ただの少女に背負わせすぎでは? 作:英雄信者
「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
「もう少し、後十周ですよ」
「いや鬼畜か!?」
俺は今、学園の訓練場で走り込みをしている。
鬼指導という言葉が相応しい
いやふざけんなや。
確かに強くなりたいとは言ったがここまでしろとは言ってない。
初心者に対してキツすぎんだろ!
「どうして、こうなったんだっけぇ………?」
それは、さかのぼること一週間前。
◆◆◆
あの後、気絶した俺は治療のため聖フレイヤ学園という場所に運び込まれた。
まる三日ほど意識を失っており、危ない状態だったそうだ。
まさに瀕死だったらしい。
目を覚ました時には、かなり騒がれた。
なんでも目を覚ますどころか永眠するかもしれないといったところで、それも三日で目を覚ますとは思われていなかったらしい。
それから暫くして、この学園の責任者が会いに来た。
………「ちっさ」とか言ってないからな。
そんな失礼なこと言わないから。
話を戻して、その責任者────学園長テレサ・アポカリプスは端的に伝えてきた。
俺は死にかけて三日眠っていたこと。
そして戸籍が見つからないこと。
更に恐らくは崩壊エネルギーに対する適性があること。
なんで戸籍がないのがわかるのかといえば、普通に国際的な機関だから調べればわかるとのこと。
プライバシーとか……ないんですか?
『貴方がどこから来たのかは分からないけど、確実にこの国に戸籍はないわ』
『ほへー……』
『それにあんなに大量の崩壊エネルギーを浴びて無事で居るなんて、とんでもない耐性よ』
『ほへー……』
『………聞いてるの?』
『だってわかんないんですもん』
まあ、アホみたいな返事しかしてなかったから呆れられたけど、わかんなかったからしょうがない。
オレ、アタマヨクナイ。
というわけで、行く宛もない俺は崩壊戦士にならないかという問いに速攻でオッケーを出して、この学園にいつくことになったわけである。
基本的に女子しかいないため、かなり居づらいことになるだろうけど仕方がない。
本当にツテもないんだし、部屋も生活する場所も分けてくれるらしいから問題ないだろ。
深く考えたくないのが本音だけど。
そして、恐らく異世界だと判明したこの場所で生きていくためには武力が必要不可欠。
強くないと生きることすら困難になりそうなため、戦闘訓練を行うことにしたのである。
もちろん独学じゃ無理無茶無謀なため、教師役をテレサ学園長に頼んだところ─────
「フカ委員長が来たんだよな〜………」
鬼教官到来というわけである。
いや、まあ経験豊富なA級戦乙女である彼女に教われるのは幸運なことではあるのだが……。
いかんせん手加減とかそんなんなさそうだから、めっちゃキツイわ。
最初説明されたけどな、鍛錬は全力でやりますって。
それでもキツイもんはキツイわ。
「お疲れ様です、頑張りましたね」
「ありがとうございました、フカ委員長……」
ただ、これも必要なことと考えて割り切る。
だってこれやらなかったらまたあの時みたいになるだろうし、それは嫌だ。
死にたくないし、もう死なせたくない。
……あっ、そういえば。
「フカ委員長、俺と一緒にいた女の子って………」
「……ああ、無事だそうですよ」
「あーよかったぁ」
少し何のことかと考えてから、フカ委員長は答えてくれる。
そっかー、無事か。
そりゃ良かった、立ち向かった甲斐があったってもんだ。
それにしても………。
「……ほんと、別人みたいっすね。身体能力」
「それが崩壊エネルギーの恩恵ですから」
自身の身体能力が、とんでもなく向上している。
その事自体に、まだ違和感があった。
崩壊エネルギーを浴びて、それを身体能力強化に回しているってことだろうと説明されたけど。
やっぱ急には認識は変わらないもので、そのズレを矯正するためにフカ委員長の訓練メニューは組まれていた。
「死にかけて強くなるとかサイヤ人かよ………」
「はい?」
「いや独り言っす」
まあ強くなったつっても、普通に一般的なB級ヴァルキリーより下だけどな。
それも技量含めないでだし。
つくづく残酷なまでに実力差があるなぁ。
最強になるつもりはないけど、せめて自衛できるくらいは強くなりてぇわ。
◆◆◆
聖フレイヤ学園のある一室。
電球の光に照らされるその部屋で、ある人物がテーブルを囲んで三人集まっていた。
一人は、学園長であるテレサ・アポカリプス。
更にもう一人はフカ委員長。
そして、最後に。
「────それで?どうなの、フカ。彼の様子は」
「はい、姫子少佐。別段変わった様子はないかと」
「あれからずっと訓練に励んでいます」と付け加えるフカに尋ねたのは、彼女らの教師、無量塔姫子である。
元戦乙女である彼女もまた、崩壊と戦える戦士の一人だ。
アルコール依存症の気があるのが玉に瑕だが。
「まあ、そうでしょうねぇ……ある一点を除けば本当に常識的な男子だもの」
「ある一点……ですか……」
「そう、ある一点よ」
会話に加わってきたのは、テレサ学園長であった。
最終的に彼を受け入れることに決めたのは彼女だが、それでもそれはただの善意からというわけではない。
他にももちろん、目的がある。
「
「「………」」
「もちろん追い出す理由がないのもあるけど、それが一番気がかりね」と、テレサ学園長は付け加える。
突然現れた反応。
そして、
それはこの世界に於いて、あまりに異質すぎる。
「………ま、取り敢えずは監視を続けて頂戴。何かあったら報告すること」
「はい、わかりました」
「あと、姫子?」
「はい?」
テレサは一拍置くと、ある書類を取り出す。
それを受け取った姫子が見たのは、ある編入書類。
例の彼の、姫子の受け持つクラスへの編入手続きであった。
「あの子のこと、よろしくね」
「……私が見るんですか?」
「慣れてると思ってるのだけど」
……そう言われると反論しづらいのが辛いところだ。
ともあれ、断る理由もないし。
「……わかりました」
「ごめんなさい、苦労をかけるわ」
そうして、この集まりは解散を迎えた。
これから何が起こるのか、それとも何も変わらないのか。
それはきっと、神でさえわからないだろう。
突然やってきたやつを警戒しないはずがなく、まあ当然監視はあります。
それでもこの一週間で大分人間性はわかったので、そこまで酷くはありませんが。