ぼくのなつやすみ〜のんのんといっしょ〜   作:Edward

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8月4日 海水浴!そのさんっ♪

 お昼を食べ終えたぼくたちが、パラソルを立てた場所へ戻ってくると――なぜかそこだけ騒然としていた。

 

「危ないので離れてくださーい!」

 

 数人のライフセーバーさんが、砂浜の一角を取り囲んでいる。

 

 何事だろう?

 

 人垣の隙間から覗き込んだぼくの横で、越谷姉妹が同時に足を止めた。

 

「あ……」

 

「にいちゃん……」

 

 砂浜から、一本のシュノーケルが生えていた。

 

 その根元。

 

 顔面を完全に砂へ埋められ、首から下まで見事に埋葬されながら、シュノーケルだけで呼吸している卓兄ちゃんがいた。

 

 …………。

 

 どうやら、誰かが通報したらしい。

 

 そりゃするよね。

 

 遠目に見たら、どう考えても事件だもん。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「午前中はいろいろあったけど、ようやく全員揃ったな!」

 

 無事に砂浜から発掘された卓兄ちゃんも加わり、夏海ちゃんが両手を広げた。

 

「で! 今度は何して遊ぶ!?」

 

「はいっ! はいっ! のん!」

 

 真っ先に手を挙げたのは、れんげちゃんだった。

 

「おっ! れんちょん、いい意見があるのかな?」

 

「うち、中当てやりたいん! 今、中当てが熱いんな!」

 

 どこから取り出したのか、れんげちゃんの手にはすでにボールが握られていた。

 

 しかも瞳には、めらめらと炎まで宿っている。

 

「さすがれんちょん……。どこへ行っても自分のスタンダードを貫く姿勢には感心するよ」

 

 夏海ちゃんが呆れ半分で言うと、ほのかちゃんまで小さく頷いていた。

 

「れんちゃん、せっかく海に来たんだから、もうちょっと海らしい遊びにしない?」

 

 蛍お姉ちゃんがやんわり提案する。

 

「じゃあ――ビーチ中当てなん!!」

 

「そこは中当てから離れないんだ……」

 

 蛍お姉ちゃんの鋭いツッコミが入った。

 

「ビーチ中当て!?」

 

 ぼくは思わず身を乗り出した。

 

「ぼく、やったことないよ! なにそれ!?」

 

「まさか食いつく人がいた!!」

 

 小鞠お姉ちゃんが驚いてぼくを見る。

 

「さすがボク君な……。うちが見込んだだけはあるのん」

 

 れんげちゃんが腕を組み、うんうんと頷いた。

 

「このビーチ中当ては、一見すると普通の中当てのように思えるが……舞台は海。海でするのん!」

 

「海で! これはまた難易度が高い!!」

 

 夏海ちゃんが叫ぶ。

 

「砂浜じゃないんだ……」ビーチの意味なんだろう?と言いたい・・・

 

 お姉ちゃんの冷静な声が入った。

 

「うんうん! それで!?」

 

 ぼくはもう完全に興味津々だった。

 

「さらに! ボール以外にも水鉄砲による妨害あり! 何でもありのデストロイなのん!」

 

「つまり、中当てしながら水鉄砲で相手を邪魔してもいいってこと?」

 

「それだけではないなん!」

 

 れんげちゃんが人差し指を立てる。

 

「外野同士で、相手の援護を邪魔することも可能なん!」

 

「面白そう! やろうよ!」

 

「……これ、中当てより水鉄砲合戦にならない?」

 

 ぼくとは対照的に、夏海ちゃんは妙に冷静だった。

 

 ――と言いながら。

 

 ゴソゴソ。

 

 自分の鞄から、かなり大きなポンプ式水鉄砲を取り出した。

 

「持ってるじゃん!」

 

「こういうこともあろうかと!」

 

「えっ……でも私、水鉄砲なんて持ってないよ?」

 

「あ、私も……」

 

 蛍お姉ちゃんと小鞠お姉ちゃんは無装備だった。

 

「のん!」

 

 れんげちゃんもポンプ式。

 

「私はこれ」

 

 ほのかちゃんはハンドガン型。

 

「ぼくもあるよ!」

 

 ぼくも鞄からハンドガン型の水鉄砲を取り出した。

 

「…………」

 

 卓兄ちゃんまで無言でハンドガン型を取り出す。

 

「みんな何を予想して海に来たの!?」

 

 小鞠お姉ちゃんの悲鳴が響いた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 チーム分けは、蛍お姉ちゃんとぼく。

 

 対するは、小鞠お姉ちゃんと卓兄ちゃん。

 

 外野は卓兄ちゃん側に、れんげちゃんとほのかちゃん。

 

 蛍お姉ちゃん側には夏海ちゃん。

 

 人数と装備を考えれば、だいたいこれでバランスが取れるらしい。

 

 海へ入り、膝くらいまでの深さのところで大まかに陣地を決める。

 

 各自、水鉄砲へ海水を補充。

 

 じゃんけんの結果、先攻はぼくたちになった。

 

「それじゃあ――いくよ!」

 

 蛍お姉ちゃんが卓兄ちゃんへ向けてボールを投げる。

 

 正面。

 

 これなら普通に取れる。

 

 卓兄ちゃんも両手を伸ばし――

 

「…………!」

 

 突然、真横へ飛んだ。

 

 直後。

 

 ビシュウウウウウッ!!

