東方狡兎録   作:真紀奈

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龍神

「龍神が幻想郷の守護者にして支配者である」

 

 酒の肴に人間からこの話を聞いた時、てゐがまず考えたのは八雲が「龍神」を騙り人間を操っているという仮説だった。しかし続きの話を聞くに、「龍神」とやらは「結界の妖怪」と時に争って勝ったり負けたりしていると言う。先日竹林にやって来た九尾と役割分担して茶番劇を演じたとかでなければ、正体が何であれ八雲と伍する実力者が居るという事だ。

 てゐとしても酒の席の与太話と捨て置ける話ではない。自分達の平穏の為にも、永遠亭を隠す為にも、八雲と対等に戦える存在が本当に居るのか確認する必要があった。

 余談だが、少女と呼ぶにも幼すぎるような外見のてゐが酒を頼んだ時には一悶着あった。人外の存在は見た目で年齢が解らないものだと言い聞かせて納得して貰ったが、最初の何杯かは心配そうな目で見られていた。酒は百薬の長、薬を扱う神でもあるてゐの得意分野だと言うのに。

 

 龍神は年に一度の例大祭と、何年かに一度八雲と戦う時、森を越えた向こうに(そび)える山から飛来するらしい。普通に考えれば山に住処(すみか)があるのだろう。

 その山までは最短距離なら瘴気の満ちる森を突っ切って行く事になるが、人里の東側から出て北に向かい、年中霧に覆われている湖の東岸に沿って行けば森を避けて行けるようだ。

 湖までなら行った人間も幾らか居ると聞いたてゐは、一人で山に行ってみる事にした。弱そうに見えて実際弱いてゐだが、に襲い掛かって来て話が通じないような低位の妖怪に負ける程弱くはなく、逃げる事も許されない程の実力差がある相手が逃げる弱者をわざわざ殺しに来る事はそうそう無い。危険なのは実力が上なのに交渉が通じない馬鹿だが、幸運の兎である自分がそんな滅多に居ない奴に出会ってしまう事など無いだろう、とてゐは楽観していた。

 尚、眷属の兎を引き連れずに一人で行くのは最初から逃走を計算に入れているからである。格上から逃げる際に仲間の安全を確保するのは難しいのだ。

 

 ー*ー*ー

 

 翌日、湖に辿り着いたてゐは己の楽観を後悔していた。

 眼の前に居る奴は自分より戦闘力が高く、飛行速度も速い。しかも先程から対話を試みているが一向にまともな会話が成立しない。何故なら其奴は知能が低い事で有名な妖精だからだ。

 そう、紛れも無く危険視していた「実力が上なのに交渉が通じない馬鹿」である。

 幸い、要領を得ない主張を纏めれば「最強のあたいの子分になったらこの辺で遊んでも良い」との事なので、出合い頭に拳大の氷を散々ぶつけられた恨みを飲んで軍門に下る事にする。今子分になると誓っても次に会った時にはすっかり忘れて攻撃して来るかもしれないが、妖精とはそういう者だから文句を言っても仕方が無い。問題は典型的な妖精らしい性格の癖に強い事だ。

 帰りに此処を通る時までは子分になった事を覚えていてくれるよう祈り、てゐは先を急いだ。

 

 その後は何事も無く湖沿いを歩き、日が真上に昇った頃に山の麓に着いた。

 龍神の巣はやはり頂上だろうかと考え登り始めたてゐだが、そんなに進まない(うち)に足止めを食う事になった。今度邪魔をしに来たのは狼の妖獣、服装から察するに天狗の下っ端である白狼天狗と思われる。下っ端とは言え天狗は天狗、てゐの敵う相手ではない。

 だが先程の妖精とは違って天狗には話が通じる。寧ろ無数の妖怪の中でも一番話が通じる部類と言っても良いかもしれない。

 

「私は先般この幻想郷にやって来た兎の頭領にして出雲のオオクニヌシ様の眷属神、因幡てゐだ。山にいらっしゃる龍神様への挨拶を阻む理由があるなら聞かせて貰おうか」

 

