聞いたら、姉として事情を知っておく義務があるでしょ」
「義務じゃねえ」
圭一は弁当の唐揚げを口に放り込む。
「だからさっき言っただろ。たまたま会って、ちょっと面倒な奴に絡まれてたから助けただけ」
「圭一くん、強いもんね」
レナが感心したように言う。
「この前の体力測定、すごかったよ。レナびっくりしちゃった」
「まあな!」
圭一はつい胸を張った。
すぐに魅音がにやりと笑う。
「おやおや。随分得意気ですねぇ」
「事実を言っただけだ」
「その割には部活じゃ負けてばっかりだけど?」
「それとこれとは別だろ!」
「勝負は勝負ですわよ、圭一さん」
沙都子が口元を押さえて笑う。
「力だけ強くても、頭が伴わなければ意味がありませんことよ」
「言ったな、このチビ!」
「誰がチビですって!?」
「沙都子に決まってるだろ!」
「むぎぃーっ!」
沙都子が立ち上がる。
その横で梨花が弁当を食べながら、いつもの穏やかな顔で眺めていた。
「今日も平和なのです」
「どこがだよ!」
だが、圭一自身もどこか楽しかった。
東京にいた頃、こんな風に誰かと毎日くだらないことで騒いだ記憶はあまりない。
勉強。塾。成績。
誰が上で、誰が下か。
そんなことばかり気にしていた。
雛見沢へ来てからは、毎日何かが起きる。
沙都子に罠を仕掛けられる。魅音に勝負を挑まれる。レナが妙なものを「お持ち帰り」しようとする。梨花は一見大人しそうに見えて、時折恐ろしく鋭い一言を放つ。
騒がしい。
だが、不思議と嫌ではなかった。
放課後になると、そのまま部活が始まった。
今日のゲームはトランプではなく、簡単なボードゲームだった。盤上に駒を進め、途中で様々な条件を満たしながら先にゴールした者が勝ち。
当然、ただ普通に遊ぶはずもない。
「いいかい圭ちゃん。この部には一つだけ絶対のルールがある」
魅音が真剣な顔をする。
「毎度ながら、負けた奴には罰ゲーム」
「またかよ!」
「当たり前じゃん!」
「毎回罰ゲームあるのおかしいだろ!」
「嫌なら勝てばいいだけですわ」
沙都子が余裕たっぷりに言う。
圭一は拳を握った。
「上等だ。今日は絶対勝つ!十連敗の恨みはらしてやるぜ!」
「十一連敗という新記録を打ち立てなければいいけどねぇ」
魅音はそう不敵笑みして、ゲームは始まった。開始から十分後。
「おい魅音! 今絶対ズルしただろ!」
「何のことかな?おじさんさ、圭ちゃんが何言ってるか分からないな」
「そのカードどこから出した!」
「証拠あるの?」
「ある! 俺の目が見た!」
「圭ちゃんの目は証拠にはならないねぇ」
「この野郎!」
さらに五分後。沙都子の仕掛けた罠に引っかかり、圭一の駒だけがスタート近くまで戻される。
「何で俺だけなんだよ!」
「日頃の行いですわ!」
「ゲームに日頃の行い関係あるか!」
レナは笑いながら順調に駒を進めていた。梨花も静かに進めているように見えるが、気づけば二番手につけている。
圭一は焦った。ここで負ければ、また何をやらされるか分からない。
その瞬間。
指先に、あの妙な感覚が走った。
むずむず。圭一の手が止まる。次に引こうとしていたカード。
何となく、嫌な感じがする。
「…………」
圭一はカードの山を見る。
まただ。
最初のジジ抜きのときもそうだった。
何が起きるのかまでは分からない。ただ、これは引かない方がいい。身体のどこかがそう告げている。
圭一は隣のカードへ手を移した。むずむずが消える。
「……へえ」
口元が僅かに緩んだ。
「どうしたの圭ちゃん?」
魅音が怪訝そうに見る。
「いや、何でもない」
引いたカードを見る。
一気に駒を進められる当たりだった。
「よっしゃ!」
「なっ!?」
魅音が目を見開く。
「圭ちゃん、今日妙に運よくない?」
「日頃の行いだな!」
「さっき自分で関係ないって言ってましたわよ!」
その後も、圭一は何度か危険な選択を避けた。
完全に未来が分かるわけではない。どのカードが一番良いのかも分からない。ただ、明らかにまずいものだけは妙に身体が反応する。
そのおかげもあって、結果は圭一の二位。
一位は梨花だった。
「何で梨花ちゃんが一位なんだよ!」
「日頃の行いなのです。にぱー☆」
「もうその理屈嫌いだ!」
部活が終わる頃には、窓の外が少し橙色に染まり始めていた。
魅音たちはいつものように帰る準備をする。
「圭一くん、一緒に帰る?」
レナが聞いてくる。
一瞬、圭一は答えに詰まった。
詩音との約束。
「あー……悪い。今日はちょっと用事あるんだ」
「用事?」
魅音が横から反応する。
まずい。
「本屋!」
即答した。魅音の目が細くなる。
「また?」
「またって何だよ!」
「昨日も本屋じゃなかったっけ?」
「今日は別の本屋だ!」
「興宮にそんなに本屋あったっけ?」
「ある! 多分!」
「多分って何よ」
圭一は鞄を掴んだ。
「とにかく今日は先帰ってくれ! じゃあな!」
「あ、圭ちゃん!」
逃げるように教室を出る。後ろから魅音の声が聞こえたが、振り返らなかった。
新校舎を出る。夕方の校庭にはまだ何人かの生徒が残っていた。運動部の掛け声が遠くから響いている。
圭一は少し歩いてから、旧校舎の方向を見る。当然、詩音の姿はない。直接学校内で合流する気はないらしい。
