プらぽレいしょン   作:リュウ@立月己田

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1-4.序章 その4


1-4

 

 近場の市民プールは金銭面で海より魅力的だったけれど、夏休みという時期から小中学生も多そうで、人混みは避けられないだろうし、近くの他県なるアウトレットモールにショッピングという案も悪くはなかった。平日を狙えば人もそれほど多くはないだろうし、ショッピングや映画鑑賞などそれなりに楽しめそうなのだけれど、これといった決め手が無く保留のまま次の案へ。図書館でミステリー小説読破リレーという奇抜にも見える案もあったが、読んだことがない本があるのなら、それも面白そうだと思ったのだけれど、そもそもそれだと一人でも出来そうなもので、部活動としてどうなのかと問われればダメな気がした。

 

 と言うか、遊びに行く段階で部活動じゃ無いという突っ込みは、スルーしておく流れだったので口にはしないでおく。

 

「これって案が出ないなぁー」

 

「そうですね……面白そうなのはあるんですけど……」

 

「ふうむ……残念だが、僕の力不足だな……」

 

「いやいや、こんなに調べてもらって斗馬にはホント感謝しているんだよ。ただ、決め手というか、ビビってくる何かが無いんだよねー」

 

「うーん……その、佐井村君のビビってくるのは……たとえばどういうのです?」

 

 姫園さんは、考え込むような素振りをした後、不思議そうな表情で僕に問いかけてきた。少しだけ眼から視線を逸らしながら、僕は考える。ビビってくる何か――。口では言ってみたものの、パッと浮かんではこなかった。フィーリングで喋った言葉だから、そんなに簡単には出てこないのは当たり前だけれど、頭の隅に浮かんできた少し前に読んだ小説を思い出して、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

「人が……死ぬとか、そういう事件でもあれば面白いのになって……」

 

 その言葉を聞いて、斗馬と姫園さんは唖然とした表情を浮かべた。自分の言っていることが余りにも馬鹿げていることに気づいた僕は、慌てて撤回する。

 

「いや、冗談だよ冗談! こないだ読んだ小説が面白かってさ。身近な日常の世界で起こる非現実的事件を解き明かすってやつでさー」

 

「えっ、あ、あぁ、この前に出た小説ですよね……。あ、あはは……ちょっとびっくりしたですよ、佐井村君ったら」

 

「うむ……さすがの僕も、少しばかり驚いてしまったぞ、竜」

 

「ごめんごめん。あの小説、結構印象深かってさー。主人公におもいっきり感情移入できちゃって、まだ余韻みたいなのが残っているのかなー」

 

「あー、それはちょっと分かる気がします。私もそういうことありますし」

 

「だよねー。まぁ、さっきのは無かったことでよろしくー」

 

「うむ。さすがに現実味がなさ過ぎるからな、竜」

 

 姫園さんは「そうですね」と言いながら、少しだけ呆れた表情を浮かべたが、何かを思い出したように手をぽんと叩いて僕の顔を見る。

 

「でも、脱出系アトラクションとかならあったりしますよね」

 

「……え、何それ?」

 

「あれ、佐井村君知らなかったです?」

 

「うん。初耳だよー」

 

「リアル脱出ルームとかいう、複数人で楽しめる施設なんかがあるみたいで……」

 

「何それ、超楽しそうじゃん!」

 

 名前を聞いただけで大興奮状態の僕。そういうアトラクションならば、多少の人数が居る場所でもあっても大歓迎である。

 

「く、口調が変わるくらい食いついてくるとは……ちょっと予想外でした……」

 

 僕のあまりのはしゃぎっぷりに少し驚いたのか、姫園さんは苦笑を浮かべていた。

 

「ふむ、それは僕も調べていなかったが……確かに竜の好みに合うかもしれないな」

 

 なんでこういう所は調べていないのかなぁと思ってしまうが、今までの調査の時点ですでに頑張り過ぎ……いや、準備周到過ぎるだろうと言えるので、それは高望みと言うものだ。それよりも、姫園さんが言うアトラクションはいったいどんなものなのかが気になりまくりだったので、斗馬に早急に調べて欲しいと伝えた。

 

 斗馬は「うむ、少しだけ待ちたまえ、竜」と言いながら、慣れた手つきでマウスとキーボードを操作し、リアル脱出ルームの公式のウェブサイトを探し出した。

 

「近場だと、大阪……いや、京都にもあるようだな、竜」

 