 

 さっきまで卓兄ちゃんの顔があった場所を、強烈な水流が通過した。

 

 外野の夏海ちゃんだ。

 

 ポンプ式水鉄砲の中身を、一気に全部ぶちまけたらしい。

 

 卓兄ちゃんが回避したことでボールはそのまま外野へ流れ、夏海ちゃんがキャッチする。

 

「ちっ!」

 

 凶悪な顔で舌打ちした。

 

「夏海ちゃん、顔怖いよ!」

 

 そのまま夏海ちゃんはボールを内野へ返す。

 

「オーライ!」

 

 ぼくが受け取ろうとした――その瞬間。

 

 ピシュッ!

 

「うわっ!?」

 

 ほのかちゃんの水鉄砲が、ぼくの目元を直撃した。

 

「目が! 目がぁぁぁ!!」

 

「ボク君!?」

 

 ぼくは目を押さえ、その場で右往左往する。

 

 大事なところで突然役に立たなくなるぼくをよそに、ボールはれんげちゃんのところへ転がっていった。

 

「ほのかちん、ナイスなん!」

 

 れんげちゃんがボールを拾う。

 

 そして――。

 

「ボク君! 覚悟なん!!」

 

 目を潰されているぼくへ容赦のない追撃!

 

「危ない!」

 

 バシッ!

 

 ところが、そのボールを蛍お姉ちゃんが身体を入れて受け止めた。

 

「ほたるー! ナイスアシスト!!」

 

 夏海ちゃんから声援が飛ぶ。

 

 蛍お姉ちゃんはすぐさま夏海ちゃんへパス。

 

 夏海ちゃんはボールを受け取る直前、卓兄ちゃんへ水鉄砲を向けた。

 

 ビシュウウッ!!

 

「…………!」

 

 今度は避けきれなかった。

 

 強烈な水流を顔面に受け、卓兄ちゃんがわずかによろめく。

 

 その瞬間。

 

 夏海ちゃんがボールを受け取った。

 

「もらったぁ!!」

 

「えっ?」

 

 狙いは卓兄ちゃん――ではなかった。

 

 卓兄ちゃんの援護が途切れた一瞬を狙い、その横にいた小鞠お姉ちゃんへ投げつけたのだ。

 

「ちょっ――!」

 

 ボスッ!

 

 ボールが小鞠お姉ちゃんに直撃。

 

「わああっ!」

 

 バッシャーン!!

 

「小鞠先輩!!」

 

 蛍お姉ちゃんが心配そうに声を上げる。

 

 しばらくして、小鞠お姉ちゃんが水面からゆっくり起き上がった。

 

 頭を横へ傾け、耳に入った水を抜く。

 

「油断したぁ……。今の、お兄ちゃんを先に封じてから私を狙ったのかぁ……」

 

「なっつみちゃんの頭脳プレイだよーん♪」

 

 夏海ちゃんが満面の笑みでガッツポーズする。

 

「うわぁ……夏海に言われると余計に腹立つなぁ」

 

「なんで!?」

 

 小鞠お姉ちゃんはトボトボと外野へ移動していった。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「…………」

 

 卓兄ちゃんが、ほのかちゃんへパスを送った。

 

「えっ……と、はい!」

 

 そして卓兄ちゃんが再び手を上げる。

 

 ほのかちゃんは素直に投げ返した。

 

 ボールは再び卓兄ちゃんへ。

 

 ぼくと蛍お姉ちゃんは前後に分かれ、警戒する。

 

「今度こそ!」

 

 ぼくも水鉄砲を構え、卓兄ちゃんの顔面を狙った。

 

 ところが。

 

 スチャッ。

 

「…………」

 

 卓兄ちゃんが、頭に載せていたゴーグルを目元へ下ろした。

 

「あっ!」

 

 目潰し対策された!

 

「進化した!?」

 

 卓兄ちゃんは何も言わない。

 

 ただ、ぼくへ狙いを定め――ボールを投げた。

 

「うわっ!!」

 

 速い!