 てゐは妖怪にも感知できる程度に神力を出しながら意識して居丈高に言い放った。天狗は上位の存在に弱いので、神である事を真っ先に明かせば間違い無く従う。例外は天狗の最上位に位置する天魔、例の役行者に匹敵するとか言う昔四国に現れた大天狗の事だが、その天魔くらいではないかと射命丸が言っていた。並の神より格の高い出自であるとか何とか。

 兎も角(ともかく)天狗は権威に弱いという例に漏れず、道を塞いでいた白狼天狗は恐縮しつつ道を開けた。慣れない言葉遣いをした甲斐があるというものだ。加えて道案内も買って出た白狼天狗は哨戒任務があると言うので途中で居なくなってしまったが、間を置かず別の白狼天狗がやって来て、代わりに案内をしてくれた。

 

 そうして山頂近くまで天狗の案内で登って来たてゐだが、進むに連れ疑問が湧いて来ていた。

 山頂に近付くほど騒がしくなっているのが一点。神域に近付けば普通は静かになるものだ。

 山頂に巨大な妖力を持つ存在が多数感じられるのがもう一点。ひょっとすると天狗に騙されているのではなかろうか。てゐは段々竹林に帰りたくなって来た。

 鬼が出るか蛇が出るか、と意を決して登り切ったてゐは、山頂に本当に鬼が居るのを見た瞬間に(きびす)を返そうとしたのだが、既に先方にも姿を見られており呼び止められてしまった。

 

 仕方なく鬼が集まっている方に向かい、そんな訳は無いだろうと思いつつも此処に龍神が居ると聞いて挨拶に来たと言ったのだが、果たしてそんな訳があった。鬼達の中心に座り豪快に樽を担ぎ上げ酒を飲んでいる鬼神様の、別名と言うか別側面が龍神だったのだ。

 神には荒魂(あらみたま)和魂(にぎみたま)との二つの性質があり、特に力の強い神の中にはそれぞれに全く異なる姿を取り、極端な時には別の神として祀られる者も居る。

 眼の前で空の樽を誇らしげに掲げている美女もその類であり、和魂は幻想郷の水雨を司る龍神。荒魂は洪水を起こし数多の生贄を喰らった大悪神、かつては八岐大蛇(やまたのおろち)とも呼ばれ、一度スサノオに調伏された後にもヤマトタケルを返り討ちにした事で知られる伊吹大明神である。てゐが遥か昔に聞いた事のある噂話に登場した有名神(ゆうめいじん)であった。

 傍らでふらふらしながら間断無く酒を飲み続ける幼い外見の鬼は、鬼神の御子であり四天王筆頭の伊吹萃香、通り名は酒呑童子(しゅてんどうじ)だ。

 

 想定を遥かに超える大物の登場にてゐは一瞬意識が飛びかけたが、気を取り直して自分の身の上を明かし、八雲との対立は事実かと問うた。事実であれば強大な後ろ盾となり得る。

 しかし返答は無慈悲であった。

 鬼神と八雲は古くからの知り合いであり、(そもそ)も本来近江の伊吹山に居る筈の彼女が東国の幻想郷に居るのも旧知の八雲の招聘(しょうへい)に応じての事だ。

 時折意見が対立して喧嘩もするが、実際には人里の守護神等ではない。人里の例大祭には良い酒が貰えるから龍神様として顔を出すらしいが、一方で配下の鬼は人を(さら)っているのだから、とんだ詐欺ではないだろうか。

 

 てゐは協力の当てが外れた為気落ちしながらも鬼の宴会の御相伴に(あずか)り、少しは気分を上向けて帰路に就いた。今度は幸運にも例の妖精に遭遇しなかった。酒が回った状態でいきなり襲い掛かられたら危ない所であった。




龍神=鬼神という解釈にしてしまったので流石に付けないとまずいかなと思い、「独自解釈」タグを付けました。
前話まででも十分独自設定だった気もしますけれども。
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