「おおっ、めちゃくちゃ近くにあるじゃん!」

 

「へぇー、京都にもできていたんですね」

 

「これはもう行くっきゃ……」

 

 テンション最大の僕は立ち上がり、叫ぶように声を上げようとした瞬間、部室の入り口の扉が大きな音を立てて開かれた。

 

「五月蠅」

 

 そこには、眼つきが悪い――というよりも、「今から殺しますから動くんじゃないぞこの野郎」と命令している様な眼を僕に向けている長身の女性が立っていた。立ち上がっている僕を視界に入れると、無言で扉を閉めて激しい足音をたてながらこちらに向かって歩いてきた。紫のシャツの上に紺のスーツを身に纏い、高めのハイヒールが身長を更に高く見せる。腕組みをした女性は年齢相当の平均身長である僕を見下ろすように腕組みをして、蔑むような視線を浴びせた。

 

「あ、あの……簑河先生……?」

 

 ドS過ぎる視線に耐えきれず、僕は声をかけながら数歩後ずさった。しかし、簑河先生はたった一歩で離れた距離を更に縮め、圧力を最大まで高めるように顔を近づけた。

 

「佐井村、五月蠅」

 

「す、すみま……せん……」

 

「廊下まで聞こえるくらいの声を振りまくとは、お前はいったいどこのどいつなのだ?」

 

 いや、今さっき名前呼んだよね!? とは言えず、僕は気圧されて何も言えずに立ち尽くす。

 

「他人に迷惑をかけるガキは矯正しなくてはならん。ましてや、我が生徒なら尚更のことだよな、んん?」

 

「え、あ、うぅ……」

 

 少しでも前に動くと唇が触れてしまいそうなくらいに近づいた先生の顔はとても整った顔立ちで、美人かと問われれば10人中10人が「はい」と答えるだろう。だが、それは性格を含めた問いではないし、先生を知る人物ならば触らぬ神に祟り無しの精神で、「いいえ」と答えられるはずもない。僕にとって今の状況を嬉しく思える筈もなく、よほどのM属性である人種か、この学校にいると噂される簑河先生ファンクラブの一員くらいしか、好ましいとは思えないだろう。

 

 姫園さんや斗馬も同じことであり、距離が離れているにも関わらず一言さえも発することが出来ず、ただ先生と僕を眺めているだけだった。薄情者と罵りたくもなるが、同じような状況を僕が出会ったとすれば、たぶん同じことをするだろうし、彼らを攻めることは出来ない。

 

「さて、それじゃあ質問だ。今すぐそこの窓からゴム無しバンジーか、全弾装填済リボルバーでロシアンルーレットならどちらがいい?」

 

 なんつー無茶を言うんだこの先生は。というか、この発言を録音して教育委員会に提出したら大問題になると思うのだけれど、そんな余裕も時間も全く無く、もしそれが実現したとしても、その頃にはすでに棺桶の中だ。

 

「……ど、どっちも死にます……よね」

 

「いや、バンジーの方は打ち所によっては大丈夫かもな」

 

「ここ4階ですよね!? 打ち所って高さじゃないですよね!」

 

「まぁ、後遺症の1つくらいは残るかもだが、死なない可能性はあるわな」

 

「いや、それでも洒落になりませんよ!」

 

「罰だしなぁ」

 

「罰ってレベルじゃないです、処刑レベルです!」

 

「なんだ、佐井村。もしかして、あたしに逆らうってのか?」

 

「さ、逆らう気は毛頭も無いですけど、さすがに死ぬのは嫌ですよ!」

 

「ふんぬー、そうか……死ぬのは嫌か……」

 

 姿勢を一切崩さぬまま、考え込むような声を上げた先生だが、すぐに僕の顔へと視線を戻すと、ニヤリと笑みを浮かべて右手を首元に動かすと、シャツのボタンを外しだした。

 

「……はい?」

 

 僕は全くこの状況を理解できず、素っ頓狂な声を上げてしまった。上から3つのボタンが外され、先生の胸元の谷間が露わになり、思わず視線をそこに向けてしまう。男のサガってやつは、本当に仕方がないものである。

 

「ちょっ、せ、先生っ!」

 

 姫園さんが顔を真っ赤にして叫ぶように声を上げた。斗馬は恥ずかしそうに、視線を外して明後日の方向を向いていた。

 

