プらぽレいしょン   作:リュウ@立月己田

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もう少し続きます。

1-3.序章 その3


1-3

 

 満腹になって少し眠たくなってきた僕は、椅子に座りながら両手を組んでググっと背伸びをする。そのままの状態で天井を見上げながら、今日は何をしようかと考えた。昼間での授業だったので、放課後の時間はたっぷりあるのだけれど、文化祭まではまだまだ日数があるし、部活動としてしなきゃいけないことほとんど無い。ぶっちゃけた話し、文化系で部員の数も少ない我がミステリー研究部が活動しなければいけないのは文化祭以外何もないと言っていい位なので、1年を通してほとんどの時間、気軽に好きなことをやっている。

 

「そう考えると、ホントに暇なんだよね……」

 

 ぼそりと呟いた僕の言葉を待っていたかのように、斗馬は眼をキラリと光らせて立ち上がった。

 

「それじゃあ、何かをやりたいとは思わないのかな、竜」

 

「何かをって言われてもなぁ……」

 

 いきなり振られた斗馬の質問に、焦ることなく僕は考え込む。と言うのも、斗馬が突拍子もなしに質問してくるのは昔からよくあることなので、もはや日常茶飯事と言っていい。ただ、今回の問いは僕自身が悩んでいたのだから、すぐに答えがでないのが問題なのだけれど。

 

「うーん、ぱっと思いつかないんだよねー」

 

 色々と考えてみるが、全く良い案がでてこなかった。最近発売された推理小説を読みたいとは思ったけれど、それは一人でも出来ることだ。斗馬が聞いてきたのは部活として何をしたいかだろうし、ここは部員全員を対象にしたことで考えないといけない。

 

「姫園さんは何かある?」

 

 僕は助言を求めようと姫園さんに声をかけてみた。急に自分に振られたので焦ったのか「えっ!?」と声を上げて眼を白黒させていた。

 

「やりたいこととか、無いかな?」

 

「え、えっと……その……」

 

 考え込む素振りをしながら「うーん……」と呟いていた姫園さんだったけれど、何故か急に頬を染めて俯き加減に僕を見ながら口を開いた。

 

「ど、どこかに……遊びに行くとかどうでしょうか?」

 

 恥ずかしそうに上目遣いで話している姫園さんの姿を今日だけで何回見たのか分からないけれど、やばいくらいにドキドキしてしまいそうな仕草だった。普通の男なら、嬉しくなってしまう出来事なのだろうけど、僕には歓迎できない理由がある。過去の記憶が心臓を握りしめるように痛みが胸全体に広がっていくと、嘔吐感が急に襲ってきた。

 

 心配をかけたくなかったので、悟られないように平常を装いながら、それとなく分からないように姫園さんの顔から少しだけ視線をずらす。

 

「そうだね……すぐに夏休みになるから、それもいいかもねー」

 

「そうですよね。せっかくの夏休みですし、どこかに行きましょう!」

 

「うんうん、来年は3年生になるんだし、遊べるのは今年までだからねー」

 

 僕は喋りながら、ゆっくりと静かな深呼吸を何度も繰り返して平常心を取り戻そうとした。嫌な記憶をペンキで塗りつぶして、出来事自体を無かったかのように錯覚させる。恋心なんて、僕には必要ない。告白された事なんて、僕には一度もない。だから、あんなことなんて――起こってなんかいないんだ。

 

 気がつくと、手の平にびっしょりと脂汗がにじみ、呼吸が荒くなっていた。自分の顔が青ざめているのを見なくても分かるくらい体調が悪くなっている。「どうしたんですか、佐井村君?」と心配そうな表情を浮かべた姫園さんが、机に身体を乗り出して顔を近づけるのに気づいた僕は「あ、いや、なんでもないよ……」と言って椅子から立ち上がった。

 

「ちょっと、エアコンが強すぎて冷え過ぎちゃったのかもねー」

 

 右手で目をこする仕草をして涙が出ていないかを確かめる。甲の部分に少し湿り気を感じて、一連の動作で分からないように服の裾で拭った。

 

「大丈夫ですか……? 保健室で休んだ方が……」

 

「いや、心配には及ばない。そうだな、竜」

 

 心配してくれる姫園さんの声を遮るように、斗馬は声をかけながらエアコンの温度を少しだけ高くした後、僕に近づいてきた。

 

「ん、ああ、大丈夫だよ……」

 