 

 なんとか横へ飛んでかわす。

 

 ボールはそのまま誰もいないはずの外野へ――。

 

 バシャアッ!!

 

「のん!!」

 

「ええっ!?」

 

 海の中から、シュノーケル姿のれんげちゃんが飛び出した。

 

 その手にはボール。

 

「ボク君、覚悟なんー!!」

 

「ちょっと待っ――」

 

 ボスッ!!

 

「うわぁっ!」

 

 腹に直撃。

 

 そのままぼくは海へ沈んだ。

 

 バッシャーン!

 

「あーあ……やられちゃった」

 

 浮かび上がったぼくは、悔しそうに外野へ移動する。

 

「ふっふーん♪」

 

 れんげちゃんが得意げに鼻を鳴らした。

 

「ほのかちんとにいにいでパスを回せば、みんなそっちを見ると思ってたん。その隙に、うちは水中で待ってたんな!」

 

「なんと……」

 

 夏海ちゃんが愕然とする。

 

「あちらにも知将がいたとは……!」

 

 ただの中当てだったはずなのに、いつの間にか軍師同士の戦いみたいになっていた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「ほたるー! チャンスだ! こっちの攻撃で終わらせるよ!」

 

「う、うん!」

 

 今度はぼくたちがボールの主導権を握った。

 

 外野に移ったぼくも参加して、一気にパスを回す。

 

 蛍お姉ちゃんから夏海ちゃん。

 

 夏海ちゃんから蛍お姉ちゃん。

 

 蛍お姉ちゃんからぼく。

 

 ぼくから夏海ちゃん。

 

 水の中では足を取られる。

 

 砂地も沈み込むので、陸上のようには素早く逃げられない。

 

 パスを回しているうちに、夏海ちゃんと卓兄ちゃんの距離がどんどん縮まっていった。

 

「にいちゃん!」

 

 夏海ちゃんがボールを振りかぶる。

 

「覚悟ぉぉぉ!!」

 

 至近距離からの渾身の一撃。

 

 ――しかし。

 

 バシッ!

 

「…………」

 

 卓兄ちゃんは、真正面から受け止めた。

 

「うそぉ!?」

 

 ゴーグルの奥で。

 

 卓兄ちゃんの瞳が、キランと光った気がした。

 

「あれを止めるか……! 蛍!!」

 

 夏海ちゃんが叫ぶ。

 

 ぼくも慌てて蛍お姉ちゃんを見る。

 

「きゃあああっ!」

 

「蛍お姉ちゃん!?」

 

 その頃。

 

 蛍お姉ちゃんは、れんげちゃんとほのかちゃんによる一斉掃射を受けていた。

 

「ほのかちん! 右なん!」

 

「うん!」

 

 ピシュッ!

 

「ひゃっ!?」

 

 ほのかちゃんの細い水流が、蛍お姉ちゃんの脇腹を正確に狙う。

 

「きゃははっ! ちょ、ちょっと! そこくすぐった――!」

 

「今なん!!」

 

 ビシュウウウッ!!

 

「きゃああっ!」

 

 続けてれんげちゃんのポンプ式水鉄砲が炸裂。

 

 強烈な水圧に蛍お姉ちゃんがよろめいた。

 

 そこへ――。

 

「…………」

 

 卓兄ちゃんがボールを構える。

 

 そして。

 

 ポーン。

 

 さっきまでの剛速球とは違う。

 

 やさしい山なりのボールが飛んでいき――。

 

 ボスン。

 

「いたっ」

 

 蛍お姉ちゃんの頭に当たった。

 

 一瞬、静寂。

 

「…………」

 

「…………」

 

「あちゃあー……」

 

 これで内野二人ともアウト。

 

 ゲーム終了だった。

 

「やったのんー!!」

 

「れんげちゃん、やったー!!」

 

 れんげちゃんとほのかちゃんが、海の中でハイタッチする。

 

 完全に勝者の顔だ。

 

 夏海ちゃんは悔しそうに頭を抱えていた。

 

「くっそー! まさか、れんちょんの水中奇襲とにいちゃんの鉄壁守備にやられるとは……!」

 

「…………」

 

 卓兄ちゃんは無言だった。

 

 でも、なぜかちょっと誇らしげに見える。

 

「れんげちゃん!」

 

 ぼくはれんげちゃんのところまで駆け寄った。

 

「ビーチ中当て、面白かったよ!」

 

「…………!」

 

 れんげちゃんの眉がピクリと動く。

 

 そして。

 

「ふっふーん♪」

 

 胸を張り、いつもの得意げな顔になった。

 

 ――こうして、海水浴場で行われた第一回ビーチ中当て大会は幕を閉じた。

 

 たぶん。

 

 普通の中当てとは、だいぶ違ったと思う。

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