「おいおいおめーら、どこに注目してるんだぁ?」と先生は言いながら、左手を高々と挙げて僕の脳天に叩きつけると、そのまま胸元に指を入れて紙切れを取り出した。

 

「い……痛ぅ……」

 

「お仕置きだ、お仕置き。エロい眼で見てんじゃねーよ」

 

 見せたのはそっちでしょうと言いたくなったが、追撃を食らうのは避けたいので黙っておくことにした。それよりも、さっきの一撃の威力が高くて、まだ目の前がチカチカと光って少し気分が悪かった。

 

「ほら、驫木。部長のお前にだよっ」

 

 先生は取り出した紙切れを空中で素早く紙ヒコーキに仕立て、斗馬の方へ飛ばした。ふわりと宙を舞ったヒコーキが綺麗な放物線を描いて斗馬の掌に着地する。

 

「これは……?」

 

「交流会のお知らせだ。学校長から直々の手紙だから、無碍に扱うんじゃねーぞ」

 そんな書類を胸元に忍ばせて、紙ヒコーキにして飛ばした先生はどうなんだと小一時間論議したい。――と、思っていた僕の視線を感じたのか、先生は部屋に入ってきた時と同じ眼力で、僕を睨みつけた。

 

「あん、何かあんのか佐井村ぁ?」

 

「な、ナンニモナイデスヨ……」

 

 どこぞの不良マンガのボスキャラだよ……この先生。

 

 こんな感じで頼みごとと言われれば、素直に従うしかないのも頷いていただけるだろう。文化部である僕が、今日のような暑い日に、重たい荷物を文句も言わずに運んだ理由が理解できたと思う。

 

「ふむ、他校のミステリー研究部と交流を深めるイベントですか」

 

「んや、知らねー。読んでないし」

 

 なんつー顧問なだよ……と、心の中でつぶやきながら、悟られないように視線を逸らして斗馬の方を見た。手紙に目を通しながら、時折頷いたり含み笑いを浮かべたりと、ころころ表情を変えていた。

 

「珍しいね、斗馬がそんな風にしているなんて」

 

「うむ、なかなか面白い趣向だと思ってね」

 

 手紙を読み終えた斗馬から手渡しで受け取ると、近くにいた姫園さんが覗き込むように僕に近づいてきた。親切心よりもトラウマが無意識に僕の身体を動かして、手紙を姫園さんにも見やすいようにと、角度をつけて少し前に持った。「ありがとです」と礼を言った姫園さんは、にっこりと笑みを浮かべた顔を僕に向け、それを見た瞬間、胸にズキリと痛みが襲う。

 

 声を上げそうになるのを堪えながら、気づかれないように生唾を飲み込んだ。斗馬の顔がほんの少し怪訝そうな表情に変わったが、僕は気づかない振りをして手紙を読むことに集中する。

 

「へぇ……、落水高校と桃耶麻高校って、たしかサッカー部とか野球部がちょくちょく交流試合をしている高校だよね」

 

「うむ、その通りだな、竜。ちなみに、文化系の部活動で交流会をやったという話は聞いたことが無い」

 

「ん、あぁ、それなんだが」と、クーラーの前に陣取って涼んでいた先生がめんどくさそうに口を挟んできた。「学校長が、運動部が交流を深めているんだし、今度は文化部もやってみたら面白いんじゃないってことで、3校に共通する文化系の部活に候補が挙がったらしいんだわ。ほんで、いきなり人数の多い部活動同士でやったら収集つかない可能性もあるから、まずはテストケースってことで少数人数の部活であるミステリー研究部が選ばれたんだとよ」

 

「はぁ……なるほど……」

 

 手紙を読んでないと言う割にはしっかり熟知している簑河先生である。実際に手紙は読んでなくて、学校長から話を聞いたということもあるだろうし、ただ単に説明するのがめんどくさかっただけかもしれない。先生が言ったことは手紙に書かれていなかったので、補足として話してくれたんだから、顧問としてはしっかりとしていると思うのだが……。

 

「あー、喋っていたら暑くなってきやがった……。涼みながら少し寝るから、後は読んで理解しとけー」

 

 こんな感じなので優秀かどうかと問われれば素直に頷けない。ただ、ここぞという時にはしっかりと動いてくれるので、頼れないと言うわけではないのだが――と、僕は先生に聞こえないようにため息を吐いた。

 




次で序章は終わります。

続きの……予定は未定です。
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