そのまま興宮の町へ向かった。待ち合わせ場所は昨夜の路地から少し離れたところだった。人通りの少ない川沿い。古い倉庫とフェンスが続き、夕方になるとほとんど人が通らない。詩音はすでに来ていた。フェンスへ背を預け、圭一を待っている。
「遅いですよ、圭ちゃん」
「部活あったんだよ」
「楽しかったですか?」
「お前のせいで昼間散々だったけどな」
「あら、それは申し訳ありません」
全く反省していない顔だった。圭一は鞄を地面へ置く。
「で、何の話だよ」
「もちろん、昨日のことです」
詩音の表情が少しだけ変わった。学校で見せていた悪戯っぽい顔ではない。
「私、昨日からずっと気になってるんですよ」
「……何が」
「全部です」
詩音は指を一本立てた。
「まず、あの力」
二本目。
「壁に張り付いてましたよね?」
三本目。
「それに、男の人を簡単に投げ飛ばしてた」
圭一は黙った。
「あと、あの変な縄。柱に引っ掛けて飛んでましたよね」
「変な縄って言うな」
「あれ何なんです?」
「……」
圭一は視線を逸らす。詩音は追及するように近づいてはこなかった。ただ、じっと待っている。
「言いたくないなら、無理には聞きません」
「聞かないのか?なんか、詩音らしくないな」
「詩音らしくないって...圭ちゃん、私たちまだあったばかりですよ」
「もうこの二日でお前の人となりがだいたいわかった気がする。遠慮がなくて、人を揶揄うのが大好きな悪魔だな」
「まったく、これだけ私が黙っていてあげてるのにひどい言いぐさです。私だって、たまには遠慮くらいしますよ?」
「昨日マスク剥いだ奴が言う台詞か?」
「それはそれ、これはこれです」
圭一はため息を吐いた。秘密にしてもらう以上、何も話さないというのも虫が良すぎる。それに、正直なところ、一人で抱えているのも少し疲れていた。
三週間。壁に張り付くことも、怪力も、異常な身体能力も、全部一人で確かめてきた。誰にも言えなかった。圭一は少し迷った後、口を開く。
「……三週間くらい前」
「はい」
「雛見沢に引っ越してきた次の日だったかな。部屋で蜘蛛に噛まれたんだ」
詩音が瞬きをする。
「蜘蛛?」
「ああ」
「普通の?」
「普通じゃなかったんだろうな、多分。図鑑とかでも調べたんだが、初めて見る蜘蛛だった」
圭一は自分の右手を見る。
「その次の日から、変なことが起き始めた。手が物にくっつく。壁にも張り付ける。力も異常に強くなった」
「体力測定のあれも?」
「多分それ」
「なるほど……」
詩音は思った以上に真面目に聞いている。
「あと、怪我の治りも早い気がする。それと……何て言えばいいんだろうな」
圭一は後頭部を軽く掻いた。
「何か危ないことが起きる前に、ここら辺がむずむずする」
「むずむず?」
「そう。昨日も相手が武器出す前に分かった」
詩音の表情が変わった。
「それ、かなり凄いんじゃないですか?」
「俺にもよく分かんねえよ。危険だけじゃなくて、部活のゲームでも反応することあるし」
「ゲームでも?」
「ああ。外れのカード引きそうになると、妙な感じがする」
「……ずるいですね」
「俺もそう思う」
詩音は少し笑った。
その笑顔を見て、圭一も肩の力が抜ける。
「じゃあ、昨日の縄も蜘蛛から?」
「……まあ、そんな感じだ」
圭一は細かく説明するのを避けた。
蜘蛛が残した糸が妙に丈夫だったこと。それを利用して試作品を作ったこと。その程度を簡単に話す。
詩音はしばらく黙っていた。
「圭ちゃん」
「何だよ」
「怖くないんですか?」
不意に聞かれ、圭一は答えに詰まった。
「……最初は怖かったよ」
それは本当だった。沙都子の髪が手から離れなくなったとき。壁に張り付いたとき。自分の力で本棚が簡単に動いたとき。
自分の身体が知らないものへ変わっていくようで、気味が悪かった。
「でも、三週間も経てば慣れる」
圭一は苦笑した。
「それに、悪いことばっかりじゃないしな」
「夜に悪党をやっつけられる?」
「……まあ、それもある」
詩音は圭一をじっと見る。
「どうしてそんなこと始めたんです?」
今度は圭一が黙る番だった。
どうして。
正義の味方になりたかったから。そう言えば簡単だった。
だが、実際はそんな大層なものではない。
「……出来ると思ったから」
「出来る?」
「今までだったら、昨日みたいな連中見ても、ただ怯えてるだけ、戦うにしてもボコボコにされてるからな。でも今なら、止められる」
圭一は握った手を見る。
「この力があるなら、誰かが困ってるときに何かできるかもしれない。だったら……使わないよりはマシかなって」
詩音はしばらく何も言わなかった。
やがて、小さく笑う。
「圭ちゃんらしいですね」
「お前、俺のこと昨日知ったばっかりだろ」
「お姉から散々聞いてますから」
「また魅音かよ……」
圭一は頭を抱えた。詩音はくすくす笑う。
夕日が川面へ落ち、二人の影を長く伸ばしていた。
昨日までは、圭一一人だけの秘密だった。
だが今は違う。
一人だけ。この奇妙な力について知っている人間がいる。それがよりにもよって園崎詩音だということに、若干の不安は残る。
それでも、ほんの少しだけ気が楽になったのも事実だった。