 そう言いながら、すぐそばに立っている斗馬の顔を見る。だけど、眼を直視することが出来ない。人の眼が、今の僕には怖すぎた。四面楚歌のように指すように突きつけられる、悪意に満ちた視線。思い出す度に全身に震えが襲い、体温が急激に低下する。

 

 僕に向けられた視線が、親友の目であっても――それは変わらず襲ってくる。

 

「……まだ、話してはくれないのか、竜」

 

 僕にしか聞こえない声で斗馬は問いかけた。その気持ちが嬉しくて――嬉しいはずなのに、今の僕には重た過ぎて視線を大きく逸らしてしまう。

 

「……そうか」

 

 表情は変えずに――だけど、ほんの少しだけ眼を悲しそうにした斗馬は、ゆっくりと座っていた椅子へ戻っていった。後ろ姿に「ごめん……」と小さく呟きながらもう一度眼を拭った僕は、表情を明るく振る舞って喋り出す。

 

「うん、大丈夫。深呼吸したら治ったみたいだよ」

 

「そ、そうですか? だったら良いんですけど……」

 

 まだ少し心配そうな表情を浮かべている姫園さんに「ホントに大丈夫だって!」と元気が良いように声を出して、椅子に座り直した。

 

「で、夏休みにどこかに行こうって話だよねー」

 

「そうですね。どこに行きたいかですけど……」

 

 そう言いながら、姫園さんは少し考え込んだ。遊びに行くという提案はあったのだけど、場所までは考えていなかったらしい。

 

「そういうことがあるだろうと予想して、すでにチェックしておいたのだよ」

 

 勝ち誇ったような声に、僕と姫園さんは斗馬へと振り返った。再び眼をキラリと光らせながら、かけてもいない眼鏡を直すかのように人差し指を眉間に当てている。どうやらパソコンで調べものというのは、これのことだったのだろう。

 

「さて、夏休みに行けそうなところだが……」

 

 夏と言えばレジャー。海や山が真っ先に思い浮かべられるように、ここからそう遠くない場所を斗馬は提案した。日帰りで行くには充分な距離で、交通の便も悪くない。早速3人で相談し合う。

 

「まずは――海だよね」

 

「うむ。近くの駅からなら特急を使って1時間半と言うところだな、竜」

 

「それだと、交通費はいくらくらいになるんでしょう?」

 

「往復で6540円。そこからバスを使うから、合計で7000円くらいだろう」

 

「それプラス食事とか色々……か。ちょっとかかっちゃうなぁ」

 

「特急を使わなければ、かなり割安にはなるが」

 

「それって片道どれくらいかかるの?」

 

「おおよそ4時間と言ったところだな、竜」

 

「泳ぐ時間無くなっちゃうって……」

 

「あはは、ですよね……」

 

「でも、近くに海上自衛隊もあるから、ちょっと見に行きたいんだよねー」

 

「ふむ、竜の趣味から言うと、護衛艦みょうこう辺りかな?」

 

「ご明察。まだ写真でしか見たこと無いからねー」

 

「佐井村君って、船にも詳しいんだ……」

 

「いやいや、かじっている程度だけどねー」と謙遜しながら姫園さんに答える。と言うか、斗馬の調査力が半端なさ過ぎじゃないかと思うのだが、そっちの方が気にならないのだろうか。

 

 ……それに、とあるゲームにはまって軍艦を実際に見てみたいと思っていたけれど、気になりだしたのはここ最近のことであって、その情報をいったいどこから仕入れたのだろうと非常に気になった。

 

 恐るべし――我が親友、驫木斗馬。

 

「そっか……私もちょっと見てみたいかも……」

 

 何故か姫園さんが天井を見上げて呟きながら思いふけっていた。同じ趣味を持つのは嬉しいのだけれど、なんでいきなりそういう考えに至ったのかが分からない。

 

 ……もしかして、情報通の斗馬のことが気になっていたりするんだろうか。斗馬には幸せになって欲しいし、その気があるんだったら全力で応援したい。

 

「海の方はこんな感じだが、次は山の方を考えてみようか、竜」

 

「そうだねー。色々考えてから決めたいところだし」

 

「そうですね。ところで、山と言えば……」

 

「山と言えば?」

 

「虫……多いですよね、たぶん」

 

「「あー」」

 

 僕と斗馬の声が重なりを上げる。姫園さんの顔がちょっぴり暗くなり、申し訳なさそうにしていた。

 

「夏だからなぁ……やっぱり見えちゃうだろうなぁ……」

 

「うむ。山は無しの方向だな、竜」

 

「す、すみません……」

 

 肩をすくめて縮こまった姫園さんが、悲しそうに僕らに向けて謝った。極度の虫嫌いである姫園さんにとって山に行くことは非常に難しく、僕の方も蜘蛛などの足の多い虫を苦手しているので、素直に頷ける。

 

「となると、海かなー」

 

「あっ、もし他にも提案して良いなら、一つあるんですけど……」と思いついたように姫園さんは顔を上げた。さっきとはうって代わって明るい表情に、なんだか僕の気持ちも晴れやかになる。

 

「少し遠くなりますけど、USJとかどうでしょう?」

 

「ああ、なるほどねー」

 

「ふむ。その案も出るのではないかと思って調べておいた」

 

 いやもう、完璧過ぎんだろ、斗馬。

 

「近場の駅から考えて、快速を乗り継げば往復交通費は1560円。海に行くよりは非常に交通費は安くつく……が」

 

「問題は、入場料とかだよなー」

 

「パスは約7000円弱といったところだろう。後は、食事代などだな」

 

「ちょっと厳しいかもですけど……」

 

 その言葉にみんなの顔が一斉に曇ってしまった。姫園さんは、指を折りながら予算を考えているのか、暫く小さな声で呟いた後、顔を上げて「なんとかなりそうです」と答えた。だが、斗馬の方は腕組みをしながら心ここにあらずといった表情を浮かべている。

 

「斗馬、何か心配ごとがあるのかな?」

 

 僕の声に動かされるように、斗馬は顔をこちらに向けた。

 

「金銭面に問題は無いのだが……」

 

「歯切れの悪い斗馬なんて、めずらしいね」

 

「うむ……気にし過ぎかもしれない……」そう言いながら、もう一度考え込む斗馬。何故こんなに悩むのだろうと疑問に思ったが、ふとある考えが僕の頭によぎった。

 

「もしかして、アトラクションが怖いとか?」

 

「いや、それはない。むしろ絶叫マシンは好みなのだよ」

 

 どうやら違ったらしい。と言うか、好みだったとは知らなかった。親友としてちょっぴり恥ずかし悲しいぞ、僕。

 

「じゃあ、一体何が問題なのさ」

 

「……夏休みにUSJとは、人が多過ぎるのではないのだろうか」

 

「「……あー」」

 

 今度は僕と姫園さんの声が合わさった。

 

「考えることは皆同じとは言えないが、あれだけの施設に行くとなると、夏休みに行くのは自殺行為に思えて仕方がないのだよ、竜」

 

「まぁ確かに、平日を狙っても人は多いかもしれないなぁー」

 

「待ち時間とか、長そうですよね……」

 

 USJに行ったことがない僕にとってはっきりと言いきれないのだけれど、各施設の前に行列ができて混雑しまくっている風景が簡単に想像できた。夏の暑い気温の中、数時間の待ち時間をただひたすら並んで待つ。楽しむ前に苦しむのは本末転倒だと思うのだが、それに耐えることによって楽しみが倍増するという可能性はあるのだけれど、人混みが苦手な僕にとってみれば、それは単なる苦痛でしか無く、両手を上げて喜んで行こうとは到底思えなかった。

 

 もしかして斗馬は、僕のことを思って言ってくれたのじゃあないだろうか。そうだとしたら、友達思いの良い奴である。足を向けて寝れそうにない。

 

 ……よく考えたら、今寝ている向きだと斗馬の家の方向に足が向いている気がするのだが、まぁ、その辺は追々直すことにしておこう。

 

「良い案とは思ったんですけど……」

 

 姫園さんが残念そうに呟いた。確かに案自体は悪くなかっただけに、別の機会があれば行ってみても良いとは思う。

 

「そうすると、他に良い所ってあるのかなぁー」

 

 僕は腕を組んで、天井を見上げながら考えた。会話が弾んでいたのもあって、身体の方は落ち着きを取り戻し、どうやら問題なさそうだった。

 

「まだリストは沢山あるのだが、竜」

 

「どれくらい調べていたんだよ……」

 

「うむ、だいたい12通り位だな」

 

「………………」

 

 事前準備が完璧すぎる斗馬のそこに痺れる憧れる――わけではない僕にとって、その行動は暇だったのかと聞いてみたくもなるのだけれど、せっかく調べてくれた斗馬にも悪いので、残りの案を聞いてみることにした。

 

 





続きます。

次回も近いうちに。
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